Tutteの定理

同義語:Tutteの1因子定理Tutteの1-因子定理1因子定理Tutte's theoremTutte's 1-factor theorem

概要

Tutteの定理(Tutte's theorem)とは、有限グラフ $G=(V,E)$ が完全マッチング(1-因子)をもつための必要十分条件は、すべての $S\subset V$ について、$G-S$ の連結成分のうち頂点数が奇数のものの個数 $o(G-S)$ が $|S|$ 以下であることだ、という定理である。必要性は奇数個の頂点からなる各成分が $S$ の頂点を 1 つずつ使うことから分かり、十分性は辺について極大な反例の形を調べて示される。系として、橋をもたない有限の 3-正則グラフは完全マッチングをもち(Petersen の定理)、最大マッチングの大きさは $(|V|+|S|-o(G-S))/2$ の $S$ についての最小値に等しい(Tutte–Berge の公式)。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: グラフ, マッチング(グラフ理論), 部分グラフ

Tutte の定理(Tutte's theorem)とは、有限グラフ $G=(V,E)$ が完全マッチングをもつための必要十分条件を与える定理である。頂点の部分集合 $S\subset V$ を取り除いたグラフ $G-S$ の連結成分のうち、頂点数が奇数のものの個数を $o(G-S)$ と書くとき、
$$ G\text{ は完全マッチングをもつ}\iff\text{すべての }S\subset V\text{ について }o(G-S)\le|S| $$
が成り立つ(Tutte、1947 年。Die25 Theorem 2.2.1、p. 44)。完全マッチングは、すべての頂点の次数が $1$ の全域部分グラフ、すなわち 1-因子 とも呼ばれるので、この定理は 1-因子定理 ともいう。
二部グラフに限れば、完全マッチングの存在は、2 つの部集合の大きさが等しいことと Hall の条件で判定できる(Hallの結婚定理)。Tutte の定理は二部とは限らない一般のグラフでの判定法である。右辺の条件の必要性はすぐ分かり、定理の中身は「この明らかな障害がなければ完全マッチングがある」という十分性にある。
この記事では、Tutte の定理を Lovász による辺を増やす方法で証明し、系として、橋をもたない有限の 3-正則グラフが完全マッチングをもつこと(Petersen の定理)と、最大マッチングの大きさを与える Tutte–Berge の公式を証明する。なお、3-連結グラフについての Tutte の車輪定理(車輪グラフ の注意「Tutte の車輪定理」)は別の定理である。

定義

この記事のグラフは、とくに断らない限り有限の単純無向グラフ $G=(V,E)$ とする(グラフ の記事の定義「グラフの定義」)。マッチング、完全マッチング、マッチング数 $\nu(G)$、交互道の用語は マッチング(グラフ理論) に従う。
グラフの連結成分(以下、成分)は グラフ の記事の定義「連結性」のとおり、「2 頂点を結ぶ道がある」という同値関係の各同値類が張るグラフである。異なる成分の頂点を結ぶ辺はない。$S\subset V$ について、$G-S$ は頂点集合 $V\setminus S$ 上の $G$ の誘導部分グラフ(誘導部分グラフ)を表す。

奇成分と Tutte の条件

グラフ $H$ の連結成分のうち、頂点数が奇数のものを 奇成分(odd component)、偶数のものを 偶成分 という。$H$ の奇成分の個数を $o(H)$ と書く。
有限グラフ $G=(V,E)$ が、すべての $S\subset V$ について
$$ o(G-S)\le|S| $$
を満たすとき、$G$ は Tutte の条件 を満たすという。この不等式を破る $S$ を、$G$ の 障害集合 と呼ぶことにする。

$S=\emptyset$ のときの不等式 $o(G)\le0$ は、$G$ のどの成分も偶数個の頂点をもつことを意味する。とくに Tutte の条件を満たすグラフの頂点数は偶数である。

因子

$k\ge0$ を整数とする。$G$ の全域部分グラフ(頂点集合が $V$ 全体の部分グラフ)で、すべての頂点の次数が $k$ のものを $G$ の $k$-因子($k$-factor)という。

