極値的長さ

同義語:extremal length

概要

極値的長さ(extremal length)とは、平面の開集合の中の曲線族 $\Gamma$ に対し、計量 $\rho\ge0$ による族の中の最短の長さ $L(\Gamma,\rho)$ の 2 乗を $\rho$ による面積 $A(\rho)$ で割り、あらゆる計量について上限をとった量 $\lambda(\Gamma)$ である。計量を引き戻せるので等角写像で変わらない。長方形の左右の辺を結ぶ族では横と縦の比、円環 $r<|z|< R$ の境界円を結ぶ族では $\frac1{2\pi}\log\frac Rr$ になる。その帰結として、2 つの円環が等角に同値であるのは半径の比が等しいときに限る。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 等角写像, 回転数, Cauchy–Schwarzの不等式, 極座標

極値的長さ は、平面の領域の中の曲線の集まり(曲線族)に対して定まる量で、領域の等角写像で変わらない。曲線族の「長さ」を 1 つの計量で測るのではなく、領域上のあらゆる重み $\rho\geq0$ について「族の中で最も短い曲線の $\rho$ による長さ」の 2 乗を「$\rho$ による面積」で割り、その上限をとる。重みの取り替えに対して上限をとるので、等角写像で重みを引き戻しても値が変わらない。
計算できる基本的な例は長方形と円環である。横 $a$、縦 $b$ の長方形の左右の辺を結ぶ曲線族の極値的長さは $a/b$、半径 $r< R$ の円環の 2 つの境界円を結ぶ曲線族の極値的長さは $\frac1{2\pi}\log\frac Rr$ である。この記事では定義を述べ、等角不変性とこれらの値を完全に証明し、その帰結として、2 つの円環 $r_1<|z|< R_1$ と $r_2<|z|< R_2$ が等角に同値であるための必要十分条件が $R_1/r_1=R_2/r_2$ であることを示す。極値的長さは L. Ahlfors と A. Beurling の等角不変量の研究(AB50 §4)で中心的に使われた量で、Koebeの1/4定理 の別証明にも使われる。

定義

以下、$\Omega$ を $\mathbb{C}$ の開集合とする。$\Omega$ の中の 曲線 とは、区間 $I\subset\mathbb{R}$(開・閉・半開のどれでもよい)から $\Omega$ への連続写像 $\gamma$ で、$I$ に含まれる各有界閉区間の上で区分的に $C^1$ 級であるものをいう。$I$ が有界閉区間 $[\alpha,\beta]$ で $\gamma(\alpha)=\gamma(\beta)$ のとき 閉曲線 という。$\Omega$ の中の曲線の集合を $\Omega$ の 曲線族 という。$\gamma$ を $I$ の部分区間 $J$ に制限したものを $\gamma$ の 部分曲線 という。
$\Omega$ 上の $0$ 以上の連続関数 $\rho$ を 計量 と呼び、曲線 $\gamma\colon I\to\Omega$ の $\rho$ による長さと $\rho$ による面積を
$$\ell_\rho(\gamma):=\int_I\rho(\gamma(t))\,|\gamma'(t)|\,dt\in[0,\infty],\qquad A(\rho):=\iint_\Omega\rho(x+iy)^2\,dx\,dy\in[0,\infty]$$
で定める。どちらも $0$ 以上の連続関数の(広義)積分で、$\ell_\rho$ は $I$ の有界閉部分区間の上の積分の上限、$A(\rho)$ は $\Omega$ に含まれるコンパクトな Jordan 可測集合の上の積分の上限である。$\rho\equiv1$ なら $\ell_\rho(\gamma)$ は $\gamma$ の長さ、$A(\rho)$ は $\Omega$ の面積である。

極値的長さ

$\Gamma$ を $\Omega$ の曲線族とする。計量 $\rho$ に対し $L(\Gamma,\rho):=\inf_{\gamma\in\Gamma}\ell_\rho(\gamma)\in[0,\infty]$ とおき($\Gamma$ が空なら $\infty$)、
$$\lambda(\Gamma):=\sup\Bigl\{\frac{L(\Gamma,\rho)^2}{A(\rho)}\ \Bigm|\ \rho\text{ は計量で }0< A(\rho)<\infty\Bigr\}\in[0,\infty]$$
を $\Gamma$ の 極値的長さ(extremal length)という($L=\infty$ のときの比は $\infty$ とする)。

