三角関数の有理式の積分は、$\cos x$ と $\sin x$ の有理式 $R(\cos x,\sin x)$ の原始関数を求める計算であり、積分区間が $\pi$ の奇数倍を含まなければ、$t=\tan\frac x2$ の置換でいつでも $t$ の有理関数に直せる。ただしこの置換は次数を上げるので、式の対称性で置換を選ぶ。$R$ が $\cos x$ について奇なら $u=\sin x$、$\sin x$ について奇なら $u=\cos x$、$(\cos x,\sin x)\mapsto(-\cos x,-\sin x)$ で不変なら $t=\tan x$($\cos x\ne0$ の区間で)が有理関数に直す。偶数乗の積は倍角の公式、角の違う積は積和の公式で 1 次の式に直す。置換の関数が積分区間の途中で定義されないときは、区間を分けてから置換する。
前提知識: 三角関数, 加法定理, 置換積分, 部分積分, 有理関数の積分
$\sin^3x\cos^2x$、$\frac1{\cos x}$、$\frac1{5+4\cos x}$、$\frac{\sin x}{\sin x+\cos x}$ のように、$\cos x$ と $\sin x$ から四則演算だけで作った式を三角関数の有理式といい、その積分を考える。2 変数の多項式の商 $R(X,Y)$ を使って $R(\cos x,\sin x)$ と書ける式である。
このような式には、積分区間が $\pi$ の奇数倍を含まなければ、有理関数に直す置換がいつでもある($t=\tan\frac x2$。prop-itr-weierstrass)。有理関数になれば、原始関数は有理関数・$\log$・$\arctan$ で書ける(有理関数の積分。分母の因数分解が求まれば、部分分数分解で計算も最後まで進む)。ただし、いつでも効く置換は計算が重くなりやすい。式の形によっては $u=\sin x$、$u=\cos x$、$t=\tan x$ のほうがずっと軽く、倍角・積和の公式だけで済むこともある。実際の計算で問題になるのはどの置換を選ぶかである。
以下では、倍角・積和の公式と置換を選ぶ基準を述べて証明し、8 つの例を易しい順に解く。各例では、式のどこに目をつけるか、考えられる置換は何か、うまくいかない手はどこで・なぜ詰まるか、それをどう直すか、なぜ効いたかの順に考え、最後に判断の目安を表にまとめる。
以下、$\log$ は自然対数とする。置換積分は次の形で使う:$\varphi$ が $[\alpha,\beta]$ で微分可能で $\varphi'$ が連続、$f$ が $\varphi([\alpha,\beta])$ を含む区間で連続なら
$$
\int_\alpha^\beta f(\varphi(x))\,\varphi'(x)\,dx=\int_{\varphi(\alpha)}^{\varphi(\beta)}f(u)\,du
$$
である($f$ の原始関数 $F$ について $(F\circ\varphi)'=(f\circ\varphi)\varphi'$ を積分すればよい)。
加法定理 $\cos(\alpha\pm\beta)=\cos\alpha\cos\beta\mp\sin\alpha\sin\beta$、$\sin(\alpha\pm\beta)=\sin\alpha\cos\beta\pm\cos\alpha\sin\beta$ を足し引きすると、次を得る。
$$
\cos^2x=\frac{1+\cos2x}2,\quad\sin^2x=\frac{1-\cos2x}2,\quad\sin x\cos x=\frac{\sin2x}2,
$$
$$
\sin\alpha\cos\beta=\frac{\sin(\alpha+\beta)+\sin(\alpha-\beta)}2,\quad\cos\alpha\cos\beta=\frac{\cos(\alpha+\beta)+\cos(\alpha-\beta)}2,\quad\sin\alpha\sin\beta=\frac{\cos(\alpha-\beta)-\cos(\alpha+\beta)}2.
