積の微分とLeibnizの公式

同義語:積の微分法product rule and Leibniz formula

概要

積の微分とLeibnizの公式(product rule and Leibniz formula)とは、関数 $f$、$g$ が $x=a$ で微分可能なら積 $fg$ も $x=a$ で微分可能で $(fg)'=f'g+fg'$ となること(積の微分)と、$f$、$g$ が区間で $n$ 回微分可能なら $(fg)^{(n)}=\sum_{k=0}^n\binom nk f^{(n-k)}g^{(k)}$ となること(Leibniz の公式)である。係数が二項定理と同じになるのは、1 回微分するごとに $f$ と $g$ のどちらを微分するかを選ぶからである。3 つの積と冪の微分は積の微分から出て、商の微分は逆数の微分と積の微分から出る。多項式が $(x-a)^m$ で割り切れれば、$x=a$ で $m-1$ 階までの導関数が $0$ になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 微分係数と導関数の定義(高校数学), 二項定理と組合せの恒等式, 数学的帰納法, 極限とε-δ

高校での出発点:積の微分の公式

数学 III では、2 つの関数の積の導関数を
$$ \{f(x)g(x)\}'=f'(x)g(x)+f(x)g'(x) $$
で求める。これを積の微分(積の微分法)という。「積の導関数は導関数の積」ではないことに注意する。まず、展開してから微分した結果と比べて、公式の形を確かめる。

展開した結果と比べる

$f(x)=x^2+1$、$g(x)=x^3-2x$ とする。
展開してから微分する:$f(x)g(x)=x^5-2x^3+x^3-2x=x^5-x^3-2x$ なので
$$ \{f(x)g(x)\}'=5x^4-3x^2-2 $$
である。
積の微分を使う:$f'(x)=2x$、$g'(x)=3x^2-2$ なので
$$ \begin{aligned} f'(x)g(x)+f(x)g'(x)&=2x(x^3-2x)+(x^2+1)(3x^2-2)\\ &=(2x^4-4x^2)+(3x^4-2x^2+3x^2-2)\\ &=5x^4-3x^2-2 \end{aligned} $$
となり、一致する。$x=1$ ではどちらも $5-3-2=0$ である。
一方、導関数の積は $f'(x)g'(x)=2x(3x^2-2)=6x^3-4x$ で、$x=1$ では $2$ になる。正しい値 $0$ とは違う。

2 回微分すると係数 1, 2, 1 が出る

$y=x^2e^x$ を 2 回微分する。$(x^2)'=2x$、$(e^x)'=e^x$ なので、積の微分により
$$ y'=2x\cdot e^x+x^2\cdot e^x=(x^2+2x)e^x $$
である。これをもう一度、積の微分で微分する。$(x^2+2x)'=2x+2$ なので
$$ y''=(2x+2)e^x+(x^2+2x)e^x=(x^2+4x+2)e^x $$
である。
同じことを $f=x^2$、$g=e^x$ の記号で行う。$y'=f'g+fg'$ の 2 つの項をそれぞれ積の微分で微分すると
$$ y''=(f''g+f'g')+(f'g'+fg'')=f''g+2f'g'+fg'' $$
となる。$f''=2$、$f'=2x$、$f=x^2$、$g=g'=g''=e^x$ を入れると $2e^x+2\cdot2x\,e^x+x^2e^x=(x^2+4x+2)e^x$ で、上の結果と一致する。係数 $1,2,1$ は $(a+b)^2=a^2+2ab+b^2$ の係数と同じである。

この 2 つの例から、次の問いが出てくる。

  1. 積の微分の公式はなぜ成り立つのか。どんな仮定が要るのか。→ thm-plf-product、ex-plf-not-differentiable
  2. 3 つの積、冪、商の微分は、積の微分からどう出るのか。→ cor-plf-three、prop-plf-power、prop-plf-quotient
  3. $n$ 回微分したとき、係数はなぜ二項係数になるのか。→ thm-plf-leibniz、rem-plf-why-binomial
  4. $n$ 回微分の公式は何に使えるのか。→ ex-plf-x2ex、prop-plf-multiple-root
  5. 「積を微分すると 2 つの項に分かれる」という性質だけを取り出すと、何が言えるのか。→ prop-plf-derivation
    高校の計算この記事での見方ボックス
    $(fg)'=f'g+fg'$長方形の面積の増え方を 2 つの帯に分けるthm-plf-product
    $(fgh)'$、$\{f(x)^n\}'$、$(f/g)'$積の微分を繰り返す、逆数と組み合わせるcor-plf-three、prop-plf-power、prop-plf-quotient
    $(fg)''=f''g+2f'g'+fg''$Leibniz の公式(係数は二項係数)thm-plf-leibniz
    $x^2e^x$ の $n$ 回微分片方が多項式なら和は数項で終わるex-plf-x2ex
    重解では $f(a)=f'(a)=0$$m$ 重の解では $m-1$ 階まで $0$prop-plf-multiple-root
    積の微分の形だけを使う計算導分(derivation)def-plf-derivation、prop-plf-derivation

