極(複素解析)(pole)とは、穴あき円板 $0<|z-a|<R$ 上の正則関数 $f$ について、$z\to a$ のとき $|f(z)|\to\infty$ となる点 $a$ のことである。このとき $f(z)=h(z)/(z-a)^m$($h$ は $a$ の近くで正則で $h(a)\neq0$)と書ける正の整数 $m$ がただ 1 つあり、これを極の位数という。位数は発散の速さで決まり、$|f(z)|$ は $|z-a|^{-m}$ の定数倍で上下から押さえられ、整数でない冪の速さの発散は起こらない。極の近くで $f$ は有限個の負冪からなる主要部と正則関数の和に分かれ、対数微分 $f'/f$ は留数 $-m$ の単純極をもつので、極は留数定理や偏角の原理による計算の基礎になる。
前提知識: 正則関数, Laurent展開, 零点の位数, Riemannの拡張定理
$f(z)=1/z$ は原点で定義されないが、原点に近づくと絶対値 $|f(z)|=1/|z|$ は限りなく大きくなる。このように、正則関数が 1 点のまわりで定義されていて、その点に近づくと絶対値が無限大に発散するとき、その点を 極 という。極は孤立特異点の 3 つの型(除去可能特異点・極・真性特異点)の 1 つであり、発散の仕方は必ず「$(z-a)^{-m}$ の定数倍」という形になる。この正の整数 $m$ が極の 位数 で、零点の位数と対になる量である。
極は複素解析のいたるところに現れる。有理関数 $p/q$ の分母の零点、$\tan z$ の $\pi/2+k\pi$、$\Gamma$ 関数の $0,-1,-2,\dots$、楕円関数 $\wp$ の格子点はどれも極である。極を許した正則関数が 有理型関数 であり、留数による積分の計算(留数定理)や、零点と極の個数を積分で数える方法(偏角の原理)は、極のまわりで関数がどんな形をしているかを知ることから始まる。
以下、$a\in\mathbb{C}$、$R>0$ とし、$A(a;0,R):=\{z\in\mathbb{C}\mid 0<|z-a|< R\}$ を 穴あき円板、$B(a,R):=\{z\in\mathbb{C}\mid |z-a|< R\}$ を 開円板 と書く。
$f$ を穴あき円板 $A(a;0,R)$ 上の 正則関数 とする。このとき $a$ を $f$ の 孤立特異点 という($f$ が $a$ の近傍で正則な関数の制限である場合も含める)。孤立特異点 $a$ は、次の 3 つのうちちょうど 1 つにあたる。
1 と 2 が同時に起こることはない。除去可能なら $f$ は $a$ の近くで連続関数 $F$ に一致し、$a$ の近くで有界だからである。
$a$ を $f$ の極とする。このとき、整数 $m\geq1$ と、ある開円板 $B(a,r)$($0< r\le R$)上の正則関数 $h$ の組で
$$
f(z)=\frac{h(z)}{(z-a)^m}\quad(0<|z-a|< r),\qquad h(a)\neq0
$$
を満たすものが存在し、$m$ はただ 1 つに定まる。
存在:$|f(z)|\to\infty$ だから、$\delta>0$ を $0<|z-a|<\delta$ で $|f(z)|>1$ となるようにとれる。$A(a;0,\delta)$ 上で $f\neq0$ なので $1/f$ は正則で、$|1/f|<1$ と有界である。Riemannの拡張定理 の記事の定理「Riemann の拡張定理」により、$1/f$ は $B(a,\delta)$ 上の正則関数 $G$ に延長され、連続性から $G(a)=\lim_{z\to a}1/f(z)=0$ である。$G$ は $A(a;0,\delta)$ で $0$ にならないので、$a$ のどの近傍上でも恒等的に $0$ ではない。零点の位数 の記事の命題「因数分解による特徴づけ」により、整数 $m\geq1$($G(a)=0$ による)と $a$ の近傍上の正則関数 $u$ で $u(a)\neq0$、$G(z)=(z-a)^mu(z)$ となるものがある。$u$ は連続なので、$0< r\le\delta$ を $B(a,r)$ 上で $u\neq0$ となるようにとれる。$h:=1/u$ は $B(a,r)$ 上で正則で $h(a)\neq0$ であり、$0<|z-a|< r$ で $f(z)=1/G(z)=h(z)/(z-a)^m$ である。
