正規列

概要

正規列(normal series)とは、群 $G$ の部分群の有限列 $\{e\}=G_0\le G_1\le\cdots\le G_r=G$ であって、隣接する項について $G_i$ が $G_{i+1}$ の正規部分群になっているもののことである。各項がすべて $G$ 自身の正規部分群であるものを不変正規列といい、不変正規列は正規列だが逆は成り立たない。各段の剰余群 $G_{i+1}/G_i$ を商因子といい、有限群では商因子の位数の積が $|G|$ に等しい。$4$ 次対称群 $S_4$ では、二重互換のなす部分群 $V_4$ を経由する列 $\{e\}\le V_4\le S_4$ が不変正規列であり、これを $\langle(1\,2)(3\,4)\rangle$ で細分した列は正規列だが不変正規列ではない。正規列は可解群・冪零群を定義する基本的な道具である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: , 部分群, 正規部分群, 剰余群

定義

$G$ の部分群の有限列 $\{e\}=G_0\le G_1\le\cdots\le G_r=G$$G_i$$G_{i+1}$ の部分群)を $G$部分群列という。$N$$H$ の正規部分群であることを $N\trianglelefteq H$ と書く。

正規列(連正規列)

$G$ の部分群列 $\{e\}=G_0\le G_1\le\cdots\le G_r=G$ であって、各 $i$$0\le i< r$)について $G_i\trianglelefteq G_{i+1}$$G_i$$G_{i+1}$ の正規部分群)が成り立つものを、$G$正規列(normal series)または連正規列(subnormal series)という。$r$ をこの列の長さという(DF04 §3.4)。

正規性を強めた列

$G$ の部分群列 $\{e\}=G_0\le G_1\le\cdots\le G_r=G$ であって、各 $i$$0\le i< r$)について $G_i\trianglelefteq G$$G_i$$G$ 自身の正規部分群)が成り立つものを、$G$不変正規列(invariant series)という。

用語の流儀

「正規列」という語は、文献によって連正規列と不変正規列のどちらを指すかが異なる。本記事では連正規列を「正規列」と呼び、全項が $G$ の正規部分群である列を「不変正規列」と呼んで区別する。他の文献を読むときは、著者がどちらの意味で用いているかを定義に戻って確認する必要がある。

直感

正規列は、群を「一段ずつ正規部分群で削っていく」階段である。各段 $G_i\trianglelefteq G_{i+1}$ では剰余群 $G_{i+1}/G_i$(商因子)が定まり、群 $G$ を商因子の積み重ねとして理解できる。正規列では各項が「一つ上の項の中で」正規であればよく、$G$ 全体の正規部分群である必要はない。不変正規列はこの条件を強め、すべての項を $G$ の正規部分群に限る。可解群は商因子がすべてアーベル群になる正規列を持つ群として定義され、正規列はそのための基本的な道具である。

例と反例

以下、$S_4$$\{1,2,3,4\}$ の置換全体のなす群とし、置換の積は右側を先に適用する($(\sigma\tau)(x)=\sigma(\tau(x))$)。
$$ V_4:=\{e,\ (1\,2)(3\,4),\ (1\,3)(2\,4),\ (1\,4)(2\,3)\} $$
とおく。$V_4$$S_4$ の正規部分群であること、$\langle(1\,2)(3\,4)\rangle=\{e,(1\,2)(3\,4)\}$$V_4$ の正規部分群だが $S_4$ の正規部分群でないことは prop-normal-series-s4 で示す。

自明な正規列

任意の群 $G$ に対し、長さ $1$ の列 $\{e\}=G_0\le G_1=G$ は正規列であり、不変正規列でもある。実際 $\{e\}$ は常に $G$ の正規部分群である。

$S_4$ の不変正規列

$\{e\}\le V_4\le S_4$$S_4$ の不変正規列である。実際 $\{e\}\trianglelefteq S_4$ は常に成り立ち、$V_4\trianglelefteq S_4$prop-normal-series-s4 による。したがって正規列でもある(prop-normal-series-invariant-implies-normal)。

