正則特異点(regular singular point)とは、複素領域の線形微分方程式 $w'=A(z)w$ の係数の孤立特異点のうち、開角が $2\pi$ 未満のどの扇形でも解が高々 $|z|^{-N}$ の程度にしか増大しないものであり、確定特異点ともいう。正則特異点であることは、基本行列が「$0$ で有理型な行列 × $z^M$」の形になること、また有理型の変換で Euler 系 $v'=(B/z)v$ に直せることと同値である。係数が高々 1 位の極をもてば正則特異点であり、2 階の方程式 $u''+pu'+qu=0$ では $p$ が高々 1 位、$q$ が高々 2 位の極をもつことが必要十分である(Fuchs の判定法)。可積分接続の Riemann–Hilbert 対応や Gauss–Manin 接続の理論で、無限遠での条件として使われる。
複素領域の線形微分方程式は、係数が孤立特異点をもつと、その点のまわりで解が多価になったり急激に増大したりする。正則特異点(確定特異点)とは、解が多価にはなっても、特異点に近づくとき高々 $|z|$ の負の冪の程度にしか増大しない特異点である。Euler の方程式 $z^2u''+azu'+bu=0$ の解 $z^\lambda$、$z^\lambda\log z$ がその典型であり、Bessel の方程式や Gauss の超幾何微分方程式の有限の特異点もこの型である。正則特異点では、解は「有理型関数 × $z^M$」という形にまとまり、局所的な振る舞いが行列 $M$(局所モノドロミー)でほぼ決まる。さらに 2 階の方程式では、正則特異点であることが係数の極の位数だけで判定できる(Fuchs の判定法)。この条件は、接続の言葉では「適当な有理型の枠で接続行列が 1 位の極しかもたない」ことにあたり、代数多様体上の可積分接続と局所系を結ぶ Riemann–Hilbert 対応の仮定として現れる。
$0< r\le1$ とし($z$ を定数倍すればいつでもそうできる)、$\Delta^*:=\{z\in\mathbb{C}\mid0< |z|< r\}$ とおく。$A\colon\Delta^*\to M_n(\mathbb{C})$ を正則な行列値関数とし、線形系
$$
w'=A(z)\,w\qquad(w\colon\text{開集合}\subset\Delta^*\to\mathbb{C}^n)
$$
を考える。単連結な領域の上では、この系は任意の初期値に対して領域全体で定義された解をただ 1 つもち(Tes12 Theorem 4.7、p. 130)、解全体は $n$ 次元の複素ベクトル空間をなす。解を列に並べた可逆な行列値関数を 基本行列 という。
$\Delta^*$ は単連結でないので、解を $0$ のまわりに 1 周解析接続すると別の解に移りうる。これを扱うには、$z=e^\zeta$ で左半平面 $\mathbb{H}:=\{\zeta\mid\operatorname{Re}\zeta< \log r\}$ に持ち上げるのが簡単である。$\tilde w(\zeta):=w(e^\zeta)$ は単連結な $\mathbb{H}$ 上の系 $d\tilde w/d\zeta=e^\zeta A(e^\zeta)\tilde w$ の解であり、$\tilde w(\zeta+2\pi i)$ が「1 周接続した解」である。$z$ の言葉に戻すときは、$\log z$ の分枝を選んで $z^M:=\exp(M\log z)$($M\in M_n(\mathbb{C})$)とおく。
開角が $2\pi$ 未満の 扇形 $S=\{z\mid0< |z|< \rho,\ \alpha< \arg z< \beta\}$($0< \rho< r$、$0< \beta-\alpha< 2\pi$)上の関数 $f$ が 緩増加 であるとは、正の定数 $C,N$ があって $S$ 上で $|f(z)|\le C|z|^{-N}$ となることをいう。扇形は単連結なので、その上の解は扇形全体で定義されている。
開角が $2\pi$ 未満の任意の扇形 $S$ と、$S$ 上の任意の解 $w$ が緩増加であるとき、$0$ を系 $w'=A(z)w$ の 正則特異点(regular singular point)または 確定特異点 という。$A$ が $0$ で正則でなく、$0$ が正則特異点でないとき、不確定特異点(irregular singular point)という。
$n$ 階の方程式 $u^{(n)}+q_{n-1}(z)u^{(n-1)}+\dots+q_0(z)u=0$($q_j$ は $\Delta^*$ で正則)についても、扇形上のすべての解 $u$ が緩増加であるとき、$0$ を正則特異点という。
