Reinhardt領域(Reinhardt domain)とは、$\mathbb C^n$ の開集合で、各座標を独立に回転する写像 $(z_j)\mapsto(e^{i\theta_j}z_j)$ で不変なもので、多重円板や球がその例である。連結な Reinhardt 領域の上の正則関数は単項式の和に展開され、領域が原点を含めば 1 つの冪級数で領域全体に表される。冪級数の収束域は、絶対値を小さくしても外へ出ず(完全)、絶対値の対数の像が凸(対数凸)な Reinhardt 領域である。このため原点を含む連結な Reinhardt 領域の上の正則関数は、それを含む最小の完全で対数凸な Reinhardt 領域へすべて延長され、そのような領域が正則領域であるには完全かつ対数凸であることが必要である。
Reinhardt領域(Reinhardt domain)とは、$\mathbb C^n$ の開集合 $\Omega$ で、各座標を独立に回転する写像 $(z_1,\dots,z_n)\mapsto(e^{i\theta_1}z_1,\dots,e^{i\theta_n}z_n)$ で不変なものである。点 $z\in\Omega$ が属するかどうかは絶対値の組 $(|z_1|,\dots,|z_n|)$ だけで決まるので、Reinhardt 領域は $\mathbb R_{\ge0}^n$ の中の図、さらに対数をとって $\mathbb R^n$ の中の図で表せる。多重円板 や球はその例である。
1 変数では、原点を中心とする円板と円環が冪級数と Laurent 級数の自然な定義域であった。多変数で同じ役割を果たすのが Reinhardt 領域である。連結な Reinhardt 領域の上の正則関数は、単項式 $z^\alpha$ の和に展開される(Laurent 展開)。原点を含めば負の冪は現れず、関数は 1 つの冪級数で領域全体に表される。逆に冪級数の収束域は、原点を含み、絶対値を小さくしても外へ出ない(完全)で、対数をとった図が凸(対数凸)な Reinhardt 領域になる。この 2 つを合わせると、原点を含む連結な Reinhardt 領域の上の正則関数は、それを含む最小の完全で対数凸な Reinhardt 領域へすべて延長される。これは Hartogsの拡張定理 と同じ種類の、多変数に特有の現象であり、原点を含む連結な Reinhardt 領域が 正則領域 であるためには完全かつ対数凸であることが必要になる。
この記事では、Reinhardt 領域上の Laurent 展開、冪級数の収束域の形、最小の完全で対数凸な Reinhardt 領域への延長を証明し、正則領域との関係を述べる。
$\mathbb C^*:=\mathbb C\setminus\{0\}$ とする。多重指数 $\alpha\in\mathbb Z^n$ と $z\in(\mathbb C^*)^n$ について $z^\alpha:=z_1^{\alpha_1}\cdots z_n^{\alpha_n}$、$|\alpha|:=\sum_j|\alpha_j|$ と書き、$\alpha\in\mathbb N^n$ なら $z^\alpha$ はすべての $z\in\mathbb C^n$ で定める($0^0=1$)。$t\in\mathbb C^n$ と $z\in\mathbb C^n$ の成分ごとの積を $t\cdot z:=(t_1z_1,\dots,t_nz_n)$ と書き、$\theta\in\mathbb R^n$ について $e^{i\theta}:=(e^{i\theta_1},\dots,e^{i\theta_n})$、$\xi\in\mathbb R^n$ について $e^\xi:=(e^{\xi_1},\dots,e^{\xi_n})$ とおく。$H_j:=\{z\mid z_j=0\}$ を座標超平面という。
$\Omega\subset\mathbb C^n$ を開集合とする。
Reinhardt 領域では $z\in\Omega$ と $(|z_1|,\dots,|z_n|)\in\Omega$ は同値なので、$\Omega^*$ は $\Omega\cap(\mathbb C^*)^n$ の点の絶対値の対数の組の全体 $\{(\log|z_1|,\dots,\log|z_n|)\mid z\in\Omega\cap(\mathbb C^*)^n\}$ に等しい。$\Omega$ が開なので $\Omega^*$ も開である。この記事の「Reinhardt 領域」は連結性を仮定しない。連結性が要るところでは「連結な Reinhardt 領域」と書く。
