ベクトル束の滑らかな構造の一意性

同義語:ベクトル束の滑らかな構造uniqueness of smooth structures on vector bundlessmooth structures on vector bundles

概要

ベクトル束の滑らかな構造の一意性(uniqueness of smooth structures on vector bundles)とは、滑らかな多様体の上の連続なベクトル束はいつも滑らかな構造をもち、その構造は滑らかな同型を除いてただ 1 つであるという定理である。束を自明束の部分束として直交射影の族で表し、1 の分割で平均した対称行列を二項級数で近くの滑らかな射影に直すと、作用素ノルムの差が 1 未満の 2 つの射影の像は同型なので、滑らかな束が得られる。一意性の鍵は、連続な同型が滑らかな同型で近似できることである。この結果、滑らかなベクトル束の同型類は連続なベクトル束の同型類と一致する。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: ベクトル束, 可微分多様体, 1の分割, 正射影と射影行列, 部分束・商束・双対束

位相多様体には滑らかな構造をもたないものがあり、もっても一意とは限らない(C^r構造の平滑化 の節「$r=0$ では成り立たない」、異種球面)。ところが、底を滑らかな多様体に固定すると、その上の連続なベクトル束はいつでも滑らかなベクトル束と同型になり、しかも滑らかな構造は滑らかな同型を除いてただ 1 つに決まる。したがって滑らかなベクトル束の分類は連続なベクトル束の分類と同じものになり、ベクトル束の分類定理 のホモトピー論的な分類がそのまま滑らかな束の分類になる。
この記事では、束を自明束の部分束として直交射影の族 $P(y)$ で表し、次の 2 段で滑らかな構造を作る。まず $P$ を 1 の分割で平均して滑らかな対称行列の族 $A$ にする。$A$ はもう射影ではないが、二項級数で $A$ を「最も近い射影」$Q$ に直すと、$Q$ は滑らかで $P$ に近い。近い 2 つの直交射影の像は互いに写り合うので、$Q$ の像の束は元の束と同型である。一意性は、連続な同型を滑らかな同型で近似して示す。

問い答え
連続な束($C^r$ 束)は滑らかな構造をもつかもつ。$C^r$ 構造と両立するようにとれる(thm-ssv-main)
滑らかな構造は一意か滑らかな同型を除いて一意(thm-ssv-unique)。恒等写像が滑らかになるとは限らない(反例の表の 1 行目)
滑らかな束の同型類と連続な束の同型類一致する(cor-ssv-classes)

設定と記号

この記事では、$M$ は Hausdorff かつ第 2 可算な境界のない $n$ 次元の $C^\infty$ 級多様体(可微分多様体)、ベクトル束は $M$ の上の階数 $k$ の実ベクトル束(ベクトル束)とし、$0\le r\le\infty$ とする。$\mathbb{R}^s$ には標準内積を入れ、行列 $X$ の作用素ノルムを $\|X\|:=\max_{|v|=1}|Xv|$ と書く。$\mathrm{Sym}_s$ は $s$ 次の実対称行列の全体である。$s$ 次正方行列 $P$ が $P^2=P=P^{\mathsf T}$ を満たすことと、$P$ がある部分空間($\operatorname{Im}P$)への直交射影の行列(射影行列)であることは同値である(正射影と射影行列 の定理「射影行列は対称で冪等な行列」)。$M\times\mathbb{R}^s$ は自明束で、恒等写像による大域的な自明化が定める $C^\infty$ 構造をもつとする。

ベクトル束の $C^r$ 構造

$\xi=(E,\pi,M)$ をベクトル束とする。$M$ を覆う局所自明化の族 $\mathcal A=\{(U_\alpha,\varphi_\alpha)\}$ の変換関数 $g_{\alpha\beta}\colon U_\alpha\cap U_\beta\to\mathrm{GL}_k(\mathbb{R})$(ベクトル束 の定義「変換関数」)がすべて $C^r$ 級のとき、$\mathcal A$ を $C^r$ アトラスという。2 つの $C^r$ アトラスは、和集合も $C^r$ アトラスのとき同値であるといい、同値類を $\xi$ の $C^r$ 構造、$C^r$ 構造をもつ束を $C^r$ 束、同値類に属するアトラスの局所自明化を $C^r$ 自明化という。$r\le t$ のとき、$C^t$ 構造は、そのアトラスと $C^r$ 構造のアトラスの和集合が $C^r$ アトラスであるとき、$C^r$ 構造と両立するという。
$C^r$ 束 $\xi,\eta$ の間の束写像 $f$ は、$C^r$ 自明化 $\varphi$($\xi$ の)と $\psi$($\eta$ の)による表示 $\psi\circ f\circ\varphi^{-1}(y,a)=(y,F(y)a)$ の行列 $F$ がつねに $C^r$ 級のとき $C^r$ 束写像といい、束同型でもあるとき $C^r$ 同型という。逆行列の成分は Cramer の公式で書けるので、$C^r$ 同型の逆写像は $C^r$ 束写像である。

