リーマン面

同義語:Riemann surfaceRiemann面

概要

リーマン面(Riemann surface)とは、各点の近くが複素平面の領域と同相で、座標変換が正則になる連結な複素1次元多様体である。実2次元の曲面に複素解析を行うための座標構造を加えたもので、複素平面の領域、Riemann球面、複素トーラスが代表例である。零点と極、被覆と分岐、因子、Riemann–Rochの定理を結ぶ複素解析と代数幾何の基礎的な舞台になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 位相空間, 開集合, 正則関数, 多様体

定義と規約

リーマン面は、曲面の各小部分を複素平面の領域として見て、それらを正則な座標変換で貼り合わせた空間である。位相だけを見れば実2次元の曲面だが、複素座標をもつため、正則関数、解析接続、零点と極、積分など1変数複素解析の道具を曲面全体で使える。

リーマン面

リーマン面(Riemann surface)とは、連結なHausdorff第二可算空間 $X$ と、次を満たす複素座標の極大族
$$ \{(U_i,\varphi_i)\}_{i\in I}, \qquad \varphi_i\colon U_i\xrightarrow{\sim}V_i\subset\mathbb C $$
の組である。

  • $\{U_i\}_{i\in I}$ は $X$ の開被覆である。
  • 各 $V_i$ は $\mathbb C$ の開集合であり、$\varphi_i$ は同相写像である。
  • $U_i\cap U_j\ne\emptyset$ なら、座標変換
    $$ \varphi_j\circ\varphi_i^{-1}\colon \varphi_i(U_i\cap U_j)\longrightarrow\varphi_j(U_i\cap U_j) $$
    は正則写像である。
    互いに正則に両立する座標をすべて加えた極大族を複素構造といい、各 $(U_i,\varphi_i)$ を複素座標またはチャートという。

本記事ではリーマン面を連結とする。連結性を定義に含めず、複素次元1の複素多様体を一般にリーマン面と呼ぶ流儀もある。その流儀では、本記事のリーマン面は「連結リーマン面」にあたる。第二可算性は、過度に大きな曲面を除き、通常の多様体論の定理を使えるようにする条件である。
座標変換は正則な全単射で、その逆も別向きの座標変換として正則である。したがって座標変換は双正則写像であり、各点で複素微分が0にならない。

正則写像と反正則写像

正則写像

$X,Y$ をリーマン面とする。連続写像 $f\colon X\to Y$ が正則写像であるとは、任意の $p\in X$ について、$p$ の周りの座標 $(U,\varphi)$ と $f(p)$ の周りの座標 $(W,\psi)$ を $f(U)\subset W$ となるように選んだとき、局所表示
$$ \psi\circ f\circ\varphi^{-1} $$
が $\mathbb C$ の開集合の間の正則関数になることをいう。正則な全単射で逆写像も正則なものを双正則写像という。

「任意の座標で」という条件は、各点の周りで一組の座標について確認すれば十分である。

正則性は座標の選び方によらない

ある座標 $(U,\varphi)$、$(W,\psi)$ で $\psi\circ f\circ\varphi^{-1}$ が正則なら、同じ点の周りの別の座標 $(U',\varphi')$、$(W',\psi')$ による局所表示も、共通の定義域へ制限すれば正則である。

共通部分上で新しい局所表示は
$$ \psi'\circ f\circ(\varphi')^{-1} = (\psi'\circ\psi^{-1}) \circ(\psi\circ f\circ\varphi^{-1}) \circ(\varphi\circ(\varphi')^{-1}) $$
と書ける。両端は $Y$ と $X$ の座標変換なので正則であり、中央は仮定により正則である。正則関数の合成は正則だから、新しい局所表示も正則である。

正則写像の合成

$f\colon X\to Y$ と $g\colon Y\to Z$ が正則写像なら、$g\circ f\colon X\to Z$ も正則写像である。

$p\in X$ をとる。$p,f(p),g(f(p))$ の周りに座標 $(U,\varphi)$、$(V,\psi)$、$(W,\chi)$ をとり、必要なら $U,V$ を小さくして $f(U)\subset V$、$g(V)\subset W$ とする。局所表示は
$$ \chi\circ(g\circ f)\circ\varphi^{-1} = (\chi\circ g\circ\psi^{-1}) \circ(\psi\circ f\circ\varphi^{-1}) $$
である。右辺は正則関数どうしの合成なので正則である。$p$ は任意だから $g\circ f$ は正則である。

局所表示が反正則関数、すなわちその複素共役が正則関数になる写像を反正則写像という。正則写像は局所で複素構造を保ち、反正則写像は複素構造を共役に移す。例えば複素平面上の $z\mapsto\overline z$ は反正則だが正則ではない。連続写像や滑らかな写像が自動的に正則になるわけではない。
恒等写像は正則であり、prop-riemann-surface-composition により正則写像の合成も正則である。したがってリーマン面を対象、正則写像を射とする圏が定まる。

複素構造が与える向き

リーマン面は標準的に向き付け可能

リーマン面の各複素座標で、$\mathbb C\cong\mathbb R^2$ の標準の向きを用いると、それらは重なり上で一致し、$X$ に向きを定める。

座標変換を $h=u+iv$ と書く。$h$ は正則であり、その逆も正則なので、連鎖律から $h'(z)\ne0$ である。Cauchy--Riemann方程式により、実写像 $(x,y)\mapsto(u(x,y),v(x,y))$ のJacobi行列式は
$$ \det \begin{pmatrix} u_x&u_y\\ v_x&v_y \end{pmatrix} =u_x^2+u_y^2=|h'(z)|^2>0 $$
となる。したがってすべての座標変換は向きを保ち、各チャートが定める向きは重なり上で一致する。

