Penneyのゲーム

同義語:Penney-antePenney's game

概要

Penneyのゲーム(Penney's game)とは、先手が表裏の並び $A$ を、後手がそれを見て別の並び $B$ を選び、公平な硬貨を投げ続けて先に自分の並びが現れた方が勝つゲームである。表を $\mathrm{H}$、裏を $\mathrm{T}$ と書くと、長さ $3$ の並びでは先手がどの $A$ を選んでも、後手は確率 $\frac23$ 以上で勝つ $B$ を選べる(HHH に THH で $\frac78$、HHT に THH で $\frac34$、HTH と HTT に HHT で $\frac23$)。「先に出やすい」は推移的でなく、THH→HHT→HTT→TTH→THH の輪ができる。待ち時間の期待値は HHT が $8$、HHH が $14$ だが両者は互角で、期待値の小さい並びが先に出やすいとは限らない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 非推移的なサイコロ, 期待値の漸化式と停止, 確率漸化式と定常分布

高校での出発点:表表裏と裏表表、どちらが先に出るか

硬貨を何回も投げて、表と裏の並びを記録していく。2 人がそれぞれ長さ 3 の表裏の並びを 1 つずつ選び、自分の並びが先に現れた方が勝つ。例えば「表表裏」と「裏表表」では、どちらが勝ちやすいだろうか。どちらの並びも、決まった 3 回で現れる確率は $\left(\dfrac12\right)^3=\dfrac18$ で同じなので、互角だと思いたくなる。
以下、表を H、裏を T と書く(表表裏は HHT、裏表表は THH)。

HHT と THH の競争

硬貨を投げ続け、HHT と THH のどちらが先に現れるかを考える。
(1) 最初の 2 回が HH のとき。その後は H が何回か続き、初めて T が出た回に HHT が現れる。THH が現れるには T の後に HH が必要だが、最初の T が出た時点で HHT が先に現れている。よって HHT が勝つ。
(2) 最初の 2 回が HH でないとき。HHT が現れるには、その前に HH が現れる必要がある。HH が初めて現れる回を考えると、その直前の回は T である(最初の 2 回は HH でないので HH の直前の回があり、それが H なら 1 回前に HH が現れていたことになる)。よって HH が初めて現れた回に、THH が現れている。HHT はその後にしか現れないので、THH が勝つ。
(3) (1) の確率は $\dfrac12\cdot\dfrac12=\dfrac14$ なので
$$ P(\text{HHT が先})=\frac14,\qquad P(\text{THH が先})=\frac34 $$
である(どちらかがいつかは現れることは lem-pny-end で確かめる)。

互角どころか、THH は HHT の 3 倍勝ちやすい。同じ論法で、次の組も計算できる。

HHH と THH の競争

HHH が勝つのは、最初の 3 回が HHH のときだけである。実際、最初の 3 回が HHH でないとき、HHH が初めて現れる回の 3 回前(並び HHH の直前の回)は T でなければならない(H なら 1 回前に HHH が現れていた)。その T と続く HH で THH が 1 回前に現れている。よって
$$ P(\text{HHH が先})=\frac18,\qquad P(\text{THH が先})=\frac78 $$
である。

この 2 つの例から、並びの選び方によって先に出やすさが大きく違うことが分かる。これを遊びにしたのが Penney のゲームである。先手が並びを選び、後手がそれを見てから別の並びを選ぶ。この記事で答える問いは次の 4 つである。

  1. 先手がどの並びを選んでも、後手は有利な並びを選べるか。→ thm-pny-main
  2. 「先に出やすい」は推移的か。→ cor-pny-cycle
  3. 並びが初めて現れるまでの回数の期待値はいくつか。期待値が小さい並びほど先に出やすいか。→ thm-pny-wait、ex-pny-cx-hhh-hht
  4. 確率はどうやって計算するか。→ def-pny-state、lem-pny-first-step
    高校の計算この記事の言葉大学の言葉
    最初の数回で場合を分ける状態と、最初の 1 回で分けた式吸収的な Markov 連鎖
    並びが現れるまでの回数の期待値待ち時間の期待値吸収までの時間の期待値
    先に現れる確率の連立方程式先着の確率吸収確率
    「強い」が輪になるサイコロ先に出やすい並びの輪推移的でない 2 項関係

