部分積分 $\int_a^bF\,G'\,dx=[FG]_a^b-\int_a^bF'\,G\,dx$($F,G$ は $[a,b]$ で $C^1$ 級)は、積の微分法を積分の側から読んだ公式である。使うときに決めるのは、どちらを微分する側 $F$ にし、被積分関数をどこで切って積分する側 $G'$ にするかであり、確かめることは「$G'$ の原始関数が分かるか」「$F'G$ が $FG'$ より簡単か」の 2 つである。どちらを微分するかは 2 つの関数を比べて決める。多項式は、相手が $e^x$ や三角関数なら微分する側に置き、相手が $\log x$ や $\arctan x$ ならそちらを微分する側に置く(微分で有理関数になるため)。$e^x\sin x$ のように同じ形が戻る積分は、役割を固定して 2 回使い、方程式として解く。繰り返しは表の形にまとめられる。
前提知識: 微分係数と導関数の定義(高校数学), 積の微分法, 微分積分学の基本定理, 原始関数, 指数関数, 対数関数, 三角関数
部分積分は、積の微分法を積分の側から読んだ公式であり、積 $F\,G'$ の積分を $F'\,G$ の積分に取り替える。取り替えて得をするかどうかは、どちらを $F$(微分する側)にし、どちらを $G'$(積分する側)にするかで決まる。以下では公式と、それを繰り返した形を証明したあと、7 つの例を易しい順に解く。各例では、被積分関数のどこに目をつけるか、考えられる選び方は何か、うまくいかない選び方はどこで・なぜ詰まるか、それをどう直すか、なぜ効いたかの順に考え、最後に形から最初の一手を選ぶ表と、よく知られた覚え方の限界をまとめる。
以下、$\log$ は自然対数とし、微分可能で導関数が連続な関数を $C^1$ 級という。微分積分学の基本定理は「$H$ が $[a,b]$ で $C^1$ 級なら $\int_a^bH'(x)\,dx=H(b)-H(a)$」の形で使う。$[H]_a^b:=H(b)-H(a)$ と書く。
$F,G$ が $[a,b]$ で $C^1$ 級ならば
$$
\int_a^bF(x)\,G'(x)\,dx=\bigl[F(x)\,G(x)\bigr]_a^b-\int_a^bF'(x)\,G(x)\,dx
$$
が成り立つ。
積の微分法により $(FG)'=F'G+FG'$ であり、右辺は連続である。基本定理により $\int_a^b(F'G+FG')\,dx=\bigl[FG\bigr]_a^b$ となる。積分の線形性で左辺を 2 つに分け、$\int_a^bF'G\,dx$ を移項すればよい。$\square$
和の側で同じ形をした部分和分は 和と積分の対応表 で扱う。
同じ主張は Leb26 の Exercise 5.3.5 にある。不定積分では、$\int F\,G'\,dx=FG-\int F'\,G\,dx$ と書く(両辺は定数の差を除いて等しい)。
公式を使う前に、次の 2 つを確かめる。
$n\ge1$ とし、$F$ が $[a,b]$ で $n$ 回微分可能で $F^{(n)}$ が連続、$G$ も同じ条件を満たすとする。このとき
$$
\int_a^bF\,G^{(n)}\,dx=\Bigl[\sum_{k=0}^{n-1}(-1)^kF^{(k)}G^{(n-1-k)}\Bigr]_a^b+(-1)^n\int_a^bF^{(n)}\,G\,dx
$$
が成り立つ($F^{(0)}=F$、$G^{(0)}=G$)。
$S:=\sum_{k=0}^{n-1}(-1)^kF^{(k)}G^{(n-1-k)}$ を微分すると、積の微分法により
$$
S'=\sum_{k=0}^{n-1}(-1)^kF^{(k+1)}G^{(n-1-k)}+\sum_{k=0}^{n-1}(-1)^kF^{(k)}G^{(n-k)}
$$
である。1 つ目の和で $k+1=j$ と番号を付け替えると $-\sum_{j=1}^{n}(-1)^jF^{(j)}G^{(n-j)}$ となり、2 つ目の和の $j=1,\dots,n-1$ の項と打ち消し合う。残るのは 2 つ目の和の $k=0$ の項 $F\,G^{(n)}$ と、1 つ目の和の $j=n$ の項 $-(-1)^nF^{(n)}G$ である。すなわち $S'=F\,G^{(n)}-(-1)^nF^{(n)}G$ で、右辺は連続である。基本定理により $\int_a^b S'\,dx=[S]_a^b$ となり、移項すれば主張を得る。$\square$
部分積分を繰り返して Taylor の剰余項を積分で表す話は 関数の近似とテイラー展開 で扱う。
$\displaystyle\int_0^1x\,e^x\,dx$ を求めよ。
多項式 $x$ と指数関数 $e^x$ の積である。置換で消える組(合成関数と中身の導関数)はない。選び方は (a) $F=e^x$、$G'=x$ と (b) $F=x$、$G'=e^x$ の 2 通りである。
(a) $G=\frac{x^2}2$ として公式を使うと
$$
\int_0^1x\,e^x\,dx=\Bigl[\frac{x^2}2e^x\Bigr]_0^1-\frac12\int_0^1x^2e^x\,dx=\frac e2-\frac12\int_0^1x^2e^x\,dx
$$
となる。等式としては正しいが、残った積分は $x$ の次数が 1 から 2 に上がり、元より難しい。$e^x$ は微分しても $e^x$ のままで簡単にならず、$x$ は積分すると次数が上がる。得をしない向きに取り替えたのである。
(b) 逆にすると $F'=1$、$G=e^x$ で
$$
\int_0^1x\,e^x\,dx=\bigl[x\,e^x\bigr]_0^1-\int_0^1e^x\,dx=e-(e-1)=1.