一意性:$f=h_1/(z-a)^{m_1}=h_2/(z-a)^{m_2}$、$m_1< m_2$ とすると、$a$ の近くの $z\neq a$ で $h_2(z)=(z-a)^{m_2-m_1}h_1(z)$ であり、両辺は $a$ で連続だから $h_2(a)=0$ となって $h_2(a)\neq0$ に反する。$m$ が一意なら $h=(z-a)^mf$ も $a$ の近くで一意に定まる。
同じ内容は 有理型関数 の記事の命題「極の特徴づけ」(5 ⇒ 4 ⇒ 1 ⇒ 2)にもある。
$a$ を $f$ の極とし、prop-pca-order-exists の $m$ を極 $a$ の 位数 という。位数 $1$ の極を 単純極、位数 $2$ の極を 2 位の極 という。また $\operatorname{ord}_a f:=-m$ と書く。
$a$ が $f$ の正則な点で $f(a)\neq0$ なら $\operatorname{ord}_af:=0$、$f$ が $a$ に位数 $m$ の零点をもてば $\operatorname{ord}_af:=m$ とおく(零点の位数)。すると極と零点は 1 つの整数 $\operatorname{ord}_af$ の負の場合と正の場合としてまとまり、次が成り立つ。
| 除去可能特異点 | 極(位数 $m$) | 真性特異点 | |
|---|---|---|---|
| Laurent 展開の主要部 | $0$ | 最低次が $(z-a)^{-m}$ の有限和 | 項が無限個 |
| $z\to a$ での $\lvert f(z)\rvert$ | 有界 | $\to\infty$ | 有界でも $\to\infty$ でもない |
| $(z-a)^kf(z)$ が $a$ の近くで有界になる $k\ge0$ | $k=0$ から | $k\ge m$ のとき | どの $k$ でも有界でない |
| 代表例($a=0$) | $\dfrac{\sin z}{z}$ | $\dfrac{1}{z^m}$ | $e^{1/z}$ |
位数 $m$ の極のまわりで $f(z)=h(z)/(z-a)^m$ と書くと、$h$ は $a$ の近くでほとんど定数 $h(a)\neq0$ だから、$f$ は $h(a)/(z-a)^m$ のように振る舞う。$z$ が $a$ を中心とする小さな円周を反時計回りに 1 周すると、$(z-a)^{-m}$ の偏角は $-2\pi m$ だけ変わるので、像 $f(z)$ は原点のまわりを時計回りに $m$ 周する(回転数 が $-m$ になる)。零点ではこれが反時計回りの $m$ 周になり、この符号の違いが 偏角の原理 の「零点の個数 − 極の個数」の源である。もう 1 つの見方は、$f(a):=\infty$ とおいて $f$ を Riemann球面 への写像とみることである。$1/f$ は $a$ の近くで正則で $a$ に位数 $m$ の零点をもつので、極は「$\infty$ という値を $m$ 重にとる点」にすぎない。極は除去可能でない特異点のなかで最もおとなしく、関数の値の分布を壊さない。これに対し真性特異点の近くでは、$f$ の値はあらゆる複素数に限りなく近づく(Riemannの拡張定理 の記事で扱う Casorati–Weierstrass の定理)。
$f(z)=\dfrac{z+1}{z^2(z-1)}$ を考える。
無限遠点 $\infty$ での極も同じように定める。
$f$ を $\{z\in\mathbb{C}\mid |z|>R\}$ 上の正則関数とする。$g(w):=f(1/w)$ は $A(0;0,1/R)$ 上で正則であり、$0$ が $g$ の位数 $m$ の極であるとき、$\infty$ を $f$ の 位数 $m$ の極 という。$0$ が $g$ の除去可能特異点・真性特異点であるとき、$\infty$ をそれぞれ $f$ の除去可能特異点・真性特異点という。
