Kolmogorovの拡張定理

同義語:コルモゴロフの拡張定理Daniell–Kolmogorovの拡張定理Kolmogorovの整合性定理Kolmogorov extension theoremKolmogorov consistency theorem

概要

Kolmogorovの拡張定理(Kolmogorov extension theorem)とは、添字集合の有限部分集合ごとに与えた確率測度(有限次元分布)が射影について整合であり、座標の空間が Hausdorff で各有限次元分布がコンパクト集合で内側から近似できる(たとえば座標の空間が Polish 空間である)とき、無限直積の積σ-代数の上に、それらを有限次元分布にもつ確率測度がただ 1 つ存在するという定理である。要点は、有限個の座標で決まる集合(筒集合)の上の有限加法的な確率がコンパクト性により σ-加法的になることで、あとは Carathéodory の拡張定理で延長できる。独立な確率変数の族や Gauss 過程の存在が従う。非可算な添字では、道の連続性のような性質は積σ-代数で表せない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Carathéodoryの拡張定理, 積測度, 確率空間, Dynkinのπ-λ定理, Hausdorff空間

Kolmogorov の拡張定理(Kolmogorov extension theorem)は、無限個の確率変数の族について、有限個ずつの同時分布(有限次元分布)を矛盾なく指定すれば、それらをすべて実現する確率測度が無限直積の上にただ 1 つ存在する、という定理である。独立な確率変数の無限列、Markov 連鎖、Gauss 過程など、確率論の基本的な対象の存在はこの定理で保証される。
「矛盾なく」とは、大きい有限集合の分布を小さい有限集合へ射影すると小さいほうの分布になること(整合性)である。整合性は明らかに必要であり、定理の内容はそれが(座標の空間に穏やかな位相の条件を課せば)十分でもある、ということにある。証明は 2 段に分かれる。有限個の座標で決まる集合(筒集合)の上では有限次元分布から確率が定まり、有限加法的になる。これを σ-加法的な前測度であると示せば、あとは Carathéodoryの拡張定理 で測度に延長できる。σ-加法性の証明に、各有限次元分布をコンパクト集合で内側から近似できること(内部正則性)を使う。
名前の似た Hahn–Kolmogorov の拡張定理 は、集合代数の上の前測度を測度に延長する定理で、Carathéodoryの拡張定理 と同じものである。この記事の定理はそれを道具として使うが、主題は「射影の整合な族から無限直積の上の測度を作ること」であり、別の定理である。

設定

$I$ を空でない添字の集合とし、各 $i\in I$ に可測空間 $(E_i,\mathcal E_i)$ が与えられているとする。$J\subset I$ について $E_J:=\prod_{j\in J}E_j$ とおき、$J\subset K$ のとき射影を $\pi_{KJ}\colon E_K\to E_J$、$\pi_J:=\pi_{IJ}$ と書く。$E_J$ の積σ-代数 $\mathcal E_J$ は、座標の逆像 $\pi_{J\{j\}}^{-1}(B)$($j\in J$、$B\in\mathcal E_j$)の全体が生成する σ-代数とする(2 つの因子の場合は 積測度 の定義「積σ-代数」と同じものである)。$\pi_{KJ}$ は $(E_K,\mathcal E_K)$ から $(E_J,\mathcal E_J)$ への可測写像であり(生成系の逆像が座標の逆像になる。σ-代数 の定理「逆像と生成系」)、$\pi_{KJ}\circ\pi_{LK}=\pi_{LJ}$ である。空でない有限部分集合 $J\subset I$ の全体を $\operatorname{Fin}(I)$ と書く。