積の微分とその証明

長方形の面積で見る

$f(x)$ と $g(x)$ がどちらも正のとき、$f(x)g(x)$ は横 $f(x)$、縦 $g(x)$ の長方形の面積である。$x$ を $a$ から $a+h$ に変えると、横と縦が少しずつ伸び、面積は図1の青と赤の 2 つの帯の分だけ増える。
横 !FORMULA[52][37794][0]、縦 !FORMULA[53][37825][0] の長方形。!FORMULA[54][38352][0] が !FORMULA[55][37639][0] から !FORMULA[56][36181066][0] に変わると、面積は上の青い帯 !FORMULA[57][914830185][0] と右の赤い帯 !FORMULA[58][-838563149][0] の和だけ増えることを見る図。 横 $f$、縦 $g$ の長方形。$x$ が $a$ から $a+h$ に変わると、面積は上の青い帯 $f(a+h)\{g(a+h)-g(a)\}$ と右の赤い帯 $\{f(a+h)-f(a)\}g(a)$ の和だけ増えることを見る図。
式で書くと
$$ f(a+h)g(a+h)-f(a)g(a)=f(a+h)\{g(a+h)-g(a)\}+\{f(a+h)-f(a)\}g(a) $$
である。右辺を展開すると $f(a+h)g(a+h)-f(a+h)g(a)+f(a+h)g(a)-f(a)g(a)$ となり、真ん中の 2 項が打ち消し合って左辺になる。したがって、この等式は $f,g$ が正でなくても、どんな関数についても成り立つ。両辺を $h$ で割って $h\to0$ とすると、青い帯から $f(a)g'(a)$、赤い帯から $f'(a)g(a)$ が出てくる。これが積の微分の公式である。

定理と証明

前提とする事実

微分係数と導関数の定義(高校数学) で示した次の事実を使う。

  1. 関数 $f$ が $x=a$ で微分可能であるとは、極限 $\displaystyle f'(a)=\lim_{h\to0}\frac{f(a+h)-f(a)}h$ が存在することである。
  2. $f$ が $x=a$ で微分可能なら、$f$ は $x=a$ で連続である。つまり $\displaystyle\lim_{h\to0}f(a+h)=f(a)$ である。
  3. 定数倍と和の微分:$\{cf(x)\}'=cf'(x)$、$\{f(x)+g(x)\}'=f'(x)+g'(x)$。
    あわせて、極限(極限とε-δ) の和・積の規則(収束する 2 つの関数の和・積の極限は、極限の和・積)を使う。
積の微分

関数 $f$、$g$ が $x=a$ で微分可能なら、積 $fg$ も $x=a$ で微分可能で
$$ (fg)'(a)=f'(a)g(a)+f(a)g'(a) $$
である。$f$、$g$ が区間 $I$ の各点で微分可能なら、$I$ 上で $(fg)'=f'g+fg'$ である。

差を 2 つの帯に分けて $h$ で割る

方針:図1の等式を $h$ で割り、各項の極限を rem-plf-premises の事実で求める。
段 1(差を分ける)。$h\ne0$ とする。前の小節で確かめたとおり
$$ f(a+h)g(a+h)-f(a)g(a)=f(a+h)\{g(a+h)-g(a)\}+\{f(a+h)-f(a)\}g(a) $$
が成り立つ。
段 2($h$ で割る)。両辺を $h$ で割ると
$$ \frac{f(a+h)g(a+h)-f(a)g(a)}h=f(a+h)\cdot\frac{g(a+h)-g(a)}h+\frac{f(a+h)-f(a)}h\cdot g(a) $$
となる。
段 3(右辺の各部分の極限)。$h\to0$ のとき、

  • $f(a+h)\to f(a)$($f$ は $x=a$ で微分可能なので連続。rem-plf-premises の 2)、
  • $\dfrac{g(a+h)-g(a)}h\to g'(a)$($g$ は $x=a$ で微分可能)、
  • $\dfrac{f(a+h)-f(a)}h\to f'(a)$($f$ は $x=a$ で微分可能)、
  • $g(a)$ は $h$ によらない定数である。
    段 4(まとめる)。極限の積と和の規則により、段 2 の右辺は $f(a)g'(a)+f'(a)g(a)$ に収束する。よって左辺の極限も存在して同じ値になる。左辺は $fg$ の $x=a$ での平均変化率なので、$fg$ は $x=a$ で微分可能で、$(fg)'(a)=f'(a)g(a)+f(a)g'(a)$ である。区間の各点でこれを使えば、後半の主張になる。$\square$

段 3 で $f(a+h)\to f(a)$ を使ったところが大切である。ここで「微分可能なら連続」が効いている。この定理は Leb26 Proposition 4.1.8(p. 158)にあたり、同書では証明は Exercise 4.1.1(p. 160)として読者に任されている。

定理を数値で確かめる

$f(x)=x^2$、$g(x)=e^x$、$a=1$ とする。定理により
$$ (fg)'(1)=f'(1)g(1)+f(1)g'(1)=2\cdot e+1\cdot e=3e=8.15484\ldots $$
である。平均変化率 $\dfrac{(1+h)^2e^{1+h}-e}h$ を計算すると

$h$$0.1$$0.01$$0.001$
平均変化率$9.16759\ldots$$8.25057\ldots$$8.16436\ldots$

となり、$h$ を小さくすると $3e=8.15484\ldots$ に近づく。導関数の積 $f'(1)g'(1)=2e=5.43\ldots$ には近づかない。

積の微分を使う
  1. $(x\log x)'=1\cdot\log x+x\cdot\dfrac1x=\log x+1$($x>0$)。
  2. $(e^x\sin x)'=e^x\sin x+e^x\cos x=e^x(\sin x+\cos x)$。
  3. $\{(x-1)^2(x+2)\}'=2(x-1)(x+2)+(x-1)^2=(x-1)\{2(x+2)+(x-1)\}=(x-1)(3x+3)=3(x-1)(x+1)$。展開した $x^3-3x+2$ を微分しても $3x^2-3=3(x-1)(x+1)$ で一致する。3 では、展開せずに積の微分を使うと、導関数が因数分解された形で出てくる。増減表を作るときに便利である(関数の増減と極値)。