空でない完全な Reinhardt 領域は原点を含み、各点 $z$ と原点を結ぶ線分 $\{tz\mid0\le t\le1\}$ を含むので連結である。完全な Reinhardt 領域 $\Omega$ では、$\Omega^*$ は下に閉じている($\xi\in\Omega^*$ で $\eta_j\le\xi_j$ なら $\eta\in\Omega^*$)。さらに
$$
z\in\Omega\iff\text{ある }\xi\in\Omega^*\text{ について }|z_j|< e^{\xi_j}\ (j=1,\dots,n)\qquad(1)
$$
が成り立つ。実際、$z\in\Omega$ なら、$\Omega$ が開なので、すべての $j$ で $|w_j|>|z_j|$ かつ $w_j\ne0$ となる $w\in\Omega$ がとれ、$\xi_j:=\log|w_j|$ とおけばよい。逆は完全性による。つまり完全な Reinhardt 領域は、$\Omega^*$ の点を対数の多重半径とする多重円板 $\Delta(0,e^\xi)$ の和集合である。
例 5 の $H$ の上の正則関数はすべて双円板 $\{|z_1|< 1,\ |z_2|< 1\}$ へ延長される。これは下の thm-rd-hull の特別な場合である(ex-rd-hull-examples の 1)。
$G\subset\mathbb C^n$ を連結な開集合とする。このとき $G\setminus(H_1\cup\dots\cup H_n)=G\cap(\mathbb C^*)^n$ は連結で、$G$ の中で稠密である。
要点:1 つの超平面 $H_j$ を除いても連結であることを示せば、$j=1,\dots,n$ と順に除いていけばよい。$H_j$ の点のまわりの多重円板から $H_j$ を除いたものは、穴あき円板を因子にもつ直積なので連結であり、これで $G\setminus H_j$ の 2 つの部分への分割が $G$ の分割へ延びてしまう。
$G\setminus H_j$ は空でない(空でない開集合は超平面に含まれない)。$p\in G\cap H_j$ ごとに $p$ を中心とする多重円板 $P_p\subset G$ を 1 つとる。$P_p\setminus H_j$ は、第 $j$ 因子が穴あき円板で残りが円板の直積なので連結で、空でない。また $P_p$ の点はどれも $P_p\setminus H_j$ の点の極限なので、$G\setminus H_j$ は $G$ で稠密である。
$G\setminus H_j=A\sqcup B$($A$、$B$ は互いに交わらない開集合)とする。各 $p\in G\cap H_j$ について、連結な $P_p\setminus H_j$ は $A$ と $B$ の一方に含まれる。$\tilde A:=A\cup\{p\in G\cap H_j\mid P_p\setminus H_j\subset A\}$ とし、$\tilde B$ も同様に定めると、$G=\tilde A\sqcup\tilde B$ である。$\tilde A$ は開である。実際 $p\in\tilde A\cap H_j$ と $p'\in P_p$ について、$p'\notin H_j$ なら $p'\in P_p\setminus H_j\subset A$ であり、$p'\in H_j$ なら $P_{p'}\cap P_p$ は $p'$ を含む空でない開集合なので $(P_{p'}\cap P_p)\setminus H_j\ne\emptyset$ で、連結な $P_{p'}\setminus H_j$ は $A$ と交わるから $A$ に含まれ、$p'\in\tilde A$ である。よって $P_p\subset\tilde A$ である。$\tilde B$ も開である。$G$ は連結なので $\tilde A$ と $\tilde B$ の一方は空で、$A$ と $B$ の一方は空である。よって $G\setminus H_j$ は連結である。$G\setminus H_1$ は連結な開集合なので、同じ議論を $H_2,\dots,H_n$ について繰り返せばよい。$\square$
$\Omega\subset\mathbb C^n$ を連結な Reinhardt 領域、$f\in\mathcal O(\Omega)$ とする。