有限次元分布の整合な族

各 $J\in\operatorname{Fin}(I)$ に $(E_J,\mathcal E_J)$ 上の確率測度 $\mu_J$ が与えられ、$J\subset K$ となるすべての $J,K\in\operatorname{Fin}(I)$ について
$$ \mu_K\circ\pi_{KJ}^{-1}=\mu_J,\qquad\text{すなわち}\qquad \mu_K\bigl(\pi_{KJ}^{-1}(A)\bigr)=\mu_J(A)\quad(A\in\mathcal E_J) $$
が成り立つとき、$(\mu_J)$ を整合な族(consistent family、projective family)という。

$(E_I,\mathcal E_I)$ 上の確率測度 $\mu$ があれば、その有限次元分布 $\mu\circ\pi_J^{-1}$ は $\pi_{KJ}\circ\pi_K=\pi_J$ から整合な族になる。確率空間 $(\Omega,\mathcal F,P)$ 上の確率変数の族 $(X_i)_{i\in I}$($X_i$ は $E_i$ に値をとる)についても、$(X_j)_{j\in J}$ の同時分布 $\mu_J(A):=P((X_j)_{j\in J}\in A)$ は整合な族である。拡張定理はこの逆を問う。

内部正則な有限測度

$E$ を位相空間、$\mathcal E$ をすべてのコンパクト部分集合を含む $E$ 上の σ-代数とする。$(E,\mathcal E)$ 上の有限測度 $\mu$ が内部正則(inner regular)であるとは、すべての $A\in\mathcal E$ について
$$ \mu(A)=\sup\{\mu(C)\mid C\subset A,\ C\text{ はコンパクト}\} $$
が成り立つことをいう。

主定理

Kolmogorov の拡張定理

各 $E_i$ が Hausdorff 位相空間であるとし、各 $J\in\operatorname{Fin}(I)$ について $E_J$ に直積位相を入れる。$(\mu_J)_{J\in\operatorname{Fin}(I)}$ を整合な族とし、各 $J$ について $E_J$ のコンパクト部分集合はすべて $\mathcal E_J$ に属し、$\mu_J$ は内部正則であるとする。このとき $(E_I,\mathcal E_I)$ 上の確率測度 $\mu$ で
$$ \mu\circ\pi_J^{-1}=\mu_J\qquad(J\in\operatorname{Fin}(I)) $$
を満たすものがただ 1 つ存在する。

証明の位置

証明は節「主定理の証明」で、2 つの補題を準備してから与える。

位相の条件は、次の場合に自動的に満たされる。完備な距離で距離づけられる可分な位相空間を Polish 空間 という。$\mathbb R^d$ とその閉集合、可算な離散空間、$\{0,1\}$ はどれも Polish 空間である。

Polish 空間の場合

各 $E_i$ が Polish 空間で $\mathcal E_i$ がその Borel 集合族ならば、整合な族 $(\mu_J)$ に対して thm-ke-main の $\mu$ がただ 1 つ存在する。

実数列の空間の場合

各 $n\ge1$ について $\mathbb R^n$ 上の Borel 確率測度 $\mu_n$ が与えられ、すべての Borel 集合 $A\subset\mathbb R^n$ について $\mu_{n+1}(A\times\mathbb R)=\mu_n(A)$ が成り立つとする。このとき $\mathbb R^{\{1,2,\dots\}}$ の積σ-代数の上の確率測度 $\mu$ で、すべての $n$ と $A$ について $\mu(\{x\mid(x_1,\dots,x_n)\in A\})=\mu_n(A)$ となるものがただ 1 つ存在する。

これらの系の証明は節「Polish 空間での内部正則性」で与える。cor-ke-sequence の形は Dur19 Theorem 2.1.21(p. 53)、証明は同 Theorem A.3.1(pp. 464–466)にある。一般の添字集合で、各 $E_J$ に距離が入り $\mu_J$ が内部正則である場合の形は Tao11 Definition 2.4.1・Theorem 2.4.3(pp. 237–240)にあり、証明は下と同じく前測度の延長とコンパクト性による。