$|f(z)|\to\infty$($|z|\to\infty$)は $|g(w)|\to\infty$($w\to0$)と同じだから、$\infty$ が極であることは「$|z|\to\infty$ のとき $|f(z)|\to\infty$」と同値である。次数 $d\geq1$ の多項式は $\infty$ に位数 $d$ の極をもち、逆に $\infty$ に極をもつ 整関数 は多項式に限る(整関数 の記事の命題「無限遠の特異点による分類」)。$e^z$ は $\infty$ に真性特異点をもつ。互いに素な多項式の商 $p/q$ は、$\deg p>\deg q$ のとき $\infty$ に位数 $\deg p-\deg q$ の極をもつ(有理型関数 の記事の定理「Riemann 球面上の有理型関数」の証明の最後の段落)。
極の位数は、$|f(z)|$ が $|z-a|^{-1}$ の何乗の速さで発散するかで決まる。とくに、発散の速さが整数でない冪になることはない。
$f$ を $A(a;0,R)$ 上の正則関数、$m\geq0$ を整数とする。
1 の「⇐」:$a$ が除去可能なら $f$ は $a$ の近くで連続関数 $F$ に一致するので有界であり、$(z-a)^mf$ も有界である。$a$ が位数 $k\le m$ の極なら、prop-pca-order-exists の $h$ を用いて $a$ の近くで $(z-a)^mf(z)=(z-a)^{m-k}h(z)$ であり、右辺は $a$ の近くで連続なので有界である。
1 の「⇒」:$g(z):=(z-a)^mf(z)$ が $A(a;0,\delta)$ 上で有界であるとする。Riemannの拡張定理 の記事の定理「Riemann の拡張定理」により、$g$ は $B(a,\delta)$ 上の正則関数 $G$ に延長される。$G$ が $B(a,\delta)$ 上で恒等的に $0$ なら、$A(a;0,\delta)$ 上で $f=0$ であり、$a$ は除去可能特異点である。そうでなければ、$B(a,\delta)$ は連結なので 一致の定理 により $G$ は $a$ のどの近傍上でも恒等的に $0$ ではなく、零点の位数 の記事の命題「因数分解による特徴づけ」により、整数 $j\geq0$ と $a$ の近傍 $B(a,r)$ 上の正則関数 $u$ で $u(a)\neq0$ かつ $G(z)=(z-a)^ju(z)$ となるものがある($G(a)\neq0$ なら $j=0$、$u=G$)。すると $0<|z-a|< r$ で
$$
f(z)=(z-a)^{j-m}u(z)
$$
である。$j\geq m$ なら右辺は $B(a,r)$ 上の正則関数だから $a$ は除去可能特異点である。$j< m$ なら $|f(z)|=|u(z)|/|z-a|^{m-j}\to\infty$($|u(z)|\to|u(a)|\neq0$)だから $a$ は極であり、上の式は prop-pca-order-exists の形をしているので、位数は $m-j\le m$ である。
2:$g(z):=(z-a)^{m+1}f(z)$ は $z\to a$ で $0$ に収束するので $a$ の近くで有界であり、Riemann の拡張定理により $B(a,\delta)$ 上の正則関数 $G$ に延長され、連続性から $G(a)=\lim_{z\to a}g(z)=0$ である。$G$ が恒等的に $0$ なら 1 と同じく $a$ は除去可能である。そうでなければ 1 と同じく $G(z)=(z-a)^ju(z)$、$u(a)\neq0$ と書けて、$G(a)=0$ より $j\geq1$ である。よって $f(z)=(z-a)^{j-(m+1)}u(z)$ で $j-(m+1)\geq-m$ だから、1 の最後と同じ議論で $a$ は除去可能特異点か位数 $m$ 以下の極である。
3 の「⇒」:$f(z)=h(z)/(z-a)^m$、$h(a)\neq0$ と書く。$h$ は連続だから、$\delta>0$ を $|z-a|<\delta$ で $|h(z)-h(a)|\le|h(a)|/2$ となるようにとれる。このとき $|h(a)|/2\le|h(z)|\le3|h(a)|/2$ なので、$c_1:=|h(a)|/2$、$c_2:=3|h(a)|/2$ とすればよい。