言葉の準備:並び、待ち時間、状態

並びが現れる回と Penney のゲーム

表と裏が確率 $\dfrac12$ ずつで出る硬貨を投げ続ける。各回の結果は互いに独立とする。H と T を 3 つ並べたもの(HHT など、$2^3=8$ 通り)を 並び という。
(1) 並び $A$ が第 $n$ 回に 現れる とは、第 $n-2$ 回、第 $n-1$ 回、第 $n$ 回の結果がこの順に $A$ と一致することをいう。$A$ が初めて現れる回を $T_A$ と書き、$A$ の 待ち時間 という。
(2) Penney のゲーム では、先手が並び $A$ を選び、後手が $A$ と異なる並び $B$ を選ぶ。硬貨を投げ続け、$A$ と $B$ のうち先に現れた方の人が勝つ。

長さ 3 の異なる 2 つの並びは、同じ回に同時に現れることはない(同じ 3 回の結果が 2 つの異なる並びに一致することはない)。したがって引き分けはない。

待ち時間の値

結果が T, H, T, H, H, T, … と出たとする。HTH は第 4 回(2〜4 回目が H, T, H)に初めて現れるので $T_{\text{HTH}}=4$、HHT は第 6 回(4〜6 回目が H, H, T)に初めて現れるので $T_{\text{HHT}}=6$ である。先手が HTH、後手が HHT なら、この結果では第 4 回に先手が勝つ。

先に現れる確率を計算するには、期待値の漸化式と停止 と同じく、途中の様子を「状態」として覚えておく。

状態

並び $A$、$B$ の 頭の部分 とは、並びの最初の何文字か(並び全体は除く)のことをいう(例えば HHT の頭の部分は H と HH)。何回か投げた後の 状態 とは、それまでの結果の最後の部分のうち、$A$ か $B$ の頭の部分に一致する最も長いものをいう。一致するものがないときは「始め」という。投げる前の状態も「始め」とする。

次の回の状態は、今の状態と次の結果だけで決まる。今の状態の後ろに次の結果をつけた文字列を作り、それが $A$ か $B$ で終わればゲームは終わる。そうでなければ、その文字列の最後の部分のうち頭の部分に一致する最も長いものが次の状態になる。

HHT と THH の状態

$A=\text{HHT}$、$B=\text{THH}$ の頭の部分は H、HH、T、TH で、状態は「始め」、H、HH、T、TH の 5 つである。
(1) H の状態で H が出ると HH、T が出ると HT となり、HT の最後の部分で頭の部分に一致する最も長いものは T なので、状態は T になる。
(2) HH の状態で H が出ると HHH で、最後の部分で最も長く一致するのは HH なので、状態は HH のままである。T が出ると HHT で、$A$ が現れて先手が勝つ。
(3) T の状態で T が出ると TT で、状態は T のままである。H が出ると TH になる。TH の状態で H が出ると THH で後手が勝ち、T が出ると THT で状態は T にもどる。
状態の移り方を図 1 に示す。T の状態に入ると、HH の状態にはもう行けない。これが ex-pny-start (2) の論法を図で見たものである。

HHT と THH の競争の状態の移り方。矢印の文字は次に出た結果で、T の状態に入ると HH を通らずに THH に着く HHT と THH の競争の状態の移り方。矢印の文字は次に出た結果で、T の状態に入ると HH を通らずに THH に着く
ゲームがいつかは終わることを確かめておく。

ゲームは確率 $1$ で終わる

どの並び $A$ についても、第 $3m$ 回までに $A$ が現れない確率は $\left(\dfrac78\right)^m$ 以下である。特に、$A$ は確率 $1$ でいつかは現れ、Penney のゲームは確率 $1$ で終わる。

第 $1\sim3$ 回、第 $4\sim6$ 回、…、第 $3m-2\sim3m$ 回の $m$ 個の組を考える。各組の 3 回の結果が $A$ と一致する確率は $\dfrac18$ で、組ごとの結果は互いに独立である。第 $3m$ 回までに $A$ が現れないなら、どの組も $A$ と一致しないので、その確率は $\left(1-\dfrac18\right)^m=\left(\dfrac78\right)^m$ 以下である。$m\to\infty$ で $\left(\dfrac78\right)^m\to0$ なので、$A$ がいつまでも現れない確率は $0$ である。ゲームは $A$ が現れた時点までには必ず終わるので、確率 $1$ で終わる。$\square$