$$
これらは「積や冪を、角の大きい 1 次の式に直す」公式である。$\sin nx$、$\cos nx$($n\ne0$)は $-\frac{\cos nx}n$、$\frac{\sin nx}n$ とすぐ積分できるので、積や冪が 1 次の式の和になれば積分は終わる。
$X,Y$ の多項式の商を 2 変数の有理式という。置換を選ぶ基準は、$R(X,Y)$ が $X\mapsto-X$ や $Y\mapsto-Y$ で符号を変えるかどうかである。$x\mapsto\pi-x$ で $(\cos x,\sin x)$ は $(-\cos x,\sin x)$ に、$x\mapsto-x$ で $(\cos x,-\sin x)$ に、$x\mapsto x+\pi$ で $(-\cos x,-\sin x)$ に変わるので、これは被積分関数の対称性を見ていることになる。
$f(X)$ が $X$ の有理式(係数は別の変数の有理式でもよい)で、$f(-X)=f(X)$ を満たすならば、有理式 $g$ があって $f(X)=g(X^2)$ と書ける。
$f=\frac PQ$($P,Q$ は多項式)と書くと、$f=\frac{P(X)Q(-X)}{Q(X)Q(-X)}$ である。分母 $D(X):=Q(X)Q(-X)$ は $D(-X)=D(X)$ を満たす。分子を $N(X):=P(X)Q(-X)$ とおくと、$f(-X)=f(X)$ から $\frac{N(-X)}{D}=\frac{N(X)}{D}$ なので $N(-X)=N(X)$ である。$X$ の多項式が $N(-X)=N(X)$ を満たせば奇数次の係数は $0$ なので、$N$ と $D$ は $X^2$ の多項式である。$\square$
$R(X,Y)$ を 2 変数の有理式とする。
(1) $R(-X,Y)=-R(X,Y)$ ならば、有理式 $S$ により $R(X,Y)=X\,S(X^2,Y)$ と書ける。このとき $u=\sin x$ とおくと $R(\cos x,\sin x)\,dx=S(1-u^2,u)\,du$ となる。
(2) $R(X,-Y)=-R(X,Y)$ ならば、有理式 $S$ により $R(X,Y)=Y\,S(X,Y^2)$ と書ける。このとき $u=\cos x$ とおくと $R(\cos x,\sin x)\,dx=-S(u,1-u^2)\,du$ となる。
(3) $R(-X,-Y)=R(X,Y)$ ならば、有理式 $S$ により $R(X,Y)=S\bigl(X^2,\frac YX\bigr)$ と書ける。このとき $t=\tan x$ とおくと、$\cos x\ne0$ の範囲で $R(\cos x,\sin x)\,dx=S\bigl(\frac1{1+t^2},t\bigr)\frac{dt}{1+t^2}$ となる。
いずれも、$R(\cos x,\sin x)$ が積分区間で連続で、置換後の被積分関数が新しい変数の範囲で連続なら、置換積分の公式により定積分がそのまま移る。
$\sin x\cos x$ や $\sin^2x$ は $\frac{\sin x}{\cos x}\cdot\cos^2x=\frac{t}{1+t^2}$、$\frac{t^2}{1+t^2}$ となる。(1)〜(3) のどれにも当てはまらない式には、次の置換がいつでも使える。
$-\pi<\alpha<\beta<\pi$ とし、$R(\cos x,\sin x)$ が $[\alpha,\beta]$ で連続とする。$t=\tan\frac x2$ とおくと $\cos x=\frac{1-t^2}{1+t^2}$、$\sin x=\frac{2t}{1+t^2}$、$dx=\frac{2\,dt}{1+t^2}$ であり、
$$
\int_\alpha^\beta R(\cos x,\sin x)\,dx=\int_{\tan(\alpha/2)}^{\tan(\beta/2)}R\Bigl(\frac{1-t^2}{1+t^2},\frac{2t}{1+t^2}\Bigr)\frac{2\,dt}{1+t^2}
$$
が成り立つ。右辺の被積分関数は $t$ の有理関数である。
