離散付値環

同義語:discrete valuation ringDVR

概要

離散付値環(discrete valuation ring)とは、商体 $K$ 上の全射な離散付値 $v\colon K^\times\to\mathbb{Z}$ によって $\{x\mid v(x)\ge0\}\cup\{0\}$ と表される整域のことであり、DVR と略される。$v(\pi)=1$ となる一意化元 $\pi$ をとると、$0$ でない元は $\pi^nu$($u$ は単元)と一意に書け、イデアルは $(\pi^n)$ だけである。体でない整域について、離散付値環であることは、局所単項イデアル整域であること、極大イデアルが単項な Noether 局所環であること、1 次元の正則局所環であることと同値である。代表例は $\mathbb{Z}_{(p)}$、$k[\![t]\!]$、$\mathbb{Z}_p$ で、曲線の点の局所環や数論の局所理論の基本となる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 整域, 商体, 局所環, 単項イデアル整域, 付値環

定義

本記事では、環は単位元をもつ可換環とする。$K$とし、$K^\times=K\setminus\{0\}$ と書く。

体の離散付値

$K$離散付値(discrete valuation)とは、全射 $v\colon K^\times\to\mathbb{Z}$ であって、任意の $x,y\in K^\times$ について

  1. $v(xy)=v(x)+v(y)$
  2. $x+y\neq0$ ならば $v(x+y)\ge\min\{v(x),v(y)\}$
    を満たすものをいう。$v(0):=\infty$ と約束すると、2 は $x+y=0$ の場合も含めて成り立つ。

1 から $v(1)=2v(1)$ より $v(1)=0$$2v(-1)=v(1)=0$ より $v(-1)=0$、したがって $v(-x)=v(x)$$v(x^{-1})=-v(x)$ である。また $v(x)\neq v(y)$ なら $v(x+y)=\min\{v(x),v(y)\}$ である。実際 $v(x)< v(y)$ とし $v(x+y)>v(x)$ と仮定すると、$x=(x+y)+(-y)$ に 2 を用いて $v(x)\ge\min\{v(x+y),v(y)\}>v(x)$ となり矛盾する。

離散付値環

$v$ を体 $K$ の離散付値とする。
$$ R_v:=\{x\in K^\times\mid v(x)\ge0\}\cup\{0\} $$
$1$ を含み和と積で閉じるので $K$部分環であり、これを $v$離散付値環という。整域 $R$離散付値環(discrete valuation ring、DVR)であるとは、$R$商体 $K$ の離散付値 $v$$R=R_v$ となるものが存在することをいう。
離散付値環 $R=R_v$ の元 $\pi$$v(\pi)=1$ を満たすものを $R$一意化元(uniformizer)という。$v$ が全射なので一意化元は存在する。

$R_v$$K$ の部分環であることは、$v(x+y)\ge\min\{v(x),v(y)\}\ge0$$v(xy)=v(x)+v(y)\ge0$ から分かる。$R_v$ の商体は $K$ である。$x\in K^\times$ について $v(x)\ge0$ なら $x=x/1$$v(x)<0$ なら $v(x^{-1})>0$$x=1/x^{-1}$$R_v$ の元の商に書けるからである。この事実から、$R_v$付値環 の記事の定義「付値環」の意味で付値環であり、同記事の定義「離散付値環の定義」(値群が $\mathbb{Z}$ と同型な付値の付値環)と上の定義は一致する。全射性を課すのは、値の目盛りを $v(\pi)=1$ に揃える(正規化する)ためで、値域が $\mathbb{Z}$$0$ でない部分群 $n\mathbb{Z}$ である付値は $n$ で割れば離散付値になる。値域が $\{0\}$ の付値(自明な付値)の付値環は $K$ 自身であり、体は離散付値環に含めない。