主定理の証明

筒集合の集合代数と有限加法的な確率

$(\mu_J)$ を整合な族とし、$\mathcal A:=\{\pi_J^{-1}(A)\mid J\in\operatorname{Fin}(I),\ A\in\mathcal E_J\}$ とおく($\mathcal A$ の元を筒集合という)。

  1. $\mathcal A$ は $E_I$ 上の集合代数で、$\sigma(\mathcal A)=\mathcal E_I$ である。
  2. $\mu_0(\pi_J^{-1}(A)):=\mu_J(A)$ は筒集合の表し方によらずに定まり、$\mu_0$ は $\mathcal A$ の上で有限加法的で $\mu_0(E_I)=1$ を満たす。
2 つの筒集合を共通の有限集合の上で書く

要点:選択公理により各射影 $\pi_K$ は全射なので、有限個の筒集合は添字の和集合 $K$ の上で共通の $\pi_K^{-1}(\cdot)$ の形に書け、集合演算と値の比較を $E_K$ の上で行える。値が表し方によらないことは整合性による。

詳しい証明を開く

$\mu_{\{i\}}(E_i)=1$ なので各 $E_i$ は空でなく、選択公理により各 $\pi_K$ は全射である。$J\subset K$ なら $\pi_J^{-1}(A)=\pi_K^{-1}(\pi_{KJ}^{-1}(A))$ で、$\pi_{KJ}^{-1}(A)\in\mathcal E_K$ である。したがって有限個の筒集合は、添字の和集合 $K$ を使って共通の $\pi_K^{-1}(\cdot)$ の形に書ける。

1:$E_I\setminus\pi_K^{-1}(A)=\pi_K^{-1}(E_K\setminus A)$、$\pi_K^{-1}(A)\cup\pi_K^{-1}(A')=\pi_K^{-1}(A\cup A')$ なので $\mathcal A$ は集合代数である。$\mathcal A$ は $\mathcal E_I$ の生成系 $\pi_{\{i\}}^{-1}(B)$ を含み、$\pi_J$ は可測なので $\mathcal A\subset\mathcal E_I$ である。よって $\sigma(\mathcal A)=\mathcal E_I$ である。

2:$\pi_J^{-1}(A)=\pi_{J'}^{-1}(A')$ とし、$K:=J\cup J'$ とおく。$\pi_K^{-1}(\pi_{KJ}^{-1}(A))=\pi_K^{-1}(\pi_{KJ'}^{-1}(A'))$ と $\pi_K$ の全射性から $\pi_{KJ}^{-1}(A)=\pi_{KJ'}^{-1}(A')$ であり、整合性から$$\mu_J(A)=\mu_K\bigl(\pi_{KJ}^{-1}(A)\bigr)=\mu_K\bigl(\pi_{KJ'}^{-1}(A')\bigr)=\mu_{J'}(A')$$である。互いに交わらない 2 つの筒集合を共通の $K$ で $\pi_K^{-1}(A)$、$\pi_K^{-1}(A')$ と書くと、全射性から $A\cap A'=\emptyset$ であり、$\mu_0$ の加法性は $\mu_K$ の加法性から従う。$\mu_0(E_I)=\mu_J(E_J)=1$ である。$\square$

有限加法的な $\mu_0$ が前測度である(σ-加法的である)ことの核心は次の補題である。ここで位相の仮定を使う。

筒集合の減少列

thm-ke-main の仮定のもとで、筒集合の減少列 $F_1\supset F_2\supset\cdots$ が $\bigcap_NF_N=\emptyset$ を満たすならば、$\mu_0(F_N)\to0$ である。

