滑らかな特異ホモロジー

同義語:smooth singular homologyC^∞級特異ホモロジー滑らかな特異コホモロジーsmooth singular cohomology

概要

滑らかな特異ホモロジー(smooth singular homology)とは、$C^\infty$ 級多様体 $M$ の特異単体のうち、標準単体の近傍まで $C^\infty$ 級に延びるものだけで作った鎖複体 $C^\infty_\bullet(M)$ のホモロジーである。包含 $C^\infty_\bullet(M)\hookrightarrow C_\bullet(M)$ は鎖ホモトピー同値であり、任意の係数で滑らかな特異ホモロジー・コホモロジーは通常の特異ホモロジー・コホモロジーと同型になる。証明は、凸開集合での直線ホモトピー、Mayer–Vietoris 列と小さい単体の鎖への変形がどれも滑らかな鎖を保つことによる帰納法である。微分形式を単体の上で積分する de Rham 準同型の土台になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 特異ホモロジー, 可微分多様体, 特異ホモロジーのホモトピー不変性, 切除定理(特異ホモロジー), 鎖ホモトピー

滑らかな特異ホモロジー(smooth singular homology)とは、$C^\infty$ 級多様体 $M$ の特異単体のうち $C^\infty$ 級のものだけで作った鎖複体 $C^\infty_\bullet(M)$ のホモロジーである。主定理は、包含 $C^\infty_\bullet(M)\hookrightarrow C_\bullet(M)$ が鎖ホモトピー同値であり、したがって滑らかな特異ホモロジー・コホモロジーが(任意の係数で)通常の特異ホモロジー・特異コホモロジーと一致する、というものである。
微分形式は $C^\infty$ 級写像でしか引き戻せないので、形式を単体の上で積分するには単体が滑らかでなければならない。de Rhamの定理 の de Rham 準同型は滑らかな特異余鎖に値をとり、それを通常の特異コホモロジーと結びつけるのがこの記事の定理である。連続な輪体の上の閉形式の「積分」も、この定理によって意味をもつ(cor-ssh-periods)。
この記事では、主定理を de Rhamの定理 の証明と同じ Mayer–Vietoris 型の帰納法で証明する。凸開集合では直線ホモトピーの角柱作用素が、被覆については小さい単体の鎖への変形が滑らかな鎖を保つことが鍵になる。最後に、仮定を外すと結論が崩れる例を挙げる。

定義

多様体は Hausdorff で第 2 可算公理を満たす、境界のない $C^\infty$ 級多様体とする。標準 $p$ 単体 $\Delta^p\subset\mathbb{R}^{p+1}$、面写像 $d_i$、特異鎖複体 $C_\bullet(X)$ と境界作用素 $\partial$ は 特異ホモロジー の定義「標準単体と特異単体」「特異鎖複体と特異ホモロジー」のとおりとする。$\Delta^p$ を含む超平面 $A^p:=\{(t_0,\dots,t_p)\mid t_0+\cdots+t_p=1\}$ は $p$ 次元のアフィン空間である。

滑らかな特異単体と滑らかな特異鎖

$M$ の特異 $p$ 単体 $\sigma\colon\Delta^p\to M$ が滑らか($C^\infty$ 級)であるとは、$A^p$ の中の $\Delta^p$ のある開近傍 $W$ と $C^\infty$ 級写像 $\tilde\sigma\colon W\to M$ で $\tilde\sigma|_{\Delta^p}=\sigma$ となるものが存在することをいう。滑らかな特異 $p$ 単体の全体が生成する $C_p(M)$ の部分群を $C^\infty_p(M)$ と書き、その元を滑らかな特異 $p$ 鎖という。lem-ssh-closure の 1 により $\partial$ は $C^\infty_\bullet(M)$ を保ち、$C^\infty_\bullet(M)$ は $C_\bullet(M)$ の部分複体である。そのホモロジー
$$ H^\infty_p(M):=H_p\bigl(C^\infty_\bullet(M)\bigr) $$
を $M$ の $p$ 次滑らかな特異ホモロジー群という。アーベル群 $G$ について、$C^\infty_\bullet(M)\otimes_{\mathbb{Z}}G$ のホモロジーを $H^\infty_p(M;G)$、$\operatorname{Hom}_{\mathbb{Z}}(C^\infty_\bullet(M),G)$ のコホモロジーを $H^p_\infty(M;G)$(滑らかな特異コホモロジー群)と書く。包含の鎖写像を $\iota\colon C^\infty_\bullet(M)\hookrightarrow C_\bullet(M)$ と書く。

