Chern類(Chern class)とは、位相空間 $X$ 上の複素ベクトル束 $E$ に対して定まる整係数コホモロジー類 $c_i(E)\in H^{2i}(X;\mathbb{Z})$ の列で、束の同型類の不変量である。自然性、Whitney の和公式 $c(E\oplus F)=c(E)c(F)$、複素射影空間上の $\mathcal{O}(1)$ に対する正規化 $c(\mathcal{O}(1))=1+h$ の 3 条件で一意に定まり、Grothendieck は射影束のコホモロジーの関係式でこれを定義して同じ定義が Chow 環でも通ることを示した。分裂原理により計算は対称式に帰着し、たとえば $c(T\mathbb{CP}^n)=(1+h)^{n+1}$ である。Chern 指標・Todd 類・Riemann–Roch の定理の基礎をなす。
前提知識: ベクトル束, 特異コホモロジー, 複素多様体, 射影空間, 可微分多様体
Chern 類は、位相空間 $X$ 上の複素ベクトル束 $E$ に対して定まる整係数の特異コホモロジー類 $c_i(E)\in H^{2i}(X;\mathbb{Z})$ の列であり、束の同型類の不変量である。本記事では、パラコンパクト空間かつ Hausdorff空間である $X$(CW複体、可微分多様体、複素多様体はすべてこれを満たす)上の、有限階数の複素ベクトル束を扱う。$H^*(X;\mathbb{Z})=\bigoplus_iH^i(X;\mathbb{Z})$ はカップ積によって次数付き可換環とみなし、積の記号は省く。
定義の正規化に使うのは、複素射影空間 $\mathbb{CP}^n$ 上の直線束(階数 $1$ の複素ベクトル束)である。
$\mathbb{CP}^n$ を $\mathbb{C}^{n+1}$ の $1$ 次元部分空間(直線)の全体とし、点 $\ell\in\mathbb{CP}^n$ の上のファイバーが直線 $\ell\subset\mathbb{C}^{n+1}$ 自身であるような直線束をトートロジー直線束といい、$\gamma_n$ または $\mathcal{O}(-1)$ と書く。その双対束(双対束)を $\mathcal{O}(1):=\gamma_n^\vee$、$\mathcal{O}(1)$ の $k$ 回テンソル積を $\mathcal{O}(k)$($k\ge1$)、$\mathcal{O}(-1)$ の $k$ 回テンソル積を $\mathcal{O}(-k)$、自明束を $\mathcal{O}=\mathcal{O}(0)$ と書く。
$\mathbb{CP}^n$ の整係数コホモロジー環は $1$ つの元 $h\in H^2(\mathbb{CP}^n;\mathbb{Z})$ で生成される切頂多項式環
$$
H^*(\mathbb{CP}^n;\mathbb{Z})=\mathbb{Z}[h]/(h^{n+1})
$$
であり(Hat02 Theorem 3.19)、生成元 $h$ は $\pm1$ 倍を除いて一意である。複素構造が定める向きについて超平面 $\mathbb{CP}^{n-1}\subset\mathbb{CP}^n$ の Poincaré双対となる方の生成元、すなわち $\langle h^n,[\mathbb{CP}^n]\rangle=1$ を満たす方を超平面類と呼び、以後 $h$ と書く。包含 $\mathbb{CP}^{n}\subset\mathbb{CP}^{n+1}$ による引き戻しは $h$ を $h$ に送る。
パラコンパクト Hausdorff 空間 $X$ 上の各複素ベクトル束 $E$ に対してコホモロジー類の列
$$
c_i(E)\in H^{2i}(X;\mathbb{Z})\quad(i=0,1,2,\dots),\qquad c_0(E)=1
$$
を対応させる規則 $c$ で、次の 3 条件を満たすものを Chern 類(Chern class)といい、$c_i(E)$ を $E$ の第 $i$ Chern 類、和
$$
c(E):=c_0(E)+c_1(E)+c_2(E)+\cdots\in H^*(X;\mathbb{Z})
$$
を $E$ の全 Chern 類(total Chern class)という。
正規化の $c(\mathcal{O}(1))=1+h$ は $c_1(\mathcal{O}(1))=h$ と $c_i(\mathcal{O}(1))=0$($i\ge2$)をまとめたものである。$\mathcal{O}(1)$ の代わりにトートロジー束で $c(\gamma_n)=1-h$ と正規化する流儀(MS74 §14)も同じ規則を定める(cor-chern-class-dual-line)。3 の後半の「階数を超える Chern 類は $0$」は、thm-chern-class-splitting を認めれば他の条件から従う(prf-chern-class-uniqueness)が、多くの教科書に倣って条件に含めた。
def-chern-class-axioms の 3 条件を満たす規則 $c$ はただ 1 つ存在する。
一意性は prop-chern-class-uniqueness で証明する。存在の証明は本記事の水準を超えるので出典に譲る。構成には 3 通りある。(a) 階数 $n$ の複素ベクトル束は、無限 Grassmann 多様体(Grassmann多様体、分類空間)$BU(n)=\varinjlim_NG_n(\mathbb{C}^N)$ 上の普遍束 $\gamma^n$ の引き戻しとして得られ、$H^*(BU(n);\mathbb{Z})=\mathbb{Z}[c_1,\dots,c_n]$($\deg c_i=2i$)が成り立つので、$c_i(E)$ を分類写像による $c_i$ の引き戻しとして定める(MS74 §14、Hus94)。MS74 は Euler 類と Gysin 列(Gysin写像)を用いて $c_i$ を帰納的に構成し、$H^*(BU(n))$ の計算は後で行う。(b) 射影束 $\mathbb{P}(E)$ の Leray–Hirsch の定理(Leray–Hirschの定理)による定義(def-chern-class-projective-bundle、BT82 §20、Hat02 の続篇 Vector Bundles and K-Theory 第 3 章)。(c) 曲率による de Rham 表示(rem-chern-class-chern-weil。ただしこれは実係数の類しか与えない)。