コンパクト集合で内側から近似し、点を 1 つずつ延ばす

$\mu_0(F_N)$ は単調に減少するので、ある $\varepsilon>0$ ですべての $N$ について $\mu_0(F_N)\ge\varepsilon$ と仮定して矛盾を導く。$J_N\in\operatorname{Fin}(I)$ と $G_N\in\mathcal E_{J_N}$ で $F_N=\pi_{J_N}^{-1}(G_N)$ となるものをとる。$J_N$ を $J_1\cup\cdots\cup J_N$ に取り替えて(prf-ke-cylinder の書き換え)$J_1\subset J_2\subset\cdots$ としてよい。$M\le N$ について $p_{NM}:=\pi_{J_NJ_M}$ と書く。$F_N\subset F_M$ と $\pi_{J_N}$ の全射性から $G_N\subset p_{NM}^{-1}(G_M)$ である。
コンパクト集合による近似。 内部正則性により、コンパクト集合 $C_N\subset G_N$ で $\mu_{J_N}(G_N\setminus C_N)\le\varepsilon2^{-N-1}$ となるものがある。
$$ L_N:=\bigcap_{M=1}^Np_{NM}^{-1}(C_M)\subset E_{J_N} $$
とおく。Hausdorff空間 のコンパクト部分集合は閉集合なので(同記事の命題「コンパクト部分集合の閉性」。$E_{J_M}$ は同記事の命題「部分空間と直積による保存」により Hausdorff)、$p_{NM}^{-1}(C_M)$ は閉集合であり、$L_N$ はコンパクト集合 $C_N$ の閉部分集合としてコンパクトである。また $C_M\in\mathcal E_{J_M}$ と $p_{NM}$ の可測性から $L_N\in\mathcal E_{J_N}$ である。$G_N\setminus L_N\subset\bigcup_{M\le N}p_{NM}^{-1}(G_M\setminus C_M)$ と整合性から
$$ \mu_{J_N}(G_N\setminus L_N)\le\sum_{M=1}^N\mu_{J_M}(G_M\setminus C_M)\le\frac\varepsilon2 $$
なので $\mu_{J_N}(L_N)\ge\varepsilon/2>0$ であり、$L_N\ne\emptyset$ である。定義から $p_{N+1,N}(L_{N+1})\subset L_N$ である。
点を 1 つずつ延ばす。 $N\le k$ について $Q_N^k:=p_{kN}(L_k)$ とおく。連続写像によるコンパクト集合の像なので $Q_N^k$ は空でないコンパクト集合で、$Q_N^{k+1}=p_{kN}(p_{k+1,k}(L_{k+1}))\subset Q_N^k$ である。$Q_N^k$ はコンパクト空間 $Q_N^N$ の空でない閉集合(Hausdorff 空間のコンパクト集合)の減少列なので、有限交叉性 の系「Cantor の共通部分定理」により $Q_N:=\bigcap_{k\ge N}Q_N^k$ は空でない。さらに、各 $y\in Q_N$ について $p_{N+1,N}(z)=y$ となる $z\in Q_{N+1}$ がある。

詳細

$k\ge N+1$ について $R^k:=Q_{N+1}^k\cap p_{N+1,N}^{-1}(\{y\})$ とおくと、$y\in Q_N^k=p_{N+1,N}(Q_{N+1}^k)$ なので $R^k$ は空でない。1 点集合は閉集合なので(Hausdorff空間 の命題「一点集合と有限集合の閉性」)$R^k$ はコンパクト集合 $Q_{N+1}^k$ の閉部分集合であり、$k$ について減少する。Cantor の共通部分定理により $\bigcap_kR^k$ は空でなく、その元 $z$ が求めるものである。


この性質を使って $y_1\in Q_1$ から始め、$y_{N+1}\in Q_{N+1}$ を $p_{N+1,N}(y_{N+1})=y_N$ となるように順に選ぶ。$y_N$ たちは共通の座標で値が一致するので、$i\in J_N$ では $x_i:=(y_N)_i$、$i\notin\bigcup_NJ_N$ では $x_i\in E_i$ を任意にとって $x\in E_I$ を定めると、$\pi_{J_N}(x)=y_N\in Q_N\subset L_N\subset C_N\subset G_N$ となる。よってすべての $N$ で $x\in F_N$ であり、$\bigcap_NF_N=\emptyset$ に反する。$\square$

