閉球

同義語:closed ball

概要

閉球(closed ball)とは、距離空間で一つの中心 $a$ からの距離が半径 $r$ 以下の点の集合 $\{x\mid d(a,x)\le r\}$ である。常に閉かつ有界であるが、開球の閉包と一致するとは限らない。ノルム空間では正半径の閉球は開球の閉包に等しく、凸集合になる。有限次元ではコンパクトだが、無限次元の単位閉球はノルム位相でコンパクトでなく、双対空間の単位閉球は弱スター位相でならコンパクトになる(Banach–Alaoglu の定理)。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 距離空間, ノルム, 閉集合

閉球とは

距離空間の閉球(closed ball)は、固定した中心からの距離が指定した半径以下である点を集めたものである。中心 $a$ と半径 $r>0$ を選ぶと、$d(x,a)\leq r$ を満たす点全体が閉球になる。「閉」はこの集合が距離から定まる位相で閉集合であることを表す。図形としては平面の中身を含む円板や空間の中身を含む球体が最も身近だが、一般の距離空間の球は丸い形を想像して定義するものではない(Axl20 Definition 6.3)。
閉球は解析の基本的な作業領域でもある。関数の値を一つの有界な範囲に押さえるとき、収束列の候補を閉じた範囲に留めるとき、Banach–Alaogluの定理で双対空間の弱スターコンパクト集合を扱うとき、いずれも閉球が現れる。ただし「閉かつ有界」から常にコンパクトとは結論できない。さらに、閉球が開球の閉包になるという見慣れた等式も一般の距離空間では壊れる。この記事では、どの性質が距離の公理だけで成立し、どの性質に線形構造や次元の仮定が必要かを分けて確かめる。

定義と半径の約束

距離空間 $(X,d)$、中心 $a\in X$、実数 $r>0$ を取る。$B(a,r)$ を距離が $r$ より小さい点の開球とし、閉球は上線付きの $\overline B(a,r)$ で表す。書籍によっては $B[a,r]$ と書くこともある。ここで上線は記号の一部として使い、開球の位相的閉包との一致を先に仮定しない。

距離空間の閉球

距離空間 $(X,d)$ で、中心 $a\in X$、半径 $r>0$ の閉球を
$$ \overline B_d(a,r)=\{x\in X\mid d(a,x)\leq r\} $$
と定義する。開球は $B_d(a,r)=\{x\in X\mid d(a,x)< r\}$ である。

$r=0$ まで記号を拡張する場合、$\overline B_d(a,0)=\{a\}$ とするのが自然である。一方 $B_d(a,0)=\emptyset$ となる。この端の事例だけでも、閉球と開球の閉包を無条件に同一視できないと分かる。以下で「正半径」と断る命題は $r>0$ に限る。負の半径は通常は球の定義から除く。距離は非負なので、負の半径を許しても対応する集合が空になるだけである。
ノルム空間 $(V,\|\cdot\|)$ は $d(x,y)=\|x-y\|$ で距離空間になる。その場合、$\overline B(a,r)=a+r\overline B(0,1)$ と書ける。$r>0$ についての等式であり、$\overline B(0,1)$ を単位閉球という。中心と半径は、どの集合を見ているかを指定するデータだが、異なる中心・半径が同じ集合を与えることもある。例えば一点だけの距離空間では正半径の閉球はすべて全空間に等しい。

閉性・有界性・基本的な包含

どんな距離空間でも閉球は閉じている。この事実は球の名前からではなく、距離関数の三角不等式から証明できる。中心 $a$ からの距離 $x\mapsto d(a,x)$ は $|d(a,x)-d(a,y)|\leq d(x,y)$ を満たすので連続であり、閉球は閉区間 $(-\infty,r]$ の逆像である。次の証明は補集合の開性を直接示す。

閉球は閉集合である

任意の距離空間 $(X,d)$、$a\in X$、$r>0$ について $\overline B_d(a,r)$ は $X$ の閉集合である。

外側の点の周囲に開球を取る

$x\notin\overline B_d(a,r)$ とする。$d(a,x)>r$ なので $\varepsilon=d(a,x)-r>0$ と置ける。$d(x,y)<\varepsilon$ なら逆三角不等式により $d(a,y)\geq d(a,x)-d(x,y)>r$ である。従って $B_d(x,\varepsilon)$ は閉球の補集合に含まれる。補集合の各点にこのような開球があるから補集合は開き、閉球は閉じている。$\square$