計量を正の定数 $c$ 倍すると $L$ は $c$ 倍、$A$ は $c^2$ 倍になるので、比 $L^2/A$ は変わらない。極値的長さは「長さの 2 乗を面積で割った」次元のない量である。AB50 §4 は、計量として $0$ 以上の関数を広く許して同じ量を定義している。この記事で計算する長方形と円環の値は、その定義でも同じである(以下の上からの評価は Fubini の定理を使えば $\rho$ の連続性なしに通り、下からの評価には連続な計量しか使わない)。

比較の原理

$\Gamma,\Gamma'$ を $\Omega$ の曲線族とし、$\Gamma$ のどの曲線も $\Gamma'$ に属する部分曲線をもつとする。このとき $\lambda(\Gamma)\geq\lambda(\Gamma')$ である。特に $\Gamma\subset\Gamma'$ なら $\lambda(\Gamma)\geq\lambda(\Gamma')$ である。

計量 $\rho$ と $\gamma\in\Gamma$ について、$\gamma$ の部分曲線 $\gamma|_J\in\Gamma'$ をとると、被積分関数が $0$ 以上なので $\ell_\rho(\gamma)\geq\ell_\rho(\gamma|_J)\geq L(\Gamma',\rho)$ である。$\gamma$ について下限をとって $L(\Gamma,\rho)\geq L(\Gamma',\rho)$ であり、両辺を $A(\rho)$ で割って上限をとればよい。$\square$

曲線を増やすと最短のものが短くなりうるので、族が大きいほど極値的長さは小さい。曲線が長く、少ないほど極値的長さは大きい。

等角不変性

極値的長さの等角不変性

$f\colon\Omega\to\Omega'$ を開集合のあいだの双正則写像(正則な全単射)とし、$\Omega$ の曲線族 $\Gamma$ に対し $f(\Gamma):=\{f\circ\gamma\mid\gamma\in\Gamma\}$ とおく。このとき $\lambda(f(\Gamma))=\lambda(\Gamma)$ である。

開写像定理(複素解析) の系「単射な正則写像の逆写像」により $f^{-1}$ も正則で、$f'$ は $0$ にならない。$\Omega'$ 上の計量 $\rho'$ に対し、$\Omega$ 上の計量 $\rho:=(\rho'\circ f)\,|f'|$ を対応させる。逆の対応は $\rho\mapsto(\rho\circ f^{-1})\,|(f^{-1})'|$ で与えられる($(f^{-1})'(f(z))=1/f'(z)$)ので、これは計量全体の間の全単射である。
長さ:$\gamma\in\Gamma$ について $f\circ\gamma$ は各有界閉部分区間で区分的に $C^1$ 級で、$(f\circ\gamma)'(t)=f'(\gamma(t))\gamma'(t)$ なので
$$\ell_{\rho'}(f\circ\gamma)=\int_I\rho'(f(\gamma(t)))\,|f'(\gamma(t))|\,|\gamma'(t)|\,dt=\ell_\rho(\gamma)$$
である。よって $L(f(\Gamma),\rho')=L(\Gamma,\rho)$ である。
面積:$f=u+iv$ を平面の写像とみると、Cauchy–Riemann の方程式 $u_x=v_y$、$u_y=-v_x$ により Jacobi 行列式は $u_xv_y-u_yv_x=u_x^2+v_x^2=|f'|^2$ である。$K\subset\Omega$ をコンパクトな Jordan 可測集合とすると、$f(K)$ もそうであり(Leb26b Proposition 10.5.9)、変数変換の公式(Leb26b Theorem 10.7.2)により
$$\iint_{f(K)}\rho'^2\,dx\,dy=\iint_K(\rho'\circ f)^2|f'|^2\,dx\,dy=\iint_K\rho^2\,dx\,dy$$
である。$\Omega'$ のコンパクトな Jordan 可測集合 $K'$ はどれも $f(f^{-1}(K'))$ の形で、$f^{-1}(K')$ は同じ命題によりコンパクトな Jordan 可測集合である。上限をとって $A(\rho')=A(\rho)$ を得る。
したがって $\{L(f(\Gamma),\rho')^2/A(\rho')\}$ と $\{L(\Gamma,\rho)^2/A(\rho)\}$ は同じ集合であり、上限も等しい。$\square$