前測度であることを示して延長する

存在。 $\mu_0$ が $\mathcal A$ の上の前測度であることを示す。$C\in\mathcal A$ が互いに交わらない $C_1,C_2,\ldots\in\mathcal A$ の和であるとし、$F_N:=C\setminus(C_1\cup\cdots\cup C_N)$ とおく。$F_N\in\mathcal A$ は減少して $\bigcap_NF_N=\emptyset$ を満たすので、lem-ke-continuity により $\mu_0(F_N)\to0$ である。有限加法性から $\mu_0(C)=\sum_{k\le N}\mu_0(C_k)+\mu_0(F_N)$ なので、$\mu_0(C)=\sum_k\mu_0(C_k)$ である。$\mathcal A$ は集合代数なので集合半環であり(Carathéodoryの拡張定理 の定義「集合半環と集合代数」)、同記事の定理「Carathéodoryの拡張定理」の 1 により、$\sigma(\mathcal A)=\mathcal E_I$ 上の測度 $\mu$ で $\mathcal A$ の上で $\mu_0$ に一致するものがある。$\mu(E_I)=1$ であり、$A\in\mathcal E_J$ について $\mu(\pi_J^{-1}(A))=\mu_0(\pi_J^{-1}(A))=\mu_J(A)$ である。
一意性。 $\nu$ も条件を満たせば、$\nu$ は $\mathcal A$ の上で $\mu_0$ に一致する。$\mu_0$ は有限なので σ-有限であり、同じ定理の 3 により $\nu=\mu$ である($\mathcal A$ は π 系なので、Dynkinのπ-λ定理 の定理「π系の上で一致する測度の一意性」からも従う)。$\square$

一意性の部分には位相の仮定を使っていない。どんな可測空間の族についても、有限次元分布が一致する $(E_I,\mathcal E_I)$ 上の確率測度は等しい。

Polish 空間での内部正則性

Ulam の定理

Polish 空間 $E$ の Borel 集合族の上の有限測度 $\mu$ は内部正則である。

全有界な閉集合で全体を近似する

$d$ を $E$ の位相を与える完備な距離、$\{a_1,a_2,\dots\}$ を稠密な可算集合とし、$\varepsilon>0$ とする。各 $k\ge1$ について閉球 $\overline B(a_j,1/k)$($j\ge1$)は $E$ を覆うので、測度の連続性により $n_k$ を $\mu\bigl(E\setminus\bigcup_{j\le n_k}\overline B(a_j,1/k)\bigr)<\varepsilon2^{-k}$ となるようにとれる。
$$ K:=\bigcap_{k\ge1}\bigcup_{j\le n_k}\overline B(a_j,1/k) $$
は閉集合で、各 $k$ について半径 $1/k$ の有限個の球で覆えるので全有界である。完備な空間の閉集合は完備なので、全有界 の定理「コンパクト性との関係」により $K$ はコンパクトで、$\mu(E\setminus K)<\varepsilon$ である。Borel 集合 $A$ について、Radon測度 の定理「距離空間上の有限Borel測度の正則性」により閉集合 $F\subset A$ で $\mu(A\setminus F)<\varepsilon$ となるものがある。$F\cap K$ はコンパクト集合 $K$ の閉部分集合なのでコンパクトで、$\mu(A\setminus(F\cap K))<2\varepsilon$ である。$\square$

有限個の積と射影による整合な族

要点:有限個の Polish 空間の積は Polish 空間で、その Borel 集合族は積σ-代数に等しいので、lem-ke-ulam により thm-ke-main の仮定が満たされる。実数列の場合は、$\mu_n$ を射影して全有限集合の上の整合な族を作る。

