Frobenius–Schurの指示子

同義語:Frobenius-Schurの指示子Frobenius–Schur指示子Frobenius–Schur indicator

概要

Frobenius–Schurの指示子(Frobenius–Schur indicator)とは、有限群 $G$ の複素表現の指標 $\chi$ に対して $\nu(\chi)=\frac{1}{|G|}\sum_{g\in G}\chi(g^2)$ と定めた数である。既約表現では $\nu$ は $1$、$0$、$-1$ のどれかで、それぞれ $G$ 不変な $0$ でない対称双線形形式をもつ場合、指標が実数でない値をとる場合、$G$ 不変な $0$ でない交代形式をもつ場合にあたる。$\nu=1$ は表現が実行列で書けることと同値で、$\nu=-1$ なら次元は偶数で四元数体が作用する。$\chi(g^2)$ が対称 2 乗と交代 2 乗の指標の差であることから従い、$x^2=1$ を満たす元の個数が $\sum\nu(\chi)\chi(1)$ に等しいという公式も得られる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 群の指標, 既約表現, 双線形形式, 複素化

Frobenius–Schurの指示子(Frobenius–Schur indicator)とは、有限群 $G$ の複素表現 $V$ の指標 $\chi$ に対して
$$ \nu(V):=\frac{1}{\lvert G\rvert}\sum_{g\in G}\chi(g^2) $$
と定めた数である。$V$ が既約なら $\nu(V)$ は $1$、$0$、$-1$ のどれかであり、それぞれ「$V$ に $0$ でない $G$ 不変な対称双線形形式がある」「$\chi$ が実数でない値をとる」「$0$ でない $G$ 不変な交代形式がある」場合にあたる。さらに $\nu(V)=1$ となるのは $V$ が実行列で表せるときに限る。
指標は表現を決めるが、表現が実数の行列で書けるかどうかは、指標の値が実数かどうかだけでは分からない。たとえば位数 $8$ の二面体群と四元数群は同じ指標表をもつが(群の指標 の例「二面体群と四元数群は同じ指標表をもつ」)、2 次元の既約表現は前者では実行列で書け、後者では書けない。指示子は、指標の値を $g$ ではなく $g^2$ で読むことでこの違いを見分ける。証明の鍵は、$\chi(g^2)$ が $V\otimes V$ の対称部分と交代部分の指標の差になることである。

結果内容仮定
lem-fs-square$\chi(g^2)=\chi_{\mathrm{S}^2V}(g)-\chi_{\Lambda^2V}(g)$有限次元の複素表現
prop-fs-count$\nu(V)$ は不変な対称形式と交代形式の空間の次元の差有限次元の複素表現
thm-fs-main$\nu(V)\in\{1,0,-1\}$ と 3 つの型既約
thm-fs-real$\nu(V)=1$ と実行列での表示の同値、$\nu(V)=-1$ なら次元は偶数既約
cor-fs-roots$\#\{x\mid x^2=g\}=\sum_V\nu(V)\chi_V(g)$和は既約表現の同値類全体

定義

以下、$G$ を有限群とし、表現は $\mathbb{C}$ 上の有限次元表現 $\rho\colon G\to\mathrm{GL}(V)$ とする(群の表現)。$gv:=\rho(g)v$ と書く。$V$ の指標を $\chi_V$、群の指標 の内積を $\langle\varphi,\psi\rangle=\frac{1}{\lvert G\rvert}\sum_g\varphi(g)\overline{\psi(g)}$ とする。
$V$ 上の双線形形式 $B\colon V\times V\to\mathbb{C}$ が $G$ 不変であるとは、すべての $g\in G$、$u,v\in V$ で $B(gu,gv)=B(u,v)$ となることをいう。$B(v,u)=B(u,v)$ なら対称、$B(v,u)=-B(u,v)$ なら交代という(双線形形式)。
$V\otimes V$ の上の入れ替え $\tau(u\otimes v):=v\otimes u$ は $G$ の作用と可換である。$\tau(w)=w$ となる $w$ の全体を $\mathrm{S}^2V$、$\tau(w)=-w$ となる $w$ の全体を $\Lambda^2V$ とすると、どちらも $G$ で保たれ、$w=\frac12(w+\tau w)+\frac12(w-\tau w)$ により $V\otimes V=\mathrm{S}^2V\oplus\Lambda^2V$ である。$\mathrm{S}^2V$ を対称 2 乗、$\Lambda^2V$ を交代 2 乗という。

