単項イデアル整域

同義語:主イデアル整域PIDprincipal ideal domain

概要

単項イデアル整域(principal ideal domain, PID)とは、すべてのイデアルが 1 つの元で生成される整域のことである。$\mathbb{Z}$、体上の 1 変数多項式環 $K[X]$、Gauss 整数環、離散付値環が代表例で、Euclid 整域はつねに単項イデアル整域であるが逆は成り立たない。単項イデアル整域は Noether 環で、$0$ でない素イデアルはすべて極大(体でなければ Krull 次元 $1$)、既約元は素元、したがって一意分解整域である。整域が単項イデアル整域であることは Dedekind–Hasse ノルムをもつ概 Euclid 整域であることと同値で、$\mathbb{Z}[X]$、$K[X,Y]$、$\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ は単項イデアル整域でない。その上の有限生成加群は巡回加群の直和に分解する。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 可換環, 整域, イデアル, 素イデアル, Noether環

定義

本記事で環とは 単位元 をもつ可換環を指す。環 $A$ の元 $a$ が生成するイデアルを $(a)=aA=\{ax\mid x\in A\}$ と書き、この形のイデアルを単項イデアル単項イデアル、principal ideal)という。

単項イデアル整域

整域 $A$単項イデアル整域(principal ideal domain, PID)であるとは、$A$ の任意のイデアル $I$ が単項イデアルであること、すなわちある $a\in A$ により $I=(a)$ と書けることをいう。

呼称と流儀

整域とは限らない環で任意のイデアルが単項であるものを単項イデアル環(principal ideal ring, PIR)という。単項イデアル環の 剰余環 は再び単項イデアル環なので(principal-ideal-domain-prop-localization-quotient)、$\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ のように整域でない単項イデアル環が存在する。文献によっては単項イデアル整域の意味で「単項イデアル環」や「主イデアル環」と書くことがあるので注意を要する。また は定義から単項イデアル整域であるが、単項イデアル整域と言うときに体を除く流儀もある。本記事は体を含める流儀を採り、体を除く必要がある主張ではその旨を明記する。

直感

整数環 $\mathbb{Z}$ では、整数の集合 $S$ の元すべての整数倍の和として書ける数の全体、すなわち $S$ が生成するイデアルは、$S$最大公約数 $d$ の倍数全体 $(d)$ に一致する。単項イデアル整域はこの事実を公理にした整域であり、「いくつかの元の共通の約数のうち最大のものが 1 つの元で代表され、しかもそれらの元の 線形結合 で書ける」(Bezoutの等式)という $\mathbb{Z}$ の算術が丸ごと成り立つ。この条件は見かけより強く、Noether 性、$0$ でない素イデアルが極大であること(Krull 次元 $1$)、素元分解 の存在と一意性がすべて自動的に従う。Euclid整域(割り算の余りが取れる整域)は単項イデアル整域であるが、単項イデアル整域は「余りが取れる」という手続きを「イデアルが 1 元で生成される」という構造的条件に置き換えたものであり、Euclid 整域より真に広い(principal-ideal-domain-ex-basic)。「余りが取れる」条件をどこまで弱めれば単項イデアル整域と一致するかは、概 Euclid 整域による特徴づけ(principal-ideal-domain-thm-dedekind-hasse)が答える。

整数環と体上の多項式環
  1. 整数環 $\mathbb{Z}$ は単項イデアル整域である。絶対値を大きさとする Euclid 整域だからである(Euclid整域 の記事の命題「Euclid整域は単項イデアル整域である」)。$\mathbb{Z}$ のイデアルは $n\mathbb{Z}$$n\ge0$)に限る。
  2. $K$ 上の 1 変数 多項式環 $K[X]$ は単項イデアル整域である。$0$ でないイデアルは、それに含まれる次数最小の多項式で生成される(多項式環 の記事の定理「体上の多項式環は単項イデアル整域」)。
  3. Gauss整数環 $\mathbb{Z}[i]=\{a+bi\mid a,b\in\mathbb{Z}\}$ノルム $a^2+b^2$ を大きさとする Euclid 整域なので単項イデアル整域である(Euclid整域 の記事の例)。
  4. $K$ は単項イデアル整域である。イデアルは $(0)$$(1)=K$ しかない。
  5. 虚2次体 $\mathbb{Q}(\sqrt{-19})$整数環 $\mathbb{Z}[(1+\sqrt{-19})/2]$ は単項イデアル整域であるが、どのような大きさの関数を取っても Euclid 整域にならない(Euclid整域 の記事の反例、DF04 §8.1–8.2、PV08)。したがって「単項イデアル整域 $\Rightarrow$ Euclid 整域」は成り立たない。
離散付値環の例