要点:回転の平均 $f_\alpha(z):=(2\pi)^{-n}\int f(e^{i\theta}\cdot z)e^{-i\alpha\cdot\theta}d\theta$ をとる。$f_\alpha$ は $f_\alpha(e^{i\varphi}\cdot z)=e^{i\alpha\cdot\varphi}f_\alpha(z)$ をみたす正則関数で、これを微分すると $z_j\partial_jf_\alpha=\alpha_jf_\alpha$ となり、$f_\alpha z^{-\alpha}$ は連結な $\Omega\cap(\mathbb C^*)^n$ の上で定数である。積分する円周の半径を少し動かして $|f_\alpha|\le Me^{-\delta|\alpha|}$ を得て、1 変数の Laurent 展開を変数ごとに使うと $f=\sum_\alpha f_\alpha$ となる。
段 1(回転の平均).$\alpha\in\mathbb Z^n$ と $z\in\Omega$ について $f_\alpha(z):=(2\pi)^{-n}\int_{[0,2\pi]^n}f(e^{i\theta}\cdot z)e^{-i\alpha\cdot\theta}\,d\theta$ とおく。被積分関数は $(\theta,z)$ について連続で $z$ について正則なので、Riemann 和は $z$ の正則関数で $z$ のコンパクト集合の上で一様に $f_\alpha$ に収束し、多変数の正則関数 の定理「局所一様極限」により $f_\alpha\in\mathcal O(\Omega)$ である。積分変数を $\theta-\varphi$ にずらすと、周期性から $f_\alpha(e^{i\varphi}\cdot z)=e^{i\alpha\cdot\varphi}f_\alpha(z)$ である。$\varphi_j$ で微分して $\varphi=0$ とおくと、左辺の微分は $\partial_jf_\alpha(z)\cdot iz_j$ なので、次が成り立つ。
$$z_j\,\partial_jf_\alpha(z)=\alpha_j\,f_\alpha(z)\qquad(z\in\Omega)$$
段 2(単項式であること).$G:=\Omega\cap(\mathbb C^*)^n$ の上で $h:=f_\alpha z^{-\alpha}$ は正則で、$\partial_jh=z^{-\alpha}(\partial_jf_\alpha-\alpha_jf_\alpha/z_j)=0$($j=1,\dots,n$)である。すべての偏導関数が $0$ の正則関数は、各点のまわりの多重円板で Taylor 展開が定数項だけになるので局所的に定数である。lem-rd-connected により $G$ は連結なので、$h$ は定数 $a_\alpha$ であり、$G$ の上で $f_\alpha=a_\alpha z^\alpha$ である。$w\in G$ について $\zeta=e^{i\theta}\cdot w$ とおくと $d\zeta_j=i\zeta_jd\theta_j$ なので、$a_\alpha=f_\alpha(w)w^{-\alpha}$ は 1 の積分の式になる。
段 3(係数の評価).$K\subset\Omega$ をコンパクトとする。$\Omega=\mathbb C^n$ でなければ、回転で動かした集合 $T\!K:=\{e^{i\theta}\cdot z\mid z\in K\}$ は $\Omega$ のコンパクト集合(連続写像の像)なので、最大値ノルムで測った $\mathbb C^n\setminus\Omega$ までの距離が正の数 $2\eta$ 以上である。$R:=\max_K\|z\|_\infty$ とし、$(e^{2\delta}-1)R< 2\eta$ となる $\delta>0$ をとる。$e^{-2\delta}\le|t_j|\le e^{2\delta}$ なら $\|t\cdot z-(t/|t|)\cdot z\|_\infty\le(e^{2\delta}-1)R$ なので $t\cdot z\in\Omega$ であり、$K_\delta:=\{t\cdot z\mid z\in K,\ e^{-\delta}\le|t_j|\le e^\delta\}$ は $\Omega$ のコンパクト集合である($\Omega=\mathbb C^n$ なら $\delta=1$ とする)。$M:=\max_{K_\delta}|f|$ とおく。$z\in K$ を固定すると、$g(t):=f(t\cdot z)$ は $\{e^{-2\delta}<|t_j|< e^{2\delta}\}$ の上で正則で、$f_\alpha(z)=(2\pi i)^{-n}\int_{|t_j|=1}g(t)t^{-\alpha-\mathbf 1}dt$ である。Laurent展開 の補題「同心円周上の積分の不変性」を変数ごとに使うと、円周 $|t_j|=1$ を $|t_j|=\rho_j\in[e^{-\delta},e^\delta]$ に替えてよい。