Hodge指数定理

同義語:Hodgeの指数定理Hodge index theorem

概要

Hodge指数定理(Hodge index theorem)とは、代数閉体上の滑らかで連結な射影曲面 $X$ の豊富な因子 $H$ と、$D\cdot H=0$ をみたし数値的に $0$ と同値でない因子 $D$ について、自己交点数が $D^2<0$ となるという定理である。言い換えると、数値的同値類の群を実数係数に広げた空間の上で、交点形式は符号 $(1,\rho-1)$ をもつ($\rho$ は Picard 数)。曲面の Riemann–Roch の定理から任意の標数で証明でき、$(D^2)(H^2)\le(D\cdot H)^2$ という逆向きの Cauchy–Schwarz 不等式を与える。曲線の積に当てると、有限体上の曲線の有理点の個数についての Weil の評価が導かれる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 曲面の交点形式とRiemann–Rochの定理, 豊富な可逆層, 数値的同値, Serre双対性

代数曲面の上では、2 つの因子 $D,E$ に整数の交点数 $D\cdot E$ が定まり、対称な双線形形式(交点形式)になる。Hodge 指数定理(Hodge index theorem)は、この形式の符号を決める定理である。豊富な因子 $H$ を 1 つとると $H^2>0$ であり、$H$ と交点数 $0$ の因子 $D$ は、数値的に $0$ と同値でない限り $D^2<0$ をみたす。すなわち、交点形式は「$H$ の方向に正、その直交補空間で負」であり、数値的同値類の群 $\operatorname{Num}(X)$ を実数係数に広げると符号 $(1,\rho-1)$ をもつ($\rho$ は Picard 数)。
この性質から、ふつうの Cauchy–Schwarz の不等式と向きが逆の不等式 $(D^2)(H^2)\le(D\cdot H)^2$ が出る。曲線の積 $C\times C$ に当てると、有限体上の曲線の有理点の個数についての Weil の評価 $|N-q-1|\le2g\sqrt q$(曲線の Riemann 予想の類似)が導かれる。
複素数体上では、Hodge 理論から同じ符号が得られる(Hodge–Riemann双線形関係)。ここで述べる代数的な証明は曲面の Riemann–Rochの定理 と Serre 双対性を使い、Hodge 理論を使わないので、任意の標数の代数閉体で成り立つ。この記事では、豊富な因子と有効因子の交点数の正値性と、Riemann–Roch による有効性を準備し、豊富性の和についての補題を示して主定理を証明し、符号と逆向きの不等式を導いて、Weil の評価まで進む。

設定

以下、$k$ は代数閉体で、曲面 $X$ とは $k$ 上の滑らかで連結な 2 次元の射影スキームをいう。記号は 曲面の交点形式とRiemann–Rochの定理 に従う。$X$ の因子は Cartier 因子と同じで、線形同値類の群は $\operatorname{Pic}X$ である。交点数 $D\cdot E$ は線形同値類だけで決まる対称双線形形式で(同記事の定理「交点形式」の 1)、$C,D$ が共通の既約成分をもたない曲線($0$ でない有効因子)なら $C\cdot D\ge0$、とくに交わらなければ $0$ である(同 3)。$K_X$ を標準因子とすると、曲面の Riemann–Roch の定理
$$ \chi(\mathcal{O}_X(D))=\chi(\mathcal{O}_X)+\tfrac12D\cdot(D-K_X) $$
と Serre 双対性 $h^2(\mathcal{O}_X(D))=h^0(\mathcal{O}_X(K_X-D))$ が成り立つ(同記事の定理「曲面の Riemann–Roch の定理」と節「設定と記号」)。
因子 $D$ が豊富であるとは、可逆層 $\mathcal{O}_X(D)$ が 豊富な可逆層 であること、すなわち任意の連接層 $\mathcal{F}$ に対しある $n_0$ があって、$n\ge n_0$ ならいつも $\mathcal{F}\otimes\mathcal{O}_X(nD)$ が大域切断で生成されることをいう(Har77 II §7, p. 153)。$D$ が豊富なら、ある $m\ge1$ について $mD$ は非常に豊富である(同 Theorem 7.6, p. 154)。
因子 $D$ が数値的に $0$ と同値($D\equiv0$)とは、すべての因子 $E$ について $D\cdot E=0$ となることをいう(数値的同値)。$\operatorname{Num}(X):=\operatorname{Pic}X/\{D\equiv0\}$ とおく。$\operatorname{Num}(X)$ は有限階数の自由アーベル群で(Néron–Severi の定理による。数値的同値 の節「$N^1(X)$ の構造」、Vak25 §18.4.12, p. 513。この記事では証明しない)、その階数 $\rho=\rho(X)$ を Picard 数という。交点形式は $\operatorname{Num}(X)$ の上の非退化な対称双線形形式を定める。

