de Brangesの定理

同義語:de Branges's theoremde Branges theoremBieberbach予想Bieberbach conjecture

概要

de Brangesの定理(de Branges's theorem)とは、単位円板上の単射な正則関数 $f(z)=z+a_2z^2+a_3z^3+\cdots$ の係数がすべての $n\ge2$ で $|a_n|\le n$ を満たし、ある $n$ で等号が成り立つのは $f$ が Koebe 関数 $z/(1-z)^2$ の回転のときに限るという定理である。1916 年に Bieberbach が予想し(Bieberbach 予想)、$n=2$ から順に個別の証明が進んだのち、1985 年に de Branges が Löwner の方程式と Askey–Gasper の不等式を用いて、より強い Milin の予想を証明して解決した。Littlewood の評価 $|a_n|< en$ や、奇関数の係数についての Robertson の予想から予想が従うことは初等的に示せる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 単葉関数, Koebeの1/4定理, Taylor展開(複素解析), 偏角の原理

de Branges の定理 は、単位円板上の単射な正則関数の Taylor 係数の大きさを、ただ 1 つの関数(Koebe 関数)の係数で上から押さえる定理である。正規化された単葉関数 $f(z)=z+a_2z^2+a_3z^3+\cdots$ について $|a_n|\le n$ がすべての $n$ で成り立つことは、1916 年に Bieberbach が予想し(Bieberbach 予想)、$n=2$ の場合を証明した。その後、個々の $n$ ごとに別々の方法で証明が積み重ねられ、1985 年に de Branges がすべての $n$ について証明した。この記事では、定理の主張と等号の場合を述べ、Koebe 関数の回転で等号が成り立つことを確かめたうえで、記事の中で完全に証明できる部分として、$|a_n|< en$ という Littlewood の評価と、奇関数の係数についての Robertson の予想から Bieberbach 予想が従うことを証明する。de Branges の証明そのものはこの記事では証明せず、その筋と所在を示す。

定理の主張

$\mathbb{D}:=\{z\in\mathbb{C}\mid|z|<1\}$ とし、$S$ を $\mathbb{D}$ 上の単射な正則関数 $f$ で $f(0)=0$、$f'(0)=1$ を満たすもの全体とする(単葉関数 の定義「単葉関数と族 $S$, $\Sigma$」)。$f\in S$ の Taylor 展開を $f(z)=z+\sum_{n\ge2}a_nz^n$ と書く。Koebe 関数 $k(z):=z/(1-z)^2=\sum_{n\ge1}nz^n$ は $S$ に属する(Koebeの1/4定理 の例「Koebe 関数」)。$\theta\in\mathbb{R}$ について $k_\theta(z):=e^{-i\theta}k(e^{i\theta}z)$ を Koebe 関数の 回転 という。

de Branges の定理(Bieberbach 予想)

$f\in S$ ならば、すべての $n\ge2$ について
$$|a_n|\le n$$
が成り立つ。さらに、ある $n\ge2$ で $|a_n|=n$ となるのは、$f$ が Koebe 関数の回転 $k_\theta$ のときに限る。

証明の所在

この記事では thm-db-main を証明しない。証明は dB85(p. 151 の結びで、Theorem 2・Theorem 3 から Milin の予想と等号の場合を導き、Bieberbach 予想が従うことを述べる)にあり、Löwner の線形の偏微分方程式を使って短くした証明が FP85 §3(不等式)・§4(等号)にある。証明の筋は下の節「de Branges の証明の筋」で述べる。

Koebe 関数の回転で等号が成り立つ

$k_\theta(z)=e^{-i\theta}\sum_{n\ge1}n(e^{i\theta}z)^n=\sum_{n\ge1}ne^{i(n-1)\theta}z^n$ なので、$k_\theta$ の $z^n$ の係数の絶対値は $n$ である。$k_\theta$ は単射の合成なので単射で、$k_\theta(0)=0$、$k_\theta'(0)=1$ だから $k_\theta\in S$ である。したがって thm-db-main の評価 $|a_n|\le n$ はどの $n$ についても改善できない。$k_\theta$ は $\mathbb{D}$ を、原点から $\frac14$ 離れた点から無限遠まで延びる半直線 $\{-te^{-i\theta}\mid t\ge\frac14\}$ を除いた平面の上に写す(Koebeの1/4定理 の例「回転した Koebe 関数」)。

