Bromwich積分

同義語:ブロムウィッチ積分Bromwich integral

概要

Bromwich積分(Bromwich integral)とは、Laplace変換 $F(s)$ に $e^{st}$ を掛け、収束域の中の縦の直線 $\operatorname{Re}s=c$ に沿って上下対称に打ち切って積分し $2\pi i$ で割った極限で、逆Laplace変換を与える複素積分である。$e^{-ct}\lvert f(t)\rvert$ が積分可能で、$f$ が点 $t>0$ で左右の極限と有界な片側差分商をもてば、その値は $(f(t+)+f(t-))/2$ に等しく、$t=0$ では右側の同じ条件のもとで $f(0+)/2$、$t<0$ では $0$ になる。真にプロパーな有理関数なら、$t>0$ で左に閉じて Jordan の補題を使い、値は $e^{st}F(s)$ の極での留数の和になる。分岐点をもつ $1/\sqrt{s}$ などの逆変換にも使われる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Laplace変換, 逆Laplace変換, 留数定理, Fourier変換

Laplace変換 $F(s)=\int_0^\infty e^{-st}f(t)\,dt$ から元の関数 $f$ を取り戻すには、部分分数と変換表を使う方法(逆Laplace変換)のほかに、複素平面の縦の直線に沿って $e^{st}F(s)$ を積分する方法がある。この積分を Bromwich 積分 という。変換表にない $F$ にも使え、有理関数なら留数の和で値が求まり、分岐をもつ $1/\sqrt s$ のような関数も扱える。
Bromwich 積分は、$s=c+i\omega$ と置けば $e^{-ct}f(t)$ の Fourier 変換を戻す反転積分そのものである。このため、下の条件 (i)・(ii) のもとで、$f$ が跳ぶ点では左右の極限の平均を返し、時刻 $0$ では $f(0+)/2$ を返す。以下では、どの条件で積分が $f(t)$ を返すかを証明し、留数による計算の手順と、条件を外したときに何が起こるかを例で確かめる。

定義と使える条件

Bromwich 積分

可測関数 $f\colon[0,\infty)\to\mathbb{C}$ と実数 $c$ について
$$ \int_0^\infty e^{-ct}\lvert f(t)\rvert\,dt<\infty\qquad(\mathrm{i}) $$
とする。このとき $\operatorname{Re}s\ge c$ で $F(s)=\int_0^\infty e^{-st}f(t)\,dt$ は絶対収束する。実数 $t$ と $R>0$ について
$$ I_R(t):=\frac1{2\pi i}\int_{c-iR}^{c+iR}e^{st}F(s)\,ds=\frac1{2\pi}\int_{-R}^{R}e^{(c+i\omega)t}F(c+i\omega)\,d\omega $$
とおき、極限 $\lim_{R\to\infty}I_R(t)$ が存在するとき、これを
$$ \frac1{2\pi i}\int_{c-i\infty}^{c+i\infty}e^{st}F(s)\,ds $$
と書いて Bromwich 積分 という。直線 $\operatorname{Re}s=c$ を Bromwich 線 という。

積分は上端と下端を同じ $R$ で切って極限をとる(対称な打ち切り)。両端を別々に無限大にすると収束しないことがある(反例の表)。ここで積分は Lebesgue 積分であり、$f$ は区分的に連続でなくてもよい。$\lvert e^{-st}f(t)\rvert=e^{-(\operatorname{Re}s)t}\lvert f(t)\rvert\le e^{-ct}\lvert f(t)\rvert$ なので、(i) から $\operatorname{Re}s\ge c$ での絶対収束が従う。
Bromwich 積分が $f(t)$ を返すために、次の条件を使う。

  • (i) Bromwich 線が絶対収束する範囲にある:$\int_0^\infty e^{-ct}\lvert f(t)\rvert\,dt<\infty$。Laplace変換 の定義「区分的連続性と指数オーダー」の意味で指数オーダー $a$ の区分的に連続な関数なら、$c>a$ はこれを満たす。
  • (ii) 点 $t$ での片側の振る舞い:左右の極限 $f(t\pm)$ が存在し、ある $\delta>0$ と $K$ について $0< u<\delta$ で
    $$ \lvert f(t+u)-f(t+)\rvert\le Ku,\qquad\lvert f(t-u)-f(t-)\rvert\le Ku $$
    が成り立つ($t=0$ では右側だけ)。区分的に $C^1$ 級の関数(各小区間で端まで連続微分可能)はすべての点でこれを満たす。