$\varphi(t):=2\arctan t$ は実数全体から $(-\pi,\pi)$ への増加関数で、微分可能、$\varphi'(t)=\frac2{1+t^2}$、$\varphi(\tan\frac x2)=x$ である。$\theta=\arctan t$ とおくと $\cos^2\theta=\frac1{1+t^2}$ なので、倍角の公式から $\cos2\theta=\cos^2\theta(1-\tan^2\theta)=\frac{1-t^2}{1+t^2}$、$\sin2\theta=2\tan\theta\cos^2\theta=\frac{2t}{1+t^2}$ である。$f(x):=R(\cos x,\sin x)$ として、$[\tan\frac\alpha2,\tan\frac\beta2]$ 上で置換積分の公式を使えばよい。$\square$
$t=\tan\frac x2$ で $\cos x,\sin x$ を $t$ の有理式に書く式の導き方は 加法定理から積和・和積・合成・正接の公式を導く で扱い、同じ式が単位円の有理点の媒介変数表示になることは ピタゴラス数と円の有理点 で扱う。
区間 $[\alpha,\beta]$ が $\pi$ の奇数倍を含まなければ、隣り合う奇数倍の間にあるので、ある整数 $k$ について $[\alpha,\beta]\subset(-\pi+2k\pi,\pi+2k\pi)$ である。$R(\cos x,\sin x)$ は周期 $2\pi$ をもつので、$x=y+2k\pi$ と置換すれば prop-itr-weierstrass に帰着する。$\tan\frac x2=\tan\bigl(\frac y2+k\pi\bigr)=\tan\frac y2$ なので、$t=\tan\frac x2$ と積分の端 $\tan\frac\alpha2$、$\tan\frac\beta2$ はこの区間でもそのまま使える。
この置換が効く理由は図形で分かる。単位円上の点 $(\cos x,\sin x)$ と点 $(-1,0)$ を結ぶ直線の傾きが $\frac{\sin x}{1+\cos x}=\tan\frac x2$ であり、逆に傾き $t$ の直線 $Y=t(X+1)$ と円のもう 1 つの交点が $\bigl(\frac{1-t^2}{1+t^2},\frac{2t}{1+t^2}\bigr)$ である。つまり $t=\tan\frac x2$ は円周を有理式で媒介変数表示している。代償として、$\cos x,\sin x$ がともに $t$ の 2 次の式になるので、置換後の有理関数の次数は (1)〜(3) の置換より高くなりやすい。
$$
\int_0^{\pi/2}\sin^3x\cos^2x\,dx
$$
を求める。
$\sin x$ が奇数乗、$\cos x$ が偶数乗である。$R(X,Y)=X^2Y^3$ は $Y\mapsto-Y$ で符号を変える。
候補となる手は次のとおりである。(a) $u=\sin x$。(b) $u=\cos x$。(c) 倍角・積和の公式で 1 次の式に直す。
(a) $du=\cos x\,dx$ なので、$\cos x$ を 1 つ $du$ に回すと $\sin^3x\cos x\cdot\cos x\,dx=u^3\cos x\,du$ となり、$\cos x$ が 1 つ残る。$[0,\frac\pi2]$ では $\cos x=\sqrt{1-u^2}$ なので $\int_0^1u^3\sqrt{1-u^2}\,du$ となり、根号が入る。$\cos x$ が偶数乗なので、1 つ取ると奇数乗が残り、それを $u$ で書くのに平方根が要るのである。
(c) $\sin^3x\cos^2x=\sin x\,(\sin x\cos x)^2=\frac{\sin x\,(1-\cos4x)}8$ で、さらに積和の公式 $\sin x\cos4x=\frac{\sin5x-\sin3x}2$ を使うと $\frac{\sin x}8-\frac{\sin5x-\sin3x}{16}$ となる。積分すると $\frac18-\frac1{16}\bigl(\frac15-\frac13\bigr)=\frac2{15}$ で正しい値が出るが、公式を 3 回使った。
(b) $du=-\sin x\,dx$ で、$\sin x$ を 1 つ $du$ に回すと残りは $\sin^2x=1-u^2$ と偶数乗になり、$u$ の多項式で書ける。$x$ が $0$ から $\frac\pi2$ まで動くとき $u$ は $1$ から $0$ まで動くので
$$
\int_0^{\pi/2}\sin^2x\cos^2x\cdot\sin x\,dx=\int_1^0(1-u^2)u^2\,(-du)=\int_0^1(u^2-u^4)\,du=\frac13-\frac15=\frac2{15}