閉球は有界でもある。二点 $x,y\in\overline B(a,r)$ なら、三角不等式から $d(x,y)\leq d(x,a)+d(a,y)\leq2r$ である。したがって直径は高々 $2r$ となる。ただし等号が常に実現するわけではない。一点空間なら直径は $0$ であり、一般には半径 $r$ の球面 $d(a,x)=r$ 自体が空の場合もある。「半径」は集合の直径の半分と定義した量ではなく、中心からの距離に課した閾値である。

直径と中心の移動

$x,y\in\overline B_d(a,r)$ なら $d(x,y)\leq2r$ である。また $s\geq r+d(a,b)$ なら $\overline B_d(a,r)\subseteq\overline B_d(b,s)$ である。

三角不等式を二度用いる

$d(x,y)\leq d(x,a)+d(a,y)\leq2r$。また $x\in\overline B_d(a,r)$ なら $d(b,x)\leq d(b,a)+d(a,x)\leq d(a,b)+r\leq s$ なので $x\in\overline B_d(b,s)$。いずれも距離の三角不等式だけを用いた。$\square$

同じ中心なら $0< r\leq s$ から $B(a,r)\subseteq\overline B(a,r)\subseteq\overline B(a,s)$ が従う。二つ目の包含は定義から直接分かるが、開球の閉包との関係はもう少し慎重に扱う必要がある。上線を見て「開球を閉じたもの」と読むと、次節の離散距離の例を見落とす。

開球の閉包との関係

開球 $B(a,r)$ は $\overline B(a,r)$ に含まれ、閉球は閉集合なので、位相的閉包 $\operatorname{cl}B(a,r)$ は常に $\overline B(a,r)$ に含まれる。逆向きは距離空間一般では成立しない。距離がちょうど $r$ の点があっても、内側からその点へ近づけるとは限らない。

離散距離では逆包含が破れる

$X$ に二点以上あり、相異なる二点の距離を $1$ とする離散距離を入れる。半径 $r=1$ とすると、$B(a,1)=\{a\}$ で、$\overline B(a,1)=X$ である。離散距離の位相では $\{a\}$ は閉集合だから $\operatorname{cl}B(a,1)=\{a\}\ne X$。また $r>1$ なら開球も閉球も $X$ になり、半径の選び方によって挙動が変わる。

しかしノルム空間では正半径について逆包含も成り立つ。閉球内の点 $x$ が境界上にあるなら、中心から $x$ へ向かう線分上で少しだけ中心寄りの点を取れば開球内に入り、$x$ へ近づく。ここで線形構造が重要である。

ノルム空間では開球の閉包が閉球

ノルム空間 $V$、$a\in V$、$r>0$ に対して
$$ \operatorname{cl}B(a,r)=\overline B(a,r) $$
が成り立つ。閉包はノルム距離による位相の閉包である。

中心から境界へ線分で近づく

左辺から右辺への包含は、$B(a,r)\subseteq\overline B(a,r)$ と右辺の閉性から従う。逆に $x\in\overline B(a,r)$ を取る。$0< t<1$ に対し $x_t=a+t(x-a)$ と置くと、$\|x_t-a\|=t\|x-a\|\leq tr< r$ なので $x_t\in B(a,r)$。$t\uparrow1$ とすれば $\|x_t-x\|=(1-t)\|x-a\|\to0$。従って $x$ は開球の閉包に属する。$\square$

$r=0$ では左辺が空集合、右辺が $\{a\}$ になるため、この命題にも正半径の条件が要る。「ノルム空間なら球の閉包は閉球」と短く言うとき、この条件が暗黙に入っているかを確かめる。また、一般の距離空間でも各境界点が開球の点で近似できるという条件が別途あれば等式は成り立つ。ノルム空間では線分がその条件を自動的に保証している。

ノルム空間での形

ノルムの単位閉球は、原点に関して対称で凸である。凸とは二点 $x,y$ と $0\leq t\leq1$ に対して $(1-t)x+ty$ を含むことをいう。複素ノルム空間なら $|\lambda|\leq1$ を満たすスカラー倍でも球内に留まる。この二つを合わせた性質は、線形汎関数や作用素のノルムを調べる際に使う。

