大域体

同義語:global field

概要

大域体(global field)とは、有理数体 $\mathbb{Q}$ の有限次拡大(代数体)か、有限体 $\mathbb{F}_p$ 上有限生成で超越次数 $1$ の体(大域関数体、すなわち $\mathbb{F}_p(t)$ の有限次拡大)のことである。大域関数体の定数体は有限体であり、有限素点は整数環の素イデアルと対応して、その完備化は局所体に、代数体の無限素点での完備化は $\mathbb{R}$ か $\mathbb{C}$ になる。正規化された絶対値はすべての素点にわたる積公式 $\prod_v\lvert x\rvert_v=1$ を満たし、関数体ではこれが、関数の零点と極の次数の和がどちらも拡大次数に等しいことに当たる。アデール環や類体論は、この局所と大域の対応の上に組み立てられる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 代数体, 有限体, 付値, 局所体, Dedekind整域

有理数体 $\mathbb{Q}$ と、有限体上の有理関数体 $\mathbb{F}_q(t)$ はよく似ている。整数環 $\mathbb{Z}$ と多項式環 $\mathbb{F}_q[t]$ はどちらも単項イデアル整域で、素数とモニックな既約多項式が対応し、その剰余環はどちらも有限体になる。大域体 は、この 2 つの体の有限次拡大をまとめて呼ぶ名前である。すなわち代数体と、有限体上の曲線の関数体である。
大域体では、すべての素点(絶対値の同値類)が具体的に分かり、各素点での完備化は $\mathbb{R}$、$\mathbb{C}$ か局所体になる。さらに、$0$ でない元の正規化された絶対値をすべての素点にわたって掛けると $1$ になる(積公式)。この 3 つの性質があるので、大域体の問題を各素点の局所体の問題に分けて調べ、また集め直すことができる。アデール環、類体論、Tate–Shafarevich群、四元数環の分類は、どれもこの枠組みの上に立っている。
この記事では、関数体の定数体が有限体であること、大域体の素点が整数環の素イデアルと対応して完備化が局所体になること、関数体の積公式を証明する。代数体の積公式は アデール環 の記事で証明されている。

定義

大域体

次のどちらかの体を 大域体(global field)という。

  1. 代数体:$\mathbb{Q}$ の有限次拡大体。
  2. 大域関数体:素数 $p$ について、$\mathbb{F}_p$ 上有限生成で超越次数が $1$ の拡大体。
    大域関数体 $K$ の中で $\mathbb{F}_p$ 上代数的な元全体のなす部分体を、$K$ の 定数体 という。

大域関数体の定数体は有限体であり、$K$ は定数体でない任意の元 $x$ について $\mathbb{F}_q(x)$ の有限次拡大になる(thm-gf-constant)。とくに大域関数体とは、ある $\mathbb{F}_p(t)$ の有限次拡大体のことと言ってもよい(thm-gf-constant の 3)。代数体の標数は $0$、大域関数体の標数は $p$ である。幾何学的には、定数体 $\mathbb{F}_q$ をもつ大域関数体 $K$ は、関数体が $K$ になる $\mathbb{F}_q$ 上の正規な射影曲線と、同型を除いて 1 対 1 に対応する(Liu06 Proposition 7.3.13、pp. 277–278。この記事では使わない)。

素点と完備化

体 $K$ の自明でない絶対値(付値 の記事の定義「体の絶対値」)の同値類を、$K$ の 素点(place)という。素点 $v$ は、その絶対値が非アルキメデス的なら 有限素点、アルキメデス的なら 無限素点 という。$v$ の絶対値についての $K$ の完備化を $K_v$ と書く。有限素点 $v$ の付値環を $\mathcal{O}_v$、極大イデアルを $\mathfrak{m}_v$、剰余体を $\kappa_v:=\mathcal{O}_v/\mathfrak{m}_v$ と書く。

同値な絶対値は同じ位相を定める(付値 の記事の定理「絶対値が同値であるための条件」)ので、完備化 $K_v$、付値環、剰余体は素点だけで決まる。有限素点の付値環は $\{x\in K\mid\lvert x\rvert_v\le1\}$ であり、付値環になる。