扇形 $S$ の閉包から $0$ を除いた集合は、$S$ に含まれない半直線を 1 本除いた切れ目入りの円板に含まれ、$S$ 上の解はその上の解に延びる。したがって $S$ の外側の境界の近くで解が有界でなくなることはなく、緩増加の条件は $z\to0$ での増大度だけを制限している。無限遠点については、$z=1/t$ で $t=0$ の近くの系 $dv/dt=-t^{-2}A(1/t)\,v$ に直して同じように定める。
$zA(z)$ が $0$ で正則に延びるとき、すなわち $A$ が $0$ で高々 1 位の極をもつとき、$0$ を系の 単純特異点(simple singularity)といい、$A_0:=\lim_{z\to0}zA(z)$ を 留数行列 という。
$A$ が $\Delta^*$ で正則なら、$\Delta^*$ 上で 1 価な正則関数 $U\colon\Delta^*\to M_n(\mathbb{C})$ と定数行列 $M\in M_n(\mathbb{C})$ があって、
$$
W(z)=U(z)\,z^M
$$
は($\log z$ の任意の分枝の上で)基本行列である。$W$ を $0$ のまわりに正の向きに 1 周接続すると $W\,e^{2\pi iM}$ になる。$e^{2\pi iM}$ を 局所モノドロミー という。
$\mathbb{H}$ 上の系 $d\tilde w/d\zeta=e^\zeta A(e^\zeta)\tilde w$ の基本行列 $\tilde W(\zeta)$ をとる。係数は周期 $2\pi i$ をもつので $\tilde W(\zeta+2\pi i)$ も基本行列であり、2 つの基本行列は定数の可逆行列だけ違う($\tilde W^{-1}\tilde W(\cdot+2\pi i)$ を微分すると $0$)から、$\tilde W(\zeta+2\pi i)=\tilde W(\zeta)C$ となる $C\in\mathrm{GL}_n(\mathbb{C})$ がある。複素行列の指数写像は全射である(行列の指数関数 の定理「複素行列の指数写像の全射性」)ので、$e^{2\pi iM}=C$ となる $M$ がある。$\tilde U(\zeta):=\tilde W(\zeta)e^{-\zeta M}$ とおくと、$e^{-\zeta M}$ と $e^{-2\pi iM}$ は可換なので
$$
\tilde U(\zeta+2\pi i)=\tilde W(\zeta)\,C\,e^{-2\pi iM}e^{-\zeta M}=\tilde U(\zeta)
$$
であり、$\tilde U$ は $z=e^\zeta$ の 1 価な正則関数 $U$ を定める。$\zeta=\log z$ とすれば $W=Uz^M$ であり、1 周の接続は $\zeta\mapsto\zeta+2\pi i$ にあたるので $W$ は $We^{2\pi iM}$ に移る。$\square$
Tes12 Theorem 4.8(p. 132)も同じ主張を、周期的な係数の系の Floquet の定理に帰着させて示している。$M$ は $C$ の対数なので一意ではなく、固有値は整数の差だけ自由に動かせる。
次の 3 条件は同値である。
要点:$z^{\pm M}$ は扇形で緩増加なので、$W$ の列が緩増加であることと $U=Wz^{-M}$ が緩増加であることは同じであり、1 価で緩増加な関数は Riemann の除去可能特異点定理により有理型である。$g:=U$ と置けば Euler 系が得られる。
評価。作用素ノルムについて $\|e^X\|\le e^{\|X\|}$ である。開角が $2\pi$ 未満の扇形では $\log z=\log|z|+i\theta$ の分枝を $|\theta|\le2\pi$ ととれるので、$0< |z|\le1$ で $\|z^{\pm M}\|\le e^{\|M\|(|\log|z||+2\pi)}=e^{2\pi\|M\|}|z|^{-\|M\|}$ である。
1 ⇒ 2。扇形 $S$ 上で $W$ の各列は解なので緩増加であり、$U=Wz^{-M}$ も緩増加である。$\Delta^*_{r/2}$ は半径 $r/2$ の 2 つの扇形 $\{-3\pi/4< \arg z< 3\pi/4\}$ と $\{\pi/4< \arg z< 7\pi/4\}$ で覆えるので、$U$ は 1 価な関数として $|U(z)|\le C|z|^{-N}$ を $\Delta^*_{r/2}$ 全体で満たす。$z^{N}U(z)$ は $0$ の近くで有界なので、Riemann の除去可能特異点定理により $0$ で正則に延び、$U$ は $0$ で有理型である。