等角でない写像では極値的長さは変わりうる(下の反例の表の 1 行目)。この定理は、等角写像で移り合う領域の上の量を、計算しやすい形の領域(長方形や円環)に移して計算することを可能にする。

長方形と円環

$a,b>0$ について長方形 $Q_{a,b}:=\{x+iy\mid0< x< a,\ 0< y< b\}$ をとり、その曲線族
$$\Gamma_{a,b}:=\Bigl\{\gamma\colon(\alpha,\beta)\to Q_{a,b}\ \Bigm|\ \lim_{t\to\alpha}\operatorname{Re}\gamma(t)=0,\ \lim_{t\to\beta}\operatorname{Re}\gamma(t)=a\Bigr\}$$
(左の辺から右の辺へ向かう曲線)を考える。$0< r< R$ について円環 $A_{r,R}:=\{z\mid r<|z|< R\}$ をとり、
$$\Gamma^{\mathrm{join}}_{r,R}:=\Bigl\{\gamma\colon(\alpha,\beta)\to A_{r,R}\ \Bigm|\ \lim_{t\to\alpha}|\gamma(t)|=r,\ \lim_{t\to\beta}|\gamma(t)|=R\Bigr\}$$
(2 つの境界円を結ぶ曲線)と、$A_{r,R}$ の中の閉曲線のうち $A_{r,R}$ の中で定数の曲線とホモトピックでないもの全体 $\Gamma^{\mathrm{sep}}_{r,R}$(境界円を分ける閉曲線)を考える。ここで閉曲線どうしのホモトピーは 回転数 の節「ホモトピー不変性」の「閉曲線としてホモトピック」の意味である。

円環の中の閉曲線

$A_{r,R}$ の中の閉曲線 $\gamma$ が $A_{r,R}$ の中で定数の曲線とホモトピックであるためには、$0$ のまわりの回転数 $n(\gamma,0)$ が $0$ であることが必要十分である。特に円周 $|z|=t$($r< t< R$)は $\Gamma^{\mathrm{sep}}_{r,R}$ に属する。

必要性は、$A_{r,R}\subset\mathbb{C}\setminus\{0\}$ と 回転数 の系「ホモトピー不変性の帰結」の 1 による。十分性:回転数 の命題「基本群との関係」の単射性の証明で $a=0$、$b=\gamma(\alpha)$ として作ったホモトピー $H$、$K$ は、点の絶対値を $|\gamma(t)|$ のまま、または $|\gamma(t)|$ と $|b|$ のあいだの値に保つので、どちらも $A_{r,R}$ の中にある。よって $\gamma$ は $A_{r,R}$ の中で定数の曲線とホモトピックである。円周の回転数は $1$ なので、後半が従う。$\square$

長方形と円環の極値的長さ
  1. $\lambda(\Gamma_{a,b})=a/b$。
  2. $\lambda(\Gamma^{\mathrm{join}}_{r,R})=\dfrac1{2\pi}\log\dfrac Rr$。
  3. $\lambda(\Gamma^{\mathrm{sep}}_{r,R})=2\pi\Big/\log\dfrac Rr$。