$\alpha_j\ge0$ なら $\rho_j=e^\delta$、$\alpha_j< 0$ なら $\rho_j=e^{-\delta}$ にとると $|f_\alpha(z)|\le M\rho^{-\alpha}=Me^{-\delta|\alpha|}$ である。$\sum_{\alpha\in\mathbb Z^n}e^{-\delta|\alpha|}=\bigl(\sum_{k\in\mathbb Z}e^{-\delta|k|}\bigr)^n<\infty$ なので、$\sum_\alpha\sup_K|f_\alpha|<\infty$ である。
段 4(和が $f$ であること).$z\in\Omega$ を固定し、段 3 の $g$ と $c_\alpha:=(2\pi i)^{-n}\int_{|t_j|=1}g(t)t^{-\alpha-\mathbf 1}dt=f_\alpha(z)$ を考える。「$m$ 変数の関数 $\phi$ が多重円環 $\{e^{-2\delta}<|t_j|< e^{2\delta}\}$ の上で正則で、係数 $c_\alpha(\phi):=(2\pi i)^{-m}\int_{|t_j|=1}\phi(t)t^{-\alpha-\mathbf 1}dt$ が $\sum_\alpha|c_\alpha(\phi)|<\infty$ をみたせば $\phi(\mathbf 1)=\sum_\alpha c_\alpha(\phi)$」を $m$ についての帰納法で示し、$\phi=g$ に当てる。$m=1$ は Laurent展開 の定理「Laurent 展開の存在」で $t=1$ とおいたものである。$m\ge2$ では、第 1 変数について Laurent 展開して $\phi(t_1,t')=\sum_kh_k(t')t_1^k$、$h_k(t'):=\frac1{2\pi i}\int_{|s|=1}\phi(s,t')s^{-k-1}ds$ とする。$h_k$ は段 1 と同じ理由で $t'$ について正則で、$c_{\alpha'}(h_k)=c_{(k,\alpha')}(\phi)$ なので、帰納法の仮定から $h_k(\mathbf 1')=\sum_{\alpha'}c_{(k,\alpha')}(\phi)$ である。$\sum_\alpha|c_\alpha(\phi)|<\infty$ なので和の順序を替えてよく、$\phi(\mathbf 1)=\sum_kh_k(\mathbf 1')=\sum_\alpha c_\alpha(\phi)$ となる。$g$ については段 3 により $\sum_\alpha|c_\alpha|<\infty$ である。よって $f(z)=\sum_\alpha f_\alpha(z)$ であり、1 の存在と正規収束が示された($K\subset G$ のとき段 3 を使う)。
段 5(一意性).$\sum_\beta b_\beta z^\beta$ が $G$ のコンパクト集合の上で正規収束して $f$ に等しければ、$w\in G$ で $f(e^{i\theta}\cdot w)=\sum_\beta b_\beta w^\beta e^{i\beta\cdot\theta}$ を項別に積分して $f_\alpha(w)=b_\alpha w^\alpha$、すなわち $b_\alpha=a_\alpha$ である。
段 6(2 の証明).$p\in\Omega\cap H_j$ とする。$\Omega$ は開なので、第 $j$ 成分が $0$ で他の成分が $0$ でない点 $q\in\Omega$ がとれ、小さい $s\ne0$ について $q$ の第 $j$ 成分を $s$ に替えた点 $q(s)$ も $G$ に属する。$\alpha_j< 0$ なら $f_\alpha(q(s))=a_\alpha s^{\alpha_j}\prod_{k\ne j}q_k^{\alpha_k}$ は $s\to0$ で $f_\alpha(q)$ に収束するので、$a_\alpha=0$ である。よって $a_\alpha\ne0$ となる $\alpha$ の負の成分は $\Omega$ の上で $0$ にならない座標にしかなく、$a_\alpha z^\alpha$ は $\Omega$ の上の正則関数である。$G$ は $\Omega$ で稠密(lem-rd-connected)なので、連続性から $\Omega$ 全体で $f_\alpha=a_\alpha z^\alpha$ であり、段 3・段 4 は $\Omega$ のすべての点とコンパクト集合で成り立つ。$\square$
