三平方の定理

同義語:Pythagorean theoremピタゴラスの定理Pythagorasの定理Pythagoras' theorem

概要

三平方の定理(Pythagorean theorem)とは、平面幾何(Euclid 幾何)の直角三角形において、直角をはさむ 2 辺の長さを $a,b$、直角の向かいの辺(斜辺)の長さを $c$ とすると $a^2+b^2=c^2$ が成り立つ、という定理である。たとえば辺が $3,4,5$ の直角三角形では $9+16=25$ である。Euclid『原論』第 I 巻 命題 47 で証明され、逆に 3 辺が $a^2+b^2=c^2$ を満たす三角形は長さ $c$ の辺の向かいの角が直角である(命題 48)。座標平面の距離の公式はこの定理から得られ、一般の三角形では余弦定理に広がる。内積空間では、直交するベクトル $x,y$ について $\|x+y\|^2=\|x\|^2+\|y\|^2$ が成り立つ。平行線公準が成り立たない球面上の三角形では成り立たない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 直角三角形, 面積, 相似, 平行線公準

動機

辺の長さが $3,4,5$ の三角形を考える。短い 2 辺の上に描いた正方形の面積は $3^2=9$ と $4^2=16$ で、その和 $9+16=25$ は最も長い辺の上の正方形の面積 $5^2=25$ にちょうど等しい。辺が $5,12,13$ の三角形でも $25+144=169=13^2$、辺が $8,15,17$ の三角形でも $64+225=289=17^2$ である。これらの三角形はどれも、最も長い辺の向かいの角が直角になっている。
逆向きの使い方もある。1 本の縄に等しい間隔で 12 個の印を付けて輪にし、3 つの印を頂点にして、3 辺がそれぞれ印の間隔 $3$ つ分、$4$ つ分、$5$ つ分になるように張ると、長さ $3$ と $4$ の辺のあいだに直角ができる(下の thm-pyth-thm-converse により、$3^2+4^2=5^2$ であるから)。
直角三角形では、直角をはさむ 2 辺の上の正方形の面積の和が、直角の向かいの辺の上の正方形の面積に等しい。これが三平方の定理であり、Pythagoras の定理、ピタゴラスの定理ともいう。平面の 2 点間の距離の公式(prop-pyth-thm-distance)はこの定理から得られ、さらに内積空間では「直交する 2 つのベクトルの和の長さ」の等式として一般化される(prop-pyth-thm-inner-product)。
「三平方」という語を含む定理に、整数を 3 つの平方数の和で表す条件を述べる Legendreの三平方定理 があるが、これは整数論の別の定理であり、本記事の主題とは関係しない。

仮定と定理

本記事では、平行線公準を満たす通常の平面幾何(Euclid幾何学)で考える。図形の面積については、合同な図形の面積は等しいこと、図形を重なりなく分けたときの面積は各部分の面積の和であること、長方形の面積は縦と横の積であること、三角形の面積は底辺と高さの積の半分であることを使う。

直角三角形の斜辺

三角形 $ABC$ の頂点 $C$ における角が直角であるとき、$ABC$ を $C$ を直角の頂点とする直角三角形という。直角の向かいの辺 $AB$ を斜辺(hypotenuse)、直角をはさむ 2 辺 $BC$、$CA$ を脚(leg)という。以下、辺の長さを $a:=BC$、$b:=CA$、$c:=AB$ と書く。

三角形の内角の和は $180^\circ$ なので、直角三角形の残りの 2 つの角 $\angle A$、$\angle B$ はどちらも $90^\circ$ より小さく、$\angle A+\angle B=90^\circ$ である。

三平方の定理

$C$ を直角の頂点とする直角三角形 $ABC$ において、$a=BC$、$b=CA$、$c=AB$ とすると
$$ a^2+b^2=c^2 $$
が成り立つ。言い換えると、斜辺の上の正方形の面積は、2 つの脚の上の正方形の面積の和に等しい。