詳しい証明を開く

cor-ke-polish:$J\in\operatorname{Fin}(I)$ とする。$d_j$ を $E_j$ の完備な距離とすると、$E_J$ の直積位相は完備な距離 $\max_{j\in J}d_j(x_j,y_j)$ で与えられ、稠密な可算集合の積は稠密で可算なので、$E_J$ は Polish 空間である。可分な距離空間は第2可算公理を満たすので、積測度 の命題「積σ-代数とBorel集合」を因子の数についての帰納法で使うと、$\mathcal E_J$ は $E_J$ の Borel 集合族に等しい。Hausdorff 空間のコンパクト集合は閉集合なので $\mathcal E_J$ に属し、lem-ke-ulam により $\mu_J$ は内部正則である。各 $E_i$ は距離空間なので Hausdorff であり、thm-ke-main が使える。

cor-ke-sequence:$I:=\{1,2,\dots\}$、$E_i:=\mathbb R$ とする。$J\in\operatorname{Fin}(I)$ について $J\subset\{1,\dots,n\}$ となる $n$ をとり、$\mu_J:=\mu_n\circ\pi_{\{1,\dots,n\}J}^{-1}$ とおく。仮定は $\mu_{n+1}\circ\pi_{\{1,\dots,n+1\}\{1,\dots,n\}}^{-1}=\mu_n$ と同じなので、$\mu_J$ は $n$ のとり方によらず、$(\mu_J)$ は整合な族である。$\mu_{\{1,\dots,n\}}=\mu_n$ なので、cor-ke-polish の $\mu$ が求めるものである。一意性は thm-ke-main の一意性による($\mu_n$ が一致すれば、すべての $\mu_J$ が一致する)。$\square$

例と応用

独立な確率変数の族

$I$ を任意の空でない集合、各 $E_i$ を Polish 空間、$\nu_i$ を $E_i$ 上の Borel 確率測度とする。$J\in\operatorname{Fin}(I)$ について $\mu_J:=\bigotimes_{j\in J}\nu_j$ を有限個の積測度とする(積測度 の定理「積測度の存在と一意性」と命題「積測度の結合性」)。$J\subset K$ のとき、$\mu_K\circ\pi_{KJ}^{-1}$ と $\mu_J$ は可測長方形 $\prod_{j\in J}B_j$ の上でどちらも $\prod_{j\in J}\nu_j(B_j)$ を与える。可測長方形の全体は π 系で $\mathcal E_J$ を生成するので、Dynkinのπ-λ定理 の定理「π系の上で一致する測度の一意性」により両者は等しく、$(\mu_J)$ は整合である。cor-ke-polish により $(E_I,\mathcal E_I)$ 上の確率測度 $\mu$ が得られ、座標 $X_i:=\pi_{\{i\}}$ は
$$ \mu\Bigl(\bigcap_{j\in J}\{X_j\in B_j\}\Bigr)=\prod_{j\in J}\nu_j(B_j) $$
を満たすので、互いに独立で $X_i$ の分布は $\nu_i$ である。たとえば $E_i=\{0,1\}$、$\nu_i(\{0\})=\nu_i(\{1\})=\frac12$ とすれば、公平な硬貨を可算回(あるいは非可算回)投げる試行の確率空間が得られる。$\nu_i$ を標準正規分布にとれば、独立な標準正規確率変数の族が得られる。$\mu$ を $\bigotimes_{i\in I}\nu_i$ と書き、無限直積測度という。

座標の空間が局所コンパクトで σ-コンパクトな距離空間の場合のこの構成は Tao11 Theorem 2.4.4(p. 240)と Example 2.4.6–2.4.8(p. 241)にある。$I=\{1,2,\dots\}$ で $\nu_i$ がすべて $\{0,1\}$ 上の一様な確率の場合は、$[0,1)$ 上の Lebesgue 測度と 2 進展開の桁でも実現できる(確率論 の命題「2 進展開の桁は独立な公平な硬貨投げ」)。