積の微分から出る公式

3 つの積と冪

3 つの関数の積

$f$、$g$、$h$ が $x=a$ で微分可能なら、$fgh$ も $x=a$ で微分可能で
$$ (fgh)'=f'gh+fg'h+fgh' $$
である(右辺はすべて $x=a$ での値)。

2 つの積に分けて 2 回使う

$fgh=(fg)\cdot h$ とみる。thm-plf-product により $fg$ は $x=a$ で微分可能で $(fg)'=f'g+fg'$ である。$fg$ と $h$ に thm-plf-product をもう一度使うと
$$ (fgh)'=(fg)'h+(fg)h'=(f'g+fg')h+fgh'=f'gh+fg'h+fgh' $$
となる。$\square$

1 つの項では 3 つの因数のうち 1 つだけが微分されていて、どれを微分するかの選び方が 3 通りある。$n$ 個の積でも同じで、「1 つだけを微分した積」を $n$ 通り足したものになる。

関数の自然数乗の導関数

$f$ が $x=a$ で微分可能なら、正の整数 $n$ について $f^n$ も $x=a$ で微分可能で
$$ (f^n)'=nf^{n-1}f' $$
である($f^0=1$ とする)。特に $f(x)=x$ とすると $(x^n)'=nx^{n-1}$ である。

$n$ についての数学的帰納法

方針:$f^{n+1}=f^n\cdot f$ と分けて積の微分を使い、$n$ について数学的帰納法で示す。
段 1($n=1$)。$f^1=f$ で、右辺は $1\cdot f^0\cdot f'=f'$ なので成り立つ。
段 2($n$ から $n+1$ へ)。$n$ で成り立つとする。$f^{n+1}=f^n\cdot f$ で、仮定により $f^n$ は $x=a$ で微分可能なので、thm-plf-product により
$$ (f^{n+1})'=(f^n)'f+f^nf'=nf^{n-1}f'\cdot f+f^nf'=nf^nf'+f^nf'=(n+1)f^nf' $$
となる。これは $n+1$ のときの式である。
段 3(結論)。段 1・段 2 と数学的帰納法により、すべての正の整数 $n$ で成り立つ。$f(x)=x$ なら $f'=1$ なので $(x^n)'=nx^{n-1}$ である。$\square$

$(x^n)'=nx^{n-1}$ は 微分係数と導関数の定義(高校数学) では二項定理で $(x+h)^n$ を展開して示した。ここでは展開を使わず、積の微分だけから出した。$(f^n)'=nf^{n-1}f'$ は、連鎖律(高校数学) の特別な場合(外側の関数が $u^n$)でもある。

冪の微分を使う
  1. $\{(x^2+1)^3\}'=3(x^2+1)^2\cdot2x=6x(x^2+1)^2$。展開した $x^6+3x^4+3x^2+1$ を微分すると $6x^5+12x^3+6x=6x(x^4+2x^2+1)=6x(x^2+1)^2$ で一致する。
  2. $(\sin^2x)'=2\sin x\cos x$。これは $\sin2x$ に等しい。

商の微分

商の微分

$f$、$g$ が $x=a$ で微分可能で、$g(a)\ne0$ とする。このとき $\dfrac fg$ は $x=a$ で微分可能で
$$ \Bigl(\frac fg\Bigr)'(a)=\frac{f'(a)g(a)-f(a)g'(a)}{g(a)^2} $$
である。特に $\Bigl(\dfrac1g\Bigr)'(a)=-\dfrac{g'(a)}{g(a)^2}$ である。

逆数の微分を定義から出し、積の微分と組み合わせる

方針:先に $\frac1g$ の微分を定義から求め、$\frac fg=f\cdot\frac1g$ に積の微分を使う。
段 1($a$ の近くで $g\ne0$)。$g$ は $x=a$ で微分可能なので連続である(rem-plf-premises の 2)。$g(a)\ne0$ なので、$h$ が $0$ に十分近ければ $g(a+h)$ は $g(a)$ に近く、$g(a+h)\ne0$ である。以下、そのような $h\ne0$ だけを考える。
段 2(逆数の平均変化率)。通分すると
$$ \frac1h\Bigl(\frac1{g(a+h)}-\frac1{g(a)}\Bigr)=\frac1h\cdot\frac{g(a)-g(a+h)}{g(a+h)g(a)}=-\frac{g(a+h)-g(a)}h\cdot\frac1{g(a+h)g(a)} $$
である。
段 3(極限)。$h\to0$ のとき $\dfrac{g(a+h)-g(a)}h\to g'(a)$、$g(a+h)\to g(a)$ なので、右辺は $-\dfrac{g'(a)}{g(a)^2}$ に収束する。よって $\frac1g$ は $x=a$ で微分可能で、$\Bigl(\dfrac1g\Bigr)'(a)=-\dfrac{g'(a)}{g(a)^2}$ である。
段 4(積の微分)。$\frac fg=f\cdot\frac1g$ に thm-plf-product を使うと
$$ \Bigl(\frac fg\Bigr)'(a)=f'(a)\cdot\frac1{g(a)}+f(a)\cdot\Bigl(-\frac{g'(a)}{g(a)^2}\Bigr)=\frac{f'(a)g(a)-f(a)g'(a)}{g(a)^2} $$
となる。$\square$

