逆Laplace変換

同義語:逆ラプラス変換inverse Laplace transformHeavisideの展開定理Heaviside expansion theoremLerchの定理

概要

逆Laplace変換(inverse Laplace transform)とは、Laplace変換後の関数から時間領域の関数を求める操作である。連続な指数オーダーの関数ではLerchの一意性定理により答えが一意に決まる。真にプロパーな有理関数は部分分数により逆変換でき、単根は指数関数、重根は多項式を伴う指数関数、複素共役根は振動に対応する。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Laplace変換, 有理関数の積分, 一様収束

変換後の式 $F(s)$ から時間側の関数 $f(t)$ を求めるのが逆Laplace変換である。有理関数なら、分母を因数分解し、部分分数に分け、指数関数や振動の形に戻す方法が基本になる。分母の根が実数なら指数関数、複素共役なら減衰振動、重根なら指数関数に多項式を掛けた形が現れる。この対応を見れば、方程式をまだ解き終えていなくても、応答の大まかな形を予想できる。
ただし「表に合う関数を一つ見つけた」ことと、「それが唯一の答えである」ことは別である。変換は無限区間の積分なので、一点の値の違いは見えない。連続な関数の範囲では一意性が成立し、区分的に連続な関数では連続点での値が決まる。この境界を確かめたうえで、部分分数を逆変換する。以下では一意性を証明し、単根と重根を一つの公式で扱う。複素積分による反転はBromwich積分の別の方法である。

定義と答えの範囲

逆Laplace変換

$F$ が、区分的に連続で指数オーダーの関数 $f$ の片側Laplace変換であるとき、$f$ を $F$ の逆Laplace変換といい、$\mathcal L^{-1}[F]=f$ と書く。連続な関数に限定する場合には、この等式は各点での等式を表す。区分的に連続な関数の場合には、連続点での値と左右極限を対象とし、分点の一点の値は区別しない。

任意の $s$ の関数に対して逆変換が存在するとは限らない。例えば $F(s)=1$ は、区分的に連続で指数オーダーの通常の関数の変換にはならない。Laplace変換の定理「絶対収束と無限遠での減衰」に反するからである。デルタを含む範囲へ広げれば意味をもつが、通常の関数を求める問題と超関数を求める問題は区別する。
実数係数の有理関数 $F=P/Q$ では、まず分子・分母の共通因子を除く。以下で極というのは、除いたあとの分母の根を指す。共通因子の根は見かけ上の根であって、そのまま時間側の指数として数えてはいけない。さらに $\deg P<\deg Q$ の場合を真にプロパーな有理関数という。この条件では通常の関数で逆変換でき、得られる関数は指数多項式になる。
一意性は実数 $s$ の十分大きな範囲の情報だけでも成立する。複素平面全体で一致していることを先に仮定する必要はない。このことは、変換表の計算を正の実数 $s$ で確かめ、後で絶対収束する半平面に戻す場合にも役立つ。一方、有限個の点で $F$ が一致するだけでは、関数を決めるには足りない。

Lerchの一意性

Lerchの一意性定理

$f,g$ が区分的に連続で指数オーダーであり、十分大きな全ての実数 $s$ に対し $\mathcal L[f](s)=\mathcal L[g](s)$ とする。このとき $f-g$ の各連続点で $f=g$ である。特に $f,g$ が連続なら $[0,\infty)$ の全ての点で一致する。