準備

豊富な因子について、次の 2 つの事実を使う。どちらも 代数曲面 に証明がある。

  • $H$ が豊富で $E\ne0$ が有効因子なら $E\cdot H>0$ である(代数曲面 の補題「有効因子と豊富な因子の交点数」)。$E=0$ も含めれば、有効因子 $E$ について $E\cdot H\ge0$ である。
  • $H$ が豊富で、因子 $D$ が $D^2>0$ と $D\cdot H>0$ をみたせば、十分大きい $n$ について $nD$ は有効因子と線形同値である(同記事の命題「自己交点数が正の因子の倍数」。Har77 V, Corollary 1.8, pp. 363–364)。Riemann–Roch の定理で $\chi(\mathcal{O}_X(nD))$ が $n^2D^2/2$ の速さで増え、Serre 双対性の側の $h^2(\mathcal{O}_X(nD))=h^0(\mathcal{O}_X(K_X-nD))$ が $D\cdot H>0$ により十分大きい $n$ で $0$ になることによる。
    とくに $H$ が豊富なら $H^2>0$ である。実際、$mH$ が非常に豊富となる $m\ge1$ をとって $X\subset\mathbb{P}^N$ と埋め込むと、超平面切断 $A$ は $mH$ と線形同値な有効因子で、$X$ は $2$ 次元なので射影次元定理(Har77 I, Theorem 7.2, p. 48)により $A\ne0$ である。よって $m\,H^2=A\cdot H>0$ である。
    もう 1 つ、豊富性についての補題を示す。
豊富な因子の大きな倍を足す

$H$ を豊富な因子、$D$ を任意の因子とする。十分大きい $n$ について $D+nH$ は豊富である。

$H$ の豊富性を $\mathcal{F}=\mathcal{O}_X(D)$ に当てると、ある $n_0$ があり、$n\ge n_0$ なら $\mathcal{O}_X(D+nH)$ は大域切断で生成される。$n>n_0$ とし、$\mathcal{M}:=\mathcal{O}_X(D+(n-1)H)$、$\mathcal{A}:=\mathcal{O}_X(H)$ とおくと、$\mathcal{O}_X(D+nH)=\mathcal{M}\otimes\mathcal{A}$ で、$\mathcal{M}$ は大域切断で生成される。任意の連接層 $\mathcal{F}$ について、$\mathcal{F}\otimes\mathcal{A}^{\otimes j}$ は十分大きい $j$ で大域切断で生成され、$\mathcal{M}^{\otimes j}$ はすべての $j$ で大域切断で生成される。大域切断で生成される層のテンソル積は、切断の積で生成されるのでまた大域切断で生成される。よって $\mathcal{F}\otimes(\mathcal{M}\otimes\mathcal{A})^{\otimes j}$ は十分大きい $j$ で大域切断で生成され、$D+nH$ は豊富である。$\square$

主定理

Hodge 指数定理

$X$ を曲面、$H$ を豊富な因子とする。因子 $D$ が $D\cdot H=0$ をみたし、数値的に $0$ と同値でない($D\not\equiv0$)なら、
$$ D^2<0 $$
である。

段 1($D^2>0$ はありえない)。 $D\cdot H=0$ かつ $D^2>0$ と仮定する。lem-hit-ample-sum により、十分大きい $n$ で $H':=D+nH$ は豊富であり、$D\cdot H'=D^2+n\,D\cdot H=D^2>0$ である。代数曲面 の命題「自己交点数が正の因子の倍数」を $D$ と $H'$ に当てると、ある $m\ge1$ について $mD$ は有効因子 $E$ と線形同値である。$E=0$ なら $mD$ は $0$ と線形同値で $m^2D^2=0$ となり $D^2>0$ に反するので、$E\ne0$ である。同記事の補題「有効因子と豊富な因子の交点数」を $E$ と $H$ に当てると $m\,D\cdot H=E\cdot H>0$ となり、$D\cdot H=0$ に反する。
段 2($D^2=0$ もありえない)。 $D\cdot H=0$、$D^2=0$、$D\not\equiv0$ と仮定する。$D\cdot E\ne0$ となる因子 $E$ がある。
$$ E':=(H^2)E-(E\cdot H)H $$
とおくと $E'\cdot H=0$ であり、$D\cdot E'=(H^2)(D\cdot E)\ne0$ である($H^2>0$ は「準備」の節で示した)。整数 $t$ について $D_t:=tD+E'$ とおくと、$D_t\cdot H=0$ で
$$ D_t^2=t^2D^2+2t\,D\cdot E'+E'^2=2t\,D\cdot E'+E'^2 $$
である。$t$ を $D\cdot E'$ と同じ符号で絶対値を十分大きくとれば $D_t^2>0$ となり、段 1 に反する。
段 1・2 により $D^2<0$ である。$\square$