変換関数はいつも連続なので(ベクトル束 の命題「変換関数の連続性・コサイクル条件と束の再構成」)、どの束にも、すべての局所自明化からなる $C^0$ 構造がただ 1 つある。$C^\infty$ 構造は ベクトル束 の定義の「滑らかなベクトル束」と同じものである。

理由を開く

$C^\infty$ アトラスの各 $\varphi_\alpha$ に $M$ の局所座標を合わせると全空間 $E$ の $C^\infty$ アトラスになり、$\pi$ は滑らか、$\varphi_\alpha$ は微分同相写像になる。逆に滑らかなベクトル束の局所自明化 $\varphi_\alpha$ が微分同相写像なら、$g_{\alpha\beta}(y)a=\mathrm{pr}_2\,\varphi_\alpha\varphi_\beta^{-1}(y,a)$ は滑らかである。

射影で表される束

自明束への単射

$\xi$ を $C^r$ 束、$s\ge k+n$ とする。ファイバーごとに単射な $C^r$ 束写像 $F\colon\xi\to M\times\mathbb{R}^s$ がある。

これは Hir76 Ch. 4 の Theorem 3.1(p. 99)で閉集合 $A=\emptyset$ とした場合である(証明は余次元の数え上げによる横断性の議論)。$M$ がコンパクトなら、$s$ を大きくとってよければ初等的に示せる。

コンパクトな場合の証明を開く

$C^r$ 自明化 $\varphi_i$($i=1,\dots,m$)の定義域 $U_i$ で $M$ を覆い、$U_i$ に従属する滑らかな 1 の分割 $\lambda_i$ をとって、$F(v):=(\pi(v),(\lambda_i(\pi(v))\,\mathrm{pr}_2\varphi_i(v))_{i=1}^m)\in M\times\mathbb{R}^{km}$ とおく($U_i$ の外では第 $i$ 成分を $0$ とする)。各 $y$ で $\lambda_i(y)>0$ となる $i$ があり、その成分だけで $F$ は $\xi_y$ の上で単射である。$C^r$ 自明化 $\varphi_j$ による表示の行列は $\lambda_i g_{ij}$($\operatorname{supp}\lambda_i$ の外では $0$)を縦に並べたものなので $C^r$ 級である。$s\ge km$ なら $\mathbb{R}^{km}\subset\mathbb{R}^s$ と見ればよい。$\square$

射影の像の束

$P\colon M\to\mathrm{Sym}_s$ を $C^r$ 写像で、各 $y$ で $P(y)^2=P(y)$、$\operatorname{rank}P(y)=k$ とする。$E_P:=\{(y,v)\in M\times\mathbb{R}^s\mid P(y)v=v\}$ は射影 $(y,v)\mapsto y$ によって階数 $k$ のベクトル束であり、次の性質をもつ $C^r$ 構造がある:開集合 $U\subset M$ の上の $C^r$ 写像 $S\colon U\to M_{s,k}(\mathbb{R})$ で、各 $y$ で $S(y)$ の列が $\operatorname{Im}P(y)$ の基底になるものについて、$\Phi_S(y,a):=(y,S(y)a)$ の逆は $C^r$ 自明化である。

要点:$P(y)$ で $\operatorname{Im}P(y_0)$ の基底を動かした枠は $y_0$ の近くで $\operatorname{Im}P(y)$ の基底になり、2 つの枠の変換関数は $(S'^{\mathsf T}S')^{-1}S'^{\mathsf T}S$ で $C^r$ 級である。

