不等式

同義語:inequality

概要

不等式(inequality)とは、全順序をもつ集合(典型的には実数)の元 $a,b$ の間の大小関係を $a<b$、$a\le b$、$a>b$、$a\ge b$ の形で主張する式のことであり、狭義($<,>$)と非狭義($\le,\ge$)を区別し、非狭義の不等式は等号成立条件まで込めて主張が完結する。実数の不等式の性質(推移律、加法・乗法との両立、負の数を掛けたときの向きの反転)は正の実数全体に関する 2 つの公理から導かれる。相加相乗平均の不等式 $\sqrt[n]{a_1\cdots a_n}\le(a_1+\cdots+a_n)/n$、Cauchy–Schwarz の不等式 $(\sum a_ib_i)^2\le\sum a_i^2\sum b_i^2$、三角不等式、Chebyshev・Schur・Hölder・Minkowski の不等式が代表的である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 実数, 全順序, 絶対値

定義

不等式

全順序 $\le$ をもつ集合 $S$(典型的には実数全体 $\mathbb{R}$)の元 $a,b$ について、
$$ a< b,\qquad a\le b,\qquad a>b,\qquad a\ge b $$
の形の主張を不等式(inequality)という。$a< b$ は「$a\le b$ かつ $a\ne b$」を意味し、$a>b$$b< a$$a\ge b$$b\le a$ と同じ意味である。$<,>$ を用いるものを狭義の不等式、$\le,\ge$ を用いるものを非狭義(広義)の不等式という。不等式が変数を含み、変数がとりうる値の範囲全体で成り立つとき、その不等式はその範囲で恒等的に成り立つという。非狭義の不等式については、等号 $a=b$ が成り立つ変数の値の条件を等号成立条件という。

不等式には、有限個の実数の変数を含むもの(たとえば 2 変数の相加相乗平均の不等式)のほか、可算無限個の変数(数列)を含むもの、関数積分を含むもの、ノルム内積など抽象的な量の間のものがある。本記事では実数の不等式を扱い、証明の根拠を明確にするため実数の順序の公理を次の形で用いる。

実数の順序の公理

実数の部分集合 $P$(正の実数全体)が存在して次を満たす。

  1. 任意の実数 $a$ について、$a\in P$$a=0$$-a\in P$ のうちちょうど 1 つが成り立つ。
  2. $a,b\in P$ ならば $a+b\in P$ かつ $ab\in P$
    このとき $a< b$$b-a\in P$ で定め、$a\le b$ を「$a< b$ または $a=b$」で定める。$a>0$$a\in P$ は同値である。絶対値 $|a|$$a\ge0$ のとき $a$$a<0$ のとき $-a$ と定める。

これは実数が順序体であることの言い換えであり、以下の性質はすべてこの 2 条件と体の公理だけから導かれる(Rud76 Chapter 1)。有理数全体 $\mathbb{Q}$ も同じ公理を満たすので、prop-inequality-basic は有理数についても成り立つ。一方 n乗根の存在(thm-inequality-am-gm で用いる)は実数の完備性による。

直感

等式が「2 つの量がぴったり一致する」という強い主張であるのに対し、不等式は「どちらが大きいか」という順序の情報だけを主張する、より緩やかな道具である。興味のある量を正確に求めることは難しくても、それを上下から評価する不等式を示せば十分な情報が得られる場面は多く、解析学の議論(数列の極限級数の収束、関数の評価、微分積分学平均値の定理)は不等式の連鎖として進む。
不等式の証明はしばしば定型的な手筋に帰着する。「差をとって平方完成し、$x^2\ge0$ に帰着する」(ex-inequality-am-gm-twoex-inequality-cauchy-schwarz-two)、「帰納法で変数の個数を増やす」(thm-inequality-am-gm)、「2 次式の判別式を見る」(thm-inequality-cauchy-schwarz)、「変数を並べ替えて符号を確定する」(Chebyshevの総和不等式 prop-inequality-chebyshevSchurの不等式 prop-inequality-schur)がその代表である。等号成立条件を特定して初めて不等式の主張は正確になる。

平方の非負性

任意の実数 $x$ について $x^2\ge0$ が成り立ち、等号は $x=0$ のときに限る。実際、def-inequality-order-axioms の 1 により $x\in P$$x=0$$-x\in P$ のいずれかであり、$x\in P$ なら 2 により $x^2=x\cdot x\in P$$-x\in P$ なら $x^2=(-x)(-x)\in P$$x=0$ なら $x^2=0$ である。とくに $1=1^2>0$ である。