第 1 Chern 類 $c_1$ は、直線束については束を完全に分類する($c_1$ は直線束の同型類の群から $H^2(X;\mathbb{Z})$ への同型である。thm-chern-class-line-classification)。直線束の $c_1$ には、分類写像による定義(thm-chern-class-line-classification)のほかに、指数完全列の連結準同型による定義、零切断の Euler 類(Euler類)による定義、因子の類による定義があり、本記事では最もよく使われる連結準同型による定義だけを述べる。
$X$ をパラコンパクト Hausdorff 空間とし、$\mathcal{C}$ を $X$ 上の複素数値連続関数の層、$\mathcal{C}^\times$ を至るところ零でない複素数値連続関数の層(乗法群の層)とする。$f\mapsto\exp(2\pi if)$ は局所的に対数がとれることから層の完全列(指数完全列)
$$
0\to\mathbb{Z}\to\mathcal{C}\xrightarrow{\exp(2\pi i\,\cdot)}\mathcal{C}^\times\to0
$$
を与える($\mathbb{Z}$ は定数層)。複素直線束 $L$ は、局所自明化の変換関数(1 コサイクル)によって層コホモロジー(Čechコホモロジー)の元 $[L]\in H^1(X,\mathcal{C}^\times)$ を定め、$L\mapsto[L]$ は直線束の同型類の群(テンソル積を積とする)から $H^1(X,\mathcal{C}^\times)$ への群同型である。指数完全列の連結準同型
$$
\delta\colon H^1(X,\mathcal{C}^\times)\to H^2(X;\mathbb{Z})
$$
による像 $c_1(L):=\delta[L]$ を $L$ の第 1 Chern 類という。$\mathcal{C}$ は細層(細層)なので $H^q(X,\mathcal{C})=0$($q\ge1$)であり、$\delta$ は同型である。$X$ が複素多様体で $L$ が正則直線束(正則ベクトル束)のときは、正則関数の層 $\mathcal{O}$ と零でない正則関数の層 $\mathcal{O}^*$ の指数完全列 $0\to\mathbb{Z}\to\mathcal{O}\to\mathcal{O}^*\to0$ の連結準同型 $H^1(X,\mathcal{O}^*)=\operatorname{Pic}(X)\to H^2(X;\mathbb{Z})$ が同じ $c_1(L)$ を与える($\mathcal{O}\to\mathcal{C}$、$\mathcal{O}^*\to\mathcal{C}^\times$ が 2 つの完全列の間の射を与え、連結準同型はこれと両立する)。この場合 $\delta$ は一般には同型でなく、その核と余核は $H^1(X,\mathcal{O})$ と $H^2(X,\mathcal{O})$ で測られる。
この定義が def-chern-class-axioms の意味の $c_1$、すなわち thm-chern-class-line-classification の $f^*h$ と一致すること($\exp(2\pi if)$ の符号の規約は $c_1(\mathcal{O}(1))=h$ となるように選んである)、零切断の Euler 類・因子の類による定義との一致、および可逆層や Picard群との関係は 第1Chern類 の記事に譲る(GH78 Chapter 1 §1、Huy05 §2.2)。本記事では直線束について $c(L)=1+c_1(L)$ であることだけを使う(cor-chern-class-dual-line)。
Grothendieck Gro58 は、Grassmann 多様体を使わずに、射影束のコホモロジー環の構造だけから Chern 類を定義し、同じ定義が代数多様体の Chow環でも通ることを示した。位相的な場合の形を述べる。
$E$ を $X$ 上の階数 $r\ge1$ の複素ベクトル束とし、$\pi\colon\mathbb{P}(E)\to X$ をファイバー $\mathbb{P}(E_x)$ が $E_x$ の直線の全体である射影束、$S\subset\pi^*E$ を点 $\ell\in\mathbb{P}(E)$ 上のファイバーが直線 $\ell$ 自身であるトートロジー直線束、$\xi:=c_1(S^\vee)\in H^2(\mathbb{P}(E);\mathbb{Z})$ とする。このとき $H^*(\mathbb{P}(E);\mathbb{Z})$ は $\pi^*$ によって $H^*(X;\mathbb{Z})$ 上の自由加群(自由加群)になり、$1,\xi,\xi^2,\dots,\xi^{r-1}$ がその基底である。
証明は Leray–Hirsch の定理(Hat02 Theorem 4D.1)に帰着する。各ファイバー $\mathbb{P}(E_x)\cong\mathbb{CP}^{r-1}$ への $\xi$ の制限は、$S^\vee$ のファイバーへの制限が $\mathcal{O}(1)$ であることから超平面類 $h$ であり、$1,h,\dots,h^{r-1}$ が $H^*(\mathbb{CP}^{r-1};\mathbb{Z})$ の基底なので Leray–Hirsch の仮定が満たされる(BT82 §20、Hat02 の続篇 Vector Bundles and K-Theory 第 3 章)。
thm-chern-class-leray-hirsch の記号で、$\xi^r$ を基底 $1,\xi,\dots,\xi^{r-1}$ で一意に展開したものを
$$
\xi^r+\pi^*c_1(E)\,\xi^{r-1}+\pi^*c_2(E)\,\xi^{r-2}+\cdots+\pi^*c_r(E)=0,\qquad c_i(E)\in H^{2i}(X;\mathbb{Z})