$v=f-g$ とし、$\lvert v(t)\rvert\le Me^{at}$ が全域で成り立つように上界を取る。$c>a$ を十分大きく選び、$s=c+n+1$ で変換がゼロとなるようにする。$0< x\le1$ に対し $h(x)=x^cv(-\log x)$、$h(0)=0$ と定める。$\lvert h(x)\rvert\le Mx^{c-a}$ なので $h$ は有界で原点ではゼロへ近づく。$x=e^{-t}$ と置換すると、全ての非負整数 $n$ に対し
$$ 0=\int_0^\infty e^{-(c+n+1)t}v(t)\,dt=\int_0^1 x^nh(x)\,dx. $$
従って任意の多項式 $p$ について $\int_0^1p(x)h(x)\,dx=0$。
ここで任意の連続関数 $\varphi$ を多項式で一様近似できることを確認する。$B_N\varphi(x)=\sum_{k=0}^N\varphi(k/N)\binom Nkx^k(1-x)^{N-k}$ とおく。重みの和は1で、その重みによる $(k/N-x)^2$ の和は $x(1-x)/N\le1/(4N)$ である。後の等式は二項定理を1回、2回微分すれば得られる。$\varphi$ の一様連続性から、$\lvert u-x\rvert<\delta$ なら $\lvert\varphi(u)-\varphi(x)\rvert<\varepsilon$ となる $\delta>0$ を選ぶ。近い添字と遠い添字を分けると
$$ \lvert B_N\varphi(x)-\varphi(x)\rvert\le\varepsilon+2\|\varphi\|_\infty\frac1{4N\delta^2}. $$
右辺は $x$ によらず、$N\to\infty$ の後に $\varepsilon\to0$ とすれば一様近似が得られる。
$h$ は有界だから、一様近似した多項式を積分の中で極限へ移せる。従って $\int_0^1\varphi h=0$ が任意の連続 $\varphi$ について成立する。もし内点の連続点 $x_0$ で $h(x_0)\ne0$ なら、ある複素定数 $\zeta$ を選んで $\operatorname{Re}(\zeta h(x_0))>0$ とできる。連続性から $x_0$ の小さな近傍で実部は正の下界をもつ。その近傍に台をもち、非負でゼロでない連続関数 $\varphi$ を選べば $\operatorname{Re}\int\varphi\zeta h>0$ となり矛盾する。端点 $x=1$ も片側の近傍で同様である。従って $v$ は全ての連続点でゼロである。$t$ の各有限点は $x>0$ に対応するので、求める結論が従う。$\square$

この証明で指数の重み $x^c$ を入れたのは、$t\to\infty$ を $x\to0+$ へ移したときの増大を抑えるためである。単に $v(-\log x)$ を置くと原点で有界とは限らず、一様近似から積分の等式を移す段で条件が不足する。$c>a$ を選ぶことでこの問題を解決した。区分点が無限個でも、各有限な時間区間では有限個であり、$x>0$ での局所的な議論には影響しない。
また、結論は連続点について述べている。$f$ がゼロ関数で、$g$ が $t=1$ だけ1になる関数なら、変換は同じである。$g$ は左右極限をもつが $t=1$ で連続でないので、定理の結論と矛盾しない。区分的連続な関数が同じ変換をもつ場合、左右極限も連続点の値から決まるが、分点自身の値だけは自由に変えられる。
一意性の主張は LebDQ26 Theorem 6.1.3 にある。ここでは表の利用に先立ち、指数の重みと多項式近似による理由を示した。逆変換が得られたあとに定義の積分を計算して $F$ に戻ることを確かめれば、同じ範囲で他の解を探す必要はない。

Heavisideの展開定理

単根の展開公式

$P,Q$ が複素係数多項式で $\deg P<\deg Q$、$Q$ の根 $a_1,\ldots,a_m$ が全て単根とする。このとき $F=P/Q$ の逆変換は
$$ f(t)=\sum_{j=1}^m\frac{P(a_j)}{Q'(a_j)}e^{a_jt},\qquad t\ge0 $$
である。変換は $\operatorname{Re}s>\max_j\operatorname{Re}a_j$ で成立する。

$A_j=P(a_j)/Q'(a_j)$ とおく。$Q(s)/(s-a_j)$ は多項式で、$s=a_j$ での値は $Q'(a_j)$ である。従って
$$ D(s)=P(s)-\sum_{j=1}^m A_j\frac{Q(s)}{s-a_j} $$
は全ての $a_j$ でゼロになる。$\deg D< m$ であり、異なる $m$ 個の根をもつので $D$ はゼロ多項式である。よって $P/Q=\sum_jA_j/(s-a_j)$。Laplace変換の変換表の指数関数の行を各項に用いれば、候補 $f$ の変換は $P/Q$ になる。有限和なので共通の半平面で積分を和と交換でき、$f$ は連続な指数オーダーの関数である。thm-ilt-lerchにより、この範囲の逆変換は一意である。$\square$