$$
である。
奇数乗の関数から 1 つを $du$ に回し、残った偶数乗を $\sin^2x+\cos^2x=1$ で相手の関数に書き直す。$\sin^mx\cos^nx$ では、$m$ が奇数なら $u=\cos x$、$n$ が奇数なら $u=\sin x$ である(prop-itr-choose の (2)・(1))。$m,n$ がともに偶数なら、この手は効かない(例 3)。
$$
\int_0^{\pi/4}\frac{dx}{\cos x}
$$
を求める。
$\cos x$ の $-1$ 乗で、負の奇数乗である。$R(X,Y)=\frac1X$ は $X\mapsto-X$ で符号を変える。
候補となる手は次のとおりである。(a) $u=\cos x$。(b) $t=\tan x$。(c) $u=\sin x$。
(a) $du=-\sin x\,dx$ だが、式に $\sin x$ がないので $dx=-\frac{du}{\sqrt{1-u^2}}$ となり、根号が入る。(b) $\cos x>0$ の範囲で $\frac1{\cos x}=\sqrt{1+\tan^2x}$ なので、$\int_0^1\frac{\sqrt{1+t^2}}{1+t^2}\,dt=\int_0^1\frac{dt}{\sqrt{1+t^2}}$ となり、やはり根号が入る。$R(-X,-Y)=-R(X,Y)$ なので prop-itr-choose の (3) の条件を満たさず、$\cos x$ の符号が $\tan x$ だけでは決まらないことが根号として現れている。
(c) 分子と分母に $\cos x$ を掛けて $\frac{\cos x}{\cos^2x}=\frac{\cos x}{1-\sin^2x}$ とすると、$u=\sin x$ で
$$
\int_0^{\pi/4}\frac{dx}{\cos x}=\int_0^{1/\sqrt2}\frac{du}{1-u^2}=\Bigl[\frac12\log\frac{1+u}{1-u}\Bigr]_0^{1/\sqrt2}=\frac12\log\frac{\sqrt2+1}{\sqrt2-1}=\log(1+\sqrt2)
$$
である($\frac1{1-u^2}=\frac12\bigl(\frac1{1+u}+\frac1{1-u}\bigr)$、$\frac{\sqrt2+1}{\sqrt2-1}=(\sqrt2+1)^2$。値は $0.8813\ldots$)。
負の冪でも奇数乗なら例 1 と同じ手が効く。$du$ を作るための $\cos x$ が式になければ、分子と分母に掛けて作る。(b) で出た $\int\frac{dt}{\sqrt{1+t^2}}$ も初等的に計算できる(根号を含む関数の積分)が、有理関数に直す (c) のほうが道具が少ない。
$$
\int_0^{\pi/2}\sin^2x\cos^4x\,dx
$$
を求める。
$\sin x$ も $\cos x$ も偶数乗である。$R(X,Y)=X^4Y^2$ は $X\mapsto-X$ でも $Y\mapsto-Y$ でも変わらない。
候補となる手は次のとおりである。(a) $u=\cos x$。(b) $t=\tan x$。(c) 倍角の公式で次数を下げる。
(a) $\sin x$ を 1 つ $du$ に回すと $\sin x$ が 1 つ残り、$\sqrt{1-u^2}$ が入る。例 1 の (a) と同じ詰まり方で、偶数乗しかないので避けようがない。(b) $R(-X,-Y)=R(X,Y)$ なので効くはずである。$\sin^2x\cos^4x=\tan^2x\cos^6x=\frac{t^2}{(1+t^2)^3}$ なので $\int_0^\infty\frac{t^2}{(1+t^2)^4}\,dt$ となる($x\to\frac\pi2$ で $t\to\infty$ なので、上端は極限の意味である)。有理関数にはなったが、$(1+t^2)^4$ の分母は冪を下げる漸化式を 3 回使う必要があり(有理関数の積分)、しかも積分区間が無限に伸びた。
(c) $\sin x\cos x=\frac{\sin2x}2$、$\cos^2x=\frac{1+\cos2x}2$ から
$$
\sin^2x\cos^4x=(\sin x\cos x)^2\cos^2x=\frac{\sin^22x}4\cdot\frac{1+\cos2x}2=\frac18\bigl(\sin^22x+\sin^22x\cos2x\bigr)
