Stieltjes積分(高校数学)では、区分求積の長方形の「幅」を増加関数 $\alpha$ の増え方に取りかえた和の極限 $\int_a^bf\,d\alpha$ を扱う。$\alpha(x)=x$ なら普通の積分である。$\alpha(x)=\lfloor x\rfloor$ なら、$f$ が連続のとき $\int_a^bf\,d\lfloor x\rfloor=\sum_{a<k\le b}f(k)$ で、数列の和になる。これを定義から証明する。$\alpha$ が増加し $\alpha'$ が連続なら、連続な $f$ では $\int f\,d\alpha=\int f\alpha'\,dx$ である(証明しない)。サイコロの目の期待値 $3.5$(和)と、$[0,6]$ の一様分布の期待値 $3$(積分)が、同じ式 $\int x\,d\alpha(x)$ で書けることも見る。
前提知識: 定積分, 床関数, 区分求積と積分の定義, ε-δ論法
和と積分は似ているが、別々の記号 $\sum$ と $\int$ で書かれる。この記事では、両者を 1 つの式 $\int_a^bf(x)\,d\alpha(x)$ の特別な場合として書く。これを Stieltjes 積分という。$\alpha(x)=x$ とすれば普通の積分に、$\alpha(x)=\lfloor x\rfloor$ とすれば和になる。サイコロの目の期待値(和)と、連続な分布の期待値(積分)も、同じ式で書ける。
この記事は 積分と和の類似 から始まる 5 本の記事の 4 本目である。前の 和と積分の差 では、和と積分の値のずれを調べた。この記事で和と積分を 1 つの式で書いておくと、次の Euler–Maclaurinの公式(高校数学) で、そのずれを積分で正確に表せる。大学の解析学での Stieltjes 積分は、大学向けの記事 Stieltjes積分 で扱う。
$f(x)=x^2$ とする。区間 $[0,3]$ を幅 $1$ の小区間 $[0,1]$、$[1,2]$、$[2,3]$ に分け、各小区間の右端での値を高さにした長方形を立てる。面積の和は
$$
1\cdot f(1)+1\cdot f(2)+1\cdot f(3)=1+4+9=14=\sum_{k=1}^3k^2
$$
で、数列の和そのものである。
幅を $\frac1m$ にして同じことをすると、面積の和は $\frac1m\sum_{i=1}^{3m}\left(\frac im\right)^2$ で、次のようになる。
| 幅 | $1$ | $\frac12$ | $\frac1{10}$ | $\frac1{100}$ |
|---|---|---|---|---|
| 長方形の面積の和 | $14$ | $11.375$ | $9.455$ | $9.04505$ |
幅を $0$ に近づけると、区分求積により積分 $\int_0^3x^2\,dx=9$ に近づく。和は「幅を $1$ に固定した長方形の面積の和」、積分は「幅を $0$ に近づけた極限」である。
2 つの例から、次の問いが生まれる。
| 高校の計算 | 大学の概念 | ボックス |
|---|---|---|
| 区分求積(長方形の面積の和) | Riemann–Stieltjes 和 | def-sem-stieltjes |
| 数列の和 | 床関数に関する Stieltjes 積分 | thm-sem-floor |
| サイコロの期待値と、連続な分布の期待値 | 分布関数に関する Stieltjes 積分 | ex-sem-dice |
| 置換積分で $u=g(x)$ のとき $du=g'(x)\,dx$ と書きかえる | $d\alpha(x)=\alpha'(x)\,dx$ と書きかえる($\int f\,d\alpha=\int f\alpha'\,dx$) | rem-sem-smooth |
区分求積では、区間を小区間に分け、「高さ × 幅」の長方形の面積を足した。その「幅」を、ある増加関数 $\alpha$ の増え方で測りかえる。
$f$ と $\alpha$ を区間 $[a,b]$ で定義された関数とし、$\alpha$ は増加する($x\le y$ ならば $\alpha(x)\le\alpha(y)$)とする。