段 1 は「$D^2>0$ なら $D$ か $-D$ の大きな倍が有効になる」ことを使い、有効な因子は豊富な因子と正に交わるので $D\cdot H=0$ に反する、という筋である。証明は Har77 V, Theorem 1.9(p. 364)と同じ筋である。

符号と逆向きの不等式

数値的同値類の上の符号

$X$ を曲面、$\rho$ を Picard 数とする。$\operatorname{Num}(X)\otimes\mathbb{R}$ の上の交点形式は非退化で、符号 $(1,\rho-1)$ をもつ。豊富な因子 $H$ の類 $h$ について、$h$ の直交補空間の上で交点形式は負定値である。

$V:=\operatorname{Num}(X)\otimes\mathbb{R}$ とし、$\operatorname{Num}(X)$ の $\mathbb{Z}$ 基底での交点形式のグラム行列を $G$ とする。$\operatorname{Num}(X)$ の上で形式は非退化なので、$Gx=0$ となる整数ベクトルは $0$ だけであり、$G$ は $\mathbb{Q}$ 上、したがって $\mathbb{R}$ 上でも正則である。よって形式は $V$ の上で非退化である。
$h^2>0$ なので、$V=\mathbb{R}h\oplus h^\perp$ は直交分解であり、形式は $h^\perp$ の上でも非退化である。$h^\perp$ は有理数係数の 1 次式 $x\mapsto x\cdot h$ の核なので、有理点 $h^\perp\cap(\operatorname{Num}(X)\otimes\mathbb{Q})$ が $h^\perp$ で稠密である。$0$ でない有理点 $v$ は、分母を払うと $D\cdot H=0$、$D\not\equiv0$ をみたす因子 $D$ の類の正の有理数倍なので、thm-hit-main により $v^2<0$ である。連続性から形式は $h^\perp$ の上で半負定値であり、非退化な半負定値形式は負定値である($v^2=0$ なら、半負定値形式の Cauchy–Schwarz の不等式 $(v\cdot w)^2\le(v^2)(w^2)$ により $v$ はすべての $w$ と直交する)。$h$ 方向で正、$h^\perp$($\rho-1$ 次元)で負定値なので、符号は $(1,\rho-1)$ である。$\square$

逆向きの Cauchy–Schwarz 不等式

$X$ を曲面とする。

  1. $H$ が豊富なら、任意の因子 $D$ について $(D^2)(H^2)\le(D\cdot H)^2$ であり、等号は $(H^2)D\equiv(D\cdot H)H$ のときに限る。
  2. 因子 $D$ が $D^2>0$ をみたせば、任意の因子 $E$ について $(D^2)(E^2)\le(D\cdot E)^2$ である。

1:$D':=(H^2)D-(D\cdot H)H$ とおくと $D'\cdot H=0$ で、
$$ D'^2=(H^2)^2D^2-2(H^2)(D\cdot H)^2+(D\cdot H)^2H^2=(H^2)\bigl((H^2)(D^2)-(D\cdot H)^2\bigr) $$
である。thm-hit-main により $D'^2\le0$ で、$D'\not\equiv0$ なら $D'^2<0$ である。$H^2>0$ なので主張が従う。
2:$D,E$ の類が $V=\operatorname{Num}(X)\otimes\mathbb{R}$ で張る部分空間 $W$ を考える。$\dim W\le1$ なら $E$ の類は $D$ の類の実数倍で等号が成り立つ。$\dim W=2$ のとき、基底 $D,E$ についての $W$ 上のグラム行列式 $(D^2)(E^2)-(D\cdot E)^2$ が正なら、$D^2>0$ と合わせて形式は $W$ の上で正定値になる。しかし cor-hit-signature により $V$ には $2$ 次元の正定値部分空間はない(あれば $h^\perp$ と $0$ でない共通部分をもち、そこで負定値性に反する)。よって行列式は $0$ 以下である。$\square$