2変数の相加相乗平均の不等式

非負の実数 $x,y$ について、$\dfrac{x+y}{2}$$x,y$相加平均$\sqrt{xy}$相乗平均という。このとき
$$ \sqrt{xy}\le\frac{x+y}{2} $$
が成り立ち、等号は $x=y$ のときに限る。証明:両辺は非負なので、この不等式は両辺を 2 乗した $4xy\le(x+y)^2=x^2+2xy+y^2$ と同値であり、これは $0\le x^2-2xy+y^2=(x-y)^2$ と同値である。最後の不等式は ex-inequality-square により常に成り立ち、等号は $(x-y)^2=0$、すなわち $x=y$ のときに限る。

2変数のCauchy–Schwarzの不等式

実数 $a_1,a_2,b_1,b_2$ について
$$ (a_1b_1+a_2b_2)^2\le(a_1^2+a_2^2)(b_1^2+b_2^2) $$
が成り立ち、等号は $(a_1,a_2)$$(b_1,b_2)$線形独立でない(一方が他方の実数倍である)ときに限る。証明:右辺から左辺を引いて展開すると
$$ (a_1^2+a_2^2)(b_1^2+b_2^2)-(a_1b_1+a_2b_2)^2=a_1^2b_2^2+a_2^2b_1^2-2a_1b_1a_2b_2=(a_1b_2-a_2b_1)^2\ge0 $$
である(Lagrange の恒等式)。等号は $a_1b_2-a_2b_1=0$ のとき、すなわち 2 つのベクトルが線形従属のときに限る。

絶対値の三角不等式

任意の実数 $a,b$ について $|a+b|\le|a|+|b|$ が成り立ち、等号は $ab\ge0$$a,b$ が同符号または一方が $0$)のときに限る。証明:$-|a|\le a\le|a|$$-|b|\le b\le|b|$ を辺々加えて(prop-inequality-basic の 2)$-(|a|+|b|)\le a+b\le|a|+|b|$ であり、これは $|a+b|\le|a|+|b|$ を意味する。$a,b$ が異符号なら $|a+b|<|a|+|b|$ となるので、等号は $ab\ge0$ のとき、すなわち $a,b$ がともに $\ge0$ かまたはともに $\le0$ のときに限る。

Bernoulliの不等式の例

$x\ge-1$ と正の整数 $n$ について $(1+x)^n\ge1+nx$Bernoulliの不等式Bernoulliの不等式)が成り立つ。証明:$n$ に関する帰納法による。$n=1$ では等号である。$(1+x)^n\ge1+nx$ を仮定すると、$1+x\ge0$ なので両辺に掛けて(prop-inequality-basic の 3)
$$ (1+x)^{n+1}\ge(1+nx)(1+x)=1+(n+1)x+nx^2\ge1+(n+1)x $$
である(最後は $nx^2\ge0$)。この不等式は $(1+1/n)^n$ の単調性や指数関数の評価に使われる。

反例:恒等的に成り立たない不等式と条件の脱落
  • 「すべての実数 $x$ について $x^2>0$」は誤りである。$x=0$$x^2=0$ となり狭義の不等式は成り立たない。正しいのは非狭義の $x^2\ge0$ であり、等号成立条件($x=0$)まで込めて初めて主張は正確になる。狭義と非狭義の混同は不等式でもっとも基本的な誤りである。
  • $a< b$ ならば $a^2< b^2$」は誤りである。$a=-2$$b=1$ では $a< b$ だが $a^2=4>1=b^2$ である。破れているのは $0\le a$ という仮定であり、$0\le a< b$ なら $a^2< b^2$ が成り立つ(prop-inequality-basic の 3 を 2 回使う)。
  • $a< b$ ならば $1/a>1/b$」は $a,b$ が同符号のときに限る。$a=-1$$b=1$ では $1/a=-1<1=1/b$ である。
  • 相加相乗平均の不等式 ex-inequality-am-gm-two の仮定「非負」は落とせない。$x=-1$$y=-4$ では $\sqrt{xy}=2$ だが $(x+y)/2=-5/2$ であり、不等式の向きが逆になる(そもそも $xy<0$ なら相乗平均は実数として定義されない)。