$\alpha(x)=x$ なら $\alpha(x_i)-\alpha(x_{i-1})=x_i-x_{i-1}$ は小区間の幅そのもので、$S$ は長方形の面積の和(Riemann 和)である。$f$ が連続なら、これは普通の積分 $\int_a^bf(x)\,dx$ に近づく(区分求積と積分の定義)。
$f$ が $[a,b]$ で連続で $\alpha$ が増加関数なら、$\int_a^bf\,d\alpha$ は必ず存在することが知られている(Rud76 Theorem 6.8。この記事では証明しない)。ただし Rud76 は、Stieltjes 積分を上積分と下積分(上限・下限)で定義していて、この記事の「分割の幅を $0$ に近づける」定義とは形が違う。$f$ が連続なら、同書の Theorem 6.8 の証明は、幅の小さいどの分割でも上限和と下限和の差が小さいことを示しているので、この記事の定義でも積分が存在し、値も同じになる。以下では、存在の一般論は使わず、直接計算できる場合だけを扱う。
$f(x)=x^2$、区間 $[0,3]$ を幅 $\frac12$ で 6 等分し、$\xi_i$ を各小区間の右端 $x_i$ にとる。分点は $0,\ 0.5,\ 1,\ 1.5,\ 2,\ 2.5,\ 3$ である。
$\alpha(x)=x$ のとき、増え方はどれも $0.5$ なので
$$
S=\sum_{i=1}^6x_i^2\cdot0.5=0.5\,(0.25+1+2.25+4+6.25+9)=0.5\times22.75=11.375
$$
である。これは ex-sem-rectangles の幅 $\frac12$ の値で、分割を細かくすると積分 $9$ に近づく。
$\alpha(x)=\lfloor x\rfloor$ のとき、$\lfloor x\rfloor$ は分点で $0,0,1,1,2,2,3$ と変わる。増え方は、小区間 $(0,0.5]$ で $0$、$(0.5,1]$ で $1$、$(1,1.5]$ で $0$、$(1.5,2]$ で $1$、$(2,2.5]$ で $0$、$(2.5,3]$ で $1$ である。よって
$$
S=f(1)\cdot1+f(2)\cdot1+f(3)\cdot1=1+4+9=14=\sum_{k=1}^3k^2
$$
である。同じ形の和が、$\alpha$ を取りかえるだけで、積分に近づくものにも、数列の和にもなる。
$f(x)=x$、$\alpha(x)=x^2$ とし、$[0,1]$ を 4 等分する。分点は $0,\frac14,\frac12,\frac34,1$ で、$\alpha$ の増え方は $\left(\frac i4\right)^2-\left(\frac{i-1}4\right)^2=\frac{2i-1}{16}$($i=1,2,3,4$)である。
$f(x)=1$ なら、どの分割でも
$$
S=\sum_{i=1}^m\bigl(\alpha(x_i)-\alpha(x_{i-1})\bigr)=\alpha(x_m)-\alpha(x_0)=\alpha(b)-\alpha(a)
$$
である(途中の項が打ち消し合う望遠鏡和)。よって $\int_a^b1\,d\alpha=\alpha(b)-\alpha(a)$ である。$\alpha(x)=x$ なら区間の長さ $b-a$ であり、$\alpha(x)=\lfloor x\rfloor$ なら $\lfloor b\rfloor-\lfloor a\rfloor$、つまり $a< k\le b$ を満たす整数 $k$ の個数である(lem-sem-floor-count)。望遠鏡和は、和と積分の対応表 の和の基本定理でも使った考え方である。
$\alpha$ が増加し、導関数 $\alpha'$ が連続なら、連続な $f$ について
$$
\int_a^bf(x)\,d\alpha(x)=\int_a^bf(x)\,\alpha'(x)\,dx
$$
が成り立つ(Rud76 Theorem 6.17。この記事では証明しない)。$d\alpha(x)=\alpha'(x)\,dx$ と書きかえてよい、ということである。ex-sem-square-alpha はその例である。Rud76 の定理は上積分・下積分による定義で述べられているが、ここでは $f$ も $f\alpha'$ も連続なので、上で述べたとおり、この記事の定義での積分と値が一致する。