$$
と書き、この係数 $c_i(E)$ を $E$ の第 $i$ Chern 類と定める($c_0(E)=1$、$i>r$ で $c_i(E)=0$)。
この定義の入力は直線束の第 1 Chern 類だけである(直線束 $L$ の分類写像 $f\colon X\to\mathbb{CP}^\infty$、$L\cong f^*\mathcal{O}(1)$ に対して $c_1(L):=f^*h$ と定める。thm-chern-class-line-classification)。直線束 $L$ 自身については $\mathbb{P}(L)=X$、$S=L$、$\xi=c_1(L^\vee)$ で、関係式は $\xi+c_1(L)=0$ となるから、定義が矛盾しないためには $c_1(L^\vee)=-c_1(L)$ が必要であり、これは cor-chern-class-dual-line で示す。$X$ が 1 点で $E=\mathbb{C}^{n+1}$ なら $\mathbb{P}(E)=\mathbb{CP}^n$、$S=\gamma_n$、$\xi=h$ で、関係式は $h^{n+1}=0$ となって係数はすべて $0$、すなわち自明束の Chern 類は消える。この定義が def-chern-class-axioms の 3 条件を満たすことの証明は BT82 §20–21 にあり、thm-chern-class-existence により 2 つの定義は同じ規則を与える。
$\mathbb{P}(E)$ を「$E$ の直線の空間」とする上の規約は BT82 §20・Ful98 §3.2・Appendix B.5 のものであり、Grothendieck の原論文 Gro58 §1・§3 も同じ規約である:$P(E)$ の点は $E_x$ の直線、$L_E$ はトートロジー部分直線束の双対(本記事の $S^\vee$)、$\xi_E=c_1(L_E)$ で、Chern 類を定める式 (1) は本記事の def-chern-class-projective-bundle と同じ $\sum_{i=0}^{r}c_i(E)\,\xi_E^{r-i}=0$ である。一方、EGA II 以後の Grothendieck 自身の規約と Hartshorne の教科書では $\mathbb{P}(E)=\mathbf{Proj}\operatorname{Sym}E$、すなわち「$E$ の 1 次元商(超平面)の空間」を射影束と呼び、$\mathcal{O}(1)$ は $\pi^*E$ の普遍的な商直線束である(両規約の対照は Ful98 Appendix B.5)。この $\mathbb{P}(E)$ は上の規約の $\mathbb{P}(E^\vee)$ に等しいので、$\xi=c_1(\mathcal{O}(1))$ の満たす関係式は prop-chern-class-dual により
$$
\sum_{i=0}^{r}(-1)^i\pi^*c_i(E)\,\xi^{r-i}=0
$$
となる。文献の間で符号 $(-1)^i$ の有無が異なるのはこの規約の違いによるので、規約を確かめずに式を混ぜてはならない。Chow 環値の Chern 類をこの射影束公式で定義し、3 条件を Chow 環で証明する議論は、参考書 Chern類の公理的理論 の頁 3-1(定義と一意性)・3-2(存在:関手性・正規化・短完全列への乗法性)に完結した形で書かれているので、本記事では繰り返さない。
Chern 類は、複素ベクトル束が自明束からどれだけ離れているかを、底空間のコホモロジーの言葉で測る量である。階数 $r$ の束 $E$ に対し、第 $r$ Chern 類 $c_r(E)$ は一般の位置にある切断の零点集合の Poincaré 双対(Euler 類)であり、$c_{r-i+1}(E)$ は $i$ 本の切断を至るところ一次独立にとろうとするときの障害と読める。切断が至るところ一次独立に $i$ 本とれれば $E\cong\underline{\mathbb{C}}^i\oplus E'$ であり、Whitney の和公式から $c(E)=c(E')$、とくに $c_j(E)=0$($j>r-i$)となるからである。全 Chern 類が $c(E)=\prod_j(1+x_j)$ と直線束の類の積に分解するとき(分裂原理、thm-chern-class-splitting)、$c_i(E)$ は「Chern 根」$x_1,\dots,x_r$ の $i$ 次基本対称式であり、Chern 類の計算はすべて対称多項式の計算になる。逆に Chern 類は束を決めない(ex-chern-class-not-classifying)。
自明束 $\underline{\mathbb{C}}^r=X\times\mathbb{C}^r$ の全 Chern 類は $1$ である。実際、$p\colon X\to\{\ast\}$ を 1 点への写像とすると $\underline{\mathbb{C}}^r=p^*(\mathbb{C}^r)$ であり、1 点の正の次数のコホモロジーは $0$ なので、自然性から $c_i(\underline{\mathbb{C}}^r)=p^*c_i(\mathbb{C}^r)=0$($i\ge1$)である。したがって Whitney の和公式により、任意のベクトル束 $E$ について $c(E\oplus\underline{\mathbb{C}}^k)=c(E)$ である。とくに、至るところ零でない切断(切断)を $k$ 本、各点で一次独立にもつ束 $E$ は $E\cong\underline{\mathbb{C}}^k\oplus E'$ と分解するので(MS74 §2–§3)、$c_i(E)=0$($i>\operatorname{rank}E-k$)である。この対偶として、$c_r(E)\ne0$ なら階数 $r$ の $E$ は至るところ零でない切断をもたない。たとえば $\mathbb{CP}^n$ 上の $\mathcal{O}(1)$ は $c_1(\mathcal{O}(1))=h\ne0$ なので自明でなく、至るところ零でない切断をもたない。