確率の計算の道具は、最初の 1 回で場合を分ける式である。

最初の 1 回で分けた式

並び $A$、$B$ の競争で、状態 $s$ から始めたときに $B$ が先に現れる確率を $x_s$ とする。状態 $s$ で H が出たら状態 $s_{\text{H}}$ に、T が出たら状態 $s_{\text{T}}$ に移るとき
$$ x_s=\frac12x_{s_{\text{H}}}+\frac12x_{s_{\text{T}}} $$
が成り立つ。ここで、移った先で $B$ が現れたときは $x=1$、$A$ が現れたときは $x=0$ と読む。

状態 $s$ から始めて、次の 1 回の結果で場合を分ける。H が出る確率は $\dfrac12$ で、そのとき以後の結果は前の結果と独立なので、以後に $B$ が先に現れる確率は状態 $s_{\text{H}}$ から始めた場合と同じ $x_{s_{\text{H}}}$ である(状態だけで次の状態が決まるので、それより前の結果は勝ち負けに関係しない)。T の場合も同じである。2 つの場合は同時には起こらないので、足して式を得る。$\square$

待ち時間の期待値についても、期待値の漸化式と停止 の定理「最初の 1 歩で分ける式」が同じ形で使える。状態 $s$ から始めたときの待ち時間の期待値を $e_s$ とすると、1 回投げるごとに回数が 1 増えるので
$$ e_s=1+\frac12e_{s_{\text{H}}}+\frac12e_{s_{\text{T}}} $$
で、並びが現れた状態では $e=0$ である。同じ記事の系「目標にたどり着ける道があれば仮定が成り立つ」により、この連立方程式の解はただ 1 組で、それが期待値である(どの状態からも、並びの残りの文字が続けば並びが現れる)。

待ち時間の期待値

1 つの並び $A$ だけを待つときは、状態は $A$ の頭の部分(と「始め」)だけで決める。

長さ 3 の並びの待ち時間の期待値

$$ E[T_{\text{HHT}}]=8,\qquad E[T_{\text{HTH}}]=10,\qquad E[T_{\text{HHH}}]=14 $$
である。H と T を入れ替えた並びも同じ値で、$E[T_{\text{TTH}}]=E[T_{\text{THH}}]=E[T_{\text{HTT}}]=8$、$E[T_{\text{THT}}]=10$、$E[T_{\text{TTT}}]=14$ である。

方針:各並びについて状態ごとの期待値 $e_s$ の連立方程式を立てて解く。状態の移り方は図 2 のとおりである。
段 1(HHT)。状態は「始め」、H、HH で、期待値を $e_0,e_1,e_2$ とする。「始め」で H なら H へ、T なら「始め」のまま。H で H なら HH へ、T なら HT の最後の部分に頭の部分がないので「始め」へ。HH で T なら HHT が現れ、H なら HHH の最後の HH が頭の部分なので HH のままである。よって
$$ e_0=1+\frac12e_1+\frac12e_0,\qquad e_1=1+\frac12e_2+\frac12e_0,\qquad e_2=1+\frac12e_2+\frac12\cdot0 $$
である。3 つ目から $\dfrac12e_2=1$、$e_2=2$。1 つ目から $\dfrac12e_0=1+\dfrac12e_1$、つまり $e_0=2+e_1$。2 つ目に $e_2=2$ を入れて $e_1=2+\dfrac12e_0$。これを $e_0=2+e_1$ に入れて $e_0=4+\dfrac12e_0$、よって $e_0=8$、$e_1=6$ である。
段 2(HTH)。状態は「始め」、H、HT。H で H が出ると HH で、最後の H が頭の部分なので H のまま、T なら HT へ。HT で H なら HTH が現れ、T なら HTT で頭の部分がないので「始め」へ。よって
$$ e_0=1+\frac12e_1+\frac12e_0,\qquad e_1=1+\frac12e_1+\frac12e_{\text{HT}},\qquad e_{\text{HT}}=1+\frac12\cdot0+\frac12e_0 $$
である。1 つ目から $e_0=2+e_1$、2 つ目から $e_1=2+e_{\text{HT}}$、3 つ目は $e_{\text{HT}}=1+\dfrac12e_0$。順に入れると $e_0=2+2+1+\dfrac12e_0=5+\dfrac12e_0$、よって $e_0=10$、$e_1=8$、$e_{\text{HT}}=6$ である。
段 3(HHH)。状態は「始め」、H、HH で、どの状態でも T が出ると「始め」にもどる。
$$ e_0=1+\frac12e_1+\frac12e_0,\qquad e_1=1+\frac12e_2+\frac12e_0,\qquad e_2=1+\frac12\cdot0+\frac12e_0 $$
1 つ目から $e_0=2+e_1$。3 つ目を 2 つ目に入れて $e_1=1+\dfrac12\left(1+\dfrac12e_0\right)+\dfrac12e_0=\dfrac32+\dfrac34e_0$。よって $e_0=\dfrac72+\dfrac34e_0$、$\dfrac14e_0=\dfrac72$、$e_0=14$ である。
段 4(H と T の入れ替え)。H と T を入れ替えても、硬貨の表と裏の確率は同じ $\dfrac12$ なので、連立方程式は文字の名前が変わるだけで同じ形になり、同じ解をもつ。8 つの並びは、入れ替えで HHH と TTT、HHT と TTH、HTH と THT、HTT と THH の 4 組に分かれる。まだ解いていない組は HTT と THH なので、HTT を解く。HTT は、状態「始め」、H、HT で、H で H が出ると H のまま、HT で H が出ると HTH の最後の H が頭の部分なので H にもどる。段 2 と同じ型の連立方程式を解いて $e_0=8$ を得る(計算は下に畳む)。

