準有限射(quasi-finite morphism)とは、有限型のスキームの射で、各ファイバーの点集合が有限であるものをいう。点ごとの局所準有限性はファイバーでの孤立性に対応し、準有限性にはさらに準コンパクト性が要る。有限射は準有限だが、準コンパクトな開埋め込みのように有限射ではない例もある。固有かつ準有限な射は有限射となる。
幾何的な写像を調べるとき、ある点の上に点が何個あるかは最初に見える情報である。ところが「各点の上に有限個しかない」というだけでは、スキームの射に十分な制約を与えない。射が有限型であることも要求したものが、準有限射(quasi-finite morphism)である。有限射なら準有限射だが、準有限射では座標環が基底上の有限生成加群になるとは限らない。開集合の包含は、その差を示す基本例になる。
この記事では、ファイバーを位相空間として数える定義と、各点で孤立しているという局所的な定義を区別する。さらに「局所準有限」と「準有限」の差が準コンパクト性にあることを確かめる。ここで数えるのはファイバーの点であって、環の長さや重複度ではない。二重根を持つファイバーも、点が一つなら点数は一つである。
スキームの射 $f\colon X\to S$ と $s\in S$ に対し、$s$ 上のファイバーは
$$
X_s=X\times_S\operatorname{Spec}\kappa(s)
$$
である。$\kappa(s)$ は $s$ の剰余体を表す。$\operatorname{Spec}\kappa(s)$ は一点だが、$X_s$ のスキーム構造には冪零元が残りうる。点集合としての $X_s$ は、$f(x)=s$ を満たす $x\in X$ の集合と自然に対応する。
スキームの射 $f\colon X\to S$ が準有限射であるとは、$f$ が有限型であり、すべての $s\in S$ についてファイバー $X_s$ の点集合が有限であることをいう。
この定義は StacksQF Definition 29.21.1 の点ごとの定義と同値である。そこでの「$f$ が $x\in X$ で準有限」は、$f$ が $x$ で局所有限型であり、$x$ がファイバー $X_{f(x)}$ の孤立点であるという意味である。すべての点でこの条件が成り立つ射を局所準有限射という。準有限射には、これに加えて射全体の準コンパクト性が必要になる。空のファイバーも有限と数えるので、射が全射である必要はない。
射 $f\colon X\to S$ について、次が成り立つ。
$f$ が有限型で、各点が自分のファイバーで孤立しているとする。有限型射は準コンパクトである。$s\in S$ を固定すると、底変換した $X_s\to\operatorname{Spec}\kappa(s)$ も準コンパクトなので、$X_s$ は準コンパクトな空間である。一方、孤立性から $X_s$ の各一点集合は開である。一点集合すべてによる開被覆から有限部分被覆を選べるため、$X_s$ は有限個の点しか持たない。
逆向きには、$f$ を局所有限型とし、$X_s$ が有限個の点からなると仮定する。$X_s$ は体上局所有限型のスキームであり、そのようなスキームは Jacobson 空間である。有限な Jacobson 空間ではすべての点が閉点になる。実際、任意の一点の閉包を取ると、その閉点全体は閉包に稠密である。空間が有限なので閉点全体は有限集合、従って閉集合でもあり、稠密性から閉包全体に一致する。ゆえに各点は閉じている。有限な $T_1$ 空間は離散だから、$X_s$ の各点は孤立している。従って $f$ は局所準有限である。さらに $f$ が準コンパクトなら有限型となり、準有限である。
三番目を冒頭の定義に採用した。一番目は「各点がそのファイバーで孤立している」をそのまま言い換えたものだが、離散と有限は同じではない。二番目で準コンパクト性を忘れると、無限個の点を持つ離散ファイバーを誤って準有限と呼ぶことになる。これらの同値は StacksQF Lemmas 29.21.8–10 による。
ここで Jacobson 性を使う箇所は重要である。一般の有限な位相空間は離散とは限らない。スキームの有限型ファイバーという仮定があるから、有限点集合から孤立性を結論できる。逆に、有限型を外して「点数だけ有限」としても、準有限性は出ない。
有限射では、アフィン開 $V=\operatorname{Spec}A\subset S$ の逆像が $\operatorname{Spec}B$ となり、$B$ が $A$ 加群として有限生成である。準有限射では、この加群としての有限生成性を直接要求しない。有限射から準有限射への含意は環で証明できる。
有限射 $f\colon X\to S$ は準有限射である。