$\mathbb{CP}^n$ 上の直線束 $\mathcal{O}(a)$($a\in\mathbb{Z}$)の全 Chern 類は $1+ah$ である(cor-chern-class-dual-line)。したがって Whitney の和公式から
$$
c\bigl(\mathcal{O}(a)\oplus\mathcal{O}(b)\bigr)=(1+ah)(1+bh)=1+(a+b)h+ab\,h^2
$$
であり、$c_1=(a+b)h$、$c_2=ab\,h^2$ である。一般に $c(\bigoplus_{j=1}^r\mathcal{O}(a_j))=\prod_j(1+a_jh)$ で、$c_i$ は $a_1,\dots,a_r$ の $i$ 次基本対称式(対称多項式)に $h^i$ を掛けたものである。$n=1$ のときは $h^2=0$ なので $c(\mathcal{O}(a)\oplus\mathcal{O}(b))=1+(a+b)h$ となり、$c_2$ は消える。
次の例は Chern 類の計算のうち最も基本的なものである。参考書 Chern類の公理的理論 の頁 3-3 には同じ計算の Chow 環版(Euler 完全列を引用する形)があるが、ここでは Euler 完全列にあたる同型そのものを証明する。
$\mathbb{CP}^n$ の(正則)接束 $T=T\mathbb{CP}^n$ を複素ベクトル束(階数 $n$)とみなすと
$$
c(T\mathbb{CP}^n)=(1+h)^{n+1},\qquad c_i(T\mathbb{CP}^n)=\binom{n+1}{i}h^i\quad(0\le i\le n)
$$
である。とくに $c_1(T\mathbb{CP}^n)=(n+1)h$、$c_n(T\mathbb{CP}^n)=(n+1)h^n$ である。
$\mathbb{C}^{n+1}$ に標準の Hermite 内積(Hermite内積)を入れ、$\gamma=\gamma_n$ をトートロジー束、$\gamma^\perp$ を点 $\ell$ 上のファイバーが直交補空間 $\ell^\perp\subset\mathbb{C}^{n+1}$ であるような階数 $n$ の束とする。直交分解 $\ell\oplus\ell^\perp=\mathbb{C}^{n+1}$ は束の同型 $\gamma\oplus\gamma^\perp\cong\underline{\mathbb{C}}^{n+1}$ を与える。
まず $T\mathbb{CP}^n\cong\operatorname{Hom}(\gamma,\gamma^\perp)$ を示す。$\ell\in\mathbb{CP}^n$ を固定し、$U_\ell:=\{\ell'\in\mathbb{CP}^n\mid\ell'\not\subset\ell^\perp\}$ とおく。$\ell'\in U_\ell$ は $\ell^\perp$ と交わらないから、$\mathbb{C}^{n+1}=\ell\oplus\ell^\perp$ への射影を考えると、$\ell'$ は $\ell$ に同型に射影され、$\ell'$ はある一意な線型写像 $\phi\colon\ell\to\ell^\perp$ のグラフ $\{v+\phi(v)\mid v\in\ell\}$ に等しい。逆に任意の $\phi\in\operatorname{Hom}(\ell,\ell^\perp)$ のグラフは $U_\ell$ の点である。この対応 $\operatorname{Hom}(\ell,\ell^\perp)\to U_\ell$ は $\mathbb{CP}^n$ の標準的な正則座標($\ell$ を $[1:0:\dots:0]$ に動かせば $\phi\mapsto[1:\phi_1:\dots:\phi_n]$)にほかならず、$\mathbb{CP}^n$ の複素多様体としての構造を定める座標近傍である。したがって $\phi\mapsto\frac{d}{dt}\big|_{t=0}\,\bigl[v+t\phi(v)\bigr]$($v\in\ell\setminus\{0\}$。$\phi$ が線型なので $v$ の選び方によらない)は、各点 $\ell$ で複素線型同型 $\Phi_\ell\colon\operatorname{Hom}(\ell,\ell^\perp)\to T_\ell\mathbb{CP}^n$ を与える。$\Phi_\ell$ は $\ell$ について連続に(正則に)依存する——$\gamma$ と $\gamma^\perp$ の局所枠をとれば $\Phi$ は座標の行列の連続な族で表される——ので、$\Phi\colon\operatorname{Hom}(\gamma,\gamma^\perp)\to T\mathbb{CP}^n$ は複素ベクトル束の同型である。
次に、$\operatorname{Hom}(\gamma,\,\cdot\,)$ が直和を保つことと $\gamma\oplus\gamma^\perp\cong\underline{\mathbb{C}}^{n+1}$ から
$$
\operatorname{Hom}(\gamma,\gamma)\oplus\operatorname{Hom}(\gamma,\gamma^\perp)\cong\operatorname{Hom}(\gamma,\underline{\mathbb{C}}^{n+1})\cong(\gamma^\vee)^{\oplus(n+1)}
$$
である。$\operatorname{Hom}(\gamma,\gamma)$ は各ファイバーが $\operatorname{End}(\ell)=\mathbb{C}\cdot\mathrm{id}_\ell$ の直線束で、恒等写像の族は至るところ零でない切断であるから $\operatorname{Hom}(\gamma,\gamma)\cong\underline{\mathbb{C}}$ である。以上で
$$
\underline{\mathbb{C}}\oplus T\mathbb{CP}^n\cong(\gamma^\vee)^{\oplus(n+1)}=\mathcal{O}(1)^{\oplus(n+1)}
$$