離散付値環、すなわち体でない Noether 環である 付値環 は、体でない 局所環 である単項イデアル整域にほかならない(付値環 の記事の定理「離散付値環の特徴づけ」)。$p$ 進付値環 $\mathbb{Z}_{(p)}=\{n/m\mid p\nmid m\}$、体 $k$ 上の 形式冪級数環 $k[\![t]\!]$p進整数環 $\mathbb{Z}_p$ がその例であり、いずれも $0$ でないイデアルは極大イデアルの冪 $(\pi^{n})$ に限る。より一般に、単項イデアル整域 $A$ の素元 $p$ による局所化 $A_{(p)}$ は離散付値環である(principal-ideal-domain-prop-localization-quotient)。

剰余環の例

単項イデアル整域の剰余環はすべて単項イデアル環である(principal-ideal-domain-prop-localization-quotient)。$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$$n\ge2$)のイデアルは $n$ の正の約数 $d$ に対する $d\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}=(\bar d)$ に限り、$n$ が素数でなければ 零因子 をもつので整域でない。体 $K$ 上の $K[X]/(X^2)$ のイデアルは $(0)$$(\bar X)$$(1)$ の 3 つで、$\bar X^2=0$ なので整域でない。$K[X]/(P(X))$ が体であることと $P(X)$既約多項式 であることは同値であり(principal-ideal-domain-prop-prime-maximalprincipal-ideal-domain-lem-irreducible-prime)、$\mathbb{R}[X]/(X^2+1)\cong\mathbb{C}$$\mathbb{F}_p[X]/(P(X))$$P$$n$ 次既約)が $p^{n}$ 個の元をもつ 有限体 であることはその例である。

反例:単項イデアル整域でない整域
  1. $\mathbb{Z}[X]$ と、体 $K$ 上の 2 変数多項式環 $K[X,Y]$ は、一意分解整域 かつ Noether 環である(満たす性質)が、単項イデアル整域でない(満たさない性質)。イデアル $(2,X)$$(X,Y)$ がそれぞれ単項でないことは 多項式環 の記事の例「反例:単項イデアル整域でない多項式環」で示されている。整域 $A$ 上の多項式環 $A[X]$ が単項イデアル整域であるのは $A$ が体のときに限る(同記事の定理)。これらは「一意分解整域 $\Rightarrow$ 単項イデアル整域」「Noether 整域 $\Rightarrow$ 単項イデアル整域」を破る。
  2. $A=\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]=\{a+b\sqrt{-5}\mid a,b\in\mathbb{Z}\}$ は Noether 整域であり、後述の Dedekind整域 である(満たす性質)が、単項イデアル整域でない(満たさない性質)。イデアル $I=(2,1+\sqrt{-5})$ が単項でないことを示す。$I$ の元は $2(x+y\sqrt{-5})+(1+\sqrt{-5})(u+v\sqrt{-5})=(2x+u-5v)+(2y+u+v)\sqrt{-5}$ の形であり、$\sqrt{-5}$ の係数と定数項の和は $2x+2y+2u-4v$ で偶数である。$1$ はこの条件を満たさないので $1\notin I$、すなわち $I\neq A$ である。$I=(\alpha)$ と仮定する。ノルム $N(a+b\sqrt{-5}):=a^2+5b^2$ は積を保つ($N(\alpha\beta)=N(\alpha)N(\beta)$$|\alpha\beta|^2=|\alpha|^2|\beta|^2$ による)ので、$\alpha$$2$$1+\sqrt{-5}$ を割り切ることから $N(\alpha)$$N(2)=4$$N(1+\sqrt{-5})=6$ をともに割り切り、$N(\alpha)\in\{1,2\}$ である。$a^2+5b^2=2$ は整数解をもたないので $N(\alpha)=1$、すなわち $\alpha\bar\alpha=1$$\alpha$単元 となり $I=A$ となって矛盾する。よって $I$ は単項でない。この例は「Dedekind 整域 $\Rightarrow$ 単項イデアル整域」を破る。$A$ が単項イデアル整域でないことは、$6=2\cdot3=(1+\sqrt{-5})(1-\sqrt{-5})$ という 2 通りの既約元分解が存在すること、すなわち $A$ が一意分解整域でないこと(principal-ideal-domain-thm-ufd の対偶)からも分かる。
  3. 付値環で Noether 環でないもの(付値環 の記事の例「値群が2段の付値環」)は、有限生成イデアルがすべて単項である(Bezout環)が単項イデアル整域でない。単項イデアル整域は「Noether 環である Bezout 環」とちょうど一致する(Bezout環 の記事の系)。