$S_4$ の正規列で不変正規列でないもの

$\{e\}\le\langle(1\,2)(3\,4)\rangle\le V_4\le S_4$$S_4$ の正規列である。実際、隣接する項について $\{e\}\trianglelefteq\langle(1\,2)(3\,4)\rangle$$\langle(1\,2)(3\,4)\rangle\trianglelefteq V_4$$V_4\trianglelefteq S_4$ が成り立つ(prop-normal-series-s4)。しかし $\langle(1\,2)(3\,4)\rangle$$S_4$ の正規部分群ではないので、この列は不変正規列ではない。

反例:部分群列は正規列とは限らず、正規列は不変正規列とは限らない

次の二つは、それぞれ「部分群列 ⇒ 正規列」「正規列 ⇒ 不変正規列」が成り立たないことを示す。

  • $\{e\}\le\langle(1\,2)\rangle\le S_4$ は部分群列だが正規列ではない。実際 $(1\,3)(1\,2)(1\,3)^{-1}=(3\,2)=(2\,3)\notin\langle(1\,2)\rangle$ なので $\langle(1\,2)\rangle$$S_4$ の正規部分群でない。
  • ex-normal-series-s4-subnormal の列は正規列だが不変正規列ではない。ex-normal-series-s4-invariant の不変正規列 $\{e\}\le V_4\le S_4$ に項 $\langle(1\,2)(3\,4)\rangle$ を挿入して細分すると、隣接項の正規性は保たれるが、挿入した項が $S_4$ の正規部分群でないため不変性は失われる。細分は正規列であることを保つが、不変正規列であることは保たない(prop-normal-series-refinement)。

性質

不変正規列は正規列である

$G$ の不変正規列は正規列である。より一般に、$N_1\trianglelefteq G$$N_2\trianglelefteq G$$N_1\le N_2$ ならば $N_1\trianglelefteq N_2$ である。

$N_1\trianglelefteq G$ より任意の $g\in G$ について $gN_1g^{-1}=N_1$ である。特に $g\in N_2$ についても成り立つので、$N_1$$N_2$ の正規部分群である。不変正規列の隣接する二項 $G_i\le G_{i+1}$ はともに $G$ の正規部分群だから、これを適用して $G_i\trianglelefteq G_{i+1}$ を得る。$\square$

列から定まる商

正規列 $\{e\}=G_0\le\cdots\le G_r=G$ の各 $i$$0\le i< r$)について、$G_i\trianglelefteq G_{i+1}$ なので剰余群 $G_{i+1}/G_i$ が群として定まる。これを正規列の商因子(factor)という。

商因子の位数の積

$G$ を有限群とする。正規列 $\{e\}=G_0\le\cdots\le G_r=G$ の商因子について $|G_{i+1}/G_i|=|G_{i+1}|/|G_i|$ であり、
$$ |G|=\prod_{i=0}^{r-1}|G_{i+1}/G_i| $$
が成り立つ。

有限群では Lagrange の定理により $|G_{i+1}|=|G_{i+1}/G_i|\,|G_i|$ であり、$i=0,\dots,r-1$ について掛け合わせると $|G_r|=\prod_i|G_{i+1}/G_i|\cdot|G_0|=\prod_i|G_{i+1}/G_i|$ を得る。$\square$

細分

正規列 $\{e\}=G_0\le\cdots\le G_r=G$ と、ある $i$ について $G_i\trianglelefteq H\trianglelefteq G_{i+1}$ を満たす部分群 $H$ が与えられたとき、$H$$G_i$$G_{i+1}$ の間に挿入した列も正規列である。もとの列が不変正規列のとき、挿入後の列が不変正規列であることと $H\trianglelefteq G$ であることは同値である。