直感

$\mathbb{Q}$ の素点は、素数 $p$ ごとの $p$ 進絶対値と、通常の絶対値の 1 つだけである(p進数体 の記事の定理「Ostrowski の定理」)。$\mathbb{F}_q(t)$ の素点は、モニックな既約多項式 $P$ ごとの「$P$ で何回割れるか」を測る絶対値と、次数を測る絶対値 $v_\infty$ である(付値 の記事の定理「有理関数体の付値の分類」)。$v_\infty$ は $s=1/t$ についての $s$ 進付値で、射影直線 $\mathbb{P}^1$ の無限遠点にあたる。$\mathbb{Q}$ の通常の絶対値と違い、$v_\infty$ は非アルキメデス的で、ほかの素点と同じ種類の素点である。
関数体では「無限遠の素点」の選び方に根拠がない。$t$ の代わりに $1/t$ を変数に選べば、整数環 $\mathbb{F}_q[1/t]$ の素イデアルとして見える素点が入れ替わる。そこでこの記事では、定数でない元 $x$ を 1 つ選び、$\lvert x\rvert_v\le1$ の素点は $\mathbb{F}_q[x]$ 側、$\lvert x\rvert_v>1$ の素点は $\mathbb{F}_q[1/x]$ 側の素イデアルで記述する。積公式は、関数 $x$ の零点の個数と極の個数(重複度と次数をこめて)が等しいという、曲線の上の事実の言い換えになる。

定数体

大域関数体の定数体

$K$ を標数 $p$ の大域関数体とする。

  1. $K$ の定数体は有限体である。その元の個数を $q$ とし、定数体を $\mathbb{F}_q$ と書く。
  2. $x\in K$ が定数体に属さなければ、$x$ は $\mathbb{F}_p$ 上超越的であり、$K$ は $\mathbb{F}_q(x)$ の有限次拡大体である。
  3. 逆に、$\mathbb{F}_p(t)$($t$ は不定元)の有限次拡大体は大域関数体である。

要点:$\mathbb{F}_p$ は $\mathbb{F}_p(x)$ の中で代数的に閉じているので、定数 $\alpha$ の $\mathbb{F}_p$ 上の最小多項式は $\mathbb{F}_p(x)$ 上でも既約のままであり、$\alpha$ の次数は $[K:\mathbb{F}_p(x)]$ 以下になる。次数の上限がある代数的な元だけからなる体は有限体である。

詳しい証明を開く

2 の前半:定数体に属さない元は定義により $\mathbb{F}_p$ 上代数的でない。超越次数の加法性(超越次数 の記事の定理「超越次数の加法性」)により $1=\operatorname{trdeg}_{\mathbb{F}_p}K=\operatorname{trdeg}_{\mathbb{F}_p}\mathbb{F}_p(x)+\operatorname{trdeg}_{\mathbb{F}_p(x)}K=1+\operatorname{trdeg}_{\mathbb{F}_p(x)}K$ なので、$K$ は $\mathbb{F}_p(x)$ 上代数的である。$K$ は $\mathbb{F}_p$ 上有限生成なので $\mathbb{F}_p(x)$ 上も有限個の代数的な元で生成され、$n:=[K:\mathbb{F}_p(x)]$ は有限である。

1:超越次数が $1$ なので定数でない元 $x$ がある。まず $\mathbb{F}_p$ が $\mathbb{F}_p(x)$ の中で代数的に閉じていることを示す。$r=f(x)/g(x)\in\mathbb{F}_p(x)\setminus\mathbb{F}_p$($f,g\in\mathbb{F}_p[T]$、$g\ne0$)とすると、$x$ は多項式 $f(T)-r\,g(T)\in\mathbb{F}_p(r)[T]$ の根である。この多項式が $0$ なら各係数で $f_i=r\,g_i$ となり、$r\notin\mathbb{F}_p$ から $f_i=g_i=0$ がすべての $i$ で従って $g=0$ に反する。よって $x$ は $\mathbb{F}_p(r)$ 上代数的であり、$r$ が $\mathbb{F}_p$ 上代数的なら $x$ も代数的になって矛盾する。

次に定数 $\alpha$ の $\mathbb{F}_p$ 上の最小多項式 $g$ をとり、$h\in\mathbb{F}_p(x)[T]$ をその $\mathbb{F}_p(x)$ 上のモニックな既約因子とする。$h$ の係数は $g$ のいくつかの根の基本対称式なので $\mathbb{F}_p$ 上代数的であり、前段により $\mathbb{F}_p$ に属する。$g$ は $\mathbb{F}_p$ 上既約なので $h=g$ である。したがって $[\mathbb{F}_p(x)(\alpha):\mathbb{F}_p(x)]=\deg g$ であり、$\deg g\le n$ である。

こうして定数体 $k$ の元はすべて $\mathbb{F}_p$ 上の次数が $n$ 以下である。$k$ の有限部分体のうち $\mathbb{F}_p$ 上の次数が最大のもの $k_0$ をとる。$\alpha\in k$ について、有限体 $k_0(\alpha)$ は乗法群の生成元 $\beta$ による単拡大 $\mathbb{F}_p(\beta)$ なので(有限体 の記事の定理「有限体の乗法群の構造」)次数は $n$ 以下であり、最大性から $k_0(\alpha)=k_0$、すなわち $\alpha\in k_0$ である。よって $k=k_0$ は有限体である。