次に $\alpha(x)=\lfloor x\rfloor$ の場合を調べる。$\lfloor x\rfloor$ は $x$ 以下の最大の整数である(床関数)。まず、$\lfloor x\rfloor$ の増え方を数える。
実数 $x< y$ について、$\lfloor y\rfloor-\lfloor x\rfloor$ は $x< j\le y$ を満たす整数 $j$ の個数に等しい。とくに $y-x<1$ なら、$\lfloor y\rfloor-\lfloor x\rfloor$ は $0$ か $1$ である。
整数 $j$ について、$j\le y$ と $j\le\lfloor y\rfloor$ は同じ条件である($\lfloor y\rfloor$ は $y$ 以下の最大の整数なので)。同様に、$j\le x$ と $j\le\lfloor x\rfloor$ は同じ条件である。よって「$x< j\le y$」は「$\lfloor x\rfloor< j\le\lfloor y\rfloor$」と同じであり、そのような整数は $\lfloor x\rfloor+1,\ \lfloor x\rfloor+2,\ \dots,\ \lfloor y\rfloor$ の $\lfloor y\rfloor-\lfloor x\rfloor$ 個である。
$y-x<1$ のとき、$x< j\le y$ を満たす整数が 2 個 $j< j'$ あったとすると、$j'-j\ge1$ なのに $j'-j\le y-x<1$ となって矛盾する。よって個数は $0$ か $1$ である。$\square$
$f$ が $[a,b]$ で連続なら、$\int_a^bf(x)\,d\lfloor x\rfloor$ が存在して
$$
\int_a^bf(x)\,d\lfloor x\rfloor=\sum_{a< k\le b}f(k)
$$
である。右辺は $a< k\le b$ を満たす整数 $k$ すべてについての和である(そのような $k$ がなければ $0$)。
方針:幅が $1$ より小さい分割では、Riemann–Stieltjes 和に「$(x_{i-1},x_i]$ に整数を含む小区間の $f(\xi_i)$」だけが 1 回ずつ現れることを示す。そのあと、$\xi_i$ が整数に近いことと $f$ の連続性から、和 $\sum f(k)$ に近いことを示す。
段 1(準備)。$a< k\le b$ を満たす整数を $k_1< k_2<\cdots< k_N$ とする。$N=0$ なら、lem-sem-floor-count によりどの小区間でも $\lfloor x_i\rfloor-\lfloor x_{i-1}\rfloor=0$ なので $S=0$ であり、定理は成り立つ。以下 $N\ge1$ とする。
段 2(幅が $1$ より小さい分割での $S$)。分割の幅が $1$ より小さいとする。小区間を左端を除いて $(x_{i-1},x_i]$ と考えると、これらは重ならずに $(a,b]$ を覆う。よって各 $k_j$ は、ちょうど 1 つの $(x_{i-1},x_i]$ に入る。その番号 $i$ を $i_j$ と書く。lem-sem-floor-count により、$\lfloor x_i\rfloor-\lfloor x_{i-1}\rfloor$ は $(x_{i-1},x_i]$ に入る整数の個数で、幅が $1$ より小さいので $0$ か $1$ である。$1$ になるのは $i=i_1,\dots,i_N$ のときだけである。したがって
$$
S=\sum_{i=1}^mf(\xi_i)\bigl(\lfloor x_i\rfloor-\lfloor x_{i-1}\rfloor\bigr)=f(\xi_{i_1})+f(\xi_{i_2})+\cdots+f(\xi_{i_N})
$$
である。
段 3(和との差を評価する)。段 2 から
$$
\left|S-\sum_{j=1}^Nf(k_j)\right|=\left|\sum_{j=1}^N\bigl(f(\xi_{i_j})-f(k_j)\bigr)\right|\le\sum_{j=1}^N\bigl|f(\xi_{i_j})-f(k_j)\bigr|
$$
である。$\xi_{i_j}$ と $k_j$ はどちらも小区間 $[x_{i_j-1},x_{i_j}]$ に入るので、$|\xi_{i_j}-k_j|$ は分割の幅以下である。
