単純群

同義語:simple group

概要

単純群(simple group)とは、単位元だけからなる群ではなく、正規部分群が単位元だけの部分群と自分自身の 2 つしかない群のことである。単純群からの群準同型は単射か自明な準同型のどちらかであり、単純群は正規部分群と剰余群への分解についてそれ以上分解できない、有限群の構成要素にあたる。可換な単純群は素数位数の巡回群に限られる。可換でない例として $n\ge5$ の交代群 $A_n$ や射影特殊線形群があり、$A_4$ や $n\ge3$ の対称群 $S_n$ は単純群でない。有限単純群はすべて分類されている。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 群, 正規部分群, 剰余群, 群準同型

定義

群 $G$ の単位元を $e$ と書く。どの群でも $\{e\}$ と $G$ 自身は $G$ の正規部分群である(正規部分群 の記事の定義「正規部分群」)。単純群は、この 2 つ以外に正規部分群をもたない群である。

単純群

群 $G$ が 単純群(simple group)であるとは、$G\neq\{e\}$ であり、$G$ の正規部分群が $\{e\}$ と $G$ の 2 つだけであることをいう。

単位元だけからなる自明群 $\{e\}$ は、正規部分群が $\{e\}=G$ の 1 つしかないが、定義により単純群に含めない。これは $1$ を素数に含めないことと同じ種類の約束であり、後で述べる組成列の因子の一意性(rem-simple-group-composition)を成り立たせるために必要である。定義は「正規部分群がちょうど 2 つ」と言い換えてもよい($G\neq\{e\}$ なら $\{e\}\neq G$ なので)。
単純群であることは、正規部分群の代わりに準同型や剰余群で言い換えられる。以下、準同型の核は正規部分群であること(群準同型 の記事の命題「核は正規部分群で像は部分群」)と、準同型が単射であることと核が $\{e\}$ であることの同値(同記事の命題「単射性と核」の 2)を使う。

単純性の言い換え

$G\neq\{e\}$ を群とする。次の 3 条件は同値である。

  1. $G$ は単純群である。
  2. 任意の群 $H$ と群準同型 $f\colon G\to H$ について、$f$ は単射であるか、$G$ のすべての元を $H$ の単位元 $e_H$ に送る(自明な準同型である)。
  3. 任意の群 $H$ と全射な群準同型 $f\colon G\to H$ について、$f$ は同型であるか、$H$ は自明群である。

1 ⇒ 2:$\ker f$ は $G$ の正規部分群なので、$\{e\}$ か $G$ である。$\ker f=\{e\}$ なら $f$ は単射であり、$\ker f=G$ なら $f$ は自明な準同型である。
2 ⇒ 3:$f\colon G\to H$ を全射な準同型とする。$f$ が単射なら $f$ は全単射な準同型であり、全単射な準同型は同型である(同型 の記事の命題「全単射準同型は同型である」)。$f$ が自明な準同型なら、全射性から $H=f(G)=\{e_H\}$ である。
3 ⇒ 1:$N$ を $G$ の正規部分群とし、剰余群 $G/N$ への標準的な全射 $\pi\colon G\to G/N$、$\pi(x)=xN$ を考える(群準同型 の記事の定義「正規部分群による剰余群」)。$\pi$ の核は $N$ である。3 により、$\pi$ が同型なら $N=\ker\pi=\{e\}$ であり、$G/N$ が自明群なら $gN=N$ がすべての $g$ で成り立つので $N=G$ である。よって $G$ の正規部分群は $\{e\}$ と $G$ だけであり、仮定 $G\neq\{e\}$ と合わせて $G$ は単純群である。$\square$