逆に、3 辺が $a^2+b^2=c^2$ を満たす三角形は、長さ $c$ の辺の向かいの角が直角である(thm-pyth-thm-converse)。

証明

以下の 3 つの証明はそれぞれ独立に読める。1 つ目は面積の並べ替え、2 つ目は Euclid『原論』の証明、3 つ目は相似による証明である。

正方形の中に4つの三角形を並べる証明

1 辺の長さ $a+b$ の正方形 $PQRS$(頂点はこの順に並ぶ)をとる。各辺の上に点をとり、
$$ PP_1=QQ_1=RR_1=SS_1=a,\qquad P_1Q=Q_1R=R_1S=S_1P=b $$
となるようにする($P_1$ は辺 $PQ$ 上、$Q_1$ は辺 $QR$ 上、$R_1$ は辺 $RS$ 上、$S_1$ は辺 $SP$ 上)。
三角形 $S_1PP_1$ は $P$ で直角をなし、直角をはさむ 2 辺の長さは $PP_1=a$、$PS_1=b$ である。したがって 2 辺とその間の角が等しいので、この三角形はもとの直角三角形 $ABC$ と合同であり、$S_1P_1=c$ である。同様に、三角形 $P_1QQ_1$、$Q_1RR_1$、$R_1SS_1$ もどれも $ABC$ と合同で、$P_1Q_1=Q_1R_1=R_1S_1=c$ である。
四角形 $P_1Q_1R_1S_1$ の $P_1$ における角を求める。三角形 $S_1PP_1$ の $P_1$ における角は長さ $b$ の辺 $PS_1$ の向かいの角なので、$ABC$ の $\angle B$ に等しい。三角形 $P_1QQ_1$ の $P_1$ における角は長さ $a$ の辺 $QQ_1$ の向かいの角なので、$\angle A$ に等しい。$P$、$P_1$、$Q$ は一直線上にあるから
$$ \angle S_1P_1Q_1=180^\circ-\angle B-\angle A=180^\circ-90^\circ=90^\circ $$
である。ほかの 3 つの頂点でも同じなので、$P_1Q_1R_1S_1$ は 1 辺 $c$ の正方形である。
大きな正方形 $PQRS$ は、この正方形と 4 つの合同な直角三角形に重なりなく分かれる。面積を比べると
$$ (a+b)^2=c^2+4\cdot\frac{ab}{2},\qquad\text{すなわち}\qquad a^2+2ab+b^2=c^2+2ab $$
であり、$a^2+b^2=c^2$ を得る。

次の証明は Euclid『原論』第 I 巻 命題 47 の証明である(Heath 訳の第 1 巻 pp. 349–350 Hea08)。記号は本記事の約束(直角の頂点を $C$ とする)に合わせて付け替えてある。