2 の後半:$\mathbb{F}_p(x)\subset\mathbb{F}_q(x)\subset K$ なので $[K:\mathbb{F}_q(x)]\le n$ である。

3:$\mathbb{F}_p(t)$ の有限次拡大体は $\mathbb{F}_p(t)$ 上有限個の元で生成されるので $\mathbb{F}_p$ 上有限生成であり、加法性から超越次数は $1$ である。$\square$

以下、大域関数体 $K$ の定数体を $\mathbb{F}_q$ と書く。代数体のときは $A:=\mathbb{Z}$、大域関数体のときは定数でない元 $x$ を 1 つ選んで $A:=\mathbb{F}_q[x]$ とおき、$A$ の $K$ における整閉包を $B$ と書く。$A$ の商体を $F$($\mathbb{Q}$ または $\mathbb{F}_q(x)$)、$n:=[K:F]$ とする。代数体では $B=\mathcal{O}_K$ は整数環である。

素点と完備化

整数環の性質
  1. $B$ は階数 $n$ の自由 $A$ 加群であり、商体が $K$ の Dedekind 整域である。
  2. $B$ の $0$ でない素イデアル $\mathfrak{P}$ について、$\mathfrak{p}:=\mathfrak{P}\cap A$ は $A$ の $0$ でない素イデアルであり、$B/\mathfrak{P}$ は有限体で、$[B/\mathfrak{P}:A/\mathfrak{p}]\le n$ である。

要点:整閉包の有限性で $B$ は有限 $A$ 加群になり、単項イデアル整域上の捩れのない加群なので自由である。$B/\mathfrak{p}B\cong(A/\mathfrak{p})^n$ の剰余体が $B/\mathfrak{P}$ である。

詳しい証明を開く

1:代数体では 整閉包の有限性 の系「単項イデアル整域の場合は自由加群」により $B$ は階数 $n$ の自由 $\mathbb{Z}$ 加群である。大域関数体では、thm-gf-constant の 2 により $K$ は $F=\mathbb{F}_q(x)$ の有限次拡大であり、$A=\mathbb{F}_q[x]$ は体 $\mathbb{F}_q$ 上有限生成な整域なので、整閉包の有限性 の定理「体上有限生成な整域の整閉包の有限性」により $B$ は有限 $A$ 加群である。$B$ は $K$ の部分環なので捩れをもたず、単項イデアル整域 の記事の定理「単項イデアル整域上の加群」の 4 により自由である。整閉包 の記事の命題「分母を払うことと正規化」の 1・2 により、任意の $y\in K$ に $ay\in B$ となる $0$ でない $a\in A$ があり、$B$ の商体は $K$ である。よって $B$ の $A$ 基底は $K$ の $F$ 基底であり、階数は $n$ である。$B$ が Dedekind 整域であることは Dedekind整域 の記事の定理「整閉包へのDedekind性の遺伝」による。

2:$0\ne b\in\mathfrak{P}$ は $A$ 上整なので、次数が最小のモニックな関係式 $b^m+a_{m-1}b^{m-1}+\cdots+a_0=0$($a_i\in A$)がある。$a_0=0$ なら整域で $b$ を約して次数が下がるので $a_0\ne0$ であり、$a_0\in bB\cap A\subset\mathfrak{p}$ である。$\mathfrak{p}$ は素イデアルなので、$A$ の素元で生成され、$A/\mathfrak{p}$ は有限体($\mathbb{F}_\ell$ か $\mathbb{F}_q[x]/(P)$)である。1 により $B/\mathfrak{p}B\cong(A/\mathfrak{p})^n$ は $A/\mathfrak{p}$ 上 $n$ 次元であり、$B/\mathfrak{P}$ はその商なので $A/\mathfrak{p}$ 上の次元が $n$ 以下の有限な整域、すなわち有限体である。$\square$

整数環を含む付値環

$B$ を体でない Dedekind 整域、$K$ をその商体とし、$\mathcal{O}\subsetneq K$ を $B$ を含む付値環とする。このとき $\mathfrak{P}:=\mathfrak{m}_{\mathcal{O}}\cap B$($\mathfrak{m}_{\mathcal{O}}$ は $\mathcal{O}$ の極大イデアル)は $B$ の $0$ でない素イデアルであり、$\mathcal{O}=B_{\mathfrak{P}}$ である。