2 ⇒ 3。$\det W\ne0$ なので $\det U=\det W\cdot\det z^{-M}$ は $\Delta^*$ で $0$ にならず、$0$ で有理型であり恒等的に $0$ でない。よって $U^{-1}=\operatorname{adj}(U)/\det U$ も $0$ で有理型である。$g:=U$ とおくと $v=U^{-1}w$ の基本行列は $U^{-1}W=z^M$ であり、$(z^M)'=\frac{M}{z}z^M$ なので、置き換えた系の係数は $(z^M)'(z^M)^{-1}=M/z$ である(基本行列 $V$ をもつ系の係数は $V'V^{-1}$ で決まる)。$B:=M$ とすればよい。
3 ⇒ 1。$v'=\frac Bzv$ の基本行列は $z^B$ なので、元の系の基本行列は $gz^B$ であり、扇形上の解は $gz^Bc$($c\in\mathbb{C}^n$)の形である。$g$ は有理型なので $0$ の近くで $|g|\le C|z|^{-N}$、上の評価で $|z^B|\le e^{2\pi\|B\|}|z|^{-\|B\|}$ なので、解は緩増加である($0$ から離れた部分では連続性で有界)。
最後の主張。$W'=U'z^M+U\frac Mzz^M$ なので $A=W'W^{-1}=U'U^{-1}+z^{-1}UMU^{-1}$ であり、右辺は $0$ で有理型である。$\square$
3 は、正則特異点であることが「有理型の変換で Euler 系に直せる」という代数的な条件であることを示している。$g$ による置き換えで系の係数は $g^{-1}Ag-g^{-1}g'$ に変わる。条件 3 の $B$ が持ち込む解 $z^B$ が、正則特異点での解の多価性をすべて担う。
$A$ が $0$ で高々 1 位の極をもてば、$0$ は系 $w'=A(z)w$ の正則特異点である。より詳しく、$|z|\le r_0$ で $\|A(z)\|\le m/|z|$ なら、扇形上の解は $|w(z)|\le\bigl(\sup_{|\xi|=r_0}|w(\xi)|\bigr)\,(r_0/|z|)^m$ を満たす($0< r_0< r$ とし、上限は円 $|\xi|=r_0$ のうち扇形と同じ偏角の範囲の閉じた円弧の上でとる。扇形上の解はこの円弧まで延びる)。
扇形の中の半直線 $\arg z=\theta$ に沿って $\varphi(t):=w(te^{i\theta})$($0< t\le r_0$)とおくと、$\varphi'(t)=e^{i\theta}A(te^{i\theta})\varphi(t)$ なので $|\varphi'(t)|\le\frac mt|\varphi(t)|$ である。$\varphi(t)=\varphi(r_0)-\int_t^{r_0}\varphi'(s)\,ds$ から
$$
|\varphi(t)|\le\psi(t):=|\varphi(r_0)|+\int_t^{r_0}\frac ms|\varphi(s)|\,ds
$$
である。$\psi'(t)=-\frac mt|\varphi(t)|\ge-\frac mt\psi(t)$ なので $(t^m\psi(t))'=t^m\bigl(\psi'+\frac mt\psi\bigr)\ge0$ であり、$t^m\psi(t)\le r_0^m\psi(r_0)=r_0^m|\varphi(r_0)|$ を得る。よって $|w(te^{i\theta})|\le|w(r_0e^{i\theta})|\,(r_0/t)^m$ である。$|w(r_0e^{i\theta})|$ はその閉じた円弧の上で連続なので有界であり、$w$ は緩増加である($r_0< |z|< r$ の部分は連続性で有界)。$\square$
この評価は Tes12 Theorem 4.9(p. 133)の証明と同じ Gronwall 型の議論である。逆は成り立たない:正則特異点でも $A$ の極の位数はいくらでも高くなりうる(ex-rs-high-pole)。ただし thm-rs-criterion の 3 により、有理型の変換で 1 位の極に直すことは必ずできる。$n=1$ の方程式 $w'=aw$ では、$a$ が高々 1 位の極をもつことと $0$ が正則特異点であることは同値である。実際、正則特異点なら thm-rs-criterion により解は $z^\mu h$($h$ は $0$ で有理型)の形で、$a=w'/w=\mu/z+h'/h$ は高々 1 位の極しかもたない。
2 階の方程式では、極の位数による判定が両方向に成り立つ。