正規化を外した形では、$\mathbb{D}$ 上の単射な正則関数 $f(z)=\sum_{n\ge0}a_nz^n$ について $|a_n|\le n|a_1|$($n\ge2$)となる。$(f-a_0)/a_1\in S$ に thm-db-main を当てればよい($a_1=f'(0)\neq0$ は 単葉関数 の命題「単葉性と導関数」による)。

個々の係数での証明の歴史

thm-db-main の評価は、$n$ が小さいときから順に、次のように証明された(dB85 p. 137、Dur77 pp. 892–893)。

係数証明した人年
$a_2$Bieberbach1916
$a_3$Löwner1923
$a_4$Garabedian, Schiffer1955
$a_6$Pederson;Ozawa(独立に)1968
$a_5$Pederson, Schiffer1972
すべての $a_n$de Branges1985

$|a_2|\le2$ は面積定理から従う(Koebeの1/4定理 の定理「Bieberbach の不等式」)。すべての $n$ についての評価としては、Littlewood の $|a_n|< en$(次の節で証明する)が先にあり、Milin が $|a_n|<1.243n$、FitzGerald が $|a_n|<1.081n$ に改良した(Dur77 pp. 893–894)。

Littlewood の評価

係数は Cauchy の積分公式で円周上の積分として表されるので、$|f|$ の円周上の平均を押さえれば係数が押さえられる。鍵は、$|f|$ の平均が奇関数 $h$ の $|h|^2$ の平均に書き換えられ、後者は係数の 2 乗和になることである。
$f\in S$ に対し、$q(z):=f(z)/z$($q(0):=1$)は $\mathbb{D}$ 上で $0$ にならない正則関数で、正則な平方根 $\varphi$($\varphi^2=q$、$\varphi(0)=1$)をもつ。$h(z):=z\,\varphi(z^2)$ は $\mathbb{D}$ 上の単射な奇関数で $h(z)^2=f(z^2)$ を満たし、$h(z)=z+\frac{a_2}{2}z^3+\cdots$ である(Koebeの1/4定理 の定理「Bieberbach の不等式」の証明)。以下、$h(z)=\sum_{k\ge1}c_kz^k$($c_1=1$、偶数の $k$ で $c_k=0$)と書き、この $h$ を $f$ の 奇関数版 と呼ぶ。

円周上の平均の評価

$f\in S$ と $0< R<1$ について
$$\frac1{2\pi}\int_0^{2\pi}|f(Re^{i\phi})|\,d\phi\le\frac{R}{1-R}$$
が成り立つ。

$0< r<1$ とし、$f$ の奇関数版 $h$ について $I(r):=\sum_{k\ge1}|c_k|^2r^{2k}$、$J(r):=\sum_{k\ge1}k|c_k|^2r^{2k}$ とおく。$h$ の Taylor 級数は円周 $|z|=r$ 上で絶対一様収束するので、積を展開して項別に積分してよく、$\int_0^{2\pi}e^{i(k-l)\theta}d\theta$ が $k=l$ のときだけ $2\pi$ であることから
$$\frac1{2\pi}\int_0^{2\pi}|h(re^{i\theta})|^2d\theta=I(r),\qquad\frac1{2\pi}\int_0^{2\pi}\overline{h(re^{i\theta})}\,re^{i\theta}h'(re^{i\theta})\,d\theta=J(r)$$
である。
段 1($J$ の評価)。 $\gamma(\theta):=h(re^{i\theta})$($0\le\theta\le2\pi$)は $C^1$ 級の閉曲線で、$\gamma'(\theta)=ire^{i\theta}h'(re^{i\theta})$ である。Koebeの1/4定理 の補題「回転数の面積分」により、$\gamma$ の像の面積は $0$ で
$$\iint_{\mathbb{C}}n(\gamma,w)\,dA(w)=\frac1{2i}\oint_\gamma\bar w\,dw=\frac1{2i}\int_0^{2\pi}\overline{h(re^{i\theta})}\,ire^{i\theta}h'(re^{i\theta})\,d\theta=\pi J(r)$$
である。$w$ が $\gamma$ の像にないとき、$\zeta=h(z)$ と置き換えると $n(\gamma,w)=\frac{1}{2\pi i}\oint_{|z|=r}\frac{h'(z)}{h(z)-w}\,dz$ であり、偏角の原理 の系「円周に沿う偏角の原理」によりこれは $h-w$ の $\{|z|< r\}$ の中の零点の個数(位数の重複を込める)である。$h$ は単射なので零点は高々 1 個で、$h'\neq0$(単葉関数 の命題「単葉性と導関数」)よりその位数は $1$ だから、$n(\gamma,w)$ は $0$ か $1$ である。$M:=\max_{|z|\le r}|h(z)|$ とおくと、$|w|>M$ なら $h-w$ は $\{|z|\le r\}$ に零点をもたないので $n(\gamma,w)=0$ である。よって $\pi J(r)\le\pi M^2$ である。$|h(z)|^2=|f(z^2)|$ で、単葉関数 の定理「歪曲定理」により $|u|\le r^2$ なら $|f(u)|\le|u|/(1-|u|)^2\le r^2/(1-r^2)^2$ なので
$$J(r)\le M^2\le\frac{r^2}{(1-r^2)^2}.$$
段 2($I$ の評価)。 $I$ は $r$ の冪級数で $|r|<1$ で収束するので項別に微分でき、$I'(r)=\sum_k2k|c_k|^2r^{2k-1}=2J(r)/r$ である。段 1 から $I'(\rho)\le2\rho/(1-\rho^2)^2$($0<\rho<1$)であり、$I(0)=0$ なので
$$I(r)=\int_0^rI'(\rho)\,d\rho\le\int_0^r\frac{2\rho}{(1-\rho^2)^2}\,d\rho=\frac1{1-r^2}-1=\frac{r^2}{1-r^2}.$$
段 3(平均への書き換え)。 $|h(re^{i\theta})|^2=|f(r^2e^{2i\theta})|$ であり、$\phi=2\theta$ と置き換えると被積分関数の周期性から
$$\frac1{2\pi}\int_0^{2\pi}|f(r^2e^{i\phi})|\,d\phi=\frac1{2\pi}\int_0^{2\pi}|f(r^2e^{2i\theta})|\,d\theta=I(r)\le\frac{r^2}{1-r^2}$$
である。$R=r^2$ とおけば主張を得る。$\square$