要点:$B_{\mathfrak{P}}$ は離散付値環で、離散付値環を真に含む $K$ の部分環は $K$ だけである。

詳しい証明を開く

$\mathfrak{P}$ は素イデアル $\mathfrak{m}_{\mathcal{O}}$ の引き戻しなので素イデアルである。$\mathfrak{P}=0$ なら $B$ の $0$ でない元はすべて $\mathcal{O}$ の単元であり、$K=\operatorname{Frac}B\subset\mathcal{O}$ となって仮定に反する。$B\setminus\mathfrak{P}$ の元は $\mathfrak{m}_{\mathcal{O}}$ に入らないので $\mathcal{O}$ の単元であり、$B_{\mathfrak{P}}\subset\mathcal{O}$ である。Dedekind整域 の記事の定理「Noether整域におけるDedekind整域の特徴づけ」により $B_{\mathfrak{P}}$ は離散付値環なので、素元 $\pi$ をとると $K^\times$ の元は $u\pi^k$($u\in B_{\mathfrak{P}}^\times$、$k\in\mathbb{Z}$)と書ける(離散付値環 の記事の命題「離散付値環の基本構造」)。$\mathcal{O}$ が $B_{\mathfrak{P}}$ に入らない元 $u\pi^k$ を含むなら $k<0$ であり、$\pi^{-1}=(u\pi^k)\,u^{-1}\pi^{-k-1}\in\mathcal{O}$ となる。すると任意の $u'\pi^{k'}$ が $\mathcal{O}$ に入り $\mathcal{O}=K$ となって矛盾する。よって $\mathcal{O}=B_{\mathfrak{P}}$ である。$\square$

大域体の素点

$K$ を大域体とする。

  1. $K$ が代数体なら、有限素点 $v$ と $\mathcal{O}_K$ の $0$ でない素イデアル $\mathfrak{p}$ は、$\mathcal{O}_v=(\mathcal{O}_K)_{\mathfrak{p}}$ によって 1 対 1 に対応する。
  2. $K$ が大域関数体なら、素点はすべて有限素点である。定数でない $x\in K$ について、$\lvert x\rvert_v\le1$ となる素点 $v$ は $\mathbb{F}_q[x]$ の整閉包 $B$ の $0$ でない素イデアルと、$\lvert x\rvert_v>1$ となる素点は $\mathbb{F}_q[1/x]$ の整閉包 $B'$ の素イデアルのうち $1/x$ を含むもの(有限個)と、どちらも $\mathcal{O}_v=B_{\mathfrak{P}}$ の形で 1 対 1 に対応する。
  3. 有限素点 $v$ の付値環 $\mathcal{O}_v$ は離散付値環で、剰余体 $\kappa_v$ は有限体である。完備化 $K_v$ は局所体である。
  4. 代数体の無限素点は、実埋め込み $K\to\mathbb{R}$ と、複素共役で移り合う複素埋め込みの組に対応し、$K_v$ は $\mathbb{R}$ か $\mathbb{C}$ である。

1〜3 を証明する。4 はこの記事では証明しない。素点が埋め込みの共役類と対応することは Neu99 Chapter II, (8.1) Extension Theorem(pp. 161–162)を $\mathbb{Q}$ の通常の絶対値に当てはめれば得られ、完備化が $\mathbb{R}$ か $\mathbb{C}$ になることは同 (4.2) Theorem(Ostrowski、p. 124)にある。

要点:有限素点の付値環は整閉なので、$\mathbb{Z}$ または $\mathbb{F}_q[x]$($\lvert x\rvert_v>1$ なら $\mathbb{F}_q[1/x]$)を含めば整閉包 $B$ も含む。あとは lem-gf-valuation-ring と lem-gf-integral を当てる。

詳しい証明を開く

有限素点 $v$ の付値環 $\mathcal{O}_v$ は整閉である(付値環 の記事の命題「付値環は整閉」)。代数体では、非アルキメデス性から $\lvert1+\cdots+1\rvert_v\le1$ なので $\mathbb{Z}\subset\mathcal{O}_v$ であり、整閉性から $\mathcal{O}_K\subset\mathcal{O}_v$ である。大域関数体では、標数が正なので素点はすべて非アルキメデス的であり(付値 の記事の系「正標数の体と有限体」の 1)、$0$ でない定数 $c$ は $c^{q-1}=1$ を満たすので $\lvert c\rvert_v=1$ である。$\lvert x\rvert_v\le1$ なら $\mathbb{F}_q[x]\subset\mathcal{O}_v$、$\lvert x\rvert_v>1$ なら $\lvert1/x\rvert_v<1$ で $\mathbb{F}_q[1/x]\subset\mathcal{O}_v$ であり、整閉性からそれぞれ $B\subset\mathcal{O}_v$、$B'\subset\mathcal{O}_v$ となる。

