懸垂

同義語:suspensionサスペンション

概要

懸垂(suspension)とは、位相空間 $X$ について、柱 $X\times[0,1]$ の上の面と下の面をそれぞれ別の 1 点に潰した空間 $SX$ のことで、2 つの錐を底面 $X$ で貼り合わせた空間でもあり、$n$ 次元球面の懸垂は $n+1$ 次元球面になる。被約ホモロジーについて次数を 1 つずらす自然な同型 $\tilde H_{k+1}(SX)\cong\tilde H_k(X)$ が成り立つ一方、$X$ が弧状連結なら $SX$ は単連結になり、基本群の情報は失われる。基点付き空間では線分も潰した被約懸垂を使い、ループ空間との随伴や Freudenthal の懸垂定理を通じて安定ホモトピー論の出発点になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 商写像, 錐(位相), ホモトピー, Mayer–Vietoris完全列

位相空間 $X$ の 懸垂(suspension)$SX$ は、柱 $X\times[0,1]$ の上の面 $X\times\{1\}$ と下の面 $X\times\{0\}$ を、それぞれ別の 1 点に潰した空間である。$X$ を赤道に置き、北極と南極から $X$ の各点へ経線を引いた形をしており、2 つの錐(位相) を底面 $X$ で貼り合わせた空間とも見られる。円周の懸垂は球面であり、一般に $n$ 次元球面の懸垂は $n+1$ 次元球面になる。
懸垂は「空間の次元を 1 つ上げる」標準的な操作である。ホモロジーについては次数を 1 つずらす同型 $\tilde H_{k+1}(SX)\cong\tilde H_k(X)$ がすべての $k$ で成り立ち(susp-thm-iso)、ホモロジーの情報は失われない。一方、$X$ が弧状連結なら懸垂の基本群は自明になり、$X$ の基本群の情報は消える(susp-thm-simply-connected)。懸垂で何が保たれ何が消えるかを調べることが、ホモトピー群の安定性(Freudenthal の懸垂定理)や安定ホモトピー論への入口になる。

定義

懸垂

$X$ を位相空間とし、$X\times[0,1]$ に直積位相 を入れる。$X\times[0,1]$ 上の同値関係を「$(x,0)\sim(x',0)$、$(x,1)\sim(x',1)$($x,x'\in X$ は任意)、それ以外の点は自分自身とだけ同値」で定め、商空間(位相)
$$ SX:=(X\times[0,1])/{\sim} $$
を $X$ の 懸垂 という。商写像を $q\colon X\times[0,1]\to SX$ と書き、$q(x,t)$ を $[x,t]$ と書く。$X\ne\emptyset$ のとき、2 点 $v_+:=q(X\times\{1\})$、$v_-:=q(X\times\{0\})$ を 懸垂点 という。また $x\mapsto[x,\tfrac12]$ による $X$ の像を 赤道 という。

写像の懸垂

連続写像 $f\colon X\to Y$ に対し、
$$ Sf\colon SX\to SY,\qquad Sf([x,t]):=[f(x),t] $$
を $f$ の 懸垂 という。

$Sf$ が矛盾なく定まり連続であることは susp-prop-functor で示す。

流儀の違い
  1. 区間を $[-1,1]$ にとり、$X\times\{\pm1\}$ を潰す流儀もある。区間の同相 $t\mapsto2t-1$ により、得られる空間は同相である。
  2. 基点 $x_0$ をもつ空間では、さらに線分 $\{x_0\}\times[0,1]$ も 1 点に潰した 被約懸垂 $\Sigma X$ を使うことが多い(スマッシュ積 の定義「被約懸垂とループ空間」と例「被約懸垂と通常の懸垂」)。基点付き CW 複体では $SX$ と $\Sigma X$ はホモトピー同値である。文献によっては、ここでの $SX$ を $\Sigma X$ と書く(二重懸垂定理 の記事はこの書き方である)。
  3. $SX$ は 2 点空間 $S^0$ とのジョイン $X\ast S^0$ と同じものである(ジョイン)。$X=\emptyset$ のとき、上の定義では $SX=\emptyset$ だが、ジョインの流儀では $\emptyset\ast S^0=S^0$ となる。以下、とくに断らない限り $X\ne\emptyset$ とする。
  4. 写像度 の定義「写像の懸垂」は、球面の写像 $f\colon S^{n-1}\to S^{n-1}$ について、$SS^{n-1}\cong S^n$ の同一視のもとで $Sf$ を球面の言葉で書いたものである(susp-ex-degree)。