Euclid原論第1巻命題47の証明

3 辺の上に、三角形の外側へ向けて正方形を描く。斜辺 $AB$ の上の正方形を $ABDE$($D$ は $B$ の隣、$E$ は $A$ の隣)、脚 $BC$ の上の正方形を $BCGF$($F$ は $B$ の隣、$G$ は $C$ の隣)、脚 $CA$ の上の正方形を $CAHK$($H$ は $A$ の隣、$K$ は $C$ の隣)とする。$C$ を通り $BD$ に平行な直線を引き、$AB$ との交点を $N$、$DE$ との交点を $L$ とする。$\angle A$、$\angle B$ はどちらも鋭角なので $N$ は線分 $AB$ の内部にあり、正方形 $ABDE$ は 2 つの長方形 $BDLN$ と $ANLE$ に分かれる。
段階 1:$G$、$C$、$A$ は一直線上にある。実際、$\angle GCB$ と $\angle BCA$ はどちらも直角で、その和は $180^\circ$ である。同様に $K$、$C$、$B$ も一直線上にある。
段階 2:三角形 $CBD$ と三角形 $FBA$ は合同である。実際、$CB=FB\,(=a)$、$BD=BA\,(=c)$ であり、はさむ角は
$$ \angle CBD=\angle CBA+\angle ABD=\angle CBA+90^\circ,\qquad \angle FBA=\angle FBC+\angle CBA=90^\circ+\angle CBA $$
で等しい。よって 2 辺とその間の角が等しい。
段階 3:三角形 $CBD$ の面積は長方形 $BDLN$ の面積の半分である。両者は底辺 $BD$ を共有し、$C$ は $BD$ に平行な直線 $NL$ の上にあるので、三角形の高さは長方形の辺 $BN$ の長さに等しい。同様に、三角形 $FBA$ の面積は正方形 $BCGF$ の面積の半分である。両者は底辺 $FB$ を共有し、段階 1 により $A$ は $FB$ に平行な直線 $GC$ の上にあるからである。
段階 2 と段階 3 から、長方形 $BDLN$ の面積は正方形 $BCGF$ の面積 $a^2$ に等しい。まったく同じ議論を、三角形 $CAE$ と三角形 $HAB$($CA=HA$、$AE=AB$、はさむ角はどちらも $\angle CAB+90^\circ$)に適用すると、長方形 $ANLE$ の面積は正方形 $CAHK$ の面積 $b^2$ に等しい。したがって
$$ c^2=(\text{正方形 }ABDE\text{ の面積})=(\text{長方形 }BDLN)+(\text{長方形 }ANLE)=a^2+b^2 $$
である。

相似な三角形による証明

$C$ から斜辺 $AB$ に下ろした垂線の足を $N$ とする。$\angle A$、$\angle B$ は鋭角なので $N$ は線分 $AB$ の内部にあり、$AN+NB=c$ である。
三角形 $ANC$ と三角形 $ACB$ は $\angle A$ を共有し、$\angle ANC=\angle ACB=90^\circ$ なので、2 つの角が等しく相似である。対応する辺の比から
$$ \frac{AN}{AC}=\frac{AC}{AB},\qquad\text{すなわち}\qquad b^2=c\cdot AN $$
である。同様に三角形 $BNC$ と三角形 $BCA$ は $\angle B$ を共有して相似であり、$a^2=c\cdot NB$ である。2 式を加えて
$$ a^2+b^2=c\,(AN+NB)=c^2 $$
を得る。

最後の証明で得た $b^2=c\cdot AN$ は、「脚 $CA$ の上の正方形と、斜辺と $AN$ でできる長方形の面積が等しい」ことを意味し、Euclid の証明の段階 3 で示したことと同じ内容である。Heath はこの点に注意し、相似による証明が Euclid の証明と実質的に同じであると述べている(Heath 訳の第 1 巻 p. 353 Hea08)。

逆

三平方の定理の逆

三角形 $ABC$ において $a=BC$、$b=CA$、$c=AB$ とする。$a^2+b^2=c^2$ ならば、$\angle C$ は直角である。

合同な直角三角形を作る証明

点 $C'$ で直交する 2 本の半直線の上に、$C'B'=a$、$C'A'=b$ となる点 $B'$、$A'$ をとる。三角形 $A'B'C'$ は $C'$ を直角の頂点とする直角三角形なので、thm-pyth-thm-main により
$$ A'B'^2=a^2+b^2=c^2 $$
であり、$A'B'=c$ である。よって三角形 $ABC$ と $A'B'C'$ は 3 辺の長さがそれぞれ等しく、合同である。対応する角も等しいので $\angle C=\angle C'=90^\circ$ である。

Euclid『原論』第 I 巻 命題 48 の証明も、直角三角形を作って 3 辺の合同に持ち込む点で同じである(Heath 訳の第 1 巻 pp. 368–369 Hea08)。冒頭の縄の例は、この逆を使って直角を作っている。

帰結

座標平面の距離

座標平面の2点間の距離

座標平面の 2 点 $P=(x_1,y_1)$、$Q=(x_2,y_2)$ の距離は
$$ PQ=\sqrt{(x_2-x_1)^2+(y_2-y_1)^2} $$
である。

