Milnorファイブレーション

同義語:Milnor fibration

概要

Milnorファイブレーション(Milnor fibration)とは、原点で $0$ になる正則関数 $f$ について、原点を中心とする球面 $S_r$ から零点集合を除いた部分を $f/\lvert f\rvert$ で円周に写す写像が局所自明なファイバー束になったものであり、Milnor の定理により $r$ が十分小さければ常にそうなる。ファイバー(Milnor ファイバー)とモノドロミーは特異点の近くでの $f$ の等位集合の退化を記録し、$f$ が $n+1$ 変数で原点が孤立した臨界点なら、ファイバーは Milnor 数の個数の $n$ 次元球面のブーケとホモトピー同値になる。擬斉次多項式ではすべての半径で束になり、ファイバーは $f^{-1}(1)$、モノドロミーは重みで決まる有限位数の線形写像で、2 次形式ではファイバーが球面の接束になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 複素多様体, 正則関数, ファイバー束, Ehresmannの補題, 特異点

Milnor ファイブレーション(Milnor fibration)は、正則関数 $f$ の零点集合 $V=f^{-1}(0)$ を原点のまわりの小さな球面で切り、球面から $V$ を除いた部分を偏角 $f/\lvert f\rvert$ で円周に写したファイバー束である。ファイバー(Milnor ファイバー)とモノドロミーが、原点の近くで $f$ の等位集合がどう退化するかを記録する。一般の場合の存在は J. Milnor の定理による。この記事では、重み付きの斉次性をもつ多項式に対して、ファイブレーションの存在とモノドロミーの式を完全に証明する。

問い答え
何をファイバー束とみるのか球面から零点集合を除いた部分の上の $f/\lvert f\rvert$(def-mf-main)
一般に存在するか球面が十分小さければ存在する(thm-mf-milnor。この記事では証明しない)
擬斉次多項式ではすべての半径で存在し、ファイバーは $f^{-1}(1)$、モノドロミーは位数が次数を割る線形写像(thm-mf-weighted)
2 次形式 $z_0^2+\cdots+z_n^2$ ではファイバーは $S^n$ の接束、モノドロミーは $H_n$ に $(-1)^{n+1}$ で作用する(prop-mf-quadric)

定義

$U\subset\mathbb{C}^{n+1}$ を原点を含む開集合、$f\colon U\to\mathbb{C}$ を $f(0)=0$ を満たす正則関数とし、$U$ の各連結成分の上で恒等的に $0$ ではないとする。$V:=f^{-1}(0)$ とおく。$r>0$ に対し、$S_r$、$B_r$ をそれぞれ原点を中心とする半径 $r$ の球面と開球($\lvert z\rvert^2=\sum_i\lvert z_i\rvert^2$ による)とし、$K_r:=V\cap S_r$ とおく。

Milnor ファイブレーション

$\overline{B_r}\subset U$ となる $r>0$ に対し、写像
$$ \varphi_r:=\frac{f}{\lvert f\rvert}\colon S_r\setminus K_r\longrightarrow S^1 $$
が滑らかな局所自明ファイバー束であるとき、これを $f$ の原点での(半径 $r$ の)Milnor ファイブレーションという。ファイバー $\varphi_r^{-1}(e^{i\theta})$ を Milnor ファイバー、$K_r$ を リンク(link)という。

$S_r\setminus K_r$ は $S_r$ の開集合なので、$\varphi_r$ は滑らかな写像である。定義は「束であること」を要求するだけで、どの半径で束になるかは $f$ による。

Milnor のファイブレーション定理

$f$ を上のとおりとする。$\varepsilon_0>0$ があって、$0< r\le\varepsilon_0$ のとき $\varphi_r$ は滑らかな局所自明ファイバー束である。さらに $\delta>0$ を $r$ に比べて十分小さくとると、$\partial D_\delta:=\{t\in\mathbb{C}:\lvert t\rvert=\delta\}$ の上の写像 $f\colon B_r\cap f^{-1}(\partial D_\delta)\to\partial D_\delta$ も滑らかな局所自明ファイバー束で、そのファイバーは $\varphi_r$ のファイバーと微分同相である。