3 の「⇐」:上からの評価より $(z-a)^mf(z)$ は有界だから、1 により $a$ は除去可能特異点か位数 $k\le m$ の極である。下からの評価より $|f(z)|\to\infty$ だから、$a$ は除去可能ではなく、位数 $k\le m$ の極である。「⇒」をこの $k$ に当てはめると、$0<|z-a|<\delta'$ で $|f(z)|\le c_2'/|z-a|^k$ となる正の定数 $\delta',c_2'$ がある。下からの評価と合わせると、$0<|z-a|<\min(\delta,\delta')$ で
$$
\frac{c_1}{|z-a|^m}\le\frac{c_2'}{|z-a|^k},\qquad\text{すなわち}\qquad c_1\le c_2'\,|z-a|^{m-k}
$$
である。$k< m$ なら右辺は $z\to a$ で $0$ に収束し、$c_1>0$ に反する。ゆえに $k=m$ である。
$f$ を $A(a;0,R)$ 上の正則関数とし、実数 $s\geq0$ と定数 $C>0$ について、$a$ の近くで $|f(z)|\le C|z-a|^{-s}$ が成り立つとする。このとき $a$ は $f$ の除去可能特異点であるか、位数 $\lfloor s\rfloor$ 以下の極である。とくに $s<1$ なら $a$ は除去可能特異点である。
$m:=\lfloor s\rfloor$ とおくと $m+1-s>0$ だから、$a$ の近くで $|(z-a)^{m+1}f(z)|\le C|z-a|^{m+1-s}\to0$($z\to a$)である。thm-pca-growth の 2 により主張を得る。
たとえば正則関数が $|z-a|^{-3/2}$ 程度の速さで発散することはなく、そう見える評価が得られたら、実際には位数 $1$ 以下の極か除去可能特異点である。実数の関数ではこうはならない。$|x|^{-1/2}$ は $x\to0$ で発散するが、その速さはどの整数 $m$ についても $|x|^{-m}$ と同じにならない。
極のまわりの $f$ から、$(z-a)^{-1},\dots,(z-a)^{-m}$ の有限和を引くと正則関数が残る。この有限和が主要部で、係数は $h$ の微分係数で書ける。
$a$ を $f$ の位数 $m$ の極とし、prop-pca-order-exists のように $B(a,r)$ 上の正則関数 $h$ で $f(z)=h(z)/(z-a)^m$($0<|z-a|< r$)と書く。$k=1,\dots,m$ に対し
$$
c_{-k}:=\frac{h^{(m-k)}(a)}{(m-k)!},\qquad P(z):=\sum_{k=1}^{m}\frac{c_{-k}}{(z-a)^k}
$$
とおく。
1:$h$ を $a$ で Taylor 展開すると、$B(a,r)$ 上で $h(z)=\sum_{j\geq0}\dfrac{h^{(j)}(a)}{j!}(z-a)^j$ である(Taylor展開(複素解析) の記事の定理「正則関数の冪級数展開」)。$(z-a)^m$ で割って $j< m$ の項と $j\ge m$ の項に分けると、$0<|z-a|< r$ で
$$
f(z)=\sum_{j=0}^{m-1}\frac{h^{(j)}(a)}{j!}(z-a)^{j-m}+\sum_{j\geq m}\frac{h^{(j)}(a)}{j!}(z-a)^{j-m}
$$
である。第 1 の和で $k:=m-j$ とおくと $P(z)$ になる。第 2 の和は $(z-a)$ の冪級数で、$h$ の Taylor 級数と同じく $B(a,r)$ 上で収束するので、$B(a,r)$ 上の正則関数を定める(正則関数 の記事の定理「冪級数の正則性」)。
2:$Q$ がこの性質をもつとする。$P-Q=(f-Q)-(f-P)$ は、$a$ の近くの $z\neq a$ で、$a$ の近傍上の 2 つの正則関数の差に一致するので、$a$ の近くで有界である。$w:=1/(z-a)$ とおくと、$P-Q=R(w):=\sum_{k\geq1}d_kw^k$($d_k:=c_{-k}-b_k$。ただし $k>m$ では $c_{-k}:=0$、$k>N$ では $b_k:=0$ とする)は定数項のない $w$ の多項式であり、$|w|$ が十分大きいところで有界である。$R\neq0$ と仮定し、$d_n\neq0$ となる最大の $n\ge1$ をとると、$|w|\ge1$ で