1-因子の辺集合は、すべての頂点をちょうど 1 回ずつ端点にもつ辺の集合なので、完全マッチングにほかならない。逆に完全マッチング $M$ から、頂点集合 $V$、辺集合 $M$ の 1-因子が得られる。以下では「完全マッチング」の語を使う。

直感

完全マッチングでは、すべての頂点が辺でペアになる。$S$ を取り除くと $G$ はいくつかの成分に分かれる。偶成分は自分の中だけでペアを作れる可能性があるが、奇成分は頂点が奇数個なので、少なくとも 1 頂点は成分の外の相手と組まなければならない。成分の外への辺はすべて $S$ に向かうから、奇成分は 1 つにつき $S$ の頂点を 1 つずつ使う。したがって奇成分が $S$ の頂点より多ければ完全マッチングは作れない。
Tutte の定理は、完全マッチングを妨げる理由がこの数え上げの障害だけであることを主張する。完全マッチングがあることは、マッチングそのものを示せば確かめられる。ないことは、障害集合 $S$ を 1 つ示せば確かめられる。どちらの場合にも、短い確認の手がかりがある。

主定理

まず、証明の十分性の部分で使う補題を示す。

辺を加えても条件は保たれる

$G=(V,E)$ と $G'=(V,E')$ を同じ頂点集合をもつグラフとし、$E\subset E'$ とする。このとき、すべての $S\subset V$ について $o(G'-S)\le o(G-S)$ である。とくに、$G$ が Tutte の条件を満たせば $G'$ も満たす。

$G-S$ は $G'-S$ の全域部分グラフなので、$G-S$ の各成分の頂点は $G'-S$ の 1 つの成分に含まれる。したがって $G'-S$ の各成分 $K$ の頂点集合は、$G-S$ のいくつかの成分の頂点集合の交わらない和集合である。$K$ が奇成分なら、その頂点数は奇数であり、偶数の和は偶数だから、$K$ に含まれる $G-S$ の成分のうち少なくとも 1 つは奇成分である。$G'-S$ の各奇成分にそこに含まれる $G-S$ の奇成分を 1 つ選べば、$G'-S$ の相異なる成分は頂点を共有しないので、選ばれる奇成分も相異なる。よって $o(G'-S)\le o(G-S)$ である。$\square$

Tutte の定理

有限グラフ $G=(V,E)$ が完全マッチングをもつための必要十分条件は、$G$ が Tutte の条件を満たすことである。すなわち、すべての $S\subset V$ について $o(G-S)\le|S|$ が成り立つことである。