性質

順序の基本性質

実数 $a,b,c,d$ について次が成り立つ。

  1. (推移律)$a< b$ かつ $b< c$ ならば $a< c$
  2. (加法との両立)$a< b$ ならば任意の $c$ について $a+c< b+c$。また $a< b$ かつ $c< d$ ならば $a+c< b+d$
  3. (乗法との両立と向きの反転)$a< b$ かつ $c>0$ ならば $ac< bc$$a< b$ かつ $c<0$ ならば $ac>bc$
  4. $a>0$ ならば $1/a>0$$0< a< b$ ならば $1/b<1/a$
  5. (三分律)任意の $a,b$ について $a< b$$a=b$$a>b$ のうちちょうど 1 つが成り立つ。とくに $\le$ は全順序である。
    いずれも $<$$\le$ に置き換えた形(3 では $c\ge0$ のとき $ac\le bc$)でも成り立つ。

1:$b-a\in P$ かつ $c-b\in P$ であるから、def-inequality-order-axioms の 2 により $(c-b)+(b-a)=c-a\in P$、すなわち $a< c$ である。
2:$(b+c)-(a+c)=b-a\in P$ であるから $a+c< b+c$ である。後半は $a+c< b+c< b+d$ と 1 による。
3:$c>0$ のとき、$b-a\in P$$c\in P$ から $(b-a)c=bc-ac\in P$、すなわち $ac< bc$ である。$c<0$ のときは $-c\in P$ なので $(b-a)(-c)=ac-bc\in P$、すなわち $bc< ac$ である。
4:$a>0$ とする。$1/a<0$ なら $-1/a\in P$ で、$a\cdot(-1/a)=-1\in P$ となるが、ex-inequality-square により $1\in P$ なので 1 の条件に反する。$1/a=0$$a\cdot(1/a)=1\ne0$ に反する。よって $1/a>0$ である。$0< a< b$ のとき、$1/(ab)>0$ であり(前半と 2 により $ab>0$、その逆数も正)、$a< b$ の両辺に $1/(ab)$ を掛けて(3)$1/b<1/a$ を得る。
5:$b-a$def-inequality-order-axioms の 1 を適用すればよい。$\le$ が反射的・推移的(1 による)・反対称的($a\le b$ かつ $b\le a$$a\ne b$ なら $a< b$ かつ $b< a$ となり 1 に反する)で任意の 2 元が比較可能であるから、$\le$ は全順序である。
$\le$ に置き換えた主張は、等号の場合を別に確かめれば同様である。$\square$

n変数の相加相乗平均の不等式

非負の実数 $a_1,\ldots,a_n$$n\ge1$)について
$$ \sqrt[n]{a_1a_2\cdots a_n}\le\frac{a_1+a_2+\cdots+a_n}{n} $$
が成り立ち、等号は $a_1=a_2=\cdots=a_n$ のときに限る。左辺を相乗平均、右辺を相加平均といい、この不等式を相加相乗平均の不等式相加相乗平均の不等式)という。

まず次の補助的な主張を $n$ に関する帰納法で示す。「正の実数 $x_1,\ldots,x_n$$x_1x_2\cdots x_n=1$ を満たすなら $x_1+\cdots+x_n\ge n$ であり、等号は $x_1=\cdots=x_n=1$ のときに限る。」$n=1$ では $x_1=1$ で等号が成り立つ。$n$ で正しいとし、積が $1$ の正の実数 $x_1,\ldots,x_{n+1}$ をとる。番号を付け替えて $x_1$ を最小、$x_{n+1}$ を最大としてよい。積が $1$ だから $x_1\le1\le x_{n+1}$ である(すべて $>1$ または すべて $<1$ なら積が $1$ にならない)。$n$ 個の正の実数 $x_1x_{n+1},x_2,\ldots,x_n$ の積は $1$ なので、帰納法の仮定により $x_1x_{n+1}+x_2+\cdots+x_n\ge n$ である。したがって
$$ x_1+x_2+\cdots+x_{n+1}=(x_1x_{n+1}+x_2+\cdots+x_n)+x_1+x_{n+1}-x_1x_{n+1}\ge n+x_1+x_{n+1}-x_1x_{n+1}=n+1+(x_{n+1}-1)(1-x_1) $$
であり、$x_{n+1}-1\ge0$$1-x_1\ge0$ から最右辺は $n+1$ 以上である。等号が成り立つには $(x_{n+1}-1)(1-x_1)=0$ が必要で、$x_{n+1}=1$ ならすべての $x_i\le1$ かつ積が $1$ なのですべて $1$$x_1=1$ ならすべての $x_i\ge1$ かつ積が $1$ なのですべて $1$ である。逆にすべて $1$ なら等号が成り立つ。
定理を示す。ある $a_i$$0$ なら左辺は $0$ で右辺は非負だから不等式は成り立ち、等号は右辺が $0$、すなわちすべての $a_j$$0$ のときに限る。すべての $a_i$ が正のとき、$G:=\sqrt[n]{a_1\cdots a_n}>0$ とおき(正の実数の $n$ 乗根の存在は実数の完備性による)、$x_i:=a_i/G$ とおくと $x_1\cdots x_n=1$ であるから、補助的な主張により $\sum_i a_i/G\ge n$、すなわち $(a_1+\cdots+a_n)/n\ge G$ である。等号はすべての $x_i=1$、すなわち $a_1=\cdots=a_n=G$ のときに限る。$\square$