性質

イデアルと素イデアル

単項イデアル整域はNoether環

単項イデアル整域は Noether 環である。

命題の根拠

単項イデアルは 1 個の元で生成されるので有限生成であり、すべてのイデアルが有限生成な環は Noether 環である(Noether環 の記事の命題「Noether環の同値条件」と例「体と単項イデアル整域」)。

零でない素イデアルは極大

$A$ を単項イデアル整域、$P=(p)$$Q=(q)$$A$$0$ でない素イデアルとする。$P\subset Q$ ならば $P=Q$ である。したがって $A$$0$ でない素イデアルはすべて 極大イデアル であり、$A$ が体でなければ $A$Krull次元$1$ である。

$p\in P\subset Q=(q)$ より $p=qx$$x\in A$)と書ける。$qx=p\in P$$P$ は素イデアルなので $q\in P$ または $x\in P$ である。
$x\in P$ とすると $x=py$$y\in A$)と書け、$p=qpy$ となる。$A$ は整域で $p\neq0$ なので $1=qy$、すなわち $q$ は単元で $Q=A$ となり、$Q$ が素イデアルであること($Q\neq A$)に反する。よって $q\in P$ である。
$q\in P$ なら $q=pz$$z\in A$)と書け、$p=qx=pxz$ より $1=xz$ である。よって $z$ は単元で、$(q)=(pz)=(p)$、すなわち $P=Q$ である。
後半について、$0$ でない素イデアル $P$ を含む極大イデアル $M$ を取ると(Krullの定理)、$M$$0$ でない素イデアルなので $P=M$ である。$A$ が体でなければ $0$ でない真のイデアルがあり、それを含む極大イデアル $M$ について $(0)\subsetneq M$ は素イデアルの鎖で、これより長い鎖はないので Krull 次元は $1$ である。$\square$

局所化と剰余環

$A$ を単項イデアル整域とする。

  1. $A$ の任意の 積閉集合 $S$$0\notin S$)について、局所化 $S^{-1}A$ は単項イデアル整域である。特に素イデアル $\mathfrak{p}\neq0$ における局所化 $A_{\mathfrak{p}}$ は離散付値環である。
  2. $A$ の任意のイデアル $I$ について、剰余環 $A/I$ は単項イデアル環である。$A/I$ が整域になるのは $I=0$ または $I$ が極大イデアルのときに限り、後者では $A/I$ は体である。

1。$0\notin S$$A$ は整域なので $S^{-1}A$商体 の部分環であり、整域である。$\iota\colon A\to S^{-1}A$$a\mapsto a/1$ とする。$S^{-1}A$ のイデアル $J$ について $J=\{x/s\mid x\in\iota^{-1}(J),\ s\in S\}$ が成り立つ(Noether環 の記事の命題「局所化への遺伝」の証明中の等式)。$\iota^{-1}(J)=(a)$ と書けるので、$J$ の元は $(ax)/s=(a/1)(x/s)$ の形であり、$J=(a/1)$ は単項である。$A_{\mathfrak{p}}$ は局所環である単項イデアル整域であり、$\mathfrak{p}\neq0$ より体でないので、付値環 の記事の定理「離散付値環の特徴づけ」により離散付値環である。
2。$A/I$ のイデアルは、$I$ を含む $A$ のイデアル $J=(b)$ の像 $\bar J$ であり(対応定理)、$\bar J=(\bar b)$ は単項である。$A/I$ が整域であることは $I$ が素イデアルであることと同値であり(整域 の記事の命題「剰余環が整域になる条件」)、$0$ でない素イデアルは極大なので(principal-ideal-domain-prop-prime-maximal$A/I$ は体である。$\square$

