Oreの定理(Hamilton閉路)

同義語:Ore's theorem (Hamiltonian cycles)

概要

Oreの定理(Hamilton閉路)(Ore's theorem on Hamiltonian cycles)とは、頂点数 $n\ge3$ の有限単純グラフで、隣接しない相異なる 2 頂点の次数の和がつねに $n$ 以上ならば、すべての頂点をちょうど 1 回ずつ通る閉路(Hamilton 閉路)が存在するというグラフ理論の定理である。次数の和が $n$ 以上の隣接しない 2 頂点を結ぶ操作を繰り返したグラフ(Bondy–Chvátal の閉包)は Hamilton 閉路の有無を変えず、頂点数が 3 以上で閉包が完全グラフならもとのグラフは Hamilton 閉路をもつ。Dirac の定理、辺の本数による条件、次数列についての Chvátal の条件はどれもこの見方から導かれる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Hamilton閉路, 次数(グラフ), 完全グラフ, 部分グラフ

グラフのすべての頂点をちょうど 1 回ずつ通って出発点に戻る閉路(Hamilton閉路)の存在を、頂点の次数から保証する定理がいくつかある。Diracの定理(Hamilton閉路) は「すべての頂点の次数が頂点数 $n$ の半分以上」を仮定するが、次数の小さい頂点があっても、その頂点と隣接しない頂点がどれも十分大きい次数をもてばよい。O. Ore が 1960 年に示した次の定理はこれを述べる:頂点数 $n\ge3$ のグラフで、隣接しない相異なる 2 頂点の次数の和がつねに $n$ 以上なら、Hamilton 閉路がある。この記事ではこれを Ore の定理 とよぶ。Ore の名は環論の Ore 拡大などにも付いているので、題に括弧を付けた。
この記事では、J. A. Bondy と V. Chvátal による見方で Ore の定理を証明する。隣接しない 2 頂点の次数の和が $n$ 以上なら、その 2 頂点を結んでも Hamilton 閉路の有無は変わらない(lem-ore-bc)。この操作を繰り返して得られるグラフ(閉包)は加える順序によらず、頂点数が 3 以上で閉包が完全グラフなら元のグラフは Hamilton 閉路をもつ(thm-ore-closure)。Ore の定理、Dirac の定理、辺の本数による条件、次数を小さい順に並べた列についての Chvátal の条件は、どれもこの定理の系として得られる。閾値の $n$ を一般の整数 $k$ に替え、Hamilton 路・連結度・マッチングなどの性質に広げた形は Bondy–Chvátalの閉包定理 の記事で扱う。

定義

この記事では、グラフは有限の単純無向グラフ $G=(V,E)$ とし、頂点数を $n=\lvert V\rvert$、頂点 $v$ の次数を $\deg_G(v)$(誤解のおそれがなければ $\deg(v)$)と書く(次数(グラフ))。Hamilton 閉路は、$V$ の元を重複なく並べた $v_1,\dots,v_n$($n\ge3$)で $v_1v_2,\dots,v_{n-1}v_n,v_nv_1$ がすべて辺であるものが定める閉路であり、すべての頂点を通る道を Hamilton 路という。Hamilton 閉路をもつグラフを Hamilton グラフ という。$G$ で隣接しない 2 頂点 $u,v$ に対し、辺 $uv$ を加えたグラフを $G+uv$ と書く。頂点集合が $V$ で $G$ の辺をすべて含むグラフを、$G$ を含む(同じ頂点集合の上の)グラフという。$G$ が Hamilton 閉路をもてば、$G$ を含むグラフも同じ閉路をもつ。

Oreの条件

頂点数 $n$ のグラフ $G$ が Ore の条件 をみたすとは、隣接しない相異なる 2 頂点 $u,v$ のすべてについて
$$ \deg(u)+\deg(v)\ge n $$
が成り立つことをいう。