条件 3 は、単純群の剰余群が(同型を除いて)$G$ 自身と自明群しかないことを述べている。

直感

素数が掛け算についてそれ以上分解できない整数であるように、単純群は「正規部分群と剰余群への分解」についてそれ以上分解できない群である。正規部分群 $N$ があれば、群 $G$ を $N$ と $G/N$ という 2 つの小さい群に分けて調べられる。単純群ではこの分け方が自明なもの($\{e\}$ と $G$、あるいは $G$ と $\{e\}$)しかない。有限群は、この分解を繰り返すことで有限個の単純群に分かれる(rem-simple-group-composition)。
単純であることは、部分群が少ないことを意味しない。5 次の交代群 $A_5$ は位数(群の位数)$60$ の単純群であるが、位数 $2,3,4,5,6,10,12$ の部分群をもつ。単純性が禁じるのは正規な部分群だけであり、$A_5$ のこれらの部分群はどれも正規でない。単純群から出る準同型が「単射か自明か」の 2 通りしかない(prop-simple-group-equivalent)ことは、自明でない準同型・自明でない作用では、単純群が他の群の中に現れるときや集合に作用する(群の作用)とき、情報を失わずに(単射に)現れることを意味する。

例と反例

素数位数の巡回群

$p$ を素数とし、$G$ を位数 $p$ の群とする。$G$ の部分群 $H$ の位数は、Lagrangeの定理により $p$ を割り切るので $1$ か $p$ であり、$H=\{e\}$ か $H=G$ である。正規部分群も部分群なのでこの 2 つに限られ、$p\ge2$ より $G\neq\{e\}$ である。よって $G$ は単純群である。位数 $p$ の群は $e$ でない元で生成される巡回群であり、$\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ と同型である。たとえば $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$、$\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}$、$\mathbb{Z}/5\mathbb{Z}$、3 次の交代群 $A_3$(位数 $3$)、2 次の対称群 $S_2$(位数 $2$)は単純群である。同じ事実は 極大部分群 の記事の命題「正規な極大部分群による商」の証明の最後でも示されている。

5 次以上の交代群

$n\ge5$ なら $n$ 次の交代群 $A_n$ は単純群である(交代群 の記事の定理「交代群の単純性」。同記事では証明の筋を示し、完全な証明を DF04 §4.6 に譲っている)。$n=5$ の場合は、下の prop-simple-group-a5 で共役類の大きさから直接示す。$A_n$ は $n\ge4$ で可換でないので、$A_5,A_6,A_7,\dots$ は可換でない単純群の無限列を与える。
小さい $n$ では、$A_1=A_2=\{e\}$ は自明群なので単純群でなく、$A_3$ は位数 $3$ なので ex-simple-group-prime-order により単純群であり、$A_4$ は単純群でない(ex-simple-group-a4)。

行列の群から得られる単純群

$k$ を体、$n\ge2$ とする。行列式が $1$ の $n$ 次正方行列のなす特殊線形群 $\mathrm{SL}_n(k)$ を、その中心(群の中心。スカラー行列 $aI$、$a^n=1$ のなす部分群)で割った剰余群を射影特殊線形群 $\mathrm{PSL}_n(k)$ という。$\mathrm{PSL}_n(k)$ は、$(n,|k|)=(2,2)$ と $(n,|k|)=(2,3)$ の 2 つの場合を除いて単純群である(Lan02 Chapter XIII。ここでは言明だけを引く)。
$k=\mathbb{F}_q$ が $q$ 元の有限体のとき $|\mathrm{SL}_2(\mathbb{F}_q)|=q(q^2-1)$ であり、$q$ が奇数なら中心は $\{\pm I\}$ で位数 $2$ なので、$|\mathrm{PSL}_2(\mathbb{F}_q)|=q(q^2-1)/2$ である。$q=7$ とすると位数 $168$ の単純群 $\mathrm{PSL}_2(\mathbb{F}_7)$ が得られる。除外される 2 つの場合は、$\mathrm{PSL}_2(\mathbb{F}_2)\cong S_3$(位数 $6$)と $\mathrm{PSL}_2(\mathbb{F}_3)\cong A_4$(位数 $12$)であり、どちらも単純群でない(ex-simple-group-symmetric、ex-simple-group-a4)。