Frobenius–Schur の指示子と 3 つの型
  1. 表現 $V$ の Frobenius–Schur の指示子を $\nu(V):=\frac{1}{\lvert G\rvert}\sum_{g\in G}\chi_V(g^2)$ と定める。指標 $\chi$ について $\nu(\chi)$ とも書く。
  2. 既約表現 $V$ が複素型であるとは $\chi_V$ が実数でない値をとることをいい、実型であるとは $0$ でない $G$ 不変な対称双線形形式をもつことをいい、四元数型であるとは $0$ でない $G$ 不変な交代形式をもつことをいう。

指標は直和で和になるので、$\nu(V\oplus W)=\nu(V)+\nu(W)$ である。

対称 2 乗と交代 2 乗

平方での値

有限次元の複素表現 $V$ と $g\in G$ について
$$ \chi_{\mathrm{S}^2V}(g)=\frac{\chi_V(g)^2+\chi_V(g^2)}{2},\qquad\chi_{\Lambda^2V}(g)=\frac{\chi_V(g)^2-\chi_V(g^2)}{2} $$
であり、とくに $\chi_V(g^2)=\chi_{\mathrm{S}^2V}(g)-\chi_{\Lambda^2V}(g)$ である。

群の指標 の命題「双対・テンソル積・逆元での値」の 3 により、$\rho(g)$ は対角化できる。固有ベクトルの基底 $v_1,\dots,v_d$、$gv_i=\lambda_iv_i$ をとる。$w_{ij}:=v_i\otimes v_j+v_j\otimes v_i$($i\le j$)は $\mathrm{S}^2V$ の基底、$w'_{ij}:=v_i\otimes v_j-v_j\otimes v_i$($i< j$)は $\Lambda^2V$ の基底であり($v_i\otimes v_j$ が $V\otimes V$ の基底なので、$\tau$ の固有値 $\pm1$ の固有空間はこれらで張られる)、$g$ は $w_{ij}$、$w'_{ij}$ にそれぞれ $\lambda_i\lambda_j$ 倍で作用する。よって
$$ \chi_{\mathrm{S}^2V}(g)=\sum_{i\le j}\lambda_i\lambda_j,\qquad\chi_{\Lambda^2V}(g)=\sum_{i< j}\lambda_i\lambda_j $$
である。差は $\sum_i\lambda_i^2=\operatorname{tr}\rho(g^2)=\chi_V(g^2)$、和は $\bigl(\sum_i\lambda_i\bigr)^2=\chi_V(g)^2$ である。$\square$

$G$ 不変な双線形形式 $B$ は、$B(u\otimes v):=B(u,v)$ により $V\otimes V$ 上の $G$ 不変な線形形式と同じものである。対称な $B$ は $\Lambda^2V$ の上で $0$ になり、交代な $B$ は $\mathrm{S}^2V$ の上で $0$ になる。したがって、$G$ 不変な対称双線形形式の空間は $\mathrm{S}^2V$ 上の $G$ 不変な線形形式の空間と、$G$ 不変な交代形式の空間は $\Lambda^2V$ 上の $G$ 不変な線形形式の空間と同一視できる。

指示子は不変な形式の数え上げ

有限次元の複素表現 $V$ について、$G$ 不変な対称双線形形式の空間の次元を $a_+(V)$、$G$ 不変な交代形式の空間の次元を $a_-(V)$ とすると
$$ a_+(V)=\dim(\mathrm{S}^2V)^G,\qquad a_-(V)=\dim(\Lambda^2V)^G,\qquad\nu(V)=a_+(V)-a_-(V) $$
である。とくに $\nu(V)$ は整数である。