この命題は、単に各点の近くが平面に見えるだけではリーマン面にならないことを示す。複素構造は局所座標を選ぶだけでなく、それらが正則に貼り合うことを要求する。

基本例

複素平面の領域

$\mathbb C$ の空でない連結開集合 $D$ は、恒等写像 $D\to D$ を座標とするリーマン面である。単位円板、上半平面、複素平面自身が基本例である。開集合が連結でない場合、各連結成分は本記事の規約でリーマン面だが、全体は非連結な1次元複素多様体である。

Riemann球面

$\mathbb P^1(\mathbb C)=\mathbb C\cup\{\infty\}$ とおく。$U_0=\mathbb P^1\setminus\{\infty\}$ 上では $\varphi_0(z)=z$、$U_\infty=\mathbb P^1\setminus\{0\}$ 上では
$$ \varphi_\infty(z)=\frac1z, \qquad \varphi_\infty(\infty)=0 $$
を座標とする。重なり $U_0\cap U_\infty=\mathbb C^\times$ 上の座標変換は $z\mapsto1/z$ で、$\mathbb C^\times$ 上正則である。よってこれらはRiemann球面の複素構造を定める。位相的には2次元球面 $S^2$ と同相だが、$\infty$ の近くでも $1/z$ を座標にすることで複素解析を行える。

複素トーラス

$\omega_1,\omega_2\in\mathbb C$ を $\mathbb R$ 上一次独立とし、格子 $\Lambda=\mathbb Z\omega_1+\mathbb Z\omega_2$ をとる。商空間
$$ X=\mathbb C/\Lambda $$
はリーマン面になる。格子 $\Lambda$ は $\mathbb C$ の離散部分群なので、その平行移動作用は固有不連続であり、商はHausdorff空間になる。商写像は開写像で、$\mathbb C$ の可算基の像が商の可算基になる。また連結性は $\mathbb C$ の連結性から従う。商写像 $\pi\colon\mathbb C\to X$ が単射になるほど小さい円板 $D$ をとれば、$\pi(D)$ 上の座標は $(\pi|_D)^{-1}$ で与えられる。二つのこのような座標が重なる部分では、その座標変換はある $\lambda\in\Lambda$ による平行移動 $z\mapsto z+\lambda$ であり、正則である。これらの座標は $X$ を覆うので複素構造を定める。閉じた基本平行四辺形の像が $X$ 全体だから $X$ はコンパクトである。$X$ は位相的にはトーラスで、コンパクトなリーマン面の基本例である。

反例と比較

反例:向き付け不可能な曲面

実射影平面 $\mathbb{RP}^2$ は各点の近くでは $\mathbb R^2\cong\mathbb C$ に見える実2次元多様体だが、向き付け不可能である。もしリーマン面の構造をもてば prop-riemann-surface-orientation により向き付け可能になるので矛盾する。したがって「実2次元多様体ならリーマン面である」という含意は成り立たない。
Möbius帯も向き付け不可能で、さらに境界をもつので、通常の意味のリーマン面ではない。境界つきRiemann面を扱う理論では別の定義が必要である。

同じ位相的曲面が異なる複素構造をもつこともある。例えば複素トーラス $\mathbb C/\Lambda$ の双正則型は格子の取り方に依存し、基礎となる位相空間が同じトーラスだからといって双正則とは限らない。このため、位相的曲面の分類とリーマン面の双正則分類は別の問題である。

正則関数と有理型関数

リーマン面 $X$ から $\mathbb C$ への正則写像を $X$ 上の正則関数という。Riemann球面を値域に使い、恒等的に $\infty$ ではない正則写像
$$ f\colon X\longrightarrow\mathbb P^1(\mathbb C) $$
を $X$ 上の有理型関数という。$f(p)=\infty$ となる点は、$\infty$ の座標 $w\mapsto1/w$ を用いると零点として調べられ、元の関数では極に対応する。この見方によって零点と極を同じ正則写像の局所理論で扱える。
コンパクトな連結リーマン面から $\mathbb C$ への正則関数は定数だが、Riemann球面への有理型関数は非定数になりうる。この違いが、コンパクト面上で関数論を展開するとき有理型関数を用いる理由である(For81 §2、§4を参照)。

学習の道筋

局所的な関数論は、零点の位数、一致の定理、Riemannの拡張定理、開写像定理(複素解析)、Liouvilleの定理へ進む。写像を局所的な重なりとして調べると、被覆写像、被覆次数、Riemann–Hurwitzの公式が現れる。微分形式の経路では、リーマン面上の微分形式、Stokesの定理、調和微分・正則微分・有理型微分を学ぶ。大域的な幾何では、有理型関数の存在、種数、因子、可逆層、標準因子、Riemann–Rochの定理が、零点・極・微分形式・種数を結びつける。
リーマン面の後続項目は、このように「局所関数論」「写像と分岐」「大域幾何」の三経路に分かれる。まず局所関数論を学び、次に写像の局所次数と分岐を調べ、その後に因子と大域定理へ進むと依存関係を追いやすい。

関連項目

参考文献

[1]
Otto Forster (translated by Bruce Gilligan), Lectures on Riemann Surfaces, Graduate Texts in Mathematics 81, Springer, 1981, §1(Riemann面と有理型関数)、§2(正則写像の局所理論)、§4(固有正則写像)

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する