公式の表

$F(s)$Bromwich 積分の値条件根拠
$\mathcal L[f]$($t>0$)$\frac12(f(t+)+f(t-))$(i)、(ii)thm-bi-inversion
$\mathcal L[f]$($t=0$)$\frac12f(0+)$(i)、$t=0$ で (ii)thm-bi-inversion
$\mathcal L[f]$($t<0$)$0$(i)thm-bi-inversion
$P(s)/Q(s)$、$\deg P<\deg Q$$\sum_j\operatorname{Res}_{s=a_j}e^{st}F(s)$$c>\max_j\operatorname{Re}a_j$thm-bi-residue
$e^{-as}G(s)$、$a\ge0$$G$ の値を $t-a$ で$G$ が上の行の条件を満たすex-bi-step の考え方
$s^{-1/2}$$1/\sqrt{\pi t}$($t>0$)$c>0$ex-bi-sqrt

ここで $a_j$ は、$P/Q$ を約分したあとの分母の根(極)である。

反転公式

Bromwich 積分による反転公式

$f\colon[0,\infty)\to\mathbb{C}$ と実数 $c$ が条件 (i) を満たすとし、$F=\mathcal L[f]$ とする。

  1. $t>0$ で条件 (ii) が成り立てば $\displaystyle\lim_{R\to\infty}I_R(t)=\frac{f(t+)+f(t-)}2$ である。とくに $f$ が $t$ で連続なら値は $f(t)$ である。
  2. $t=0$ で右側の条件 (ii) が成り立てば $\displaystyle\lim_{R\to\infty}I_R(0)=\frac{f(0+)}2$ である。
  3. $t<0$ なら $\displaystyle\lim_{R\to\infty}I_R(t)=0$ である。
    値は $c$ によらない。とくに、(i) を満たす二つの $c$ で同じ値が得られる。