必要性を示したあと、十分性を 3 段で示す。辺について極大な反例に取り替え(段 1、lem-tutte-supergraph を使う)、その形を調べ(段 2)、完全マッチングを組み立てて矛盾を導く(段 3)。
必要性:$M$ を $G$ の完全マッチングとし、$S\subset V$ とする。$C$ を $G-S$ の奇成分とする。$C$ の頂点数は奇数なので、$C$ の頂点を $C$ の中の $M$ の辺だけで覆うことはできず、$M$ で $C$ の外の頂点と組む頂点 $c\in C$ がある。$C$ は $G-S$ の成分なので、$c$ の隣接頂点のうち $C$ の外にあるものは $S$ に属する。そこで $c$ の相手を $s_C\in S$ とおく。$M$ はマッチングなので、相異なる奇成分 $C\neq C'$ について $s_C\neq s_{C'}$ である。$C\mapsto s_C$ は奇成分の集合から $S$ への 単射 であり、$o(G-S)\le|S|$ を得る。
十分性:$G$ が Tutte の条件を満たすが完全マッチングをもたないと仮定して矛盾を導く。
段 1(辺について極大なグラフに取り替える):頂点集合 $V$ 上のグラフで、$G$ の辺をすべて含み、完全マッチングをもたないものの全体は、$G$ 自身を含むので空でなく、有限個である。そのうち辺の本数が最大のものを $G^*=(V,E^*)$ とする。lem-tutte-supergraph により $G^*$ も Tutte の条件を満たし、とくに $|V|$ は偶数である。$G^*$ は完全マッチングをもたないが、$E^*$ に属さない辺 $e$ を 1 本加えた $G^*+e$ は、辺の本数の最大性により完全マッチングをもつ。
段 2(全体と隣接する頂点の集合 $U$):$G^*$ の頂点のうち、他のすべての頂点と隣接するものの集合を $U$ とする。$G^*-U$ の各成分が 完全グラフ であることを示す。そうでないとして、$G^*-U$ の成分 $K$ に隣接しない 2 頂点があるとする。$K$ の中でそれらを結ぶ最短の道をとり、その最初の 3 頂点を $a,b,c$ とすると、$ab,bc\in E^*$、$ac\notin E^*$ である($ac\in E^*$ なら道を短くできる)。$b\notin U$ なので、$b$ と隣接しない頂点 $d\neq b$ がある。$ab,bc\in E^*$ だから $d\neq a,c$ である。段 1 により、$G^*+ac$ は完全マッチング $M_1$ を、$G^*+bd$ は完全マッチング $M_2$ をもつ。$G^*$ には完全マッチングがないので $ac\in M_1$、$bd\in M_2$ であり、$\{a,c\}\neq\{b,d\}$ だから $ac\notin M_2$、$bd\notin M_1$ である。
対称差 $M_1\triangle M_2$(対称差)を辺集合とするグラフ $H$ を考える。各頂点には $M_1$ の辺と $M_2$ の辺がちょうど 1 本ずつ接続するので、$H$ での次数は $0$ か $2$ で、次数 $2$ の頂点では $M_1\setminus M_2$ の辺と $M_2\setminus M_1$ の辺が 1 本ずつ接続する。よって $H$ の辺は、$M_1$ と $M_2$ の辺が交互に並ぶ互いに交わらない閉路に分かれる。辺 $ac$ と $bd$ はともに $H$ に属する。$bd$ を含む閉路を $C$ とする。

  • $ac$ が $C$ に含まれないとき:$C$ の上の $M_1$ の辺と、$C$ の外の $M_2$ の辺を合わせた集合 $M$ を考える。$C$ の頂点は $C$ の上の $M_1$ の辺でちょうど 1 回ずつ覆われ、$C$ の外の頂点はその $M_2$ の辺($C$ の上にはない)でちょうど 1 回ずつ覆われる。$C$ の上の $M_1$ の辺は $ac$ でなく、$C$ の外の $M_2$ の辺は $bd$ でないので、$M\subset E^*$ である。$M$ は $G^*$ の完全マッチングとなり、矛盾する。
  • $ac$ が $C$ に含まれるとき:$C$ を $b$ から辺 $bd$ の向きにたどり、$a$ と $c$ のうち先に現れる方を $y$ とする。$d$ から $y$ までの $C$ の部分の道を $Q$ とする。$Q$ は $b$ を通らず、$a,c$ のうち $y$ しか含まないので辺 $ac$ を含まない。$Q$ は $d$ の $M_1$ の辺から始まり($d$ の $M_2$ の辺は $bd$ である)、$y$ の $M_2$ の辺で終わる($y$ の $M_1$ の辺は $ac$ である)。$y\in\{a,c\}$ は $b$ と隣接するので、$Q$ に辺 $yb$ と $bd$ を加えると閉路 $C'$ ができる。そこで
    $$ M:=\bigl(M_2\setminus E(C')\bigr)\cup\bigl(M_1\cap E(Q)\bigr)\cup\{yb\} $$
    とおく。$C'$ の頂点に接続する $M_2$ の辺はすべて $C'$ の上にあるので第 1 の集合からは除かれ、$d$ と $Q$ の内部の頂点は $Q$ の上の $M_1$ の辺で、$y$ と $b$ は $yb$ でちょうど 1 回ずつ覆われる。$C'$ の外の頂点は $M_2$ の辺でちょうど 1 回ずつ覆われる。$bd\notin M$、$ac\notin M$ だから $M\subset E^*$ であり、$M$ は $G^*$ の完全マッチングとなって矛盾する。
    どちらの場合も矛盾なので、$G^*-U$ の各成分は完全グラフである。