段 4(連続性を使う)。正の数 $\varepsilon$ を任意にとる。$f$ は各点 $k_j$ で連続なので、正の数 $\delta_j$ を、$|x-k_j|<\delta_j$ を満たす $[a,b]$ の点 $x$ で $|f(x)-f(k_j)|<\frac\varepsilon N$ となるようにとれる(ε-δ論法)。$\delta$ を $1,\delta_1,\dots,\delta_N$ のうち最小のものとする。幅が $\delta$ より小さい分割では、段 2 が使え、段 3 から $|\xi_{i_j}-k_j|<\delta\le\delta_j$ なので $|f(\xi_{i_j})-f(k_j)|<\frac\varepsilon N$ である。$N$ 個を足して
$$
\left|S-\sum_{j=1}^Nf(k_j)\right|< N\cdot\frac\varepsilon N=\varepsilon
$$
である。これは分割と $\xi_i$ の選び方によらない。def-sem-stieltjes により、$\int_a^bf\,d\lfloor x\rfloor=\sum_{j=1}^Nf(k_j)$ である。$\square$
図1:α(x)=x(左)と α(x)=⌊x⌋(右)。左は幅をそのまま測り、右は整数を通るたびに 1 だけ増える。右の黒丸はその点での値、白丸はその点を含まないことを表す
図 1 の右のグラフは、整数のところで 1 段ずつ上がる階段である。Stieltjes 積分は「$\alpha$ が増えたところで、その増えた分だけ $f$ の値を足す」ものなので、階段の $\alpha$ では段差のある整数での $f$ の値だけが足される。
サイコロの目 $X$($1$ から $6$ が等しく $\frac16$ の確率で出る)について、$\alpha(x)=P(X\le x)$($x$ 以下の目が出る確率。分布関数という)は、$0\le x\le6$ で $\alpha(x)=\frac{\lfloor x\rfloor}6$ である。Riemann–Stieltjes 和で $\alpha$ の増え方がすべて $\frac16$ 倍になるので、thm-sem-floor により
$$
\int_0^6x\,d\alpha(x)=\frac16\int_0^6x\,d\lfloor x\rfloor=\frac{1+2+3+4+5+6}6=\frac{21}6=3.5
$$
である。これは ex-sem-expectation のサイコロの目の期待値そのものである。
一方、$0$ 以上 $6$ 以下の実数を「どこも同じくらいの確率で」選ぶ連続な分布では、$\alpha(x)=P(X\le x)=\frac x6$ である。rem-sem-smooth により
$$
\int_0^6x\,d\alpha(x)=\int_0^6x\cdot\frac16\,dx=\frac16\cdot\frac{36}2=3
$$
であり、これが ex-sem-expectation の連続な分布の期待値である。$\alpha'(x)=\frac16$ が確率密度関数になっている。
どちらの期待値も、同じ式 $\int x\,d\alpha(x)$ で書ける。離散的な分布(和)と連続な分布(積分)を区別せずに扱えることが、Stieltjes 積分の大きな利点である。期待値の計算の工夫は、高校数学の記事 期待値の線形性と数え上げ でも扱っている。
和は $\int_a^bf\,d\lfloor x\rfloor$、積分は $\int_a^bf\,dx$ である。2 つの違いは、$\alpha$ が $\lfloor x\rfloor$ か $x$ かだけである。したがって、和と積分の差は $x-\lfloor x\rfloor$($x$ の小数部分)の振る舞いで決まるはずである。この見通しを部分積分で正確に述べたものが Euler–Maclaurin の公式で、次の Euler–Maclaurinの公式(高校数学) で扱う。そこでは、$\sum_{k=0}^nk^2=\frac{n^3}3+\frac{n^2}2+\frac n6$ の 3 つの項の意味や、調和数 $H_n$ と $\log n$ の差が、くわしく分かる。
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