反例:4 次の交代群

$A_4$(位数 $12$)は、Kleinの四元群と同型な部分群 $V=\{e,(1\,2)(3\,4),(1\,3)(2\,4),(1\,4)(2\,3)\}$ を正規部分群としてもつ(交代群 の記事の例「Kleinの四元群と A4 の正規部分群」)。$\{e\}\neq V\neq A_4$ なので $A_4$ は単純群でない。この例は「$n$ 次の交代群である」を満たすが「$n\ge5$」を満たさず、交代群の単純性の仮定 $n\ge5$ が省けないことを示す。
また $A_4$ は、$5$ を動かさない偶置換全体として $A_5$ の部分群になっている。$A_5$ は単純群(prop-simple-group-a5)だが、その部分群 $A_4$ は単純群でない。すなわちこの例は「単純群の部分群である」を満たすが「単純群である」を満たさず、含意「単純群の部分群は単純群である」を破る。

反例:対称群

$n\ge3$ なら $n$ 次の対称群 $S_n$ は単純群でない。実際、交代群 $A_n$ は $S_n$ の指数 $2$ の正規部分群であり(交代群 の記事の定義「交代群」の直後の段落)、$|A_n|=n!/2\ge3$ なので $A_n\neq\{e\}$、$A_n\neq S_n$ である。
境界の場合は次のとおりである。$S_1$ は自明群なので単純群でない。$S_2$ は位数 $2$ なので単純群である(ex-simple-group-prime-order)。$n\ge5$ では $S_n$ は単純群 $A_n$ を指数 $2$ の正規部分群として含むが、$S_n$ 自身は単純群でない。この例は「単純群を正規部分群として含む」を満たすが「単純群である」を満たさず、単純性が大きい群へ遺伝しないことを示す。

反例:素数位数でない可換群

加法群 $\mathbb{Z}$ は単純群でない。$2\mathbb{Z}$ は $\{0\}$ でも $\mathbb{Z}$ でもない部分群であり、アーベル群の部分群はすべて正規である(正規部分群 の記事の例「アーベル群の部分群」)からである。同様に、$n$ が $1$ でも素数でもないとき、$n=ab$($1< a< n$)と書くと $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ の部分群 $a\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}=\{[0],[a],[2a],\dots\}$ は位数 $b$ で $1< b< n$ なので、$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ は単純群でない。位数 $4$ の Klein の四元群 $V$ も、位数 $2$ の部分群をもつので単純群でない。次の prop-simple-group-abelian は、可換群で単純になるのが素数位数の巡回群だけであることを示す。

性質

可換な単純群

可換な単純群の分類

可換群 $G$ について、$G$ が単純群であることと、$G$ が素数位数の巡回群であることは同値である。

素数位数の群が単純群であることは ex-simple-group-prime-order で示した。逆に $G$ を可換な単純群とする。可換群の部分群はすべて正規である(正規部分群 の記事の例「アーベル群の部分群」)ので、$G$ の部分群は $\{e\}$ と $G$ だけである。$G\neq\{e\}$ なので $e$ でない元 $g$ がとれ、$\langle g\rangle\neq\{e\}$ だから $\langle g\rangle=G$ である。よって $G$ は $g$ で生成される巡回群である。
$g$ の位数(元の位数)が無限であるとする。$\langle g^2\rangle$ は $G$ の部分群で、$g^2\neq e$ なので $\{e\}$ でない。また $g\in\langle g^2\rangle$ なら $g=g^{2k}$ となる整数 $k$ があり、$g^{2k-1}=e$ で $2k-1\neq0$ となって位数が無限であることに反する。よって $\langle g^2\rangle\neq G$ であり、$G$ の部分群が $\{e\}$ と $G$ だけであることに反する。したがって $g$ の位数は有限であり、それを $n$ とすると $|G|=n\ge2$ である。
$n$ が素数でないとすると、$n=ab$($1< a< n$、$1< b< n$)と書ける。整数 $k$ について $(g^a)^k=e$ となるのは $n\mid ak$、すなわち $b\mid k$ のときに限るので、$g^a$ の位数は $b$ であり、$\langle g^a\rangle$ は位数 $b$ の部分群である。$1< b< n$ より $\langle g^a\rangle$ は $\{e\}$ でも $G$ でもなく、矛盾である。よって $n$ は素数である。$\square$

とくに、素数位数の群はすべて可換なので、可換でない単純群の位数は素数でない。有限群について「単純群である」「可換である」の 2 つを同時に満たすのは素数位数の巡回群だけであり、単純群の研究の中心は可換でない単純群にある。