すべての頂点の次数が $n/2$ 以上なら、Ore の条件はみたされる。逆は成り立たない(ex-ore-comparison)。

Bondy–Chvátal の補題と閉包

次数の和が大きい2頂点を結ぶ

$G$ を頂点数 $n$ のグラフとし、$u,v$ を隣接しない相異なる 2 頂点で $\deg_G(u)+\deg_G(v)\ge n$ をみたすものとする。このとき、$G$ が Hamilton 閉路をもつことと、$G+uv$ が Hamilton 閉路をもつことは同値である。

新しい辺を通る閉路を組み替える

$G$ が Hamilton 閉路をもてば、$G+uv$ も同じ閉路をもつ。逆に、$G+uv$ が Hamilton 閉路 $C$ をもち、$G$ はもたないとする。$C$ は辺 $uv$ を通る(通らなければ $C$ は $G$ の Hamilton 閉路である)。$C$ から辺 $uv$ を除くと、$G$ の Hamilton 路 $u=v_1,v_2,\dots,v_n=v$ が得られる($C$ は長さ $n\ge3$ の閉路なので $n\ge3$ である)。
$$ S:=\{\,i\mid 1\le i\le n-1,\ uv_{i+1}\in E\,\},\qquad T:=\{\,i\mid 1\le i\le n-1,\ v_iv\in E\,\} $$
とおく。$u$ 以外の頂点は $v_2,\dots,v_n$、$v$ 以外の頂点は $v_1,\dots,v_{n-1}$ なので、$\lvert S\rvert=\deg_G(u)$、$\lvert T\rvert=\deg_G(v)$ である。$S\cap T$ が元 $i$ をもてば、$uv\notin E$ より $2\le i\le n-2$ であり、
$$ v_1,\ \dots,\ v_i,\ v_n,\ v_{n-1},\ \dots,\ v_{i+1},\ v_1 $$
は辺 $v_iv_n$ と $v_{i+1}v_1$ を使う $G$ の Hamilton 閉路になって仮定に反する。よって $S\cap T=\emptyset$ であり、$S\cup T\subset\{1,\dots,n-1\}$ から $\deg_G(u)+\deg_G(v)=\lvert S\cup T\rvert\le n-1$ となって、$\deg_G(u)+\deg_G(v)\ge n$ に反する。$\square$

補題の $n$ は $n-1$ に下げられない(ex-ore-lemma-sharp)。補題は、次数の和が $n$ 以上の隣接しない 2 頂点を結ぶ操作を何度繰り返してもよいことを示している。その操作を限界まで繰り返したものを閉包という。

閉包

頂点数 $n$ のグラフ $G$ から始めて、「その時点のグラフで隣接せず、その時点の次数の和が $n$ 以上の 2 頂点を 1 組選び、辺で結ぶ」操作を、そのような組がなくなるまで繰り返して得られるグラフを $G$ の 閉包(closure)といい、$\operatorname{cl}(G)$ と書く。

操作のたびに辺が 1 本増え、辺の本数は $\binom n2$ 以下なので、操作は有限回で終わる。どの組を選ぶかには自由があるが、結果は選び方によらない。

閉包は辺の加え方によらない

def-ore-closure の操作を 2 通りに行って得られるグラフ $G_1,G_2$ は等しい。

最初に食い違う辺を調べる

$G_1$ を得るときに加えた辺を順に $e_1,\dots,e_r$、$G_2$ を得るときに加えた辺を順に $f_1,\dots,f_s$ とする。どの $e_j$ も $G_2$ の辺であることを示す。そうでないとし、$G_2$ の辺でない最初の $e_j$ を $e_{l+1}=uv$ とする。$H:=G+\{e_1,\dots,e_l\}$($G$ にこれらの辺を加えたグラフ)とおくと、$e_{l+1}$ を加えた時点の条件から $u,v$ は $H$ で隣接せず、$\deg_H(u)+\deg_H(v)\ge n$ である。$e_1,\dots,e_l$ は $G_2$ の辺なので $H$ は $G_2$ に含まれ、$\deg_{G_2}(u)+\deg_{G_2}(v)\ge\deg_H(u)+\deg_H(v)\ge n$ である。$uv$ は $G_2$ の辺でないから、$G_2$ にはまだ結べる組 $u,v$ が残っていることになり、$G_2$ が操作の終わりであることに反する。よって $G_1$ の辺はすべて $G_2$ の辺であり、同様に $G_2$ の辺はすべて $G_1$ の辺である。どちらも頂点集合は $V$ なので $G_1=G_2$ である。$\square$