この公式は未知係数の連立方程式を作る代わりに、分母の各根での値を直接計算する方法である。分母全体の定数因子を忘れてはいけない。例えば $Q=2(s+1)(s+3)$ と $Q=(s+1)(s+3)$ では $Q'$ の値が2倍違い、係数も2倍違う。根の位置が同じでも、振幅までは根だけから決まらない。
部分分数の一般的な存在と一意性は有理関数の積分の定理「部分分数分解」で扱われている。上の証明は、単根の場合の係数を直接求め、それが時間側の指数関数に対応することを示すものである。実数係数の場合には、共役な根の項をまとめれば実数値の答えになる。

重根の展開公式

$F=P/Q$ が真にプロパーで、互いに異なる極 $a_j$ の位数が $m_j$ とする。$H_j(s)=(s-a_j)^{m_j}F(s)$ は $a_j$ で正則な有理関数であり、
$$ C_{j,k}=\frac{H_j^{(m_j-k)}(a_j)}{(m_j-k)!}\quad(1\le k\le m_j) $$
とすると、
$$ F(s)=\sum_j\sum_{k=1}^{m_j}\frac{C_{j,k}}{(s-a_j)^k},\qquad f(t)=\sum_j\sum_{k=1}^{m_j}\frac{C_{j,k}}{(k-1)!}t^{k-1}e^{a_jt}. $$

$H_j$ を $a_j$ のまわりで $m_j-1$ 次までTaylor展開する。$H_j(s)/(s-a_j)^{m_j}$ の負のべきの係数は、まさに上の $C_{j,k}$ となる。各極についてこの主要部を $F$ から引くと、残った有理関数は有限な点に極をもたない。従って残りは多項式である。$F$ と引いた主要部はどちらも無限遠でゼロへ近づくので、その多項式もゼロへ近づき、ゼロ多項式でなければならない。これで最初の等式が得られる。
時間側の各項の変換は、Laplace変換の多項式の行と $s$ 推移から
$$ \mathcal L\left[\frac{t^{k-1}}{(k-1)!}e^{a_jt}\right](s)=\frac1{(s-a_j)^k} $$
である。$\operatorname{Re}s>\max_j\operatorname{Re}a_j$ で各積分は絶対収束する。有限和の線形性で $f$ の変換は $F$ となり、一意性から結論を得る。重複した根の次数が時間側の多項式の次数を一つ上回ることも、この等式から分かる。$\square$

根が $a=\alpha+i\beta$、$\beta>0$ で、単根の係数が $A=u+iv$ なら、共役の項との和は
$$ Ae^{at}+\overline A e^{\overline a t}=2e^{\alpha t}(u\cos\beta t-v\sin\beta t). $$
虚部の係数に負号が付くことに注意する。重根の場合も、各 $t^{k-1}$ の係数について同じ組み合わせができる。複素数を最後まで残す方法と、初めから実2次因子で分ける方法は同じ答えを与える。実2次因子の分子は一般に1次式が必要であり、定数だけでは全ての有理関数を表せない。

公式の表と計算の手順

変換後の形時間側の形条件・根拠
$A/(s-a)$$Ae^{at}$単根、thm-ilt-simple
$A/(s-a)^k$$At^{k-1}e^{at}/(k-1)!$$k\ge1$、thm-ilt-repeated
$(s-\alpha)/((s-\alpha)^2+\beta^2)$$e^{\alpha t}\cos\beta t$$\beta>0$、変換表
$\beta/((s-\alpha)^2+\beta^2)$$e^{\alpha t}\sin\beta t$$\beta>0$、変換表
$e^{-as}G(s)$$u(t-a)g(t-a)$$a\ge0$、時間推移の公式
$F(s)G(s)$$(f*g)(t)$片側の畳み込み定理
  1. 通分・約分して、真の極とその位数を決める。分子の次数が高ければ先に多項式除法をし、通常の関数の逆変換で済むかを判定する。
  2. 時間推移の因子 $e^{-as}$ が外にあれば、まず残りの有理関数を逆変換する。$s$ をずらす因子と混同しない。
  3. 単根には $P(a)/Q'(a)$、重根には $H_j$ の導関数を使い、複素共役の項をまとめる。
  4. 得た関数をもう一度変換し、元の $F$ と共通の収束領域で一致するか確かめる。微分方程式から来た問題なら初期値と方程式への代入も行う。
    逆変換の収束域は、候補の増大率から確認する。最大実部の極が重根の場合、時間側には $t^ke^{at}$ が出るが、任意の $\varepsilon>0$ に対して指数オーダー $\operatorname{Re}a+\varepsilon$ である。一方、個々の積分は $\operatorname{Re}s>\operatorname{Re}a$ で直接収束するので、表の半平面は余分な $\varepsilon$ を含まずに書ける。
    係数の計算で根を近似値に置き換えると、近い根どうしの差による誤差が大きくなることがある。手計算の問題では可能なら正確な根の式を保つ。完全平方の2次式は重根として扱い、近似的に二つの異なる根へ分けない。反対に、近い二つの単根を本当に重根であるかのように扱うのも、違う問題を解くことになる。