$p,q$ を $\Delta^*$ で正則な関数とする。$0$ が方程式
$$
u''+p(z)u'+q(z)u=0
$$
の正則特異点であるための必要十分条件は、$p$ が $0$ で高々 1 位の極、$q$ が高々 2 位の極をもつことである。
要点:十分性は、$w=(u,zu')$ とおくと単純特異点をもつ系になることから従う。必要性は、モノドロミーの固有ベクトルにあたる解 $u_1=z^\alpha f$ と Wronski 行列式 $\mathcal{W}=z^\lambda h$ が、緩増加性により $f,h$ 有理型の形になることから、$p=-\mathcal{W}'/\mathcal{W}$ と $q=-(u_1''+pu_1')/u_1$ の極の位数を読む。
十分性。$w_1:=u$、$w_2:=zu'$ とおくと、$w_1'=w_2/z$、$w_2'=u'+zu''=(1-zp)\,w_2/z-zq\,w_1$ なので
$$
w'=\frac1z\begin{pmatrix}0&1\\-z^2q&1-zp\end{pmatrix}w
$$
である。$zp$ と $z^2q$ が $0$ で正則なら右辺の行列は高々 1 位の極をもつので、thm-rs-simple により $w$、とくに $u=w_1$ は緩増加である。
必要性。
段 1(導関数も緩増加).扇形 $S$ 上で $|u|\le C|z|^{-N}$ とし、開角を少し縮め半径を半分にした扇形 $S'$ をとると、ある $\kappa\in(0,1/2)$ について $z\in S'$ を中心とする半径 $\kappa|z|$ の円板は $S$ に含まれる。Cauchy の評価から $|u'(z)|\le C\bigl((1-\kappa)|z|\bigr)^{-N}/(\kappa|z|)$ であり、$u'$ も(扇形を取り替えて)緩増加である。
段 2(1 周接続の固有ベクトル).$\mathbb{H}$ 上の解全体 $V$(2 次元)に $(Tu)(\zeta):=u(\zeta+2\pi i)$ で可逆な線形写像 $T$ が作用する。その固有ベクトル $u_1\ne0$ をとり、$Tu_1=e^{2\pi i\alpha}u_1$ とすると、$e^{-\alpha\zeta}u_1(\zeta)$ は周期 $2\pi i$ をもつので $\Delta^*$ 上の 1 価な正則関数 $f$ を定め、$u_1=z^\alpha f$ である。$z^{-\alpha}$ と $u_1$ は扇形で緩増加なので $f$ も緩増加で、prf-rs-criterion と同じく 2 つの扇形で覆って Riemann の定理を使うと、$f$ は $0$ で有理型、恒等的に $0$ でない。$f=z^kf_0$($f_0$ は $0$ の近くで正則、$f_0(0)\ne0$)と書くと、小さい $\Delta^*_\rho$ 上で $$\ell:=\frac{u_1'}{u_1}=\frac{\alpha+k}z+\frac{f_0'}{f_0}$$ は 1 価で、$0$ で高々 1 位の極をもつ。
段 3($p$).$V$ の基底 $u_1,u_2$ について Wronski 行列式 $\mathcal{W}:=u_1u_2'-u_1'u_2$ は $\mathcal{W}'=-p\mathcal{W}$ を満たし、$0$ にならない($0$ になる点があれば初期値の一意性から $u_1,u_2$ が 1 次従属になる)。$T\mathcal{W}=(\det T)\mathcal{W}$ なので、$\det T=e^{2\pi i\lambda}$ として $h:=z^{-\lambda}\mathcal{W}$ は 1 価であり、段 1 により緩増加、したがって $0$ で有理型で $0$ でない。よって $p=-\mathcal{W}'/\mathcal{W}=-\lambda/z-h'/h$ は $0$ で高々 1 位の極をもつ。
段 4($q$).$u_1''=(\ell'+\ell^2)u_1$ なので、$u_1\ne0$ となる点で $q=-(u_1''+pu_1')/u_1=-(\ell'+\ell^2+p\ell)$ であり、右辺は $\Delta^*_\rho$ 上で有理型、$0$ で高々 2 位の極をもつ。$q$ は $\Delta^*$ で正則なので、$q$ の $0$ での Laurent 展開は高々 2 位の極しかもたない。$\square$