可換でない単純群

可換でない単純群の中心と交換子部分群

$G$ を可換でない単純群とする。このとき次が成り立つ。

  1. $G$ の中心は自明である:$Z(G)=\{e\}$。
  2. $G$ の交換子部分群は $G$ 全体である:$[G,G]=G$。
  3. 共役による準同型 $G\to\operatorname{Aut}(G)$、$g\mapsto c_g$($c_g(x)=gxg^{-1}$)は単射である。

1:中心 $Z(G)$ は $G$ の正規部分群である(群の中心 の記事の命題「中心は正規部分群である」)。$Z(G)=G$ なら $G$ のすべての元が互いに可換となり、仮定に反する。よって $Z(G)=\{e\}$ である。
2:$[G,G]$ は $G$ の正規部分群である(正規部分群 の記事の例「交換子のなす部分群」)。$G$ は可換でないので $xy\neq yx$ となる $x,y\in G$ があり、交換子 $xyx^{-1}y^{-1}$ は $e$ でない。よって $[G,G]\neq\{e\}$ であり、単純性から $[G,G]=G$ である。
3:$g\mapsto c_g$ は自己同型群 $\operatorname{Aut}(G)$ への群準同型で、その核は $Z(G)$ である(群準同型 の記事の例「共役による自己同型」)。1 により核は $\{e\}$ なので単射である。$\square$

2 から、可換でない単純群は可解群でない(可解群 の記事の命題「アーベル群でない単純群は可解でない」)。交換子部分群が群全体に一致する群を完全群というので、2 は可換でない単純群が完全群であることを述べている。逆は成り立たない。たとえば直積(直積群)$A_5\times A_5$ は完全群であるが、$A_5\times\{e\}$ を正規部分群にもつので単純群でない。

集合への作用と指数

単純群は、自明でない作用をすると置換の群に忠実に埋め込まれる。群 $G$ の集合 $X$ への作用は、$G$ から $X$ 上の対称群 $S_X$ への群準同型と同じものである(対称群 の記事の命題「群作用との対応」)。

単純群の作用と位数の制約

$G$ を単純群とする。

  1. $G$ が集合 $X$ に作用し、ある $g\in G$ と $x\in X$ について $gx\neq x$ であるならば、対応する準同型 $G\to S_X$ は単射である。
  2. $G$ が有限群で、指数 $m=[G:H]\ge2$ の部分群 $H$ をもつならば、$|G|$ は $m!$ を割り切る。

1:作用に対応する準同型 $\rho\colon G\to S_X$ は、$\rho(g)(x)=gx\neq x$ なので自明な準同型でない。prop-simple-group-equivalent の 2 により $\rho$ は単射である。
2:$G$ は左剰余類の集合 $G/H=\{aH\mid a\in G\}$ に $g\cdot aH:=gaH$ で作用する($aH=a'H$ なら $gaH=ga'H$ なので定義は代表元によらない)。$m\ge2$ なので $H$ と異なる剰余類 $aH$ があり、$a\cdot H=aH\neq H$ だから、この作用は 1 の仮定を満たす。よって $G$ は $S_{G/H}$ の部分群と同型であり、$|S_{G/H}|=m!$ なので、Lagrangeの定理により $|G|$ は $m!$ を割り切る。$\square$

たとえば指数 $2$ の部分群 $H$ をもつ単純群 $G$ は、指数 $2$ の部分群は正規なので(正規部分群 の記事の命題「指数 2 の部分群の正規性」)、単純性より $H=\{e\}$ であり、$|G|=[G:H]=2$ となる。これは ex-simple-group-symmetric で $S_n$($n\ge3$)が単純群でなかったことと整合している。また $A_5$ は $60\nmid4!=24$ なので指数 $2,3,4$ の部分群をもたない。

5 次の交代群の単純性

有限群の正規部分群 $N$ は、$x\in N$ なら $gxg^{-1}\in N$ がすべての $g$ で成り立つので、共役類の和集合である。$N$ は単位元の共役類 $\{e\}$ を含み、Lagrangeの定理によりその位数は $|G|$ を割り切る。共役類の元の個数が分かれば、この 2 つの条件から正規部分群の候補を絞り込める。