直感

$X$ を赤道に置き、その上に北極 $v_+$、下に南極 $v_-$ を置く。$X$ の各点 $x$ から北極と南極へ 1 本ずつ経線 $t\mapsto[x,t]$ を引き、経線全体を集めたものが $SX$ である。上半分 $t\ge\frac12$ は北極を頂点とする $X$ の錐、下半分は南極を頂点とする錐であり、$SX$ はこの 2 つの錐を赤道 $X$ で貼り合わせたものになる。
錐は可縮なので、それぞれの半分は「何もない」空間である。$SX$ の形の情報はすべて、2 つの可縮な部分の貼り合わせ方、すなわち赤道 $X$ に集まっている。$X$ の中で境界にならない $k$ 次元の輪体は、$SX$ の中では北極側の錐と南極側の錐の両方で境界になり、その 2 つを合わせると $k+1$ 次元の輪体になる。これが次数を 1 つずらすホモロジーの同型の幾何的な意味である。逆に、赤道の上のループは北極側の錐の中で縮められるので、基本群は消えてしまう。

例

球面の懸垂

$n\ge0$ について $SS^n\cong S^{n+1}$ である。同相写像は
$$ [x,t]\longmapsto\bigl(2\sqrt{t(1-t)}\,x,\ 2t-1\bigr)\in\mathbb{R}^{n+1}\times\mathbb{R} $$
で与えられる(商写像 の例「錐と懸垂」が証明している)。とくに $S^0=\{\pm1\}$ の懸垂は円周であり、$S^0$ から懸垂を繰り返すとすべての球面が得られる。

有限個の点の懸垂

$X$ を $k$ 個の点からなる離散空間とすると、$SX$ は 2 頂点 $v_\pm$ を $k$ 本の辺で結んだグラフである。susp-thm-iso により $\tilde H_1(SX)\cong\tilde H_0(X)\cong\mathbb{Z}^{k-1}$、それ以外の被約ホモロジーは $0$ である。$k=2$ が円周、$k=3$ がテータの字の形のグラフである。$X$ は弧状連結でない($k\ge2$)が、$SX$ は弧状連結になっている。

懸垂と写像度

susp-ex-sphere の同相写像を $\Phi\colon SS^{n-1}\to S^n$ とし、$f\colon S^{n-1}\to S^{n-1}$ を連続写像とする。$\Phi([x,t])=(x',x_{n+1})$ と書くと $\|x'\|=2\sqrt{t(1-t)}$ であり、$x'\ne0$ のとき $x=x'/\|x'\|$ である。したがって
$$ \Phi\bigl(Sf([x,t])\bigr)=\bigl(\|x'\|\,f(x'/\|x'\|),\ x_{n+1}\bigr) $$
となり、$\Phi\circ Sf\circ\Phi^{-1}$ は 写像度 の定義「写像の懸垂」の $\Sigma f$ に一致する($x'=0$ の点、すなわち懸垂点でも両辺は一致する)。susp-thm-iso の自然性から $\deg Sf=\deg f$ が従い、これは同記事の補題「懸垂は写像度を変えない」の主張である。

実射影平面の懸垂

実射影空間 $\mathbb{RP}^2$ の被約ホモロジーは $\tilde H_1(\mathbb{RP}^2;\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}/2$ で、ほかは $0$ である(実射影空間 の定理「実射影空間のホモロジー」)。susp-thm-iso により、$S\mathbb{RP}^2$ の被約ホモロジーは $\tilde H_2(S\mathbb{RP}^2;\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}/2$ だけになる。さらに susp-thm-simply-connected により $S\mathbb{RP}^2$ は単連結である。こうして、単連結でありながらホモロジーに捩れをもつ空間が得られる。