段 3(完全マッチングを組み立てる):Tutte の条件を $S=U$ に使うと $o(G^*-U)\le|U|$ である。$G^*-U$ の各奇成分 $K$ から頂点 $k_K$ を 1 つ選び、相異なる $u_K\in U$ と組ませる($U$ の頂点は他のすべての頂点と隣接する)。各奇成分の残りの頂点は偶数個で、成分は完全グラフなので 2 つずつ組める。偶成分も同様に組める。ここまでに組んだ頂点の個数は偶数で、$|V|$ も偶数なので、残る $U$ の頂点も偶数個であり、互いに隣接するので 2 つずつ組める。これは $G^*$ の完全マッチングであり、段 1 の仮定に反する。$\square$

この証明の筋は Die25 Theorem 2.2.1(p. 44)の証明(同書は Lovász の証明に基づくと注記している、p. 60)と BM76 Theorem 5.4(pp. 76–79)の証明による。段 2 の閉路の扱いは、両書の場合分けを $M_1\triangle M_2$ の閉路で書き直したものである。

Petersen の定理

辺 $e$ を取り除くと連結成分の個数が増えるとき、$e$ を 橋(bridge)という。すべての頂点の次数が $3$ のグラフを 3-正則グラフ(立方グラフ、正則グラフ)という。

Petersen の定理

橋をもたない有限の 3-正則グラフは完全マッチングをもつ。

$G=(V,E)$ を橋をもたない 3-正則グラフとし、Tutte の条件を確かめる。$S\subset V$ とし、$C$ を $G-S$ の奇成分とする。$C$ と $V\setminus C$ を結ぶ辺の本数を $m_C$ とする。$C$ は $G-S$ の成分なので、これらの辺の $C$ の外の端点はすべて $S$ に属する。$C$ の頂点の次数の和は、$C$ の内部の辺の本数を $e_C$ として
$$ 3|C|=2e_C+m_C $$
であり、$|C|$ は奇数なので $m_C$ は奇数である。とくに $m_C\ge1$ である。$m_C=1$ とすると、その 1 本の辺 $e$ を除いたグラフでは $C$ と $V\setminus C$ を結ぶ辺がなくなる。$G$ では $e$ の両端点は同じ成分にあるが、$G-e$ では $C$ の頂点と $e$ の $S$ 側の端点は別の成分に入るので、成分の個数が増え、$e$ は橋になる。これは仮定に反するので $m_C\ge3$ である。
$S$ の頂点に接続する辺は高々 $3|S|$ 本なので、奇成分について和をとると
$$ 3\,o(G-S)\le\sum_{C}m_C\le3|S| $$
であり(左の和は $G-S$ の奇成分 $C$ 全体にわたる。相異なる奇成分から $S$ へ出る辺は相異なる)、$o(G-S)\le|S|$ を得る。thm-tutte-main により $G$ は完全マッチングをもつ。$\square$

これは Petersen(1891 年)による結果である(Die25 Corollary 2.2.2、p. 45、BM76 Corollary 5.4、p. 79)。仮定の「橋をもたない」は外せない(ex-tutte-examples の 2)。また、この定理は完全マッチングを 1 つ保証するだけで、辺集合を 3 つの完全マッチングに分けられるとは限らない。Petersenグラフ は橋をもたない 3-正則グラフであるが、辺集合を 3 つの完全マッチングに分けることはできない(同記事の定理「Petersen グラフの辺彩色数」)。

Tutte–Berge の公式

完全マッチングがないとき、最大マッチングの大きさ $\nu(G)$ も同じ量で表せる。

Tutte–Berge の公式

有限グラフ $G=(V,E)$ について
$$ \nu(G)=\min_{S\subset V}\frac{|V|+|S|-o(G-S)}{2} $$
が成り立つ。