この証明は、回転で平均をとって単項式の成分を取り出すもので、Hor90 Theorem 2.4.5(pp. 35–36)の証明(原点からの距離に応じて領域を縮め、Cauchy の積分公式の核を展開する)とは別の筋である。$n=1$ の 2 は、原点を含む円板では Laurent 展開が冪級数になることにあたる。
2 から、$\Omega$ が原点を含めばすべての $H_j$ と交わるので、展開は冪級数になる。
$\Omega$ を原点を含む連結な Reinhardt 領域、$f\in\mathcal O(\Omega)$ とする。このとき $f(z)=\sum_{\alpha\in\mathbb N^n}\frac{\partial^\alpha f(0)}{\alpha!}z^\alpha$ が成り立ち、右辺は $\Omega$ の任意のコンパクト集合の上で正規収束する。
thm-rd-laurent の 2 により、$f=\sum_{\alpha\in\mathbb N^n}a_\alpha z^\alpha$ が $\Omega$ のコンパクト集合の上で正規収束する。原点のまわりの多重円板の上で、この冪級数は 多重円板 の定理「冪級数展開」の Taylor 級数と同じ関数を表すので、係数を比べて(同じ定理の証明の係数の積分表示による)$a_\alpha=\partial^\alpha f(0)/\alpha!$ である。$\square$
系は Hor90 Theorem 2.4.5(p. 35)である。$\Omega$ が多重円板でなくても、原点での Taylor 級数が $\Omega$ 全体で収束する点が要点である。
冪級数 $\sum_{\alpha\in\mathbb N^n}c_\alpha z^\alpha$ について、点 $z$ のある近傍のすべての点で級数が絶対収束するような $z$ の全体を収束域 $D$ といい、
$$
B:=\Bigl\{z\in\mathbb C^n\Bigm|\sup_\alpha|c_\alpha z^\alpha|<\infty\Bigr\}
$$
とおく。$D$ は開集合である。
要点:内部の点 $z$ に対し、すべての成分の絶対値が $z$ より大きい $B$ の点 $w$ がとれ、Abel の補題で多重円板 $\Delta(0,|w|)$ の上で正規収束する。対数凸性は $|c_\alpha|e^{\alpha\cdot\xi}$ が $\xi$ について対数凸であること、すなわち $|c_\alpha|e^{\alpha\cdot(\lambda\xi+(1-\lambda)\eta)}=(|c_\alpha|e^{\alpha\cdot\xi})^\lambda(|c_\alpha|e^{\alpha\cdot\eta})^{1-\lambda}$ による。
1:$z\in D$ なら $z$ で絶対収束するので項は有界で $z\in B$ であり、$D$ は開なので $D\subset B^\circ$ である。逆に $z\in B^\circ$ とする。$B^\circ$ は開なので、小さい $\eta>0$ について、$z_j\ne0$ なら $w_j:=(1+\eta)z_j$、$z_j=0$ なら $w_j:=\eta$ とおいた $w$ は $B$ に属する。$w$ の成分はすべて $0$ でなく $|w_j|>|z_j|$ なので、多重円板 の命題「Abel の補題(多変数)」により級数は $\Delta(0,|w|)$ のコンパクト集合の上で正規収束し、とくに $z\in D$ である。$D$ のコンパクト集合はこのような多重円板の有限個で覆えるので正規収束し、和の正則性も同じ命題による。
2:$B$ は回転で不変で、$z\in B$ かつ $|w_j|\le|z_j|$ なら $w\in B$ である。$z\in D$、$|w_j|\le|z_j|$ とすると、1 の $w'$(すべての $j$ で $|w'_j|>|z_j|$、$w'\in B$)について $w\in\Delta(0,|w'|)\subset D$ である。よって $D$ は完全な Reinhardt 領域である。$B^*:=\{\xi\mid e^\xi\in B\}$ とおく。$\xi,\eta\in B^*$ で $|c_\alpha|e^{\alpha\cdot\xi}\le C_1$、$|c_\alpha|e^{\alpha\cdot\eta}\le C_2$ なら、$0\le\lambda\le1$ について $|c_\alpha|e^{\alpha\cdot(\lambda\xi+(1-\lambda)\eta)}\le C_1^\lambda C_2^{1-\lambda}$ なので、$B^*$ は凸である。