どの場合も、特定の計量で下から、すべての計量について Cauchy–Schwarz の不等式で上から評価する。上からの評価では、計量 $\rho$ を $0< A(\rho)<\infty$ のものとし、$L:=L(\Gamma,\rho)$ とおく。積分はまず領域に含まれる閉長方形(閉円環)の上で Fubini の定理(Fubiniの定理)や極座標の変数変換(極座標 の定理「極座標による重積分の変数変換」)で書き直し、それを広げる極限をとる。
1. 下から:$\rho\equiv1$ とすると $A(\rho)=ab$ である。$\gamma\in\Gamma_{a,b}$ について $|\gamma'|\geq|(\operatorname{Re}\gamma)'|$ なので、$\alpha< t_1< t_2<\beta$ で $\int_{t_1}^{t_2}|\gamma'|\,dt\geq\operatorname{Re}\gamma(t_2)-\operatorname{Re}\gamma(t_1)$ であり、$t_1\to\alpha$、$t_2\to\beta$ として $\ell_\rho(\gamma)\geq a$ である。よって $\lambda(\Gamma_{a,b})\geq a^2/(ab)=a/b$ である。上から:$0< y< b$ について水平な線分 $t\mapsto t+iy$($0< t< a$)は $\Gamma_{a,b}$ に属するので、Cauchy–Schwarz の不等式により
$$L^2\leq\Bigl(\int_0^a\rho(x+iy)\,dx\Bigr)^2\leq a\int_0^a\rho(x+iy)^2\,dx$$
である。$y$ について $0$ から $b$ まで積分すると $bL^2\leq aA(\rho)$、すなわち $L^2/A(\rho)\leq a/b$ である($L=\infty$ ならすべての $y$ で右辺が $\infty$ となり $A(\rho)<\infty$ に反するので、$L<\infty$ である)。
2. 下から:$\rho(z):=1/|z|$ とすると、極座標で $A(\rho)=\int_r^R\int_0^{2\pi}t^{-2}\,t\,d\theta\,dt=2\pi\log(R/r)$ である。$\gamma\in\Gamma^{\mathrm{join}}_{r,R}$ について、$|\gamma|$ は区分的に $C^1$ 級で $\bigl|\frac{d}{dt}|\gamma(t)|\bigr|=|\operatorname{Re}(\overline{\gamma}\gamma')|/|\gamma|\leq|\gamma'|$ なので、1 と同じ議論で
$$\ell_\rho(\gamma)=\int\frac{|\gamma'(t)|}{|\gamma(t)|}\,dt\geq\int\Bigl|\frac{d}{dt}\log|\gamma(t)|\Bigr|\,dt\geq\log R-\log r$$
である。よって $\lambda\geq\log^2(R/r)/(2\pi\log(R/r))=\frac1{2\pi}\log\frac Rr$ である。上から:各 $\theta$ について半径の線分 $t\mapsto te^{i\theta}$($r< t< R$)は $\Gamma^{\mathrm{join}}_{r,R}$ に属するので
$$L^2\leq\Bigl(\int_r^R\rho(te^{i\theta})\sqrt t\cdot\frac1{\sqrt t}\,dt\Bigr)^2\leq\log\frac Rr\int_r^R\rho(te^{i\theta})^2\,t\,dt$$
である。$\theta$ について積分して $2\pi L^2\leq\log(R/r)\,A(\rho)$ を得る。
3. 下から:$\rho(z):=1/(2\pi|z|)$ とすると $A(\rho)=\frac1{4\pi^2}\cdot2\pi\log\frac Rr=\frac1{2\pi}\log\frac Rr$ である。$\gamma\in\Gamma^{\mathrm{sep}}_{r,R}$ は lem-el-winding により $n(\gamma,0)\neq0$ を満たし、回転数 の命題「積分による表示」により
$$\ell_\rho(\gamma)=\frac1{2\pi}\int_\alpha^\beta\frac{|\gamma'(t)|}{|\gamma(t)|}\,dt\geq\frac1{2\pi}\Bigl|\int_\alpha^\beta\frac{\gamma'(t)}{\gamma(t)}\,dt\Bigr|=|n(\gamma,0)|\geq1$$
である。よって $\lambda\geq1\big/\bigl(\frac1{2\pi}\log\frac Rr\bigr)$ である。上から:$r< t< R$ について円周 $\theta\mapsto te^{i\theta}$($0\leq\theta\leq2\pi$)は lem-el-winding により $\Gamma^{\mathrm{sep}}_{r,R}$ に属するので
$$L^2\leq\Bigl(\int_0^{2\pi}\rho(te^{i\theta})\,t\,d\theta\Bigr)^2\leq2\pi t\int_0^{2\pi}\rho(te^{i\theta})^2\,t\,d\theta$$
である。両辺を $2\pi t$ で割って $t$ について $r$ から $R$ まで積分すると $\frac{L^2}{2\pi}\log\frac Rr\leq A(\rho)$ である。$\square$