$$
|R(w)|\geq|d_n||w|^n-\sum_{k=1}^{n-1}|d_k||w|^k\geq|w|^{n-1}\Bigl(|d_n||w|-\sum_{k=1}^{n-1}|d_k|\Bigr)
$$
であり、右辺は $|w|\to\infty$ で $+\infty$ に発散するので矛盾する。ゆえに $R=0$、すなわちすべての $k$ で $b_k=c_{-k}$ である。
3:$c_{-m}=h(a)$ である。1 の式は、$A(a;0,r)$ の各点で収束して $f$ に等しい Laurent 級数 $\sum_{n\geq-m}c_n(z-a)^n$($n\ge0$ では $c_n:=h^{(n+m)}(a)/(n+m)!$)を与えている。Laurent展開 の記事の定理「Laurent 展開の一意性」により、これは $f$ の Laurent 展開であり、負の冪の部分 $P$ が主要部、$(z-a)^{-1}$ の係数 $c_{-1}$ が留数である。
$k=1$ の場合の公式 $\operatorname{Res}(f,a)=\dfrac{h^{(m-1)}(a)}{(m-1)!}$ は、留数定理 の記事の命題「極における留数の公式」の 1 である。主要部を引くと正則関数が残ることは留数定理の証明の要で、そこでは真性特異点も含めた一般の主要部について示されている(留数定理 の記事の補題「主要部の性質」)。
$f(z)=\dfrac{e^z}{z^3}$ は $0$ に 3 位の極をもち、$h(z)=e^z$ である。$h(0)=h'(0)=h''(0)=1$ だから
$$
c_{-3}=1,\quad c_{-2}=1,\quad c_{-1}=\frac{1}{2},\qquad P(z)=\frac{1}{z^3}+\frac{1}{z^2}+\frac{1}{2z}
$$
であり、$\operatorname{Res}(f,0)=1/2$ である。$e^z=1+z+z^2/2+\cdots$ を $z^3$ で割っても同じ結果になる。
極の位数は微分すると $1$ ずつ増え、対数微分 $f'/f$ をとると零点も極も単純極に変わる。後者は 偏角の原理 の土台である。
$a$ を $f$ の位数 $m$ の極とする。
1:$0<|z-a|< r$ で $f(z)=(z-a)^{-m}h(z)$、$h(a)\neq0$ と書く。積の微分により
$$
f'(z)=-m(z-a)^{-m-1}h(z)+(z-a)^{-m}h'(z)=\frac{H(z)}{(z-a)^{m+1}},\qquad H(z):=-m\,h(z)+(z-a)h'(z)
$$
である。$H$ は $B(a,r)$ 上で正則(Cauchyの積分公式 の記事の定理「導関数の積分表示」により $h'$ も正則)で、$H(a)=-m\,h(a)\neq0$ である。$|f'(z)|=|H(z)|/|z-a|^{m+1}\to\infty$ だから $a$ は $f'$ の極であり、上の式は prop-pca-order-exists の形なので位数は $m+1$ である。留数については、prop-pca-principal-part の 1 により $f=P+\varphi$($\varphi$ は $B(a,r)$ 上で正則)と書けて
$$
f'(z)=\sum_{k=1}^{m}\frac{-k\,c_{-k}}{(z-a)^{k+1}}+\varphi'(z)
$$
である。$\varphi'$ を Taylor 展開すれば、右辺は $A(a;0,r)$ 上で収束する Laurent 級数になり、$(z-a)^{-1}$ の項をもたない。Laurent 展開の一意性により $\operatorname{Res}(f',a)=0$ である。後半は前半を $f',f'',\dots$ に順に使えばよい。
2:$h(a)\neq0$ と $h$ の連続性から、$0< r'\le r$ を $B(a,r')$ 上で $h\neq0$ となるようにとれる。$A(a;0,r')$ 上で $f=(z-a)^{-m}h\neq0$ であり、
$$