詳しい証明を開く

$y_0\in M$ と $\operatorname{Im}P(y_0)$ の基底 $e_1,\dots,e_k$ をとり、$S(y)$ を列 $P(y)e_1,\dots,P(y)e_k$ の行列とする。$S$ は $C^r$ 級で、$S(y_0)$ の列は $e_1,\dots,e_k$ なので、$y_0$ の開近傍 $U$ の上で列は 1 次独立である(部分束・商束・双対束 の補題「線形独立性は開条件」)。列は $\operatorname{Im}P(y)$($k$ 次元)に入るので、その基底である。よって ベクトル束 の補題「直積の部分束と局所的な枠」により $E_P$ はベクトル束で、その証明のとおり $\Phi_S^{-1}(y,v)=(y,(S^{\mathsf T}S)^{-1}S^{\mathsf T}v)$ が局所自明化である。主張の形の $S,S'$ が 2 つあれば、変換関数は $\Phi_{S'}^{-1}\circ\Phi_S(y,a)=\bigl(y,(S'(y)^{\mathsf T}S'(y))^{-1}S'(y)^{\mathsf T}S(y)\,a\bigr)$ で $C^r$ 級である。したがって主張の形のすべての $\Phi_S^{-1}$ は 1 つの $C^r$ アトラスをなす。$\square$

$P$ が $C^\infty$ 級なら、$C^\infty$ 級の $S$ だけからなるアトラスは $C^\infty$ 構造を定め、それは上の $C^r$ 構造と両立する(アトラスが含まれている)。

単射から射影へ

$F\colon\xi\to M\times\mathbb{R}^s$ をファイバーごとに単射な $C^r$ 束写像とし、$P(y)$ を $\mathrm{pr}_2F(\xi_y)$ への直交射影の行列とする。$P$ は $C^r$ 級であり、$v\mapsto F(v)$ は $C^r$ 同型 $\xi\to E_P$ である($E_P$ は lem-ssv-image の $C^r$ 構造をもつ)。

$C^r$ 自明化 $\varphi$ による表示を $F\circ\varphi^{-1}(y,a)=(y,S(y)a)$ とすると、$S$ は $C^r$ 級で、$S(y)$ の列は 1 次独立で $\mathrm{pr}_2F(\xi_y)$ を張る。射影行列の公式(正射影と射影行列 の定理「正射影の公式と直交分解」)により $P=S(S^{\mathsf T}S)^{-1}S^{\mathsf T}$ なので $P$ は $C^r$ 級であり、$P^2=P$、$\operatorname{rank}P=k$ である。$S$ は lem-ssv-image の形なので $\Phi_S^{-1}$ は $E_P$ の $C^r$ 自明化で、$\varphi$ と $\Phi_S^{-1}$ による $F$ の表示は単位行列である。$\square$

近い射影と射影への補正

次の補題が主定理の要である。像の次元が等しい 2 つの直交射影の差のノルムは、像の最大の主角の正弦に等しい(部分空間のなす角(主角) の定理「最大の主角と射影の差」)。その角が直角より小さければ、一方の像は他方へ同型に写る。

近い射影の像

$P,Q$ を $\mathbb{R}^s$ の直交射影の行列とし、$\|P-Q\|<1$ とする。このとき $\operatorname{rank}P=\operatorname{rank}Q$ であり、$v\mapsto Qv$ は線形同型 $\operatorname{Im}P\to\operatorname{Im}Q$ である。

$v\in\operatorname{Im}P$、$v\ne0$ なら $Pv=v$ なので $|Qv-v|=|(Q-P)v|\le\|Q-P\|\,|v|<|v|$ であり、$Qv\ne0$ である。よって $Q$ の $\operatorname{Im}P$ への制限は単射で、$\operatorname{rank}Q\ge\operatorname{rank}P$ である。$P,Q$ を入れ替えて $\operatorname{rank}P\ge\operatorname{rank}Q$ を得る。次元が等しい空間の間の単射なので同型である。$\square$

条件 $\|P-Q\|<1$ は外せない(反例の表の 2 行目)。
1 の分割で射影を平均すると滑らかになるが、射影ではなくなる。そこで、射影に近い対称行列 $A$ を射影に直す。$B:=2A-I$ は、$A$ が射影なら $B^2=I$ を満たす(固有値 $\pm1$)。一般の $A$ では $B(B^2)^{-1/2}$ が固有値 $\pm1$ の行列になり、$(B^2)^{-1/2}$ は二項級数で書ける。$a_j:=\binom{-1/2}{j}=(-1)^j\binom{2j}{j}4^{-j}$ とおくと、二項定理と組合せの恒等式 の定理「一般二項定理」により $|x|<1$ で $(1+x)^{-1/2}=\sum_{j\ge0}a_jx^j$(絶対収束)であり、$|a_j|=(-1)^ja_j\le1$ なので $0\le x<1$ で $\sum_j|a_j|x^j=(1-x)^{-1/2}$ である。