円周のウェッジ和の懸垂

2 つの円周を 1 点で貼った $X=S^1\vee S^1$(ウェッジ和)の懸垂 $SX$ は、2 つの球面を、貼り合わせた点を通る経線 $\{x_0\}\times[0,1]$ に沿って貼り合わせた空間であり、この経線を 1 点に潰すと $S^2\vee S^2$ になる。この潰す写像はホモトピー同値である(Hat02 Example 0.10、p. 12)。ホモロジーで見ると、$\tilde H_2(SX)\cong\tilde H_1(X)\cong\mathbb{Z}^2$ である。

性質

2 つの錐による分解

以下、$X\ne\emptyset$ とし、
$$ U_+:=SX\setminus\{v_-\}=q\bigl(X\times(0,1]\bigr),\qquad U_-:=SX\setminus\{v_+\}=q\bigl(X\times[0,1)\bigr) $$
とおく。

2 つの錐による分解
  1. $U_+$、$U_-$ は $SX$ の開集合であり、$q$ を $X\times(0,1)$ に制限した写像は $X\times(0,1)$ から $U_+\cap U_-$ への同相写像である。とくに $x\mapsto[x,\tfrac12]$ は $X$ から $SX$ への埋め込みである。
  2. $\{v_+\}$ は $U_+$ の強変位レトラクトであり、$\{v_-\}$ は $U_-$ の強変位レトラクトである。とくに $U_\pm$ は可縮である。
  3. $SX$ は弧状連結である。
  4. $C_+:=q(X\times[\tfrac12,1])$、$C_-:=q(X\times[0,\tfrac12])$ は $SX$ の閉集合で、どちらも錐 $CX$ と同相である。$SX=C_+\cup C_-$ であり、$C_+\cap C_-$ は赤道である。
開集合と収縮のホモトピー

1:$q^{-1}(U_+)=X\times(0,1]$、$q^{-1}(U_-)=X\times[0,1)$ は $X\times[0,1]$ の開集合なので、商位相の定義により $U_\pm$ は開集合である。$W\subset X\times(0,1)$ を開集合とすると、$W$ は $X\times[0,1]$ の開集合であり、$0< t<1$ の点の同値類は 1 点だけなので $q^{-1}(q(W))=W$ である。よって $q(W)$ は開集合である。したがって $q|_{X\times(0,1)}$ は $U_+\cap U_-=q(X\times(0,1))$ の上への連続な開写像で単射なので、同相写像である。$x\mapsto(x,\tfrac12)$ は $X$ から $X\times(0,1)$ への埋め込みなので、最後の主張が従う。
2:$U_+$ について示す($U_-$ は $t$ を $1-t$ に置き換えればよい)。$X\times(0,1]$ は $q$ について飽和した開集合なので、制限 $q_+\colon X\times(0,1]\to U_+$ は商写像である(商写像 の補足「制限との相性」)。$[0,1]$ は局所コンパクト Hausdorff 空間なので、$q_+\times\mathrm{id}_{[0,1]}$ も商写像である(錐(位相) の注意「Whiteheadの補題の扱い」)。連続写像
$$ K\colon X\times(0,1]\times[0,1]\to U_+,\qquad K(x,t,s):=q\bigl(x,\ t+s(1-t)\bigr) $$
は、$t=1$ のとき $x,s$ によらず $v_+$ をとるので、$q_+\times\mathrm{id}$ のファイバーの上で一定である。よって連続写像 $H\colon U_+\times[0,1]\to U_+$、$H([x,t],s)=[x,t+s(1-t)]$ が誘導される。$H(\cdot,0)$ は恒等写像、$H(\cdot,1)$ は $v_+$ への定値写像で、すべての $s$ で $H(v_+,s)=v_+$ である。
3:$v_-$ 以外の点 $p\in U_+$ は道 $s\mapsto H(p,s)$ で $v_+$ と結ばれる。$X\ne\emptyset$ なので $x_0\in X$ をとると、経線 $t\mapsto[x_0,t]$ が $v_-$ と $v_+$ を結ぶ。
4:$q^{-1}(C_+)=X\times[\tfrac12,1]$ は閉集合なので $C_+$ は閉集合であり、この飽和した閉集合への $q$ の制限は商写像である(商写像 の補足「制限との相性」)。そのファイバーは $X\times\{1\}$ と 1 点集合なので、$C_+$ は $X\times[\tfrac12,1]$ の $X\times\{1\}$ を 1 点に潰した空間と同相である。同相写像 $X\times[\tfrac12,1]\to X\times[0,1]$、$(x,t)\mapsto(x,2t-1)$ は $X\times\{1\}$ を $X\times\{1\}$ に写すので、$C_+\cong CX$ である。$C_-$ も $(x,t)\mapsto(x,1-2t)$ により同様である。和と共通部分の主張は定義から明らかである。$\square$