Littlewood の評価

$f\in S$ ならば、すべての $n\ge2$ について $|a_n|< en$ である。ここで $e$ は自然対数の底である。

$0< R<1$ とする。Taylor 係数の積分表示(Cauchyの積分公式 の定理「導関数の積分表示」)により
$$a_n=\frac{1}{2\pi i}\oint_{|z|=R}\frac{f(z)}{z^{n+1}}\,dz=\frac{1}{2\pi R^n}\int_0^{2\pi}f(Re^{i\phi})e^{-in\phi}\,d\phi$$
であり、lem-db-mean から
$$|a_n|\le\frac{1}{R^n}\cdot\frac1{2\pi}\int_0^{2\pi}|f(Re^{i\phi})|\,d\phi\le\frac{R^{1-n}}{1-R}$$
である。$R:=1-\frac1n$ とおくと $\frac1{1-R}=n$、$R^{1-n}=\bigl(\frac{n}{n-1}\bigr)^{n-1}=\bigl(1+\frac1{n-1}\bigr)^{n-1}$ である。$x>0$ で $\log(1+x)< x$ なので $(1+\frac1m)^m< e$($m\ge1$)であり、$|a_n|< en$ を得る。$\square$

Littlewood は円周上の平均の評価 $\frac1{2\pi}\int|f(Re^{i\phi})|d\phi\le R/(1-R)$ を幾何的な議論で示した(Dur77 pp. 893–894)。上の証明は、それを奇関数版の係数の 2 乗和と回転数の面積分に書き換えて示したものである。Koebe 関数では、Poisson 核の積分 $\frac1{2\pi}\int_0^{2\pi}\frac{1-R^2}{|1-Re^{i\phi}|^2}d\phi=1$ から $\frac1{2\pi}\int|k(Re^{i\phi})|d\phi=\frac{R}{1-R^2}$ であり、平均を使う評価 $|a_n|\le R^{-n}\cdot(\text{平均})$ からはどう $R$ を選んでも $en/2$ 程度より良い評価は出ない(Dur77 p. 894)。$|a_n|\le n$ に届くには別の考えが要る。

奇関数の係数と Robertson の予想

$f$ の係数は奇関数版 $h$ の係数で書ける。$h$ の係数を 1 つずつ $1$ で押さえるのは強すぎて成り立たないが、2 乗の和の形で押さえれば Bieberbach 予想が出る。

Robertson の不等式から Bieberbach の評価へ

$f\in S$ とし、その奇関数版を $h(z)=\sum_{k\ge1}c_{2k-1}z^{2k-1}$($c_1=1$)とする。ある $n\ge2$ について
$$\sum_{k=1}^n|c_{2k-1}|^2\le n$$
が成り立つならば、$|a_n|\le n$ である。