$$
多項式は微分するたびに次数が 1 つ下がり、有限回で定数になる。$e^x$ は何回積分しても $e^x$ である。したがって「多項式 × $e^x$(や $\sin x$、$\cos x$)」では多項式を微分する側に置く。(a) の等式は捨てなくてよい。逆に読めば $\int_0^1x^2e^x\,dx=e-2\int_0^1xe^x\,dx=e-2$ であり、次数の高い積分を低い積分で表す式になっている。この読み方が漸化式の出発点である(積分の漸化式)。
$\displaystyle\int_1^ex^2\log x\,dx$ を求めよ。
多項式 $x^2$ と $\log x$ の積である。例 1 の教訓を機械的に当てはめると「多項式を微分する」ことになる。選び方は (a) $F=x^2$、$G'=\log x$ と (b) $F=\log x$、$G'=x^2$ である。
(a) では $G'=\log x$ の原始関数が要る。これ自身が部分積分の計算で(例 3 と同じ方法で)$G=x\log x-x$ と分かる。求める積分を $I$ とおくと
$$
I=\bigl[x^2(x\log x-x)\bigr]_1^e-\int_1^e2x(x\log x-x)\,dx=1-2I+2\int_1^ex^2\,dx
$$
となる($[x^3\log x-x^3]_1^e=0-(-1)=1$)。右辺にまた $I$ が現れたが、係数が $-2$ なので移項でき、$3I=1+\frac23(e^3-1)$、$I=\frac{2e^3+1}9$ と求まる。答えは出たが、$\log x$ の原始関数を先に求め、$I$ が戻ってくるのを待つという遠回りである。
(b) $F=\log x$、$F'=\frac1x$、$G=\frac{x^3}3$ とすると
$$
I=\Bigl[\frac{x^3}3\log x\Bigr]_1^e-\int_1^e\frac{x^3}3\cdot\frac1x\,dx=\frac{e^3}3-\frac{e^3-1}9=\frac{2e^3+1}9\;(=4.5745\ldots).
$$
$\log x$ は微分すると $\frac1x$ という有理関数になり、多項式と掛けると多項式に戻る。これに対し $\log x$ を積分すると $x\log x-x$ となり、$\log$ は消えない。$\log x$ は微分する側に置く。例 1 の「多項式を微分する」は、相手が $e^x$ のように積分しやすい場合の規則であり、相手が $\log x$ なら優先順位が逆になる。「どちらを微分するか」は片方だけを見ても決まらず、2 つの関数を比べて決める。
$\displaystyle\int_0^1\arctan x\,dx$ を求めよ。
積になっていない。$\arctan x$ の原始関数は知らないが、導関数 $\frac1{1+x^2}$ は知っている。考えられる手は、(a) $x=\tan\theta$ と置換する、(b) $\arctan x=1\cdot\arctan x$ とみて $F=\arctan x$、$G'=1$ とする、である。
(a) $x=\tan\theta$、$dx=\frac{d\theta}{\cos^2\theta}$、$x=0,1$ に $\theta=0,\frac\pi4$ が対応して $\int_0^{\pi/4}\frac{\theta}{\cos^2\theta}\,d\theta$ となる。$\arctan$ は消えたが、今度は「$\theta$ と $\frac1{\cos^2\theta}=(\tan\theta)'$ の積」であり、結局部分積分が要る。$[\theta\tan\theta]_0^{\pi/4}-\int_0^{\pi/4}\tan\theta\,d\theta=\frac\pi4+\bigl[\log\cos\theta\bigr]_0^{\pi/4}$ と進めれば終わるが、置換は回り道だった。
(b) $F'=\frac1{1+x^2}$、$G=x$ として
$$
\int_0^1\arctan x\,dx=\bigl[x\arctan x\bigr]_0^1-\int_0^1\frac{x}{1+x^2}\,dx=\frac\pi4-\frac12\bigl[\log(1+x^2)\bigr]_0^1=\frac\pi4-\frac{\log2}2\;(=0.4388\ldots).