定理の出典と証明の考え方

この記事では証明しない。前半と、2 つの束のファイバーが微分同相であることは Milnor の 1968 年の著書による。後半の管の上の束の構造は、原点が孤立した臨界点でない一般の場合には、Hironaka による Thom 層別の存在(1977 年)を用いて示される。内容と証明の流れは Sea18 Theorem 4.1・Theorem 4.2 と §4 の解説にある。後半の束の構造は、ファイバー $f^{-1}(t)$ が球面 $S_r$ と横断的に交わることを用いて、Ehresmannの補題 と同じくベクトル場を持ち上げて流れで移す方法で示される。前半との同一視には、$f$ の偏角を保ちながら管 $f^{-1}(\partial D_\delta)$ を球面まで押し広げるベクトル場が要り、その構成に曲線選択補題が使われる(Sea18 Lemma 4.3)。$f$ が原点で孤立した臨界点をもつとは仮定していない。

$\varphi_r$ が束であるとき、その局所自明性から、$S^1$ の点 $1$ から出て一周する道に沿ってファイバー $F:=\varphi_r^{-1}(1)$ を運ぶと、$F$ からそれ自身への微分同相 $h$ が得られる。$h$ を モノドロミー(monodromy)といい、誘導される $h_*\colon H_*(F;\mathbb{Z})\to H_*(F;\mathbb{Z})$ を Milnor ファイバーのホモロジーへのモノドロミー作用という(Sea18 §1 では最初の帰還写像として扱われている)。下の主定理では、この輸送を具体的な式で書き下す。

擬斉次多項式の場合

擬斉次多項式

正の整数 $w_0,\dots,w_n$ と整数 $d$ をとる。$\lambda\in\mathbb{C}^\times$ と $z\in\mathbb{C}^{n+1}$ に対し
$$ \lambda\cdot z:=(\lambda^{w_0}z_0,\dots,\lambda^{w_n}z_n) $$
とおく。多項式 $f\in\mathbb{C}[z_0,\dots,z_n]$ が、すべての $\lambda\in\mathbb{C}^\times$、$z\in\mathbb{C}^{n+1}$ について $f(\lambda\cdot z)=\lambda^df(z)$ を満たすとき、$f$ は重み $(w_0,\dots,w_n)$、次数 $d$ の擬斉次多項式(weighted homogeneous polynomial)であるという。

単項式 $z^\alpha=z_0^{\alpha_0}\cdots z_n^{\alpha_n}$ は $(\lambda\cdot z)^\alpha=\lambda^{\sum_iw_i\alpha_i}z^\alpha$ を満たすので、$f$ が擬斉次であることは、$f$ に現れる単項式がすべて $\sum_iw_i\alpha_i=d$ を満たすことと同値である。とくに $f$ が定数でなければ $d\ge1$ である($d\le0$ なら $\sum_iw_i\alpha_i=d$ を満たす $\alpha\in\mathbb{N}^{n+1}$ は $\alpha=0$ に限られ、$d<0$ なら存在しない)。すべての $w_i=1$ のときが通常の斉次多項式である。$\lambda\mapsto f(\lambda\cdot z)$ を $\lambda=1$ で微分すると、Euler の恒等式
$$ \sum_{i=0}^nw_iz_i\frac{\partial f}{\partial z_i}(z)=d\,f(z) $$
を得る。よって $f(z)\ne0$ の点では $f$ の微分は $0$ でない。
以下、$f$ を重み $(w_0,\dots,w_n)$、次数 $d$ の定数でない擬斉次多項式とし、$V=f^{-1}(0)$、$F:=f^{-1}(1)$ とおく。

擬斉次多項式の Milnor ファイブレーション
  1. $F$ は $\mathbb{C}^{n+1}$ の閉じた複素部分多様体で、$f\colon\mathbb{C}^{n+1}\setminus V\to\mathbb{C}^\times$ はファイバーが $F$ の滑らかな局所自明ファイバー束である。
  2. すべての $r>0$ について、$\varphi_r\colon S_r\setminus K_r\to S^1$ は滑らかな局所自明ファイバー束で、各ファイバーは $F$ と微分同相である。
  3. $0\le\theta\le2\pi$ に対し $\Phi_\theta(z):=e^{i\theta/d}\cdot z$ とおくと、$\Phi_\theta$ は $F$ から $f^{-1}(e^{i\theta})$ への微分同相写像で、$\theta$ について連続、$\Phi_0=\mathrm{id}_F$ である。一周した後の $h:=\Phi_{2\pi}\colon F\to F$ は
    $$ h(z_0,\dots,z_n)=\bigl(e^{2\pi iw_0/d}z_0,\dots,e^{2\pi iw_n/d}z_n\bigr) $$
    で与えられ、$h^d=\mathrm{id}_F$ である。