Gauss 過程

$T$ を空でない集合、$m\colon T\to\mathbb R$ を関数、$c\colon T\times T\to\mathbb R$ を対称で半正定値な関数(相異なる有限個の $t_1,\dots,t_n\in T$ について行列 $(c(t_a,t_b))_{a,b}$ が半正定値)とする。$J\in\operatorname{Fin}(T)$ について、$\mu_J$ を平均ベクトル $m_J:=(m(t))_{t\in J}$、共分散行列 $c_J:=(c(s,t))_{s,t\in J}$ の多変量正規分布とする(存在は 多変量正規分布 の定理「多変量正規分布の特性関数と存在」の 3)。$J\subset K$ のとき $\pi_{KJ}$ は座標を取り出す 1 次写像なので、同じ記事の定理「1 次変換で多変量正規分布は保たれる」により $\mu_K\circ\pi_{KJ}^{-1}$ は平均 $m_J$、共分散 $c_J$ の多変量正規分布であり、特性関数で分布が決まるので $\mu_J$ に等しい。よって cor-ke-polish により、すべての有限次元分布が多変量正規分布 $N(m_J,c_J)$ である確率過程 $(X_t)_{t\in T}$ が存在する。
$T=[0,\infty)$、$m=0$、$c(s,t)=\min\{s,t\}$ とすると、
$$ \sum_{a,b}\theta_a\theta_b\min\{t_a,t_b\}=\int_0^\infty\Bigl(\sum_a\theta_a1_{[0,t_a]}(u)\Bigr)^2du\ge0 $$
から $c$ は半正定値である。$X_0$ の分布は $N(0,0)$ なので $X_0=0$ がほとんど確実に成り立ち、$X_0:=0$ と取り替えても有限次元分布は変わらない。Brown運動 の命題「Gauss 過程としての特徴づけ」により、$X_0=0$ で増分が独立かつ $X_t-X_s\sim N(0,t-s)$ の過程が得られる。ただし道の連続性はこれだけでは得られない(次の節)。

同じように、状態空間 $S$ が可算集合で初期分布と推移行列が与えられたとき、経路の確率 $\mu_n(\{(i_0,\dots,i_n)\})=\mu_{i_0}p_{i_0i_1}\cdots p_{i_{n-1}i_n}$ は推移行列の各行の和が $1$ であることから $\mu_{n+1}(A\times S)=\mu_n(A)$ を満たし、prf-ke-polish の後半と同じ議論で整合な族を与える。可算な離散空間は Polish 空間なので、cor-ke-polish から Markov連鎖 が $S^{\{0,1,2,\dots\}}$ の上に得られる(同記事の命題「Markov 連鎖の存在」は $[0,1)$ を分割していく直接の構成で示している)。

非可算な添字と積σ-代数

$I$ が非可算のとき、積σ-代数 $\mathcal E_I$ は小さく、可算個の座標で決まる集合しか含まない。

積σ-代数の元は可算個の座標で決まる

$A\in\mathcal E_I$ ならば、高々可算な空でない集合 $I_0\subset I$ と $B\in\mathcal E_{I_0}$ で $A=\pi_{I_0}^{-1}(B)$ となるものがある。

この形に書ける集合の全体を $\mathcal D$ とする。$\mathcal D$ は筒集合を含み、$E_I\setminus\pi_{I_0}^{-1}(B)=\pi_{I_0}^{-1}(E_{I_0}\setminus B)$ により補集合で閉じる。$A_n=\pi_{I_n}^{-1}(B_n)$($n\ge1$)について $I_\infty:=\bigcup_nI_n$ は高々可算で、$A_n=\pi_{I_\infty}^{-1}(\pi_{I_\infty I_n}^{-1}(B_n))$、$\pi_{I_\infty I_n}^{-1}(B_n)\in\mathcal E_{I_\infty}$ なので、$\bigcup_nA_n=\pi_{I_\infty}^{-1}\bigl(\bigcup_n\pi_{I_\infty I_n}^{-1}(B_n)\bigr)\in\mathcal D$ である。よって $\mathcal D$ は筒集合を含む σ-代数であり、$\mathcal E_I=\sigma(\mathcal A)\subset\mathcal D$ である。$\square$