座標 $(t_1,\dots,t_p)$ で $A^p$ を $\mathbb{R}^p$ と同一視すれば、この定義は de Rhamの定理 の定義「$C^\infty$ 級特異鎖」と同じである。Lee12 は「各点の近傍で滑らかに延長できる」ことを滑らかさの定義にしているが、以下の証明は lem-ssh-closure の 4 つの性質と、凸集合の直線ホモトピーが滑らかな単体を保つこと(prf-ssh-convex)しか使わない。どちらも延長を各点の近くでとって同じように示せるので、その定義でも同じ結論が成り立つ。

滑らかな単体の基本性質

$\sigma\colon\Delta^p\to M$ を滑らかな特異単体とする。

  1. $u_0,\dots,u_k\in\Delta^p$ を頂点とするアフィン単体 $\lambda=[u_0,\dots,u_k]\colon\Delta^k\to\Delta^p$(特異ホモロジーのホモトピー不変性 の定義「アフィン単体」)について、$\sigma\circ\lambda$ は滑らかである。とくに面 $\sigma\circ d_i$ は滑らかである。
  2. $F\colon M\to N$ が $C^\infty$ 級写像なら $F\circ\sigma$ は滑らかであり、$F_\sharp\colon C_\bullet(M)\to C_\bullet(N)$ は $C^\infty_\bullet(M)$ を $C^\infty_\bullet(N)$ に写す。
  3. $U\subset M$ が開集合なら、像が $U$ に含まれる特異単体 $\Delta^p\to U$ が $U$ の単体として滑らかであることと、$M$ の単体として滑らかであることは同値である。したがって $C^\infty_\bullet(U)=C^\infty_\bullet(M)\cap C_\bullet(U)$ である。
  4. 定値写像 $\Delta^p\to M$ は滑らかである。

$\tilde\sigma\colon W\to M$ を $\sigma$ の延長とする。
1.$\lambda$ は $\Delta^k$ の点 $(s_0,\dots,s_k)$ を $\sum_js_ju_j$ に写す。同じ式で定まる写像 $\Lambda\colon A^k\to A^p$ はアフィン写像で連続なので、$\Lambda^{-1}(W)$ は $\Delta^k$ を含む $A^k$ の開集合であり、$\tilde\sigma\circ\Lambda$ はその上の $C^\infty$ 級写像で $\sigma\circ\lambda$ の延長である。面写像 $d_i$ は頂点 $e_0,\dots,\widehat{e_i},\dots,e_p$ のアフィン単体である。
2.$F\circ\tilde\sigma$ が $F\circ\sigma$ の延長である。
3.$U$ の単体として滑らかなら、延長を $M$ への写像とみればよい。逆に $M$ の単体として延長 $\tilde\sigma\colon W\to M$ をもてば、$\tilde\sigma^{-1}(U)$ は $\Delta^p$ を含む開集合で、その上への制限が $U$ への延長である。
4.定値写像は $A^p$ 全体の上の定値写像に延びる。$\square$

主定理

滑らかな特異鎖と連続な特異鎖の比較

$M$ を $C^\infty$ 級多様体とする。包含 $\iota\colon C^\infty_\bullet(M)\hookrightarrow C_\bullet(M)$ は鎖ホモトピー同値である。したがって、任意のアーベル群 $G$ とすべての $p$ について同型
$$ \iota_\ast\colon H^\infty_p(M;G)\xrightarrow{\ \sim\ }H_p(M;G),\qquad\iota^\ast\colon H^p(M;G)\xrightarrow{\ \sim\ }H^p_\infty(M;G) $$
が成り立つ。これらの同型は $C^\infty$ 級写像 $F\colon M\to N$ と可換である($\iota_\ast\circ F_\ast=F_\ast\circ\iota_\ast$ など)。とくに開集合への制限と可換である。