thm-mf-weighted は半径について一様である。thm-mf-milnor は小さい半径でしか主張しないが、擬斉次多項式では原点に近づける正の実数の作用があるため、どの半径でも同じ束になる。3 の $\Phi_\theta$ は 1 の束の、単位円周に沿った輸送であり、$h$ がモノドロミーである。段 5 で見るとおり、同じ式は $\varphi_r$ の輸送も与える。

正の実数による縮小と単位円による回転

段 1($\mathbb{C}^\times$ 上の束).$f(z)\ne0$ の点では Euler の恒等式により $f$ の微分は $0$ でないので、$f$ は $\mathbb{C}^{n+1}\setminus V$ の上で沈め込みであり、$F$ は余次元 $1$ の閉じた複素部分多様体である(正則値定理)。$F\ne\emptyset$ である:$f$ は定数でないので $f(z)\ne0$ となる $z$ があり、$f(z)$ の $d$ 乗根 $\mu$ をとると $f(\mu^{-1}\cdot z)=\mu^{-d}f(z)=1$ である。$W\subset\mathbb{C}^\times$ を単連結な開集合とし、$W$ 上の正則な $d$ 乗根 $\sigma$($\sigma(c)^d=c$)を選ぶ($\mathbb{C}^\times$ は $\mathbb{C}^\times$ から負の実軸を除いた集合と正の実軸を除いた集合の 2 つで覆われ、それぞれの上に対数の枝がある)。
$$ \Phi\colon W\times F\to f^{-1}(W),\quad(c,z)\mapsto\sigma(c)\cdot z,\qquad\Psi\colon f^{-1}(W)\to W\times F,\quad w\mapsto\bigl(f(w),\ \sigma(f(w))^{-1}\cdot w\bigr) $$
とおく。$f(\sigma(c)\cdot z)=\sigma(c)^df(z)=c$、$f(\sigma(f(w))^{-1}\cdot w)=f(w)^{-1}f(w)=1$ なので、どちらも行き先に入り、$(\lambda\mu)\cdot z=\lambda\cdot(\mu\cdot z)$ から互いに逆である。どちらも滑らかで($F$ への写像としての滑らかさは $F$ が閉部分多様体であることによる)、$f\circ\Phi=\mathrm{pr}_1$ なので、$\Phi$ は $W$ 上の局所自明化である。
段 2(球面への正規化).$z\ne0$ に対し $g_z(t):=\lvert t\cdot z\rvert^2=\sum_it^{2w_i}\lvert z_i\rvert^2$($t>0$)は連続で狭義単調増加し、$t\to0$ で $0$、$t\to\infty$ で $\infty$ に近づく。よって $g_z(t)=r^2$ となる $t=\tau(z)>0$ がただ一つある。$\partial g_z/\partial t=\sum_i2w_it^{2w_i-1}\lvert z_i\rvert^2>0$ なので、陰関数定理 により $\tau$ は $\mathbb{C}^{n+1}\setminus\{0\}$ 上の滑らかな関数である。$N(z):=\tau(z)\cdot z\in S_r$ とおく。$t>0$ について $f(t\cdot z)=t^df(z)$ なので $f(N(z))$ は $f(z)$ の正の実数倍であり、とくに $N(\mathbb{C}^{n+1}\setminus V)\subset S_r\setminus K_r$ である。また $\tau(t\cdot z)=\tau(z)/t$ なので $N(t\cdot z)=N(z)$、$S_r$ の上では $\tau=1$、$N=\mathrm{id}$ である。