5 次の交代群は単純

$A_5$ の共役類の元の個数は $1,20,15,12,12$ である。したがって $A_5$ は単純群である。

共役類の元の個数は中心化群の指数で与えられる:$x$ の $G$ における共役類の元の個数は $[G:C_G(x)]$ である。ここで $C_G(x)=\{g\in G\mid gx=xg\}$ である(群の中心 の記事の補題「共役類と類等式」)。また $S_5$ で 2 つの置換が共役であることと、巡回置換への分解の型が同じであることは同値である(対称群 の記事の定理「共役類の分類」)。
$A_5$ の $e$ 以外の元は、3 文字の巡回置換(3 サイクル。$\binom{5}{3}\cdot2=20$ 個)、互いに素な 2 つの互換の積(固定する文字 $5$ 通り × 残り $4$ 文字を 2 組に分ける $3$ 通りで $15$ 個)、5 文字の巡回置換($4!=24$ 個)のいずれかである(交代群 の記事の例「小さい交代群」の 4)。それぞれの型の元全体が $S_5$ の 1 つの共役類をなす。
$x\in A_5$ について $C_S:=C_{S_5}(x)$、$C_A:=C_{A_5}(x)=C_S\cap A_5$ とおく。$A_5$ における $x$ の共役類 $K_A$ は、$S_5$ における共役類 $K_S$ に含まれ、$|K_A|=60/|C_A|$、$|K_S|=120/|C_S|$ である。

  • $C_S$ が奇置換 $\tau$ を含む場合:符号準同型(交代群 の記事の命題「符号準同型」)を $C_S$ に制限すると全射 $C_S\to\{\pm1\}$ になり、その核が $C_A$ なので $|C_A|=|C_S|/2$ である。よって $|K_A|=120/|C_S|=|K_S|$ であり、$K_A=K_S$ である。
  • $x=(1\,2\,3)$ のとき:互換 $(4\,5)$ は $x$ と共通の文字をもたないので $x$ と可換であり、奇置換である。よって 3 サイクル全体 $20$ 個が $A_5$ の 1 つの共役類をなす。
  • $x=(1\,2)(3\,4)$ のとき:互換 $(1\,2)$ は $x$ の因子であり、$(3\,4)$ と共通の文字をもたないので $x$ と可換で、奇置換である。よって互いに素な 2 つの互換の積全体 $15$ 個が $A_5$ の 1 つの共役類をなす。
  • $x$ が 5 文字の巡回置換のとき:$|K_S|=24$ なので $|C_S|=120/24=5$ である。$\langle x\rangle\subset C_S$ で $|\langle x\rangle|=5$ なので $C_S=\langle x\rangle$ であり、これは偶置換だけからなる。よって $C_A=C_S$、$|K_A|=60/5=12$ である。5 文字の巡回置換 $24$ 個は、元の個数 $12$ の共役類 2 つに分かれる。
    以上で共役類の元の個数は $1,20,15,12,12$ である($1+20+15+12+12=60$)。
    $N$ を $A_5$ の正規部分群とする。$N$ は $\{e\}$ と、残り 4 つの共役類のいくつかとの和集合なので、$|N|$ は $1$ に $20,15,12,12$ のうちいくつかを足した数である。そのような和は
    $$ 1,\ 13,\ 16,\ 21,\ 25,\ 28,\ 33,\ 36,\ 40,\ 45,\ 48,\ 60 $$
    であり、このうち $60$ の約数は $1$ と $60$ だけである。よって $N=\{e\}$ か $N=A_5$ であり、$A_5\neq\{e\}$ と合わせて $A_5$ は単純群である。$\square$

この証明は、交代群 の記事が示す筋(交換子で 3 サイクルを作り、共役で全 3 サイクルに広げる)とは別の、類等式による論法である。同じ論法は、$A_5$ と同型な正二十面体の回転群について Art10 Chapter 7 で用いられている。$A_5$ は可換でない単純群のうち位数が最小のものであり(位数 $60$ 未満の群はすべて単純でないか素数位数である。Sylowの定理による位数ごとの検討で示される。DF04 第 4 章・第 6 章)、位数 $60$ の単純群は $A_5$ と同型なものに限られる。