素元分解

$A$ を整域とする。$0$ でも単元でもない $a\in A$既約元既約元)であるとは、$a=bc$ ならば $b$$c$ が単元であることをいい、素元素元)であるとは、$(a)$ が素イデアルであること、すなわち $a\mid bc$ ならば $a\mid b$ または $a\mid c$ が成り立つことをいう。素元は既約元である。実際 $a=bc$ なら $a\mid b$ または $a\mid c$ で、$a\mid b$ なら $b=ad$ より $a=adc$$1=dc$ となって $c$ は単元である。逆は一般には成り立たないが、単項イデアル整域では成り立つ。

既約元は素元

単項イデアル整域 $A$ の既約元 $p$ について、$(p)$ は極大イデアルである。特に $p$ は素元である。

$p$ は単元でないので $(p)\neq A$ である。$(p)\subset J\subset A$ を満たすイデアル $J$ を取ると $J=(b)$ と書け、$p\in(b)$ より $p=bc$$c\in A$)である。$p$ は既約なので $b$$c$ が単元である。$b$ が単元なら $J=A$$c$ が単元なら $(b)=(p)$ である。よって $(p)$ は極大イデアルであり、極大イデアルは素イデアルなので $p$ は素元である。$\square$

単項イデアル整域は一意分解整域

$A$ を単項イデアル整域とする。$0$ でも単元でもない任意の $a\in A$ は有限個の既約元の積 $a=p_1p_2\cdots p_r$$r\ge1$)に書け、この表示は次の意味で一意である。$a=q_1q_2\cdots q_s$ を既約元による別の表示とすると $r=s$ であり、番号を付け替えて各 $p_i$$q_i$ が単元倍だけ異なるようにできる。すなわち $A$ は一意分解整域である。

存在。$0$ でも単元でもない元のうち既約元の積に書けないものが存在すると仮定し、そのような元全体を $\mathcal{S}$ とする。$a_0\in\mathcal{S}$ を取る。$a_0$ は既約でないので $a_0=bc$$b,c$ はともに非単元、したがって $0$ でも単元でもない)と書け、$b,c$ がともに既約元の積なら $a_0$ もそうなるので、$b,c$ の少なくとも一方は $\mathcal{S}$ に属する。それを $a_1$ とすると $(a_0)\subsetneq(a_1)$ である($a_0=a_1d$$d$ は非単元なので、$(a_0)=(a_1)$ なら $a_1=a_0e=a_1de$$1=de$ となり $d$ が単元になって矛盾する)。同じ操作を繰り返すと単項イデアルの真の昇鎖 $(a_0)\subsetneq(a_1)\subsetneq(a_2)\subsetneq\cdots$ が得られるが、これは $A$ が Noether 環であること(principal-ideal-domain-prop-noetherian)に反する。よって $\mathcal{S}$ は空である。
一意性。$r$ に関する帰納法で示す。$p_1\cdots p_r=q_1\cdots q_s$ とする。$p_1$ は素元なので(principal-ideal-domain-lem-irreducible-prime)右辺のいずれかの因子、番号を付け替えて $q_1$ を割り切る。$q_1=p_1u$ と書くと、$q_1$ が既約で $p_1$ が単元でないので $u$ は単元である。両辺を $p_1$ で約分すると($A$ は整域)$p_2\cdots p_r=(uq_2)q_3\cdots q_s$ となる。$r=1$ なら左辺は $1$ で、$s\ge2$ なら右辺は非単元 $q_2$ を因子にもつので $s=1$ である。$r\ge2$ なら、$uq_2$ も既約元なので帰納法の仮定により $r-1=s-1$ で、番号を付け替えて $p_i$$q_i$$i\ge2$)は単元倍だけ異なる。$\square$

一意分解整域の一般論(既約元と素元の一致、最大公約元の存在など)は 一意分解整域 の記事に譲る。逆「一意分解整域 $\Rightarrow$ 単項イデアル整域」は成り立たない(principal-ideal-domain-rem-counterexample)。

概Euclid整域による特徴づけ

Euclid 整域の定義における除法の原理を弱めた次の条件は、単項イデアル整域であるための必要十分条件を与える。

概Euclid整域とDedekind–Hasseノルム

整域 $A$概 Euclid 整域(almost Euclidean domain)であるとは、写像 $\phi\colon A\to\mathbb{Z}$ で次の 3 条件を満たすものが存在することをいう。