ノルム閉球の凸性と平衡性

ノルム空間 $V$ の単位閉球 $U=\{x\in V:\|x\|\leq1\}$ は凸であり、$|\lambda|\leq1$ なら $\lambda U\subseteq U$ である。任意の中心 $a$ と半径 $r>0$ の閉球も凸である。

三角不等式と斉次性

$x,y\in U$、$0\leq t\leq1$ なら $\|(1-t)x+ty\|\leq(1-t)\|x\|+t\|y\|\leq1$ だから凸である。$|\lambda|\leq1$ なら $\|\lambda x\|=|\lambda|\|x\|\leq1$ なので平衡性も従う。$\overline B(a,r)=a+rU$ は $U$ の平行移動と正の拡大であるから凸である。$\square$

これらは一般の距離空間の球には意味すらない場合がある。そこには線形結合を行う構造がないからである。ノルム空間でも「球面」は閉球全体ではなく $\|x-a\|=r$ の点を指す。半径 $r>0$ で $V$ が零空間でなければ、単位ベクトルを $r$ 倍して球面の点を作れるが、一般距離空間では球面が空でもよい。

コンパクト性は次元で変わる

実数直線や有限次元のノルム空間では、閉球は閉かつ有界なのでコンパクトである。有限次元ノルム空間がユークリッド空間と同相であり、Heine–Borel の定理が適用できるためである。一方、無限次元ノルム空間の単位閉球はノルム位相ではコンパクトでない。ここを取り違えると、有限次元で用いた「有界列から収束部分列を取る」議論を無限次元に誤って移してしまう。

$\ell^2$ の標準基底

二乗可和列の Hilbert 空間 $\ell^2$ における標準基底 $e_1,e_2,\ldots$ はすべて $\|e_n\|_2=1$ で単位閉球に入る。しかし $n\ne m$ なら $\|e_n-e_m\|_2=\sqrt2$ である。この列のどの部分列も Cauchy 列ではなく、ノルム収束する部分列を持たない。従って単位閉球はノルム位相でコンパクトでない。

この例だけでは、他の無限次元空間の球も非コンパクトだとはまだ言えない。一般化には、有限次元部分空間から一定距離を保つ単位ベクトルを順に選ぶ方法を用いる。有限次元部分空間はノルム空間で閉じている。次の補題の証明では、距離の下限は近似できるが必ず達成されるとは仮定しない。

Riesz の補題

ノルム空間 $V$ の真の閉線形部分空間 $Y$ と $0< c<1$ に対し、$\|u\|=1$ かつ $\operatorname{dist}(u,Y)>c$ を満たす $u\in V$ が存在する。

下限より少し近い点を選ぶ

$z\in V\setminus Y$ を取る。$Y$ が閉じているので $\delta=\inf_{y\in Y}\|z-y\|>0$。$c<1$ より $\delta/c>\delta$ だから、下限の定義で $\|z-y_0\|<\delta/c$ となる $y_0\in Y$ を選べる。$u=(z-y_0)/\|z-y_0\|$ と置く。任意の $y\in Y$ について $y_0+\|z-y_0\|y\in Y$ なので
$$ \|u-y\|=\frac{\|z-(y_0+\|z-y_0\|y)\|}{\|z-y_0\|} \geq\frac{\delta}{\|z-y_0\|}>c. $$
全 $y$ への距離が $c$ より大きく、実際に下限も $\delta/\|z-y_0\|>c$ となる。$\|u\|=1$ は定義から明らかである。$\square$

無限次元の閉単位球はノルムコンパクトでない

無限次元ノルム空間 $V$ の単位閉球はノルム位相でコンパクトでない。

互いに離れた単位ベクトル列を作る

$c=1/2$ とし、単位ベクトル $u_1$ を取る。$u_1,\ldots,u_n$ を選んだら、その線形包 $Y_n$ は有限次元なので閉であり、$V$ が無限次元だから真の部分空間である。Riesz の補題で $\|u_{n+1}\|=1$ かつ $\operatorname{dist}(u_{n+1},Y_n)>1/2$ となるものを選ぶ。$i< j$ なら $u_i\in Y_{j-1}$ だから $\|u_j-u_i\|>1/2$。従って $(u_n)$ のどの部分列も Cauchy 列にならず、収束部分列を持たない。コンパクト距離空間ではすべての列が収束部分列を持つので、単位閉球はコンパクトでない。$\square$