有限次元の表現 $W$ について、$W$ 上の $G$ 不変な線形形式とは自明表現 $\mathbf 1$ への射のことであり、群の指標 の補題「射の空間の次元」により、その空間の次元は $\langle\mathbf 1,\chi_W\rangle=\overline{\langle\chi_W,\mathbf 1\rangle}=\overline{\dim W^G}=\dim W^G$ である。直前の段落の同一視を $W=\mathrm{S}^2V$、$\Lambda^2V$ に当てると前半の 2 式を得る。同じ補題の後半と lem-fs-square から
$$ a_+(V)-a_-(V)=\frac{1}{\lvert G\rvert}\sum_{g\in G}\bigl(\chi_{\mathrm{S}^2V}(g)-\chi_{\Lambda^2V}(g)\bigr)=\frac{1}{\lvert G\rvert}\sum_{g\in G}\chi_V(g^2)=\nu(V) $$
である。$\square$

主定理:3 つの型

Frobenius–Schurの定理

$V$ を $G$ の複素既約表現、$\chi$ をその指標とする。

  1. $G$ 不変な双線形形式で $0$ でないものがあるのは、$\chi$ が実数値のとき、すなわち $V\cong V^*$ のときに限る。そのような形式は定数倍を除いて一意であり、非退化で、対称か交代のどちらか一方である。
  2. 次の 3 つのどれか 1 つだけが起こる。
    • $V$ は複素型であり、$\nu(V)=0$ である。
    • $V$ は実型であり、$\nu(V)=1$ である。
    • $V$ は四元数型であり、$\nu(V)=-1$ である。

1。 $G$ 不変な双線形形式 $B$ に、線形写像 $\beta_B\colon V\to V^*$、$\beta_B(u):=B(u,\cdot)$ を対応させる。$B$ が $G$ 不変であることは、$\beta_B(gu)=B(gu,\cdot)=B(u,g^{-1}\cdot)=g\cdot\beta_B(u)$、すなわち $\beta_B$ が双対表現 $V^*$($g$ が $\lambda\mapsto\lambda\circ\rho(g)^{-1}$ で作用する)への $G$ 射であることと同値であり、$B\mapsto\beta_B$ は $G$ 不変な双線形形式の空間から $\operatorname{Hom}_G(V,V^*)$ への同型である。
$\chi_{V^*}(g)=\chi(g^{-1})=\overline{\chi(g)}$ である(群の指標 の命題「双対・テンソル積・逆元での値」の 2・3)。$V^*$ も既約なので(不変部分空間 $U\subset V^*$ の零化空間は $V$ の不変部分空間である)、群の指標 の定理「第一直交関係」により $\dim\operatorname{Hom}_G(V,V^*)=\langle\chi_{V^*},\chi\rangle$ は、$\overline\chi=\chi$ なら $1$、そうでなければ $0$ である。同じ記事の系「重複度・同値の判定・既約性の判定」の 2 により、$\overline\chi=\chi$ は $V\cong V^*$ と同値である。
$B\neq0$ なら $\beta_B$ は既約表現の間の $0$ でない射なので、Schur の補題(群の表現 の定理「Schur の補題」)により同型であり、$B$ は非退化である。空間が 1 次元なので $B$ は定数倍を除いて一意である。$B_\pm(u,v):=\frac12\bigl(B(u,v)\pm B(v,u)\bigr)$ はどちらも $G$ 不変で、$B=B_++B_-$ であり、$B_+$ は対称、$B_-$ は交代である。一意性から $B_+$、$B_-$ はどちらも $B$ の定数倍で、対称かつ交代な形式は $0$ なので、どちらか一方が $0$ である。
2。 prop-fs-count の記号で、1 により $a_+(V)+a_-(V)$ は $\chi$ が実数値なら $1$、そうでなければ $0$ である($G$ 不変な双線形形式は対称部分と交代部分の和にただ一通りに書けるので、その空間の次元は $a_++a_-$ である)。$\chi$ が実数でない値をとれば $a_+=a_-=0$ で、$\nu(V)=0$ であり、実型でも四元数型でもない。$\chi$ が実数値なら $(a_+,a_-)$ は $(1,0)$ か $(0,1)$ で、それぞれ実型で $\nu(V)=1$、四元数型で $\nu(V)=-1$ である。$\square$