商の微分を使う
  1. $\Bigl(\dfrac{x^2+1}{x-1}\Bigr)'=\dfrac{2x(x-1)-(x^2+1)\cdot1}{(x-1)^2}=\dfrac{x^2-2x-1}{(x-1)^2}$($x\ne1$)。
  2. $(\tan x)'=\Bigl(\dfrac{\sin x}{\cos x}\Bigr)'=\dfrac{\cos x\cdot\cos x-\sin x\cdot(-\sin x)}{\cos^2x}=\dfrac1{\cos^2x}$($\cos x\ne0$)。
  3. $\Bigl(\dfrac1{x^n}\Bigr)'=-\dfrac{nx^{n-1}}{x^{2n}}=-\dfrac n{x^{n+1}}$($x\ne0$、$n$ は正の整数)。つまり $(x^{-n})'=-nx^{-n-1}$ で、$(x^m)'=mx^{m-1}$ は負の整数 $m$ でも成り立つ。

Leibniz の公式:$n$ 回微分の係数は二項係数

$n$ 階導関数

$n$ 階導関数

関数 $f$ の導関数 $f'$ がさらに微分可能なとき、その導関数 $(f')'$ を $f''$ と書き、第 2 次導関数(2 階導関数)という。同じように、微分を $n$ 回くり返して得られる関数を $f^{(n)}$ と書き、第 $n$ 次導関数($n$ 階導関数)という。$f^{(0)}=f$、$f^{(1)}=f'$、$f^{(2)}=f''$ とする。区間 $I$ の各点で $f^{(n)}$ が存在するとき、$f$ は $I$ で $n$ 回微分可能 であるという。

$n$ 階導関数を計算する
  1. $f(x)=x^3$:$f'=3x^2$、$f''=6x$、$f'''=6$、$f^{(4)}=0$。$k\ge4$ では $f^{(k)}=0$ である。
  2. $f(x)=e^{2x}$:$f'=2e^{2x}$、$f''=4e^{2x}$ で、一般に $f^{(n)}=2^ne^{2x}$。
  3. $f(x)=\sin x$:$f'=\cos x$、$f''=-\sin x$、$f'''=-\cos x$、$f^{(4)}=\sin x$ で、4 回ごとに元に戻る。

3 回微分してみる

ex-plf-start-second では $(fg)''=f''g+2f'g'+fg''$ を得た。もう一度微分する。各項に積の微分を使うと
$$ \begin{aligned} (f''g)'&=f'''g+f''g',\\ (2f'g')'&=2f''g'+2f'g'',\\ (fg'')'&=f'g''+fg''' \end{aligned} $$
である。これらを足して同じ形の項をまとめると
$$ (fg)'''=f'''g+3f''g'+3f'g''+fg''' $$
となる。係数 $1,3,3,1$ は $(a+b)^3=a^3+3a^2b+3ab^2+b^3$ の係数と同じである。
図2は、この計算を木の形で描いたものである。積を 1 回微分するごとに、項は「$f$ を微分した項」と「$g$ を微分した項」の 2 つに分かれる。3 回微分すると $2^3=8$ 個の項ができ、そのうち $g$ がちょうど $k$ 回微分された項は、3 回のうちどの $k$ 回で $g$ を選ぶかの数、すなわち $\binom3k$ 個ある。
積 !FORMULA[281][1173727][0] を 3 回微分するときの木。1 回ごとに「!FORMULA[282][37794][0] を微分」か「!FORMULA[283][37825][0] を微分」かを選ぶ。葉(最下段)のうち !FORMULA[284][37825][0] が !FORMULA[285][37949][0] 回微分されたものが !FORMULA[286][-611260929][0] 個(!FORMULA[287][1192582648][0] で !FORMULA[288][752250372][0] 個)あることを見る図。 積 $fg$ を 3 回微分するときの木。1 回ごとに「$f$ を微分」か「$g$ を微分」かを選ぶ。葉(最下段)のうち $g$ が $k$ 回微分されたものが $\binom3k$ 個($k=0,1,2,3$ で $1,3,3,1$ 個)あることを見る図。

定理と証明

二項係数 $\binom nk=\dfrac{n!}{k!\,(n-k)!}$($0\le k\le n$)については、二項定理と組合せの恒等式 で示した次の Pascal の関係を使う。$1\le k\le n$ のとき
$$ \binom n{k-1}+\binom nk=\binom{n+1}k $$
である。また $\binom n0=\binom nn=1$ である。

Leibniz の公式

$f$、$g$ が区間 $I$ で $n$ 回微分可能なら、積 $fg$ も $I$ で $n$ 回微分可能で
$$ (fg)^{(n)}=\sum_{k=0}^n\binom nk f^{(n-k)}g^{(k)}=f^{(n)}g+\binom n1f^{(n-1)}g'+\binom n2f^{(n-2)}g''+\cdots+fg^{(n)} $$
である。

$n$ についての数学的帰納法

方針:$n$ で成り立つ式の各項を積の微分で微分し、同じ形の項をまとめると、Pascal の関係で $n+1$ の式になる。
段 1($n=1$)。右辺は $\binom10f'g+\binom11fg'=f'g+fg'$ で、thm-plf-product そのものである。
段 2($n$ から $n+1$ へ:各項を微分する)。$f$、$g$ が $I$ で $n+1$ 回微分可能だとし、$n$ で式が成り立つとする。$0\le k\le n$ について $f^{(n-k)}$ と $g^{(k)}$ はどちらも $I$ でもう 1 回微分可能である($f^{(n-k)}$ の導関数は $f^{(n-k+1)}$ で、$n-k+1\le n+1$。$g$ も同様)。よって thm-plf-product により
$$ \bigl(f^{(n-k)}g^{(k)}\bigr)'=f^{(n-k+1)}g^{(k)}+f^{(n-k)}g^{(k+1)} $$
であり、$(fg)^{(n)}$ は微分可能で
$$ (fg)^{(n+1)}=\sum_{k=0}^n\binom nk f^{(n+1-k)}g^{(k)}+\sum_{k=0}^n\binom nk f^{(n-k)}g^{(k+1)} $$
となる。
段 3(2 つ目の和の番号をずらす)。2 つ目の和で $j=k+1$ とおくと、$j$ は $1$ から $n+1$ まで動き、$n-k=n+1-j$ なので
$$ \sum_{k=0}^n\binom nk f^{(n-k)}g^{(k+1)}=\sum_{j=1}^{n+1}\binom n{j-1}f^{(n+1-j)}g^{(j)} $$
である。文字 $j$ を $k$ に書き直すと、2 つの和はどちらも $f^{(n+1-k)}g^{(k)}$ の形の項の和になる。
段 4(同じ形の項をまとめる)。$f^{(n+1-k)}g^{(k)}$ の係数を $k$ ごとに見る。