座標軸に平行な脚をもつ直角三角形

$x_1=x_2$ なら $P$、$Q$ は同じ縦の直線上にあり $PQ=|y_2-y_1|$、$y_1=y_2$ なら $PQ=|x_2-x_1|$ で、どちらも式に一致する。$x_1\neq x_2$ かつ $y_1\neq y_2$ のときは $R:=(x_2,y_1)$ とおく。$PR$ は横軸に平行で長さ $|x_2-x_1|$、$RQ$ は縦軸に平行で長さ $|y_2-y_1|$ であり、座標軸は直交するので三角形 $PRQ$ は $R$ を直角の頂点とする直角三角形である。thm-pyth-thm-main により $PQ^2=(x_2-x_1)^2+(y_2-y_1)^2$ である。

同じ議論を繰り返すと、空間の 2 点 $(x_1,y_1,z_1)$、$(x_2,y_2,z_2)$ の距離は $\sqrt{(x_2-x_1)^2+(y_2-y_1)^2+(z_2-z_1)^2}$ である(まず $xy$ 平面に平行な方向で上の命題を使い、得られた線分と $z$ 軸方向の線分がなす直角三角形にもう一度定理を使う)。たとえば縦・横・高さが $a,b,h$ の直方体の対角線の長さは $\sqrt{a^2+b^2+h^2}$ である。$n$ 次元のEuclid空間 $\mathbb{R}^n$ では、この形の式 $\sqrt{\sum_i(x_i-y_i)^2}$ を距離の定義として採用する(Euclid距離)。

余弦定理と角の判定

座標を使うと、定理は一般の三角形の余弦定理に広がる。

余弦定理の等式

三角形 $ABC$ において $a=BC$、$b=CA$、$c=AB$、$\gamma:=\angle C$ とすると
$$ c^2=a^2+b^2-2ab\cos\gamma $$
が成り立つ。

座標による計算

$C$ を原点に、$A$ を正の $x$ 軸上の点 $(b,0)$ に置き、$B$ が上半平面にあるように座標をとる。三角関数の定義により $B=(a\cos\gamma,\,a\sin\gamma)$ である。prop-pyth-thm-distance により
$$ c^2=(a\cos\gamma-b)^2+(a\sin\gamma)^2=a^2(\cos^2\gamma+\sin^2\gamma)-2ab\cos\gamma+b^2=a^2+b^2-2ab\cos\gamma $$
である。ここで $\cos^2\gamma+\sin^2\gamma=1$ は、単位円上の点 $(\cos\gamma,\sin\gamma)$ と原点の距離が $1$ であることを prop-pyth-thm-distance で書いたものである。

$\gamma=90^\circ$ のとき $\cos\gamma=0$ で、余弦定理は三平方の定理そのものになる。$0^\circ<\gamma<180^\circ$ の範囲で $\cos\gamma$ は $\gamma<90^\circ$ なら正、$\gamma>90^\circ$ なら負なので、次が従う。

3辺による角の判定

三角形 $ABC$ において $a=BC$、$b=CA$、$c=AB$ とする。$\angle C$ が鋭角であることと $a^2+b^2>c^2$ は同値であり、直角であることと $a^2+b^2=c^2$ は同値であり、鈍角であることと $a^2+b^2< c^2$ は同値である。

余弦の符号

prop-pyth-thm-law-of-cosines により $a^2+b^2-c^2=2ab\cos\gamma$ であり、$2ab>0$ なので $a^2+b^2-c^2$ の符号は $\cos\gamma$ の符号と一致する。$\cos\gamma$ は $0^\circ<\gamma<90^\circ$ で正、$\gamma=90^\circ$ で $0$、$90^\circ<\gamma<180^\circ$ で負である。