HTT の連立方程式を開く

$$e_0=1+\frac12e_1+\frac12e_0,\qquad e_1=1+\frac12e_1+\frac12e_{\text{HT}},\qquad e_{\text{HT}}=1+\frac12e_1+\frac12\cdot0$$ 1 つ目から $e_0=2+e_1$、2 つ目から $e_1=2+e_{\text{HT}}$、3 つ目を入れて $e_1=3+\dfrac12e_1$、$e_1=6$、$e_0=8$ である。


THH、TTH、THT、TTT は HTT、HHT、HTH、HHH の H と T を入れ替えたものなので、値はそれぞれ $8,8,10,14$ である。$\square$

HHT、HTH、HHH を待つときの状態の移り方と、各状態からの待ち時間の期待値 e。失敗したときにもどる先が並びによって違う HHT、HTH、HHH を待つときの状態の移り方と、各状態からの待ち時間の期待値 e。失敗したときにもどる先が並びによって違う
図 2 の 3 つの違いは、失敗したときにもどる先である。HHT では、HH まで来たら H が出ても HH のままで、進んだ分を失わない。HTH では、HT の後に T が出ると「始め」まで戻る。HHH では、どこで T が出ても「始め」に戻る。この 3 つでは、戻り方が大きい並びほど待ち時間の期待値が大きい。長さ 2 の並びでも同じことが起こり、HH の $6$ と HT の $4$ の違いは 期待値の漸化式と停止 で扱っている。

期待値と「3 回で現れる確率」
  1. どの並びも、決まった 3 回の結果と一致する確率は $\dfrac18$ である。それでも待ち時間の期待値は $8$、$10$、$14$ と違う。「$\dfrac18$ の確率で起こることを待つなら平均 $8$ 回」という見積もりが合うのは、長さ 3 の並びでは HHT・HTT・THH・TTH の 4 つだけで(thm-pny-wait)、HTH・THT・HHH・TTT では待ち時間の期待値がそれより大きい。
  2. 第 1〜3 回で HHH が現れる確率は $\dfrac18$ である。第 4 回に初めて現れるのは、結果が T, H, H, H のときだけなので、確率は $\dfrac1{16}$ である。HHT なら、第 4 回に初めて現れるのは H, H, H, T と T, H, H, T の 2 通りで、確率は $\dfrac2{16}=\dfrac18$ である。早い回で並びが現れる確率が、HHT の方が大きい。

主定理:後手はいつも有利な並びを選べる

後手の選び方

先手が長さ 3 の並び $A$ を選んだとき、後手が次の表の $B$ を選ぶと、$B$ が先に現れる確率(後手が勝つ確率)は表のとおりで、どれも $\dfrac23$ 以上である。

先手の $A$HHHHHTHTHHTTTTTTTHTHTTHH
後手の $B$THHTHHHHTHHTHTTHTTTTHTTH
後手が勝つ確率$\frac78$$\frac34$$\frac23$$\frac23$$\frac78$$\frac34$$\frac23$$\frac23$