Tes12 Theorem 4.6(pp. 121–122)は、同じ極の条件を、解が $z^\alpha h(z)$ や $z^\alpha h(z)+c\log z\,u_1(z)$($h$ は $0$ で正則)の形の基本系をもつことの必要十分条件として証明している。$n$ 階の方程式でも、$q_j$ が $0$ で高々 $n-j$ 位の極をもてば、$w=(u,zu',\dots,z^{n-1}u^{(n-1)})$ により単純特異点をもつ系になり(Tes12 (4.116)–(4.117)、p. 139)、正則特異点である。
単純特異点では、局所モノドロミーは留数行列からほぼ決まる。
$A$ が $0$ で高々 1 位の極をもち、留数行列 $A_0$ の相異なる 2 つの固有値の差がどれも整数でないとする。このとき thm-rs-structure の表示で $U$ を $0$ で正則にとれ、$M$ は $A_0$ と相似である。とくに局所モノドロミーは $e^{2\pi iA_0}$ と共役である。
この記事では証明しない(Tes12 Theorem 4.12、p. 136。Frobenius の方法による解の級数展開 Theorem 4.11・4.13 から導かれる)。固有値の差が整数になる 共鳴 の場合には、局所モノドロミーは $e^{2\pi iA_0}$ と共役とは限らない(ex-rs-resonance)。$A_0$ の固有値を、単純特異点の 特性指数(exponent)という。
定数行列 $B$ について $w'=\frac Bzw$ を Euler 系 という。$z^B$ が基本行列で、局所モノドロミーは $e^{2\pi iB}$ である。$B$ が Jordan 細胞 $\lambda I+N$ なら $z^B=z^\lambda\sum_k\frac{(\log z)^k}{k!}N^k$ なので、解は $z^\lambda(\log z)^k$ の 1 次結合である。2 階の Euler の方程式 $z^2u''+azu'+bu=0$($a,b\in\mathbb{C}$)では $p=a/z$、$q=b/z^2$ なので thm-rs-fuchs の条件を満たし、$u=z^\lambda$ を代入すると決定方程式 $\lambda(\lambda-1)+a\lambda+b=0$ を得る。重根 $\lambda$ のときは $z^\lambda$ と $z^\lambda\log z$ が基本系である($\lambda$ で微分すれば分かる)。
Bessel の方程式 $z^2u''+zu'+(z^2-\nu^2)u=0$ では $p=1/z$、$q=1-\nu^2/z^2$ なので、thm-rs-fuchs により $0$ は正則特異点である。無限遠点では $u(z)=v(t)$、$z=1/t$ とおくと $u'=-t^2\dot v$、$u''=t^4\ddot v+2t^3\dot v$ から
$$
\ddot v+\Bigl(\frac2t-\frac{p(1/t)}{t^2}\Bigr)\dot v+\frac{q(1/t)}{t^4}v=0
$$
になる(Tes12 (4.57)、p. 122)。Bessel の方程式では $q(1/t)/t^4=(1-\nu^2t^2)/t^4$ が 4 位の極をもつので、thm-rs-fuchs により $\infty$ は不確定特異点である。一方、Gauss の超幾何微分方程式 $z(1-z)u''+\bigl(c-(a+b+1)z\bigr)u'-ab\,u=0$ では、$p=\frac{c-(a+b+1)z}{z(1-z)}$、$q=\frac{-ab}{z(1-z)}$ と同じ変換で、$0,1,\infty$ のどれでも $p$ が高々 1 位、$q$ が高々 2 位の極をもつ($\infty$ では $p(1/t)/t^2=\frac{ct-(a+b+1)}{t(t-1)}$、$q(1/t)/t^4=\frac{-ab}{t^2(t-1)}$)。このように $\mathbb{P}^1$ 上のすべての特異点が正則特異点である方程式を Fuchs 型 という。
$n=1$ の方程式 $w'=-z^{-2}w$ の解は $w=ce^{1/z}$ であり、正の実軸上で $z=t\to+0$ とすると、任意の $N$ について $t^Ne^{1/t}\to\infty$ である。したがって解は緩増加でなく、$0$ は不確定特異点である。係数は 1 価で、局所モノドロミーは自明である。この例は「$A$ が $0$ で有理型である」ことを満たし、「正則特異点である」ことを満たさない。thm-rs-simple の仮定(1 位の極)を外すと結論が成り立たないことを示す。
$m\ge1$ を整数とし、
$$
A(z)=\frac1z\begin{pmatrix}0&z^{-m}\\z^m&m\end{pmatrix},\qquad U(z)=\begin{pmatrix}1&0\\0&z^m\end{pmatrix},\qquad M=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}