例と反例

射影平面・2 次曲面・1 点の爆発
  1. $X=\mathbb{P}^2$ では $\operatorname{Pic}X=\mathbb{Z}\ell$($\ell$ は直線)、$\ell^2=1$ で $\rho=1$、符号は $(1,0)$ である。$D\cdot\ell=0$ なら $D=0$ で、定理は自明に成り立つ。
  2. $X=\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1$ では、2 つの方向のファイバー $f_1,f_2$ について $f_1^2=f_2^2=0$、$f_1\cdot f_2=1$ である(曲面の交点形式とRiemann–Rochの定理 の例「$\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1$」)。$H=f_1+f_2$ は Segre 埋め込み $\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1\to\mathbb{P}^3$ の超平面切断なので豊富で(Segre埋め込み)、$H^2=2$ である。$D=f_1-f_2$ は $D\cdot H=0$、$D^2=-2<0$ で、$\operatorname{Num}\otimes\mathbb{R}$ の基底 $H/\sqrt2,\,D/\sqrt2$ で形式は $\operatorname{diag}(1,-1)$ になる。
  3. $\mathbb{P}^2$ の 1 点の爆発 $X$ では、直線の引き戻し $\ell$ と例外曲線 $e$ について $\ell^2=1$、$e^2=-1$、$\ell\cdot e=0$ で、$\operatorname{Pic}X=\mathbb{Z}\ell\oplus\mathbb{Z}e$ の形式は $\operatorname{diag}(1,-1)$ で、符号は $(1,1)$ である(同記事の定理「爆発と交点形式」)。正の方向は $\ell$、負の方向は $e$ が担う。

thm-hit-main の仮定を 1 つずつ外すと、結論 $D^2<0$ は成り立たなくなる。

外す条件反例成り立たなくなること
$H$ が豊富(負の曲線に替える)1 点の爆発で $H=e$、$D=\ell$$D^2<0$($\ell^2=1$)
$H$ が豊富(自己交点数 $0$ の曲線に替える)$\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1$ で $H=f_1$、$D=f_1$$D^2<0$($f_1^2=0$)
$D\not\equiv0$(線形同値で $0$ でないに弱める)楕円曲線 $E_0$ について $X=E_0\times\mathbb{P}^1$、$D=p_1^*(P-O)$$D^2<0$($D^2=0$)
各行の確認を開く

1 行目:$e\cdot\ell=0$ で $\ell\not\equiv0$ だが $\ell^2=1>0$ である。$e$ は $e^2=-1<0$ なので、「準備」の節の $H^2>0$ により豊富でない。

2 行目:$f_1$ は有効で $f_1\cdot f_1=0$、$f_1\cdot f_2=1$ なので $f_1\not\equiv0$ だが、$D\cdot H=f_1^2=0$ かつ $D^2=0$ である。$f_1^2=0$ なので $f_1$ は豊富でない。

3 行目:$P\ne O$ を $E_0$ の閉点とし、$\mathcal{O}_{E_0}(P-O)$ は次数 $0$ で自明でない可逆層である。$p_1\colon X\to E_0$ は切断 $s(x)=(x,\infty)$ をもち $s^*p_1^*=\mathrm{id}$ なので、$D=p_1^*(P-O)$ は $0$ と線形同値でない。一方、$D=F_P-F_O$($F_x=p_1^{-1}(x)$ はファイバー)である。任意の因子 $E$ は滑らかな曲線 $A,B$ の差 $A-B$ と線形同値なので(曲面の交点形式とRiemann–Rochの定理 の補題「滑らかな曲線の差」)、同記事の定理「交点形式」の 2 により $F_x\cdot A=\deg\bigl((p_1|_A)^*\mathcal{O}_{E_0}(x)\bigr)$ を $A$ の各連結成分で足したものである。$p_1$ がその成分の上で定値なら $0$、そうでなければ $p_1|_{A_j}$ の次数(Har77 II, Proposition 6.9, p. 138)で、どちらも $x$ によらない。$B$ も同じなので $D\cdot E=0$、すなわち $D\equiv0$ であり、$D\cdot H=0$、$D^2=0$ となる。この行は、定理の仮定が「数値的に」$0$ でないことでなければならないことを示す。