  1. 任意の $x\in A$ について $\phi(x)\ge0$ であり、$\phi(x)=0$ となるのは $x=0$ のときに限る。
  2. 任意の $x,y\in A\setminus\{0\}$ について $\phi(xy)\ge\phi(x)$
  3. $x,y\in A$$y\neq0$$x\notin(y)$$\phi(x)\ge\phi(y)$ を満たすとき、$0<\phi(px-qy)<\phi(y)$ となる $p,q\in A$ が存在する。
    このような $\phi$Dedekind–Hasse ノルムという($\phi$ は一意とは限らない)。

Euclid 整域の除法の原理は「$x=qy+r$$\phi(r)<\phi(y)$」であり、$p=1$ に固定した条件 3 に相当する(ただし $r=0$ を許す)。条件 3 で $0<\phi(px-qy)$ を落として $\phi(px-qy)<\phi(y)$ だけを要求すると、$(p,q)=(y,x)$ が自明な関係 $yx-xy=0$ を与えて条件が空になってしまう。$0$ でない元 $px-qy$ の大きさを $\phi(y)$ より小さくできることが本質であり、これがイデアルの生成元を見つける根拠になる。

概Euclid整域の単元

$A$ を概 Euclid 整域、$\phi$ をその Dedekind–Hasse ノルムとする。

  1. $\phi(1)=\min\{\phi(x)\mid x\in A,\ x\neq0\}$
  2. $A^{\times}=\{x\in A\mid\phi(x)=\phi(1)\}$

1。$y\neq0$ について条件 2 により $\phi(y)=\phi(1\cdot y)\ge\phi(1)$ である。
2。$x$ が単元なら $\phi(1)=\phi(xx^{-1})\ge\phi(x)$ であり、1 により $\phi(x)\ge\phi(1)$ なので $\phi(x)=\phi(1)$ である。逆に $\phi(y)=\phi(1)$ とし、$y$ が単元でないと仮定する。$y\neq0$$\phi(y)=\phi(1)>0$)かつ $1\notin(y)$ かつ $\phi(1)\ge\phi(y)$ なので、条件 3 を $x=1$ に適用すると $0<\phi(p-qy)<\phi(y)=\phi(1)$ となる $p,q$ が存在するが、これは 1 に反する。よって $y$ は単元である。$\square$

概Euclid整域と単項イデアル整域の一致

整域 $A$ について、$A$ が単項イデアル整域であることと、$A$ が概 Euclid 整域であることは同値である。

概 Euclid 整域は単項イデアル整域である。$\phi$ を Dedekind–Hasse ノルムとし、$I\neq0$$A$ のイデアルとする。$\{\phi(x)\mid x\in I,\ x\neq0\}$ は正の整数の空でない集合なので最小値をもち、それを与える $y\in I$$y\neq0$ を取る。$I=(y)$ を示す。$(y)\neq I$ なら $x\in I\setminus(y)$ が取れ、$x\neq0$ なので $\phi(y)$ の最小性から $\phi(x)\ge\phi(y)$ である。条件 3 により $0<\phi(px-qy)<\phi(y)$ となる $p,q\in A$ が存在するが、$px-qy\in I$$0$ でないので $\phi(y)$ の最小性に反する。よって $I=(y)$ である。
単項イデアル整域は概 Euclid 整域である。$A$ を単項イデアル整域とする。principal-ideal-domain-thm-ufd により $0$ でない $x\in A$ は既約元($=$ 素元)の積 $x=up_1\cdots p_s$$u$ は単元、$s\ge0$)に書け、因子の個数 $s$ は表示によらない。そこで
$$\phi(x):=2^{s}\quad(x\neq0),\qquad\phi(0):=0$$
と定める。条件 1 は定義から明らかである。$x,y\neq0$ について、$xy$ の分解は $x$$y$ の分解を並べたものなので $\phi(xy)=\phi(x)\phi(y)\ge\phi(x)$ であり、条件 2 が成り立つ。条件 3 を示す。$x,y\in A$$y\neq0$$x\notin(y)$ を満たすとする。イデアル $(x,y)$ の生成元 $d$ を取る。$y\in(d)$ より $y=dz$$z\in A$)と書け、$d\neq0$$\phi(y)=\phi(d)\phi(z)\ge\phi(d)$ である。もし $\phi(d)=\phi(y)$ なら $\phi(z)=1$、すなわち $z$ は単元で $(d)=(y)$ となり、$x\in(d)=(y)$ となって仮定に反する。よって $0<\phi(d)<\phi(y)$ である。一方 $d\in(x,y)$ なので $d=px-qy$ となる $p,q\in A$ が存在し、$0<\phi(px-qy)<\phi(y)$ である。$\square$