この非コンパクト性は、空間が完備でないせいではない。$\ell^2$ は完備な Hilbert 空間であり、それでも単位閉球はノルムコンパクトでない。「閉かつ有界ならコンパクト」は有限次元または別の特別な状況の性質で、一般の距離空間の公理ではない(EoMMetric)。

弱位相と弱スター位相

無限次元の閉単位球がノルム位相でコンパクトでなくても、別の位相ではコンパクトになる場合がある。Hilbert 空間やより一般に反射的 Banach 空間の閉単位球は弱位相でコンパクトである。また Banach 空間 $V$ の連続双対 $V^*$ の閉単位球は、Banach–Alaogluの定理により弱スター位相でコンパクトである。いずれもどの位相で閉球を見るかが結論の一部である。ノルムコンパクト性を主張しているわけではない。
弱位相では、連続線形汎関数 $f$ を有限個だけ選び、その値 $f(x)$ を小さく制限する集合が基本近傍になる。無限次元空間で有限個の汎関数だけを固定しても、それら全てが消える非零方向が残る。このため弱開集合はノルム方向に無限に延び、ノルム閉球は弱位相の内部を持たない。

無限次元のノルム球の弱内部は空

無限次元ノルム空間 $V$ に弱位相 $\sigma(V,V^*)$ を入れる。有限半径のノルム閉球 $\overline B(a,r)$ は弱位相で内点を持たない。

有限個の汎関数に見えない方向

球内の点 $x$ の任意の基本的な弱近傍は、ある有限個の $f_1,\ldots,f_n\in V^*$ に対する値 $f_i(y-x)$ の制限で与えられる。線形写像 $V\to\mathbb K^n$、$v\mapsto(f_1(v),\ldots,f_n(v))$ は、$V$ が無限次元なので非零の核を持つ。$0\ne v$ を核から取ると、任意のスカラー $t$ に対して $x+tv$ は近傍に残る。一方 $\|x+tv-a\|\geq |t|\|v\|-\|x-a\|$ は $|t|\to\infty$ で無限大になる。従ってどの弱近傍も有限半径の閉球に含まれず、球の弱内部は空である。$\square$

「弱内部が空」と「弱閉でない」は異なる。閉球は凸でノルム閉だから、Hahn–Banach の定理による分離を使えば弱位相でも閉である。ただし弱閉集合が弱コンパクトかどうかはさらに別の問題で、一般の Banach 空間の単位閉球は必ずしも弱コンパクトではない。反射性がその違いを正確に捉える。弱スター位相は双対空間上のさらに別の位相であり、そこでのコンパクト性を扱う記事へ進む際も位相の名前を省かないことが大切である。

完備性と縮む閉球

閉球は完備距離空間で極限を保持する。完備空間の閉部分集合は完備なので、閉球の中の Cauchy 列は球の中で収束する。しかし完備であることとコンパクトであることは別である。無限次元 Banach 空間の閉単位球は完備だが上で示した通りノルムコンパクトではない。
半径が零へ縮む入れ子の閉球には、完備性がより具体的に現れる。中心が動いても球が入れ子なら、中心列の距離を半径で抑えられる。これにより一点への収束を構成できる。

縮む閉球の共通点

完備距離空間 $(X,d)$ で、空でない閉球 $C_n=\overline B(a_n,r_n)$ が $C_{n+1}\subseteq C_n$ を満たし、$r_n\to0$ とする。このとき $\bigcap_{n=1}^{\infty}C_n$ はちょうど一点からなる。

中心列を Cauchy 列にする

$m\geq n$ なら $a_m\in C_m\subseteq C_n$ なので $d(a_m,a_n)\leq r_n$。$r_n\to0$ より $(a_n)$ は Cauchy 列であり、完備性からある $a\in X$ に収束する。固定した $n$ に対して $m\geq n$ なら $a_m\in C_n$ で、$C_n$ は閉なので極限 $a$ も $C_n$ に入る。ゆえに共通部分は空でない。$x,y$ が共通部分にあれば各 $n$ で $d(x,y)\leq2r_n$ だから $d(x,y)=0$、従って $x=y$ である。$\square$

この命題は「閉球なら何本でも共通点がある」と述べていない。入れ子で半径が零に近づくという条件を明記している。半径を一定にしたままでは共通部分が複数点になりうるし、空間の完備性を外すと中心列の極限が空間の外へ逃げうる。例えば $X=\mathbb Q$ を通常の距離で見て、無理数へ近づく有理数中心の小さな閉球を適切に入れ子にすると、$\mathbb Q$ 内の共通点を持たない。閉球の閉性はあくまでその空間の内部での閉性である。