したがって、先手がどの並びを選んでも、後手は確率 $\dfrac23$ 以上で勝てる。

方針:H と T の入れ替えで表の右半分を左半分に帰着させ、左半分の 4 列を 1 つずつ計算する。ゲームが確率 $1$ で終わることは lem-pny-end で示したので、先手が勝つ確率は $1$ から後手が勝つ確率を引いたものである。
段 1(入れ替え)。H と T を入れ替えても、硬貨の表と裏の確率は同じなので、先に現れる確率は変わらない。表の右半分の 4 列は、左半分の 4 列の $A$ と $B$ の両方で H と T を入れ替えたもの(HHH と THH の組なら TTT と HTT の組)なので、左半分を示せばよい。
段 2(HHH に対する THH)。ex-pny-start-hhh で示したとおり $\dfrac78$ である。
段 3(HHT に対する THH)。ex-pny-start で示したとおり $\dfrac34$ である。
段 4(HTH に対する HHT)。状態は「始め」、H、HH、HT である(図 3)。状態 $s$ から始めて HHT が先に現れる確率を $x_s$ とし、lem-pny-first-step を使う。

  • HH の状態:T なら HHT が現れる。H なら HHH で、状態は HH のまま。よって $x_{\text{HH}}=\dfrac12x_{\text{HH}}+\dfrac12\cdot1$、つまり $x_{\text{HH}}=1$ である。
  • HT の状態:H なら HTH が現れて先手が勝つ。T なら HTT で、最後の部分に頭の部分がないので「始め」へ。よって $x_{\text{HT}}=\dfrac12\cdot0+\dfrac12x_0$ である。
  • H の状態:H なら HH へ、T なら HT へ。よって $x_{\text{H}}=\dfrac12x_{\text{HH}}+\dfrac12x_{\text{HT}}=\dfrac12+\dfrac14x_0$ である。
  • 「始め」:H なら H へ、T なら「始め」のまま。よって $x_0=\dfrac12x_{\text{H}}+\dfrac12x_0$、つまり $x_0=x_{\text{H}}$ である。
    最後の 2 つから $x_0=\dfrac12+\dfrac14x_0$、$\dfrac34x_0=\dfrac12$、$x_0=\dfrac23$ である。連立方程式の解はこのようにただ 1 つに決まり、本当の確率は lem-pny-first-step によりこの方程式を満たすので、本当の確率は $\dfrac23$ である。
    段 5(HTT に対する HHT)。段 4 と同じ状態で、違うのは HT の状態からの移り方だけである。HT で T が出ると HTT が現れて先手が勝ち、H が出ると HTH の最後の H が頭の部分なので H の状態へ移る。段 4 と同じ型の連立方程式を解いて $x_0=\dfrac23$ を得る(計算は下に畳む)。$\square$
    段 5 の連立方程式を開く

    $x_{\text{HH}}=1$ は段 4 と同じで、$$x_{\text{HT}}=\frac12x_{\text{H}}+\frac12\cdot0,\qquad x_{\text{H}}=\frac12x_{\text{HH}}+\frac12x_{\text{HT}}=\frac12+\frac14x_{\text{H}},\qquad x_0=x_{\text{H}}$$ である。2 つ目から $\dfrac34x_{\text{H}}=\dfrac12$、$x_{\text{H}}=\dfrac23$、よって $x_0=\dfrac23$ である。

HTH(先手)と HHT(後手)の競争の状態の移り方。各状態の x は、そこから始めて HHT が先に現れる確率 HTH(先手)と HHT(後手)の競争の状態の移り方。各状態の x は、そこから始めて HHT が先に現れる確率
図 3 を見ると、HHT が有利な理由が分かる。HH の状態に入れば HHT の勝ちが決まる($x_{\text{HH}}=1$)。一方、HTH は HT の状態から H を出す必要があり、HT で T が出ると「始め」に戻ってしまう。

シミュレーションで確かめる

計算機で硬貨投げを $40{,}000$ 回のゲームについて模擬したところ(乱数の種を固定)、THH が HHT より先に現れた割合は $0.7514$、HHT が HTH より先に現れた割合は $0.6699$ だった。それぞれ thm-pny-main の $\dfrac34=0.75$、$\dfrac23\approx0.6667$ に近い。これは確かめであって、証明ではない。