証明の所在と方針

証明は節「証明」の prf-ssh-main にある。Lee12 Theorem 18.7 は、Whitney の近似定理(Whitneyの近似定理)で各特異単体を面と両立するように滑らかな単体へホモトピーで変形し、$\iota$ のホモトピー逆 $s$ を直接作る。この記事では近似定理を使わず、de Rhamの定理 と同じく局所から大域への帰納法でホモロジーの同型を示し、最後に代数的な事実で鎖ホモトピー同値に格上げする。

$\dim M\ge1$ なら $C^\infty_1(M)$ と $C_1(M)$ は一致しない(滑らかでない道は $C_1(M)$ の元である)ので、$\iota$ は鎖複体の同型ではない。一致するのはホモロジーの段階である。

証明

本節に限り、$M$ の開集合 $U$ について $\iota\colon C^\infty_\bullet(U)\to C_\bullet(U)$ がすべての $p$ でホモロジーの同型 $H^\infty_p(U)\to H_p(U)$ を誘導するとき、$U$ を良い開集合と呼ぶ。空集合は良い開集合である。

凸開集合と非交和

凸開集合は良い開集合である

$U\subset\mathbb{R}^n$ を空でない凸開集合とすると、$U$ は良い開集合である。$\mathbb{R}^n$ の開集合と微分同相な多様体 $U'$ について、$U'$ が良い開集合であることと対応する $\mathbb{R}^n$ の開集合が良い開集合であることは同値である。

点 $x_0\in U$ を固定し、直線ホモトピー $F(x,t):=(1-t)x+tx_0$ を考える。$U$ は凸なので $F(U\times[0,1])\subset U$ であり、$F$ は恒等写像から定値写像 $c\colon U\to\{x_0\}\subset U$ へのホモトピーである。その角柱作用素 $P$ は
$$ \partial P+P\partial=c_\sharp-\mathrm{id}\colon C_\bullet(U)\to C_\bullet(U) $$
を満たす(特異ホモロジーのホモトピー不変性 の定理「特異ホモロジーのホモトピー不変性」)。
$P$ が $C^\infty_\bullet(U)$ を保つことを示す。$P(\sigma)$ は $F\circ(\sigma\times\mathrm{id})\circ\lambda_i$ の一次結合であり、$\lambda_i\colon\Delta^{p+1}\to\Delta^p\times[0,1]$ はアフィン単体である(同記事の定義「角柱作用素」)。$\sigma$ が滑らかで $\tilde\sigma\colon W\to U$ をその延長とすると、$\Phi(y,t):=(1-t)\tilde\sigma(y)+tx_0$ は $W\times\mathbb{R}$ から $\mathbb{R}^n$ への $C^\infty$ 級写像であり、$\Omega:=\Phi^{-1}(U)$ は $\Delta^p\times[0,1]$ を含む開集合である(凸性)。$\lambda_i$ は lem-ssh-closure の 1 の証明と同じくアフィン写像 $\Lambda_i\colon A^{p+1}\to A^p\times\mathbb{R}$ に延び、$\Phi\circ\Lambda_i$ は $\Lambda_i^{-1}(\Omega)$ の上で $F\circ(\sigma\times\mathrm{id})\circ\lambda_i$ の $C^\infty$ 級の延長になる。よって $P(\sigma)\in C^\infty_{p+1}(U)$ である。
1 点 $\{x_0\}$ の特異鎖複体 $K:=C_\bullet(\{x_0\})$(各次数で定値単体 $\kappa_p$ が生成する)は、lem-ssh-closure の 4 により $C^\infty_\bullet(U)$ に含まれる。包含を $j_\infty\colon K\to C^\infty_\bullet(U)$、$j=\iota\circ j_\infty\colon K\to C_\bullet(U)$ とする。$c_\sharp$ はすべての単体を $\kappa_p$ に写すので $c_\sharp\circ j=\mathrm{id}_K$ であり、上の等式から $j\circ c_\sharp\simeq\mathrm{id}$ である。$P$ と $c_\sharp$ は $C^\infty_\bullet(U)$ を保つので、同じ等式を制限して $c_\sharp\circ j_\infty=\mathrm{id}_K$、$j_\infty\circ c_\sharp\simeq\mathrm{id}$ も成り立つ。よって $j_\ast$ と $(j_\infty)_\ast$ はともにホモロジーの同型(逆は $c_\sharp$ の誘導する写像)であり、$\iota_\ast=j_\ast\circ(j_\infty)_\ast^{-1}$ も同型である。
微分同相写像 $\varphi\colon U'\to\varphi(U')\subset\mathbb{R}^n$ について、$\varphi_\sharp$ と $(\varphi^{-1})_\sharp$ は連続な鎖複体の同型であり、lem-ssh-closure の 2 により滑らかな鎖複体も互いに写し合う。これらは $\iota$ と可換なので、後半の主張が従う。$\square$