加群の構造

単項イデアル整域は環の構造が単純なため、その上の 加群 の構造もよく分かる。

単項イデアル整域上の加群

$A$ を単項イデアル整域、$M$$A$ 加群とする。

  1. 自由加群 の部分加群は自由加群である。したがって $M$射影加群 であることと自由加群であることは同値である。
  2. $M$入射加群 であることと、$M$可除加群 であること(任意の $m\in M$$0$ でない $a\in A$ に対し $m=am'$ となる $m'\in M$ が存在すること)は同値である。
  3. $M$平坦加群 であることと、$M$捩れ をもたないこと($am=0$$a\neq0$ ならば $m=0$)は同値である。
  4. (有限生成加群の構造定理)$M$有限生成加群 ならば、整数 $n\ge0$ と、単元でも $0$ でもない元 $d_1,\dots,d_k$ であって $d_1\mid d_2\mid\cdots\mid d_k$ を満たすものが存在して
    $$M\cong A^{n}\oplus A/(d_1)\oplus A/(d_2)\oplus\cdots\oplus A/(d_k)$$
    となる。$n$ と、単元倍を除いた $d_1,\dots,d_k$$M$ から一意に定まる。
定理の出典

本記事では証明を与えない。1 は Lan02 Chapter III, Theorem 7.1(一般の階数の場合は Appendix 2, §2)、2 は Wei94 Corollary 2.3.2、3 は Bou06 Chapter I, §2, no. 4, Proposition 3、4 は DF04 §12.1 および Lan02 Chapter III, Theorems 7.3 and 7.5 に譲る。4 を $A=\mathbb{Z}$ に適用すると 有限生成アーベル群の基本定理 が、$A=K[X]$ に適用すると 線形写像Jordan標準形有理標準形 が得られる。

補足

単項イデアル整域は、整域のクラスの階層の中で次の位置にある。矢印はすべて真の包含である。
$$\text{体}\ \subsetneq\ \text{Euclid 整域}\ \subsetneq\ \text{単項イデアル整域}\ \subsetneq\ \text{Dedekind 整域},\qquad\text{単項イデアル整域}\ \subsetneq\ \text{一意分解整域}.$$
Euclid 整域が単項イデアル整域であることは Euclid整域 の記事、単項イデアル整域が Dedekind整域 であることとイデアル類群が自明な Dedekind 整域が単項イデアル整域であることは Dedekind整域 の記事で示される。また単項イデアル整域は Noether 環である Bezout環 とちょうど一致し(Bezout環 の記事の系)、体でない単項イデアル整域は $1$ 次元の Noether 一意分解整域と一致する(Dedekind 整域が一意分解整域であることと単項イデアル整域であることは同値であり、Dedekind整域 の記事を参照)。単項イデアル整域と Euclid 整域の差を測る例の系統的な研究は PV08 にある。

関連項目

参考文献

[1]
David S. Dummit and Richard M. Foote, Abstract Algebra, Wiley, 2004, §8.1–8.2(Euclid 整域と単項イデアル整域、$\mathbb{Z}[(1+\sqrt{-19})/2]$、Dedekind–Hasse ノルム)、§12.1(単項イデアル整域上の有限生成加群の構造定理)
[2]
Serge Lang, Algebra, Graduate Texts in Mathematics 211, Springer, 2002, Chapter II §4–5(単項イデアル整域と一意分解)、Chapter III §7(Theorem 7.1 自由加群の部分加群、Theorems 7.3 and 7.5 有限生成加群の構造定理)
[4]
N. Bourbaki, Commutative Algebra, Chapters 1–7, Springer, 2006, Chapter I §2, no. 4, Proposition 3(単項イデアル整域上の平坦加群と捩れのない加群)
[5]
Veselin Perić, Mirjana Vuković, Some examples of principal ideal domain which are not Euclidean and some other counterexamples, Novi Sad Journal of Mathematics, 2008, 137–154

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