段 1(Fourier 型の積分に直す).$u\in\mathbb{R}$ について $g(u):=e^{-cu}f(u)$($u>0$)、$g(u):=0$($u\le0$)とおく。(i) から $g$ は $\mathbb{R}$ 上で積分可能であり、$F(c+i\omega)=\int_{\mathbb{R}}g(u)e^{-i\omega u}\,du$ である。$\omega$ の範囲 $[-R,R]$ は有界で $\lvert g\rvert$ は積分可能なので、Fubini の定理により積分の順序を替えられて
$$ I_R(t)=\frac{e^{ct}}{2\pi}\int_{\mathbb{R}}g(u)\Bigl(\int_{-R}^{R}e^{i\omega(t-u)}\,d\omega\Bigr)du=e^{ct}\int_{\mathbb{R}}g(u)\frac{\sin R(t-u)}{\pi(t-u)}\,du $$
である。$v=t-u$ と置き、$v<0$ の部分を $v\mapsto-v$ で折り返すと
$$ I_R(t)=e^{ct}\int_0^\infty G(v)\frac{\sin Rv}{\pi v}\,dv,\qquad G(v):=g(t+v)+g(t-v) $$
となる。
段 2(局所の条件を $g$ に移す).$L:=g(t+)+g(t-)$ とおく。$t>0$ なら $g(t\pm)=e^{-ct}f(t\pm)$ であり、$e^{-cu}$ は $u$ について滑らかなので、(ii) から $0< v<\delta'$($\delta'\le\delta$、$\delta'< t$)で $\lvert G(v)-L\rvert\le K'v$ となる定数 $K'$ がある。$t=0$ では $g(0-)=0$、$g(-v)=0$ なので同じことが右側の (ii) から従う。$t<0$ なら $0< v<\lvert t\rvert$ で $t\pm v<0$ より $G(v)=0$、$L=0$ である。どの場合も、ある $\delta'>0$ と $K'$ について $0< v<\delta'$ で $\lvert G(v)-L\rvert\le K'v$ が成り立つ。
段 3(三つに分ける).
$$ \int_0^\infty G(v)\frac{\sin Rv}{\pi v}\,dv=\underbrace{\int_0^{\delta'}\frac{G(v)-L}{\pi v}\sin Rv\,dv}_{A_R}+\underbrace{\frac L\pi\int_0^{\delta'}\frac{\sin Rv}v\,dv}_{B_R}+\underbrace{\int_{\delta'}^\infty\frac{G(v)}{\pi v}\sin Rv\,dv}_{C_R} $$
と分ける。$A_R$ の被積分関数の $\sin Rv$ 以外の因子は $\lvert\cdot\rvert\le K'/\pi$ で有界なので $(0,\delta')$ 上で積分可能であり、$C_R$ の因子は $\lvert G(v)\rvert/(\pi\delta')$ 以下なので $(\delta',\infty)$ 上で積分可能である。積分可能な関数 $\psi$ について $\int\psi(v)\sin Rv\,dv=\frac1{2i}\int\psi(v)(e^{iRv}-e^{-iRv})\,dv$ は、Fourier変換 の命題「有界性・連続性・無限遠での減衰」(Riemann–Lebesgue の補題)により $R\to\infty$ で $0$ に近づく($\psi$ を積分の範囲の外で $0$ と延ばし、同命題の規格化 $e^{-2\pi ix\xi}$ では $\xi=\mp R/(2\pi)$ での値として当てる)。よって $A_R\to0$、$C_R\to0$ である。$B_R$ は $x=Rv$ と置いて $\frac L\pi\int_0^{R\delta'}\frac{\sin x}x\,dx$ であり、特性関数(確率論) の補題「Dirichlet 積分」により $\frac L\pi\cdot\frac\pi2=\frac L2$ に近づく。
段 4(まとめ).以上から $\lim_RI_R(t)=e^{ct}L/2$ である。$t>0$ なら $e^{ct}L=f(t+)+f(t-)$、$t=0$ なら $L=f(0+)$、$t<0$ なら $L=0$ で、1・2・3 を得る。右辺は $c$ を含まないので、値は $c$ によらない。$\square$

証明が示すように、Bromwich 積分は $e^{-ct}f(t)$($t<0$ では $0$)の Fourier 反転であり、重み $e^{-ct}$ は $f$ を積分可能にするために掛けたものである。条件 (ii) は Fourier 級数の各点収束で使われる条件と同じ型で、跳びがあれば平均値を返す(Fourier級数 の定理「各点収束の定理(Dirichlet)」と比べよ)。1 から、(i) と (ii) を満たす $f$ の連続点での値は、直線 $\operatorname{Re}s=c$ の上の $F$ の値だけで決まる。実数の $s$ での一致から関数が決まることは 逆Laplace変換 の定理「Lerchの一意性定理」が述べており、二つの定理は使う情報が違う。

留数による計算

$F$ が有理関数なら、Bromwich 線を左へ大きな半円で閉じ、留数定理 で値を求められる。

有理関数の Bromwich 積分

$P,Q$ を複素係数多項式で $\deg P<\deg Q$、$F=P/Q$ は約分済みとし、$Q$ の相異なる根を $a_1,\ldots,a_m$ とする。$c>\max_j\operatorname{Re}a_j$ とし、$I_R(t)$ を def-bi-integral の式の $F$ に $P/Q$ を入れたものとする。このとき
$$ \lim_{R\to\infty}I_R(t)=\begin{cases}\displaystyle\sum_{j=1}^m\operatorname{Res}_{s=a_j}\bigl(e^{st}F(s)\bigr)&(t>0),\\[2mm] 0&(t<0)\end{cases} $$
である。