閉包と Hamilton 閉路

$G$ をグラフとする。

  1. $G$ が Hamilton 閉路をもつことと、閉包 $\operatorname{cl}(G)$ が Hamilton 閉路をもつことは同値である。
  2. 頂点数 $n\ge3$ で $\operatorname{cl}(G)$ が完全グラフ $K_n$ ならば、$G$ は Hamilton 閉路をもつ。
補題を1本ずつ当てる

1:閉包を作るときに加えた辺を順に $e_1,\dots,e_r$ とし、$G_j:=G+\{e_1,\dots,e_j\}$($G_0=G$、$G_r=\operatorname{cl}(G)$)とおく。$e_{j+1}$ の両端は $G_j$ で隣接せず、$G_j$ での次数の和が $n$ 以上なので、lem-ore-bc により $G_j$ と $G_{j+1}$ の Hamilton 閉路の有無は一致する。$j=0,\dots,r-1$ についてつなげればよい。
2:$n\ge3$ なら $K_n$ の頂点を任意の順に並べた $v_1,\dots,v_n,v_1$ は Hamilton 閉路である。1 により $G$ も Hamilton 閉路をもつ。$\square$

閉包は、隣接しない 2 頂点の次数の和を調べて辺を加えるだけで求まる。閉包が完全グラフになるかどうかは、Hamilton 閉路を探すのと違って、$n$ の多項式の回数の操作で判定できる。ただし閉包が完全グラフにならなくても Hamilton 閉路をもつグラフはある(ex-ore-closure-not-complete)。

Ore の定理と系

Oreの定理

$G$ を頂点数 $n\ge3$ のグラフとし、Ore の条件をみたす、すなわち隣接しない相異なる 2 頂点 $u,v$ のすべてについて $\deg(u)+\deg(v)\ge n$ であるとする。このとき $G$ は Hamilton 閉路をもつ。

閉包が完全グラフになる

$\operatorname{cl}(G)$ で隣接しない相異なる 2 頂点 $x,y$ があるとする。閉包は $G$ に辺を加えたものなので、$x,y$ は $G$ でも隣接せず、Ore の条件から
$$ \deg_{\operatorname{cl}(G)}(x)+\deg_{\operatorname{cl}(G)}(y)\ge\deg_G(x)+\deg_G(y)\ge n $$
である。これは $\operatorname{cl}(G)$ にまだ結べる組が残っていることを意味し、閉包の定義に反する。よって $\operatorname{cl}(G)=K_n$ であり、thm-ore-closure の 2 により $G$ は Hamilton 閉路をもつ。$\square$

閉包を使わない証明、すなわち最長の道の端点の隣接頂点を数えて閉路に組み替える証明は Hamilton閉路 の定理「Oreの定理」にある。

Diracの定理

頂点数 $n\ge3$ のグラフで、すべての頂点の次数が $n/2$ 以上ならば、Hamilton 閉路をもつ。

どの 2 頂点 $u,v$ についても $\deg(u)+\deg(v)\ge\frac n2+\frac n2=n$ なので、thm-ore-main の仮定がみたされる。$\square$

Dirac の定理の別の証明、下界 $n/2$ が最良であること、長い道についての Dirac の定理は Diracの定理(Hamilton閉路) で扱う。

辺の本数による条件

$G$ を頂点数 $n\ge3$ のグラフとし、辺の本数が $\binom{n-1}2+2$ 以上であるとする。このとき $G$ は Hamilton 閉路をもつ。