良い開集合の非交和

$(M_k)_{k\in K}$ を互いに交わらない開集合の族とし、各 $M_k$ が良い開集合なら、$\bigcup_kM_k$ も良い開集合である。

$\Delta^p$ は連結なので、和集合の特異単体の像はちょうど 1 つの $M_k$ に含まれる。よって $C_\bullet(\bigcup_kM_k)=\bigoplus_kC_\bullet(M_k)$ であり、lem-ssh-closure の 3 により $C^\infty_\bullet$ についても同様である。$\iota$ は各成分の $\iota$ の直和であり、ホモロジーは直和と可換なので、$\iota_\ast$ は同型の直和として同型である。$\square$

Mayer–Vietoris 列による貼り合わせ

$U,V$ を $M$ の開集合とし、$U\cup V$ の特異単体のうち像が $U$ または $V$ に含まれるものが生成する部分群を $C^{U,V}_p$、$C^{\infty,U,V}_p:=C^{U,V}_p\cap C^\infty_p(U\cup V)$ とおく。面も同じ開集合に入るので、どちらも部分複体である。

小さい鎖と Mayer–Vietoris 列
  1. 鎖複体の列
    $$ 0\to C_\bullet(U\cap V)\xrightarrow{\ c\mapsto(c,-c)\ }C_\bullet(U)\oplus C_\bullet(V)\xrightarrow{\ (a,b)\mapsto a+b\ }C^{U,V}_\bullet\to0 $$
    は完全であり、$C$ を $C^\infty$ に、$C^{U,V}$ を $C^{\infty,U,V}$ に替えた列も完全である。包含 $\iota$ は滑らかな列から連続な列への短完全列の射を与える。
  2. 包含 $C^{U,V}_\bullet\hookrightarrow C_\bullet(U\cup V)$ と $C^{\infty,U,V}_\bullet\hookrightarrow C^\infty_\bullet(U\cup V)$ はどちらも鎖ホモトピー同値であり、とくにホモロジーの同型を誘導する。

要点:1 は自由アーベル群の基底表示の一意性による。2 は、切除定理(特異ホモロジー) の定理「小さい単体の鎖への変形」の $\rho$ と $D$ が単体にアフィン単体を合成して作られ、滑らかな鎖を保つことによる。