が得られた(Euler 完全列 $0\to\mathcal{O}\to\mathcal{O}(1)^{\oplus(n+1)}\to T\mathbb{CP}^n\to0$ の位相的な分裂形)。Whitney の和公式・ex-chern-class-trivial・正規化 $c(\mathcal{O}(1))=1+h$ により
$$
c(T\mathbb{CP}^n)=c(\underline{\mathbb{C}})\,c(T\mathbb{CP}^n)=c(\mathcal{O}(1))^{n+1}=(1+h)^{n+1}
$$
である。$h^{n+1}=0$ なので $c_i=\binom{n+1}{i}h^i$($0\le i\le n$)で、$i=n+1$ の項 $h^{n+1}$ は消えており、階数 $n$ の束の $c_{n+1}$ が $0$ であることと整合している。
この結果は 2 通りに検算できる。第 $n$ Chern 類は実 $2n$ 次元の向き付けられた束としての Euler 類に等しい(MS74 §14、Euler類)から、$\langle c_n(T\mathbb{CP}^n),[\mathbb{CP}^n]\rangle=(n+1)\langle h^n,[\mathbb{CP}^n]\rangle=n+1$ は $\mathbb{CP}^n$ の Euler標数 $\chi(\mathbb{CP}^n)=n+1$ に一致する。また、$n=1$ では $T\mathbb{CP}^1\cong\mathcal{O}(2)$(Riemann 球面の接束の次数は $2-2g=2$)で、$c(\mathcal{O}(2))=1+2h$ は $(1+h)^2=1+2h$ と一致する。
一方、$n\ge2$ では $T\mathbb{CP}^n$ は直線束の直和ではない。たとえば $n=2$ で $T\mathbb{CP}^2\cong L_1\oplus L_2$、$c_1(L_j)=a_jh$ とすると ex-chern-class-sum-of-line-bundles により $a_1+a_2=3$、$a_1a_2=3$ が必要だが、この連立方程式は実数解をもたない(判別式 $9-12<0$)。Chern 類の計算に直和分解は不要であり、分裂原理(thm-chern-class-splitting)が「引き戻して分裂させる」形をとる理由がここにある。
Chern 類は複素ベクトル束の同型類の不変量だが、完全な不変量ではない。
直線束の Chern 類の計算はすべて、直線束が $\mathbb{CP}^\infty$ 上の $\mathcal{O}(1)$ から引き戻されるという事実に帰着する。$\mathbb{CP}^\infty=\bigcup_n\mathbb{CP}^n$ は各 $\mathbb{CP}^n$ を部分複体とする CW 複体で、$H^*(\mathbb{CP}^\infty;\mathbb{Z})=\mathbb{Z}[h]$ であり、$h$ は各 $\mathbb{CP}^n$ に超平面類として制限する(Hat02 Theorem 3.19)。$\mathbb{CP}^\infty$ 上のトートロジー束 $\gamma_\infty=\mathcal{O}(-1)$ とその双対 $\mathcal{O}(1)$ も同様に定める。
$X$ をパラコンパクト Hausdorff 空間とする。$X$ 上の任意の複素直線束 $L$ に対し、連続写像 $f\colon X\to\mathbb{CP}^\infty$ で $L\cong f^*\mathcal{O}(1)$ となるものが存在し、$f$ はホモトピーを除いて一意である。したがって $L\mapsto c_1(L):=f^*h$ は well defined で、直線束の同型類の集合から $H^2(X;\mathbb{Z})$ への全単射を与える。
存在と一意性の証明は MS74 §5・§14、Hus94、Hat02 の続篇 Vector Bundles and K-Theory Theorem 1.16 に譲る。要点は、パラコンパクト性により $L$ が可算個の切断 $s_0,s_1,\dots$ で各点で生成され(局所有限な分割 $1$ による)、$x\mapsto[s_0(x):s_1(x):\cdots]$ が $L\cong f^*\mathcal{O}(1)$(同じことだが $f^*\gamma_\infty\cong L^\vee$)を満たす分類写像 $f$ になることである。全単射性は $\mathbb{CP}^\infty$ が Eilenberg–MacLane 空間 $K(\mathbb{Z},2)$ であることによる(Hat02 Theorem 4.57)。$H^{2}(\mathbb{CP}^\infty;\mathbb{Z})\to H^{2}(\mathbb{CP}^n;\mathbb{Z})$ が同型なので、公理の正規化と自然性から Chern 類の意味での $c_1(\mathcal{O}(1))$ は $h$ であり、この定理の $c_1(L)=f^*h$ は公理的な $c_1(L)$ と一致する。第1Chern類 の記事で扱う他の定義との一致もこの定理を経由する。
$X$ 上の複素直線束 $L$、$M$ に対し
$$
c_1(L\otimes M)=c_1(L)+c_1(M)
$$
が成り立つ。
$P:=\mathbb{CP}^\infty\times\mathbb{CP}^\infty$ とし、2 つの射影を $p_1,p_2\colon P\to\mathbb{CP}^\infty$、$a:=p_1^*h$、$b:=p_2^*h$ とおく。$H^*(\mathbb{CP}^\infty;\mathbb{Z})=\mathbb{Z}[h]$ は各次数で有限生成自由なので、Künneth の公式(Künnethの公式、Hat02 Theorem 3.15)により $H^*(P;\mathbb{Z})=\mathbb{Z}[a,b]$、とくに $H^2(P;\mathbb{Z})=\mathbb{Z}a\oplus\mathbb{Z}b$ である。$P$ 上の直線束 $\mathcal{U}:=p_1^*\mathcal{O}(1)\otimes p_2^*\mathcal{O}(1)$ の第 1 Chern 類を $c_1(\mathcal{U})=\alpha a+\beta b$($\alpha,\beta\in\mathbb{Z}$)と書く。