$\deg P<\deg Q$ なので、ある $M,R_0$ について $\lvert s\rvert\ge R_0$ で $\lvert F(s)\rvert\le M/\lvert s\rvert$ である。
$t>0$ とする。$R$ を $R>\lvert c\rvert+R_0$ かつ $R>\max_j\lvert a_j-c\rvert$ にとる。$z$ が上半円 $C_R=\{Re^{i\theta}:0\le\theta\le\pi\}$ を動くとき、$s=c+iz$ は中心 $c$、半径 $R$ の左半円 $\Gamma_R$ を $c+iR$ から $c-iR$ へ動く。Bromwich 線の線分と $\Gamma_R$ をつないだ閉曲線は、左半円板 $\{\lvert s-c\rvert< R,\ \operatorname{Re}s< c\}$ の境界を反時計回りに 1 周し、すべての極 $a_j$ はこの半円板の内部にある。留数定理 の定理「単連結領域における留数定理」により
$$ I_R(t)+\frac1{2\pi i}\int_{\Gamma_R}e^{st}F(s)\,ds=\sum_{j=1}^m\operatorname{Res}_{s=a_j}\bigl(e^{st}F(s)\bigr) $$
である。$ds=i\,dz$、$e^{st}=e^{ct}e^{itz}$ なので、円弧の積分は
$$ \frac1{2\pi i}\int_{\Gamma_R}e^{st}F(s)\,ds=\frac{e^{ct}}{2\pi}\int_{C_R}F(c+iz)\,e^{itz}\,dz $$
となる。$C_R$ の上で $\lvert c+iz\rvert\ge R-\lvert c\rvert\ge R_0$ なので $\lvert F(c+iz)\rvert\le M/(R-\lvert c\rvert)$ であり、これは $R\to\infty$ で $0$ に近づく。Jordanの補題 の補題「Jordan の補題」(周波数 $\omega=t>0$)により、円弧の積分は $0$ に近づく。よって $I_R(t)$ は留数の和に収束する。
$t<0$ なら、$s=c-iz$ で右半円に閉じる。$e^{st}=e^{ct}e^{i\lvert t\rvert z}$ なので同じく Jordan の補題が使え、右半円板の中に極はないので Cauchy の積分定理(留数の和が $0$ の場合)から $I_R(t)\to0$ である。$\square$

単根 $a_j$ では $\operatorname{Res}_{s=a_j}e^{st}P/Q=P(a_j)e^{a_jt}/Q'(a_j)$(留数定理 の命題「極における留数の公式」の 2)であり、逆Laplace変換 の定理「単根の展開公式」と一致する。重根でも同じ命題の 1 から 逆Laplace変換 の定理「重根の展開公式」と同じ式が出る。部分分数の方法と Bromwich 積分の方法は、有理関数では同じ答えを別の道筋で与える。
$t=0$ では Jordan の補題が使えず、実際に値は留数の和と違うことがある。$F=1/s$ では留数の和は $1$ だが、thm-bi-inversion の 2 により Bromwich 積分は $f(0+)/2=1/2$ である。

計算の手順

  1. 収束域を決める:$F$ の特異点(極・分岐点)をすべて求め、それらより右に $c$ をとる。$F=\mathcal L[f]$ と分かっているときは、$f$ が (i) を満たす $c$ をとる。
  2. 閉じ方を決める:$t>0$ なら左に、$t<0$ なら右に閉じる。$e^{-as}$ の因子があるときは、$e^{s(t-a)}$ とまとめ、$t>a$ なら左、$t< a$ なら右に閉じる。
  3. 円弧の寄与を評価する:$F\to0$($\lvert s\rvert\to\infty$)を確かめ、Jordan の補題を使う。真にプロパーでない有理関数は先に多項式部分を除く(多項式部分は通常の関数の変換ではない)。
  4. 内部の特異点を処理する:極なら留数を足す(thm-bi-residue)。分岐点があれば、切断の両側を回る経路に変形し、実軸上の積分に直す(ex-bi-sqrt)。
  5. 確かめる:得た $f$ を変換して $F$ に戻るか、または $t\to0+$ の値と $F$ の無限遠の振る舞いが合うかを確かめる。不連続点では平均値になることに注意する。

例題

単純な極

$F(s)=1/(s(s+1))$、$c=1$。極は $0$ と $-1$ で、留数は $1$ と $e^{-t}/(-1)$ なので、$t>0$ で値は $1-e^{-t}$、$t=1$ で $\approx0.632121$ である。使う公式は thm-bi-residue である。