4 は、$SX$ が 2 つの錐 $CX$ を底面 $X$ に沿って貼り合わせた空間であることを述べている。錐の底面を 1 点に潰しても同じ空間が得られる:$SX\cong CX/X$(錐(位相) の注意「錐から作られる構成」)。

関手性とホモトピー不変性

懸垂の関手性とホモトピー不変性
  1. 連続写像 $f\colon X\to Y$ に対し、$Sf$ は矛盾なく定まる連続写像であり、$S(g\circ f)=Sg\circ Sf$、$S(\mathrm{id}_X)=\mathrm{id}_{SX}$ である。
  2. $f,g\colon X\to Y$ がホモトピックなら、$Sf$ と $Sg$ もホモトピックである。とくに $X$ と $Y$ がホモトピー同値なら、$SX$ と $SY$ もホモトピー同値である。

1:$q_Y\circ(f\times\mathrm{id}_{[0,1]})\colon X\times[0,1]\to SY$ は連続であり、$X\times\{0\}$ を $v_-$ に、$X\times\{1\}$ を $v_+$ に写すので、$q_X$ のファイバーの上で一定である。商写像の普遍性(商写像 の定理「商写像の普遍性」)により、$Sf$ は矛盾なく定まり連続である。$S(g\circ f)([x,t])=[g(f(x)),t]=Sg(Sf([x,t]))$ と $S(\mathrm{id})([x,t])=[x,t]$ は代表元で確かめられる。
2:$F\colon X\times[0,1]\to Y$ を $f$ から $g$ へのホモトピーとする。$[0,1]$ は局所コンパクト Hausdorff なので、$q_X\times\mathrm{id}_{[0,1]}\colon X\times[0,1]\times[0,1]\to SX\times[0,1]$ は商写像である(錐(位相) の注意「Whiteheadの補題の扱い」)。連続写像 $(x,t,s)\mapsto q_Y(F(x,s),t)$ は $x,s$ によらず、$t=0$ のとき $v_-$、$t=1$ のとき $v_+$ をとるので、連続写像 $SX\times[0,1]\to SY$、$([x,t],s)\mapsto[F(x,s),t]$ を誘導する。これは $Sf$ から $Sg$ へのホモトピーである。$f\colon X\to Y$、$g\colon Y\to X$ が $g\circ f\simeq\mathrm{id}_X$、$f\circ g\simeq\mathrm{id}_Y$ を満たせば、1 と 2 により $Sg\circ Sf=S(g\circ f)\simeq S(\mathrm{id}_X)=\mathrm{id}_{SX}$ であり、逆向きも同様である。$\square$

ホモロジーの懸垂同型

以下、$\tilde H_k$ は整数係数の被約特異ホモロジーを表す(相対ホモロジー の定義「被約ホモロジー」)。

懸垂同型

$X\ne\emptyset$ とする。

  1. $\tilde H_0(SX)=0$ であり、すべての $k\ge0$ について同型
    $$ \sigma_X\colon\tilde H_{k+1}(SX)\xrightarrow{\ \cong\ }\tilde H_k(X) $$
    がある。
  2. この同型は自然である。すなわち、空でない空間の間の連続写像 $f\colon X\to Y$ について $\sigma_Y\circ(Sf)_*=f_*\circ\sigma_X$ が成り立つ。
2 つの可縮な開集合による Mayer–Vietoris 完全列