$\alpha$ を決めるため、1 点 $q\in\mathbb{CP}^\infty$ をとり、包含 $i_1\colon\mathbb{CP}^\infty\to P$、$x\mapsto(x,q)$ を考える。$p_1\circ i_1=\mathrm{id}$、$p_2\circ i_1$ は定値写像なので $i_1^*a=h$、$i_1^*b=0$ であり、$i_1^*\mathcal{U}\cong\mathcal{O}(1)\otimes\underline{\mathbb{C}}\cong\mathcal{O}(1)$ である。自然性から
$$
h=c_1(\mathcal{O}(1))=c_1(i_1^*\mathcal{U})=i_1^*c_1(\mathcal{U})=\alpha h
$$
となり、$H^2(\mathbb{CP}^\infty;\mathbb{Z})=\mathbb{Z}h$ が捩れをもたないので $\alpha=1$ である。$i_2\colon x\mapsto(q,x)$ について同様に $\beta=1$ である。よって $c_1(\mathcal{U})=a+b$ である。
一般の $L$、$M$ に対し、thm-chern-class-line-classification により $L\cong f^*\mathcal{O}(1)$、$M\cong g^*\mathcal{O}(1)$ となる $f,g\colon X\to\mathbb{CP}^\infty$ をとり、$(f,g)\colon X\to P$ とおくと、$p_1\circ(f,g)=f$、$p_2\circ(f,g)=g$ から
$$
(f,g)^*\mathcal{U}\cong f^*\mathcal{O}(1)\otimes g^*\mathcal{O}(1)\cong L\otimes M
$$
である。したがって自然性により
$$
c_1(L\otimes M)=(f,g)^*c_1(\mathcal{U})=(f,g)^*(a+b)=f^*h+g^*h=c_1(L)+c_1(M)
$$
である。
$X$ 上の複素直線束 $L$ について次が成り立つ。
1 は正規化の後半(階数 $1$ なので $c_i(L)=0$、$i\ge2$)である。2 は、$L\otimes L^\vee\cong\underline{\mathbb{C}}$($L$ の局所枠 $e$ とその双対枠 $e^\vee$ の積 $e\otimes e^\vee$ は枠のとり方によらない至るところ零でない切断)と ex-chern-class-trivial、prop-chern-class-tensor-line から $0=c_1(L\otimes L^\vee)=c_1(L)+c_1(L^\vee)$ となることによる。3 は prop-chern-class-tensor-line を $k$ 回使う。4 は $a\ge1$ なら 3 と正規化、$a\le-1$ なら 2 と 3、$a=0$ なら ex-chern-class-trivial による。
$E$ をパラコンパクト Hausdorff 空間 $X$ 上の階数 $r$ の複素ベクトル束とする。このとき、連続写像 $p\colon F\to X$ で次の 2 条件を満たすものが存在する。
証明は BT82 §21、Hat02 の続篇 Vector Bundles and K-Theory 第 3 章に譲る。筋は次のとおりである。$\pi\colon\mathbb{P}(E)\to X$ を射影束とすると、thm-chern-class-leray-hirsch により $1$ は $H^*(\mathbb{P}(E))$ の $H^*(X)$ 上の基底の一部なので $\pi^*$ は単射であり、$\pi^*E$ はトートロジー直線束 $S$ を部分束としてもつ。Hermite 計量をとれば $\pi^*E\cong S\oplus Q$($Q$ は階数 $r-1$)と分解するので、$Q$ に同じ操作を繰り返せば $r-1$ 回で完全に分裂する。$F$ は $E$ の完全旗の束(旗多様体束)であり、Chow 環での同じ議論(旗の束への引き戻しの単射性)は参考書 Chern類の公理的理論 の頁 1-2 にある。最後の主張は Whitney の和公式と cor-chern-class-dual-line の 1 による。
分裂原理の使い方は「示したい Chern 類の等式を $F$ に引き戻し、直線束の直和の場合に基本対称式の計算で確かめ、$p^*$ の単射性で $X$ に戻す」である。prop-chern-class-dual と prop-chern-class-uniqueness がその典型である。
def-chern-class-axioms の 3 条件を満たす規則 $c$ と $c'$ は一致する。さらに、条件 3 の後半($i>\operatorname{rank}E$ で $c_i(E)=0$)は、他の条件と thm-chern-class-splitting から従う。
まず直線束 $L$ について $c(L)=c'(L)$ を示す。thm-chern-class-line-classification により $L\cong f^*\mathcal{O}(1)$ であり、自然性と正規化から $c(L)=f^*c(\mathcal{O}(1))=f^*(1+h)=f^*c'(\mathcal{O}(1))=c'(L)$ である(正規化は $\mathbb{CP}^n$ 上で与えられているが、$H^{2i}(\mathbb{CP}^\infty;\mathbb{Z})\to H^{2i}(\mathbb{CP}^n;\mathbb{Z})$ が $n\ge i$ で同型なので $\mathbb{CP}^\infty$ 上でも $c(\mathcal{O}(1))=1+h=c'(\mathcal{O}(1))$ である)。
次に、階数 $r$ の $E$ について、thm-chern-class-splitting の $p\colon F\to X$ をとると、自然性・Whitney の和公式・直線束の場合から