$$
である。$\int_0^{\pi/2}\sin^22x\,dx=\int_0^{\pi/2}\frac{1-\cos4x}2\,dx=\frac\pi4$。第 2 項は $\cos2x$ が奇数乗なので $u=\sin2x$ が効き、$\bigl[\frac{\sin^32x}6\bigr]_0^{\pi/2}=0$ である。よって
$$
\int_0^{\pi/2}\sin^2x\cos^4x\,dx=\frac18\cdot\frac\pi4=\frac\pi{32}
$$
である($=0.0981\ldots$)。
ともに偶数乗なら、倍角の公式で次数を半分にする。下げた結果に奇数乗が現れれば例 1 の手に戻る。値に $\pi$ が入るのは、$\sin^22x$ のような「平均が $\frac12$ の項」が残るためである。$\int_0^{\pi/2}\cos^nx\,dx$ のような単独の冪は、部分積分による漸化式(Wallis 積分)でも求まる。
$$
\int_0^{\pi/2}\sin3x\cos x\,dx
$$
を求める。
$\sin3x$ と $\cos x$ の積で、角が違う。
候補となる手は次のとおりである。(a) $\sin3x=3\sin x-4\sin^3x$ と展開して $u=\sin x$。(b) 部分積分を 2 回。(c) 積和の公式。
(a) $(3\sin x-4\sin^3x)\cos x$ で $u=\sin x$ とおくと $\int_0^1(3u-4u^3)\,du=\frac12$ となり、正しい値が出る。ただし 3 倍角の公式が要り、$\sin7x$ なら 7 倍角の公式が要る。
(b) $I:=\int\sin3x\cos x\,dx$、$K:=\int\cos3x\sin x\,dx$ とおくと、$\cos x=(\sin x)'$、$\sin x=(-\cos x)'$ として部分積分して
$$
I=\sin3x\sin x-3K,\qquad K=-\cos3x\cos x-3I
$$
である。$K$ を消すと $I=\sin3x\sin x+3\cos3x\cos x+9I$ となり、$I=-\frac18(\sin3x\sin x+3\cos3x\cos x)$ を得る。これも正しい($[0,\frac\pi2]$ で $\frac18+\frac38=\frac12$)。しかし、角が等しい $\int\sin mx\cos mx\,dx$ に同じ手順を使うと、$9I$ の係数が $\frac{m^2}{m^2}=1$ になって $I$ が両辺で打ち消し合い、定数どうしの関係しか残らない(不定積分は定数の差を除いて決まるので、矛盾ではなく情報がなくなる)。
(c) $\sin3x\cos x=\frac{\sin4x+\sin2x}2$ なので
$$
\int_0^{\pi/2}\sin3x\cos x\,dx=\frac12\Bigl[-\frac{\cos4x}4-\frac{\cos2x}2\Bigr]_0^{\pi/2}=\frac12\Bigl(\Bigl(-\frac14+\frac12\Bigr)-\Bigl(-\frac14-\frac12\Bigr)\Bigr)=\frac12
$$
である。
積和の公式は、角の違う積を 1 次の式の和に一段で直す。$m,n$ が正の整数のとき、$\int_0^{2\pi}\sin mx\cos nx\,dx=0$ や、$m\ne n$ のときの $\int_0^{2\pi}\sin mx\sin nx\,dx=0$ も同じ計算で出る(三角関数の直交性(高校数学))。
$$
\int_0^{\pi/4}\frac{dx}{\cos^2x+3\sin^2x}
$$
を求める。
式には $\cos^2x$ と $\sin^2x$ しか現れない。$R(X,Y)=\frac1{X^2+3Y^2}$ は $(X,Y)\mapsto(-X,-Y)$ で変わらない。
候補となる手は次のとおりである。(a) いつでも効く $s=\tan\frac x2$。(b) $t=\tan x$。
(a) $\cos^2x+3\sin^2x=1+2\sin^2x=1+\frac{8s^2}{(1+s^2)^2}$ なので、被積分関数は
$$
\frac{(1+s^2)^2}{(1+s^2)^2+8s^2}\cdot\frac2{1+s^2}=\frac{2(1+s^2)}{s^4+10s^2+1}
$$