反例の表

本文の命題の仮定を外すと結論が崩れることを、外す条件ごとにまとめる。

外す条件反例成り立たなくなること
ノルム空間であること(prop-closed-ball-norm-closure)離散距離、$r=1$$\operatorname{cl}B(a,r)=\overline B(a,r)$
半径が正であること(同上)任意のノルム空間、$r=0$同上(左辺 $\emptyset$、右辺 $\{a\}$)
有限次元であること$\ell^2$ の標準基底(ex-closed-ball-l2)閉球はコンパクト
空間の完備性(prop-closed-ball-nested)$\mathbb Q$ の中の、$\sqrt2$ の小数近似を中心とする閉球共通部分が空でない
半径が $0$ に近づくこと(同上)$\mathbb R$ で $C_n=\overline B(0,1)$ がすべて同じ共通部分が一点
反例:完備でない空間では縮む閉球の共通部分が空になる

$X=\mathbb Q$ に通常の距離を入れる。$a_n=\lfloor10^n\sqrt2\rfloor/10^n\in\mathbb Q$ とすると $a_n\le\sqrt2< a_n+10^{-n}$ である。$r_n=2\cdot10^{-n}$ とし、$C_n=\{q\in\mathbb Q\mid\lvert q-a_n\rvert\le r_n\}$ とおく。$\lvert a_{n+1}-a_n\rvert\le\lvert a_{n+1}-\sqrt2\rvert+\lvert\sqrt2-a_n\rvert<10^{-n-1}+10^{-n}$ だから、prop-closed-ball-diameter の包含の条件 $r_n\ge r_{n+1}+d(a_n,a_{n+1})$ は $2\cdot10^{-n}\ge0.2\cdot10^{-n}+1.1\cdot10^{-n}$ により満たされ、$C_{n+1}\subseteq C_n$ である。$r_n\to0$ でもある。$q\in\mathbb Q$ がすべての $C_n$ に属すれば、$\lvert q-\sqrt2\rvert\le\lvert q-a_n\rvert+\lvert a_n-\sqrt2\rvert<3\cdot10^{-n}$ がすべての $n$ で成り立ち $q=\sqrt2$ となるが、$\sqrt2$ は有理数でない。したがって $\bigcap_nC_n=\emptyset$ である。破るのは完備性であり、prop-closed-ball-nested の証明で中心列 $(a_n)$ は Cauchy 列だが、その極限 $\sqrt2$ が $X$ の外にある。

反例:半径が縮まなければ共通部分は一点とは限らない

$X=\mathbb R$ で $C_n=\overline B(0,1)=[-1,1]$ とすると、入れ子の条件は満たされるが $r_n=1$ は $0$ に近づかない。共通部分は $[-1,1]$ で、無限個の点をもつ。prop-closed-ball-nested の一意性の証明の $d(x,y)\le2r_n$ から $d(x,y)=0$ を導く段が崩れる。

離散距離と $r=0$ の行は ex-closed-ball-discrete と「開球の閉包との関係」の節で、$\ell^2$ の行は ex-closed-ball-l2 で確かめた。

使い分けと誤解

  • 閉球と開球の閉包. 記号に上線があっても、一般距離空間では等しいとは限らない。ノルム空間では正半径で等しい。
  • 閉かつ有界とコンパクト. 任意の距離空間で閉球は閉かつ有界だが、ノルムコンパクト性は無限次元で失敗する。有限次元の Heine–Borel の結論をそのまま移さない。
  • 距離に依存する大きさ. 同じ集合に同じ位相を与える二つの距離でも、どの部分集合が有界でどの形の球になるかは変わりうる。球は位相だけでなく距離 $d$ から定まる。
  • 位相の指定. 双対閉球の弱スターコンパクト性とノルムコンパクト性は別の主張である。収束部分列を取りたいなら、対象の位相と列コンパクト性に必要な仮定を確認する。

参照箇所

  • Axl20 Chapter 6A, Definition 6.3, p. 148:距離空間の開球・閉球の定義。同章 pp. 148–149 は開閉性と距離位相の基礎を扱う。
  • EoMMetric:距離空間の球、有界性、全有界性、コンパクト性の区別。

関連項目

参考文献

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