2 と 3 の値は互いに逆数である。2 の下からの評価で使った計量 $1/|z|$ と 3 の計量 $1/(2\pi|z|)$ は定数倍の違いしかなく、どちらも上限を実現する 極値的計量 である。長方形でも、定数の計量が上限を実現する。

等角同値の判定

円環の等角同値

$0< r_1< R_1$、$0< r_2< R_2$ とする。双正則写像 $A_{r_1,R_1}\to A_{r_2,R_2}$ が存在するための必要十分条件は $R_1/r_1=R_2/r_2$ である。

$R_1/r_1=R_2/r_2$ なら $z\mapsto(r_2/r_1)z$ が双正則写像である。逆に $f\colon A_{r_1,R_1}\to A_{r_2,R_2}$ を双正則写像とする。$\gamma\in\Gamma^{\mathrm{sep}}_{r_1,R_1}$ について、$f\circ\gamma$ が $A_{r_2,R_2}$ の中で定数の曲線とホモトピックなら、そのホモトピーに $f^{-1}$ を合成すると $\gamma$ も $A_{r_1,R_1}$ の中で定数の曲線とホモトピックになって矛盾する。よって $f(\Gamma^{\mathrm{sep}}_{r_1,R_1})\subset\Gamma^{\mathrm{sep}}_{r_2,R_2}$ であり、$f^{-1}$ についても同じなので等号が成り立つ。thm-el-conformal と thm-el-main の 3 により $2\pi/\log(R_1/r_1)=2\pi/\log(R_2/r_2)$、すなわち $R_1/r_1=R_2/r_2$ である。$\square$

単連結な領域 $\Omega\subsetneq\mathbb{C}$ はどれも単位円板と等角に同値である(等角写像 の定理「Riemann の写像定理」)のに対し、円環は比 $R/r$ という連続的な不変量をもち、互いに同値でないものが無数にある。極値的長さはこの不変量を、写像を具体的に作らずに読み取る道具である。

長方形の等角同値

$f\colon Q_{a,b}\to Q_{a',b'}$ を双正則写像とし、$f$ は閉長方形のあいだの同相写像 $F$ に延びて、左の辺 $\{0\}\times[0,b]$ を左の辺 $\{0\}\times[0,b']$ の上へ、右の辺を右の辺の上へ写すとする。このとき $a/b=a'/b'$ である。

閉長方形の点 $z$ の左の辺までの距離は $\operatorname{Re}z$ である。$F$ はコンパクトな閉長方形の上で一様連続なので、$\operatorname{Re}z\to0$ なら $F(z)$ の左の辺までの距離、すなわち $\operatorname{Re}F(z)$ も $0$ に近づく。右の辺についても同じなので、$f(\Gamma_{a,b})\subset\Gamma_{a',b'}$ であり、$F^{-1}$ についても同じ議論で等号が成り立つ。thm-el-conformal と thm-el-main の 1 による。$\square$