$$
p^*c(E)=c(p^*E)=\prod_{j}c(L_j)=\prod_jc'(L_j)=c'(p^*E)=p^*c'(E)
$$
であり、$p^*$ の単射性から $c(E)=c'(E)$ である。
後半について、条件 3 の後半を仮定しない規則 $c$ をとる。上の直線束の議論では条件 3 の後半を使っていない(正規化 $c(\mathcal{O}(1))=1+h$ に $c_i(\mathcal{O}(1))=0$、$i\ge2$ が含まれている)ので $c(L)=1+c_1(L)$ であり、$p^*c(E)=\prod_j(1+c_1(L_j))$ は次数 $2r$ を超える成分をもたない。$p^*$ が単射なので $c_i(E)=0$($i>r$)である。
$E$ を階数 $r$ の複素ベクトル束、$E^\vee$ をその双対束、$\det E:=\bigwedge^rE$ を行列式直線束(外冪)とする。
thm-chern-class-splitting の $p\colon F\to X$、$p^*E\cong\bigoplus_jL_j$、$x_j=c_1(L_j)$ をとる。双対は直和と可換なので $p^*E^\vee\cong\bigoplus_jL_j^\vee$ であり、cor-chern-class-dual-line の 2 と Whitney の和公式から
$$
p^*c(E^\vee)=\prod_j(1-x_j)=\sum_i(-1)^ie_i(x_1,\dots,x_r)=\sum_i(-1)^ip^*c_i(E)
$$
である。次数ごとに比べ、$p^*$ の単射性を使えば 1 が得られる。2 については、直和の最高次外冪は各成分のテンソル積なので $p^*\det E\cong L_1\otimes\cdots\otimes L_r$ であり、prop-chern-class-tensor-line から $p^*c_1(\det E)=x_1+\cdots+x_r=e_1(x)=p^*c_1(E)$、よって単射性から 2 が従う。
$E$、$F$ を階数 $r$、$s$ の複素ベクトル束、$L$ を直線束とし、$E$ の Chern 根を $x_1,\dots,x_r$、$F$ の Chern 根を $y_1,\dots,y_s$ とする(2 つの束を同時に分裂させる $p\colon F'\to X$ をとる)。
証明は prop-chern-class-dual と同じ型で、直和の場合 $(\bigoplus L_i)\otimes(\bigoplus M_j)=\bigoplus L_i\otimes M_j$、$\bigwedge^k(\bigoplus L_i)=\bigoplus_{i_1<\cdots< i_k}L_{i_1}\otimes\cdots\otimes L_{i_k}$ に prop-chern-class-tensor-line を当てはめ、右辺が Chern 根の対称式なので $c_i(E)$、$c_j(F)$ の多項式として底に降りる、というものである。Chow 環での完全な証明は参考書 Chern類の公理的理論 の頁 3-3(双対・外冪・テンソル積)、位相的な場合は Hir66 §4、BT82 §21 にあり、本記事では繰り返さない。2 は 1 で $s=1$ とし $\prod_i(1+x_i+y)=\sum_ie_i(x)(1+y)^{r-i}$ と整理したものである。「$c_1(E\otimes L)=c_1(E)+c_1(L)$」のように階数 $r$ を落とした式は誤りで、$\mathbb{CP}^1$ 上の $E=\mathcal{O}^{\oplus2}$、$L=\mathcal{O}(1)$ で $c_1(E\otimes L)=2h\ne h$ となる。
Chern 根の対称式で定まる類は Chern 類の多項式として表せる。次の 2 つは Riemann–Roch 型の定理に現れる。
階数 $r$ の複素ベクトル束 $E$ の Chern 根を $x_1,\dots,x_r$ とする。
分裂原理と prop-chern-class-tensor から、$\operatorname{ch}(E\oplus F)=\operatorname{ch}(E)+\operatorname{ch}(F)$、$\operatorname{ch}(E\otimes F)=\operatorname{ch}(E)\operatorname{ch}(F)$、$\operatorname{td}(E\oplus F)=\operatorname{td}(E)\operatorname{td}(F)$ が成り立つ。したがって Chern 指標は K理論の環 $K(X)$(Grothendieck群)から $H^{\mathrm{even}}(X;\mathbb{Q})$ への環準同型を定め、$X$ が有限 CW 複体なら $\operatorname{ch}\colon K(X)\otimes\mathbb{Q}\to H^{\mathrm{even}}(X;\mathbb{Q})$ は同型である(Hat02 の続篇 Vector Bundles and K-Theory 第 4 章、Hus94)。Hirzebruch–Riemann–Roch の定理(Riemann–Rochの定理)は、コンパクト複素多様体(Hir66 では射影的代数多様体)$X$ 上の正則ベクトル束 $E$ について
$$
\chi(X,E)=\sum_q(-1)^q\dim H^q(X,E)=\int_X\operatorname{ch}(E)\operatorname{td}(TX)
$$
と述べる(Hir66 Theorem 21.1.1、Huy05 Theorem 5.1.1)。$\operatorname{td}$ の定義の分母 $1-\exp(-x)$ は、この等式が $\mathbb{CP}^n$ 上の $\mathcal{O}(k)$ で成り立つように定まる。Grothendieck Gro58 の Chern 類の理論は、Borel–Serre による Grothendieck–Riemann–Roch の定理の解説の付録として書かれ、$K(X)$ の λ環の構造と完備 Chern 類 $c_t\colon K(X)\to1+tA(X)[\![t]\!]$、および $K$ 群のフィルトレーションと Chow 環の比較を扱う(参考書 Chern類の公理的理論 の頁 4-1・4-2)。