射影への補正

$A\in\mathrm{Sym}_s$ について $B:=2A-I$、$C:=B^2-I$ とおき、$\|C\|<1$ とする。$f(C):=\sum_{j\ge0}a_jC^j$ は絶対収束し、
$$ \sigma(A):=\tfrac12\bigl(I+Bf(C)\bigr) $$
について次が成り立つ。

  1. $\sigma(A)$ は直交射影の行列である。
  2. 直交射影の行列 $P_0$ について $\|A-P_0\|\le1/10$ なら、$\|C\|<1$ であり、$\|\sigma(A)-P_0\|<1/2$ である。
  3. 多様体 $U$ の上の $C^\infty$ 写像 $A\colon U\to\mathrm{Sym}_s$ が各点で $\|C\|<1$ を満たせば、$y\mapsto\sigma(A(y))$ は $C^\infty$ 級である。

要点:$\|C^j\|\le\|C\|^j$ と $|a_j|\le1$ から $f(C)$ は絶対収束する。$C$ は対称で $B$ と可換なので、$f(C)$ も対称で $B$ と可換である。1 は $(1+x)\bigl(\sum_ja_jx^j\bigr)^2=1$ の係数の比較を行列に移し、$S:=Bf(C)$ が $S^2=I$ を満たすことによる。2 は $\|C\|$ と $\|f(C)-I\|$ の評価、3 は項別の偏微分の一様収束による。

詳しい証明を開く

1:$b_m:=\sum_{i+j=m}a_ia_j$ とおく。$|x|<1$ で $(1+x)\bigl(\sum_ja_jx^j\bigr)^2=1$ なので、冪級数の係数を比べて $b_0=1$、$b_m+b_{m-1}=0$($m\ge1$)である。絶対収束する級数の積は Cauchy 積で計算でき、$C$ の冪は互いに可換なので、$f(C)^2=\sum_mb_mC^m$、$(I+C)f(C)^2=\sum_m(b_m+b_{m-1})C^m=I$ である($b_{-1}:=0$)。$I+C=B^2$ なので $S:=Bf(C)$ について $S^2=B^2f(C)^2=I$ であり、$S$ は可換な対称行列の積として対称である。よって $\sigma(A)=\frac12(I+S)$ は $\sigma(A)^2=\frac14(I+2S+S^2)=\sigma(A)$ を満たす対称行列で、直交射影の行列である。

2:$B_0:=2P_0-I$ とおくと $B_0^2=I$、$\|B_0\|\le1$ である。$D:=B-B_0=2(A-P_0)$ は $\|D\|\le1/5$ を満たし、$C=B_0D+DB_0+D^2$ なので $\|C\|\le2/5+1/25=11/25<1$ である。$\sum_{j\ge1}|a_j|x^j=(1-x)^{-1/2}-1$ により $\|f(C)-I\|\le(1-\frac{11}{25})^{-1/2}-1=\frac{5}{\sqrt{14}}-1$、$\|f(C)\|\le\frac{5}{\sqrt{14}}$ である。$S-B_0=Df(C)+B_0(f(C)-I)$ なので $\|S-B_0\|\le\frac15\cdot\frac5{\sqrt{14}}+\frac5{\sqrt{14}}-1=\frac6{\sqrt{14}}-1<1$($36<56$ による)であり、$\|\sigma(A)-P_0\|=\frac12\|S-B_0\|<\frac12$ である。

3:$C(y)$ は $C^\infty$ 級なので、$f(C(y))$ が $C^\infty$ 級であることを局所座標で示せばよい。$K$ を座標近傍の中のコンパクト集合とし、$c:=\max_K\|C\|<1$、$L\ge1$ を $K$ の上での $C$ の $m$ 階以下の偏導関数のノルムの上界とする。Leibniz の規則により、$|\alpha|=m$ の偏導関数 $\partial^\alpha(C^j)$ は、$j$ 個の因子に $m$ 回の微分を配った高々 $j^m$ 個の項の和で、各項は微分されない因子を少なくとも $j-m$ 個含むので、$K$ の上で $\|\partial^\alpha(C^j)\|\le j^mL^mc^{\max(j-m,0)}$ である。$\sum_jj^mc^{j}<\infty$ なので、一様収束 の定理「Weierstrassの優級数判定法」により $\sum_ja_j\partial^\alpha(C^j)$ は $K$ の上で一様収束する。各座標方向に同じ記事の定理「一様収束と微分の交換」を繰り返し使えば、$f(C(y))$ はすべての階数の偏導関数をもち、それらは連続である。$\square$