この系の「直角 $\Rightarrow$ 等号」の部分はthm-pyth-thm-main、「等号 $\Rightarrow$ 直角」の部分は thm-pyth-thm-converse と同じ内容である。ただし余弦定理の証明は座標と三角関数を通じて三平方の定理を使っているので、この系は定理の別証明にはならない。

内積空間での三平方の定理

内積空間の言葉では、三平方の定理は直交するベクトルの長さの関係として述べられる。

直交するベクトルの和のノルム

$V$ を実または複素の内積空間とし、$\|x\|:=\sqrt{\langle x,x\rangle}$ とする。$x,y\in V$ が直交する($\langle x,y\rangle=0$)ならば
$$ \|x+y\|^2=\|x\|^2+\|y\|^2 $$
である。より一般に、$x_1,\dots,x_n$ がどの 2 つも直交するならば $\|x_1+\dots+x_n\|^2=\|x_1\|^2+\dots+\|x_n\|^2$ である。

内積の展開

内積の線形性と共役対称性により
$$ \|x+y\|^2=\langle x+y,x+y\rangle=\|x\|^2+\langle x,y\rangle+\langle y,x\rangle+\|y\|^2 $$
であり、$\langle x,y\rangle=0$ なら $\langle y,x\rangle=\overline{\langle x,y\rangle}=0$ なので、2 つの項が消える。一般の場合は $n$ に関する数学的帰納法による。$x_1+\dots+x_{n-1}$ と $x_n$ は、内積の線形性により直交するので、2 つの場合に帰着する。

$V=\mathbb{R}^2$ に標準内積 $\langle(u_1,u_2),(v_1,v_2)\rangle=u_1v_1+u_2v_2$ を入れると、$\|x\|$ は prop-pyth-thm-distance の意味での原点からの距離に一致し、直角三角形 $ABC$ に対して $x:=\overrightarrow{CB}$、$y:=\overrightarrow{AC}$ とおけば $x+y=\overrightarrow{AB}$ であり、この命題は thm-pyth-thm-main と同じ式になる。この形は無限次元の内積空間でも成り立ち、直交射影による最小二乗の議論などで使われる。同じ命題は 内積 と 内積空間 の記事の基本性質の中にも挙がっている。

例と反例

整数の辺をもつ直角三角形と正方形の対角線

辺が $(3,4,5)$、$(5,12,13)$、$(8,15,17)$、$(7,24,25)$ の三角形は、いずれも $a^2+b^2=c^2$ を満たすので、thm-pyth-thm-converse により直角三角形である。$(6,8,10)=2\cdot(3,4,5)$ のように、これらを定数倍した三角形も直角三角形である。3 辺がすべて正の整数である直角三角形の辺の組はピタゴラス数と呼ばれ、すべて具体的な式で書き表せる(同記事)。
一方、1 辺の長さ $1$ の正方形の対角線は、2 つの脚が $1$ の直角三角形の斜辺なので長さ $\sqrt{1^2+1^2}=\sqrt2$ であり、これは無理数である(無理数の記事の定理「冪根の無理性」)。整数の辺の長さから、整数でも有理数でもない長さが生じる。

反例:直角でない三角形

辺が $2,3,4$ の三角形では $2^2+3^2=13<16=4^2$ である。この三角形は「三角形である」は満たすが「最長辺の向かいの角が直角」を満たさず、等式 $a^2+b^2=c^2$ が破れる。cor-pyth-thm-acute-obtuse により、長さ $4$ の辺の向かいの角は鈍角である(余弦定理から $\cos\gamma=(4+9-16)/12=-1/4$)。辺が $4,5,6$ の三角形では $4^2+5^2=41>36=6^2$ で、長さ $6$ の辺の向かいの角は鋭角である。このように、直角という仮定を外すと等式は成り立たず、差 $a^2+b^2-c^2=2ab\cos\gamma$ がその角の大きさを反映する。