型を決めるには $\nu(V)$ を計算すればよく、指標表と、各共役類の元の平方がどの共役類に入るかが分かれば足りる。この形の定理は Ser77 §13.2 の Proposition 38(pp. 108–109)と Proposition 39(p. 109)、EGH11 §4.1 の Definition 4.3(p. 47)と Theorem 4.4 の証明(pp. 47–48)にある。

実行列で表せること

既約表現 $V$ が実行列で表せるとは、$V$ のある基底について、すべての $\rho(g)$ の行列の成分が実数になることをいう。これは、$G$ で保たれる実部分空間 $V_0$ で $V=V_0\oplus iV_0$ となるもの($V$ が実表現 $V_0$ の複素化であること)があることと同じである。

実型と実行列による表示

$V$ を $G$ の複素既約表現とする。

  1. $\nu(V)=1$ であるのは、$V$ が実行列で表せるときに限る。
  2. $\nu(V)=-1$ なら、$\dim V$ は偶数であり、$G$ の作用と可換な共役線形の全単射 $J\colon V\to V$ で $J^2=-\mathrm{id}_V$ となるものがある。このとき $V$ は実行列で表せない。

要点:実行列で表せれば実の不変内積が不変な対称形式になる。逆は、不変な形式 $B$ と不変な Hermite 内積を比べて共役線形な $J$ を作り、Schur の補題で $J^2$ をスカラーにして $J^2=\pm\mathrm{id}$ と正規化する。

詳しい証明を開く

実行列で表せるなら $\nu(V)=1$。基底 $e_1,\dots,e_d$ についてすべての $\rho(g)$ が実行列なら、実ベクトル空間 $V_0:=\sum_k\mathbb{R}e_k$ は $G$ の実表現である。群の表現 の定理「不変な内積の存在」により、$V_0$ には $G$ 不変な内積があり、その行列 $S$ は実対称で正定値、${}^t\rho(g)S\rho(g)=S$ を満たす。$B(u,v):={}^tuSv$(座標で書く)は $V$ 上の $0$ でない $G$ 不変な対称双線形形式なので、thm-fs-main により $\nu(V)=1$ である。

$J$ の構成。$\nu(V)=\pm1$ とし、thm-fs-main の 0 でない不変な形式 $B$ をとる。$\epsilon:=\nu(V)$ とおくと $B(v,u)=\epsilon B(u,v)$ である。群の表現 の定理「不変な内積の存在」により、$V$ には $G$ 不変な Hermite 内積 $\langle\cdot,\cdot\rangle$(第 1 変数について共役線形、第 2 変数について線形)がある。各 $x\in V$ について $y\mapsto B(x,y)$ は線形形式なので、$B(x,y)=\langle Jx,y\rangle$ がすべての $y$ で成り立つ $Jx\in V$ がただ一つある。$B(\lambda x,y)=\lambda B(x,y)=\langle\bar\lambda Jx,y\rangle$ から $J(\lambda x)=\bar\lambda Jx$ で、$J$ は共役線形である。$B$ は非退化なので $J$ は単射で、実線形写像として全単射である。$\langle J(gx),gy\rangle=B(gx,gy)=B(x,y)=\langle Jx,y\rangle=\langle gJx,gy\rangle$ から $J(gx)=gJx$ である。

$J^2$ はスカラー。$J^2$ は複素線形で $G$ の作用と可換なので、Schur の補題によりある $c\in\mathbb{C}$ で $J^2=c\,\mathrm{id}_V$ である。$\langle J^2x,x\rangle=B(Jx,x)=\epsilon B(x,Jx)=\epsilon\langle Jx,Jx\rangle$ であり、左辺は $\langle cx,x\rangle=\bar c\langle x,x\rangle$ なので、$x\neq0$ について $\bar c\langle x,x\rangle=\epsilon\langle Jx,Jx\rangle$ である。$J$ は単射なので両辺の内積は正の実数であり、$c$ は実数で $\epsilon c>0$ である。$J':=\lvert c\rvert^{-1/2}J$ とおくと、$J'$ も共役線形で $G$ と可換であり、$J'^2=\lvert c\rvert^{-1}c\,\mathrm{id}_V=\epsilon\,\mathrm{id}_V$ である。