有限射は有限型である。$s\in S$ を任意に取り、$s$ を含むアフィン開 $V=\operatorname{Spec}A$ 上で $f^{-1}(V)=\operatorname{Spec}B$ と書く。$B$ は有限生成 $A$ 加群だから、ファイバーの座標環
$$
B\otimes_A\kappa(s)
$$
は有限次元 $\kappa(s)$ ベクトル空間である。有限次元の体上代数は Artin 環であり、その素イデアルは有限個しかない。従って
$$
X_s=\operatorname{Spec}(B\otimes_A\kappa(s))
$$
の点集合は有限である。任意の $s$ で同じ議論が成り立つので、$f$ は準有限射である。
この証明はファイバー環に冪零元がないとは言っていない。たとえば $k$ を体とし、$k[t]\to k[u]$, $t\mapsto u^2$ に対応する射
$$
\operatorname{Spec}k[u]\longrightarrow\operatorname{Spec}k[t]
$$
は有限射である。$t=0$ 上のファイバーは $\operatorname{Spec}k[u]/(u^2)$ で、一点だが非被約である。「準有限」の有限は重複度を無視した点数に関する。零点の重複度まで一定という意味ではない。
有限射は固有射でもある。これに対し、準有限射は一般には閉写像にも固有射にもならない。有限射と準有限射の境界を示すのが、次の開埋め込みである。
開埋め込み $j\colon U\hookrightarrow S$ の各ファイバーは空集合または一点である。また開埋め込みは局所的に同型なので局所有限型である。従って開埋め込みは必ず局所準有限である。ただし射 $j$ が準コンパクトでない場合、$j$ は準有限にならない。
開埋め込み $j\colon U\hookrightarrow S$ が準有限であることと、$j$ が準コンパクトであることは同値である。
開埋め込みは局所準有限なので、前節の局所大域判定から、準コンパクトなら準有限である。逆に準有限射は有限型であり、有限型射は準コンパクトである。よって同値となる。
たとえば $S=\operatorname{Spec}k[t]$ と $U=D(t)$ を取る。$U=\operatorname{Spec}k[t,t^{-1}]$ はアフィンで準コンパクトだから、$U\hookrightarrow S$ は準有限射である。しかし像 $D(t)$ は $S$ の閉集合ではない。有限射は閉写像なので、この開埋め込みは有限射ではない。環でも $k[t,t^{-1}]$ は $k[t]$ 加群として有限生成ではない。もしそうなら $t^{-1}$ は $k[t]$ 上整となるが、$t^{-1}$ のモニック整方程式に十分な $t$ の冪を掛けると $1$ が $(t)$ に入るという矛盾が生じる。
局所準有限と準有限の差を目で見るには、無限個の変数を使える。$A=k[x_1,x_2,\ldots]$ とし、$\mathfrak m=(x_1,x_2,\ldots)$ と置く。$A/\mathfrak m=k$ だから $\mathfrak m$ は閉点である。その補集合
$$
U=\operatorname{Spec}A\setminus\{\mathfrak m\}
=\bigcup_{i\geq1}D(x_i)
$$
から $\operatorname{Spec}A$ への開埋め込みを考える。この射の各ファイバーは空または一点で、局所準有限である。しかし $U$ は準コンパクトではない。実際、有限個の $D(x_i)$ を選んでも、選ばれた変数が生成する素イデアル $\mathfrak p$ は $\mathfrak m$ とは異なり、$\mathfrak p\in U$ だが選んだどの $D(x_i)$ にも入らない。よって上の開被覆は有限部分被覆を持たない。この射は準有限ではない。
「各ファイバーが有限」という条件だけでも不足する。$\operatorname{Spec}k(t)\to\operatorname{Spec}k$ のファイバーは一点だが、$k(t)$ は $k$ 上有限生成代数ではない。もし体 $k(t)$ が $k$ 上有限生成代数なら Zariski の補題により $k$ 上有限次代数拡大となるが、$t$ は超越的である。この射は有限型でなく、準有限ではない。
アフィンな射 $\operatorname{Spec}B\to\operatorname{Spec}A$ では、ファイバーを環で直接調べられる。$A\to B$ が有限型で、$\mathfrak p\in\operatorname{Spec}A$ なら、$\mathfrak p$ 上のファイバーは
$$
\operatorname{Spec}\bigl(B\otimes_A\kappa(\mathfrak p)\bigr)
$$