  • $k=0$:1 つ目の和にだけ現れ、係数は $\binom n0=1=\binom{n+1}0$。
  • $1\le k\le n$:両方の和に現れ、係数は $\binom nk+\binom n{k-1}=\binom{n+1}k$(Pascal の関係)。
  • $k=n+1$:2 つ目の和にだけ現れ、係数は $\binom nn=1=\binom{n+1}{n+1}$。
    したがって
    $$ (fg)^{(n+1)}=\sum_{k=0}^{n+1}\binom{n+1}k f^{(n+1-k)}g^{(k)} $$
    で、これは $n+1$ のときの式である。
    段 5(結論)。段 1・段 2〜4 と数学的帰納法により、すべての正の整数 $n$ で成り立つ。$\square$

この証明は、二項定理と組合せの恒等式 の二項定理の帰納法による証明と、段ごとにまったく同じ形をしている。二項定理では $(a+b)^{n+1}=(a+b)^n(a+b)$ と掛けて「$a$ を掛けた項」と「$b$ を掛けた項」に分け、ここでは微分して「$f$ を微分した項」と「$g$ を微分した項」に分けた。

二項定理と並べる

2 つの式を並べると、対応がはっきりする。

二項定理Leibniz の公式
$(a+b)^n=\displaystyle\sum_{k=0}^n\binom nk a^{n-k}b^k$$(fg)^{(n)}=\displaystyle\sum_{k=0}^n\binom nk f^{(n-k)}g^{(k)}$
$a$ の指数と $b$ の指数の和が $n$$f$ を微分する回数と $g$ を微分する回数の和が $n$
$n$ 個の因数 $(a+b)$ のそれぞれから $a$ か $b$ を選ぶ$n$ 回の微分のそれぞれで $f$ か $g$ を選ぶ(図2)
$ab=ba$ なので、選んだ順序によらず $a^{n-k}b^k$微分の順序によらず $f^{(n-k)}g^{(k)}$

二項係数が出るのは、どちらも「$n$ 回の 2 択のうち、どの $k$ 回で 2 つ目を選ぶか」を数えているからである。違いは、二項定理の $a^{n-k}$ が「$a$ を $n-k$ 個掛けたもの」、Leibniz の公式の $f^{(n-k)}$ が「$f$ を $n-k$ 回微分したもの」であることだけである。

Leibniz の公式を使う

片方の関数が多項式なら、それを何回も微分すると $0$ になるので、和は数項で終わる。

$x^2e^x$ の $n$ 回微分

$y=x^2e^x$ の第 $n$ 次導関数を求める($n\ge2$)。$f=x^2$、$g=e^x$ とすると、$f'=2x$、$f''=2$、$k\ge3$ で $f^{(k)}=0$、また $g^{(k)}=e^x$ である。Leibniz の公式は $g$ を先、$f$ を後に書いても同じ($fg=gf$ なので、$\sum\binom nkg^{(n-k)}f^{(k)}$ としてよい)ので
$$ \begin{aligned} (x^2e^x)^{(n)}&=\binom n0e^x\cdot x^2+\binom n1e^x\cdot2x+\binom n2e^x\cdot2\\ &=e^x\bigl(x^2+2nx+n(n-1)\bigr) \end{aligned} $$
となる($\binom n2\cdot2=n(n-1)$)。$f^{(3)}$ 以降が $0$ なので、残りの項はすべて消えた。
確かめ:$n=2$ では $e^x(x^2+4x+2)$ で、ex-plf-start-second と一致する。$n=1$ でも $e^x(x^2+2x)$ となり、$y'$ と一致する。$x=0$ では $(x^2e^x)^{(n)}\big|_{x=0}=n(n-1)$ で、たとえば $n=5$ なら $20$ である。

もう 2 つの例
  1. $(xe^{2x})^{(n)}$:$f=x$($f'=1$、$f''=0$)、$g=e^{2x}$($g^{(k)}=2^ke^{2x}$)として
    $$ (xe^{2x})^{(n)}=\binom n0 2^ne^{2x}\cdot x+\binom n12^{n-1}e^{2x}\cdot1=2^{n-1}e^{2x}(2x+n). $$
    $n=1$ では $e^{2x}(2x+1)$ で、積の微分 $e^{2x}+2xe^{2x}$ と一致する。
  2. $(x^3\cdot x^3)'''$ を 2 通りに計算する。直接には $(x^6)'''=6\cdot5\cdot4\,x^3=120x^3$ である。Leibniz の公式では、$(x^3)^{(j)}=\dfrac{3!}{(3-j)!}x^{3-j}$($0\le j\le3$)を使って
    $$ \sum_{k=0}^3\binom3k\frac{3!}{k!}x^k\cdot\frac{3!}{(3-k)!}x^{3-k}=3!\,x^3\sum_{k=0}^3\binom3k^2=6x^3(1+9+9+1)=120x^3 $$
    となり一致する。一般に $(x^n\cdot x^n)^{(n)}$ を同じように 2 通りに計算すると、$\displaystyle\sum_{k=0}^n\binom nk^2=\binom{2n}n$ が得られる。これは 二項定理と組合せの恒等式 の Vandermonde の恒等式の特別な場合である。