$$
とおく(Tes12 (4.95)、p. 134)。$U'U^{-1}=\mathrm{diag}(0,m/z)$、$UMU^{-1}=\begin{pmatrix}0&z^{-m}\\z^m&0\end{pmatrix}$ なので $A=U'U^{-1}+z^{-1}UMU^{-1}$ であり、$W=Uz^M$ は基本行列である($W'=(U'U^{-1}+z^{-1}UMU^{-1})W$)。$U$ は $0$ で正則なので、thm-rs-criterion により $0$ は正則特異点であるが、$A$ の $(1,2)$ 成分 $z^{-m-1}$ は $m+1$ 位の極である。正則特異点であっても、与えられた枠のままでは 1 位の極とは限らない。
$$
A(z)=\frac1z\begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix}+\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix}
$$
を考える。$A_0=\mathrm{diag}(1,0)$ の固有値の差は整数 $1$ である。方程式は $w_2'=0$、$w_1'=w_1/z+w_2$ なので、$w_2=c$、$w_1=z(c\log z+d)$ が解である。1 周の接続で $(w_1,w_2)$ は $(w_1+2\pi icz,w_2)$ に移るので、基底 $(z\log z,1)$、$(z,0)$ に関する局所モノドロミーは $\begin{pmatrix}1&0\\2\pi i&1\end{pmatrix}$ の形の単位行列でない冪単行列である。一方 $e^{2\pi iA_0}=I$ である。この例は単純特異点であることを満たし、thm-rs-nonresonant の非共鳴の仮定を満たさず、「局所モノドロミーは $e^{2\pi iA_0}$ と共役」という結論が成り立たない。
$\Delta^*$ 上の自明な正則ベクトル束に枠 $e_1,\dots,e_n$ を固定し、正則接続 $\nabla=d+\Omega$、$\Omega=A(z)\,dz$ を考える(接続 の命題「接続行列と曲率行列」)。水平切断 $s=\sum_js_je_j$ の条件は $s'=-A(z)s$ である。この系が $0$ で正則特異点をもつとき、$\nabla$ は(枠 $e$ の定める有理型構造に関して)$0$ で正則特異点をもつという。枠を $0$ で有理型な $g$($g^{-1}$ も有理型)で取り替えても緩増加性は変わらないので、この条件は有理型構造だけで決まる。thm-rs-criterion の 3 により、これは「適当な有理型の枠で接続行列が $B\,dz/z$($B$ は定数)になる」ことと同値であり、接続 の注意「Riemann–Hilbert対応の出典と正則特異点」が述べる「接続行列が高々 1 位の極をもつ枠がある」という定義と一致する。この条件を無限遠で課すと、$\mathbb{C}$ 上の滑らかな代数多様体の上の可積分接続をもつ代数的ベクトル束の圏は、局所系の圏と同値になる(接続 の定理「可積分接続と局所系の対応(Riemann–Hilbert)」の 3)。滑らかで固有な族の Gauss–Manin 接続は正則特異点をもつ(Gauss–Manin接続 の定理「正則特異点とモノドロミー定理」)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $A$ の極が高々 1 位(thm-rs-simple) | $w'=-z^{-2}w$(ex-rs-irregular) | 解 $e^{1/z}$ が緩増加でなく、$0$ は正則特異点でない |
| $q$ の極が高々 2 位(thm-rs-fuchs の十分性) | Bessel の方程式の $\infty$(ex-rs-bessel) | 変数変換後の $q$ が 4 位の極をもち、$\infty$ は正則特異点でない |
| 有理型の枠の取り替えを許すこと(thm-rs-criterion の 3) | ex-rs-high-pole の系 | 正則特異点なのに、元の枠では $A$ が $m+1$ 位の極をもつ |
| 非共鳴(thm-rs-nonresonant) | ex-rs-resonance の系 | 局所モノドロミーが冪単で単位行列でなく、$e^{2\pi iA_0}=I$ と共役でない |
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