離散付値環の基本構造

$R=R_v$ を離散付値環、$\pi$ を一意化元、$\mathfrak{m}:=\{x\in R\mid v(x)\ge1\}\cup\{0\}$ とする。

  1. $x\in R$$R$単元であることと、$x\neq0$ かつ $v(x)=0$ であることは同値である。
  2. $K^\times$ の各元 $x$$x=\pi^nu$$n\in\mathbb{Z}$$u\in R^\times$)とただ 1 通りに書け、$n=v(x)$ である。$x\in R$ であることは $n\ge0$ と同値である。
  3. $R$$0$ でないイデアル$(\pi^n)=\mathfrak{m}^n$$n\ge0$)に限り、これらは互いに異なる。特に $R$単項イデアル整域で、$\mathfrak{m}=(\pi)$ をただ 1 つの極大イデアルとする局所環であり、素イデアル$0$$\mathfrak{m}$ だけである。したがって Krull次元$1$ である。
  4. $\bigcap_{n\ge0}\mathfrak{m}^n=0$ であり、$0$ でない $x\in R$ について $v(x)=\max\{n\ge0\mid x\in\mathfrak{m}^n\}$ である。特に、$R$ が離散付値環となる離散付値 $v$ は環 $R$ だけから決まり、一意化元とは $\mathfrak{m}$ の生成元のことである。

1:$x\neq0$$v(x)=0$ なら $v(x^{-1})=0$ なので $x^{-1}\in R$ である。逆に $xy=1$$x,y\in R$)なら $v(x)+v(y)=0$$v(x),v(y)\ge0$ なので $v(x)=0$ である。
2:$n:=v(x)$$u:=x\pi^{-n}$ とおくと $v(u)=v(x)-n=0$ なので、1 により $u\in R^\times$$x=\pi^nu$ である。$\pi^nu=\pi^mu'$$u,u'\in R^\times$)なら両辺の $v$ をとって $n=m$、したがって $u=u'$ である。$x\in R$$v(x)=n\ge0$ と同値である。
3:$I\neq0$ をイデアルとし、$n:=\min\{v(x)\mid x\in I,\ x\neq0\}$ とおき、$v(x_0)=n$ となる $x_0\in I$ をとる。2 により $x_0=\pi^nu$$u$ は単元なので $\pi^n\in I$、よって $(\pi^n)\subset I$ である。逆に $0\neq y\in I$ なら $v(y)\ge n$ なので $y=\pi^n\cdot(y\pi^{-n})$$y\pi^{-n}\in R$$y\in(\pi^n)$ である。よって $I=(\pi^n)$ である。$v(\pi^n)=n$ なので、$n$ が違えば $(\pi^n)$ も違う。$\mathfrak{m}=\{x\mid v(x)\ge1\}\cup\{0\}=(\pi)$ であり、$(\pi)^n=(\pi^n)$ なので $\mathfrak{m}^n=(\pi^n)$ である。すべてのイデアルが単項なので $R$ は単項イデアル整域である。真のイデアルは $n\ge1$$(\pi^n)$$0$ で、すべて $\mathfrak{m}$ に含まれるので、$\mathfrak{m}$ がただ 1 つの極大イデアルである。$n\ge2$ なら $\pi\cdot\pi^{n-1}\in(\pi^n)$ だが $\pi,\pi^{n-1}\notin(\pi^n)$$v$ の値が $n$ 未満)なので $(\pi^n)$ は素イデアルでない。$R$ は整域なので $0$ は素イデアルであり、$\mathfrak{m}$ は極大イデアルなので素イデアルである。素イデアルの鎖は $0\subsetneq\mathfrak{m}$ が最長である。
4:3 の証明から、$0\neq x\in R$ について $x\in\mathfrak{m}^n=(\pi^n)$$v(x)\ge n$ と同値である。よって $x\in\mathfrak{m}^n$ となる $n$ の最大値は $v(x)$ であり、$x\notin\mathfrak{m}^{v(x)+1}$ なので $x\notin\bigcap_n\mathfrak{m}^n$ である。右辺 $\max\{n\mid x\in\mathfrak{m}^n\}$ は環 $R$ とそのイデアル $\mathfrak{m}$ だけで決まり、$K^\times$ 上の $v$$v(x/y)=v(x)-v(y)$ で決まるので、$v$$R$ から一意に定まる。最後に、$\varpi\in R$ について $v(\varpi)=1$$(\varpi)=\mathfrak{m}$ が同値であることを示す。$v(\varpi)=1$ なら、$y\in\mathfrak{m}$$y=\varpi\cdot(y\varpi^{-1})$$v(y\varpi^{-1})\ge0$ と書けるので $(\varpi)=\mathfrak{m}$ である。逆に $(\varpi)=\mathfrak{m}$ なら、3 の証明により $(\varpi)=(\pi^{v(\varpi)})$ で、これが $\mathfrak{m}=(\pi)$ に等しいので $v(\varpi)=1$ である。$\square$