実数列のCauchy–Schwarzの不等式

実数 $a_1,\ldots,a_n$$b_1,\ldots,b_n$ について
$$ \Bigl(\sum_{i=1}^{n}a_ib_i\Bigr)^2\le\Bigl(\sum_{i=1}^{n}a_i^2\Bigr)\Bigl(\sum_{i=1}^{n}b_i^2\Bigr) $$
が成り立ち、等号は $(a_1,\ldots,a_n)$$(b_1,\ldots,b_n)$ が線形従属である(一方が $0$ であるか、実数 $t$ が存在して $b_i=ta_i$(すべての $i$)または $a_i=tb_i$(すべての $i$)となる)ときに限る。これを Cauchy–Schwarz の不等式Cauchy–Schwarzの不等式)という。

$A:=\sum a_i^2$$B:=\sum b_i^2$$C:=\sum a_ib_i$ とおく。$A=0$ ならすべての $a_i=0$ex-inequality-squaredef-inequality-order-axioms の 2 により、平方の和が $0$ なら各平方は $0$)で、両辺とも $0$ となり等号が成り立ち、このとき $(a_i)$ は零ベクトルなので線形従属である。以下 $A>0$ とする。任意の実数 $t$ について
$$ 0\le\sum_{i=1}^{n}(ta_i-b_i)^2=At^2-2Ct+B $$
である(ex-inequality-squaredef-inequality-order-axioms の 2)。$t=C/A$ を代入すると
$$ 0\le A\frac{C^2}{A^2}-2\frac{C^2}{A}+B=B-\frac{C^2}{A} $$
であり、両辺に $A>0$ を掛けて $C^2\le AB$ を得る。等号 $C^2=AB$ が成り立つのは $\sum(ta_i-b_i)^2=0$$t=C/A$)のとき、すなわちすべての $i$ について $b_i=ta_i$ のときに限る。逆に $b_i=ta_i$ なら $C=tA$$B=t^2A$$C^2=t^2A^2=AB$ である。$A>0$ かつ $a_i=tb_i$(すべての $i$)の場合は $t\ne0$$b_i=t^{-1}a_i$ となるので上に含まれる。$\square$

Euclidノルムの三角不等式

実数 $a_1,\ldots,a_n$$b_1,\ldots,b_n$ について
$$ \sqrt{\sum_{i=1}^{n}(a_i+b_i)^2}\le\sqrt{\sum_{i=1}^{n}a_i^2}+\sqrt{\sum_{i=1}^{n}b_i^2} $$
が成り立つ。すなわち $\|x\|:=\sqrt{\sum x_i^2}$$\mathbb{R}^n$ 上で三角不等式 $\|x+y\|\le\|x\|+\|y\|$ を満たす。

両辺は非負なので 2 乗して比べればよい。左辺の 2 乗は $\sum a_i^2+2\sum a_ib_i+\sum b_i^2$、右辺の 2 乗は $\sum a_i^2+2\sqrt{\sum a_i^2}\sqrt{\sum b_i^2}+\sum b_i^2$ であるから、示すべきは $\sum a_ib_i\le\sqrt{\sum a_i^2}\sqrt{\sum b_i^2}$ であり、これは thm-inequality-cauchy-schwarz の両辺の平方根をとったものから従う($\sum a_ib_i\le|\sum a_ib_i|$)。$\square$

同順序列のChebyshevの総和不等式

実数列 $a_1\le a_2\le\cdots\le a_n$$b_1\le b_2\le\cdots\le b_n$(同じ向きに単調)について
$$ \frac1n\sum_{i=1}^{n}a_ib_i\ge\Bigl(\frac1n\sum_{i=1}^{n}a_i\Bigr)\Bigl(\frac1n\sum_{i=1}^{n}b_i\Bigr) $$
が成り立つ。一方が単調増加、他方が単調減少なら不等号の向きが逆になる。