$\nu(V)=1$ なら実行列で表せる。$\epsilon=1$ とし、$V_0:=\{x\mid J'x=x\}$ とおく。$V_0$ は実部分空間で、$J'$ が $G$ と可換なので $G$ で保たれる。$x\in V$ について $x_1:=\frac12(x+J'x)$、$x_2:=\frac1{2i}(x-J'x)$ とおくと、$J'$ の共役線形性と $J'^2=\mathrm{id}$ から $x_1,x_2\in V_0$、$x=x_1+ix_2$ である。$x\in V_0\cap iV_0$ なら $x=iy$($y\in V_0$)で $J'x=-iJ'y=-x$ なので $x=0$ である。よって $V=V_0\oplus iV_0$ であり、$V_0$ の $\mathbb{R}$ 上の基底は $V$ の $\mathbb{C}$ 上の基底になる。$\rho(g)$ は $V_0$ を保つので、この基底での行列は実行列である。

$\nu(V)=-1$ の場合。$J'$ が求める $J$ である。不変な交代形式 $B$ の行列 $A$ は ${}^tA=-A$ を満たすので $\det A=\det(-A)=(-1)^{\dim V}\det A$ であり、$B$ は非退化なので $\det A\neq0$、よって $\dim V$ は偶数である。実行列で表せれば前半により $\nu(V)=1$ となるので、thm-fs-main の 2 の排他性により実行列では表せない。$\square$

$J^2=-\mathrm{id}$ となる共役線形な $J$ があると、$i$ を複素数のスカラー倍、$j$ を $J$ として 四元数 体 $\mathbb{H}$ が $V$ に作用する($J(ix)=-iJx$ が $ij=-ji$ にあたる)。「四元数型」の名はこれによる。実行列で表せることの特徴づけは Ser77 §13.2 の Theorem 31(pp. 106–108)にある。$J^2$ は一般には正定値 Hermite 作用素(の $\epsilon$ 倍)で、その平方根で正規化できるが、既約表現では Schur の補題により $J^2$ がスカラーになるので、定数倍で正規化できる。

平方根の個数

平方根の個数の公式

$g\in G$ について $r(g):=\#\{x\in G\mid x^2=g\}$ とおく。$G$ の複素既約表現の同値類の代表を $V_1,\dots,V_h$ とすると
$$ r(g)=\sum_{k=1}^{h}\nu(V_k)\,\chi_{V_k}(g) $$
である。とくに、$x^2=1$ を満たす $x\in G$(単位元と位数 $2$ の元)の個数は $\sum_k\nu(V_k)\dim V_k$、すなわち実型の既約表現の次元の和から四元数型の既約表現の次元の和を引いたものに等しい。

$x\mapsto yxy^{-1}$ は $g$ の平方根と $ygy^{-1}$ の平方根の間の全単射なので、$r$ は類関数である。群の指標 の定理「既約指標は類関数の正規直交基底」により $r=\sum_k\langle r,\chi_{V_k}\rangle\chi_{V_k}$ である。各 $x\in G$ はちょうど 1 つの $g=x^2$ の平方根として数えられるので
$$ \langle r,\chi_{V_k}\rangle=\frac{1}{\lvert G\rvert}\sum_{g\in G}r(g)\overline{\chi_{V_k}(g)}=\frac{1}{\lvert G\rvert}\sum_{x\in G}\overline{\chi_{V_k}(x^2)}=\overline{\nu(V_k)}=\nu(V_k) $$
である(prop-fs-count により $\nu(V_k)$ は整数)。$g=1$ では $\chi_{V_k}(1)=\dim V_k$ である。$\square$