である。この環は体 $\kappa(\mathfrak p)$ 上の有限型代数である。したがって射が準有限かを調べるには、すべての $\mathfrak p$ についてこの環のスペクトルが有限点集合であるかを見ればよい。さらに有限型の体上代数に限れば、これはファイバー環が体上有限次元であることと同値になる。
有限型の環準同型 $A\to B$ に対し、次は同値である。
条件 2 なら、各ファイバー環は有限次元の体上代数なので Artin 環である。Artin 環の素イデアルは有限個であり、条件 1 が従う。
条件 1 を仮定し、一つの $\mathfrak p$ を固定する。$C=B\otimes_A\kappa(\mathfrak p)$ と置く。$C$ は体上有限型で、$\operatorname{Spec}C$ は有限点集合である。有限型体上代数は Jacobson 環なので、前に示した議論により各素イデアルは極大イデアルになる。従って $C$ は Noether 環で Krull 次元 $0$ である。次元 $0$ の Noether 環は Artin 環であり、有限個の極大イデアルを持つ。各剰余体は Zariski の補題により $\kappa(\mathfrak p)$ の有限次拡大である。Artin 環の有限な組成列を取り、その各商がこれらの剰余体の一つであることから、$C$ 全体も $\kappa(\mathfrak p)$ 上有限次元である。
この環判定は StacksAffineQF Lemma 10.122.5 に対応する。
たとえば $A=k[t]$, $B=k[u]$, $t\mapsto u^2$ なら、すべてのファイバー環は高々二次元の $\kappa(\mathfrak p)$ ベクトル空間である。$D(t)\hookrightarrow\operatorname{Spec}k[t]$ なら $B=k[t,t^{-1}]$ であり、$t\in\mathfrak p$ の上ではファイバー環が零環、$t\notin\mathfrak p$ の上では $\kappa(\mathfrak p)$ になる。ファイバー環が零環の場合、対応するファイバーは空である。どちらも有限次元で、準有限性と一致する。
この判定には $B$ が $A$ 代数として有限生成であるという仮定が必要である。単に各ファイバー環が有限次元という条件を取り出すと、前述の $k\to k(t)$ も一つのファイバーが一次元になるため誤判定する。反対に、$B$ 自身が $A$ 加群として有限生成である必要はない。$k[t,t^{-1}]$ の例ではファイバー環はすべて有限次元だが、$B$ は $A$ 上有限生成加群ではなかった。
$x\in X$ と $s=f(x)$ を固定する。局所準有限性は「$x$ が $X_s$ で孤立している」と言えるが、「$x$ が $X$ 全体で孤立している」という意味ではない。たとえば $D(t)\hookrightarrow\operatorname{Spec}k[t]$ の各ファイバーは高々一点でも、$D(t)$ 自体は多数の点を持つ。
局所有限型の射については、$x$ が $X_s$ で孤立しているとき、$\kappa(x)/\kappa(s)$ は有限拡大である。これに対して剰余体拡大の有限性だけでは、準有限性を判定できない。たとえば構造射
$$
\mathbb A^1_k=\operatorname{Spec}k[t]\longrightarrow\operatorname{Spec}k
$$
で、閉点 $x=(t)$ の剰余体は $\kappa(x)=k$ である。しかし唯一のファイバーは $\mathbb A^1_k$ 全体で、$x$ は孤立していない。従って射は $x$ で準有限ではない。
以下はいずれも基底の点の上の点数を見る例である。
| 射 | ファイバーの点数 | 有限型 | 準有限 |
|---|---|---|---|
| 有限射 $\operatorname{Spec}k[u]\to\operatorname{Spec}k[t]$, $t\mapsto u^2$ | 各点で有限 | はい | はい |
| 開埋め込み $D(t)\hookrightarrow\operatorname{Spec}k[t]$ | $0$ または $1$ | はい | はい |
| 非準コンパクトな開埋め込み $U\hookrightarrow\operatorname{Spec}k[x_1,x_2,\ldots]$ | $0$ または $1$ | いいえ | いいえ |
| $\operatorname{Spec}k(t)\to\operatorname{Spec}k$ | $1$ | いいえ | いいえ |
| $\mathbb A^1_k\to\operatorname{Spec}k$ | 無限 | はい | いいえ |