2 により、離散付値環の $0$ でない元は「一意化元の冪 × 単元」に一意に分解し、付値 $v(x)$ はその冪の指数である。離散付値環の剰余体 $\kappa:=R/\mathfrak{m}$$R$ の剰余体という。

直感

$p$素数とし、有理数 $x\neq0$$p$ で何回割り切れるか(分母にあれば負の回数)を $v_p(x)$ とする。$v_p$ は離散付値であり、その離散付値環 $\mathbb{Z}_{(p)}$ は「分母が $p$ で割り切れない有理数」の環である。この環では $p$ 以外の素数はすべて可逆になり、素数は実質 $p$ ただ 1 つになる。同様に、複素平面の点 $a$ での有理関数の零点の位数(極なら負)は離散付値で、その離散付値環は「$a$ で極をもたない有理関数」の環である。離散付値環は「ただ 1 つの素数(または 1 点)に注目して、割り切れる回数だけを見る」環であり、数論では素数 $p$ での局所的な算術、代数幾何では滑らかな曲線の 1 点の近くの関数を表す。その算術は極めて単純で、すべての元が $\pi^nu$ と書け、イデアルは $\mathfrak{m}^n$ の列だけである。

例と反例

素数での局所化 $\mathbb{Z}_{(p)}$

$p$ を素数とする。$0$ でない有理数 $x=p^ea/b$$a,b\in\mathbb{Z}$$p\nmid ab$)に対し $v_p(x):=e$ とおくと、$v_p\colon\mathbb{Q}^\times\to\mathbb{Z}$ は離散付値である($v_p$ が表示によらず 2 条件を満たすことは 付値環 の記事の例「素数による局所化」で確かめられている。$v_p(p)=1$ なので全射)。その離散付値環は
$$ \mathbb{Z}_{(p)}=\left\{\frac ab\in\mathbb{Q}\ \middle|\ a,b\in\mathbb{Z},\ p\nmid b\right\} $$
で、$\mathbb{Z}$ の素イデアル $(p)$ における局所化である。一意化元は $p$、極大イデアルは $p\mathbb{Z}_{(p)}$、剰余体は $\mathbb{Z}_{(p)}/p\mathbb{Z}_{(p)}\cong\mathbb{F}_p$ である(剰余体 の記事の例「素数での局所化 $\mathbb{Z}_{(p)}$ の剰余体」)。より一般に、単項イデアル整域 $A$$0$ でない素イデアル $\mathfrak p$ での局所化 $A_{\mathfrak p}$ は離散付値環である(単項イデアル整域 の記事の命題「局所化と剰余環」)。たとえば Gauss整数環の Gauss 素数 $2+i$ での局所化 $\mathbb{Z}[i]_{(2+i)}$ は、剰余体 $\mathbb{F}_5$ をもつ離散付値環である。

