母関数とは、数列 $(a_n)$ を係数に並べた $\sum_{n\ge0}a_nx^n$ のことで、数列についての問題を式の和・積・逆数の計算に翻訳する道具である。$x$ を数でなく係数の位置の目印とみなす形式的冪級数として扱えば、無限に続く式も係数ごとに計算でき、$\frac1{1-x}=\sum x^n$ は係数の等式として常に正しい。ただし数を代入してよいのは、たとえば絶対収束するときであり、$x=2$ を入れた $-1=1+2+4+\cdots$ は誤りである。Fibonacci 数の母関数は $\frac{x}{1-x-x^2}$ で部分分数分解から一般項が出る。無限積の係数は整数の分割の数を数え、部分が相異なる分割と部分が奇数の分割は同数である。
高校の二項定理 $(1+x)^n=\sum_k\binom nkx^k$ では、$x^k$ の係数 $\binom nk$ が「$n$ 個の因子から $x$ を $k$ 個選ぶ方法の数」を記録している。このように、数えたい数を式の係数に並べておき、式の計算で係数を求めるのが母関数の考え方である。この記事は、母関数についての 5 本の記事の入口である。ここでは定義と例だけを述べ、証明はそれぞれの記事で行う。
数列 $a_0,a_1,a_2,\dots$ に対して、
$$
\sum_{n\ge0}a_nx^n=a_0+a_1x+a_2x^2+\cdots
$$
をその母関数という。ここで $x$ は数ではなく、「$n$ 番目の位置」を示す目印である。このように $x$ を目印とみなした無限に続く式を形式的冪級数といい、和と積を
$$
[x^n](F+G):=a_n+b_n,\qquad [x^n](FG):=a_0b_n+a_1b_{n-1}+\cdots+a_nb_0
$$
で定める($[x^n]F$ は $F$ の $x^n$ の係数、$G=\sum b_nx^n$)。2 つの形式的冪級数は、すべての係数が等しいときに等しいという。
積の定義は、多項式を展開して $x^n$ の項を集める計算そのものである。無限に続く式でも、$x^n$ の係数は有限個の積の和なので、収束を気にせずに計算できる。
さいころ 1 個の目の出方を $D=x+x^2+\cdots+x^6$ で表す。$D^2$ を展開すると、1 つ目の因子から $x^i$、2 つ目の因子から $x^j$ を選んで $x^{i+j}$ ができる。$x^7$ の係数は $i+j=7$ となる組の数 $6$ であり、これは 2 個のさいころの目の和が $7$ になる出方の数である。全体は
$$
D^2=x^2+2x^3+3x^4+4x^5+5x^6+6x^7+5x^8+4x^9+3x^{10}+2x^{11}+x^{12}
$$
である。
$(1-x)(1+x+x^2+x^3+\cdots)$ の $x^n$ の係数は、$n=0$ で $1$、$n\ge1$ で $1-1=0$ である。したがって形式的冪級数として
$$
\frac1{1-x}=1+x+x^2+x^3+\cdots
$$
である。これは高校の等比数列の和の公式 $1+x+\cdots+x^n=\frac{1-x^{n+1}}{1-x}$ を、極限を使わずに係数の等式として述べたものである。ただし、$x$ に $2$ を入れて $-1=1+2+4+\cdots$ とするのは誤りである。どんなときに数を入れてよいかは、3 本目の記事で扱う。
$F_0=0$、$F_1=1$、$F_{n+2}=F_{n+1}+F_n$ で定まる Fibonacci 数 $0,1,1,2,3,5,8,\dots$ の母関数を $\Phi$ とする。$(1-x-x^2)\Phi$ の $x^n$ の係数は $F_n-F_{n-1}-F_{n-2}$(負の添字は $0$)であり、$n=0$ で $0$、$n=1$ で $1$、$n\ge2$ で漸化式から $0$ になる。したがって
$$
(1-x-x^2)\Phi=x,\qquad \Phi=\frac{x}{1-x-x^2}
$$
である。漸化式が、分母の多項式 $1-x-x^2$ に記録されている。
正の整数 $n$ を、順序を区別せずに $1$ と $2$ だけの和で表す方法を数える。$n=5$ なら $1+1+1+1+1$、$2+1+1+1$、$2+2+1$ の $3$ 通りである。母関数では、2 つの等比級数の積
$$
(1+x+x^2+\cdots)(1+x^2+x^4+\cdots)=\frac1{1-x}\cdot\frac1{1-x^2}
$$
を展開して、1 つ目の因子から $x^i$($1$ を $i$ 個)、2 つ目の因子から $x^{2j}$($2$ を $j$ 個)を選ぶ。$x^n$ の係数は $i+2j=n$ となる組 $(i,j)$ の数で、$1,1,2,2,3,3,4,\dots$ と並ぶ($n=5$ で $3$)。使える部分を $1,2,3,\dots$ と全部に広げると、無限個の因子の積 $\frac1{1-x}\cdot\frac1{1-x^2}\cdot\frac1{1-x^3}\cdots$ が分割の総数を数える。
$6$ を順序を区別せずに正の整数の和で表す方法のうち、同じ数を 2 回使わないものは $6$、$5+1$、$4+2$、$3+2+1$ の $4$ 個、奇数だけを使うものは $5+1$、$3+3$、$3+1+1+1$、$1+1+1+1+1+1$ の $4$ 個である。この 2 つの個数は、どの $n$ でも等しい。母関数で書くと、2 つの無限積の等式
$$
(1+x)(1+x^2)(1+x^3)\cdots=\frac1{1-x}\cdot\frac1{1-x^3}\cdot\frac1{1-x^5}\cdots
$$
になる。
母関数の記事で扱う高校の計算と、その背後にある大学の概念の対応は次のとおりである。
| 高校の計算 | 大学の概念 | 記事 |
|---|---|---|
| 展開して係数を比べる(二項定理、Vandermonde の恒等式) | 形式的冪級数の積 | 形式的冪級数の積と逆数 |
| 等比数列の和の公式 | 定数項が $0$ でない級数の逆元 $\frac1{1-x}$ | 形式的冪級数の積と逆数 |
| 漸化式の一般項(特性方程式) | 有理式の母関数と部分分数分解 | Fibonacci数の母関数 |
| 無限等比級数の公式($\lvert r\rvert<1$) | 絶対収束する点での代入 | 母関数に数を代入してよいとき |
| 場合分けして数える(「2 を何個使うか」) | 無限積の係数 | 分割の母関数 |
| 2 進法の表し方がただ 1 通りであること | $\prod_{j\ge0}(1+x^{2^j})=\frac1{1-x}$ | 分割の母関数 |
| $1+y=\frac{1-y^2}{1-y}$ | 無限積どうしの等式と 1 対 1 の対応 | Eulerの分割恒等式 |
5 本の記事の読む順番。矢印の先の記事は、矢印の根もとの記事の結果を使う
| 疑問 | 答える記事 |
|---|---|
| 無限に続く式を掛けたり割ったりしてよいのはなぜか | 形式的冪級数の積と逆数 |
| 部分分数分解で漸化式の一般項が出るのはなぜか | Fibonacci数の母関数 |
| $\frac1{1-x}=1+x+x^2+\cdots$ に $x=2$ を入れると何がおかしいのか | 母関数に数を代入してよいとき |
| 整数の分割の数を式で数えるにはどうするか | 分割の母関数 |
| 2 種類の分割の数がいつも等しいのはなぜか | Eulerの分割恒等式 |
母関数を形式的冪級数として扱い、多くの場合に収束を問わないという立場は、KT17 第 8 章の冒頭と §8.1 にある。
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