$$
最後の積分は、分子 $x$ が分母の導関数 $2x$ の半分であることを使った置換積分である。
原始関数は知らないが導関数は簡単な関数($\log x$、$\arctan x$、$\arcsin x$ など)は、$1$ を掛けて $G'=1$ とすれば部分積分で積分できる。(a) の置換が同じ部分積分に行き着いたのは偶然ではない。$x=\tan\theta$ で $G=x$ が $\tan\theta$ に、$F=\arctan x$ が $\theta$ に移っただけで、中身は同じ計算である。同じ手で $\int_1^e\log x\,dx=[x\log x]_1^e-\int_1^e1\,dx=1$、$\int_0^1\log(1+x^2)\,dx=\log2-2+\frac\pi2$ も求まる。
$\displaystyle\int_0^1x^3e^{x^2}\,dx$ を求めよ。
多項式 $x^3$ と指数関数 $e^{x^2}$ の積で、例 1 に似ている。ただし指数の肩が $x^2$ である。選び方は、(a) 例 1 にならって $F=x^3$、$G'=e^{x^2}$、(b) $F=e^{x^2}$、$G'=x^3$、(c) $x^3=x^2\cdot x$ と切り、$F=x^2$、$G'=x\,e^{x^2}$、の 3 通りが考えられる。
(a) は最初の一歩で止まる。$e^{x^2}$ の原始関数が要るが、これは初等関数で書けない(ここでは証明しない。初等関数で表せない原始関数)。確認事項 1 が満たされない。(b) $G=\frac{x^4}4$ とすると
$$
\int_0^1x^3e^{x^2}\,dx=\Bigl[\frac{x^4}4e^{x^2}\Bigr]_0^1-\frac12\int_0^1x^5e^{x^2}\,dx
$$
となり、次数が 3 から 5 に上がる。例 1 の (a) と同じ失敗である。
(c) $x\,e^{x^2}$ なら中身 $x^2$ の導関数 $2x$ があるので、$G=\frac12e^{x^2}$ と積分できる。$F'=2x$ で
$$
\int_0^1x^3e^{x^2}\,dx=\Bigl[\frac{x^2}2e^{x^2}\Bigr]_0^1-\int_0^1x\,e^{x^2}\,dx=\frac e2-\frac{e-1}2=\frac12.
$$
先に $t=x^2$ と置換して $\frac12\int_0^1t\,e^t\,dt$ とし、例 1 に帰着させても同じである。
部分積分で決めるのは「どちらの関数を微分するか」だけではなく、被積分関数をどこで 2 つに切るかである。積分する側 $G'$ は、原始関数が分かる形に切り出す。ここでは $x^3$ から $x$ を 1 つ $e^{x^2}$ の側へ移すことで、$G'$ が置換積分で積分できる形になった。この切り方が効くのは、多項式が $x$ の奇数乗のとき(一般には $x\,p(x^2)$ の形のとき)である。偶数乗では効かない。$x^2e^{x^2}=x\cdot(x\,e^{x^2})$ と切ると $\int x^2e^{x^2}\,dx=\frac x2e^{x^2}-\frac12\int e^{x^2}\,dx$ となり、初等関数で書けない $\int e^{x^2}\,dx$ が残る。先に $t=x^2$ と置いても $x^2e^{x^2}\,dx=\frac12\sqrt t\,e^t\,dt$ となって $\sqrt t$ が出る。
$\displaystyle\int_0^\pi e^x\sin x\,dx$ を求めよ。
$e^x$ と $\sin x$ の積で、どちらも微分・積分で複雑にならないが、簡単にもならない。何回部分積分しても「$e^x\times$ 三角関数」の形が続く。考えられる手は、(a) $F=\sin x$、$G'=e^x$ で 2 回部分積分する、(b) 1 回目と 2 回目で役割を入れ替える、(c) 複素数の指数関数を使う、である。
$A:=\int_0^\pi e^x\sin x\,dx$、$B:=\int_0^\pi e^x\cos x\,dx$ とおく。1 回目は $F=\sin x$、$G'=e^x$ で $A=[e^x\sin x]_0^\pi-B=-B$ である。2 回目に (b) を試し、$B$ で $F=e^x$、$G'=\cos x$ とすると、$B=[e^x\sin x]_0^\pi-A=-A$ となる。2 式を合わせると $A=A$ で、何も分からない。2 回目の部分積分が 1 回目をちょうど逆にたどったからである。