2 位の極と複素共役の極

$F(s)=s^2/((s+2)^2(s^2+1))$、$c=1$。$t>0$ での値は
$$ f(t)=\frac45te^{-2t}-\frac4{25}e^{-2t}+\frac{4\cos t-3\sin t}{25} $$
で、$f(1)\approx0.072086$ である。$f(0)=0$ は、$F(s)\sim1/s^2$($s\to\infty$)と合う。

留数の計算を開く

$s=-2$ は 2 位の極なので、留数定理 の命題「極における留数の公式」の 1 から留数は $\frac{d}{ds}\Bigl[\frac{e^{st}s^2}{s^2+1}\Bigr]_{s=-2}=\frac45te^{-2t}+e^{-2t}\Bigl[\frac{2s}{(s^2+1)^2}\Bigr]_{s=-2}=\frac45te^{-2t}-\frac4{25}e^{-2t}$ である。$s=i$ では同じ命題の 2 から $\frac{e^{it}\cdot i^2}{(i+2)^2\cdot2i}=\frac{-e^{it}}{2i(3+4i)}=\frac{(8+6i)e^{it}}{100}$ であり、$s=-i$ の留数はその共役なので、二つの和は $2\operatorname{Re}\frac{(8+6i)e^{it}}{100}=\frac{4\cos t-3\sin t}{25}$ である。

遅れのある階段関数と跳びでの値

$a>0$、$F(s)=e^{-as}/s$、$c>0$。$e^{st}F(s)=e^{s(t-a)}/s$ なので、$t>a$ では左に閉じて留数 $1$、$t< a$ では右に閉じて $0$ である(thm-bi-residue を $1/s$ と時刻 $t-a$ に使う)。$t=a$ では、$F$ は $f(t)=u(t-a)$($t< a$ で $0$、$t\ge a$ で $1$)の変換で、$f$ は (i)・(ii) を満たすので、thm-bi-inversion の 1 により値は $\frac12(1+0)=\frac12$ である。$f(a)=1$ ではない。

分岐点をもつ関数

$F(s)=s^{-1/2}$($\operatorname{Re}s>0$ で正の実部をもつ平方根)、$c>0$。$f(t)=1/\sqrt{\pi t}$ は $\int_0^\infty e^{-ct}t^{-1/2}\,dt<\infty$ と、$t>0$ で (ii) を満たし、$\mathcal L[f]=s^{-1/2}$ である。よって thm-bi-inversion の 1 により、$t>0$ で Bromwich 積分は $1/\sqrt{\pi t}$ であり、$t=1$ で $\approx0.564190$ である。

変換の確かめと、切断を回る計算を開く

変換:正の実数 $s$ では $\int_0^\infty e^{-st}t^{-1/2}\,dt=\Gamma(1/2)s^{-1/2}=\sqrt{\pi}\,s^{-1/2}$ である(Γ関数)。左辺は $\operatorname{Re}s>0$ で $s$ について正則(積分記号の下で微分でき、$\lvert te^{-st}t^{-1/2}\rvert\le t^{1/2}e^{-\sigma_0t}$ で $\operatorname{Re}s\ge\sigma_0>0$ のとき一様に抑えられる)、右辺も正則なので、一致の定理により $\operatorname{Re}s>0$ で一致する。

切断を回る計算:負の実軸を切断とし、Bromwich 線を、負の実軸の下側を $-\infty$ から $0$ へ進み、原点を回って上側を $0$ から $-\infty$ へ戻る経路へ変形する(遠方の円弧の寄与は $\lvert F\rvert\le\lvert s\rvert^{-1/2}$ と Jordan の補題の評価で $0$ に近づき、原点の小円の寄与も $0$ に近づく)。$s=xe^{\pm i\pi}$ では $s^{-1/2}=x^{-1/2}e^{\mp i\pi/2}$ なので、二つの岸の寄与を合わせて $\frac1{2\pi i}\cdot2i\int_0^\infty e^{-xt}x^{-1/2}\,dx=\frac1\pi\Gamma(1/2)t^{-1/2}=\frac1{\sqrt{\pi t}}$ となり、上と一致する。