詳しい証明を開く

1:第 1 の写像は単射で、合成は $0$ である。$a+b=0$($a\in C_p(U)$、$b\in C_p(V)$)なら、$a=-b$ を単体の基底で書いたとき係数が $0$ でない単体は像が $U$ にも $V$ にも含まれるので $a\in C_p(U\cap V)$ であり、$(a,b)=(a,-a)$ は第 1 の写像の像に入る。第 2 の写像の全射性は $C^{U,V}_p$ の定義そのものである。滑らかな列でも、lem-ssh-closure の 3 により $C^\infty_p(U\cap V)=C^\infty_p(U)\cap C^\infty_p(V)$ なので同じ議論が通る。$\iota$ はどの項でも包含なので図式は可換である(de Rhamの定理 の命題「特異余鎖の Mayer–Vietoris 列と de Rham 準同型の両立」の証明の 1 と同じ計算)。

2:連続な場合は 切除定理(特異ホモロジー) の定理「小さい単体の鎖への変形」を $X=U\cup V$、$\mathcal{U}=\{U,V\}$ に当てたものである。同定理の鎖写像 $\rho$ と準同型 $D$ は、$D\sigma:=\sum_{0\le i< m(\sigma)}TS^i\sigma$、$\rho:=\mathrm{id}-\partial D-D\partial$ で与えられ、同記事の補題「特異鎖の細分作用素」の 3 により $S\sigma$、$T\sigma$ は $\Delta^p$ の中の線型単体 $\lambda$ による $\sigma\circ\lambda$ の一次結合である。よって lem-ssh-closure の 1 により $S$、$T$、したがって $D$ と $\rho$ は $C^\infty_\bullet(U\cup V)$ を保ち、$\rho$ は $C^\infty_\bullet(U\cup V)$ を $C^{\infty,U,V}_\bullet$ に写す。等式 $\rho\circ\mathrm{incl}=\mathrm{id}$、$\partial D+D\partial=\mathrm{id}-\mathrm{incl}\circ\rho$ を滑らかな鎖に制限すれば、滑らかな場合の包含も鎖ホモトピー同値である。

貼り合わせ

$U$、$V$、$U\cap V$ が良い開集合なら、$U\cup V$ も良い開集合である。

prop-ssh-mv の 1 の 2 つの短完全列から長完全列が得られ、$\iota$ はその間の射で、接続準同型とも可換である(長完全列 の命題「接続準同型の自然性」。鎖複体では次数の向きを読み替える)。次数 $p$ のまわりの 5 項
$$ H^\infty_p(U\cap V)\to H^\infty_p(U)\oplus H^\infty_p(V)\to H_p(C^{\infty,U,V}_\bullet)\to H^\infty_{p-1}(U\cap V)\to H^\infty_{p-1}(U)\oplus H^\infty_{p-1}(V) $$
と、連続な鎖での対応する 5 項を比べると、両端の 4 本の縦の写像は仮定により同型なので、五項補題 の定理「五項補題」により $H_p(C^{\infty,U,V}_\bullet)\to H_p(C^{U,V}_\bullet)$ は同型である。prop-ssh-mv の 2 の同型と可換な四角形
$$ \begin{array}{ccc}H_p(C^{\infty,U,V}_\bullet)&\longrightarrow&H^\infty_p(U\cup V)\\ \downarrow&&\downarrow\iota_\ast\\ H_p(C^{U,V}_\bullet)&\longrightarrow&H_p(U\cup V)\end{array} $$
(横は包含が誘導する同型)により、$\iota_\ast\colon H^\infty_p(U\cup V)\to H_p(U\cup V)$ も同型である。$\square$

有限被覆と開基

有限個の良い開集合による被覆

開集合 $W$ が開集合 $U_1,\dots,U_k$($k\ge1$)の和集合 $W=U_1\cup\cdots\cup U_k$ であり、空でない任意の $S\subset\{1,\dots,k\}$ について $\bigcap_{i\in S}U_i$ が良い開集合なら、$W$ は良い開集合である。

$k$ に関する帰納法による。$k=1$ は仮定そのものである。$k\ge2$ のとき $U:=U_1\cup\cdots\cup U_{k-1}$、$V:=U_k$ とおく。$U$ は帰納法の仮定により良い開集合である。$U\cap V=\bigcup_{i< k}(U_i\cap U_k)$ は $k-1$ 個の開集合で覆われ、その部分族の共通部分は $U_k$ を含む $U_i$ たちの共通部分なので良い開集合であり、帰納法の仮定により $U\cap V$ も良い開集合である。lem-ssh-mv-step により $W=U\cup V$ は良い開集合である。$\square$