隣接しない2頂点に接続しない辺を数える

隣接しない相異なる 2 頂点 $u,v$ をとる(なければ $G=K_n$ で、Hamilton 閉路をもつ)。$G$ の辺は、$u$ にも $v$ にも接続しないものと、$u$ か $v$ に接続するものに分かれる。前者は残りの $n-2$ 頂点の間の辺なので $\binom{n-2}2$ 本以下であり、後者は $uv$ が辺でないので $\deg(u)+\deg(v)$ 本である。よって
$$ \binom{n-1}2+2\le\binom{n-2}2+\deg(u)+\deg(v) $$
であり、$\binom{n-1}2-\binom{n-2}2=n-2$ から $\deg(u)+\deg(v)\ge n$ を得る。$G$ は Ore の条件をみたすので、thm-ore-main により Hamilton 閉路をもつ。$\square$

$K_{n-1}$ に 1 頂点を加えて $K_{n-1}$ の 1 頂点とだけ結んだグラフは、辺が $\binom{n-1}2+1$ 本で、次数 $1$ の頂点をもつので Hamilton 閉路をもたない。したがって cor-ore-edges の本数は 1 本も減らせない。BM76 の系 4.6(p. 60)はこの系を Chvátal の条件から導き、等号の場合の Hamilton 閉路をもたないグラフも決定している。

Chvátal の次数列の条件

頂点の次数を小さい順に並べた列 $d_1\le d_2\le\dots\le d_n$ を $G$ の 次数列 とよぶ。

Chvátalの定理

$G$ を頂点数 $n\ge3$ のグラフとし、次数列を $d_1\le\dots\le d_n$ とする。$1\le m< n/2$ をみたすどの整数 $m$ についても
$$ d_m\le m\quad\text{ならば}\quad d_{n-m}\ge n-m $$
が成り立つとする。このとき $\operatorname{cl}(G)=K_n$ であり、とくに $G$ は Hamilton 閉路をもつ。

次数の和が最大の隣接しない組をとる

$H:=\operatorname{cl}(G)$ とおき、$H$ での次数を $d'(x)$ と書く。$H$ の次数は $G$ の次数以上である。
まず、$G$ に次数 $0$ の頂点 $x$ はない。あれば $d_1=0\le1$ であり、ほかの頂点はどれも $x$ と隣接しないので次数が $n-2$ 以下、とくに $d_{n-1}\le n-2< n-1$ となって、$m=1$($n\ge3$ なので $1< n/2$)について仮定に反する。
$H\ne K_n$ として矛盾を導く。$H$ で隣接しない相異なる 2 頂点の組のうち、$H$ での次数の和が最大のものを 1 つとり、$d'(u)\le d'(v)$ となるように名前を付ける。$H$ は閉包なので $d'(u)+d'(v)\le n-1$ である。$m:=d'(u)$ とおくと、$m\ge\deg_G(u)\ge1$、$2m\le d'(u)+d'(v)\le n-1$ なので $1\le m< n/2$ である。
(次数の小さい頂点)$v$ と隣接しない $v$ 以外の頂点の集合を $X$ とする。$u\in X$ であり、$\lvert X\rvert=n-1-d'(v)\ge n-1-(n-1-m)=m$ である。$w\in X$ なら $w,v$ は $H$ で隣接しない組なので、和の最大性から $d'(w)+d'(v)\le d'(u)+d'(v)$、すなわち $d'(w)\le m$ である。
(次数の大きくない頂点)$u$ と隣接しない $u$ 以外の頂点の集合を $Y$ とする。$\lvert Y\rvert=n-1-m$ であり、$w\in Y$ なら同様に $d'(w)\le d'(v)\le n-1-m$ である。$u$ 自身も $d'(u)=m\le d'(v)\le n-1-m$ をみたす。$u\notin Y$ なので、$Y\cup\{u\}$ は $d'$ が $n-1-m$ 以下の $n-m$ 個の頂点からなる。
$G$ の次数は $H$ の次数以下なので、$G$ には次数 $m$ 以下の頂点が $m$ 個以上、次数 $n-1-m$ 以下の頂点が $n-m$ 個以上ある。次数を小さい順に並べると $d_m\le m$、$d_{n-m}\le n-1-m< n-m$ となり、仮定に反する。よって $H=K_n$ であり、thm-ore-closure の 2 により $G$ は Hamilton 閉路をもつ。$\square$