$\sigma(A)$ は $A$ の固有値 $\lambda>1/2$ の固有空間の和への直交射影である($A$ を直交対角化すると、$S$ は各固有空間の上で $\operatorname{sign}(2\lambda-1)$ 倍になる)。この記述は証明には使わない。

主定理:滑らかな構造の存在

滑らかな構造の存在

$\xi$ を $M$ の上の $C^r$ 束($0\le r\le\infty$)とする。$\xi$ には $C^r$ 構造と両立する $C^\infty$ 構造がある。$r=0$ の場合、これは次のことを意味する:$M$ の上のどの連続なベクトル束も、滑らかなベクトル束と連続に同型である。

段 1(射影で表す).$s:=k+n$ とし、lem-ssv-mono のファイバーごとに単射な $C^r$ 束写像 $F\colon\xi\to M\times\mathbb{R}^s$ をとる。lem-ssv-pullback により、$P(y)$ を $\mathrm{pr}_2F(\xi_y)$ への直交射影の行列とすると、$P\colon M\to\mathrm{Sym}_s$ は $C^r$ 級(とくに連続)で、$F$ は $C^r$ 同型 $\xi\to E_P$ である。
段 2(平均する).各 $x\in M$ について $W_x:=\{y\in M\mid\|P(y)-P(x)\|<1/10\}$ は $x$ の開近傍である。$(W_x)_{x\in M}$ に従属する滑らかな 1 の分割 $(\rho_x)_{x\in M}$ をとり(1の分割 の定理「滑らかな 1 の分割の存在」)、
$$ A(y):=\sum_{x\in M}\rho_x(y)\,P(x) $$
とおく。局所有限な和なので $A\colon M\to\mathrm{Sym}_s$ は $C^\infty$ 級である。$\rho_x(y)\ne0$ なら $y\in W_x$ なので、$\|A(y)-P(y)\|\le\sum_x\rho_x(y)\|P(x)-P(y)\|<1/10$ である。
段 3(射影に直す).lem-ssv-straighten の 2 を $P_0:=P(y)$ に使うと、各 $y$ で $A(y)$ は補題の仮定を満たし、$Q(y):=\sigma(A(y))$ は直交射影の行列で $\|Q(y)-P(y)\|<1/2$ である。補題の 3 により $Q\colon M\to\mathrm{Sym}_s$ は $C^\infty$ 級である。lem-ssv-near により $\operatorname{rank}Q(y)=k$ であり、$v\mapsto Q(y)v$ は同型 $\operatorname{Im}P(y)\to\operatorname{Im}Q(y)$ である。
段 4(像の束を比べる).lem-ssv-image により $E_Q$ は $C^\infty$ 束で、その $C^\infty$ 構造は $E_Q$ の $C^r$ 構造($C^r$ 級の $S$ による自明化)と両立する。$T\colon E_P\to E_Q$、$T(y,v):=(y,Q(y)v)$ は各ファイバーで同型な束写像である。$E_P$ の $C^r$ 自明化 $\Phi_S^{-1}$(lem-ssv-image の形)をとると、$QS$ は $C^r$ 級で、その列は $\operatorname{Im}Q(y)$ の基底なので $\Phi_{QS}^{-1}$ は $E_Q$ の $C^r$ 自明化であり、この 2 つによる $T$ の表示は単位行列である。よって $T$ は $C^r$ 同型である。
段 5(構造を移す).$\Phi:=T\circ F\colon\xi\to E_Q$ は $C^r$ 同型である。$E_Q$ の $C^\infty$ 自明化 $\psi$ をすべて集め、$\psi\circ\Phi$ の族を $\mathcal A$ とする。$\mathcal A$ の変換関数は $E_Q$ の $C^\infty$ アトラスの変換関数そのものなので、$\mathcal A$ は $\xi$ の $C^\infty$ アトラスである。$\xi$ の $C^r$ 自明化 $\varphi$ と $\psi\circ\Phi$ の変換関数は、$\varphi$ と $\psi$ による $\Phi$ の表示の行列で、$\psi$ は $E_Q$ の $C^r$ 自明化でもあるから $C^r$ 級である。よって $\mathcal A$ の定める $C^\infty$ 構造は $\xi$ の $C^r$ 構造と両立する。$\square$

