Baireのカテゴリー定理

概要

Baireのカテゴリー定理(Baire Category Theorem, BCT)は、位相空間論および関数解析学における基本定理の一つであり、完備距離空間や局所コンパクトHausdorff空間といった「良い」空間が、位相的な意味で「十分に厚みがある」ことを保証する定理である。具体的には、これらの空間は「疎な集合(中身がスカスカな集合)」を可算個集めた程度では埋め尽くせない(第2類集合である)ことを主張する。この定理は、構成的証明が困難な病的な対象(至る所微分不可能な連続関数など)の存在を示すための強力な道具として利用される。

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定理の主張

Baireのカテゴリー定理は、空間が「位相的な厚み」を持つための十分条件を与える。最も標準的な完備距離空間における定式化は以下の通りである。

Baireのカテゴリー定理

$X$ を空でない完備距離空間とする。このとき、以下の2つの同値な主張が成り立つ。

  1. 共通部分の稠密性:
    $\{U_n\}_{n=1}^{\infty}$$X$稠密開集合の列とする。
    このとき、その共通部分 $\bigcap_{n=1}^{\infty} U_n$ もまた $X$ において稠密である。
  2. 第2類性:
    $X$ は、可算個の疎集合(閉包の内部が空である集合)の和集合として表すことができない。

この定理が成立する空間(すなわち、疎集合の可算和の内部が常に空となる空間)は、一般にBaire空間(Baire space)と呼ばれる。

用語:カテゴリー(類)

定理の理解には、集合の「大きさ」を位相的に分類する以下の用語が不可欠である。

第1類と第2類

位相空間 $X$ の部分集合 $A$ について:

  • 疎集合(Nowhere dense):
    その閉包の内部が空($(\overline{A})^\circ = \emptyset$)である集合。「隙間だらけ」の状態。
  • 第1類集合(First category / Meager set):
    疎集合の可算和 $\bigcup_{n=1}^\infty F_n$ で表される集合。位相的に「痩せた」集合。
  • 第2類集合(Second category / Non-meager set):
    第1類ではない集合。

この用語を用いれば、Baireのカテゴリー定理は「完備距離空間はそれ自身、第2類集合である」と簡潔に表現できる。

証明

ここでは、解析学で最も応用される「共通部分の稠密性」の形式について、縮小閉球列を用いた厳密な証明を与える。

証明

目標: 任意の空でない開集合 $W \subseteq X$ に対し、$W \cap \bigcap_{n=1}^{\infty} U_n \neq \emptyset$ を示す。
Step 1: 第1段階の構成
$U_1$ は稠密な開集合であるため、$W \cap U_1$ は空でない開集合である。
したがって、ある点 $x_1$ と半径 $0 < r_1 < 1$ を選び、以下の条件を満たす閉球をとることができる。
$$\overline{B}(x_1, r_1) \subseteq W \cap U_1$$
Step 2: 帰納的な構成
自然数 $n \ge 1$ に対し、閉球 $\overline{B}(x_n, r_n)$ が構成されたとする。
その内部 $B(x_n, r_n)$ と稠密開集合 $U_{n+1}$ の共通部分は空ではない。
よって、以下の条件を満たす新しい閉球 $\overline{B}(x_{n+1}, r_{n+1})$ をその中に選ぶことができる。

  1. 包含: $\overline{B}(x_{n+1}, r_{n+1}) \subseteq B(x_n, r_n) \cap U_{n+1}$
  2. 縮小: $0 < r_{n+1} < \frac{1}{n+1}$
    これにより、縮小閉球列 $\overline{B}(x_1, r_1) \supseteq \overline{B}(x_2, r_2) \supseteq \dots$ が得られる。

Step 3: 完備性の適用
中心の列 $\{x_n\}$ は、$m > n$ ならば $d(x_n, x_m) < 2r_n \to 0$ よりCauchy列である。
$X$ の完備性より、極限 $x = \lim_{n \to \infty} x_n$ が存在する。
任意の $n$ について、列の尾部は $\overline{B}(x_n, r_n)$ に含まれるため、極限点も $x \in \overline{B}(x_n, r_n)$ を満たす。
Step 4: 結論
構成条件より、すべての $n$$\overline{B}(x_n, r_n) \subseteq U_n$ であるから、$x \in \bigcap_{n=1}^{\infty} U_n$ である。
また $\overline{B}(x_1, r_1) \subseteq W$ より $x \in W$ である。
ゆえに共通部分は $W$ と交わるため、稠密である。 $\square$

応用と意義

Baireのカテゴリー定理は、具体的な構成が困難な対象の存在証明において「存在定理」として絶大な威力を発揮する。

主な応用
  1. 至る所微分不可能な連続関数:
    Banachは、$C([0, 1])$(連続関数空間)において、「少なくとも1点で微分可能な関数」の集合が第1類(Meager)であることを示した。これにより、補集合である「至る所微分不可能な関数」が空間の大部分(第2類)を占め、稠密に存在することが示される。
  2. 一様有界性原理 (Banach-Steinhaus):
    関数解析学の三大定理の一つ。各点有界な線型作用素の族が一様有界であることを示す際に、Baireの定理が本質的に使用される。
  3. 開写像定理:
    完備な空間の間の連続全射線型写像が開写像であることを保証する定理。

直感と注意点

「第1類集合(痩せている)」と「測度論における測度ゼロ(体積がない)」は、直感的には類似しているが、数学的には全く異なる概念であることに注意が必要である。

カテゴリーと測度の不一致

$\mathbb{R}$ において、以下のような直感に反する集合が存在する。

  • 第1類だが全測度を持つ集合:
    有理数を可算個の開区間で覆い、その区間幅の総和を十分小さくした集合の共通部分(fat Cantor setの補集合に近い構成)などを考えることで構成できる。
  • 第2類だが測度ゼロの集合:
    上記の補集合など。
    したがって、Baireのカテゴリー定理でいう「ほとんどすべて(Generic property)」は、確率論的な「ほぼ確実(Almost surely)」とは必ずしも一致しない。

関連項目