表の $B$ は、残りの 7 つの並びの中で後手が勝つ確率が最も大きいものである。$8\times7=56$ 通りの組すべてについて、同じ状態の方法で先に現れる確率を求めた結果が図 4 である(56 通りの連立方程式は計算機で解いた)。
長さ 3 の 8 つの並びのすべての組で、行の並びが列の並びより先に現れる確率。各列で最も大きい値が、その列の並びに対する後手の最善の選び方 長さ 3 の 8 つの並びのすべての組で、行の並びが列の並びより先に現れる確率。各列で最も大きい値が、その列の並びに対する後手の最善の選び方
表の $B$ には規則がある。先手の並びが $a_1a_2a_3$ のとき、後手の $B$ は「$a_2$ の反対の文字」の後に $a_1a_2$ を続けたものになっている。例えば $A=\text{HTH}$ なら、$a_2=\text{T}$ の反対の H に HT を続けて HHT である。$B$ の最後の 2 文字は $A$ の最初の 2 文字 $a_1a_2$ と一致する。$A$ が第 $n$ 回に現れるとき、第 $n-2$ 回と第 $n-1$ 回の結果は $a_1a_2$ である。第 $n-3$ 回の結果が $B$ の最初の文字なら、第 $n-1$ 回に $B$ が現れていて、後手が先に勝っている。つまり $B$ は、$A$ が完成する途中の形を先回りして奪う並びである。

先に出やすさは輪になる

非推移的なサイコロ と同じく、「$X$ は $Y$ より先に出やすい」($X$ が先に現れる確率が $\dfrac12$ より大きい)という関係も推移的でない。

先に出やすい並びの輪

THH は HHT より、HHT は HTT より、HTT は TTH より、TTH は THH より先に出やすい。それぞれ先に現れる確率は $\dfrac34$、$\dfrac23$、$\dfrac34$、$\dfrac23$ である。したがって「先に出やすい」は推移的でない。

thm-pny-main の表の 2 列目(先手 HHT、後手 THH)から、THH が HHT より先に現れる確率は $\dfrac34$ である。4 列目(先手 HTT、後手 HHT)から、HHT が HTT より先に現れる確率は $\dfrac23$ である。6 列目(先手 TTH、後手 HTT)から、HTT が TTH より先に現れる確率は $\dfrac34$ である。8 列目(先手 THH、後手 TTH)から、TTH が THH より先に現れる確率は $\dfrac23$ である。
推移的だとすると、THH は HHT より、HHT は HTT より先に出やすいので THH は HTT より先に出やすく、さらに HTT は TTH より先に出やすいので THH は TTH より先に出やすい。つまり THH が先に現れる確率は $\dfrac12$ より大きい。ところが TTH が先に現れる確率は $\dfrac23$ で、引き分けはないので THH が先に現れる確率は $\dfrac13$ である。これは矛盾である。$\square$

4 つの並び THH、HHT、HTT、TTH の輪。どの矢印でも、根元の並びが先に現れる確率が矢印の数 4 つの並び THH、HHT、HTT、TTH の輪。どの矢印でも、根元の並びが先に現れる確率が矢印の数
このため、先手にとって「いちばん強い並び」はない。先手がどれを選んでも、後手はそれに勝ちやすい並びを選べる。この仕組みは、後から選ぶ人が有利になる 非推移的なサイコロ の遊びと同じである。

例と反例:待ち時間の期待値と先に出やすさ

待ち時間の期待値が小さい並びほど先に出やすい、と考えたくなる。thm-pny-wait と thm-pny-main を並べると、この推論は成り立たない。

立てたくなる推論反例成り立たなくなること
期待値が小さい方が先に出やすいHHH(期待値 $14$)と HHT(期待値 $8$)先に現れる確率はどちらも $\frac12$(ex-pny-cx-hhh-hht)
期待値が等しければ互角THH と HHT(どちらも $8$)THH が確率 $\frac34$ で先に現れる(ex-pny-start)
期待値が大きい方が先に出ることはない長さ 4 の THTH($20$)と HTHH($18$)THTH が確率 $\frac9{14}$ で先に現れる(ex-pny-cx-length4)
並びの長さが 2 でも後手が有利先手が HT を選ぶ後手のどの選び方でも後手の勝つ確率は $\frac12$ 以下(ex-pny-cx-length2)
反例:HHH と HHT は互角

HHH も HHT も、現れるには先に HH が現れる必要がある。HH が初めて現れた回の次の 1 回で、H なら HHH、T なら HHT が現れる。HH が初めて現れるまでに、どちらの並びも現れることはない(どちらも HH を含む)。よって、次の 1 回が H か T かだけで勝ち負けが決まり、先に現れる確率はどちらも $\dfrac12$ である。
待ち時間の期待値は HHH が $14$、HHT が $8$ で大きく違う(thm-pny-wait)。HHH は、HH の後に T が出るとやり直しになって待ち時間が長くなるが、そのとき HHT が現れて勝負は終わっている。待ち時間の期待値は「1 人で待つときの長さ」で、競争での勝ちやすさとは別のものである。