$f(z^2)=h(z)^2$ の両辺の $z^{2n}$ の係数を比べる。左辺では $a_n$ である。右辺では、和が $2n$ になる 2 つの奇数の添字 $(2k-1)+(2(n-k)+1)$($k=1,\dots,n$)の積の和なので
$$a_n=\sum_{k=1}^nc_{2k-1}\,c_{2(n-k)+1}$$
である。$j:=n+1-k$ とおくと $2(n-k)+1=2j-1$ で、$k$ が $1$ から $n$ まで動くとき $j$ も $1$ から $n$ まで動く。Cauchy–Schwarzの不等式 により
$$|a_n|\le\Bigl(\sum_{k=1}^n|c_{2k-1}|^2\Bigr)^{1/2}\Bigl(\sum_{j=1}^n|c_{2j-1}|^2\Bigr)^{1/2}=\sum_{k=1}^n|c_{2k-1}|^2\le n$$
である。$\square$

Robertson は 1936 年に、$S$ のすべての奇関数 $h$ についてすべての $n$ で $\sum_{k=1}^n|c_{2k-1}|^2\le n$ が成り立つと予想し(Robertson の予想)、prop-db-robertson の形でそれが Bieberbach 予想を導くことを指摘した(Rob36 p. 367 の (7)・(8))。$S$ の奇関数はどれもある $f\in S$ の奇関数版として得られる(Dur77 p. 894)。

n = 2 の場合

$h(z)=z+\frac{a_2}{2}z^3+\cdots$ なので $c_3=a_2/2$ であり、$n=2$ の Robertson の不等式 $1+|c_3|^2\le2$ は $|a_2|\le2$ と同値である。したがって $n=2$ では Robertson の予想は Bieberbach の不等式そのものであり、成り立つ。

1 つずつの評価 $|c_{2k-1}|\le1$(Littlewood–Paley の予想)は成り立たない。Fekete と Szegő は、$S$ の奇関数で $|c_5|=\frac12+e^{-2/3}>1$ となるものがあることを示した(Rob36 p. 367、Dur77 p. 895)。2 乗の和で押さえる Robertson の形は、この反例を許しつつ Bieberbach 予想を導くちょうどよい強さになっている。

de Branges の証明の筋

この節の主張はどれもこの記事では証明しない。所在は FP85 と dB85 である。
対数係数と Milin の予想。 $f\in S$ について $\log\frac{f(z)}{z}=2\sum_{k\ge1}\gamma_kz^k$($\log$ は $0$ で値 $0$ をとる分枝)と書き、$\gamma_k$ を 対数係数 という。Koebe 関数では $\log\frac{k(z)}{z}=-2\log(1-z)=2\sum_k\frac1kz^k$ なので $\gamma_k=\frac1k$ である。de Branges が証明したのは
$$\sum_{k=1}^n(n+1-k)\Bigl(k|\gamma_k|^2-\frac1k\Bigr)\le0\qquad(n=1,2,\dots)$$
という不等式(1971 年に提出された Milin の予想)であり、Koebe 関数では各項が $0$ になる(dB85 pp. 137–138。FP85 (1.2)・(1.3) は係数 $2\gamma_k$ で同じ不等式を書いている)。Lebedev–Milin の指数化の不等式によって Milin の予想から Robertson の予想が従い(FP85 p. 683、dB85 p. 138)、prop-db-robertson によって Bieberbach 予想が従う。
Löwner の方程式。 単位円板を、無限遠まで延びる 1 本の Jordan 弧を除いた平面に写す $S$ の関数は、$S$ の中で局所一様収束の意味で稠密である。そのような $f$ には、$t\ge0$ を助変数とする単射な正則関数の族 $f(z,t)=e^tz+\cdots$ で $f(z,0)=f(z)$ を満たし、絶対値 $1$ の連続関数 $\kappa(t)$ について
$$\frac{\partial f(z,t)}{\partial t}=\frac{1+\kappa(t)z}{1-\kappa(t)z}\,z\,\frac{\partial f(z,t)}{\partial z}$$
を満たすものがある(Löwner、FP85 §3 の (3.1)–(3.3))。
重み関数と Askey–Gasper の不等式。 $f(z,t)$ の対数係数 $\gamma_k(t)$ について、重み $\tau_k(t)$ をつけた量 $\psi(t):=\sum_{k=1}^n\bigl(k|\gamma_k(t)|^2-\frac1k\bigr)\tau_k(t)$ を考える($\log\frac{f(z,t)}{e^tz}=2\sum_k\gamma_k(t)z^k$)。de Branges は $\tau_k$ を Jacobi 多項式の和で表される特別な関数にとり、$\tau_k(0)=n+1-k$ とした。Löwner の方程式から $\psi'(t)$ は $-\tau_k'(t)$ を係数とする 2 乗の和で表され、$\tau_k'\le0$(Askey と Gasper の Jacobi 多項式の和の不等式)から $\psi$ は単調非減少になる。$t\to\infty$ で $\psi(t)\to0$ なので $\psi(0)\le0$ であり、これが Milin の予想である(FP85 §2 の (2.1)–(2.5)、§3 の (3.9)–(3.13))。等号の場合の決定は FP85 §4 と dB85 p. 151 にある。