そこで (a) のとおり、2 回目も三角関数を微分する側に置き、$F=\cos x$、$G'=e^x$ とすると
$$
B=\bigl[e^x\cos x\bigr]_0^\pi+\int_0^\pi e^x\sin x\,dx=-e^\pi-1+A
$$
である。$A=-B$ と合わせて $A=e^\pi+1-A$、よって $A=\frac{e^\pi+1}2\;(=12.070\ldots)$ である。
同じ形が戻る積分では、役割を固定したまま 2 回部分積分し、元の積分についての 1 次方程式を解く。係数が $1$ になって $A=A$ となったら、役割を入れ替えて 1 回目を逆にたどっている。
なぜ戻ってくるのかは (c) で分かる。$\lambda=1+i$ とし、$e^{\lambda x}:=e^x(\cos x+i\sin x)$、複素数値関数の微分・積分は実部と虚部ごとに行うと定めると、積の微分から $\frac{d}{dx}e^{\lambda x}=\lambda e^{\lambda x}$ である。複素数の定数倍と微分が交換すること($(cu)'=cu'$)も、実部と虚部に分けて書けば確かめられるので、$\bigl(\frac{e^{\lambda x}}\lambda\bigr)'=e^{\lambda x}$ である。よって
$$
\int_0^\pi e^{\lambda x}\,dx=\frac{e^{\lambda\pi}-1}{\lambda}=\frac{-e^\pi-1}{1+i}=-\frac{(e^\pi+1)(1-i)}2
$$
($e^{\lambda\pi}=e^\pi(\cos\pi+i\sin\pi)=-e^\pi$)であり、虚部が $A=\frac{e^\pi+1}2$、実部が $B=-\frac{e^\pi+1}2$ である。$e^x\cos x$ と $e^x\sin x$ は、微分すると互いの 1 次結合になる 2 つの関数の組であり($(e^x\sin x)'=e^x\sin x+e^x\cos x$、$(e^x\cos x)'=e^x\cos x-e^x\sin x$)、この 2 つの 1 次結合の全体は微分で閉じている。部分積分を 2 回すると同じ形が戻るのはこのためである。
$\displaystyle\int_0^1x^3e^x\,dx$ を求めよ。
例 1 と同じ形で、多項式の次数が 3 である。多項式を微分する側に置けば、3 回の部分積分で終わるはずである。手は (a) 部分積分を 3 回繰り返すか、(b) 繰り返しを一度に書く表の形(prop-ibps-tabular)を使うかである。
(a) 1 回目で $\int_0^1x^3e^x\,dx=e-3\int_0^1x^2e^x\,dx$、2 回目で $\int_0^1x^2e^x\,dx=e-2\int_0^1xe^x\,dx$、3 回目は例 1 で $\int_0^1xe^x\,dx=1$ となる。代入し直すと $e-3(e-2)=6-2e$ である。正しいが、境界の項と符号を 3 段にわたって持ち運ぶので、次数が上がると誤りやすい。
そこで繰り返しを 1 つの式にまとめた prop-ibps-tabular を使う。$F=x^3$、$G^{(n)}=e^x$($n=4$、$G=e^x$)とすると $F^{(4)}=0$ なので、最後の積分が消えて
$$
\int_0^1x^3e^x\,dx=\bigl[e^x(x^3-3x^2+6x-6)\bigr]_0^1=-2e+6=6-2e\;(=0.5634\ldots)
$$
である。実際の計算では、$F$ を微分した列 $x^3,3x^2,6x,6$ と、$G^{(n)}$ を積分した列 $e^x,e^x,e^x,e^x$ を表に並べ、斜めに掛けて符号を $+,-,+,-$ と交互に付ければよい。
表の形が使えるのは、$F$ を何回か微分すると $0$ になり(多項式)、$G^{(n)}$ を何回積分しても式が膨らまない($e^{ax}$、$\sin ax$、$\cos ax$)ときである。$F^{(n)}$ が $0$ にならないときも命題は成り立つが、最後の積分が残る。
$\displaystyle\int_0^1e^{\sqrt x}\,dx$ を求めよ。
積になっていない。$e^{\sqrt x}$ は合成関数だが、中身の導関数 $\frac1{2\sqrt x}$ は掛かっていない。考えられる手は、(a) 例 3 にならって $1$ を掛け、$F=e^{\sqrt x}$、$G'=1$ とする、(b) $t=\sqrt x$ と置換してから考える、である。