有限単純群の分類と組成列

有限単純群の分類

任意の有限単純群は、次のいずれかと同型である。

  1. 素数位数の巡回群。
  2. $n\ge5$ に対する交代群 $A_n$。
  3. Lie 型の有限単純群($\mathrm{PSL}_n(\mathbb{F}_q)$ などの古典群から作られる群、および例外型の Chevalley群とその捻れ型から作られる群。16 の無限族からなる)。
  4. 26 個の散在型単純群。
分類の出典

この定理は多数の論文にわたる証明によって 1980 年代初頭に完成が宣言された。本記事では言明だけを掲げる。言明と全体像は 群論 の記事の定理「有限単純群の分類の言明」と DF04 §3.4 にある。1 と 2 が実際に単純群であることは本記事の prop-simple-group-abelian と ex-simple-group-alternating で、3 の代表例 $\mathrm{PSL}_n$ については ex-simple-group-psl で述べた。

組成列と Jordan–Hölder の定理

群 $G$ の部分群の列
$$ \{e\}=G_0\subset G_1\subset\cdots\subset G_r=G $$
で、各 $G_{i-1}$ が $G_i$ の正規部分群であり、剰余群 $G_i/G_{i-1}$ がすべて単純群であるものを $G$ の組成列といい、$G_i/G_{i-1}$ をその組成因子という。
有限群 $G\neq\{e\}$ は組成列をもつ。位数についての帰納法による。$G$ の正規部分群で $G$ と異なるもののうち位数が最大のもの $N$ をとる。正規部分群の対応($G/N$ の正規部分群は $N$ を含む $G$ の正規部分群 $M$ の像 $M/N$ と一対一に対応する。群準同型 の記事の注意「第2・第3同型定理と対応定理」)と $N$ の最大性により、$G/N$ の正規部分群は自明群と自分自身だけであり、$G/N\neq\{e\}$ なので $G/N$ は単純群である。$N=\{e\}$ なら $\{e\}\subset G$ が組成列であり、そうでなければ帰納法の仮定により $N$ の組成列をとって $G$ を付け加えればよい。
Jordan–Hölder の定理(Jordan–Hölderの定理)は、有限群の組成因子が、並べ方と同型を除いて組成列の選び方によらないことを述べる(DF04 §3.4)。たとえば $\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ の組成列 $\{0\}\subset\langle[3]\rangle\subset\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ と $\{0\}\subset\langle[2]\rangle\subset\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ の組成因子は、それぞれ $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z},\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}$ と $\mathbb{Z}/3\mathbb{Z},\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ で、並べ方を除いて一致する。自明群を単純群に含めると、列の途中に同じ部分群を繰り返して自明な因子をいくらでも挿入できるので、因子の個数が一意にならない。これが定義で $G\neq\{e\}$ を課す理由である。
組成因子は群を決めない。$\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ と $S_3$(組成列 $\{e\}\subset A_3\subset S_3$)はともに組成因子 $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z},\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}$ をもつが、一方は可換で他方は可換でないので同型でない。有限群を調べることは、単純群を知ることと、単純群から群を組み立てる方法(群の拡大)を知ることの 2 つに分かれる。無限群では組成列が存在するとは限らない。$\mathbb{Z}$ の $\{0\}$ でない部分群は $n\mathbb{Z}$($n\ge1$)の形で、$2n\mathbb{Z}\subsetneq n\mathbb{Z}$ なので、組成列の $G_1$ に当たる単純な部分群 $\{0\}\neq G_1$ が存在しない($n\mathbb{Z}\cong\mathbb{Z}$ は単純でない)。

関連項目

参考文献

[1]
David S. Dummit; Richard M. Foote, Abstract Algebra, 3rd ed., John Wiley & Sons, 2004, §3.4(組成列と Jordan–Hölder の定理、有限単純群の分類の言明)、第 4 章・第 6 章(Sylow の定理の応用、位数 60 未満の単純群)、§4.6(交代群の単純性)
[2]
Michael Artin, Algebra, 2nd ed., Pearson, 2010, Chapter 7(類等式と正二十面体群の単純性)

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