となり、$s$ は $0$ から $\tan\frac\pi8=\sqrt2-1$ まで動く。分母は $(s^2+5)^2-24=(s^2+5-2\sqrt6)(s^2+5+2\sqrt6)$ と分解でき、計算は続けられるが、4 次の分母と二重根号 $\sqrt{5\pm2\sqrt6}=\sqrt3\pm\sqrt2$ を扱うことになる。$\cos x,\sin x$ がそれぞれ $s$ の 2 次の式になるので、2 乗すると 4 次になってしまう。
(b) 分母を $\cos^2x$ でくくると $\cos^2x\,(1+3\tan^2x)$ であり、$\frac{dx}{\cos^2x}=dt$ なので
$$
\int_0^{\pi/4}\frac{dx}{\cos^2x+3\sin^2x}=\int_0^1\frac{dt}{1+3t^2}=\frac1{\sqrt3}\arctan\sqrt3=\frac{\pi}{3\sqrt3}
$$
である($=0.6045\ldots$)。
$\cos^2x$、$\sin^2x$、$\sin x\cos x$ だけでできた式($x\mapsto x+\pi$ で変わらない式)では、$t=\tan x$ のほうが $\tan\frac x2$ より次数が半分で済む。$\cos^2x$ で分子と分母を割るのが実際の計算である。
$$
\int_0^{\pi/2}\frac{dx}{5+4\cos x}
$$
を求める。
分母に $\cos x$ が 1 次で現れる。$R(X,Y)=\frac1{5+4X}$ は $X\mapsto-X$ で $\frac1{5-4X}$ に変わり、$\pm R$ のどちらでもない。$(X,Y)\mapsto(-X,-Y)$ でも同じである。$Y\mapsto-Y$ では変わらないが、prop-itr-choose の (2) が要求するのは符号が変わることである。
候補となる手は次のとおりである。(a) $u=\cos x$。(b) $t=\tan x$。(c) $t=\tan\frac x2$。
(a) 式に $\sin x$ がないので $dx=-\frac{du}{\sqrt{1-u^2}}$ となり、根号が入る。(b) $[0,\frac\pi2)$ で $\cos x=\frac1{\sqrt{1+t^2}}$ なので、分母が $5+\frac4{\sqrt{1+t^2}}$ となり、根号が入る。(a) では $du=-\sin x\,dx$ の $\sin x$ が式になく、$5+4\cos x$ には $\sin x$ が現れないので補えない。(b) では $\cos x$ が 1 次で現れるので、$\cos x=\frac1{\sqrt{1+t^2}}$ の根号が残る。どちらも prop-itr-choose の条件を満たしていない(ただし命題の条件は十分条件であり、根号が残る理由はいま述べた直接の理由である)。
(c) $5+4\cdot\frac{1-t^2}{1+t^2}=\frac{9+t^2}{1+t^2}$ なので、prop-itr-weierstrass(区間 $[0,\frac\pi2]$ は $(-\pi,\pi)$ に含まれる)により
$$
\int_0^{\pi/2}\frac{dx}{5+4\cos x}=\int_0^1\frac{2\,dt}{9+t^2}=\frac23\arctan\frac13
$$
である($=0.2145\ldots$)。
$a+b\cos x$ や $a+b\sin x$ のように $\cos x,\sin x$ が 1 次で現れる分母は、(1)〜(3) の対称性をもたないので、$\tan\frac x2$ が標準である。$a>|b|$ なら $a+b\cos x$ は $\frac{(a+b)+(a-b)t^2}{1+t^2}$ となり、答えは $\arctan$ で書ける。
$$
\int_0^{\pi/2}\frac{\sin x}{\sin x+\cos x}\,dx
$$
を求める。
分子も分母も $\sin x,\cos x$ の 1 次式で、$(X,Y)\mapsto(-X,-Y)$ で変わらない。分母の導関数 $\cos x-\sin x$ も同じ形の 1 次式である。
候補となる手は次のとおりである。(a) $s=\tan\frac x2$。(b) $t=\tan x$。(c) 分子を「分母」と「分母の導関数」の組合せで書く。