段 3(ファイバーの同一視).$\varphi_r^{-1}(1)=\{z\in S_r:f(z)>0\}$ である。$\lvert e^{i\theta}\rvert=1$ なので $\varphi_r(e^{i\theta}\cdot z)=e^{id\theta}\varphi_r(z)$ であり、これを $\theta=0$ で微分すると $\varphi_r$ の微分は各点で全射である。よって $\varphi_r$ は沈め込みで、$\varphi_r^{-1}(1)$ は $S_r\setminus K_r$ の閉部分多様体である。$\alpha\colon\varphi_r^{-1}(1)\to F$ を $\alpha(z):=f(z)^{-1/d}\cdot z$($f(z)^{-1/d}$ は正の実数の $d$ 乗根)で、$\beta\colon F\to\varphi_r^{-1}(1)$ を $\beta:=N|_F$ で定める。$f(\alpha(z))=f(z)^{-1}f(z)=1$、段 2 により $\beta(F)\subset\varphi_r^{-1}(1)$ である。$\beta(\alpha(z))=N(z)=z$($\alpha(z)$ は $z$ の正の実数による像)、$\alpha(\beta(w))=\tau(w)^{-1}\cdot(\tau(w)\cdot w)=w$($f(\tau(w)\cdot w)=\tau(w)^d$ による)なので、$\alpha$ と $\beta$ は互いに逆の滑らかな写像である。よって $\varphi_r^{-1}(1)$ は $F$ と微分同相である。
段 4($\varphi_r$ の局所自明性).$\lvert\lambda\rvert=1$ なら $\lvert\lambda^{w_i}z_i\rvert=\lvert z_i\rvert$ なので、$z\mapsto\lambda\cdot z$ は $S_r$ と $K_r$ を保つ。$S^1$ の点 $u_0$ に対し $W:=S^1\setminus\{-u_0\}$ とし、$W$ 上の連続な $d$ 乗根 $\sigma$ で $\lvert\sigma\rvert=1$ のものを選ぶ(偏角を $(\arg u_0-\pi,\arg u_0+\pi)$ にとって $d$ で割る)。$\Xi(u,z):=\sigma(u)\cdot z$ は $W\times\varphi_r^{-1}(1)\to\varphi_r^{-1}(W)$ の滑らかな写像で、$f(\sigma(u)\cdot z)=uf(z)$、$f(z)>0$ から $\varphi_r(\Xi(u,z))=u$ である。逆写像は $w\mapsto\bigl(\varphi_r(w),\ \sigma(\varphi_r(w))^{-1}\cdot w\bigr)$ で、2 成分目の $f$ の値は $\varphi_r(w)^{-1}f(w)=\lvert f(w)\rvert>0$ である。よって $\varphi_r$ は局所自明で、ファイバーは段 3 により $F$ と微分同相である。
段 5(モノドロミー).$f(e^{i\theta/d}\cdot z)=e^{i\theta}f(z)$ なので、$\Phi_\theta$ は $F$ を $f^{-1}(e^{i\theta})$ に写し、逆写像 $w\mapsto e^{-i\theta/d}\cdot w$ をもつ。$\theta$ についての連続性と $\Phi_0=\mathrm{id}$ は式から明らかで、$h=\Phi_{2\pi}$ は $e^{2\pi i/d}\cdot z$、すなわち主張の式である。$(e^{2\pi i/d})^d=1$ から $h^d=\mathrm{id}_F$ を得る。同じ $e^{i\theta/d}\cdot z$ は $\varphi_r^{-1}(1)$ を $\varphi_r^{-1}(e^{i\theta})$ に写し(段 4 と同じ計算)、正の実数の作用と可換なので $\alpha\circ h=h\circ\alpha$ である。$\square$