\frac{f'(z)}{f(z)}=\frac{-m(z-a)^{-m-1}h(z)+(z-a)^{-m}h'(z)}{(z-a)^{-m}h(z)}=\frac{-m}{z-a}+\frac{h'(z)}{h(z)}
$$
である。$h'/h$ は $B(a,r')$ 上で正則なので、$f'/f=\dfrac{-m+(z-a)h'(z)/h(z)}{z-a}$ の分子は $a$ で値 $-m\neq0$ をとる正則関数であり、$a$ は $f'/f$ の単純極である。prop-pca-principal-part の 3 により、留数は分子の $a$ での値 $-m$ である。
3:零点の位数 の記事の命題「因数分解による特徴づけ」により、$a$ の近傍で $g(z)=(z-a)^mu(z)$、$u$ は正則で $u(a)\neq0$ と書ける。2 と同じ計算で $g'/g=\dfrac{m}{z-a}+\dfrac{u'}{u}$ となり、$a$ は単純極で留数は $m$ である。
$g$ を $A(a;0,R)$ 上の正則関数とし、$\operatorname{Res}(g,a)\neq0$ とする(とくに $a$ が $g$ の単純極ならこれが成り立つ)。このとき、どの $0< r\le R$ についても、$A(a;0,r)$ 上の正則関数 $F$ で $F'=g$ となるものは存在しない。
そのような $F$ があるとし、$0<\rho< r$ をとる。円周 $|z-a|=\rho$ は $A(a;0,r)$ 内の閉曲線で、$g$ はそこで原始関数 $F$ をもつので、Cauchyの積分定理 の記事の命題「複素線積分の基本性質」により $\oint_{|z-a|=\rho}g(z)\,dz=0$ である。一方、Laurent展開 の記事の系「留数の積分表示」によりこの積分は $2\pi i\operatorname{Res}(g,a)\neq0$ である。矛盾する。単純極 $a$ では、prop-pca-principal-part の 3 により $\operatorname{Res}(g,a)=c_{-1}=h(a)\neq0$ である。
prop-pca-derivative の 1 とこの系は表裏の関係にある。有理型関数を微分しても単純極は生まれず(極の位数は $2$ 以上になり、留数は $0$ になる)、逆に単純極をもつ関数はその近くで原始関数をもたない。$1/z$ が穴あき円板上で原始関数をもたないことは、$\log z$ の 1 価な分枝が原点のまわりの穴あき円板全体ではとれないことの言い換えである。
極の定義と thm-pca-growth の仮定を 1 つずつ外すと、次のようになる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 特異点が孤立している | $1/\sin(1/z)$ の $0$ | $0$ のどの穴あき円板上でも正則でなく、極でも孤立特異点でもない |
| $\lvert f(z)\rvert\to\infty$ | $e^{1/z}$ の $0$ | どの $m$ でも $z^me^{1/z}$ は有界でなく、位数が定まらない |
| $f$ が正則である | $1/\bar z$、$\lvert z\rvert^{-1/2}$ | $\lvert f\rvert\to\infty$ でも $h(z)/z^m$ の形に書けない。$\lvert z\rvert^{-1/2}$ では発散の冪が整数でない |
| 下からの評価(thm-pca-growth の 3) | $f(z)=1/z$、$m=2$ | $z^2f(z)$ は有界だが、位数は $2$ でなく $1$ |
表の 4 つの反例が、それぞれの条件を外したときに結論が崩れることを確かめる。
$f(z)=1/\sin(1/z)$ は $z=1/(k\pi)$($k\in\mathbb{Z}\setminus\{0\}$)で定義されず、これらの点は $0$ に集積するので、$f$ が正則になる穴あき円板 $A(0;0,R)$ はない。さらに $z_k:=1/(\pi/2+2k\pi)\to0$ で $f(z_k)=1$ だから、$f$ の定義域内で $0$ に近づいても $|f|\to\infty$ とはならない。