(a) $F'=\frac{e^{\sqrt x}}{2\sqrt x}$ なので
$$
\int_0^1e^{\sqrt x}\,dx=\bigl[x\,e^{\sqrt x}\bigr]_0^1-\frac12\int_0^1\sqrt x\,e^{\sqrt x}\,dx=e-\frac12\int_0^1\sqrt x\,e^{\sqrt x}\,dx
$$
となる(厳密には $F'$ が $x\to+0$ で有界でなく、$F$ は $[0,1]$ で $C^1$ 級でないので、thm-ibps-main を $[\varepsilon,1]$ で使ってから $\varepsilon\to+0$ とする)。残った積分には $\sqrt x$ という因子が増え、元より複雑である。$e^{\sqrt x}$ は微分しても簡単にならない($\log x$ や $\arctan x$ と違い、導関数に元の関数が残る)ので、$1$ を掛ける手は効かない。
(b) 根号ごと置く(置換積分の使い方)。$x=t^2$、$dx=2t\,dt$ で
$$
\int_0^1e^{\sqrt x}\,dx=2\int_0^1t\,e^t\,dt=2\cdot1=2
$$
である(最後は例 1)。置換によって、隠れていた「多項式 × 指数関数」の形が現れた。
部分積分がうまく決まらないときは、置換で形を整えてから選び直す。$\int_1^e(\log x)^2\,dx$ も、$x=e^t$ と置けば $\int_0^1t^2e^t\,dt=\bigl[e^t(t^2-2t+2)\bigr]_0^1=e-2$ と例 6 の形になる(直接 $F=(\log x)^2$、$G'=1$ としても $e-2\int_1^e\log x\,dx=e-2$ と求まる)。
選び方を誤っても部分積分の等式そのものは正しく、得をしないだけである(例 1 (a)、例 4 (b))。止まるのは次の 2 つの場合である。
例 1〜7 で確かめた範囲で、形から最初の一手を選ぶ目安を表にまとめる。
| 見える形 | 微分する側 $F$ | 積分する側 $G'$ | 駄目なら次の手 |
|---|---|---|---|
| 多項式 × $e^{ax}$、$\sin ax$、$\cos ax$ | 多項式(例 1) | 指数・三角関数 | 次数が高ければ表の形(例 6) |
| 多項式 × $\log x$ | $\log x$(例 2) | 多項式 | — |
| $\log x$、$\arctan x$、$\arcsin x$ 単独 | その関数(例 3) | $1$ | 置換 $x=\tan\theta$ なども同じ計算になる |
| $x$ の奇数乗 × $e^{x^2}$ | 余りの多項式 | 置換で積分できる形 $x\,e^{x^2}$(例 4) | 先に $t=x^2$ と置換(偶数乗では効かない) |
| $e^{ax}$ × $\sin bx$、$\cos bx$ | どちらでも(役割を固定) | もう一方 | 複素指数関数(例 5) |
| 合成関数 $e^{\sqrt x}$ など単独 | — | — | 先に置換して形を出す(例 7) |
「対数関数・逆三角関数・多項式・三角関数・指数関数の順に微分する側を選ぶ」という覚え方が知られている。例 1〜3 はこの順と合っており、その理由は、左ほど微分で簡単になり、右ほど積分で複雑にならないことにある。ただしこの覚え方は、積分する側の原始関数が分かることまでは保証しない。例 4 では覚え方どおり $x^3$ を微分する側にすると $G'=e^{x^2}$ が積分できず、切り方を変える必要があった。覚え方は最初の一手の目安であり、確認事項 1・2 を毎回確かめることが本体である。
部分積分は「微分を一方の関数から他方へ移す」操作である。境界の項が消えるように関数を選ぶと、$\int FG'=-\int F'G$ となって、微分を相手に完全に移せる。この見方から、滑らかでない関数の「微分」を滑らかな関数との積分で定義する考え方(超関数・弱微分)が生まれる。また、部分積分を繰り返すと、滑らかな周期関数の Fourier 係数が速く $0$ に近づくことや、Taylor の定理の積分形の剰余項が得られる(ここでは証明しない。部分積分)。
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