反例:長さ 4 では期待値の大きい方が先に出やすい

長さ 4 の並び THTH と HTHH を比べる(最後の 4 回が並びと一致したときに「現れる」とし、状態は def-pny-state と同じ規則で決める)。thm-pny-wait と同じ状態の方法で待ち時間の期待値を求めると、THTH が $20$、HTHH が $18$ である。ところが、競争で THTH が先に現れる確率は $\dfrac9{14}$ で、$\dfrac12$ より大きい。

計算の方法を開く

状態は、THTH の頭の部分 T、TH、THT と、HTHH の頭の部分 H、HT、HTH と「始め」の 7 つである。lem-pny-first-step の式を 7 つの状態について立てた連立 1 次方程式を、計算機で解いた(解はただ 1 組)。待ち時間の期待値も、それぞれの並びの頭の部分を状態にした 4 つの式から同じように求めた。ここでは結果だけを示す。

反例:長さ 2 では後手は有利にならない

長さ 2 の並び HH、HT、TH、TT で同じゲームをする(最後の 2 回が並びと一致したときに「現れる」とする)。先手が HT を選んだとする。
(1) 後手が HH。どちらも最初の H の後の 1 回で決まる(H なら HH、T なら HT)ので、互いに $\dfrac12$ である。
(2) 後手が TH。1 回目が H なら、その後に初めて T が出た回に HT が現れる。TH は T の後に H が必要なので、それより先には現れない。1 回目が T なら、その後に初めて H が出た回に TH が現れ、HT はそれより先には現れない。よって互いに $\dfrac12$ である。
(3) 後手が TT。TT が HT より先に現れるのは、最初の 2 回が TT のときだけである(最初の 2 回が TT でなければ、TT の前に H が出ていて、その H の後の最初の T で HT が現れる)。後手の勝つ確率は $\dfrac14$ である。
どの選び方でも後手の勝つ確率は $\dfrac12$ 以下なので、先手が HT を選べば後手は有利にならない。長さ 3 で後手がいつも有利になる thm-pny-main は、長さ 2 では成り立たない。ただし、先手が HH を選ぶと、後手は TH を選んで確率 $\dfrac34$ で勝てる(最初の 2 回が HH のときだけ先手が勝つ。ex-pny-start (2) と同じ論法)。長さ 2 では先手が選び方を誤らなければ互角、というのが正確な言い方である。GS06 の §11.2 練習問題 36 の (b) には、長さ 2 では公平なゲームであること(この例のとおり、先手が HT か TH を選んだときの意味に読む)、長さ 3 では先手がどう選んでも後手が有利になることを示す問いがある。

大学数学で見る:吸収的な Markov 連鎖と重なりの数

状態の移り方は、確率漸化式と定常分布 の推移行列で書ける。ex-pny-states の HHT と THH の競争なら、状態を「始め」、H、HH、T、TH、HHT、THH の順に並べて、$(i,j)$ 成分を「状態 $i$ から状態 $j$ へ移る確率」とする $7\times7$ 行列になる。HHT と THH の行は、その状態にとどまる確率 $1$ だけをもつ(一度入ると出られない状態で、吸収状態 という)。吸収状態をもつ Markov 連鎖を 吸収的な Markov 連鎖 といい、lem-pny-first-step の連立方程式は吸収確率を求める式、待ち時間の期待値の式は吸収までの時間の期待値を求める式である(Markov連鎖、GS06 の第 11 章)。
先に現れる確率は、並びどうしの「重なり」だけから計算できることが知られている。この記事では証明しない。

Conway の公式(この記事では証明しない)