応用:有限体上の曲線

曲線の積の上の不等式

$C,C'$ を滑らかで連結な射影曲線、$X=C\times C'$(曲面である)、$f_1=\{a\}\times C'$、$f_2=C\times\{b\}$($a\in C$、$b\in C'$ は閉点)とする。任意の因子 $D$ について
$$ D^2\le2\,(D\cdot f_1)(D\cdot f_2) $$
である。

$f_1$ と $f_2$ は点 $(a,b)$ だけで横断的に交わるので $f_1\cdot f_2=1$ である($a,b$ での局所パラメータの引き戻しが $(a,b)$ の局所環の極大イデアルを生成する)。$\mathcal{O}_X(f_1)=p_1^*\mathcal{O}_C(a)$ の $f_1$ への制限は、$p_1$ が $f_1$ の上で定値なので自明で、曲面の交点形式とRiemann–Rochの定理 の定理「交点形式」の 2 により $f_1^2=0$ である。同様に $f_2^2=0$。よって $f_1,f_2$ の類は $V=\operatorname{Num}(X)\otimes\mathbb{R}$ の中で、グラム行列 $\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}$ の非退化な $2$ 次元部分空間 $W$ を張り、$W$ の符号は $(1,1)$ である。$V=W\oplus W^\perp$ で、cor-hit-signature により $W^\perp$ の符号は $(0,\rho-2)$、すなわち負定値である。$D$ の類を $\alpha f_1+\beta f_2+w$($w\in W^\perp$)と書くと $D\cdot f_1=\beta$、$D\cdot f_2=\alpha$ で、$D^2=2\alpha\beta+w^2\le2\alpha\beta$ である。$\square$

有限体上の曲線の有理点の個数(Weil)

$C_0$ を有限体 $\mathbb{F}_q$ 上の滑らかで幾何学的に連結な射影曲線、$g$ をその種数、$N$ を $\mathbb{F}_q$ 有理点の個数とする。このとき
$$ |N-q-1|\le2g\sqrt q $$
である。

要点:$k=\bar{\mathbb{F}}_q$ 上の $C=C_0\times_{\mathbb{F}_q}k$ と、$q$ 乗の Frobenius 射 $F\colon C\to C$ のグラフ $\Gamma\subset C\times C$、対角線 $\Delta$ をとると、$\Gamma\cdot\Delta=N$、$\Gamma^2=q(2-2g)$、$\Delta^2=2-2g$ である。$D=r\Gamma+s\Delta$ に prop-hit-product を当てると $g q\,r^2-(N-q-1)rs+g\,s^2\ge0$(すべての整数 $r,s$)を得て、この 2 次形式の判別式から主張が従う。

詳しい証明を開く

$F$ は $\mathcal{O}_{C_0}\otimes k$ の上で $u\otimes\lambda\mapsto u^q\otimes\lambda$ で定まる $k$ 射で、次数 $q$ の有限射である(Har77 IV, Example 2.4.3, p. 302 の $k$ 線形 Frobenius を繰り返したもの)。$C$ の閉点で $F$ の固定点は、$\mathbb{F}_q$ 上の射影的な埋め込みで座標が $\mathbb{F}_q$ に入る点、すなわち $C_0$ の $\mathbb{F}_q$ 有理点であり、ちょうど $N$ 個ある。

グラフの自己交点数.$\varphi\colon C\to C$ を有限射、$\Gamma_\varphi$ をそのグラフとする。$i=(\mathrm{id},\varphi)\colon C\to\Gamma_\varphi$ は同型で、$\Omega_{C\times C}=p_1^*\Omega_C\oplus p_2^*\Omega_C$(Stacks Tag 01V1)の $i$ による引き戻しは $\Omega_C\oplus\varphi^*\Omega_C$、そこから $\Omega_C$ への写像は $(a,b)\mapsto a+\varphi^\sharp(b)$($\varphi^\sharp$ は微分形式の引き戻し)である。余法完全列 $0\to\mathcal{O}(-\Gamma_\varphi)|_{\Gamma_\varphi}\to i^*\Omega_{C\times C}\to\Omega_C\to0$(Stacks Tag 06AA)の核は $\{(-\varphi^\sharp(b),b)\}\cong\varphi^*\Omega_C$ なので、$\deg\mathcal{O}(-\Gamma_\varphi)|_{\Gamma_\varphi}=\deg\varphi\cdot(2g-2)$ である(Har77 II, Proposition 6.9, p. 138 と IV, Example 1.3.3, p. 296)。曲面の交点形式とRiemann–Rochの定理 の定理「交点形式」の 2 により $\Gamma_\varphi^2=\deg\varphi\cdot(2-2g)$。$\varphi=F$ で $\Gamma^2=q(2-2g)$、$\varphi=\mathrm{id}$ で $\Delta^2=2-2g$ である。

