比較判定法(級数)(comparison test for series)とは、定数 $C>0$ について十分先のすべての $n$ で $0\le a_n\le Cb_n$ のとき、$\sum b_n$ が収束すれば $\sum a_n$ も収束し、$\sum a_n$ が発散すれば $\sum b_n$ も発散するという、正項級数の収束の判定法である。項が正で比 $a_n/b_n$ が正の有限な値に近づくなら 2 つの級数は同時に収束または発散し(極限比較判定法)、隣り合う項の比を比べる形もある。冪の逆数の級数や絶対収束の判定に使われる一方、どの収束級数よりもゆっくり収束する級数があり、可算個の収束級数を相手にしてもすべての正項級数の収束を比較で判定することはできない。
項が $0$ 以上の級数 $\sum a_n$ が収束するかどうかを調べるとき、和を直接計算できることはまれである。そこで、収束・発散がすでに分かっている級数 $\sum b_n$ と、項ごとに大きさを比べる。十分先のすべての $n$ で $0\le a_n\le b_n$ なら、$\sum b_n$ が収束すれば $\sum a_n$ も収束し、$\sum a_n$ が発散すれば $\sum b_n$ も発散する。これが級数の比較判定法(comparison test)である。項が正で比 $a_n/b_n$ が正の有限な値に近づくときは、2 つの級数は同時に収束するか同時に発散する(極限比較判定法)。冪の逆数の級数の判定、絶対収束の判定、比判定法など、級数の収束判定の多くはこの判定法に帰着する。
比較判定法が使えるかどうかは、比べる相手をうまく選べるかどうかにかかっている。後半では、相手の選び方には原理的な限界があることを示す。どの収束級数に対しても、それより「ゆっくり」収束する級数があり(prop-cts-slower)、可算個の収束級数を用意しても、そのどれとも比べられない収束級数がある(thm-cts-diagonal)。
この記事では、cor-cts-absolute を除き、級数の項は実数とする。級数 $\sum_{n=1}^\infty a_n$ の部分和を $S_N:=\sum_{n=1}^Na_n$ と書き、部分和の列が有限の極限をもつとき収束、そうでないとき発散するという(級数 の定義「級数と部分和」)。
すべての $n$ で $a_n\ge0$ である級数 $\sum a_n$ を正項級数という。実数または複素数の列 $(a_n)$ と実数列 $(b_n)$ について、ある $N$ があって $n\ge N$ のすべての $n$ で $|a_n|\le b_n$ が成り立つとき、$\sum b_n$ を $\sum a_n$ の優級数(majorant)という。
「ある $N$ があって $n\ge N$ のすべての $n$ で」を、以下「十分先のすべての $n$ で」という。有限個の項を除いても級数の収束・発散は変わらない(級数 の命題「有限個の項と尾部」)ので、収束の判定では十分先の項だけが問題になる。
正項級数の部分和は単調増加なので、上に有界なら上限に収束し、有界でなければ $+\infty$ に発散する(級数 の命題「正項級数の収束と部分和の有界性」)。正項級数は振動することがない。比較判定法はこの事実から出る。
$C>0$ を定数とし、十分先のすべての $n$ で $0\le a_n\le Cb_n$ とする。
$n\ge N$ で $0\le a_n\le Cb_n$ とする。このとき $n\ge N$ で $b_n\ge a_n/C\ge0$ である。
1 を示す。$\sum b_n$ が収束すれば、その尾部 $\sum_{n\ge N}b_n$ も収束する(級数 の命題「有限個の項と尾部」)ので、その和を $B$ とおく。$n\ge N$ で $b_n\ge0$ なので、尾部の部分和は増加しながら $B$ に近づき、$B$ を超えない。よって $M\ge N$ について
$$
\sum_{n=N}^{M}a_n\le C\sum_{n=N}^{M}b_n\le CB
$$
である。左辺は $M$ について単調増加で上に有界なので、正項級数 $\sum_{n\ge N}a_n$ は収束する。有限個の項 $a_1,\dots,a_{N-1}$ を加えた $\sum a_n$ も収束する。
2 は 1 の対偶である。最後の主張は、$N=1$ として上の不等式で $M\to\infty$ とすればよい(このとき $B=\sum_{n=1}^\infty b_n$)。$\square$
比較判定法の 1 は「大きい方が収束すれば小さい方も収束する」、2 は「小さい方が発散すれば大きい方も発散する」と言える。逆向きの「小さい方が収束すれば大きい方も収束する」は、$\sum\frac1{n^2}$ と $\sum\frac1n$ のように成り立たない。