$D^*$ は $B^*$ の内部に等しい。実際 $e^\xi\in D=B^\circ$ なら $\xi$ の近傍は $B^*$ に入り、逆に $\xi\in(B^*)^\circ$ なら小さい $\varepsilon>0$ について $\xi+\varepsilon\mathbf 1\in B^*$ で、1 と同じく $e^\xi\in\Delta(0,e^{\xi+\varepsilon\mathbf 1})\subset D$ である。凸集合の内部は凸なので(2 点のまわりの球の凸結合は、凸結合の点のまわりの球を含む)、$D^*$ は凸である。下に閉じていることと (1) は、完全性による(def-rd-main の後の注意)。$\square$
定理は Hor90 Lemma 2.4.1、Theorem 2.4.2・2.4.3(p. 34)である。逆に、$\mathbb R^n$ の下に閉じた空でない開凸集合 $\Omega^*$ から (1) で定めた領域 $\Omega$ は、ある冪級数の収束域になる(Hor90 Corollary 2.5.8、p. 40。この記事では証明しない)。
$\Omega$ を原点を含む連結な Reinhardt 領域とする。$\Omega$ は原点のまわりの多重円板を含むので $\Omega^*$ は空でない。$\Omega^*$ の凸包を $\operatorname{conv}\Omega^*$ とし(凸包)、
$$
L:=\operatorname{conv}\Omega^*+(-\infty,0]^n,\qquad\widehat\Omega:=\bigl\{z\in\mathbb C^n\bigm|\text{ある }\xi\in L\text{ について }|z_j|< e^{\xi_j}\ (j=1,\dots,n)\bigr\}
$$
とおく。
$\widehat\Omega$ は $\Omega$ を含む完全で対数凸な Reinhardt 領域で、$\widehat\Omega^*=L$ である。$\Omega$ を含む完全で対数凸な Reinhardt 領域はすべて $\widehat\Omega$ を含む。
要点:$L$ は下に閉じた開凸集合で、$\Omega^*$ を含む下に閉じた凸集合のうち最小のものである。
$\operatorname{conv}\Omega^*$ は開である:その点 $\sum_i\lambda_i\xi^i$($\xi^i\in\Omega^*$)で $\lambda_i>0$ となる $i$ を 1 つとると、$\xi^i$ のまわりの球 $U\subset\Omega^*$ について、$\xi^i$ を $U$ の点に替えた凸結合は $\sum_i\lambda_i\xi^i$ のまわりの球を覆う。開集合と任意の集合の和は開なので $L$ は開で、凸集合の和なので凸で、$L+(-\infty,0]^n=L$ から下に閉じている。
$\widehat\Omega$ は多重円板の和なので開で、回転で不変で完全である。$\xi\in L$ なら $L$ が開なので $\xi+\varepsilon\mathbf 1\in L$ となる $\varepsilon>0$ があり、$e^\xi\in\widehat\Omega$ である。逆に $e^\eta\in\widehat\Omega$ なら $\eta_j<\xi_j$ となる $\xi\in L$ があり、下に閉じていることから $\eta\in L$ である。よって $\widehat\Omega^*=L$ で、$\widehat\Omega$ は対数凸である。$z\in\Omega$ なら、def-rd-main の後の注意と同じく $|w_j|>|z_j|$、$w_j\ne0$ となる $w\in\Omega$ がとれ、$\xi:=(\log|w_j|)_j\in\Omega^*\subset L$ について $|z_j|< e^{\xi_j}$ なので $z\in\widehat\Omega$ である。
$U\supset\Omega$ を完全で対数凸な Reinhardt 領域とすると、$U^*\supset\Omega^*$ で、$U^*$ は凸で下に閉じているので $U^*\supset L$ である。$z\in\widehat\Omega$ なら $|z_j|< e^{\xi_j}$、$\xi\in L\subset U^*$ で、$e^\xi\in U$ と完全性から $z\in U$ である。$\square$