良い開基をもつ多様体

$M$ の開基 $\mathcal{B}$ で、その有限個の元の共通部分がつねに良い開集合になるものがあれば、$M$ は良い開集合である。

要点:$C^\infty$ 級の尽くし関数で $M$ をコンパクトな帯 $f^{-1}([m,m+1])$ に分け、偶数番目と奇数番目の帯の近傍をそれぞれ非交和として lem-ssh-disjoint と lem-ssh-finite-cover を当て、最後に lem-ssh-mv-step で貼り合わせる。de Rhamの定理 の補題「de Rham 開基をもつ多様体」の証明と同じ構成である。

詳しい証明を開く

各 $c$ について $f^{-1}((-\infty,c])$ がコンパクトになる $C^\infty$ 級関数 $f\colon M\to\mathbb{R}$(尽くし関数)をとる(Lee12 Proposition 2.28)。整数 $m$ について $A_m:=f^{-1}([m,m+1])$、$A'_m:=f^{-1}((m-\frac12,m+\frac32))$ とおく。$A_m$ はコンパクトなので、$A'_m$ に含まれる有限個の $B_{m,1},\dots,B_{m,k_m}\in\mathcal{B}$ で覆え、$U_m:=\bigcup_iB_{m,i}$ とおく($A_m=\emptyset$ なら $U_m:=\emptyset$)。lem-ssh-finite-cover により $U_m$ は良い開集合である。

$|m-m'|\ge2$ なら $U_m\cap U_{m'}=\emptyset$ なので、$U:=\bigcup_{m\text{ 偶数}}U_m$ と $V:=\bigcup_{m\text{ 奇数}}U_m$ は lem-ssh-disjoint により良い開集合であり、$M=\bigcup_mA_m=U\cup V$ である。$U\cap V=\bigcup_mW_m$、$W_m:=U_m\cap U_{m+1}\subset f^{-1}((m+\frac12,m+\frac32))$ で、$W_m$ たちは互いに交わらない。各 $W_m$ は有限個の $B_{m,i}\cap B_{m+1,j}$ の和で、それらの有限個の共通部分は $\mathcal{B}$ の元の有限個の共通部分なので、lem-ssh-finite-cover により $W_m$ は良い開集合であり、lem-ssh-disjoint により $U\cap V$ も良い開集合である。lem-ssh-mv-step により $M$ は良い開集合である。$\square$

主定理の証明

thm-ssh-main を示す。
第 1 段:$\mathbb{R}^n$ の任意の開集合 $W$ は良い開集合である。$W$ に含まれる開球の全体は $W$ の開基であり、開球の有限個の共通部分は空集合か凸開集合なので、lem-ssh-convex により良い開集合である。lem-ssh-basis により $W$ は良い開集合である。
第 2 段:一般の多様体 $M$。$M$ のある座標近傍に含まれる開集合の全体 $\mathcal{B}$ は開基であり、有限個の元の共通部分もまた $\mathcal{B}$ の元である。$B\in\mathcal{B}$ は座標写像で $\mathbb{R}^n$ の開集合に微分同相に写るので、第 1 段と lem-ssh-convex の後半により良い開集合である。lem-ssh-basis により $M$ は良い開集合、すなわち $\iota$ は擬同型(擬同型)である。
第 3 段:$C^\infty_p(M)$ と $C_p(M)$ は自由アーベル群(とくに射影的な $\mathbb{Z}$ 加群)で、$p< 0$ では $0$ である。下に有界な射影加群の複体の間の擬同型は鎖ホモトピー同値である(鎖ホモトピー の定理「射影的な複体の擬同型は鎖ホモトピー同値」)。よって $\iota$ は鎖ホモトピー同値である。
第 4 段:加法関手 $-\otimes_{\mathbb{Z}}G$ と $\operatorname{Hom}_{\mathbb{Z}}(-,G)$ は鎖ホモトピー同値を鎖ホモトピー同値に写す(同記事の系「加法関手を施しても擬同型のまま」)ので、$G$ 係数の 2 つの同型を得る。$C^\infty$ 級写像 $F$ について $\iota\circ F_\sharp=F_\sharp\circ\iota$(lem-ssh-closure の 2)なので、同型は $F$ と可換である。$\square$