$x=0$ での値 $n(n-1)$ は、関数の近似とテイラー展開 の見方とも合う。$x^2e^x=x^2\bigl(1+x+\frac{x^2}{2!}+\cdots\bigr)$ の $x^n$ の係数は $\frac1{(n-2)!}$ で、これに $n!$ を掛けると $n(n-1)$ になる。

応用:重なった解を導関数で見分ける

剰余の定理と因数定理 では、多項式 $f$ が $(x-a)^2$ で割り切れること($a$ が重解であること)と、$f(a)=f'(a)=0$ が同値であることを示した。Leibniz の公式を使うと、3 重・4 重の場合も同じように扱える。

重なった因数と高階導関数

$m$ を正の整数とし、多項式 $f$ が $f(x)=(x-a)^mq(x)$($q$ は多項式)と書けるとする。このとき
$$ f(a)=f'(a)=\cdots=f^{(m-1)}(a)=0,\qquad f^{(m)}(a)=m!\,q(a) $$
である。

Leibniz の公式で $x=a$ の値を見る

方針:$(x-a)^m$ の導関数は $x=a$ でほとんど $0$ になることを確かめ、Leibniz の公式に入れる。
段 1($(x-a)^m$ の導関数)。$u(x)=(x-a)^m$ とおく。prop-plf-power をくり返し使うと、$0\le j\le m$ で
$$ u^{(j)}(x)=m(m-1)\cdots(m-j+1)(x-a)^{m-j}=\frac{m!}{(m-j)!}(x-a)^{m-j} $$
であり、$j>m$ では $u^{(j)}=0$ である($u^{(m)}=m!$ は定数だから)。$x=a$ を代入すると、$j< m$ では $(x-a)^{m-j}$ の指数が正なので $u^{(j)}(a)=0$、$j=m$ では $u^{(m)}(a)=m!$、$j>m$ では $0$ である。つまり $u^{(j)}(a)$ が $0$ でないのは $j=m$ のときだけである。
段 2(Leibniz の公式)。$0\le k\le m$ とする。多項式は何回でも微分可能なので、thm-plf-leibniz により
$$ f^{(k)}(a)=\sum_{j=0}^k\binom kj u^{(j)}(a)\,q^{(k-j)}(a) $$
である($k=0$ のときは $f(a)=u(a)q(a)$)。
段 3($k< m$ のとき)。和の $j$ は $0$ から $k$ までで、$k< m$ なので $j=m$ は現れない。段 1 よりすべての項が $0$ で、$f^{(k)}(a)=0$ である。
段 4($k=m$ のとき)。和の中で $0$ でないのは $j=m$ の項だけで、それは $\binom mm u^{(m)}(a)q^{(0)}(a)=m!\,q(a)$ である。$\square$

重なった解を確かめる
  1. $f(x)=x^3-3x-2=(x+1)^2(x-2)$、$a=-1$、$m=2$、$q(x)=x-2$。命題から $f(-1)=f'(-1)=0$、$f''(-1)=2!\,q(-1)=2\cdot(-3)=-6$ である。直接には $f'(x)=3x^2-3$、$f''(x)=6x$ で、$f'(-1)=0$、$f''(-1)=-6$ と一致する。
  2. $f(x)=(x-1)^3(x+2)=x^4-x^3-3x^2+5x-2$、$a=1$、$m=3$、$q(x)=x+2$。命題から $f(1)=f'(1)=f''(1)=0$、$f'''(1)=3!\cdot3=18$ である。直接には $f'(x)=4x^3-3x^2-6x+5$、$f''(x)=12x^2-6x-6$、$f'''(x)=24x-6$ で、$f'(1)=4-3-6+5=0$、$f''(1)=12-6-6=0$、$f'''(1)=18$ と一致する。
逆も成り立つ

逆に、多項式 $f$ が $f(a)=f'(a)=\cdots=f^{(m-1)}(a)=0$ を満たせば、$f$ は $(x-a)^m$ で割り切れる。理由を 3 段で述べる。
段 1。$f(x)$ に $x=(x-a)+a$ を代入して二項定理で展開し、$x-a$ の冪ごとにまとめると、$f(x)=c_0+c_1(x-a)+\cdots+c_d(x-a)^d$($d$ は $f$ の次数、$c_k$ は定数)と書ける。
段 2。これを $k$ 回微分して $x=a$ を代入すると、prop-plf-multiple-root の証明の段 1 と同じ理由で $(x-a)^k$ の項だけが残り、$f^{(k)}(a)=k!\,c_k$ となる(この計算は 関数の近似とテイラー展開 の冒頭にもある)。
段 3。仮定から $c_0=c_1=\cdots=c_{m-1}=0$ なので、$f(x)=(x-a)^m\bigl(c_m+c_{m+1}(x-a)+\cdots+c_d(x-a)^{d-m}\bigr)$ となり、$(x-a)^m$ で割り切れる($d< m$ なら、すべての $c_k$ が $0$ なので $f=0$ で、やはり割り切れる)。
$m=2$ の場合は、剰余の定理と因数定理 で割り算の余りを使って別の方法で示している。