$a_n:=-\frac1n$、$b_n:=0$ とすると、すべての $n$ で $a_n\le b_n$ であり $\sum b_n=0$ は収束するが、$\sum a_n$ の部分和は調和級数の部分和の $-1$ 倍なので $-\infty$ に発散する。したがって thm-cts-comparison の 1 から仮定 $0\le a_n$ を外すと結論が成り立たない。大小 $a_n\le b_n$ だけでは、$\sum a_n$ の部分和は下に有界にならないからである。この例は GO03 第 6 章 Example 2(p. 54)にある。
符号の変わる級数や複素数の級数では、絶対値を比べる。
$(a_n)$ を実数または複素数の列とし、$\sum a_n$ が収束する優級数 $\sum b_n$ をもつとする。このとき $\sum a_n$ は絶対収束し、したがって収束する。
十分先のすべての $n$ で $0\le|a_n|\le b_n$ なので、thm-cts-comparison の 1($C=1$)により正項級数 $\sum|a_n|$ は収束する。絶対収束する級数が収束することは 絶対収束 の定理「絶対収束する級数の収束」である。$\square$
関数を項とする級数について、優級数を $x$ によらずにとれる場合が 一様収束 の定理「Weierstrassの優級数判定法」である。積分にも同じ形の判定法がある(広義積分 の定理「広義積分の比較判定法」)。
項が正のときは、不等式を直接作らなくても、項の比の極限を見れば比較判定法が使えることが多い。上極限・下極限(上極限と下極限)を使う形がもっとも一般的である。
十分先のすべての $n$ で $a_n>0$、$b_n>0$ とする。
$x_n:=a_n/b_n$ とおく。上極限は尾部の上限 $s_N:=\sup_{n\ge N}x_n$ の極限(上極限と下極限 の定義「上極限と下極限」)であり、$s_N$ は $N$ について単調減少である。
十分先のすべての $n$ で $a_n>0$、$b_n>0$ とし、$n\to\infty$ のとき $\dfrac{a_n}{b_n}\to c$($0\le c\le\infty$)とする。
比が $c$ に収束すれば、その上極限と下極限はどちらも $c$ である。1 では $0< c<\infty$ なので、$\sum b_n$ が収束すれば thm-cts-limsup の 1 により $\sum a_n$ が収束し、$\sum b_n$ が発散すれば同じ定理の 2 により $\sum a_n$ が発散する。2 は同じ定理の 1、3 は同じ定理の 2 による。$\square$
1 の「ともに」の向きが成り立つのは $c$ が $0$ でも $\infty$ でもないときだけである。たとえば $a_n=\frac1{n^2}$、$b_n=\frac1n$ では $c=0$ で、$\sum b_n$ は発散するが $\sum a_n$ は収束する。
項の比 $a_n/b_n$ のかわりに、隣り合う項の比 $a_{n+1}/a_n$ を比べることもできる。
十分先のすべての $n$ で $a_n>0$、$b_n>0$ とする。
$b_n=r^n$($0< r<1$)と比べると、「十分先で $a_{n+1}/a_n\le r$ なら収束する」が得られる。比 $a_{n+1}/a_n$ が $L<1$ に収束すれば、$L< r<1$ をとると十分先で比が $r$ 以下になるので、級数 の定理「比判定法」の 1 はここから従う。比 $a_{n+1}/a_n$ が $1$ に近づく級数は比判定法では判定できないが、冪の逆数の級数と比べると判定できることがある。
十分先のすべての $n$ で $a_n>0$ とする。
比較判定法で $\sum a_n$ の収束を示すには、収束する相手 $\sum b_n$ で、十分先で $a_n\le Cb_n$ となるものを見つければよい。発散を示すには、発散する相手で、十分先で $a_n\ge cb_n$($c>0$)となるものを見つければよい。ところが、1 つの相手で両方の向きを判定することはできず、相手を可算個用意しても、すべての正項級数を判定することはできない。
$\sum b_n$ を、すべての $n$ で $b_n>0$ の級数とする。
相手を $2$ 倍・半分にするだけでも、「1 つの相手では両方の向きを判定できない」ことは言える(GO03 第 6 章 Example 4、p. 54)。prop-cts-slower は、比が $\infty$ や $0$ に近づくほど離れた級数をとれることを示している。比較の相手を可算個そろえても、事情は変わらない。
各 $k=1,2,\dots$ について、すべての $m$ で $b^{(k)}_m>0$ の級数 $\sum_m b^{(k)}_m$ が収束するとする。このとき、すべての $m$ で $a_m>0$ の収束級数 $\sum_ma_m$ で、すべての $k$ について