連続な鎖での議論(凸集合の非輪状性、Mayer–Vietoris 列、小さい鎖)は、すべて単体に「アフィン単体を合成する」か「$C^\infty$ 級写像を合成する」操作で作られており、それが滑らかな鎖を保つことが証明の全体を支えている。

帰結と例

連続な輪体の上の周期

$\omega$ を $M$ 上の閉 $p$ 形式とする。連続な特異 $p$ 輪体 $z$ に対し、$\iota(z')-z$ が $C_\bullet(M)$ の境界になる滑らかな輪体 $z'$ が存在し、$\int_{z'}\omega$ は $z'$ の選び方によらず、$z$ のホモロジー類 $[z]\in H_p(M)$ と $\omega$ の de Rham コホモロジー類だけで決まる。

thm-ssh-main により $\iota_\ast\colon H^\infty_p(M)\to H_p(M)$ は全射なので、$[\iota(z')]=[z]$ となる滑らかな輪体 $z'$ がある。別の $z''$ をとると $\iota(z'-z'')$ は $C_\bullet(M)$ の境界であり、$\iota_\ast$ の単射性から $z'-z''=\partial c$($c\in C^\infty_{p+1}(M)$)である。de Rhamの定理 の定理「鎖に対する Stokes の定理」により $\int_{z'}\omega-\int_{z''}\omega=\int_{\partial c}\omega=\int_cd\omega=0$ である。$\omega=d\eta$ なら同じ定理により $\int_{z'}d\eta=\int_{\partial z'}\eta=0$ である。$\square$

こうして閉形式は連続な輪体の上でも「積分」でき、この値が de Rhamの定理 の周期である。たとえば $\mathbb{R}^2\setminus\{0\}$ の連続な閉曲線 $\gamma$(至るところ微分できなくてもよい)について、角形式の $\gamma$ の上の値を $2\pi$ で割ったものは $\gamma$ の回転数である($H_1(\mathbb{R}^2\setminus\{0\})\cong\mathbb{Z}$ は単位円で生成され、その上の角形式の積分は $2\pi$ である。de Rhamの定理 の例「円周と角形式」)。