有理関数体の離散付値

$k$ を体、$K=k(t)$有理関数体とする。

  1. $a\in k$ に対し、$0$ でない $f\in K$$f=(t-a)^eg/h$$g,h\in k[t]$$g(a)h(a)\neq0$)と書いて $v_a(f):=e$ とおくと、$v_a$ は離散付値で、$f$$a$ における零点の位数(極なら負の位数。零点の位数)を表す。$k[t]$ は単項イデアル整域なので、その離散付値環は局所化 $k[t]_{(t-a)}=\{g/h\mid h(a)\neq0\}$ であり、一意化元は $t-a$、剰余体は $k$(値 $f\mapsto f(a)$)である。
  2. $0$ でない $g,h\in k[t]$ について $v_\infty(g/h):=\deg h-\deg g$ とおくと、$v_\infty$$K$ の離散付値である($\deg(gh)=\deg g+\deg h$$\deg(g+h)\le\max\{\deg g,\deg h\}$ による。$v_\infty(1/t)=1$)。これは $s=1/t$ とおいたときの $s=0$ での零点の位数で、離散付値環は $\{g/h\mid\deg g\le\deg h\}=k[s]_{(s)}$ である。
    $k$ 上自明な($k^\times$ で値 $0$ をとる)$K$ の離散付値には、$v_\infty$ と、モニック既約多項式 $q\in k[t]$ ごとの $v_q$$q=t-a$ のとき $v_a$)があり、代数幾何学ではそれらが射影直線 $\mathbb{P}^1_k$ の点($\infty$ を含む)に対応する。
形式的冪級数環 $k[\![t]\!]$

$k$ を体とする。形式的冪級数$k[\![t]\!]$$0$ でない元 $f$ は、$f=t^nu$$n\ge0$$u$ は定数項が $0$ でない冪級数で、$k[\![t]\!]$ の単元)とただ 1 通りに書け、$n$$f$$t$ 進位数という。これを形式的Laurent級数$k(\!(t)\!)$ へ延ばしたものは離散付値であり、その離散付値環が $k[\![t]\!]$ である(付値環 の記事の例「形式冪級数環の付値」)。一意化元は $t$、剰余体は $k$ である。$k[\![t]\!]$$k[t]_{(t)}$完備化であり、$k[t]_{(t)}\subsetneq k[\![t]\!]$ である(たとえば $e^t=\sum t^n/n!$$k=\mathbb{Q}$)は右辺にだけ属する。$k[t]_{(t)}$ の元 $g/h$ が多項式でなければ、冪級数として展開したとき $h$ の根で極になるので収束半径が有限だが、$e^t$ は収束半径が無限大で、しかも多項式でないから $k[t]_{(t)}$ に属さない)。

$p$ 進整数環 $\mathbb{Z}_p$

$p$ 進数体 $\mathbb{Q}_p$p進数)の $0$ でない元 $x$ について、$|x|_p$$p$ の整数冪であり(p進数 の記事の命題「絶対値と体構造の延長」)、$|x|_p=p^{-v_p(x)}$ によって $v_p(x)\in\mathbb{Z}$ が定まる。$p$ 進絶対値の乗法性と強三角不等式 $|x+y|_p\le\max\{|x|_p,|y|_p\}$ は、それぞれ $v_p(xy)=v_p(x)+v_p(y)$$v_p(x+y)\ge\min\{v_p(x),v_p(y)\}$ にほかならず、$v_p(p)=1$ なので、$v_p$$\mathbb{Q}_p$ の離散付値である。その離散付値環は $\{x\mid|x|_p\le1\}=\mathbb{Z}_p$p進数 の記事の定義「p進整数」)である。一意化元は $p$、剰余体は $\mathbb{F}_p$ で、$\mathbb{Z}_p$$0$ でない元は $p^nu$$u\in\mathbb{Z}_p^\times$、すなわち $p$ 進展開の最初の桁が $0$ でない元)と書ける(同記事の系「p進整数の単元判定」)。$\mathbb{Z}_p$$\mathbb{Z}_{(p)}$ の完備化である。

反例:局所環でない単項イデアル整域 $\mathbb{Z}$

$\mathbb{Z}$ は体でない単項イデアル整域だが、$(2)$$(3)$ という相異なる極大イデアルをもつので局所環でなく、prop-discrete-valuation-ring-structure の 3 により離散付値環でない。$\mathbb{Z}$ は「単項イデアル整域」「Krull 次元 $1$」を満たすが「局所環」を満たさず、含意「体でない単項イデアル整域は離散付値環である」を破る。局所化 $\mathbb{Z}_{(p)}$ をとると局所環になり、離散付値環が得られる(ex-discrete-valuation-ring-z-p)。