連続な道の集合は積σ-代数に属さない

$I=[0,1]$、$E_i=\mathbb R$ とし、$C:=\{x\in\mathbb R^{[0,1]}\mid t\mapsto x_t\text{ は連続}\}$ とおく。$C\in\mathcal E_I$ と仮定し、prop-ke-countable の $I_0$、$B$ をとる。$I_0$ は可算なので $t_0\in[0,1]\setminus I_0$ がある。定数関数 $x=0$ は $C$ に属し、$x$ を $t_0$ でだけ $1$ に変えた $x'$ は $I_0$ の上で $x$ と一致するので $\pi_{I_0}(x')=\pi_{I_0}(x)\in B$、すなわち $x'\in C$ となるが、$x'$ は $t_0$ で連続でない。よって $C\notin\mathcal E_I$ である。同じ理由で $\{x\mid\sup_tx_t\le1\}$ も $\mathcal E_I$ に属さない。

したがって、ex-ke-gaussian で作った過程について「道が連続である確率」は意味をもたない。有限次元分布は同じでも道の性質が違う過程があることは Brown運動 の節「条件を外したときの反例」の 1 行目にあり、連続な道をもつ Brown 運動の存在は、同記事の定理「Brown 運動の存在」のように別の構成で示す。拡張定理を 2 進有理数の時刻の上で使い、そこで一様連続であることを示してから延長する方法もある(Dur19 Theorem 7.1.1–7.1.3(pp. 356–357)。この記事では証明しない)。

反例:条件を外すと成り立たない

外す条件反例成り立たなくなること
整合性$I=\{1,2\}$、$E_1=E_2=\{0,1\}$、$\mu_{\{1\}}=\mu_{\{2\}}=\delta_0$、$\mu_{\{1,2\}}=\delta_{(1,0)}$$\mu\circ\pi_{\{1\}}^{-1}$ が $\delta_0$ と $\delta_1$ の両方に等しくなければならず、$\mu$ は存在しない
すべての有限集合での分布の指定$I=\{1,2\}$ で $\mu_{\{1\}}=\mu_{\{2\}}$ だけを公平な硬貨の分布 $\beta$ として与える$\beta\otimes\beta$ と、対角線 $\{(0,0),(1,1)\}$ に $\frac12$ ずつの測度がともに条件を満たし、一意でない
内部正則性(位相の条件)座標の空間が位相の条件のない一般の可測空間整合な族でも延長が存在しない例がある(Andersen–Jessen による)

1・2 行目はそれぞれ左の列の条件だけを破り、ほかの仮定(Hausdorff な位相、内部正則性)は有限集合 $\{0,1\}$ 上の測度なので満たしている。2 行目の 2 つの測度は、$\{0,1\}^2$ の各点の値($\frac14$ ずつと、$(0,0),(1,1)$ に $\frac12$ ずつ)が違うので異なる。3 行目の例は、座標の空間が(位相の条件を満たさない)可測空間で、有限次元分布は整合だが無限直積の上の測度に延長できないものである。この記事では扱わない(Dur19 p. 53 に、この定理が任意の可測空間では成り立たないことと例の出典の注意がある)。

補足

名前と別の方法

この定理は Daniell–Kolmogorov の拡張定理、Kolmogorov の整合性定理とも呼ばれる。Dur19 は、Polish 空間の Borel 部分集合が $\mathbb R$ への可測な単射で逆も可測なものをもつこと(Theorem 2.1.22(p. 54))を使い、$\mathbb R$ の場合への帰着で同じ結論を得ている。

関連項目

参考文献

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