$\mathcal A$ をとると $\Phi\colon(\xi,\mathcal A)\to E_Q$ は $C^\infty$ 同型である。証明は $M$ のコンパクト性も $P$ の微分可能性も使わず、$P$ の連続性と滑らかな 1 の分割だけを使う。

同型の近似と一意性

$\eta,\eta'$ を $M$ の上の束とし、それぞれに計量(部分束・商束・双対束 の定義「計量」。存在は同記事の補題「計量の存在」)を 1 つ固定する。各 $y$ で線形写像 $L\colon\eta_y\to\eta'_y$ の作用素ノルムを $\|L\|_y$ と書く。正規直交な局所枠(Gram–Schmidt の直交化で連続にとれる)で表すと、連続な束写像 $L$ について $y\mapsto\|L_y\|_y$ は連続関数である。

同型の滑らかな近似

$\eta,\eta'$ を $C^\infty$ 束、$T\colon\eta\to\eta'$ を連続な束同型、$\varepsilon\colon M\to(0,\infty)$ を連続関数とする。$C^\infty$ 同型 $T'\colon\eta\to\eta'$ で、すべての $y$ で $\|T'_y-T_y\|_y<\varepsilon(y)$ となり、各 $t\in[0,1]$ について $T_t:=(1-t)T+tT'$ が連続な束同型になるものがある。

$m(y):=\min\{\varepsilon(y),\|T_y^{-1}\|_y^{-1}\}$ は正の連続関数である($T^{-1}$ も連続な束写像なので)。$x\in M$ ごとに、$x$ の開近傍 $U$ の上の $C^\infty$ 自明化 $\varphi$($\eta$ の)、$\varphi'$($\eta'$ の)をとり、$T$ の表示の行列を $\hat T\colon U\to\mathrm{GL}_k(\mathbb{R})$ とする。$S_x(v):=\varphi'^{-1}(\pi(v),\hat T(x)\,\mathrm{pr}_2\varphi(v))$ は $U$ の上の $C^\infty$ 束写像で $S_x(x)=T_x$ を満たすので、$W_x:=\{y\in U\mid\|S_x(y)-T_y\|_y< m(y)\}$ は $x$ の開近傍である。$(W_x)$ に従属する滑らかな 1 の分割 $(\rho_x)$ をとり、$T':=\sum_x\rho_xS_x$ とおく($\rho_xS_x$ は $U$ の外で $0$ とする。$\operatorname{supp}\rho_x\subset U$ は閉集合なので、$\rho_xS_x$ は $M$ 全体で $C^\infty$ 束写像である)。局所有限な和なので $T'$ は $C^\infty$ 束写像で、
$$ \|T'_y-T_y\|_y\le\sum_x\rho_x(y)\|S_x(y)-T_y\|_y< m(y) $$
である。$t\in[0,1]$ について $\|T_t(y)-T_y\|_y=t\|T'_y-T_y\|_y<\|T_y^{-1}\|_y^{-1}$ なので、$T_t(y)=T_y\bigl(\mathrm{id}+T_y^{-1}(T_t(y)-T_y)\bigr)$ の括弧の中は、ノルムが $1$ 未満の作用素を恒等写像に足したものとして可逆である(Neumann級数 の定理「Neumann 級数の収束の判定」)。各ファイバーで同型な連続な束写像の逆は、局所的に逆行列で表されて連続なので、$T_t$ は束同型である。$t=1$ の $T'$ は $C^\infty$ 束写像で、逆も局所的に逆行列で表されて $C^\infty$ 束写像なので(Cramer の公式)、$C^\infty$ 同型である。$\square$

