始位相(initial topology)とは、集合 $X$ から位相空間 $Y_i$ への写像族 $f_i\colon X\to Y_i$ をすべて連続にする最も粗い位相である。開集合の逆像 $f_i^{-1}(U)$ の全体を準開基として構成でき、位相空間 $Z$ から $X$ への写像 $g$ が連続であることは、各 $f_i\circ g$ が連続であることと同値になる。直積位相は射影の族の始位相、相対位相は包含写像の始位相であり、写像族が空なら始位相は $\{\emptyset,X\}$ である。
$X$ と $I$ を集合とし、各 $i\in I$ に対して位相空間 $(Y_i,\tau_i)$ と写像 $f_i:X\to Y_i$ が与えられているとする。
すべての $f_i$ を連続にする $X$ 上の位相のうち、包含関係で最小のものを、この写像族に関する 始位相(initial topology)という。
ここでは $X=\emptyset$ も $I=\emptyset$ も許す。
「最も粗い」は開集合が最も少ないという意味であり、位相の強弱でいう最も弱い位相に当たる。標準的な定義は Mun00 §18–19も参照できる。
準開基 の記事の命題(準開基が生成する位相)とその証明を、この逆像族 $\mathcal S$ に適用する。
構成を確かめると、$\emptyset=\bigcup\emptyset$ と $X\in\mathcal B$ から $\emptyset,X\in\tau$ である。
$\tau$ は任意の合併について閉じている。
$B,C\in\mathcal B$ なら $B\cap C\in\mathcal B$ なので、分配律 $(\bigcup\mathcal A)\cap(\bigcup\mathcal C)=\bigcup_{(B,C)\in\mathcal A\times\mathcal C}(B\cap C)$ により $\tau$ は二つの元の共通部分についても閉じている。
したがって $\tau$ は位相であり、$\mathcal B$ はその開基である。
各 $f_i^{-1}(U)$ は $\mathcal B$ に属するので、各 $f_i:(X,\tau)\to(Y_i,\tau_i)$ は連続である。
$\sigma$ がすべての $f_i$ を連続にする別の位相なら、$\mathcal S\subset\sigma$ であり、有限共通部分と任意合併を取ることにより $\tau\subset\sigma$ となる。
よって $\tau$ は求める最小の位相であり、最小の位相は包含関係の反対称性により一意である。
$f_i(x)\in U$ という条件を $X$ の中で読むと、$x\in f_i^{-1}(U)$ になる。
有限個のこのような条件を同時に課してから、そのように得た集合を合併すると、始位相の開集合が得られる。
一般には、準開基の元だけを合併してもすべての開集合は得られない。
$X$ に写像族 $(f_i)_{i\in I}$ の始位相 $\tau$ を入れ、$Z$ を位相空間、$g:Z\to X$ を写像とする。
このとき $g$ が連続であることと、すべての $i\in I$ について $f_i\circ g$ が連続であることは同値である。
$g$ が連続なら、各 $f_i$ が連続なので $f_i\circ g$ も連続である。
逆にすべての $f_i\circ g$ が連続なら、$U\in\tau_i$ に対して $g^{-1}(f_i^{-1}(U))=(f_i\circ g)^{-1}(U)$ は $Z$ で開である。
逆像は有限共通部分と任意合併を保つので、$\tau$ のどの開集合の逆像も開であり、$g$ は連続である。
空の共通部分 $X$ の逆像は $Z$ であり、この場合も開である。
これは準開基 の記事の命題(連続性の準開基による判定)とその証明の、この逆像族への適用でもある。
$I=\emptyset$ なら $\mathcal S=\emptyset$、$\mathcal B=\{X\}$ であり、始位相は $\{\emptyset,X\}$ である。
この場合、任意の写像 $g:Z\to X$ は連続であり、普遍性の右辺も空の添字族について自動的に成り立つ。
$X=\emptyset$ なら、与えられた写像族に関する始位相は $\{\emptyset\}$ である。
$X=\emptyset$ のとき、写像 $g:Z\to X$ が存在するのは $Z=\emptyset$ の場合だけである。
写像が一つだけの場合、$f:X\to(Y,\sigma)$ の始位相は $\{f^{-1}(U):U\in\sigma\}$ そのものである。
詳細は位相の強弱 の記事の命題(写像が誘導する位相と連続性)とその証明を参照する。
直積集合 $X=\prod_{i\in I}Y_i$ の射影 $\pi_i:X\to Y_i$ に関する始位相は、直積位相である。
連続性の判定は直積位相 の記事の命題(直積位相の普遍性)とその証明に当たる。
例えば通常の実数直線への二つの座標射影 $\mathbb R^2\to\mathbb R$ の逆像準開基は、$U,V$ を $\mathbb R$ の開集合として、縦の帯 $U\times\mathbb R$ と横の帯 $\mathbb R\times V$ からなる。
$(0,1)\times(0,1)$ は二つの帯の共通部分として開だが、非空の帯を一つも含まないので、帯だけの合併としては表せない。
始位相は $f_i:X\to Y_i$ の始域 $X$ に位相を入れる構成であり、写像族の終域に位相を入れる終位相とは向きが異なる。
本記事では「弱位相」や「誘導位相」を、始位相の無条件の同義語としては使わない。
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