体 $k$ 上の滑らかな準射影多様体(準射影多様体)$X$ 上の局所自由層(局所自由層)$\mathcal{E}$ に対し、def-chern-class-projective-bundle とまったく同じ射影束公式で Chow環 $CH^*(X)$ に値をもつ Chern 類 $c_i(\mathcal{E})\in CH^i(X)$ が定義され、自然性・Whitney の和公式(短完全列に対する乗法性)・正規化 $c_1(\mathcal{O}_{\mathbb{P}^n}(1))=[\text{超平面}]$ を満たし、これらで一意に定まる(Ful98 §3.2、Gro58、参考書 Chern類の公理的理論 の頁 3-1・3-2)。Fulton Ful98 は射影束公式ではなく、$c_i(\mathcal{E})\cap$ を Chow 群への作用素として直接構成し、特異な $X$ も扱う。$k=\mathbb{C}$ で $X$ が滑らかな射影多様体のとき、サイクル類写像 $\operatorname{cl}\colon CH^i(X)\to H^{2i}(X^{\mathrm{an}};\mathbb{Z})$ は Chow 環値の Chern 類を、$\mathcal{E}$ に対応する正則ベクトル束 $E$ の位相的 Chern 類に送る:$\operatorname{cl}(c_i(\mathcal{E}))=c_i(E)$(Ful98 §19.1)。これは、両者が同じ射影束公式で定義され、$\operatorname{cl}$ が環準同型で引き戻しと両立し、超平面類を超平面類に送ることによる。したがって代数的ベクトル束の位相的 Chern 類は代数的サイクル(代数的サイクル)の類であり、Hodge 分解(Hodge分解)では $H^{i,i}$ 成分に入る。これが Hodge予想の出発点の 1 つである。Chow 環・Hodge コホモロジー・整係数コホモロジーの 3 つの器で同じ公理系が働くことは参考書の頁 2-2(3 つのモデル)にまとめられている。
$X$ を可微分多様体、$E$ を $C^\infty$ 複素ベクトル束、$\nabla$ を $E$ 上の接続(接続)、$F_\nabla\in\Omega^2(X;\operatorname{End}E)$ をその曲率(曲率)とする。局所枠で $F_\nabla$ を $2$ 次微分形式を成分とする $r\times r$ 行列 $\Theta$ で表すと、微分形式
$$
\det\Bigl(I+\frac{i}{2\pi}\Theta\Bigr)=1+\frac{i}{2\pi}\operatorname{tr}\Theta+\cdots
$$
は枠のとり方によらず、閉形式であり、その de Rham コホモロジー類(de Rhamコホモロジー)は接続 $\nabla$ のとり方によらない。この類の $2i$ 次成分は、整係数の Chern 類 $c_i(E)$ の $H^{2i}(X;\mathbb{Z})\to H^{2i}(X;\mathbb{R})\cong H^{2i}_{\mathrm{dR}}(X)$ による像に等しい(Chern–Weil の定理。MS74 Appendix C、GH78 Chapter 3 §3、Huy05 §4.4)。とくに $c_1(E)$ は $\frac{i}{2\pi}\operatorname{tr}F_\nabla$ で代表される。$\mathbb{CP}^n$ 上の $\mathcal{O}(1)$ に Fubini–Study 計量から定まる Chern 接続をとると、$\frac{i}{2\pi}F_\nabla$ は Fubini–Study の Kähler 形式 $\omega_{FS}$ になり、$\int_{\mathbb{CP}^1}\omega_{FS}=1$ は正規化 $c_1(\mathcal{O}(1))=h$ と整合する。曲率による表示は整係数の情報(捩れ部分)を落とすが、微分幾何的に計算でき、Chern 類の乗法性や消滅定理(たとえば平坦束の有理 Chern 類の消滅)を直接与える。
Chern 類は複素ベクトル束の特性類(特性類)である。実ベクトル束の Stiefel–Whitney 類(Stiefel–Whitney類、$\mathbb{Z}/2$ 係数)と Pontryagin 類(Pontryagin類)は Chern 類と次の関係にある:複素束 $E$ の下にある実束 $E_{\mathbb{R}}$ について $w_{2i}(E_{\mathbb{R}})$ は $c_i(E)$ の $\bmod 2$ 還元、$w_{2i+1}(E_{\mathbb{R}})=0$;実束 $V$ について $p_i(V)=(-1)^ic_{2i}(V\otimes_{\mathbb{R}}\mathbb{C})$;階数 $r$ の複素束の $c_r(E)$ は向き付けられた実 $2r$ 次元束 $E_{\mathbb{R}}$ の Euler 類である(MS74 §14–§15)。分類空間の言葉では $H^*(BU(n);\mathbb{Z})=\mathbb{Z}[c_1,\dots,c_n]$ であり、Chern 類は複素ベクトル束の整係数特性類のすべてを生成する(分類空間)。
参考書 Chern類の公理的理論 は Grothendieck Gro58 を道案内に、Chow 環値の Chern 類を射影束公式で定義して 3 条件で特徴づける議論を完結した形で述べる。本記事で言明にとどめた事項の所在は次のとおりである:射影束と旗の束への引き戻しの単射性(頁 1-1・1-2)、公理系と Chow 環・Hodge コホモロジー・整係数コホモロジーの 3 つのモデル(頁 2-1・2-2)、定義と一意性・存在(頁 3-1・3-2)、双対・外冪・テンソル積(頁 3-3)、λ 環と Chern 指標(頁 4-1・4-2)、正則切断の零点サイクルと $c_r$(頁 5-1・5-2)。
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