反例:球面上の直角三角形

半径 $1$ の球面 $x^2+y^2+z^2=1$ の上で、2 点の距離を 2 点を結ぶ大円の短い方の弧の長さで測り、「線分」を大円の弧とする。3 点 $X=(1,0,0)$、$Y=(0,1,0)$、$Z=(0,0,1)$ を頂点とする球面三角形を考える。どの 2 点も原点から見て $90^\circ$ 離れているので、3 辺の長さはすべて $\pi/2$ である。頂点 $X$ で辺 $XY$、$XZ$ の方向を表す接ベクトルはそれぞれ $(0,1,0)$、$(0,0,1)$ で直交するから、$X$ での角は直角であり、同様に $Y$、$Z$ での角も直角である。
$X$ を直角の頂点とみると、脚は $XY$、$XZ$、斜辺は $YZ$ であり、
$$ XY^2+XZ^2=\frac{\pi^2}{4}+\frac{\pi^2}{4}=\frac{\pi^2}{2}\neq\frac{\pi^2}{4}=YZ^2 $$
である。この三角形は「直角をもつ三角形」は満たすが、平面ではなく球面上の図形なので平行線公準を満たさず(球面上の 2 本の大円は必ず交わる)、内角の和も $270^\circ$ で $180^\circ$ でない。三平方の定理の証明は、どれも内角の和が $180^\circ$ であることや平行線の性質を通じて平行線公準を使っており、その仮定が破れると結論も破れる。三平方の定理が Euclid 幾何の定理であること、非 Euclid 幾何ではこれに代わる関係式があることは、Hitchman の §1.2(PDF 版 p. 5)と定理 7.4.7(PDF 版 p. 161、曲率を含む統一的な形)Hit を参照。

反例:複素内積空間での逆

実内積空間では $\|x+y\|^2=\|x\|^2+2\langle x,y\rangle+\|y\|^2$ なので、prop-pyth-thm-inner-product の逆「$\|x+y\|^2=\|x\|^2+\|y\|^2$ ならば $x$ と $y$ は直交する」も成り立つ。複素内積空間ではこの逆が成り立たない。$V=\mathbb{C}$ に内積 $\langle z,w\rangle=z\bar w$ を入れ、$x=1$、$y=i$ とすると
$$ \|x+y\|^2=|1+i|^2=2=\|x\|^2+\|y\|^2 $$
だが、$\langle x,y\rangle=1\cdot\bar i=-i\neq0$ で $x$ と $y$ は直交しない。複素の場合に等式から従うのは $\operatorname{Re}\langle x,y\rangle=0$ だけである。

補足

歴史と名前

この定理は Euclid『原論』第 I 巻の最後から 2 番目の命題 47 として証明され、逆が最後の命題 48 である(Heath 訳の第 1 巻 pp. 349–350、368–369 Hea08)。Pythagoras がこの定理を発見したという伝承は、Proclus、Plutarch、Diogenes Laertius など後代の著者によるものであり、Heath はそれらが遅い時代の証言であることを注意したうえで、ギリシャ幾何の範囲では伝承を疑う十分な理由はないと述べている(同 pp. 350–352)。辺が $3,4,5$ の三角形が直角三角形であることは、Pythagoras 以前にエジプトやバビロニアで知られていた可能性が高いとされる(同 p. 352)。
Heath が引く Proclus の注釈は、命題 47 の証明だけでなく、Euclid が第 VI 巻で、直角三角形の 3 辺の上に描いた互いに相似な図形について、斜辺の上の図形が他の 2 つの和に等しいことを示した点も称えている(同 p. 350)。正方形は相似な図形の特別な場合なので、これは三平方の定理の一般化である。

関連項目

参考文献

[1]
Euclid, translated with introduction and commentary by Thomas L. Heath, The Thirteen Books of Euclid's Elements, translated with introduction and commentary by T. L. Heath (3 vols., Cambridge University Press, 1908), 1st ed., Cambridge University Press, 1908, 第 I 巻 命題 47(pp. 349–350)と Heath の注(pp. 350–353 を参照)、命題 48(pp. 368–369)

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