$\le$:$M$ を任意のマッチング、$S\subset V$ とする。$G-S$ の各奇成分 $C$ は、$M$ の $C$ の内部の辺だけでは覆えないので、$M$ で飽和されない頂点を含むか、$M$ で $S$ の頂点と組む頂点を含む。後者の奇成分は、prf-tutte-main の必要性と同じ理由で $|S|$ 個以下である。よって $M$ で飽和されない頂点は $o(G-S)-|S|$ 個以上あり、$|V|-2|M|\ge o(G-S)-|S|$、すなわち $|M|\le(|V|+|S|-o(G-S))/2$ である。
$\ge$:$d:=\max_{S\subset V}(o(G-S)-|S|)$ とおく。$S=\emptyset$ で $o(G)\ge0$ なので $d\ge0$ である。$G-S$ の偶成分の頂点数は偶数なので $o(G-S)\equiv|V|-|S|\pmod 2$ であり、したがって $o(G-S)-|S|\equiv|V|\pmod2$、とくに $d\equiv|V|\pmod 2$ である。
$G$ に $d$ 個の新しい頂点の集合 $W$ を加え、$W$ の各頂点を $V\cup W$ の他のすべての頂点と辺で結んだグラフを $G'$ とする(グラフ の記事の定義「補グラフとグラフの和」の結合 $G+K_d$)。$G'$ が Tutte の条件を満たすことを示す。$S'\subset V\cup W$ とする。

  • $W\not\subset S'$ のとき:$S'$ に入らない $W$ の頂点が残りのすべての頂点と隣接するので、$G'-S'$ は連結であり、$o(G'-S')\le1$ である。$S'=\emptyset$ なら、$G'$ の頂点数 $|V|+d$ は偶数なので $o(G')=0$ である。$S'\neq\emptyset$ なら $o(G'-S')\le1\le|S'|$ である。
  • $W\subset S'$ のとき:$S:=S'\cap V$ とおくと $G'-S'=G-S$ であり、$o(G'-S')=o(G-S)\le|S|+d=|S'|$ である。
    thm-tutte-main により $G'$ は完全マッチング $M'$ をもつ。$W$ の頂点を端点にもつ $M'$ の辺は $d$ 本以下なので、それらを除いた $M:=M'\cap E$ は $G$ のマッチングで
    $$ |M|\ge\frac{|V|+d}{2}-d=\frac{|V|-d}{2} $$
    である。$d=o(G-S_0)-|S_0|$ となる $S_0$ をとれば、右辺は $(|V|+|S_0|-o(G-S_0))/2$ であり、これは最小値以上である。よって $\nu(G)$ は最小値以上であり、前半とあわせて最小値に等しい。$\square$

この等式は Berge による(BM76 Exercise 5.3.4、p. 80)。完全マッチングがあることは $\nu(G)=|V|/2$ と同値であり、$S=\emptyset$ の項から最小値はつねに $|V|/2$ 以下なので、これは最小値が $|V|/2$ であること、すなわちすべての $S$ で $o(G-S)\le|S|$ であることと同値である。したがって Tutte–Berge の公式は Tutte の定理を含む。上の証明は逆に Tutte の定理から公式を導いた。