$$
\frac{a_m}{b^{(k)}_m}\to\infty\qquad(m\to\infty)
$$
となるものがある。特に、どの $k$ と定数 $C>0$ についても、「十分先のすべての $m$ で $a_m\le Cb^{(k)}_m$」は成り立たない。
要点:$k$ 番目の級数の尾部が小さくなる番号で区間に区切り、第 $i$ 区間では最初の $i$ 個の級数の項の最大値の $i$ 倍を項にする。
$R^{(k)}_M:=\sum_{m>M}b^{(k)}_m$ とおくと、各 $k$ で $R^{(k)}_M\to0$($M\to\infty$)である。$M_0:=0$ とし、$i=1,2,\dots$ について順に、$M_i>M_{i-1}$ を $j=1,\dots,i+1$ のすべてで $R^{(j)}_{M_i}<2^{-i}$ となるようにとる(有限個の条件なので、それぞれを満たす番号より大きくとればよい)。$M_i\ge i$ なので $M_i\to\infty$ であり、すべての $m\ge1$ はちょうど 1 つの区間 $M_{i-1}< m\le M_i$ に入る。その $m$ について
$$a_m:=i\cdot\max\bigl\{b^{(1)}_m,\dots,b^{(i)}_m\bigr\}>0$$
と定める。
収束。$i\ge2$ の区間では、最大値を和で押さえ、$M_{i-1}$ のとり方($j\le i$ で $R^{(j)}_{M_{i-1}}<2^{-(i-1)}$)を使うと
$$\sum_{m=M_{i-1}+1}^{M_i}a_m\le i\sum_{j=1}^{i}\ \sum_{m>M_{i-1}}b^{(j)}_m=i\sum_{j=1}^{i}R^{(j)}_{M_{i-1}}< i^2\,2^{-(i-1)}$$
である。$\sum_ii^2\,2^{-(i-1)}$ は隣り合う項の比 $\frac{(i+1)^2}{2i^2}$ が $\frac12$ に近づくので収束する(級数 の定理「比判定法」)。$\sum a_m$ の部分和は、第 1 区間の和とこの級数の和の和で上から押さえられるので、$\sum a_m$ は収束する。
比が $\infty$ に近づく。$k$ と $T>0$ を固定し、$i_0\ge k$ を $i_0>T$ となるようにとる。$m>M_{i_0-1}$ なら $m$ はある $i\ge i_0$ の区間に入り、$i\ge k$ なので $a_m\ge i\,b^{(k)}_m\ge i_0\,b^{(k)}_m>T\,b^{(k)}_m$ である。よって $a_m/b^{(k)}_m\to\infty$ である。最後の主張は、$T=C$ とすれば十分先のすべての $m$ で $a_m>Cb^{(k)}_m$ となることから従う。$\square$
したがって、収束する正項級数の列 $\sum_mb^{(1)}_m,\sum_mb^{(2)}_m,\dots$ をどう選んでも、「ある $k$ と $C$ について十分先で $a_m\le Cb^{(k)}_m$ となる $\Leftrightarrow$ $\sum a_m$ が収束する」という形で、すべての正項級数の収束を比較で判定することはできない。この定理は GO03 第 6 章 Example 19(pp. 62–64)にある(同書は、このような列を万能の比較の列と呼び、それが存在しないことを述べている)。
項の比そのものにも、ほとんど制約がない。
すべての $n$ で $c_n>0$ とする。すべての $n$ で $a_n>0$、$b_n>0$、$\dfrac{a_n}{b_n}=c_n$ を満たし、$\sum a_n$ が収束して $\sum b_n$ が発散する列 $(a_n)$、$(b_n)$ があるための必要十分条件は、$\displaystyle\liminf_{n\to\infty}c_n=0$ である。
要点:$\liminf c_n>0$ なら thm-cts-limsup により $\sum b_n$ も収束してしまう。$\liminf c_n=0$ なら、$c_n$ が小さい薄い部分列の上で $b_n=1$ として発散を集める。
必要性。$\liminf c_n>0$($+\infty$ を含む)なら、$b_n/a_n=1/c_n$ なので $\limsup b_n/a_n=1/\liminf c_n$ は有限であり($1/\infty=0$ とする)、$\sum a_n$ が収束すれば thm-cts-limsup の 1 により $\sum b_n$ も収束する。$c_n>0$ なので $\liminf c_n\ge0$ であり、条件は $\liminf c_n=0$ となる。