例と反例:どの仮定が効いているか

外した仮定崩れる主張ボックス
$g$ が $x=a$ で微分可能積 $fg$ は $x=a$ で微分可能(thm-plf-product)ex-plf-not-differentiable
$g(a)\ne0$商 $\frac fg$ は $x=a$ で微分可能(prop-plf-quotient)ex-plf-quotient-zero
$f$ が $n$ 回微分可能積 $fg$ は $n$ 回微分可能で、Leibniz の式で表せる(thm-plf-leibniz)ex-plf-not-twice

どの定理も「仮定を満たせば結論が成り立つ」という十分条件の形をしている。仮定を満たさなくても結論が成り立つことはある。それは表の後の ex-plf-sufficient-only で見る。

反例:片方が微分できない点

$f(x)=x+1$、$g(x)=|x|$、$a=0$ とする。$f$ は微分可能だが、$g$ は $x=0$ で微分可能でない。積 $F(x)=(x+1)|x|$ の $x=0$ での平均変化率は、$F(0)=0$ なので
$$ \frac{F(h)-F(0)}h=\frac{(h+1)|h|}h=\begin{cases}h+1&(h>0)\\-(h+1)&(h<0)\end{cases} $$
である。$h\to0$ のとき、右からは $1$、左からは $-1$ に近づくので、極限は存在しない。よって $F$ は $x=0$ で微分可能でない。積の微分の式に形式的に入れようとしても、$g'(0)$ がないので右辺が作れない。

反例:分母が 0 になる点

$f(x)=1$、$g(x)=x$、$a=0$ とする。$f$、$g$ はどちらも $x=0$ で微分可能だが、$g(0)=0$ である。$\frac fg=\frac1x$ は $x=0$ で値をもたないので、$x=0$ で微分可能ではない。$x=0$ の近くでは $\frac1x$ の値は、$x=0.01$ で $100$、$x=-0.01$ で $-100$ のように、いくらでも大きく、また小さくなる。

反例:2 回は微分できない関数

$f(x)=x|x|$、$g(x)=x+1$ とし、$n=2$、$x=0$ を考える。
段 1($f$ は 1 回微分可能)。$x>0$ では $f(x)=x^2$ で $f'(x)=2x$、$x<0$ では $f(x)=-x^2$ で $f'(x)=-2x$ である。$x=0$ では $\dfrac{f(h)-f(0)}h=\dfrac{h|h|}h=|h|\to0$ なので $f'(0)=0$ である。まとめると $f'(x)=2|x|$ である。
段 2($f$ は 2 回は微分できない)。$f'(x)=2|x|$ は $x=0$ で微分可能でない(ex-plf-not-differentiable と同じく、右からの平均変化率は $2$、左からは $-2$)。よって $f''(0)$ は存在せず、Leibniz の公式の右辺の $f''g$ が作れない。
段 3(積も 2 回は微分できない)。$F(x)=f(x)g(x)=x|x|(x+1)$ とする。$x>0$ では $F=x^3+x^2$、$x<0$ では $F=-x^3-x^2$ である。段 1 と同じ計算で $F'(x)=|x|(3x+2)$ となる($x>0$ で $x(3x+2)=3x^2+2x$、$x<0$ で $-x(3x+2)=-3x^2-2x$、$x=0$ で $0$)。$F'$ の $x=0$ での平均変化率は $\dfrac{|h|(3h+2)}h$ で、右からは $2$、左からは $-2$ に近づく。よって $F''(0)$ は存在しない。

仮定を満たさなくても積が微分可能なことがある
  1. $f(x)=x$、$g(x)=|x|$ とする。$g$ は $x=0$ で微分可能でないが、$F(x)=x|x|$ は ex-plf-not-twice の段 1 のとおり $x=0$ で微分可能で、$F'(0)=0$ である。
  2. $g(x)=\sin\dfrac1x$($x\ne0$)、$g(0)=0$ とする。$g$ は $x=0$ で連続でもない($x=\dfrac1{(2k+\frac12)\pi}$ では $g=1$、$x=\dfrac1{2k\pi}$ では $g=0$ で、$k$ を大きくするとどちらの $x$ も $0$ に近づく)ので、微分可能でない。しかし $F(x)=x^2g(x)$ は $x=0$ で微分可能で $F'(0)=0$ である。実際 $h\ne0$ で $\Bigl|\dfrac{F(h)-F(0)}h\Bigr|=\Bigl|h\sin\dfrac1h\Bigr|\le|h|$ で、右辺は $h\to0$ で $0$ に近づくので、はさみうち(はさみうちと評価の技法)により平均変化率は $0$ に近づく。これは Leb26 Exercise 4.1.11(p. 160)の状況($g$ が有界、$x^2$ は値と微分係数がともに $0$)の例である。
  3. $f(x)=x|x|$、$g(x)=x$ とする。$f$ は 2 回微分可能でないが、$F(x)=x^2|x|$ は $x>0$ で $x^3$、$x<0$ で $-x^3$ なので、ex-plf-not-twice と同じ計算で $F'(x)=3x|x|$、$F''(x)=6|x|$ となり、2 回微分可能である。
    積の微分と Leibniz の公式は「これだけあれば積も微分できる」という十分条件を与えるが、必要条件ではない。

大学数学で見る:導分

積の微分の証明(thm-plf-product)では極限を使ったが、Leibniz の公式の証明(thm-plf-leibniz)では、極限をまったく使っていない。使ったのは次の 2 つの性質だけである。

  • 微分は足し算と定数倍を保つ:$(f+g)'=f'+g'$、$(cf)'=cf'$。
  • 積の微分:$(fg)'=f'g+fg'$。
    大学の数学では、この 2 つの性質をもつ写像そのものを考える。これを 導分(derivation)という。ここでは多項式の場合を見る。
多項式の導分