どの場合も lem-gf-integral の 1 により整閉包は Dedekind 整域なので、lem-gf-valuation-ring により $\mathcal{O}_v=B_{\mathfrak{P}}$($\mathfrak{P}=\mathfrak{m}_v\cap B$)となる。$\lvert x\rvert_v>1$ の場合は $1/x\in\mathfrak{m}_v\cap B'$ である。逆に、$0$ でない素イデアル $\mathfrak{P}$ について $B_{\mathfrak{P}}$ は離散付値環で、その正規化された付値 $v_{\mathfrak{P}}$ から絶対値 $c^{-v_{\mathfrak{P}}(\cdot)}$($0< c< 1$)が定まり、その付値環は $B_{\mathfrak{P}}\supset B$ である。$1/x\in\mathfrak{P}\subset B'$ なら $\lvert1/x\rvert<1$ である。素点から $\mathfrak{P}=\mathfrak{m}_v\cap B$ が、$\mathfrak{P}$ から付値環 $B_{\mathfrak{P}}$ が決まり、付値 の記事の定理「絶対値が同値であるための条件」の 2 により付値環が同じ絶対値は同値なので、対応は 1 対 1 である。$1/x$ を含む素イデアルは、Dedekind 整域での $(1/x)B'$ の素イデアル分解に現れるものなので有限個である。これで 1・2 が示された。

3:$\mathcal{O}_v=B_{\mathfrak{P}}$ は離散付値環であり、剰余体は $B_{\mathfrak{P}}/\mathfrak{P}B_{\mathfrak{P}}\cong B/\mathfrak{P}$ で、lem-gf-integral の 2 により有限体である。完備化では付値が同じ値群のまま延び、付値環と剰余体は $\hat{\mathcal{O}}_v/\hat{\mathfrak{m}}_v\cong\mathcal{O}_v/\mathfrak{m}_v$ を満たす(Neu99 Chapter II, (4.3) Proposition、p. 126)。よって $K_v$ は離散付値について完備で剰余体が有限であり、局所体 の記事の定義「局所体」の 2 条件を満たす。$\square$

正規化された絶対値と素点の次数

有限素点 $v$ について、付値 $v\colon K^\times\to\mathbb{Z}$ を全射になるように正規化し、$N(v):=\lvert\kappa_v\rvert$ として
$$ \lvert x\rvert_v:=N(v)^{-v(x)}\qquad(\lvert0\rvert_v:=0) $$
を 正規化された絶対値 という。大域関数体では $\kappa_v$ は定数体 $\mathbb{F}_q$ を含み、$\deg v:=[\kappa_v:\mathbb{F}_q]$ を素点 $v$ の 次数 という。このとき $\lvert x\rvert_v=q^{-\deg v\cdot v(x)}$ である。代数体の無限素点では、実素点 $\sigma$ について $\lvert x\rvert_v:=\lvert\sigma(x)\rvert$、複素素点 $\{\sigma,\bar\sigma\}$ について $\lvert x\rvert_v:=\lvert\sigma(x)\rvert^2$ とおく。

代数体についてのこの正規化は アデール環 の記事の定義「素点と正規化された絶対値」と同じであり、thm-gf-places の 1 と 4 により、そこでの素点の一覧はこの記事の素点の全体と一致する。

積公式

関数体の基本等式

$K$ を大域関数体、$x\in K$ を定数でない元、$n:=[K:\mathbb{F}_q(x)]$ とし、$\pi$ を $\mathbb{F}_q[x]$ のモニックな既約多項式 $P$、または $1/x$ とする。$v(\pi)>0$ となる素点 $v$ は有限個 $v_1,\dots,v_g$ であり、$e_i:=v_i(\pi)$、$f_i:=[\kappa_{v_i}:\kappa_\pi]$($\kappa_\pi$ は $\pi=P$ なら $\mathbb{F}_q[x]/(P)$、$\pi=1/x$ なら $\mathbb{F}_q$)とおくと
$$ \sum_{i=1}^{g}e_if_i=n $$
が成り立つ。

要点:$v(\pi)>0$ の素点は、整閉包 $B$ の素イデアルで $\pi$ を含むものと対応する。$B/\pi B$ は $\kappa_\pi$ 上 $n$ 次元で、中国剰余定理により $B/\mathfrak{P}_i^{e_i}$ の積に分かれ、各因子の次元は $e_if_i$ である。