滑らかな構造の一意性
  1. $M$ の上の $C^\infty$ 束 $\eta,\eta'$ が連続な束同型 $T$ で同型なら、$\eta$ と $\eta'$ は $C^\infty$ 同型である。さらに $T$ は、連続な束同型の族 $T_t$($t\in[0,1]$、$(v,t)\mapsto T_t(v)$ は連続)で $C^\infty$ 同型 $T_1$ と結べる。
  2. 束 $\xi$ の 2 つの $C^\infty$ 構造 $\mathcal A_1,\mathcal A_2$ について、$C^\infty$ 同型 $(\xi,\mathcal A_1)\to(\xi,\mathcal A_2)$ がある。それは恒等写像に任意に近くとれる(lem-ssv-approx の意味で)。

1:lem-ssv-approx を $T$ と $\varepsilon\equiv1$ に使い、$T_t:=(1-t)T+tT'$ とおく。$T_t$ は局所自明化で見て $(y,t)$ について連続な行列で表されるので、$(v,t)\mapsto T_t(v)$ は連続である。
2:恒等写像 $(\xi,\mathcal A_1)\to(\xi,\mathcal A_2)$ は連続な束同型なので、1(と lem-ssv-approx)を当てればよい。$\square$

2 では $\mathcal A_1,\mathcal A_2$ がある $C^r$ 構造と両立することは仮定していない。両立していれば恒等写像は $C^r$ 同型であるが、$C^\infty$ 同型とは限らない(反例の表の 1 行目)。一意性は「同じ構造」ではなく「滑らかな同型を除いて」の意味である。
$M$ の上の階数 $k$ の束の連続な同型類の集合を $\operatorname{Vect}^k(M)$、$C^\infty$ 束の $C^\infty$ 同型類の集合を $\operatorname{Vect}^k_\infty(M)$ と書く。

滑らかな同型類と連続な同型類

構造を忘れる写像 $\operatorname{Vect}^k_\infty(M)\to\operatorname{Vect}^k(M)$ は全単射である。とくに、$M$ の上の滑らかなベクトル束の $C^\infty$ 同型類は、無限 Grassmann 多様体への連続写像のホモトピー類と 1 対 1 に対応する。

全射は thm-ssv-main($r=0$)、単射は thm-ssv-unique の 1 による。後半は、$M$ がパラコンパクト Hausdorff なので ベクトル束の分類定理 の定理「ベクトル束の分類定理」を $\operatorname{Vect}^k(M)$ に当てればよい。$\square$

例

円周の上の束

$S^1$ の上の階数 $k\ge1$ の実ベクトル束は、連続な同型を除いて $\varepsilon^k$(自明束)と $\mu\oplus\varepsilon^{k-1}$($\mu$ は Möbius 束)の 2 つである(円周上のベクトル束の分類 の定理「円周上のベクトル束の分類」)。cor-ssv-classes により、滑らかな束の滑らかな同型類もちょうど 2 つで、代表は同じものである。これは 円周上のベクトル束の分類 の命題「滑らかな場合」を、枠を滑らかに取り直す個別の議論なしに導く。

向きが連続に変わる直線の族

$\theta\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$ を連続関数とし、$u(t):=(\cos\theta(t),\sin\theta(t))$、$P(t):=u(t)u(t)^{\mathsf T}$ とおく。$E_P=\{(t,\lambda u(t))\}\subset\mathbb{R}\times\mathbb{R}^2$ は連続な直線束で、$P$ は連続だが滑らかとは限らない。Whitneyの近似定理 の定理「Whitneyの近似定理」で滑らかな $\tilde\theta$ を $|\tilde\theta-\theta|<1$ となるようにとり、$\tilde u:=(\cos\tilde\theta,\sin\tilde\theta)$、$Q:=\tilde u\tilde u^{\mathsf T}$ とする。$\phi:=\theta-\tilde\theta$ とおくと、$P-Q$ は跡が $0$、行列式が $-\sin^2\phi$ の対称行列なので、固有値は $\pm|\sin\phi|$ で $\|P-Q\|=|\sin\phi|<1$ である。lem-ssv-near により $(t,v)\mapsto(t,Qv)$ は $E_P$ から滑らかな直線束 $E_Q$ への連続な同型で、具体的には $\lambda u\mapsto\lambda\cos\phi\,\tilde u$($\cos\phi\ne0$)である。主定理の証明は、この「近い滑らかな射影に取り替える」操作を一般の階数と底で行うものである。