1:$SX$ は弧状連結なので(susp-prop-cones の 3)、$\tilde H_0(SX)=0$ である。開被覆 $SX=U_+\cup U_-$ を考える。$U_+\cap U_-$ は $X\times(0,1)$ と同相なので空でない。被約ホモロジーの Mayer–Vietoris 完全列(Mayer–Vietoris完全列 の命題「被約ホモロジーの Mayer–Vietoris 完全列」)の一部
$$ \tilde H_{k+1}(U_+)\oplus\tilde H_{k+1}(U_-)\to\tilde H_{k+1}(SX)\xrightarrow{\ \partial\ }\tilde H_k(U_+\cap U_-)\to\tilde H_k(U_+)\oplus\tilde H_k(U_-) $$
において、$U_\pm$ は可縮(susp-prop-cones の 2)なので両端は $0$ であり、$\partial$ は同型である。
次に $j_X\colon X\to U_+\cap U_-$、$j_X(x):=[x,\tfrac12]$ がホモトピー同値であることを示す。susp-prop-cones の 1 の同相 $X\times(0,1)\cong U_+\cap U_-$ のもとで、$j_X$ は $x\mapsto(x,\tfrac12)$ に、射影 $p(x,t):=x$ はその左逆写像になる。$p\circ j_X=\mathrm{id}_X$ であり、$((x,t),s)\mapsto(x,(1-s)t+\tfrac s2)$ は $X\times(0,1)$ の中で恒等写像から $j_X\circ p$ へのホモトピーである($(1-s)t+\tfrac s2$ は $t$ と $\tfrac12$ の間にあるので $(0,1)$ に入る)。よって $(j_X)_*$ は同型であり、
$$ \sigma_X:=(j_X)_*^{-1}\circ\partial $$
は同型である。
2:$Sf([x,t])=v_-$ となるのは $t=0$ のときに限るので、$Sf(U_+^X)\subset U_+^Y$ であり、同様に $Sf(U_-^X)\subset U_-^Y$ である(記号の右肩は空間を表す)。開被覆を開被覆へ写す写像について Mayer–Vietoris 完全列は自然であり(Mayer–Vietoris完全列 の「自然性」の節)、$\partial_Y\circ(Sf)_*=(Sf|_{U_+\cap U_-})_*\circ\partial_X$ である。また $Sf\circ j_X=j_Y\circ f$ である。したがって
$$ \sigma_Y\circ(Sf)_*=(j_Y)_*^{-1}(Sf|)_*\,\partial_X=(j_Y)_*^{-1}(Sf|)_*(j_X)_*\,\sigma_X=(j_Y)_*^{-1}(j_Y)_*f_*\,\sigma_X=f_*\circ\sigma_X $$
となる。$\square$

係数とコホモロジー

同じ証明は任意のアーベル群 $G$ を係数とするホモロジーでも通り、$\tilde H_{k+1}(SX;G)\cong\tilde H_k(X;G)$ が成り立つ(係数付きのホモロジーでも Mayer–Vietoris 完全列とホモトピー不変性が成り立つことによる。Hat02 §2.2「Homology with Coefficients」、pp. 153–154)。コホモロジーについても、特異コホモロジー の定理「Mayer–Vietoris の完全列」を同じように使うと $\tilde H^{k+1}(SX;G)\cong\tilde H^k(X;G)$ が得られる。基点付き CW 複体の被約懸垂 $\Sigma X$ についての同じ同型は スマッシュ積 の注意「コホモロジーとの関係」が述べている。

球面のホモロジーと Euler 標数
  1. $n\ge0$ について、$\tilde H_k(S^n)$ は $k=n$ で $\mathbb{Z}$、それ以外で $0$ である。
  2. $X$ の整数係数ホモロジー群がすべて有限生成で、有限個の次数を除いて $0$ であるとき、$\chi(SX)=2-\chi(X)$ である。ここで $\chi$ はホモロジー群の階数の交代和である。