詳しい証明を開く

$\pi=P$ の場合を示す($\pi=1/x$ の場合は $x$ を $1/x$ に、$\mathbb{F}_q[x]$ を $\mathbb{F}_q[1/x]$ に替えて同じである)。$v(P)>0$ なら $\lvert x\rvert_v\le1$ である。実際 $\lvert x\rvert_v>1$ なら、$P$ の最高次の項の絶対値 $\lvert x\rvert_v^{\deg P}$ がほかの項より真に大きいので $\lvert P\rvert_v=\lvert x\rvert_v^{\deg P}>1$ となる。よって thm-gf-places の 2 により、$v(P)>0$ の素点は $B$ の素イデアル $\mathfrak{P}$ で $P\in\mathfrak{P}$ となるもの、すなわち $PB$ の素イデアル分解 $PB=\mathfrak{P}_1^{a_1}\cdots\mathfrak{P}_g^{a_g}$ に現れるものに対応し、有限個である。$B_{\mathfrak{P}_i}$ で局所化すると $PB_{\mathfrak{P}_i}=\mathfrak{P}_i^{a_i}B_{\mathfrak{P}_i}$ なので $a_i=v_i(P)=e_i$ である。

$\mathfrak{P}_i^{e_i}$ は対ごとに互いに素なので(両方を含む極大イデアルは $\mathfrak{P}_i=\mathfrak{P}_j$ を導く)、中国剰余定理 の記事の定理「可換環における中国剰余定理」により $B/PB\cong\prod_iB/\mathfrak{P}_i^{e_i}$ であり、これは $\kappa_P$ 上のベクトル空間の同型である。左辺は lem-gf-integral の 1 により $(\mathbb{F}_q[x]/(P))^n$ と同型で $n$ 次元である。右辺の各因子については、列 $B\supset\mathfrak{P}\supset\cdots\supset\mathfrak{P}^{e}$ の各段 $\mathfrak{P}^j/\mathfrak{P}^{j+1}$ が $B/\mathfrak{P}$ 上 1 次元である(間にあるイデアルは素イデアル分解の一意性から $\mathfrak{P}^j$ か $\mathfrak{P}^{j+1}$ だけ。代数体における素イデアルの分解 の補題「素イデアルの冪による剰余環」の証明は Dedekind 整域の性質しか使わない)。$B/\mathfrak{P}_i\cong\kappa_{v_i}$ なので $\dim_{\kappa_P}B/\mathfrak{P}_i^{e_i}=e_if_i$ であり、和をとれば $n=\sum_ie_if_i$ を得る。$\square$

積公式

$K$ を大域体、$x\in K^\times$ とする。有限個を除くすべての素点 $v$ で $\lvert x\rvert_v=1$ であり、
$$ \prod_v\lvert x\rvert_v=1 $$
が成り立つ。$K$ が大域関数体のとき、これは $\sum_v\deg v\cdot v(x)=0$ と同値であり、さらに $x$ が定数でなければ
$$ \sum_{v(x)>0}\deg v\cdot v(x)=\sum_{v(x)<0}\deg v\cdot\bigl(-v(x)\bigr)=[K:\mathbb{F}_q(x)] $$
である($x$ の零点の次数の和と極の次数の和は、どちらも拡大次数に等しい)。

代数体の場合は、正規化された素点の全体が アデール環 の記事の素点の一覧と一致するので(def-gf-normalized の直後)、同記事の定理「積公式」そのものである。
大域関数体の場合。$x$ が定数なら、thm-gf-places の証明で見たとおりすべての素点で $\lvert x\rvert_v=1$ である。$x$ が定数でないとし、$n:=[K:\mathbb{F}_q(x)]$ とおく。$v(x)>0$ となる素点は、thm-gf-fundamental で $\pi=x$(モニックな既約多項式)とした $v_1,\dots,v_g$ であり、$\kappa_x=\mathbb{F}_q[x]/(x)=\mathbb{F}_q$ なので $f_i=\deg v_i$、$e_i=v_i(x)$ である。よって $\sum_{v(x)>0}\deg v\cdot v(x)=n$ である。$v(x)<0$ となる素点は $v(1/x)>0$ となる素点なので、$\pi=1/x$ とした同じ定理から $\sum_{v(x)<0}\deg v\cdot(-v(x))=n$ である。どちらにも入らない素点では $v(x)=0$ であり、$v(x)\ne0$ となる素点は有限個である。2 つの式を引けば $\sum_v\deg v\cdot v(x)=0$ となり、$\prod_v\lvert x\rvert_v=q^{-\sum_v\deg v\cdot v(x)}=1$ を得る。$\square$

いたるところ整な元は定数

$K$ を大域関数体とする。$x\in K$ がすべての素点 $v$ で $\lvert x\rvert_v\le1$ を満たすなら、$x$ は定数である。とくに、定数でない元は少なくとも 1 つの極($v(x)<0$ となる素点)をもつ。

$x$ が定数でなければ、thm-gf-product-formula により極の次数の和は $[K:\mathbb{F}_q(x)]\ge1$ であり、$\lvert x\rvert_v>1$ となる素点がある。$\square$