$\Omega$ を原点を含む連結な Reinhardt 領域とする。このとき、すべての $f\in\mathcal O(\Omega)$ は $\widehat\Omega$ の上の正則関数にただ 1 通りに延長される。延長は $f$ の原点での Taylor 級数の和である。
cor-rd-taylor により、$f$ の原点での Taylor 級数は $\Omega$ のコンパクト集合の上で正規収束する。$\Omega$ の各点は $\Omega$ の中にコンパクトな近傍をもつので、$\Omega$ はこの級数の収束域 $D$ に含まれる。thm-rd-domain により $D$ は完全で対数凸な Reinhardt 領域なので、prop-rd-hull により $\widehat\Omega\subset D$ である。級数の和 $F$ は $D$ の上で正則で、$\Omega$ の上で $f$ に等しい。完全な Reinhardt 領域 $\widehat\Omega$ は連結なので、一致の定理(多変数の正則関数 の定理「多変数の一致の定理」)により延長は一意である。$\square$
定理は Hor90 Theorem 2.4.6(p. 36)である。$\widehat\Omega$ を $\Omega$ の対数凸包と呼ぶことにする。
1:$H^*=\{\xi_1<0,\ \xi_2<-\log2\}\cup\{-\log2<\xi_1<0,\ \xi_2<0\}$ である。$\xi_1<0$、$\xi_2<0$ の点は、$\xi_2<-\log2$ なら第 1 の集合に属し、そうでなければ第 2 の集合の点 $(\xi_1',\xi_2)$($-\log2<\xi_1'<0$)より下にあるので $L$ に属する。$L$ は $(-\infty,0)^2$ に含まれるので $L=(-\infty,0)^2$ で、$\widehat H$ は双円板である。
2:$\Omega_\varepsilon^*=R_1\cup R_2$、$R_1:=\{\xi_1<0,\ \xi_2<\log\varepsilon\}$、$R_2:=\{\xi_1<\log\varepsilon,\ \xi_2<0\}$ である。$L=\{\xi_1<0,\ \xi_2<0,\ \xi_1+\xi_2<\log\varepsilon\}=:L'$ を示す。$L'$ は下に閉じた凸集合で $R_1$、$R_2$ を含むので $L\subset L'$ である。逆に $\xi\in L'$ とする。$\xi_1<\log\varepsilon$ または $\xi_2<\log\varepsilon$ なら $R_2$ か $R_1$ に属する。$\xi_1,\xi_2\ge\log\varepsilon$ なら、$\xi_1+\xi_2< a<\log\varepsilon$ となる $a$ をとり、$y:=\xi+\frac{a-\xi_1-\xi_2}2(1,1)$ とおく。$y\ge\xi$(成分ごと)で $y_1+y_2=a$ である。小さい $\eta>0$ について $P_1:=(-\eta,a+\eta)\in R_1$、$P_2:=(a+\eta,-\eta)\in R_2$ で、線分 $[P_1,P_2]$ は直線 $y_1+y_2=a$ の $a+\eta\le y_1\le-\eta$ の部分である。$y_1=\frac{a+\xi_1-\xi_2}2$ は、$\xi_1<0$、$a<\xi_2$ から $0$ より小さく、$\xi_2<0$、$a<\log\varepsilon\le\xi_1$ から $a+\xi_2<\xi_1$ なので $a$ より大きい。よって $\eta$ が十分小さければ $y\in[P_1,P_2]\subset\operatorname{conv}\Omega_\varepsilon^*$ で、$\xi\le y$ から $\xi\in L$ である。$L'$ から定まる領域が右辺であることは、成分が $0$ の点を別に見ればよい($z_1=0$ または $z_2=0$ の点は $\Omega_\varepsilon$ にも右辺にも、条件 $|z_j|<1$ だけで属する)。
$g$ の Taylor 級数は $\sum_kz_1^k+\sum_kz_2^k+\sum_k\varepsilon^{-k}(z_1z_2)^k$ で、係数はすべて $0$ 以上である。$\sup_\alpha|c_\alpha z^\alpha|<\infty$ は $|z_1|\le1$、$|z_2|\le1$、$|z_1z_2|\le\varepsilon$ と同値なので、thm-rd-domain の 1 により収束域は $B$ の内部 $\{|z_1|< 1,\ |z_2|< 1,\ |z_1z_2|<\varepsilon\}$ である。