反例:2 変数の多項式環の原点での局所化

$k$ を体、$A=k[x,y]_{(x,y)}=\{f/g\mid f,g\in k[x,y],\ g(0,0)\neq0\}$ とする。$A$ は Noether 局所整域で、極大イデアルは $\mathfrak{m}=(x,y)A$ である。$A$ は離散付値環でない。
証明$\mathfrak{m}$ が単項イデアルでないことを示せば、prop-discrete-valuation-ring-structure の 3 により十分である。まず $x,y$ の類は $A/\mathfrak{m}=k$ 上のベクトル空間 $\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2$ で 1 次独立である。実際 $ax+by\in\mathfrak{m}^2$$a,b\in k$)とすると、$\mathfrak{m}^2$ の元は $h/g$$h\in(x,y)^2\subset k[x,y]$$g(0,0)\neq0$)と書けるので $g\cdot(ax+by)=h$ となる。両辺の 1 次の項を比べると、左辺は $g(0,0)(ax+by)$、右辺は $h$ が 2 次以上の項だけからなるので $0$ であり、$g(0,0)\neq0$ より $a=b=0$ である。一方 $\mathfrak{m}=(f)$ と仮定すると、$\mathfrak{m}$ の元は $fc$$c\in A$)で、$c-c_0\in\mathfrak{m}$$c_0\in k$$c$$(0,0)$ での値)より $fc\equiv c_0f\pmod{\mathfrak{m}^2}$ なので、$\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2$$f$ の類で張られ、次元は $1$ 以下になる。これは矛盾である。
$(x)A$$0$ でも $\mathfrak{m}$ でもない素イデアルである($A/(x)A$ は整域 $k[y]_{(y)}$)ので、$A$ の Krull 次元は $2$ 以上であり、この点からも prop-discrete-valuation-ring-structure の 3 に反する。$A$ は「Noether 局所整域」「整閉整域」($k[x,y]$一意分解整域なので)を満たすが「離散付値環」を満たさず、含意「Noether 局所整閉整域は離散付値環である」を破る。この含意には次元 $1$ の仮定が要る(thm-discrete-valuation-ring-normal)。

反例:尖点の局所環

$k$ を体、$B=k[t^2,t^3]=\{\sum_nc_nt^n\in k[t]\mid c_1=0\}$$\mathfrak{m}_0=(t^2,t^3)B$$A=B_{\mathfrak{m}_0}$ とする(平面曲線 $y^2=x^3$ の原点の局所環)。$B$ は有限生成な $k$ 代数(有限生成代数)なのでNoether環であり、$A$ は Noether 局所整域である。$B\subset k[t]$整拡大$t$$X^2-t^2$ の根)なので $B$ の Krull 次元は $k[t]$ と同じ $1$ であり(整拡大で Krull 次元が保たれること。AM69 Chapter 5)、$\mathfrak{m}_0\neq0$ なので $A$ の Krull 次元も $1$ である。しかし $A$ は離散付値環でない。
証明$A$ の商体は $k(t)$ で、$t=t^3/t^2$ はその元である。$t$$X^2-t^2=0$$t^2\in A$)を満たすので $A$整元である。$t\notin A$ を示す。$t=f/g$$f,g\in B$$g\notin\mathfrak{m}_0$、すなわち $g$ の定数項 $g_0\neq0$)とすると $tg=f\in B$ だが、$tg$$t^1$ の係数は $g_0\neq0$ なので $tg\notin B$ となり矛盾する。よって $A$ は整閉でない。一方、離散付値環は整閉である(thm-discrete-valuation-ring-characterization の 5)。したがって $A$ は離散付値環でない。
$A$ は「Noether 局所整域」「Krull 次元 $1$」を満たすが「整閉」を満たさず、含意「1 次元の Noether 局所整域は離散付値環である」を破る。極大イデアル $\mathfrak{m}=\mathfrak{m}_0A$ は単項でない。実際 $\mathfrak{m}_0$$t^n$$n\ge2$)で張られ、$\mathfrak{m}_0^2$$t^n$$n\ge4$)で張られるので $\mathfrak{m}_0/\mathfrak{m}_0^2$$t^2,t^3$ の類を基底とする 2 次元の $k$ ベクトル空間であり、$\mathfrak{m}_0$ で消える加群は $\mathfrak{m}_0$ での局所化で変わらない($g\notin\mathfrak{m}_0$$0$ でない定数 $g_0$ 倍として作用する)ので $\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2$ も 2 次元である。単項イデアル $(f)$ なら $\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2$$f$ の類で張られる(ex-discrete-valuation-ring-two-variables の議論)ので、次元が $1$ 以下になるはずである。