代数体では、たとえば $2\in\mathbb{Q}$ はすべての有限素点で $\lvert2\rvert_v\le1$ を満たすが定数のような特別な元ではなく、無限素点の $\lvert2\rvert_\infty=2$ を加えて初めて積公式が閉じる。関数体では無限遠の素点もほかの素点と同じ種類の素点なので、cor-gf-constants のように「すべての素点で整」という条件が定数体を切り出す。

例

Gauss の数体での積公式

$K=\mathbb{Q}(i)$、$\mathcal{O}_K=\mathbb{Z}[i]$ とし、$x=1+2i$ をとる。無限素点は複素素点 1 つで、$\lvert x\rvert_\infty=\lvert1+2i\rvert^2=5$ である。$N_{K/\mathbb{Q}}(x)=5$ は素数なので、単項イデアル $\mathfrak{p}=(1+2i)$ は剰余環の元の個数が $5$ の素イデアルであり、$v_{\mathfrak{p}}(x)=1$、$\lvert x\rvert_{\mathfrak{p}}=5^{-1}$ である。$x\mathcal{O}_K=\mathfrak{p}$ なので、ほかの有限素点では $\lvert x\rvert_v=1$ である。積は $5\cdot5^{-1}=1$ になる。共役 $1-2i$ の生成する素イデアルは $\mathfrak{p}$ と異なる($(1-2i)/(1+2i)=(-3-4i)/5$ は $\mathbb{Z}[i]$ に入らない)ので、$x$ はそこでは絶対値 $1$ である。

$\mathbb{F}_q(t)$ の素点と積公式

$K=\mathbb{F}_q(t)$ の定数体は $\mathbb{F}_q$ であり(thm-gf-constant の証明の第 2 段の議論で $\mathbb{F}_p$ を $\mathbb{F}_q$ に替えればよい)、素点はモニックな既約多項式 $P$ ごとの $v_P$(次数 $\deg P$)と $v_\infty$(次数 $1$)である(付値 の記事の定理「有理関数体の付値の分類」と、thm-gf-places の 2 で $x=t$ としたもの)。$q=3$、$x=t^2+1$ とすると、$-1$ は $\mathbb{F}_3$ の平方でないので $t^2+1$ は既約で、$v_{t^2+1}(x)=1$、次数 $2$ である。$v_\infty(x)=-2$、次数 $1$ である。$\sum_v\deg v\cdot v(x)=2-2=0$ となり、thm-gf-product-formula と合う。

楕円曲線の関数体での零点と極

$K=\mathbb{F}_3(t)[y]/(y^2-(t^3-t))$ とする。$t^3-t$ は次数が奇数なので $\mathbb{F}_3(t)$ の平方でなく、$K$ は $\mathbb{F}_3(t)$ の 2 次拡大体である。定数体は $\mathbb{F}_3$ である(定数体を $\mathbb{F}_{3^k}$ とすると $\mathbb{F}_{3^k}(t)\subset K$ は $\mathbb{F}_3(t)$ 上 $k$ 次なので $k$ は $2$ を割る。$\mathbb{F}_9\subset K$ なら次数を比べて $K=\mathbb{F}_9(t)$ となり、$t^3-t=y^2$ が $\mathbb{F}_9(t)$ の元の平方になるが、分子と分母の次数の差の偶奇から不可能)。$x=t$ について $n=2$ である。$v(t)>0$ となる素点 $v$ では $t^2-1\equiv-1$ を法 $\mathfrak{m}_v$ で考えて $v(t^2-1)=0$ なので、$2v(y)=v(t)$ となり、$e=v(t)$ は偶数である。thm-gf-fundamental の $\sum e_if_i=2$ から、零点はただ 1 つで $e=2$、$f=1$(次数 $1$ の素点)である。同様に $v(1/t)>0$ の素点では $2v(y)=3v(t)+v(1-t^{-2})=3v(t)$ なので $v(t)$ は偶数で、極もただ 1 つで位数 $2$、次数 $1$ である。零点と極の次数の和はどちらも $2$ で、thm-gf-product-formula と合う。この体は種数 $1$ の曲線(楕円曲線)の関数体であり、2 次拡大で書ける関数体は 超楕円曲線 の記事でも扱う。