Chvátal の条件は Ore の条件より弱い(Ore の条件をみたすグラフは Chvátal の条件もみたす)。

Oreの条件からChvátalの条件が従う

頂点数 $n\ge3$ のグラフ $G$ が Ore の条件をみたせば、thm-ore-chvatal の仮定もみたす。

頂点を次数の小さい順に $x_1,\dots,x_n$ と並べ、$\deg(x_i)=d_i$ とする。ある $1\le m< n/2$ で $d_m\le m$ かつ $d_{n-m}\le n-m-1$ であるとして矛盾を導く。$i\le m$ とする。$1\le j\le n-m$、$j\ne i$ について $x_i$ と $x_j$ が隣接しなければ、$\deg(x_i)+\deg(x_j)\le m+(n-m-1)=n-1$ となって Ore の条件に反する。よって $x_i$ は $x_1,\dots,x_{n-m}$ のうち自分以外の $n-m-1$ 個とすべて隣接し、$n-m-1\le\deg(x_i)\le m$ である。$2m< n$ とあわせて $n=2m+1$ であり、$x_i$ の隣接頂点はちょうど $x_1,\dots,x_{m+1}$ のうち自分以外のものである。すると $x_n$($n=2m+1>m+1$)は $x_1,\dots,x_m$ のどれとも隣接しないので $\deg(x_n)\le n-1-m=m$ であり、$\deg(x_1)+\deg(x_n)\le2m=n-1$ となって Ore の条件に反する。$\square$

Chvátal の条件は、条件の形を変えずにこれ以上弱められない。どの $m$ で条件を破っても、Hamilton 閉路をもたないグラフがある。

Chvátalの条件が最良であること

$n\ge3$、$1\le m< n/2$ とする。頂点集合を、$m$ 個の頂点からなる $A$、$m$ 個の頂点からなる $B$、$n-2m$ 個の頂点からなる $R$ に分け、$B$ の 2 頂点、$R$ の 2 頂点、$B$ の頂点と $A\cup R$ の頂点をすべて結び、ほかには辺を置かないグラフを $W_{m,n}$ とする。

  1. $W_{m,n}$ は Hamilton 閉路をもたない。
  2. $W_{m,n}$ の次数列は、$m$ が $m$ 個、$n-m-1$ が $n-2m$ 個、$n-1$ が $m$ 個であり、$d_m=m$、$d_{n-m}=n-m-1$ である。
  3. 次数列が $d_1\le\dots\le d_n$ の、Hamilton 閉路をもたない頂点数 $n\ge3$ のグラフ $G$ には、ある $1\le m< n/2$ があって、すべての $i$ で $d_i$ は $W_{m,n}$ の次数列の $i$ 番目以下である。

1:$W_{m,n}$ から $B$ を除くと、$A$ の $m$ 個の孤立点と、$R$($n-2m\ge1$ 個の頂点、完全グラフ)が残り、連結成分は $m+1$ 個である。Hamilton 閉路 $C$ から $B$ の $m$ 個の頂点を除くと、閉路は $m$ 個以下の道に切れるので、残りの頂点は高々 $m$ 個の連結成分に入る(Hamilton閉路 の命題「頂点を除いたときの連結成分の個数」)。よって Hamilton 閉路はない。
2:$A$ の頂点は $B$ とだけ隣接して次数 $m$、$R$ の頂点は $R$ の残りと $B$ に隣接して次数 $(n-2m-1)+m=n-m-1$、$B$ の頂点はほかのすべての頂点に隣接して次数 $n-1$ である。$2m\le n-1$ より $m\le n-m-1$ なので、小さい順に並べると主張の列になる。
3:$G$ は Hamilton 閉路をもたないので、thm-ore-chvatal の対偶により、ある $1\le m< n/2$ で $d_m\le m$ かつ $d_{n-m}\le n-m-1$ である。$i\le m$ なら $d_i\le d_m\le m$、$m< i\le n-m$ なら $d_i\le d_{n-m}\le n-m-1$、どの $i$ でも $d_i\le n-1$ である。$\square$