$g=1$ の場合($x^2=1$ を満たす元の個数)は EGH11 §4.1 の Theorem 4.4(pp. 47–48)にある。

奇数位数の群

$\lvert G\rvert$ が奇数なら、自明でない複素既約表現はすべて複素型である。すなわち、実数値の既約指標は自明な指標だけである。

$m:=\lvert G\rvert$ は奇数で $x^m=1$ なので、$(x^2)^{(m+1)/2}=x^{m+1}=x$ であり、$x\mapsto x^2$ は $G$ の全単射である。よって自明でない既約表現 $V$ について $\nu(V)=\frac{1}{m}\sum_x\chi_V(x^2)=\frac1m\sum_x\chi_V(x)=\langle\chi_V,\mathbf 1\rangle=0$ であり(群の指標 の定理「第一直交関係」)、thm-fs-main により $V$ は複素型である。$\square$

例

巡回群

$G=\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ の既約表現は 1 次元の $\chi_k(m)=\zeta^{km}$($\zeta=e^{2\pi i/n}$、$0\le k< n$)である(巡回群の指標と直交関係)。$\chi_k(2m)=(\zeta^{2k})^m$ なので、$\nu(\chi_k)=\frac1n\sum_m(\zeta^{2k})^m$ は $\zeta^{2k}=1$ なら $1$、そうでなければ $0$ である。よって実型は自明な指標と、$n$ が偶数のときの $\chi_{n/2}(m)=(-1)^m$ だけで、ほかは複素型である。cor-fs-roots の $g=0$ の場合は、$2x=0$ の解の個数($n$ が奇数なら $1$、偶数なら $2$)がこの 2 つまたは 1 つの実型の次元の和に等しいことを表す。

3 次対称群

$S_3$ の既約表現は自明表現、符号表現、2 次元の標準表現の 3 つで、指標はどれも整数値である(群の指標 の例「3 次対称群」)。よって thm-fs-main によりどれも実型か四元数型である。$x^2=1$ の解は単位元と 3 つの互換の $4$ 個で、cor-fs-roots により $\pm1\pm1\pm2=4$ となるので、符号はすべて $+$ であり、3 つとも実型である。実際、標準表現は $\mathbb{R}^3$ の座標の置換を和が $0$ の平面に制限したもので、実行列で表せる。

二面体群と四元数群の区別

位数 $8$ の二面体群 $D_4=\langle r,s\rangle$ と四元数群 $Q_8$ は同じ指標表をもち、2 次元の既約指標 $\chi_5$ は $\chi_5(1)=2$、$\chi_5(z)=-2$($z$ は位数 $2$ の中心元)、ほかの元で $0$ である(群の指標 の例「二面体群と四元数群は同じ指標表をもつ」)。平方はどの元でも $1$ か $z$ になる。

  • $D_4$ では $x^2=1$ となる $x$ は $1$、$r^2$、4 つの鏡映 $s,rs,r^2s,r^3s$ の $6$ 個、$x^2=z$ となるのは $r,r^3$ の $2$ 個なので、$\nu(\chi_5)=\frac18(2\cdot6-2\cdot2)=1$ である。
  • $Q_8$ では $x^2=1$ となるのは $\pm1$ の $2$ 個、$x^2=-1$ となるのは $\pm i,\pm j,\pm k$ の $6$ 個なので、$\nu(\chi_5)=\frac18(2\cdot2-2\cdot6)=-1$ である。
    よって $D_4$ の 2 次元表現は実型(正方形の対称性として実行列で表せる)、$Q_8$ の 2 次元表現は四元数型で、thm-fs-real により実行列では表せない。$Q_8$ では、四元数 体 $\mathbb{H}$ に右からの $i$ の掛け算で複素ベクトル空間の構造を入れ($\mathbb{H}\cong\mathbb{C}^2$)、$\pm1,\pm i,\pm j,\pm k$ を左からの掛け算で作用させたものがこの表現である($-1$ が $-\mathrm{id}$ で作用するので 1 次元の指標の和ではない)。右からの $j$ の掛け算は左からの掛け算と可換で、$(xi)j=-(xj)i$、$xj^2=-x$ を満たすので、thm-fs-real の $J$ にあたる。1 次元の 4 つの指標は $\pm1$ の値をとるので $\chi(g^2)=\chi(g)^2=1$ で実型であり、cor-fs-roots の $g=1$ の式は $D_4$ で $4+2=6$、$Q_8$ で $4-2=2$ となる。