例題

単根を直接評価する

$F(s)=(2s+7)/((s+2)(s+5))$ に対し、$f(t)=e^{-2t}+e^{-5t}$。$f(1)\approx0.142073$。使う公式はthm-ilt-simpleである。

係数の計算を開く

$Q'=2s+7$ なので $A_{-2}=3/3=1$、$A_{-5}=(-3)/(-3)=1$。それぞれの項は $1/(s+2)$、$1/(s+5)$ になる。

3位の極

$F(s)=(s+4)/(s+2)^3$ に対し、$f(t)=(t+t^2)e^{-2t}$。$f(1)\approx0.270671$。使う公式はthm-ilt-repeatedである。

係数の計算を開く

$H=s+4$、$H(-2)=2$、$H'(-2)=1$、$H''=0$。従って $F=1/(s+2)^2+2/(s+2)^3$ であり、2番目の逆変換には $2!/2!=1$ の係数が現れる。

平方完成と分子の分け方

$F(s)=(3s+10)/(s^2+4s+13)$ は $f(t)=e^{-2t}(3\cos3t+\tfrac43\sin3t)$ を与える。$f(1)\approx-0.376478$。

途中の計算を開く

分母は $(s+2)^2+9$、分子は $3(s+2)+4$。余弦の分子は $s+2$、正弦の分子は3なので、正弦の係数は $4/3$ になる。

遅延を最後に戻す

$F(s)=2e^{-2s}/(s+1)^2$ の逆変換は $f(t)=2(t-2)e^{-(t-2)}u(t-2)$。$f(3)\approx0.735759$。有理関数部分を先に戻し、その後単位ステップ関数の定理「時間推移の公式」を使う。

途中の計算を開く

$2/(s+1)^2$ は $2te^{-t}$ を与える。時刻2だけ遅らせるので、$t$ を全て $t-2$ に替え、$u(t-2)$ を掛ける。

例題では4つの違う根の型を扱った。単根の例は一つずつ評価すればよいが、重根では階乗が必要になる。複素共役根の例では、分子に定数を加える操作が正弦項を生む。遅延の例は分母の極の位置を変えず、開始時刻だけを変える。この区別を先にしたうえで計算すると、表のどの行を使ったかを後から追いやすい。

使える条件と反例

外す条件反例成り立たなくなること
単根の仮定$F(s)=1/(s+1)^2$$P(-1)/Q'(-1)$ は未定義になり、逆変換は単なる指数でない
真にプロパーという条件$F(s)=1$通常の指数オーダー関数としての逆変換がない
各点の連続性一点だけ値を変えたゼロ関数同じ変換でもその一点の値は決まらない
全ての大きな $s$ での一致$f=0$、$g=e^{-t}-\tfrac32e^{-2t}$$s=1$ でだけ変換が一致しても $f=g$ ではない

重根の例の正しい答えは $te^{-t}$ である。$t=1$ では $0.367879$、$t=2$ では $0.270671$ になり、定数倍の $e^{-t}$ ではこの二点を同時に合わせられない。単根の公式を無理に使うのでなく、$H(s)=(s+1)^2F(s)=1$ を作れば、重根の公式から係数を正しく求められる。
最後の反例では $\mathcal L[g](s)=1/(s+1)-3/(2(s+2))$ なので、$s=1$ ではゼロである。しかし $s=2$ では $1/3-3/8=-1/24$ で、例えば $g(0)=-1/2$ である。有限個の変換値は関数全体を決めない。一意性の証明では全ての非負整数 $n$ に対応するモーメントを使い、多項式全体を通じて情報を取り出した。そこが有限個の点での確認との違いである。
また、約分を忘れる反例として $F=(s+1)/((s+1)(s+3))$ を考える。答えは $e^{-3t}$ だけである。$s=-1$ は表記上の分母の根だが極ではなく、$e^{-t}$ の項を新しく足す理由はない。逆に、係数がゼロになる単根の項は足しても結果を変えないが、位数を求める際には最初に約分した方が余計な微分を減らせる。