使える条件と反例

外す条件反例成り立たなくなること
Bromwich 線がすべての特異点より右((i))$F=1/(s(s+1))$、$c=-\frac12$、$t=1$値は $-e^{-1}$ で、$1-e^{-1}$ を返さない
点 $t$ での連続性$F=e^{-s}/s$、$t=1$値は $\frac12$ で、$f(1)=1$ を返さない
$t\neq0$$F=1/s$、$t=0$値は $\frac12$ で、留数の和 $1$ と違う
対称な打ち切り$F=1/s$、$c=1$、$t=0$、上端 $2R$・下端 $R$極限は $\frac12-\frac{i\log2}{2\pi}$ で、上下の端を独立に動かすと収束しない
$t>0$ で左に閉じる$F=1/(s+1)$、$t=-1$値は $0$ で、留数 $e$ と違う
$\deg P<\deg Q$$F=s/(s+1)$、$c=1$、$t=1$$I_R(1)$ に $e\sin R/\pi$ が残り、極限が存在しない
各行の確かめを開く

1 行目:$c=-\frac12$ の線は極 $0$ の左、極 $-1$ の右を通る。$1-e^{-t}$ は $\int_0^\infty e^{t/2}\lvert1-e^{-t}\rvert\,dt=\infty$ で (i) を満たさない。左に閉じると半円板の中の極は $-1$ だけで、留数は $e^{-t}/(-1)$ である。2 行目:ex-bi-step。3 行目:$f=1$ で thm-bi-inversion の 2。4 行目:$\frac1{2\pi}\int_{-R}^{2R}\frac{d\omega}{1+i\omega}=\frac1{2\pi}\Bigl[\arctan\omega\Bigr]_{-R}^{2R}-\frac i{4\pi}\Bigl[\log(1+\omega^2)\Bigr]_{-R}^{2R}$ で、実部は $\frac12$ に、虚部は $-\frac1{4\pi}\log4$ に近づく。上端を $kR$ にすると虚部の極限は $-\frac{\log k}{2\pi}$ で、$k$ によって違う。5 行目:thm-bi-residue の $t<0$ の場合。6 行目:$F=1-\frac1{s+1}$ で、定数 $1$ の部分は $\frac1{2\pi}\int_{-R}^{R}e^{(1+i\omega)}\,d\omega=\frac{e\sin R}\pi$ を与え、残りの $-\frac1{s+1}$ の部分は $-e^{-1}$ に近づく。

よくある誤り

誤り正しくはなぜ
$c$ を任意の実数にとるすべての特異点より右((i) を満たす範囲)反例の表の 1 行目
跳びの点でも $f(t)$ が出る左右の極限の平均thm-bi-inversion の 1
$t=0$ でも留数の和$f(0+)/2$thm-bi-inversion の 2
上端と下端を別々に無限大にする対称に打ち切って極限をとる反例の表の 4 行目
$e^{-as}$ があっても左に閉じる$t< a$ では右に閉じて $0$ex-bi-step
分岐点を極と同じに扱って留数を足す切断の両岸を回る積分にするex-bi-sqrt

補足

$s=c+i\omega$ と置くと、Laplace 変換は $e^{-ct}f(t)$(負の時刻では $0$)の Fourier 変換になり、Bromwich 積分はその反転積分になる。Fourier変換 の定理「Fourier反転公式」は変換が積分可能な場合の反転であり、Laplace 変換では $F(c+i\omega)$ が $\omega$ について積分可能でないこと($F=1/s$ など)が多いので、対称な打ち切りと条件 (ii) による各点の反転が要る。複素関数論の教科書では、この積分による逆 Laplace 変換の計算は留数定理の応用として扱われる(LebGCCA26 Exercise 5.3.6、p. 135 は Mellin の反転公式の名で式を挙げ、留数定理で逆変換を計算させている)。
Bromwich 積分は、変換表にない関数の逆変換、熱方程式のように $\sqrt s$ を含む変換の逆変換、$t\to\infty$ での漸近挙動(もっとも右の特異点が支配する)の解析に使われる。有理関数では部分分数の方法と同じ答えになるので、計算の確かめにも使える。

関連項目

参考文献

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