条件を外した反例

thm-gf-places の 3(剰余体が有限で、完備化が局所体になること)は、大域体の定義の条件を 1 つ外すと成り立たなくなる。

外す条件反例成り立たなくなること
有限生成$\mathbb{F}_p(t^{1/p^\infty}):=\bigcup_m\mathbb{F}_p(t^{1/p^m})$ と $t$ 進付値の延長値群が $\mathbb{Z}[1/p]$ で離散でない
超越次数 $1$$\mathbb{F}_p(s,t)=\mathbb{F}_p(s)(t)$ と $t$ 進付値剰余体 $\mathbb{F}_p(s)$ が無限
係数が有限体 $\mathbb{F}_p$$\overline{\mathbb{F}}_p(t)$ と $t$ 進付値剰余体 $\overline{\mathbb{F}}_p$ が無限
$\mathbb{Q}$ 上有限次$\overline{\mathbb{Q}}$ と $p$ 進絶対値の延長値群が $\mathbb{Q}$ を含み離散でない
反例:表の各行の確かめ

各行は左の列の条件だけを破っている。

確かめを開く

1 行目:$\mathbb{F}_p(t^{1/p^m})$ は $s_m=t^{1/p^m}$ の有理関数体で、$s_m$ 進付値を $p^m$ で割った $w_m$ は $w_m(t)=1$ を満たし、$w_{m+1}$ の $\mathbb{F}_p(s_m)$ への制限は $w_m$ である($s_m=s_{m+1}^p$)。合わせて $K$ 上の付値 $w$ が定まり $w(t^{1/p^m})=p^{-m}$ である。$K$ は $\mathbb{F}_p$ 上超越次数 $1$ だが有限生成でない(有限生成なら有限個の $s_m$ で生成され、$K=\mathbb{F}_p(s_M)$ となり $s_{M+1}$ が入らない)。値群 $\mathbb{Z}[1/p]$ は $\mathbb{R}$ で稠密で、離散付値でない。

2 行目:$\mathbb{F}_p(s,t)$ は $\mathbb{F}_p$ 上有限生成で超越次数 $2$ である。体 $\mathbb{F}_p(s)$ 上の有理関数体 $\mathbb{F}_p(s)(t)$ の $t$ 進付値の剰余体は $\mathbb{F}_p(s)$ で無限体である(付値 の記事の例「$p$ 進付値と有理関数の位数」と同じ計算)。

3 行目:$\overline{\mathbb{F}}_p(t)$ は $\overline{\mathbb{F}}_p$ 上有限生成で超越次数 $1$ だが、係数の体が有限体でない。$t$ 進付値の剰余体は $\overline{\mathbb{F}}_p$ で無限であり、局所体の定義の条件 1 を満たさない。

4 行目:$\overline{\mathbb{Q}}$ は $\mathbb{Q}$ の代数拡大で有限次でない。$\overline{\mathbb{Q}}$ を $\mathbb{Q}_p$ の代数閉包 $\overline{\mathbb{Q}}_p$ に埋め込み、$\mathbb{Q}_p$ の絶対値の $\overline{\mathbb{Q}}_p$ への延長(Neu99 Chapter II, (4.8) Theorem、p. 131)を制限すると、$\lvert p^{1/m}\rvert=p^{-1/m}$ なので値群は $\mathbb{Q}$ を含み、離散でない。

補足

文献と発展

大域体を $\mathbb{Q}$ と $\mathbb{F}_p(t)$ の有限次拡大として導入し、その完備化の付値が離散で剰余体が有限であることを局所体の定義の動機とする書き方は Neu99 Chapter II, §5(p. 134)にある。関数体の素点・因子・次数と、主因子の次数が $0$ であることは同 Chapter I, §14(pp. 94–96)に概略が述べられている(証明は書かれていない)。曲線の言葉では、射影曲線上の主因子の次数が $0$ であることが Liu06 Corollary 7.3.18(p. 279)にあり、thm-gf-product-formula の関数体の場合にあたる。代数体の積公式は Neu99 Chapter III, (1.3) Proposition(p. 185)にもある。この記事の定理は、引用した記事の定理と thm-gf-places の 4 を除いて記事の中で証明した。
大域体の上では、すべての素点での局所的な情報から大域的な情報を復元する原理(局所大域原理)が 四元数環 の分類や 2 次形式の理論に現れ、アデール環 と イデール を通じて 類体論 が組み立てられる。Tate–Shafarevich群 は、アーベル多様体の主等質空間についてこの原理がどれだけ破れるかを測る。

関連項目

参考文献

[1]
Jürgen Neukirch (translated by Norbert Schappacher), Algebraic Number Theory, Springer, Grundlehren der mathematischen Wissenschaften 322, 1999, Chapter II, (4.2) Theorem(Ostrowski、p. 124)、(4.3) Proposition(p. 126)、(4.8) Theorem(p. 131)、§5(p. 134)、(8.1) Extension Theorem(pp. 161–162);Chapter III, (1.3) Proposition(p. 185);Chapter I, §14(pp. 94–96)

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