行列式の計算を開く

直交変換(回転と、必要なら $x$ 軸についての鏡映)で $u=(1,0)$、$\tilde u=(\cos\phi,\sin\phi)$ としてよい($P-Q$ の固有値は直交行列による共役で変わらない)。このとき $P-Q=\begin{pmatrix}\sin^2\phi&-\cos\phi\sin\phi\\-\cos\phi\sin\phi&-\sin^2\phi\end{pmatrix}$ で、跡は $0$、行列式は $-\sin^4\phi-\cos^2\phi\sin^2\phi=-\sin^2\phi$ である。$Qu=(u\cdot\tilde u)\tilde u=\cos\phi\,\tilde u$ である。

反例:条件を外すと崩れる例

外す条件反例成り立たなくなること
「滑らかな同型を除いて」(恒等写像で一致することまで求める)$M=\mathbb{R}$、$\xi=\mathbb{R}\times\mathbb{R}$ に、恒等写像による自明化の構造 $\mathcal A_1$ と、$(x,v)\mapsto(x,(1+\lvert x\rvert)v)$ による自明化の構造 $\mathcal A_2$恒等写像 $(\xi,\mathcal A_1)\to(\xi,\mathcal A_2)$ が $C^\infty$ 同型である
$\|P-Q\|<1$(lem-ssv-near)$\mathbb{R}^2$ で $P$ は $x$ 軸、$Q$ は $y$ 軸への直交射影($\|P-Q\|=1$)$Q$ の $\operatorname{Im}P$ への制限が同型である
誤差を点ごとに $\|T_y^{-1}\|^{-1}$ 未満にとる(lem-ssv-approx)$M=\mathbb{R}$、$T(x,v)=(x,v/(1+x^2))$、定数の誤差 $\varepsilon>0$、$\delta:=\min\{\varepsilon,1\}/2$ と $S(x,v)=(x,(1/(1+x^2)-\delta)v)$誤差 $\varepsilon$ 未満の近似がまた同型である
表の反例の確かめ

1 行目の 2 つの構造は、どちらも 1 つの大域的な自明化からなるアトラスなので $C^\infty$ 構造であり、どちらも唯一の $C^0$ 構造と両立する。2 つ目の構造の座標で見た恒等写像の表示は $1+|x|$ 倍で、$x=0$ で微分できないので、恒等写像は $C^\infty$ 同型でない。一方 $(x,v)\mapsto(x,v/(1+|x|))$ は、$\mathcal A_1$ と $\mathcal A_2$ の座標で表示が $1$ 倍なので $C^\infty$ 同型である。2 行目:$x$ 軸の単位ベクトル $e_1$ について $Qe_1=0$ である。$P-Q$ は対角成分 $1,-1$ の対角行列で、$\|P-Q\|=1$ である。3 行目:$|S(x)-T(x)|=\delta<\varepsilon$ だが、$\delta\le1/2$ なので $1/(1+x^2)=\delta$ となる $x$ があり、そこで $S(x)=0$ となって同型でない。$M$ がコンパクトなら $\|T_y^{-1}\|$ は有界なので、定数の誤差で足りる。

補足

  • 文献:主定理と一意性は Hir76 Ch. 4 の Theorem 3.5(p. 101)である。そこでは分類写像 $M\to G_{s,k}$ を滑らかな写像で近似し、ホモトピックな写像による引き戻しが同型であることを使う。この記事の証明は、近似とホモトピーの代わりに射影 $Q$ と lem-ssv-near で同型を直接作り、一意性は同型そのものを近似して示した。単射の存在 lem-ssv-mono は同書 Theorem 3.1(p. 99)による。
  • 実解析的な構造:実解析的な関数には台がコンパクトな 1 の分割がないので(1の分割 の例「反例:実解析的な関数・正則関数」)、この記事の証明は実解析的な構造には使えない。この記事では扱わない。
  • 複素ベクトル束:lem-ssv-approx と thm-ssv-unique の証明は、Hermite 計量を使えば複素ベクトル束でもそのまま通る。$M$ がコンパクトなら、lem-ssv-mono の初等的な議論と Hermite 行列への置き換えで thm-ssv-main も通る。
  • 射影の差と角:lem-ssv-near の $\|P-Q\|$ は、階数が等しいとき、像の部分空間の最大の主角の正弦である(部分空間のなす角(主角))。

関連項目

参考文献

[1]
Morris W. Hirsch, Differential Topology, Graduate Texts in Mathematics 33, Springer, 1976, Ch. 4 §3 Theorem 3.1(自明束への単射の存在、p. 99)・Theorem 3.5(滑らかな構造の存在と一意性、p. 101)

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