1:$\tilde H_k(S^0)$ は $k=0$ で $\mathbb{Z}$、それ以外で $0$ である。$S^{n}\cong SS^{n-1}$(susp-ex-sphere)と susp-thm-iso により、$n$ についての帰納法で従う。$\tilde H_0(S^n)=0$($n\ge1$)は susp-thm-iso の 1 の前半である。この計算は Mayer–Vietoris完全列 の命題「球面のホモロジー」でも示されている。
2:$\tilde\chi(X):=\sum_k(-1)^k\operatorname{rank}\tilde H_k(X)$ とおくと、$H_0(X)\cong\tilde H_0(X)\oplus\mathbb{Z}$ から $\tilde\chi(X)=\chi(X)-1$ である。susp-thm-iso により
$$ \tilde\chi(SX)=\sum_k(-1)^{k+1}\operatorname{rank}\tilde H_{k+1}(SX)=-\sum_k(-1)^k\operatorname{rank}\tilde H_k(X)=-\tilde\chi(X) $$
なので、$\chi(SX)-1=-(\chi(X)-1)$、すなわち $\chi(SX)=2-\chi(X)$ である。$\square$

たとえば $\chi(S^0)=2$ から $\chi(S^1)=0$、$\chi(S^2)=2$ と交互に変わる。$\chi(\mathbb{RP}^2)=1$ なので $\chi(S\mathbb{RP}^2)=1$ である。

基本群の消滅

懸垂の単連結性

$X$ が空でない弧状連結空間なら、$SX$ は単連結である。

$U_+$、$U_-$ は開集合で、可縮なので弧状連結で基本群は自明である(susp-prop-cones の 1・2)。$U_+\cap U_-$ は $X\times(0,1)$ と同相であり、弧状連結な空間の直積なので弧状連結で、空でない。van Kampenの定理 の系「単連結性の判定」により、$SX$ の基本群は自明であり、$SX$ は単連結である。$\square$

ホモトピー群全体で見ると、懸垂は写像 $a\colon S^k\to X$ を $Sa\colon S^{k+1}\cong SS^k\to SX$ に写すことで、次数を 1 つ上げる準同型を与える。$X$ が連結度の高い CW 複体なら、この準同型は低い次数で同型になる(Freudenthal の懸垂定理。ホモトピー群 の命題「懸垂準同型とFreudenthalの安定性」)。球面のホモトピー群 $\pi_{n+k}(S^n)$ が $n$ を大きくすると一定になる現象(球面のホモトピー群)はここから来る。

懸垂で失われる情報

懸垂はホモロジーを次数をずらしてそのまま保つが、基本群を消してしまう。そのため、懸垂する前は区別できた空間が、懸垂すると区別できなくなることがある。

Poincaré ホモロジー球面の懸垂

$P$ を Poincaré ホモロジー球面とする(ホモロジー球面 の定義「二項 20 面体群と Poincaré ホモロジー球面」)。$P$ は $S^3$ と同じ整数係数ホモロジーをもつが、基本群は位数 $120$ の群であり、$S^3$ とホモトピー同値でない(同記事の定理「Poincaré ホモロジー球面の基本性質」)。

  1. susp-thm-iso により $\tilde H_*(SP)\cong\tilde H_*(S^4)$ であり、susp-thm-simply-connected により $SP$ は $S^4$ と同じく単連結である。$P$ と $S^3$ を区別していた基本群は、懸垂すると消える。
  2. 二重懸垂定理 の定理「二重懸垂定理」(同記事の $\Sigma$ はこの記事の $S$ と同じもの)により $S(SP)\cong S^5\cong S(S^4)$ である。一方 $SP$ は懸垂点で多様体でないので(同記事の命題「1回の懸垂の障害」)、$S^4$ と同相でない。したがって「$SX\cong SY$ なら $X\cong Y$」は成り立たない。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
$X$ が弧状連結(susp-thm-simply-connected)$X=S^0$$SX\cong S^1$ の基本群は $\mathbb{Z}$ である
弧状連結を連結に弱める(susp-thm-simply-connected)$X$ を位相幾何学者の正弦曲線とする$\tilde H_1(SX)\cong\mathbb{Z}$ なので $SX$ は単連結でない
$f$ と $g$ がホモトピック(susp-prop-functor の 2)$f=\mathrm{id}_{S^1}$、$g$ を定値写像とする$\deg Sf=1$、$\deg Sg=0$ で、$Sf$ と $Sg$ はホモトピックでない
反例の確かめ