反例:Noether でない付値環

値群が $\mathbb{Z}^2$(辞書式順序)の付値の付値環は、局所整域で割り切る関係が全順序だが、Noether 環でなく離散付値環でない(付値環 の記事の例「値群が2段の付値環」)。この環は「付値環」「局所整域」を満たすが「Noether」を満たさず、含意「付値環は離散付値環である」を破る。付値環が離散付値環であることは、それが体でなく Noether であることと同値である(付値環 の記事の定理「離散付値環の特徴づけ」)。

性質

同値な特徴づけ

離散付値環は付値を使わずに環の言葉だけで特徴づけられる。次の定理の 1・2・3 の同値は 付値環 の記事の定理「離散付値環の特徴づけ」でも示されている。ここでは $\bigcap_n\mathfrak{m}^n=0$ を先に示して付値を $\max\{n\mid x\in\mathfrak{m}^n\}$ として構成する形で、4・5 とあわせて証明する。

離散付値環の特徴づけ

$R$ を体でない整域とする。次の 1〜4 は同値である。

  1. $R$ は離散付値環である。
  2. $R$ は局所環である単項イデアル整域である。
  3. $R$Noether環 である局所環で、極大イデアル $\mathfrak{m}$ は単項イデアルである。
  4. $R$ は Noether 局所環で、Krull 次元が $1$、かつ剰余体 $\kappa=R/\mathfrak{m}$ 上のベクトル空間として $\dim_\kappa\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2=1$ である(すなわち $R$ は 1 次元の正則局所環である)。
    さらに、これらが成り立つとき次が成り立つ。
  5. $R$ は Krull 次元 $1$整閉整域である。