よくある誤りと補足

誤り正しくは理由
$1/(s-a)^k$ を $t^{k-1}e^{at}$ に戻す$(k-1)!$ で割るthm-ilt-repeated
複素係数の虚部の符号をそのまま使う$2e^{\alpha t}(u\cos\beta t-v\sin\beta t)$共役を足した式
分母に $s+2$ があるので $e^{2t}$ とする$e^{-2t}$$s-a$ と照合する
遅延後も $te^{-t}$ を残す$t$ を全て $t-a$ にする時間推移の公式
変換の積を関数の積へ戻す畳み込みへ戻す片側の畳み込み定理

時間側の初期値は、有理関数の無限遠の展開から読み取れることがある。真にプロパーな $F$ が $A/s+O(s^{-2})$ なら、得られる連続な指数多項式では $f(0)=A$ になる。これは各項の変換を展開して確認でき、一般の条件を伴う形は初期値定理で扱う。一方、$s\to0$ での値から長時間の極限を読むには、極が安定な側にある条件が必要になる。振動する指数項が残っていれば、式に $s=0$ を入れた数が有限でも、時間側の極限は存在しないことがある。
有理関数以外では、部分分数の方法が使えないこともある。平方根や対数を含む変換では、既知の積分表示、畳み込み、複素積分による反転などが必要になる。どの方法で候補を作っても、同じ関数の範囲に属することと、もとの変換へ戻ることを確かめれば一意性を適用できる。数値の近似だけから厳密な閉じた形を決めたと解釈してはいけない。

係数の大小と逆変換の安定性

部分分数の係数が大きいことと、時間領域の関数が大きいことは同じではない。例えば正の $\varepsilon$ に対して
$$ F_\varepsilon(s)=\frac1{(s+1)(s+1+\varepsilon)} =\frac1\varepsilon\left(\frac1{s+1}-\frac1{s+1+\varepsilon}\right) $$
と書ける。係数は $1/\varepsilon$ と $-1/\varepsilon$ で、$\varepsilon\to0$ において発散する。しかし逆変換は
$$ f_\varepsilon(t)=e^{-t}\frac{1-e^{-\varepsilon t}}\varepsilon $$
で、各固定した時刻では $t e^{-t}$ に収束する。二つの大きな項が相殺するため、係数だけでは波形の大きさを判断できない。
この極限は重根の公式の連続的な現れ方でもある。分母の二つの根が近づくと、別々の指数関数の差商が指数関数の微分になり、時間の因子 $t$ が残る。重根の逆変換を例外的な暗記公式と考えるより、単根の差商の極限と結び付けると式の構造が分かる。
数値計算では、$\varepsilon t$ が小さいとき $1-e^{-\varepsilon t}$ の直接の引き算で有効桁が失われやすい。数学的に等しい式でも、個々の大きな部分分数項を別々に評価して引く方法は、丸めの影響を受けやすくなる。積分表示
$$ f_\varepsilon(t)=e^{-t}\int_0^t e^{-\varepsilon v}\,dv $$
なら相殺を含まない。この表示から $0\le f_\varepsilon(t)\le t e^{-t}$ とすぐに分かる。逆変換の厳密な式を得た後にも、値を求める形としてどれを使うかを区別するとよい。
一意性定理は、完全な変換が一致すれば関数が定まるという定理である。有限個の測定値からの復元が安定である、という定理ではない。実験や丸めで変換の値に誤差がある場合、単に一意性を引用して誤差が小さいと結論することはできない。本記事の方法は、式として与えられた変換の逆変換を厳密に計算する方法に範囲を限定している。

図で見る対応

図: 時間領域と変換領域の対応 図: 時間領域と変換領域の対応
左は単根および複素共役根の位置、右は $e^{-2t}(3\cos3t+\tfrac43\sin3t)$ である。極の実部は減衰、虚部は振動に対応する。

関連項目

参考文献

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