反例:仮定を外すと崩れること

外す条件反例成り立たなくなること
既約(thm-fs-main の $\nu\in\{1,0,-1\}$)任意の $G$ の $V=\mathbf 1\oplus\mathbf 1$$\nu(V)=2$
既約(thm-fs-main の「$\nu=0$ なら指標は実数でない値をとる」)$\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}$ の $V=\chi_1\oplus\chi_2$指標は実数値だが $\nu(V)=0$
既約(thm-fs-main の 1 の一意性と「対称か交代の一方」)$V=\mathbf 1\oplus\mathbf 1$対称な不変形式と交代な不変形式が両方ある
係数体が $\mathbb{C}$(thm-fs-main の 2 の「実型なら $\nu=1$」)$\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}$ の $\mathbb{R}^2$ への $120^\circ$ 回転による実表現不変な対称形式があるが $\frac13\sum_g\chi(g^2)=0$
反例の確かめ

1 行目・3 行目。 $\mathbf 1\oplus\mathbf 1=\mathbb{C}^2$ には $G$ が自明に作用するので、$\nu=\frac{1}{\lvert G\rvert}\sum_g2=2$ であり、すべての双線形形式が不変である。$B_1(u,v)=u_1v_1$ は対称、$B_2(u,v)=u_1v_2-u_2v_1$ は交代で、互いに定数倍でない。prop-fs-count では $a_+=3$、$a_-=1$ で、$\nu=a_+-a_-=2$ と合う。
2 行目。 $\zeta=e^{2\pi i/3}$、$\chi_1(m)=\zeta^m$、$\chi_2(m)=\zeta^{2m}$ とすると、$V$ の指標は $2,\ \zeta+\zeta^2=-1,\ -1$ で実数値である。ex-fs-cyclic により $\nu(\chi_1)=\nu(\chi_2)=0$ なので $\nu(V)=0$ である。基底 $e_1,e_2$($e_k$ に $\chi_k$ で作用)について $B(e_1,e_2)=1$、$B(e_2,e_1)=\pm1$、$B(e_k,e_k)=0$ と定めると、$\zeta\cdot\zeta^2=1$ なので $\pm$ のどちらでも不変であり、$a_+=a_-=1$ で $\nu=0$ と合う。
4 行目。 $\rho(1)$ を角 $2\pi/3$ の回転とすると、実固有ベクトルがないので $\mathbb{R}^2$ は $\mathbb{R}$ 上の既約表現で、標準内積は不変な対称形式である。指標は $\chi(0)=2$、$\chi(1)=\chi(2)=2\cos(2\pi/3)=-1$ で、$g\mapsto 2g$ は $\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}$ の全単射なので $\frac13\sum_g\chi(2g)=\frac13(2-1-1)=0$ である。複素化すると $\chi_1\oplus\chi_2$(2 行目)に分かれ、どちらも複素型である。

補足

コンパクト群と実の表現論
  1. コンパクト群 の連続な有限次元の複素既約表現についても、全体の測度が $1$ の Haar測度 で平均して $\nu(V):=\int_G\chi_V(g^2)\,dg$ とおくと、同じ 3 つの型への分類が成り立つ(Ser77 §13.2 の Theorem 31 の後の Remark (1)、p. 108)。たとえば 特殊ユニタリ群 $\mathrm{SU}(2)$ の $\mathbb{C}^2$ への標準表現は、$\det g=1$ により交代形式 $B(u,v)=u_1v_2-u_2v_1$ を保つので四元数型である。
  2. 実数体上の既約表現は、複素型の $V$ を実ベクトル空間とみたもの、実型の $V$ の実形 $V_0$、四元数型の $V$ を実ベクトル空間とみたものの 3 種類から得られ、自己準同型環はそれぞれ $\mathbb{C}$、$\mathbb{R}$、$\mathbb{H}$ になる(Ser77 §13.2、p. 108)。

関連項目

参考文献

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