十分性。$\liminf c_n=0$ なら、どの $N$ と $\varepsilon>0$ についても $n>N$ で $c_n<\varepsilon$ となる $n$ がある。そこで $n_1< n_2<\cdots$ を、$c_{n_k}<\frac1{k^2}$ となるように順に選ぶ。$n=n_k$ では $a_n:=c_{n_k}$、$b_n:=1$ とし、それ以外の $n$ では $a_n:=\frac1{n^2}$、$b_n:=\frac1{n^2c_n}$ とおく。どの $n$ でも $a_n/b_n=c_n$ である。$\sum a_n$ の部分和は $\sum_k\frac1{k^2}+\sum_n\frac1{n^2}\le4$ で上から押さえられる(ex-cts-p-series)ので $\sum a_n$ は収束する。$\sum b_n$ は $1$ に等しい項を無限個含み、項が $0$ に近づかないので発散する(級数 の命題「収束する級数の項は0に近づく」)。$\square$
比較判定法では、不等式が「十分先のすべての $n$ で」成り立つことが要る。無限個の $n$ で成り立つだけでは足りない。たとえば $\liminf b_n=0$ となる正の列 $(b_n)$ に対して、収束する正項級数 $\sum a_n$ で $\limsup a_n/b_n=\infty$ となるものや、項が $0$ に近づき発散する正項級数 $\sum a_n$ で $\liminf a_n/b_n=0$ となるものが、prf-cts-ratio-realization と同じく薄い部分列の上だけで項を変えて作れる(GO03 第 6 章 Example 9・10、pp. 57–58。prop-cts-ratio-realization は同じ章の Example 11、p. 58)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 比較判定法の $0\le a_n$ | $a_n=-\frac1n$、$b_n=0$ | $\sum b_n$ が収束すれば $\sum a_n$ も収束する |
| 比較判定法の「十分先のすべての $n$ で」(無限個の $n$ でだけ $a_n\le b_n$) | $a_n=1$($n$ 奇数)、$a_n=0$($n$ 偶数)、$b_n=\frac1{n^2}$ | $\sum b_n$ が収束すれば $\sum a_n$ も収束する |
| 極限比較判定法の $a_n,b_n>0$ | $a_n=\frac{(-1)^n}{\sqrt n}$、$b_n=\frac{(-1)^n}{\sqrt n}+\frac1n$($n\ge2$) | 比が $1$ に近づけば収束・発散が一致する |
| 極限比較判定法の $c>0$ | $a_n=\frac1{n^2}$、$b_n=\frac1n$ | 比が極限をもてば収束・発散が一致する |
1 行目は ex-cts-signed である。2 行目:偶数の $n$ では $a_n=0\le b_n$ なので不等式は無限個の $n$ で成り立ち、$\sum b_n$ は収束する(ex-cts-p-series)が、$\sum a_n$ は $1$ に等しい項を無限個含むので発散する。3 行目:$n\ge2$ で $\sqrt n\ne1$ なので $b_n\ne0$ であり、$\dfrac{b_n}{a_n}=1+\dfrac{(-1)^n}{\sqrt n}\to1$ なので $\dfrac{a_n}{b_n}\to1$ である。$\sum a_n$ は符号が交互に変わり絶対値が単調に $0$ に減るので収束する(級数 の定理「Leibnizの判定法」)。$\sum b_n$ が収束すれば $\sum\frac1n=\sum b_n-\sum a_n$ も収束するはずなので、$\sum b_n$ は発散する。4 行目:比は $\frac1n\to0$ であり、$\sum a_n$ は収束、$\sum b_n$ は発散する。
3 行目のように、符号の変わる項では比の極限が $1$ でも収束・発散が一致しない。比較判定法とその変形は、どれも項が $0$ 以上(または正)であることに依存している。
広義積分 の定理「広義積分の比較判定法」は、$|f|\le g$ のとき $\int g$ の収束から $\int f$ の収束を導くもので、この記事の thm-cts-comparison と cor-cts-absolute の積分版にあたる。単調減少な正の関数 $f$ については、$\sum f(n)$ と $\int_1^\infty f$ の収束・発散が一致する(広義積分 の命題「級数の積分判定法」)。これも級数と積分を互いに比べる判定法である。単調な正項級数を、項の一部を $2$ 倍ずつの間隔で抜き出した級数と比べるのが Cauchyの凝集判定法 である。
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