(a) 被積分関数は $\frac{-4s}{(s^2+1)(s^2-2s-1)}$ となる。$s^2-2s-1$ の根は $1\pm\sqrt2$ で、部分分数分解すると $\log|s-1\mp\sqrt2|$ が現れる。答えは $\frac\pi4$ なのに、途中に $\sqrt2$ を含む対数が現れて最後に打ち消し合う、見通しの悪い計算になる。
(b) $\frac{\sin x}{\sin x+\cos x}=\frac{t}{t+1}$ なので、$\int_0^{\infty}\frac{t\,dt}{(1+t)(1+t^2)}$ となる($x\to\frac\pi2$ で $t\to\infty$ なので、上端は極限の意味である)。部分分数分解 $\frac{t}{(1+t)(1+t^2)}=-\frac1{2(1+t)}+\frac{t+1}{2(1+t^2)}$ から、原始関数は $\frac14\log\frac{1+t^2}{(1+t)^2}+\frac12\arctan t$ である。ここで $\log(1+t)$ と $\log(1+t^2)$ はそれぞれ $t\to\infty$ で発散するので、まとめてから極限をとる必要がある。$\frac{1+t^2}{(1+t)^2}\to1$ なので値は $\frac\pi4$ である。正しいが、広義積分の扱いに注意が要る。
(c) $\sin x=\alpha(\sin x+\cos x)+\beta(\cos x-\sin x)$ とおくと、$\sin x$ の係数から $\alpha-\beta=1$、$\cos x$ の係数から $\alpha+\beta=0$ なので、$\alpha=\frac12$、$\beta=-\frac12$ である。よって
$$
\int_0^{\pi/2}\frac{\sin x}{\sin x+\cos x}\,dx=\Bigl[\frac x2-\frac12\log(\sin x+\cos x)\Bigr]_0^{\pi/2}=\frac\pi4-\frac12(\log1-\log1)=\frac\pi4
$$
である($[0,\frac\pi2]$ で $\sin x+\cos x\ge1>0$)。
$\frac{p\sin x+q\cos x}{a\sin x+b\cos x}$ の形では、分子を「分母の定数倍 $+$ 分母の導関数の定数倍」に分けると、$x$ と $\log$ だけで終わる。$(a,b)\ne(0,0)$ なら、$p\sin x+q\cos x=\alpha(a\sin x+b\cos x)+\beta(a\cos x-b\sin x)$ の係数を比べた連立方程式 $a\alpha-b\beta=p$、$b\alpha+a\beta=q$ は必ず解ける(係数の行列式が $a^2+b^2\ne0$)。なお、$x\mapsto\frac\pi2-x$ で分子の $\sin x$ が $\cos x$ に替わることを使えば、2 つを足して $\frac\pi2$ になることからも値が分かる。
$$
\int_0^{\pi}\frac{dx}{1+\sin^2x}
$$
を求める。
$R(X,Y)=\frac1{1+Y^2}$ は $(X,Y)\mapsto(-X,-Y)$ で変わらないので、$t=\tan x$ が候補になる。ただし積分区間 $[0,\pi]$ は $\tan x$ が定義されない点 $\frac\pi2$ を含む。
候補となる手は次のとおりである。(a) そのまま $t=\tan x$。(b) 区間を分け、対称性を使ってから $t=\tan x$。
(a) $1+\sin^2x=\cos^2x\,(1+2\tan^2x)$ なので $\frac{dx}{1+\sin^2x}=\frac{dt}{1+2t^2}$ である。端点では $\tan0=\tan\pi=0$ なので、機械的に計算すると $\int_0^0\frac{dt}{1+2t^2}=0$ となる。しかし被積分関数は正で $\frac12$ 以上なので、積分は $\frac\pi2$ 以上のはずである。$\tan x$ が区間の途中の $\frac\pi2$ で定義されないことが原因であり、詳しくは ex-itr-crossing で述べる。
(b) $\sin(\pi-x)=\sin x$ なので、$\int_{\pi/2}^\pi$ で $x=\pi-y$ と置換すると $\int_0^{\pi/2}$ に等しく、$\int_0^\pi=2\int_0^{\pi/2}$ である。$0<\beta<\frac\pi2$ では $[0,\beta]$ で $t=\tan x$ が使えるので
$$