2 つの並び $X$、$Y$(長さ 3)について、$k=1,2,3$ のうち「$X$ の最後の $k$ 文字と $Y$ の最初の $k$ 文字が一致する」$k$ についての $2^k$ の和を $XY$ と書く。例えば HHT と THH では、HHT の最後の 1 文字 T と THH の最初の 1 文字 T が一致し、2 文字・3 文字は一致しないので $\text{HHT}\cdot\text{THH}=2$ である。このとき、$A$ が $B$ より先に現れる確率 $p_A$ と、$B$ が先に現れる確率 $p_B$ について
$$ \frac{p_A}{p_B}=\frac{BB-BA}{AA-AB} $$
が成り立つ。GS06 の §11.2 練習問題 36 に Conway の公式として載っている($AB$ などの数は、同じ節の練習問題 28 で賭けの払い戻しとして導入されている)。
$A=\text{HHT}$、$B=\text{THH}$ では、$AA=8$、$BB=8$、$AB=2$、$BA=2+4=6$(THH の最後の H と HH が HHT の最初の H と HH に一致する)なので
$$ \frac{p_A}{p_B}=\frac{8-6}{8-2}=\frac13,\qquad p_A=\frac14,\quad p_B=\frac34 $$
となり、ex-pny-start と一致する。図 4 の 56 通りの値も、すべてこの公式の値と一致する(計算機で確かめた)。
また、1 つの並び $A$ の待ち時間の期待値は $AA$ に等しいことも GS06 の §11.2 練習問題 28 に載っている。$\text{HHH}\cdot\text{HHH}=2+4+8=14$、$\text{HTH}\cdot\text{HTH}=2+8=10$、$\text{HHT}\cdot\text{HHT}=8$ で、thm-pny-wait の値と一致する。長さ 2 でも $\text{HH}\cdot\text{HH}=2+4=6$、$\text{HT}\cdot\text{HT}=4$ である。

GS06 の同じ練習問題には、長さ $k\ge3$ の並びでも、後手の最善の並びが「1 文字 $b$ の後に先手の並びの最初の $k-1$ 文字を続けた形」になることが示されている、と紹介されている(この記事では証明しない)。thm-pny-main の表の規則は、その $k=3$ の場合である。

演習

HTH に対して TTH を選ぶ

先手が HTH、後手が TTH を選んだとき、後手が勝つ確率を状態の方法で求めよ。thm-pny-main の表の HHT(確率 $\frac23$)と比べよ。

解答を開く

状態は「始め」、H、HT、T、TT。TTH が先に現れる確率を $y$ とする。TT の状態では、H なら TTH、T なら TT のままなので $y_{\text{TT}}=1$。HT の状態では、H なら HTH で負け、T なら HTT の最後の TT へ移るので $y_{\text{HT}}=\dfrac12\cdot0+\dfrac12\cdot1=\dfrac12$。H の状態では、H なら HH の最後の H で H のまま、T なら HT へ移るので $y_{\text{H}}=\dfrac12y_{\text{H}}+\dfrac12y_{\text{HT}}$、よって $y_{\text{H}}=y_{\text{HT}}=\dfrac12$。T の状態では、H なら TH の最後の H で H へ、T なら TT へ移るので $y_{\text{T}}=\dfrac12\cdot\dfrac12+\dfrac12\cdot1=\dfrac34$。「始め」では $y_0=\dfrac12y_{\text{H}}+\dfrac12y_{\text{T}}=\dfrac14+\dfrac38=\dfrac58$。後手の勝つ確率は $\dfrac58$ で、HHT の $\dfrac23$ より小さい。

THH の待ち時間

THH の待ち時間の期待値を、状態「始め」、T、TH の連立方程式を立てて直接求めよ。

解答を開く

「始め」では H なら「始め」のまま、T なら T へ。T では T なら T のまま、H なら TH へ。TH では H なら THH が現れ、T なら THT の最後の T で T へ。$e_0=1+\dfrac12e_0+\dfrac12e_{\text{T}}$、$e_{\text{T}}=1+\dfrac12e_{\text{T}}+\dfrac12e_{\text{TH}}$、$e_{\text{TH}}=1+\dfrac12\cdot0+\dfrac12e_{\text{T}}$。1 つ目から $e_0=2+e_{\text{T}}$、2 つ目から $e_{\text{T}}=2+e_{\text{TH}}$、3 つ目を入れて $e_{\text{T}}=3+\dfrac12e_{\text{T}}$、$e_{\text{T}}=6$、$e_0=8$ である(thm-pny-wait の値と一致する)。

さらに先へ

  • 2 つのサイコロの「強い」が輪になる例は 非推移的なサイコロ で扱った。Penney のゲームでは、サイコロの面の数の代わりに、並びの重なり方が相性を作っている。
  • 1 回ずつの試行が成功か失敗かだけのとき、初めて成功するまでの回数は幾何分布に従う(幾何分布と待ち時間(高校数学))。並びを待つ時間は、それを状態つきに広げたものである。
  • 吸収される状態の確率を連立方程式で求める型は、ギャンブラーの破産 でも使う。
  • 最初の 1 回で場合を分けて確率の漸化式を立てる方法は、反復試行の確率 で数える方法と組み合わせて使える。Banachのマッチ箱問題 では、反復試行の数え方で分布を直接求める。

関連項目

参考文献

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