$f(z)=e^{1/z}$ は $\mathbb{C}\setminus\{0\}$ で正則である。正の実数 $x\to0$ では、$e^{1/x}\ge\dfrac{(1/x)^{m+1}}{(m+1)!}$ より $x^me^{1/x}\ge\dfrac{1}{(m+1)!\,x}\to\infty$ なので、どの $m$ でも $z^mf(z)$ は有界でない。負の実数 $x\to0$ では $e^{1/x}\to0$ なので $|f|\to\infty$ でもない。$0$ は真性特異点である(Laurent展開 の記事の例「真性特異点を持つ関数」)。
$f(z)=1/\bar z$ は $|f(z)|=1/|z|\to\infty$ を満たすが正則でない(正則関数 の記事の注意「反例:複素共役と絶対値」)。$f(z)=|z|^{-1/2}$ も正則でない。もし $\mathbb{C}\setminus\{0\}$ で正則なら、$|f(z)|\le|z|^{-1/2}$ と cor-pca-noninteger($s=1/2$)により $0$ は除去可能特異点になり、$f$ は $0$ の近くで有界のはずだが、実際には $|f(z)|\to\infty$ だからである。
$f(z)=1/z$ と $m=2$ では $|z^2f(z)|=|z|$ は有界で、thm-pca-growth の 1 の結論「位数 $2$ 以下」は成り立つが、$|f(z)|\ge c_1/|z|^2$ は $z\to0$ で成り立たず、位数は $1$ である。
代数的な見方。 $\operatorname{ord}_a$ は、$a$ の近くで恒等的に $0$ でない有理型関数に整数を対応させ、$\operatorname{ord}_a(fg)=\operatorname{ord}_af+\operatorname{ord}_ag$、$\operatorname{ord}_a(f+g)\ge\min(\operatorname{ord}_af,\operatorname{ord}_ag)$ を満たす(零点の位数 の記事の命題「位数の与える付値」)。極とは $\operatorname{ord}_af<0$ となる点のことであり、この見方は 離散付値環 を通じて代数曲線や スキーム にそのまま移る。たとえば楕円曲線の Weierstrass 方程式の座標関数 $x,y$ は原点 $O$ にそれぞれ 2 位・3 位の極をもち、複素数体上の楕円曲線では、楕円関数 $\wp$ とその導関数 $\wp'$ の格子点での 2 位・3 位の極に対応する。代数多様体では、余次元 $1$ の部分多様体に沿った極の位数を数えて Weil因子 が定まる。Riemann球面 上の有理関数については、極の位数の総和と零点の位数の総和が等しい(有理関数 の記事の定理「射影直線上の零点と極の釣り合い」)。
極を指定した関数と、極の近くの値。 $\mathbb{C}$ の離散閉集合の各点に任意の主要部を指定すると、それらを主要部とする有理型関数が存在する(Mittag-Lefflerの定理)。零点の位数の和と極の位数の和の差を閉曲線に沿う積分で数えるのが 偏角の原理 であり、prop-pca-derivative の 2・3 がその計算の要になる。同じ原理から、位数 $m$ の極の近くでは $f$ が十分大きな各値をちょうど $m$ 回とることが従う(偏角の原理 の記事で示す)。
極の定義と位数の基本的な扱いは LebGCCA26 §5.2(Definition 5.2.1、p. 124;Theorem 5.2.2、p. 125;Corollary 5.2.3、Definition 5.2.4、p. 126;Proposition 5.2.5、p. 127)と BMPS25 §9.1(Definition 9.1.1、p. 138;Proposition 9.1.6、pp. 139–141;Corollary 9.1.7、Definition 9.1.8、p. 141;Proposition 9.1.10、pp. 142–143)にある。thm-pca-growth の 2 は BMPS25 Proposition 9.1.6 (b) と同じ考え方である。
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