\int_0^{\beta}\frac{dx}{1+\sin^2x}=\int_0^{\tan\beta}\frac{dt}{1+2t^2}=\frac1{\sqrt2}\arctan(\sqrt2\tan\beta)
$$
である。左辺は $\beta$ の連続関数なので $\beta\to\frac\pi2-0$ とすると $\int_0^{\pi/2}\frac{dx}{1+\sin^2x}=\frac1{\sqrt2}\cdot\frac\pi2$ となり、
$$
\int_0^\pi\frac{dx}{1+\sin^2x}=\frac{\pi}{\sqrt2}
$$
である($=2.2214\ldots$)。
置換を選んだら、置換の関数が積分区間全体で定義され微分可能かを確かめる。$\tan x$ は $\frac\pi2+k\pi$ で、$\tan\frac x2$ は $\pi+2k\pi$ で定義されない。区間がこれらの点を含むときは、区間を分け、周期性や対称性で定義される範囲に移し、端では極限をとる。
例 8 の (a) の計算は誤りである。$\varphi(x)=\tan x$ は $x=\frac\pi2$ で定義されず、$[0,\pi]$ 上で微分可能な関数ではないので、置換積分の公式の仮定を満たさない。実際、$x$ が $0$ から $\pi$ まで動くとき、$t=\tan x$ は $0$ から $+\infty$ へ行き、$-\infty$ から $0$ へ戻ってくる。$t$ は実数全体を 1 回ずつ通るのであって、「$0$ から $0$ まで」動くのではない。この反例は「置換の前後で端点の値が対応していれば、積分の値は移る」という含意を破る。$t=\tan\frac x2$ でも、$[0,2\pi]$ のように $\pi$ を含む区間では同じことが起こる。
例 1〜8 で確かめた範囲で、判断の目安をまとめる。被積分関数を $R(\cos x,\sin x)$ と見て、次の順に確かめる。どの行でも、置換の関数が積分区間全体で定義されるか($\tan x$ なら $\frac\pi2+k\pi$、$\tan\frac x2$ なら $\pi+2k\pi$ を含まないか)を先に見る(ex-itr-crossing)。
| 形 | 最初に試す手 | 駄目なら次の手 |
|---|---|---|
| $\sin x$ の奇数乗を含む($R(X,-Y)=-R$) | $u=\cos x$(例 1) | $t=\tan\frac x2$ |
| $\cos x$ の奇数乗を含む(負の冪も。$R(-X,Y)=-R$) | $u=\sin x$、必要なら分子と分母に $\cos x$ を掛ける(例 2) | $t=\tan\frac x2$ |
| $\sin x,\cos x$ がともに偶数乗の積 | 倍角の公式で次数を下げる(例 3) | $t=\tan x$ |
| $\sin mx\cos nx$ など角の違う積 | 積和の公式(例 4) | 部分積分 2 回($m\ne n$、$m,n>0$ のときだけ) |
| $\cos^2x,\sin^2x,\sin x\cos x$ だけの有理式($R(-X,-Y)=R$) | $\cos^2x$ で割って $t=\tan x$(例 5) | $t=\tan\frac x2$ |
| $a+b\cos x$、$a+b\sin x$ のような 1 次の分母 | $t=\tan\frac x2$(例 6) | — |
| $\frac{p\sin x+q\cos x}{a\sin x+b\cos x}$ | 分子 $=\alpha\cdot$分母$+\beta\cdot$分母の導関数(例 7) | $t=\tan x$ と部分分数 |
| 区間が置換の定義されない点を含む | 区間を分け、周期性・対称性で移す(例 8) | 端で極限をとる |
(1)〜(3) の置換と倍角・積和の公式は、$t=\tan\frac x2$ より計算が軽いことが多い(例 5・例 7 の (a) と比べよ)。$t=\tan\frac x2$ は区間が $\pi$ の奇数倍を含まなければいつでも使えるが、次数が上がるので最後の手段にする。例 1〜3 と例 6 の (a)、例 2 と例 6 の (b) で置換後に根号が現れたのは、どれもその置換が prop-itr-choose の条件を満たしていない場合であった。根号が出たら、まずその置換が条件に合っているかを確かめる。
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