1 ⇒ 2:prop-discrete-valuation-ring-structure の 3 である。
2 ⇒ 3:単項イデアル整域ではすべてのイデアルが有限生成なので Noether 環である。
3 ⇒ 1:$\mathfrak{m}=(\pi)$ とする。$R$ は体でないので $\mathfrak{m}\neq0$、すなわち $\pi\neq0$ であり、$\pi$ は単元でない。
(a) $\bigcap_{n\ge0}(\pi^n)=0$ を示す。$0\neq x\in\bigcap_n(\pi^n)$ とし、$x=\pi^ny_n$$y_n\in R$)と書く。$\pi^ny_n=\pi^{n+1}y_{n+1}$$R$ は整域なので $y_n=\pi y_{n+1}$ であり、イデアルの増大列 $(y_0)\subset(y_1)\subset\cdots$ が得られる。Noether 性によりある $n$$(y_n)=(y_{n+1})$ となり、$y_{n+1}=cy_n=c\pi y_{n+1}$ である。$y_{n+1}\neq0$ なので $c\pi=1$ となり、$\pi$ が単元になって矛盾する。
(b) $0\neq x\in R$ について、(a) により $x\in(\pi^n)$ となる $n\ge0$ の最大値 $n(x)$ が存在する。$x=\pi^{n(x)}u$ と書くと $u\notin(\pi)=\mathfrak{m}$ であり(さもなければ $x\in(\pi^{n(x)+1})$)、$R$ は局所環なので $\mathfrak{m}$ に属さない元は単元である(局所環 の記事の命題「局所環の特徴づけ」)。表示 $x=\pi^nu$$u$ 単元)の $n$$n(x)$ に限る。$\pi^nu=\pi^mu'$$n< m$ なら約分して $u=\pi^{m-n}u'\in\mathfrak{m}$ となり矛盾するからである。
(c) $K$$R$ の商体とする。$0\neq x,y\in R$ について $x=\pi^{n(x)}u$$y=\pi^{n(y)}u'$ なので $xy=\pi^{n(x)+n(y)}uu'$ で、(b) の一意性から $n(xy)=n(x)+n(y)$ である。$v(x/y):=n(x)-n(y)$ と定めると、$x/y=x'/y'$ なら $xy'=x'y$ から $n(x)+n(y')=n(x')+n(y)$ なので、$v$$K^\times$ 上で well-defined であり、$v(ab)=v(a)+v(b)$ を満たす。$a=x/y$$b=x'/y$ と分母を揃えると $a+b=(x+x')/y$ で、$x=\pi^{n(x)}u$$x'=\pi^{n(x')}u'$$n(x)\le n(x')$ なら $x+x'=\pi^{n(x)}(u+\pi^{n(x')-n(x)}u')\in(\pi^{n(x)})$ なので $n(x+x')\ge n(x)$、すなわち $v(a+b)\ge\min\{v(a),v(b)\}$ である。$v(\pi)=1$ なので $v$ は全射で、離散付値である。$K^\times$ の元は $\pi^ku$$k\in\mathbb{Z}$$u\in R^\times$)と書け、$v(\pi^ku)=k$ なので、$R_v=\{\pi^ku\mid k\ge0\}\cup\{0\}=R$ である。
1 ⇒ 4:prop-discrete-valuation-ring-structure の 3 により $R$ は Noether 局所環で Krull 次元は $1$$\mathfrak{m}=(\pi)$ である。$\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2$$\pi$ の類で張られ($\pi c\equiv\bar c\,\pi$ を法 $\mathfrak{m}^2$ で)、$\pi\notin\mathfrak{m}^2=(\pi^2)$$v(\pi)=1<2$)なので、次元はちょうど $1$ である。
4 ⇒ 3:$\dim_\kappa\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2=1$ なので、その基底 $\bar\pi$ の代表 $\pi\in\mathfrak{m}$ をとると、局所環上の Nakayama の補題(局所環 の記事の系「生成元の判定」の 2。$\mathfrak{m}$ は Noether 性により有限生成)により $\mathfrak{m}=(\pi)$ である。
1 ⇒ 5:Krull 次元は上に示した。$x\in K$$R$ 上整、すなわち $x^n+a_1x^{n-1}+\dots+a_n=0$$a_i\in R$$n\ge1$)を満たすとし、$x\notin R$、つまり $x\neq0$ かつ $v(x)<0$ と仮定する。$1\le i\le n$ について $a_ix^{n-i}\neq0$ なら $v(a_ix^{n-i})=v(a_i)+(n-i)v(x)\ge(n-i)v(x)>nv(x)=v(x^n)$ である。よって $x^n$ の付値は他のどの項よりも真に小さく、$v(x)\neq v(y)$ のとき $v(x+y)=\min$ となる性質(定義の直後の段落)を繰り返し用いると、左辺の和の付値は $nv(x)$ であり、特に和は $0$ でない。これは矛盾である。よって $x\in R$ であり、$R$ は整閉である。$\square$