0 次の滑らかな特異ホモロジー

主定理の $p=0$ の場合を直接確かめる。$C^\infty_0(M)=C_0(M)$ は $M$ の点を基底とする自由アーベル群であり、滑らかな $1$ 単体 $\sigma$ について $\partial\sigma=\sigma(e_1)-\sigma(e_0)$ である。$x-y\in\partial C^\infty_1(M)$ という関係 $x\sim y$ は同値関係である($\partial C^\infty_1(M)$ は部分群)。点 $x$ の座標近傍の中の、座標で凸な開球 $B$ の点 $y$ は、座標で線分となる滑らかな $1$ 単体で $x$ と結ばれるので $x\sim y$ である。よって同値類は開集合であり、補集合も他の同値類の和として開集合なので、各連結成分は 1 つの同値類に含まれる。逆に、連結成分 $Q$ に属する点の係数の和をとる準同型 $\varepsilon_Q\colon C_0(M)\to\mathbb{Z}$ は、$\Delta^1$ が連結なので $\varepsilon_Q(\partial\sigma)=0$ を満たし、$x\sim y$ なら $\varepsilon_Q(x-y)=0$ となって $x,y$ は同じ成分にある。こうして $H^\infty_0(M)$ は連結成分の集合を基底とする自由アーベル群であり、多様体では連結成分と弧状連結成分が一致するので、$H_0(M)$ と一致する。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
滑らかさを $\Delta^p$ の近傍への延長で定める$\mathbb{R}$ への $\sigma(t_0,t_1,t_2)=\sqrt{(t_1-t_0)^2+t_2^2}$(内部でだけ $C^\infty$ 級)滑らかな単体の面が滑らかであること(部分複体になること)
$M$ が $C^\infty$ 級多様体($\mathbb{R}^2$ の部分集合なら $C^\infty$ 級部分多様体)$\mathbb{R}^2$ の中の、至るところ微分できない連続関数 $f$ のグラフ $\Gamma$$H^\infty_0(\Gamma)\cong H_0(\Gamma)$。左辺は $\Gamma$ の点全体を基底とし、右辺は $\mathbb{Z}$
$F$ が $C^\infty$ 級写像$F(x)=\lvert x\rvert$ と $\mathbb{R}$ の線分 $\sigma(t_0,t_1)=t_1-t_0$$F_\sharp$ が滑らかな鎖を滑らかな鎖に写すこと
反例の確かめ
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1 行目:$\Delta^2$ の($A^2$ の中での)内部では $t_2>0$ なので根号の中は正で、$\sigma$ は内部で $C^\infty$ 級である。面 $\sigma\circ d_2$ は $(t_0,t_1)\mapsto\lvert t_1-t_0\rvert$ であり、$\Delta^1$ の内部の点 $(\frac12,\frac12)$ で微分できない。よって「内部で $C^\infty$ 級」の単体が生成する部分群は $\partial$ で閉じず、鎖複体にならない。延長による定義では、lem-ssh-closure の 1 によりこの崩れは起きない(実際この $\sigma$ は滑らかでない)。

2 行目:$\mathbb{R}^2$ の部分集合 $X$ についても「$\Delta^p$ の近傍上の $\mathbb{R}^2$ への $C^\infty$ 級写像に延び、$\Delta^p$ の像が $X$ に入る」単体を滑らかと呼ぶことにする。$f$ として 微分できない連続関数 の定理「連続でどこでも微分できない関数」の関数をとる。$\Gamma$ の滑らかな $1$ 単体を $s\mapsto(a(s),b(s))$($s=t_1\in[0,1]$)と書くと $b=f\circ a$ である。ある $s_0\in(0,1)$ で $a'(s_0)\ne0$ なら、$s_0$ の近くの開区間 $J$ で $a$ は開区間 $I$ への微分同相になり、$f|_I=b\circ(a|_J)^{-1}$ が微分可能になって矛盾する。よって $(0,1)$ で $a'=0$、$a$ は定数で、$\sigma$ は定値写像であり $\partial\sigma=0$ である。したがって $H^\infty_0(\Gamma)=C_0(\Gamma)$ は $\Gamma$ の点全体(非可算個)を基底とする。一方 $\Gamma$ は $x$ 座標への射影で $\mathbb{R}$ と同相で弧状連結なので(位相多様体ではあるが、上の議論により $\mathbb{R}^2$ の $C^\infty$ 級部分多様体ではない) $H_0(\Gamma)\cong\mathbb{Z}$ である。

3 行目:$F\circ\sigma=\lvert t_1-t_0\rvert$ は $\Delta^1$ の内部の点 $(\frac12,\frac12)$ で微分できないので、$A^1$ の中のどの開近傍にも $C^\infty$ 級に延びない。よって滑らかな鎖複体は連続写像について関手的でない。ホモロジーの段階では、thm-ssh-main の同型を通して連続写像も $H^\infty_\bullet$ の写像を誘導する。

関連項目

参考文献

[1]
John M. Lee, Introduction to Smooth Manifolds, Graduate Texts in Mathematics 218, Springer, 2012, Proposition 2.28(尽くし関数の存在、p. 46)、Ch. 18 の Smooth Singular Homology の節(滑らかな単体の定義 p. 473、Theorem 18.7 と Lemma 18.8・18.9、pp. 474–480)

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