3 は BM76 の定理 4.6(p. 59)で、Chvátal による。$m=1$ の $W_{1,n}$ が、cor-ore-edges の後に挙げた $K_{n-1}$ に次数 $1$ の頂点を加えたグラフである。

例と反例

5 頂点の次のグラフで、条件の強さを比べる。

条件の強さの比較
  1. $K_4$ に次数 $2$ の頂点を加えたもの:$K_4$ の頂点 $a,b,c,d$ と、$a,b$ だけに隣接する頂点 $w$。次数列は $2,3,3,4,4$ で、Dirac の条件($2\ge5/2$)はみたさない。隣接しない組は $\{w,c\},\{w,d\}$ だけで、和は $2+3=5$ なので Ore の条件はみたす。$w,a,c,d,b,w$ が Hamilton 閉路である。
  2. 扇:頂点 $h$ を道 $a,b,c,d$ のすべての頂点と結んだグラフ。次数は $h$ が $4$、$b,c$ が $3$、$a,d$ が $2$ で、$a,d$ は隣接せず和が $4< 5$ なので Ore の条件はみたさない。次数列 $2,2,3,3,4$ は、$m=1$ では $d_1=2>1$、$m=2$ では $d_2=2\le2$ かつ $d_3=3\ge3$ なので、Chvátal の条件をみたす。閉包では、$\{a,c\}$(和 $5$)、$\{b,d\}$(和 $5$)を結んだあと $a,d$ の次数が $3$ になり $\{a,d\}$(和 $6$)も結ばれて、$K_5$ になる。
  3. 家:4 頂点の閉路 $p,q,r,s,p$ に、$p,q$ だけに隣接する頂点 $t$ を加えたグラフ。次数列は $2,2,2,3,3$ で、$m=2$ で $d_2=2\le2$、$d_3=2< 3$ なので Chvátal の条件をみたさない。閉包では $\{p,r\}$、$\{q,s\}$(和 $5$)を結ぶと $r,s$ の次数が $3$ になり、$\{t,r\}$(和 $5$)、続いて $\{t,s\}$(和 $6$)が結ばれて $K_5$ になる。$t,p,s,r,q,t$ が Hamilton 閉路である。
グラフ($n=5$)DiracOreChvátal閉包が $K_5$Hamilton 閉路
$K_5$みたすみたすみたすなるもつ
$K_4$ に次数 $2$ の頂点みたさないみたすみたすなるもつ
扇みたさないみたさないみたすなるもつ
家みたさないみたさないみたさないなるもつ
閉路 $C_5$みたさないみたさないみたさないならないもつ
$K_{2,3}$みたさないみたさないみたさないならないもたない

表の左の列ほど条件が強く、各条件はその右の条件を導く(Dirac ⇒ Ore は cor-ore-dirac の証明、Ore ⇒ Chvátal は prop-ore-implies-chvatal、Chvátal ⇒ 閉包が完全は thm-ore-chvatal、閉包が完全 ⇒ Hamilton は thm-ore-closure)。どの含意も逆は成り立たない。

反例:閉包が完全グラフにならないHamiltonグラフ

$n\ge5$ とし、長さ $n$ の閉路だけからなるグラフ $C_n$ を考える。どの 2 頂点の次数の和も $4< n$ なので、閉包の操作では辺が 1 本も加わらず、$\operatorname{cl}(C_n)=C_n\ne K_n$ である。$C_n$ はそれ自身が Hamilton 閉路である。thm-ore-closure の 2 の逆は成り立たない。