任意の $i,j$ について、$a_i-a_j$$b_i-b_j$ は同符号(または一方が $0$)なので $(a_i-a_j)(b_i-b_j)\ge0$ である。$i,j$ について総和をとると
$$ 0\le\sum_{i=1}^{n}\sum_{j=1}^{n}(a_i-a_j)(b_i-b_j)=2n\sum_{i}a_ib_i-2\Bigl(\sum_ia_i\Bigr)\Bigl(\sum_jb_j\Bigr) $$
であり、$2n^2$ で割れば主張の不等式になる。向きが逆の場合は $(a_i-a_j)(b_i-b_j)\le0$ から同様である。$\square$

3変数のSchurの不等式

非負の実数 $x,y,z$ と正の実数 $t$ について
$$ x^t(x-y)(x-z)+y^t(y-x)(y-z)+z^t(z-x)(z-y)\ge0 $$
が成り立ち、等号は $x=y=z$ のとき、または 2 つが等しく残りが $0$ のときに限る。

左辺は $x,y,z$ について対称なので $x\ge y\ge z\ge0$ としてよい。左辺の第 1 項と第 2 項の和は
$$ (x-y)\bigl[x^t(x-z)-y^t(y-z)\bigr] $$
であり、$x\ge y\ge0$ から $x^t\ge y^t$(冪関数 $u\mapsto u^t$$t>0$)の単調性。Rud76)、$x-z\ge y-z\ge0$ なので角括弧の中は非負、$x-y\ge0$ とあわせて非負である。第 3 項は $z^t(z-x)(z-y)=z^t(x-z)(y-z)\ge0$ である。よって左辺は非負である。等号は「$x=y$ または $x^t(x-z)=y^t(y-z)$」かつ「$z=0$ または $x=z$ または $y=z$」のときで、整理すると $x=y=z$ または($x=y$ かつ $z=0$)の場合に限る($x>y$ かつ $x^t(x-z)=y^t(y-z)$$x^t>y^t$$x-z>y-z\ge0$ から起こらない)。対称性により、2 つが等しく残りが $0$ の場合が等号の場合である。$\square$

$t=1$ の Schur の不等式を展開すると $x^3+y^3+z^3+3xyz\ge xy(x+y)+yz(y+z)+zx(z+x)$ となり、3 変数の対称式の不等式の基本道具になる。

Hölderの不等式とMinkowskiの不等式の言明

$p,q>1$$1/p+1/q=1$ を満たすとき、非負の実数 $a_i,b_i$$i=1,\ldots,n$)について
$$ \sum_{i=1}^{n}a_ib_i\le\Bigl(\sum_{i=1}^{n}a_i^p\Bigr)^{1/p}\Bigl(\sum_{i=1}^{n}b_i^q\Bigr)^{1/q} $$
(Hölder の不等式)が成り立ち、$p\ge1$ について
$$ \Bigl(\sum_{i=1}^{n}(a_i+b_i)^p\Bigr)^{1/p}\le\Bigl(\sum_{i=1}^{n}a_i^p\Bigr)^{1/p}+\Bigl(\sum_{i=1}^{n}b_i^p\Bigr)^{1/p} $$
(Minkowski の不等式)が成り立つ。$p=q=2$ の Hölder の不等式は thm-inequality-cauchy-schwarz$p=2$ の Minkowski の不等式は cor-inequality-triangle である。

HölderとMinkowskiの出典

証明は Hölderの不等式Minkowskiの不等式 の記事および HLP88 §2.7–2.11 に譲る。Hölder の不等式は Youngの不等式 $ab\le a^p/p+b^q/q$thm-inequality-am-gm の重みつきの一般化)から、Minkowski の不等式は Hölder の不等式から導かれる。和を積分に置き換えた形も同様に成り立ち、Lp空間がノルム空間であることの根拠になる。凸関数に関する Jensenの不等式 はこれらを統一的に導く枠組みである。

補足

有限個の実数の不等式は、数列の不等式(両辺の極限をとることで非狭義の不等式が保たれる)、積分の不等式(Riemann 和の極限)、内積空間ノルム空間の不等式(Cauchy–Schwarz の不等式・三角不等式)へ一般化され、関数解析確率論(Markov の不等式、Chebyshev の不等式)・情報理論でも中心的な道具である。古典的な不等式の体系的な参考書として HLP88 がある。なお「Chebyshev の不等式」という名前は、本記事の総和不等式(prop-inequality-chebyshev)と確率論の Chebyshevの不等式 の両方に使われるので注意する。

関連項目

参考文献

[1]
G. H. Hardy, J. E. Littlewood, G. Pólya, Inequalities, 2nd ed.(Cambridge Mathematical Library), Cambridge University Press, 1988, Chapter II(§2.5 相加相乗平均, §2.4 Cauchy, §2.7–2.11 Hölder・Minkowski)

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