5 の逆も成り立つ。

整閉性による特徴づけ

$R$ を Noether 局所整域とし、Krull 次元が $1$ であるとする。$R$ が整閉ならば、$R$ は離散付値環である。

整閉性による特徴づけの出典

証明は AM69 Proposition 9.2、Mat86 Theorem 11.2 に譲る(付値環 の記事の定理「離散付値環の整閉性による特徴づけ」も同じ出典を挙げている)。証明の要点は、$0\neq a\in\mathfrak{m}$ をとると $\mathfrak{m}^n\subset(a)$ となる $n$ があり、$\mathfrak{m}^{n-1}\not\subset(a)$ となる $b\in\mathfrak{m}^{n-1}$$x:=a/b$ とおくと $x^{-1}\notin R$ かつ $x^{-1}\mathfrak{m}\subset R$ となり、もし $x^{-1}\mathfrak{m}\subset\mathfrak{m}$ なら有限生成な忠実加群 $\mathfrak{m}$ を保つことから $x^{-1}$$R$ 上整になって整閉性に反するので、$x^{-1}\mathfrak{m}=R$、すなわち $\mathfrak{m}=(x)$ が示されることである。thm-discrete-valuation-ring-characterization と合わせると、1 次元の Noether 局所整域について「離散付値環」「局所単項イデアル整域」「極大イデアルが単項」「正則」「整閉」はすべて同値になる。次元 1 の仮定と整閉性の仮定が外せないことは、それぞれ ex-discrete-valuation-ring-two-variablesex-discrete-valuation-ring-cusp が示す。この同値により、Dedekind整域は「体でない Noether 整域で、$0$ でない素イデアルでの局所化がすべて離散付値環であるもの」と特徴づけられる(Dedekind整域 の記事の定理「Noether整域におけるDedekind整域の特徴づけ」)。

剰余体と完備化

剰余体・完備化・構造定理

$R$ を離散付値環、$\pi$ を一意化元、$\kappa=R/\mathfrak{m}$ を剰余体とする。

  1. $n\ge0$ について $\mathfrak{m}^n/\mathfrak{m}^{n+1}$$\pi^n$ の類を基底とする 1 次元の $\kappa$ ベクトル空間である($\pi^nc\equiv\bar c\,\pi^n$)。したがって $R/\mathfrak{m}^n$加群の長さ$n$$R$ 加群で、$\kappa$ が有限体 $\mathbb{F}_q$ なら $|R/\mathfrak{m}^n|=q^n$ である。
  2. $\mathfrak{m}$完備化 $\hat R=\varprojlim_nR/\mathfrak{m}^n$ は再び離散付値環で、一意化元 $\pi$ と剰余体 $\kappa$ をもち、$R$ の付値は $\hat R$ の付値の制限である(Ser79 Chapter II §1)。$\mathbb{Z}_{(p)}$ の完備化は $\mathbb{Z}_p$$k[t]_{(t)}$ の完備化は $k[\![t]\!]$ である。
  3. 完備な離散付値環 $R$ が体を含み(等標数)、$\kappa$ が完全体なら、$R\cong\kappa[\![t]\!]$ である($\kappa$ が完全体でなくても同じ結論が成り立つ。完備化 の記事の定理「Cohen の構造定理」の 1 を 1 次元の正則局所環に適用する)。$R$標数$0$$\kappa$ が標数 $p$完全体混標数)、$p$ が一意化元のとき、$R$Wittベクトル$W(\kappa)$ に同型である(Ser79 Chapter II §4–§6)。$\mathbb{Z}_p=W(\mathbb{F}_p)$ はその例である。
代数幾何学と数論での役割

離散付値環は 1 次元の正則局所環(thm-discrete-valuation-ring-characterization の 4。正則局所環 の記事の命題「1 次元正則局所環は離散付値環」)であり、代数幾何学では正規な曲線の閉点における局所環として現れる。その付値は関数の零点の位数(零点の位数)であり、Weil因子の主因子 $\operatorname{div}(f)$ の係数はこの付値で定まる。$\operatorname{Spec}R$生成点 $(0)$ と閉点 $\mathfrak{m}$ の 2 点からなる(閉点)。離散付値環上のスキームは「1 パラメータの族」の局所的なモデルであり、付値判定法固有射分離射)や Néronモデル の理論の舞台になる。数論では、代数体整数環$0$ でない素イデアルでの局所化が離散付値環であり、その完備化が局所体の整数環になる。

関連項目

参考文献

[1]
Michael F. Atiyah, Ian G. Macdonald, Introduction to Commutative Algebra, Addison-Wesley(Westview Press 版), 1969, Chapter 5(整拡大と Krull 次元)、Chapter 9, Proposition 9.2(離散付値環の特徴づけ)
[3]
Jean-Pierre Serre, Local Fields, Graduate Texts in Mathematics 67, Springer, 1979, Chapter II §1(完備化)、§4–§6(完備離散付値環の構造と Witt ベクトル)

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について寄付する