反例:補題の和を $n-1$ にすると成り立たない

$m\ge1$ とし、部の大きさが $m$ と $m+1$ の完全二部グラフ $K_{m,m+1}$($n=2m+1$)を考え、大きいほうの部の 2 頂点 $u,v$ をとる。$\deg(u)+\deg(v)=2m=n-1$ である。$K_{m,m+1}$ は部の大きさが異なる二部グラフなので Hamilton 閉路をもたない(Hamilton閉路 の命題「二部グラフのHamilton閉路」)。一方 $K_{m,m+1}+uv$ では、大きい部を $u=b_0,v=b_1,b_2,\dots,b_m$、小さい部を $a_1,\dots,a_m$ とすると、
$$ b_0,\ b_1,\ a_1,\ b_2,\ a_2,\ \dots,\ b_m,\ a_m,\ b_0 $$
が Hamilton 閉路である。よって lem-ore-bc の仮定 $\deg(u)+\deg(v)\ge n$ を $n-1$ に弱めると結論が成り立たない。同じグラフ $K_{m,m+1}$ は、Ore の条件の $n$ を $n-1$ に弱めた条件をみたす(隣接しない組は同じ部の 2 頂点で、和は $2m$ か $2m+2$)ので、thm-ore-main の $n$ も $n-1$ に下げられない。

外す条件反例成り立たなくなること
thm-ore-main の $n\ge3$$K_2$(隣接しない組がなく、条件は自動的にみたされる)Hamilton 閉路をもつ
thm-ore-main の和 $\ge n$ を $\ge n-1$ に弱める$K_{m,m+1}$Hamilton 閉路をもつ
lem-ore-bc の和 $\ge n$ を $\ge n-1$ に弱める$K_{m,m+1}$ と大きい部の 2 頂点$G$ と $G+uv$ の Hamilton 閉路の有無が一致する
cor-ore-edges の本数を $\binom{n-1}2+1$ に減らす$W_{1,n}$Hamilton 閉路をもつ
thm-ore-chvatal の条件をある $m$ で破る$W_{m,n}$Hamilton 閉路をもつ

補足

名前と文献

lem-ore-bc・prop-ore-closure-well-defined・thm-ore-closure は BM76 の補題 4.4.1・4.4.2(pp. 55–56)、定理 4.4 と系 4.4(p. 57)にあり、同書は閉包の考え方を Bondy と Chvátal(1974 年)に帰している(一般の閾値への拡張は Bondy–Chvátalの閉包定理)。thm-ore-chvatal は同書の定理 4.5(pp. 57–58)で、Chvátal(1972 年)による。同書の閉包の定義と証明はこの記事と同じである。thm-ore-main は同書には定理として述べられていないが、系 4.4 から直ちに従う。

使い方の注意
  • 閉包は「Hamilton 閉路の有無を変えずに辺を増やす」操作であり、Hamilton 閉路そのものは閉包の上で見つけたあと prf-ore-bc の組み替えを逆にたどって元のグラフへ戻せる。各段の組み替えは $n$ の多項式の回数の操作である。
  • 次数の条件はどれも十分条件であり、次数の小さい頂点が多い疎なグラフ(閉路、平面の格子、Petersen グラフなど)の Hamilton 性はこれらの定理では判定できない。一般のグラフで Hamilton 閉路の有無を判定する問題は NP完全 である。

関連項目

参考文献

[1]
J. A. Bondy, U. S. R. Murty, Graph Theory with Applications, Macmillan / American Elsevier, 1976, §4.2 Hamilton Cycles:Lemma 4.4.1(pp. 55–56)、Lemma 4.4.2(p. 56、閉包)、Theorem 4.4・Corollary 4.4(p. 57)、Theorem 4.5(Chvátal、pp. 57–58)、Theorem 4.6(p. 59)、Corollary 4.6(p. 60)

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