表の各行を確かめる。

3 つの反例の確かめを開く

1 行目:$SS^0\cong S^1$ は susp-ex-sphere による。証明では $U_+\cap U_-\cong X\times(0,1)$ が弧状連結であることを van Kampen の定理に使っており、$X=S^0$ では $U_+\cap U_-$ が 2 つの開区間に分かれる。

2 行目:位相幾何学者の正弦曲線 $X=\{(x,\sin(1/x))\mid0< x\le1\}\cup(\{0\}\times[-1,1])$ は連結だが、弧状連結成分がちょうど 2 つある(位相幾何学者の正弦曲線 の系「二つの弧状連結成分」)。$H_0(X)$ は弧状連結成分を基底とする自由アーベル群なので(Hat02 Proposition 2.7、p. 109)、$\tilde H_0(X)\cong\mathbb{Z}$ であり、susp-thm-iso により $\tilde H_1(SX)\cong\mathbb{Z}$ である。$SX$ は弧状連結で、$H_1(SX)$ は基本群のアーベル化である(Hat02 Theorem 2A.1、p. 166)から、基本群は自明でない。

3 行目:susp-ex-degree により $\deg Sf=\deg f$ である。$\deg\mathrm{id}=1$、定値写像の写像度は $0$ であり、ホモトピックな写像は写像度が等しいから(写像度 の命題「写像度の基本性質」)、$Sf\not\simeq Sg$ である。$f$ と $g$ もホモトピックでない(写像度が $1$ と $0$)ので、susp-prop-functor の仮定が破れている。

補足

被約懸垂とループ空間の随伴。 基点付き空間の被約懸垂 $\Sigma X$ は、ループ空間 $\Omega Y$ と随伴の関係にあり、基点付きホモトピー類の全単射 $[\Sigma X,Y]_*\cong[X,\Omega Y]_*$ を与える(スマッシュ積 の定理「スマッシュ積と写像空間の随伴」と注意「ホモトピー群との関係」)。$X=S^n$ とすると $\pi_{n+1}(Y)\cong\pi_n(\Omega Y)$ となる。
錐との関係。 錐 $CX$ の底面を潰すと懸垂になり($SX\cong CX/X$)、包含 $X\hookrightarrow CX$ と商写像 $CX\to SX$ の列は、連続写像の「核と余核」を調べる余ファイバー列の最も簡単な例である。$X$ の懸垂を繰り返した $S^kX$ のホモロジーは $X$ のホモロジーを $k$ だけずらしたものであり、この「ずらしても情報が変わらない」性質を公理として取り出したものが一般ホモロジー論の懸垂公理である。
押し出しとしての懸垂。 susp-prop-cones の 4 により、$SX$ は 2 つの閉集合 $C_\pm\cong CX$ の和で共通部分が $X$ なので、$SX$ からの写像が連続であることは $C_+$、$C_-$ への制限が連続であることと同値であり、$SX$ は図式 $CX\leftarrow X\rightarrow CX$ の押し出し である。錐は可縮なので、ホモトピーを同一視する立場ではこれは「1 点 $\leftarrow X\rightarrow$ 1 点」の押し出しの役をする。基点付き空間の∞圏では、懸垂をこの形の押し出しとして定義する(随伴関手(∞圏))。
二重懸垂。 ホモロジー球面 $H$ について、1 回の懸垂 $SH$ は多様体とは限らないが、2 回の懸垂 $S^2H$ は球面と同相になる(二重懸垂定理)。懸垂点のまわりの局所的な形がどう変わるかが、その証明の要である。

関連項目

参考文献

[1]
Allen Hatcher, Algebraic Topology, Cambridge University Press, 2002, Chapter 0「Suspension」(pp. 8–9)、Example 0.10(被約懸垂、p. 12);§2.1 Proposition 2.7(p. 109);§2.2「Homology with Coefficients」(pp. 153–154);§2.A Theorem 2A.1(p. 166)

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