例

2 次形式 $z_0^2+\cdots+z_n^2$ の Milnor ファイバー

$f=z_0^2+\cdots+z_n^2$(重み $(1,\dots,1)$、次数 $2$ の斉次多項式)について次が成り立つ。

  1. $F=f^{-1}(1)$ は $S^n$ の接束 $TS^n=\{(u,v)\in\mathbb{R}^{n+1}\times\mathbb{R}^{n+1}:\lvert u\rvert=1,\ u\cdot v=0\}$ と微分同相で、実の点の集合 $F\cap\mathbb{R}^{n+1}=S^n$ を変形レトラクトにもつ。
  2. モノドロミーは $h(z)=-z$ で、$n\ge1$ なら $H_n(F;\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}$ に $(-1)^{n+1}$ 倍で作用する。
実部と虚部に分ける

$z=x+iy$($x,y\in\mathbb{R}^{n+1}$)と書くと $f(z)=\lvert x\rvert^2-\lvert y\rvert^2+2i\,x\cdot y$ なので、$F$ は $\lvert x\rvert^2=1+\lvert y\rvert^2$、$x\cdot y=0$ で定まる。写像 $(x,y)\mapsto(x/\lvert x\rvert,\,y)$ と $(u,v)\mapsto(\sqrt{1+\lvert v\rvert^2}\,u,\,v)$ は互いに逆の滑らかな写像で、$F\cong TS^n$ を与える。$R_t(u,v):=(u,(1-t)v)$($0\le t\le1$)は零切断 $\{v=0\}$、すなわち $F$ の実の点の集合 $\{x\in\mathbb{R}^{n+1}:\lvert x\rvert=1\}$ への変形レトラクション(変形レトラクト)である。thm-mf-weighted の 3 で $w_i=1$、$d=2$ として $h(z)=e^{\pi i}z=-z$ を得る。$h$ は $(u,v)\mapsto(-u,-v)$ に当たり、$R_t$ と可換なので、$h_*$ は $S^n$ の対蹠写像の $H_n(S^n;\mathbb{Z})$ への作用に等しい。対蹠写像の写像度は $(-1)^{n+1}$ である(Hat02 §2.2 の写像度の性質 (f))。$\square$

1 変数の $z^a$ と、正規交叉 $z_0z_1\cdots z_n$
  1. $n=0$、$f=z^a$($a\ge1$)は重み $1$、次数 $a$ である。$F=\{z:z^a=1\}$ は $a$ 個の $1$ の $a$ 乗根で、モノドロミーは $h(z)=e^{2\pi i/a}z$、すなわち $a$ 点の巡回置換である。
  2. $f=z_0z_1\cdots z_n$ は重み $(1,\dots,1)$、次数 $n+1$ である。$F=\{z_0\cdots z_n=1\}$ は、$(z_0,\dots,z_n)\mapsto(z_0,\dots,z_{n-1})$ とその逆 $(z_0,\dots,z_{n-1})\mapsto\bigl(z_0,\dots,z_{n-1},(z_0\cdots z_{n-1})^{-1}\bigr)$ により $(\mathbb{C}^\times)^n$ と微分同相で、$n$ 次元トーラス $(S^1)^n$ とホモトピー同値である。$H_k(F;\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}^{\binom nk}$ は $0\le k\le n$ のすべてで $0$ でない。$n\ge2$ のとき $f$ の臨界点(すべての偏微分 $\prod_{j\ne i}z_j$ が $0$ になる点)は、2 つ以上の座標が $0$ の点全体で、原点で孤立していない(Sea18 Example 6.1 は $n=1,2$ の場合を述べている)。

孤立特異点と Milnor 数

$f$ が原点で孤立した臨界点をもつ、すなわち原点のある近傍で $f$ の偏微分が同時に $0$ になる点が原点だけであるとき、Milnor ファイバーは次の形をもつ。

Milnor ファイバーの位相型と Milnor 数

$f$ が原点で孤立した臨界点をもつとする。$r$ が十分小さいとき、thm-mf-milnor の Milnor ファイバー $F$ は $\mu$ 個の $n$ 次元球面の一点和(ブーケ)とホモトピー同値である。ここで
$$ \mu=\dim_{\mathbb{C}}\mathcal{O}_{n+1,0}\big/\Bigl(\frac{\partial f}{\partial z_0},\dots,\frac{\partial f}{\partial z_n}\Bigr) $$
($\mathcal{O}_{n+1,0}$ は原点での正則関数の芽の環)であり、とくに $\chi(F)=1+(-1)^n\mu$ である。

定理の出典と例との照合

$\mu$ を $f$ の Milnor 数という。この記事では thm-mf-isolated を証明しない。Milnor の 1968 年の著書による定理で、内容と出典は Sea18 Proposition 1.5・Theorem 6.3 の (1)・式 (7.1) と §7 の冒頭にある。Milnor ファイバーが $(n-1)$ 連結であることを Morse 理論で示し、$n$ 次元の胞体複体とホモトピー同値であることと合わせて結論を得る。prop-mf-quadric は $\mu=1$ の場合で、$\chi(TS^n)=\chi(S^n)=1+(-1)^n$ と合っている。ex-mf-one-variable の 2 は孤立でない場合で、ファイバーのホモロジーが中間次元以外にも現れる。