仮定を外した反例

thm-db-main の評価は、$S$ を定める条件のうち次のどれを外しても成り立たない。$f(0)=0$ は $n\ge2$ の係数に影響しない(定数を足しても $a_n$ は変わらない)ので、表には入れない。

外す条件反例成り立たなくなること
単射性$f(z):=z+3z^2$($f(0)=0$、$f'(0)=1$)$a_2=3>2$
$f'(0)=1$$f(z):=2k(z)$(単射、$f(0)=0$)$a_2=4>2$
単射である範囲が $\mathbb{D}$ 全体$f(z):=\frac12k(2z)$($\lvert z\rvert<\frac12$ で単射、$f(0)=0$、$f'(0)=1$)$a_n=n2^{n-1}>n$($n\ge2$)
反例の確かめ

1 行目:$f'(z)=1+6z$ は $z=-\frac16\in\mathbb{D}$ で $0$ になるので、単葉関数 の命題「単葉性と導関数」により $f$ は $\mathbb{D}$ 上で単射でない。2 行目:$2k$ は単射な $k$ の定数倍なので単射で、$z^2$ の係数は $2\cdot2=4$ である。正しい評価は正規化を外した形 $|a_n|\le n|a_1|$ であり、$|a_2|=4\le2\cdot2$ を満たす。3 行目:$k(2z)$ は $|2z|<1$ で単射なので $f$ は $\{|z|<\frac12\}$ 上で単射であり、$f(z)=\frac12\sum_{n\ge1}n(2z)^n=\sum_{n\ge1}n2^{n-1}z^n$ である。$f$ は $z=\frac12$ で極をもつので $\mathbb{D}$ 上の正則関数には延びない。$\square$

補足

thm-db-main は個々の関数については以前から「最終的には」成り立つことが知られていた。Hayman は、各 $f\in S$ について $|a_n|/n$ が $1$ 以下の極限をもち、極限が $1$ になるのは $f$ が Koebe 関数の回転のときに限ることを示した(Dur77 pp. 895–896)。ただし極限への近づき方は $f$ によって一様でないので、これから $|a_n|\le n$ は出ない。単葉関数 の系「係数の最大値」により各 $n$ で $A_n:=\max_{f\in S}|a_n|$ は達成されるが、thm-db-main はその値が $n$ であり、最大を与える関数が Koebe 関数の回転だけであることを述べている。

関連項目

参考文献

[1]
Louis de Branges, A proof of the Bieberbach conjecture, Acta Mathematica, 1985, pp. 137–138(予想の歴史、Robertson・Milin の予想、Lebedev–Milin の不等式), Theorem 2・Theorem 3 と p. 151 の結び(Milin の予想と等号の場合、Bieberbach 予想の証明)
[2]
Carl H. FitzGerald, Christian Pommerenke, The de Branges theorem on univalent functions, Transactions of the American Mathematical Society, 1985, §1((1.2)–(1.5)、de Branges の定理と Robertson・Bieberbach の予想), §2((2.1)–(2.5)、de Branges の重み関数と Askey–Gasper の不等式), §3((3.1)–(3.13)、Löwner の方程式による証明), §4(等号の場合)
[3]
M. S. Robertson, A remark on the odd schlicht functions, Bulletin of the American Mathematical Society, 1936, p. 367((7) Cauchy–Schwarz による係数の評価、(8) Robertson の予想、Fekete–Szegő の例)
[4]
Peter L. Duren, Coefficients of univalent functions, Bulletin of the American Mathematical Society, 1977, §1(pp. 891–894、Bieberbach 予想と個々の係数の証明、Littlewood の評価 $|a_n|<en$、Milin・FitzGerald の評価), §2(pp. 894–895、奇関数、Robertson の予想、Fekete–Szegő の例), §3(pp. 895–896、Hayman の定理)

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