実数係数の多項式全体を $\mathbb{R}[x]$ と書く。写像 $D\colon\mathbb{R}[x]\to\mathbb{R}[x]$ が、すべての多項式 $p,q$ と実数 $c$ について

  1. $D(p+q)=D(p)+D(q)$、$D(cp)=cD(p)$、
  2. $D(pq)=D(p)\,q+p\,D(q)$
    を満たすとき、$D$ を $\mathbb{R}[x]$ の導分という。
導分の例
  1. 微分 $D(p)=p'$ は導分である(1 は和と定数倍の微分、2 は thm-plf-product)。
  2. $D(p)=x\,p'$ も導分である。1 は $x(p+q)'=xp'+xq'$、$x(cp)'=c\,xp'$ から成り立ち、2 は $D(pq)=x(p'q+pq')=(xp')q+p(xq')$ から分かる。この $D$ では $D(x^n)=x\cdot nx^{n-1}=nx^n$ で、$x^n$ は $n$ 倍されるだけである。
  3. $D(p)=p''$(2 回微分)は導分ではない。$p=q=x$ とすると $D(x\cdot x)=(x^2)''=2$ だが、$D(x)x+xD(x)=0+0=0$ である。Leibniz の公式 $(pq)''=p''q+2p'q'+pq''$ の真ん中の項 $2p'q'$ だけ、積の規則からずれている。
多項式の導分は $x$ での値で決まる

$D$ を $\mathbb{R}[x]$ の導分とし、$r=D(x)$ とおく。このとき、すべての多項式 $p$ について
$$ D(p)=r\cdot p' $$
である。つまり $\mathbb{R}[x]$ の導分は、ある多項式 $r$ を使って「微分してから $r$ を掛ける」ものに限る。

定数、$x$ の冪、一般の多項式の順に調べる

方針:$D(1)$、$D(x^n)$ を積の規則から求め、足し算と定数倍の規則で一般の多項式に広げる。
段 1(定数)。$1=1\cdot1$ なので、積の規則から $D(1)=D(1)\cdot1+1\cdot D(1)=2D(1)$。よって $D(1)=0$ である。定数 $c$ については $D(c)=D(c\cdot1)=cD(1)=0$ である。
段 2($x$ の冪)。$D(x^n)=nx^{n-1}r$($n\ge1$)を $n$ についての帰納法で示す。$n=1$ では $D(x)=r$ で成り立つ。$n$ で成り立つとすると、積の規則から
$$ D(x^{n+1})=D(x^n\cdot x)=D(x^n)\,x+x^nD(x)=nx^{n-1}r\cdot x+x^nr=(n+1)x^nr $$
となり、$n+1$ でも成り立つ。
段 3(一般の多項式)。$p(x)=a_0+a_1x+\cdots+a_dx^d$ とすると、足し算と定数倍の規則と段 1・段 2 から
$$ D(p)=a_0D(1)+\sum_{n=1}^da_nD(x^n)=\sum_{n=1}^da_n\,nx^{n-1}r=r\cdot p' $$
である。$\square$

ex-plf-derivation の 2 は $r=x$ の場合である。thm-plf-leibniz の証明は、微分の代わりにどんな導分 $D$ を使っても、そのまま通る。したがって
$$ D^n(pq)=\sum_{k=0}^n\binom nkD^{n-k}(p)\,D^k(q) $$
がすべての導分で成り立つ($D^k$ は $D$ を $k$ 回くり返した写像)。

大学数学で見ると:導分と接ベクトル

導分は、微分を「極限」ではなく「積の規則」で特徴づける考え方である。大学ではこれが次のように広がる(ここでは紹介だけで、証明しない)。

  • 多変数の関数では、点 $p$ での方向微分 $v(f)$ が $v(fg)=v(f)\,g(p)+f(p)\,v(g)$ を満たす。多様体 の理論では、この性質をもつ写像を点 $p$ での 接ベクトル と定義することがある。
  • 2 つの導分 $D_1$、$D_2$ をくり返した $D_1D_2$ は、一般には導分ではない(ex-plf-derivation の 3 は $D_1=D_2=\frac d{dx}$ の場合)。しかし差 $D_1D_2-D_2D_1$ は再び導分になり、導分全体は Lie代数 と呼ばれる構造をもつ。
  • rem-plf-why-binomial の対応は、2 変数の関数 $f(x)g(y)$ に「$x$ で微分する」$D_1$ と「$y$ で微分する」$D_2$ を考えると、$D_1D_2=D_2D_1$(可換)で、$(D_1+D_2)^n$ が二項定理で展開できることにあたる。最後に $y=x$ とおくと Leibniz の公式になる。

さらに先へ

  • 部分積分:積の微分を積分すると部分積分 $\int f'g\,dx=fg-\int fg'\,dx$ になる。使い方は 部分積分の使い方 で扱う。
  • 多項式の $n$ 回微分:$(x^2-1)^n$ の第 $n$ 次導関数を定数倍した Legendre多項式 の性質は、$(x-1)^n(x+1)^n$ に Leibniz の公式を使って調べられる。たとえば prop-plf-multiple-root の証明と同じく、$x=1$ では $(x-1)^n$ をちょうど $n$ 回微分した項だけが残り、$\bigl((x^2-1)^n\bigr)^{(n)}$ の $x=1$ での値は $n!\cdot2^n$ になる。
  • 導分:多項式以外の関数の集まりや、行列の集まりでも導分が考えられる。詳しくは 導分 を見よ。

関連項目

参考文献

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する