ファイバーとの交点数.同じ定理の 2 により $\Gamma\cdot f_1=\deg(p_1^*\mathcal{O}_C(a)|_\Gamma)=\deg\mathcal{O}_C(a)=1$、$\Gamma\cdot f_2=\deg F^*\mathcal{O}_C(b)=q$、$\Delta\cdot f_1=\Delta\cdot f_2=1$ である。

$\Gamma\cdot\Delta=N$.$F$ の次数は $q>1$ なので $\Gamma\ne\Delta$ で、2 つは共通の既約成分をもたない。$\Gamma\cap\Delta$ は $F$ の固定点 $P$ の組 $(P,P)$ である。$t$ を $C_0$ の $P$ での一意化元とすると $t$ は $C$ の $P$ でも一意化元で $F^*t=t^q$ である。$u=p_1^*t$、$v=p_2^*t$ は $(P,P)$ での局所環の極大イデアルを生成する。$v-u$ は $\Delta$ の上で消え、極大イデアルの 2 乗に入らないので、$\Delta$ の局所方程式である。同様に $v-u^q$ は $\Gamma$ の局所方程式である。$(v-u,\,v-u^q)=(v-u,\,u(1-u^{q-1}))=(v-u,\,u)$ は極大イデアルなので局所交点数は $1$ で、$\Gamma\cdot\Delta=N$ である。

計算.$D=r\Gamma+s\Delta$ について $D\cdot f_1=r+s$、$D\cdot f_2=rq+s$、$D^2=r^2q(2-2g)+2rsN+s^2(2-2g)$ である。prop-hit-product の不等式 $D^2\le2(r+s)(rq+s)$ を整理すると $g q\,r^2-(N-q-1)rs+g\,s^2\ge0$ となる。左辺は斉次 2 次式なので有理数 $r,s$ でも成り立ち、連続性から実数でも成り立つ。半正定値な 2 元 2 次形式の判別式は $0$ 以下なので $(N-q-1)^2\le4g^2q$ である。

prop-hit-product と thm-hit-weil の筋は Har77 V, Exercise 1.9・1.10(p. 368)に演習として示されている。$g=1$ の楕円曲線では $|N-q-1|\le2\sqrt q$ となり、これは楕円曲線についての Hasse の定理である。この評価は Weil予想 のうち曲線の場合の Riemann 予想の類似にあたる(合同ゼータ関数)。

複素数体上の版

$k=\mathbb{C}$ のとき、交点形式は $H^2(X,\mathbb{Z})$ のカップ積を代数的な類に制限したものであり、Hodge 理論によって $H^{1,1}$ の実部の上でカップ積が符号 $(1,h^{1,1}-1)$ をもつことが示される(BHPV04 IV, Theorem 2.14, p. 143)。BHPV04 IV, Corollary 2.16(p. 143)は、これと Lefschetz の $(1,1)$ 定理から、射影的な複素曲面について、有理係数の因子 $D,E$ が $D^2>0$、$D\cdot E=0$ をみたせば $E^2\le0$ で、等号は $E$ が有理係数のホモロジーで $0$ のときに限ることを導いており、thm-hit-main はその特別な場合である。コンパクト Kähler 多様体の $(1,1)$ 類についての形と、偶数次元の中間コホモロジーの符号数の公式は Hodge–Riemann双線形関係 にある。この記事の証明は Hodge 理論を使わないので、正標数でも成り立つ。

関連項目

参考文献

[1]
Robin Hartshorne, Algebraic Geometry, Springer, 1977, I, Theorem 7.2(p. 48、射影次元定理)、II §7(p. 153、豊富な可逆層の定義)と Theorem 7.6(p. 154)、II, Proposition 6.9(p. 138)、IV, Example 1.3.3(p. 296)、IV, Example 2.4.3(p. 302、Frobenius 射)、V, Theorem 1.9(p. 364、Hodge 指数定理)、V, Exercise 1.9・1.10(p. 368、曲線の積の不等式と Weil の評価)
[2]
Wolf P. Barth, Klaus Hulek, Chris A. M. Peters, Antonius Van de Ven, Compact Complex Surfaces, Springer, 2004, 第 IV 章 Theorem 2.14(符号定理)と Corollary 2.16(代数的な指数定理)、p. 143

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