Brieskorn–Pham 多項式

$a_0,\dots,a_n\ge2$ に対し $f=z_0^{a_0}+\cdots+z_n^{a_n}$ とする。$d$ を $a_0,\dots,a_n$ の最小公倍数、$w_i:=d/a_i$ とすると、$f$ は重み $(w_0,\dots,w_n)$、次数 $d$ の擬斉次多項式である。thm-mf-weighted により、モノドロミーは
$$ h(z)=\bigl(e^{2\pi i/a_0}z_0,\dots,e^{2\pi i/a_n}z_n\bigr) $$
で、その位数は $d$ である。偏微分 $a_iz_i^{a_i-1}$ が同時に $0$ になるのは原点だけなので、原点は孤立した臨界点である。イデアル $J=(z_0^{a_0-1},\dots,z_n^{a_n-1})$ は単項式イデアルで、$\mathbb{C}[z]/J$ は $0\le\beta_i\le a_i-2$ の単項式 $z^\beta$ を基底にもつ。$J$ は原点での極大イデアルのある冪を含むので $\mathcal{O}_{n+1,0}/J\mathcal{O}_{n+1,0}\cong\mathbb{C}[z]/J$ であり、thm-mf-isolated により
$$ \mu=(a_0-1)(a_1-1)\cdots(a_n-1) $$
である。$n=4$ のこの形の超曲面のリンク $K_r$ として、標準的なものを含む 7 次元ホモトピー球面の 28 個の類(エキゾチック球面)がすべて現れる(Brieskorn。Sea18 §1)。

反例

thm-mf-weighted の 2 は、正の実数の作用 $t\cdot z$ が原点へ縮むことに支えられている。次の表の各行は、その仮定を 1 つだけ外したものである。

外す条件反例成り立たなくなること
重みがすべて正$f=z_0(z_1^2-1)$($n=1$、重み $(1,0)$、次数 $1$ で $f(\lambda\cdot z)=\lambda f(z)$)球面上のファイバー $\varphi_r^{-1}(1)$ が $f^{-1}(1)$ と微分同相($0< r< 1$ で崩れる)
擬斉次であること$f=z^2(z-1)$($n=0$。単項式 $z^3$ と $z^2$ の重み付き次数は正の重みでは一致しない)同上($0< r\le1/4$ で崩れる)
反例の確認
  1. $f=z_0(z_1^2-1)$、$0< r< 1$ とする。$z\in S_r$ なら $\lvert z_1\rvert\le r< 1$ なので $z_1^2-1\ne0$ であり、$f(z)>0$ は $z_0$ が $\overline{z_1^2-1}$ の正の実数倍であることと同値である。$\lvert z_0\rvert^2=r^2-\lvert z_1\rvert^2$ なので、そのような $z_0$ は $\lvert z_1\rvert< r$ のときただ一つ定まり、$\lvert z_1\rvert=r$ のときは存在しない。よって $z\mapsto z_1$ は $\varphi_r^{-1}(1)$ から開円板 $\{\lvert z_1\rvert< r\}$ への微分同相(逆写像は $z_1\mapsto\bigl(\sqrt{r^2-\lvert z_1\rvert^2}\,\overline{(z_1^2-1)}/\lvert z_1^2-1\rvert,\ z_1\bigr)$)で、$\varphi_r^{-1}(1)$ は可縮である。一方 $f^{-1}(1)=\{z_0=1/(z_1^2-1)\}$ は $z_1$ への射影で $\mathbb{C}\setminus\{\pm1\}$ と微分同相で、$H_1\cong\mathbb{Z}^2$ をもつ。
  2. $f=z^2(z-1)$、$0< r\le1/4$ とする。$\theta\mapsto f(re^{i\theta})=r^2e^{2i\theta}(re^{i\theta}-1)$ の偏角の微分は $2+\operatorname{Re}\bigl(re^{i\theta}/(re^{i\theta}-1)\bigr)\ge2-r/(1-r)>0$ なので、偏角は狭義単調に増え、一周で $4\pi$ 増える($re^{i\theta}-1$ は原点のまわりを回らない)。よって $\varphi_r^{-1}(1)$ はちょうど 2 点である。一方 $f(z)=1$、すなわち $z^3-z^2-1=0$ は重根をもたない($3z^2-2z=0$ の根 $0$、$2/3$ で $z^3-z^2-1$ の値は $-1$、$-31/27$)ので、$f^{-1}(1)$ は 3 点である。

関連項目

参考文献

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する