この表の「有限型」は射全体の条件である。開埋め込みはどれも局所有限型だが、非準コンパクトなものは有限型にならない。さらに、ファイバーが一点でも、そのスキーム構造が非被約であったり、その剰余体が基底の剰余体と異なったりする。
準有限射の定義は、合成と底変換に対して安定である。基底を $S'\to S$ で置き換えたとき、$X\times_SS'\to S'$ は有限型を保つ。各新しいファイバーは元のファイバーを体拡大したもので、有限型の零次元スキームという性質が保たれるため、点集合は有限のままである。合成も準有限である。これらの一般的な主張は Stacks Project, Section 29.21, Lemmas 29.21.12–13 にまとめられている。
ここで「点集合が有限だから底変換後も自明に同じ個数」と考えてはいけない。体拡大によって一つの点が複数の点に分かれることがある。たとえば有限次の分離拡大 $L/k$ に対する $\operatorname{Spec}L\to\operatorname{Spec}k$ は一点のファイバーを持つが、代数閉包への底変換後には複数の点になる。それでも有限個であるという性質は残る。
射 $f\colon X\to S$ が固有かつ準有限なら、$f$ は有限射である。
この定理の証明には Zariski の主定理と有限性の降下が必要であるため、ここでは省く。証明と「有限射」「固有かつ有限ファイバー」「固有かつ局所準有限」の同値は StacksProperQF Lemma 37.44.1 にある。
上の $D(t)$ の例は準有限だが固有でないため、有限射に昇格しない。固有性は単なる点数の制限だけでは得られない、像の閉性や分離性を補っている。
この定理は有限型と準コンパクトの区別にも役立つ。固有射は有限型だから、局所準有限性を加えれば、準有限性に必要な大域的条件も満たす。一方、一般の局所準有限射に固有性を仮定せず「有限」と結論することはできない。
有限射、準有限射、開埋め込みの間には
$$
\text{有限射}\ \Longrightarrow\ \text{準有限射}
$$
があり、準コンパクトな開埋め込みも準有限射になる。ただし二つの出発点は性質が違う。有限射は加群としての有限性を持ち、閉写像かつ固有射である。開埋め込みは局所的な同型だが、像が閉じるとは限らない。準有限射は「有限型で、どの点の上にも有限個の点しかない」という共通部分を取り出す概念である。
エタール射は局所準有限だが、射全体が準コンパクトでなければ準有限とは限らない。たとえば無限個の $\operatorname{Spec}k$ の直和から $\operatorname{Spec}k$ への射はエタールで、その唯一のファイバーは無限離散集合である。エタールで有限型なら準有限になる。また、準有限であることは一般には分離性を含まない。分離性を追加する定理では、その仮定を明記して使う必要がある。
最後に、点数と次数を混同しないようにしたい。$u\mapsto u^2$ の例では原点の上に一つの点があるが、ファイバー環 $k[u]/(u^2)$ の $k$ ベクトル空間としての次元は $2$ である。準有限性は前者を制限する。一様な次数、平坦性、エタール性などは別の条件であり、必要な場面ごとに追加する。
準有限射の定義と本文の命題の条件を一つずつ外した反例を、表にまとめる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 有限型(def-quasi-finite-morphism) | $\operatorname{Spec}k(t)\to\operatorname{Spec}k$ | ファイバーが有限なら準有限 |
| 準コンパクト(prop-quasi-finite-local-global の 2) | $\coprod_{n\in\mathbb N}\operatorname{Spec}k\to\operatorname{Spec}k$ | 局所準有限ならファイバーは有限 |
| 局所有限型(同じ命題の 1 の逆向き) | $\operatorname{Spec}k[\![t]\!]\to\operatorname{Spec}k$ | 点が有限個のファイバーは離散 |
| 固有(thm-proper-qf-finite) | $D(t)\hookrightarrow\operatorname{Spec}k[t]$ | 準有限なら有限射 |
| 準有限(同) | $\mathbb P^1_k\to\operatorname{Spec}k$ | 固有なら有限射 |
| 点数と重複度の区別 | $t\mapsto u^2$ の $t=0$ 上のファイバー | 有限射のファイバーは被約 |
各行の確認は次のとおりである。
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