正則領域 の定義「正則領域」から、対数凸包への延長は次の帰結をもつ。
原点を含む連結な Reinhardt 領域 $\Omega$ が正則領域ならば、$\Omega=\widehat\Omega$ であり、とくに $\Omega$ は完全で対数凸である。
$\Omega\subsetneq\widehat\Omega$ とする。$W:=\widehat\Omega$、$V:=\Omega$ とおくと、$W$ は連結で $W\not\subset\Omega$、$V\subset\Omega\cap W$ であり、thm-rd-hull によりすべての $f\in\mathcal O(\Omega)$ に $V$ の上で $f$ と一致する $F\in\mathcal O(W)$ がある。これは $\Omega$ が正則領域であることに反する。$\square$
逆も成り立つ。原点を含む連結な Reinhardt 領域 $\Omega$ について、(i) $\Omega$ はある冪級数の収束域である、(ii) $\Omega$ は正則領域である、(iii) $\Omega$ は完全で対数凸である、の 3 条件は同値である(Hor90 Corollary 2.5.8、p. 40)。この記事で示したのは (i) ⇒ (iii)(thm-rd-domain)と (ii) ⇒ (iii)(cor-rd-domain-of-holomorphy)である。(iii) ⇒ (ii) の証明は、正則凸包のコンパクト性による正則領域の判定(正則領域 の定理「Cartan–Thullen の定理」)を単項式の評価に当てるもので、この記事では証明しない。多重円板・球が正則領域であることは 正則領域 の例「正則領域の例」からわかる。$\{|z_1z_2|<1\}$ は凸でないが、境界点 $q$($|q_1q_2|=1$)ごとに $f_q=(z_1z_2-q_1q_2)^{-1}$ がこの領域の上で正則で $z\to q$ のとき発散するので、同記事の命題「境界で発散する関数による判定」により正則領域である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 連結性 | $\mathbb C$ の $\{\lvert z\rvert<1\}\cup\{2<\lvert z\rvert<3\}$ の上で円板で $0$、円環で $1$ の関数 | 1 つの冪級数で表せること(cor-rd-taylor) |
| 回転で不変なこと | $\mathbb C$ の円板 $\{\lvert z-1\rvert<\frac32\}$ と $f(z)=\frac1{z+3/5}$ | 原点での Taylor 級数が領域全体で収束すること |
| 原点を含むこと | $\mathbb C$ の円環 $\{\frac12<\lvert z\rvert<2\}$ と $f(z)=\frac1z$ | 冪級数で表せること(負の冪が要る) |
| 対数凸性(完全性はある) | 十字形 $\Omega_\varepsilon$ | 正則領域であること |
各行は次のように確かめられる。
1 行目:冪級数が両方の部分で正規収束して関数に等しければ、円板の上で $0$ なので係数はすべて $0$ で、円環の上の値 $1$ と矛盾する。
2 行目:$-\frac35$ は $|{-\frac35}-1|=\frac85>\frac32$ なので領域の外にあり、$f$ は領域で正則である。原点での Taylor 級数 $\sum_k\frac53(-\frac53z)^k$ の収束半径は $\frac35$ だが、領域は $z=2$ を含む。
3 行目:$\frac1z=\sum_{k\ge0}a_kz^k$ が円環で成り立てば、右辺は $|z|=\frac32$ で収束するので $|z|<\frac32$ で正則な関数 $h$ を定め、$zh(z)=1$ が円環の部分で、したがって一致の定理により $|z|<\frac32$ 全体で成り立つが、$z=0$ で矛盾する。
4 行目:$\Omega_\varepsilon$ は完全だが、$\Omega_\varepsilon^*=R_1\cup R_2$ は凸でない(ex-rd-hull-examples の 2 で $L\ne\Omega_\varepsilon^*$)。$\widehat\Omega_\varepsilon\ne\Omega_\varepsilon$ なので、cor-rd-domain-of-holomorphy により $\Omega_\varepsilon$ は正則領域でない。
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