挿入後の列の隣接項は、もとの隣接項(正規性はもとの列から)か、$G_i\le H$$H\le G_{i+1}$ のいずれかであり、後者の正規性は仮定そのものである。よって挿入後の列は正規列である。もとの列が不変正規列なら、挿入後の列の項のうち $H$ 以外はすべて $G$ の正規部分群だから、挿入後の列が不変正規列であることは $H\trianglelefteq G$ と同値である。$\square$

$S_4$ における $V_4$$\langle(1\,2)(3\,4)\rangle$
  1. $V_4$$S_4$ の部分群であり、各元は自分自身を逆元に持つアーベル群である。
  2. $V_4$$S_4$ の正規部分群である。
  3. $\langle(1\,2)(3\,4)\rangle$$V_4$ の正規部分群だが、$S_4$ の正規部分群ではない。
  1. $a=(1\,2)(3\,4)$$b=(1\,3)(2\,4)$$c=(1\,4)(2\,3)$ とおく。直接計算により $a^2=b^2=c^2=e$$ab=ba=c$$bc=cb=a$$ca=ac=b$ である(例えば $ab$$1\mapsto3\mapsto4$$2\mapsto4\mapsto3$$3\mapsto1\mapsto2$$4\mapsto2\mapsto1$$(1\,4)(2\,3)=c$)。よって $V_4$ は積と逆元で閉じた部分群で、可換である。
  2. 置換 $\sigma\in S_4$ と互換 $(x\,y)$ について $\sigma(x\,y)\sigma^{-1}=(\sigma(x)\,\sigma(y))$ が成り立つ。実際、左辺を $\sigma(x)$ に施すと $\sigma((x\,y)(x))=\sigma(y)$$\sigma(y)$ に施すと $\sigma(x)$、それ以外の点 $\sigma(z)$$z\ne x,y$)に施すと $\sigma(z)$ で、右辺と一致する。したがって $\sigma\,(x\,y)(z\,w)\,\sigma^{-1}=(\sigma(x)\,\sigma(y))(\sigma(z)\,\sigma(w))$ であり、$\{x,y\},\{z,w\}$$\{1,2,3,4\}$ の分割なら $\{\sigma(x),\sigma(y)\},\{\sigma(z),\sigma(w)\}$ も分割である。$\{1,2,3,4\}$ を二元集合二つに分ける分け方は $\{1,2\}\{3,4\}$$\{1,3\}\{2,4\}$$\{1,4\}\{2,3\}$ の三通りなので、$V_4\setminus\{e\}$ はそのような分割から作られる置換の全体であり、共役で閉じている。$e$ の共役は $e$ である。よって $\sigma V_4\sigma^{-1}\subset V_4$ が任意の $\sigma$ で成り立ち、$V_4\trianglelefteq S_4$ である。
  3. $V_4$ はアーベル群なので、その任意の部分群は正規部分群である。特に $\langle(1\,2)(3\,4)\rangle\trianglelefteq V_4$。一方 $\sigma=(1\,3)$ に対し、(2) の計算から $\sigma(1\,2)(3\,4)\sigma^{-1}=(3\,2)(1\,4)=(1\,4)(2\,3)\notin\langle(1\,2)(3\,4)\rangle$ なので、$\langle(1\,2)(3\,4)\rangle$$S_4$ の正規部分群ではない。$\square$

補足:三つの列の比較

正規列不変正規列商因子の位数
$\{e\}\le\langle(1\,2)\rangle\le S_4$いいえいいえ
$\{e\}\le V_4\le S_4$はいはい$4,\ 6$
$\{e\}\le\langle(1\,2)(3\,4)\rangle\le V_4\le S_4$はいいいえ$2,\ 2,\ 6$

商因子の位数は prop-normal-series-quotient により $|S_4|=24$ の分解を与える($4\cdot6=2\cdot2\cdot6=24$)。正規列の各段で商因子に条件を課すと、可解群(商因子がすべてアーベル群)や冪零群などの群のクラスが得られる。

関連項目

参考文献

[1]
David S. Dummit and Richard M. Foote, Abstract Algebra, Wiley(3rd ed.), 2004, §3.4(部分群列・組成列)、§6.1(可解群・冪零群)

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