辺の対応の仮定は外せない(下の反例の表の 2 行目)。この系は、長方形を長方形へ頂点を頂点に写す等角写像が、相似な長方形のあいだにしかないことを言っている。

対数による円環と長方形の比較

$\exp$ は長方形 $Q':=\{x+iy\mid\log r< x<\log R,\ 0< y<2\pi\}$ を、円環 $A_{r,R}$ から正の実軸の部分を除いた領域 $A':=A_{r,R}\setminus(r,R)$ の上へ双正則に写す。$Q'$ の左右の辺を結ぶ曲線族($Q_{a,b}$ を $\log r$ だけ平行移動したもの、$a=\log(R/r)$、$b=2\pi$)の極値的長さは、平行移動も双正則写像なので thm-el-conformal と thm-el-main の 1 により $\frac1{2\pi}\log\frac Rr$ である。その像は、$A'$ の中で $|z|\to r$ から $|z|\to R$ へ向かう曲線の族 $\Gamma'$ である。$\Gamma'\subset\Gamma^{\mathrm{join}}_{r,R}$ なので prop-el-compare から $\lambda(\Gamma')\geq\lambda(\Gamma^{\mathrm{join}}_{r,R})$ であり、実際には thm-el-main の 2 と比べて両者は等しい。切れ目 $(r,R)$ に沿って曲線を除いても、極値的長さは変わらない。

仮定を外したときの反例

外す条件反例成り立たなくなること
thm-el-conformal の写像が正則であること実線形写像 $T(x+iy)=2x+iy$($Q_{1,1}$ から $Q_{2,1}$ への同相写像で、辺を対応する辺へ写す)$T(\Gamma_{1,1})=\Gamma_{2,1}$ だが、極値的長さは $1$ から $2$ に変わる
cor-el-rectangle の辺の対応$f(z)=iz+b$($Q_{a,b}$ から $Q_{b,a}$ への双正則写像、$a\neq b$)左右の辺が下と上の辺へ写り、$a/b\neq b/a$
thm-el-main の 3 で $\Gamma^{\mathrm{sep}}_{r,R}$ が定数の曲線とホモトピックでない閉曲線からなること$A_{r,R}$ の中のすべての閉曲線の族定数の曲線を含むので $L=0$ となり、極値的長さは $0$ で $2\pi/\log(R/r)$ と一致しない
反例の確かめ

1 行目:$T$ は $\operatorname{Re}$ を 2 倍し $\operatorname{Im}$ を保つので、$\operatorname{Re}\gamma\to0$、$\to1$ を $\operatorname{Re}T\gamma\to0$、$\to2$ に移し、$T(\Gamma_{1,1})=\Gamma_{2,1}$ である。値は thm-el-main の 1 による。2 行目:$z=x+iy$ について $iz+b=(b-y)+ix$ なので、$f$ は $Q_{a,b}$ を $Q_{b,a}$ の上へ写し、辺 $x=0$、$x=a$ を辺 $\operatorname{Im}w=0$、$\operatorname{Im}w=a$ へ写す。$f$ は閉長方形の同相写像に延びる。3 行目:定数の曲線 $\gamma$ は $\gamma'=0$ なので、どの計量でも $\ell_\rho(\gamma)=0$ である。

補足

AB50 §4 は、計量として $0$ 以上の関数を広く許す定義のもとで、極値的長さの基本性質を補題として挙げている。prop-el-compare のほか、互いに交わらない集合の上の 2 つの族 $\Gamma_1,\Gamma_2$ について、$\Gamma$ のどの曲線も $\Gamma_1$ の曲線と $\Gamma_2$ の曲線を含むなら $\lambda(\Gamma)\geq\lambda(\Gamma_1)+\lambda(\Gamma_2)$(直列則)、$\Gamma_1$ と $\Gamma_2$ の曲線がどれも $\Gamma$ に属するなら $1/\lambda(\Gamma)\geq1/\lambda(\Gamma_1)+1/\lambda(\Gamma_2)$(並列則)がそれである(AB50 §4 の Lemma 2、Lemma 3、p. 115。同所は定義からただちに従うとして証明を省いており、この記事でも証明しない)。直列則の証明では、2 つの族のための計量をそれぞれの集合の上で使い、外では $0$ とおいて貼り合わせるので、連続でない計量が必要になる。同心円環 $A_{r,s}$ と $A_{s,R}$ を合わせた円環 $A_{r,R}$ では、thm-el-main の 2 により $\frac1{2\pi}\log\frac Rr=\frac1{2\pi}\log\frac sr+\frac1{2\pi}\log\frac Rs$ となり、直列則の等号の場合になっている。
Koebeの1/4定理 の補足は、この直列則と円環の極値的長さを使う別証明の方針を述べている。

関連項目

参考文献

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