例と反例

Tutte の条件の計算
  1. (星グラフ)完全二部グラフ $K_{1,3}$ は頂点数 $4$ であるが、中心 $c$ を除くと 1 頂点の成分が 3 つ残り、$o(K_{1,3}-\{c\})=3>1$ である。よって完全マッチングをもたない。Tutte–Berge の公式で $S=\{c\}$ とすると $(4+1-3)/2=1$ であり、$\nu(K_{1,3})=1$ である。
  2. (橋をもつ 3-正則グラフ)正則グラフ の記事の例「反例:完全マッチングをもたない立方グラフ」の 16 頂点のグラフ $G$ では、中心の頂点 $c$ を除くと 5 頂点の成分が 3 つ残り、$o(G-\{c\})=3>1$ である。$c$ から出る 3 本の辺はどれも橋である。Tutte–Berge の公式から $\nu(G)\le(16+1-3)/2=7$ である。
  3. (Petersen グラフ)Petersenグラフ は 10 頂点の 3-正則グラフで、どの辺も長さ $5$ の閉路に含まれるので橋をもたない。thm-tutte-petersen により完全マッチングをもつ。実際、外側の五角形と内側の五芒星を結ぶ 5 本の辺は完全マッチングである。
  4. (小さい $S$ だけでは足りない)完全二部グラフ $K_{2,4}$(部集合 $\{x_1,x_2\}$、$\{y_1,\dots,y_4\}$)は頂点数 $6$ で連結なので $o(K_{2,4})=0$ である。1 頂点を除いたグラフは $K_{1,4}$ か $K_{2,3}$ で、連結で頂点数 $5$ だから $o=1\le1$ である。しかし $S=\{x_1,x_2\}$ では $o(K_{2,4}-S)=4>2$ である。したがって Tutte の条件を $|S|\le1$ の $S$ だけで確かめても、完全マッチングの存在は結論できない。

次の表は、各行で仮定を 1 つだけ外したときに結論が成り立たなくなる例である。

外す条件反例成り立たなくなること
Petersen の定理の「橋をもたない」ex-tutte-examples の 2 の 16 頂点のグラフ3-正則グラフが完全マッチングをもつこと
Petersen の定理の「3-正則」$K_{2,4}$(橋をもたない。次数は $4$ と $2$)橋をもたないグラフが完全マッチングをもつこと
Tutte の条件の「すべての $S$」$K_{2,4}$ と $\lvert S\rvert\le1$ の $S$$\lvert S\rvert\le1$ での条件から完全マッチングが存在すること
グラフが有限であること下の無限グラフ $G_\infty$有限の奇成分についての条件から完全マッチングが存在すること
反例の確かめ

1 行目と 3 行目は ex-tutte-examples の 2・4 のとおりである。2 行目:$K_{2,4}$ のどの辺 $x_ky_i$ も、$j\neq i$ をとった長さ $4$ の閉路 $x_1y_ix_2y_jx_1$ に含まれるので橋はなく、$S=\{x_1,x_2\}$ が障害集合なので完全マッチングはない。
4 行目:頂点 $a_0$ と $a_i,b_i$($i\ge1$)をもち、$a_0$ はすべての $b_i$ と、$a_i$ は $b_i$ だけと隣接する無限グラフを $G_\infty$ とする(マッチング(グラフ理論) の例「反例:二部性・偶数頂点・有限性」の 3 と同じグラフ)。無限グラフでは、$o(G-S)$ は頂点数が有限で奇数の成分の個数とし、$S$ は有限集合とする。

確かめを開く

$S$ を有限集合とする。$a_0\notin S$ なら、$a_0$ を含む成分は $S$ に入らない無限個の $b_i$ を含むので無限であり、ほかの成分は $b_i\in S$、$a_i\notin S$ となる孤立点 $\{a_i\}$ だけである。その個数は $S$ に入る $b_i$ の個数以下なので $|S|$ 以下である。$a_0\in S$ なら、各 $i$ について $a_i,b_i$ がともに $S$ の外にあれば $\{a_i,b_i\}$ は偶成分、ちょうど一方が $S$ にあれば残りは孤立点、両方が $S$ にあれば成分はない。孤立点の個数は $|S\setminus\{a_0\}|<|S|$ 以下である。よって条件はすべての有限集合 $S$ で成り立つ。一方、完全マッチングがあれば、$a_i$($i\ge1$)は $b_i$ と組むしかないので、$b_i$ はすべて使われ、$a_0$ の相手が残らない。よって完全マッチングはない。

補足

  • 構造定理:Tutte の定理は、Gallai と Edmonds による次の構造定理から導くこともできる。どの有限グラフ $G$ にも次の 2 条件を満たす $S\subset V$ がある(Die25 Theorem 2.2.3、p. 45)。(i) $G-S$ の各成分を 1 点に縮め、$S$ の内部の辺を除いて得られる二部グラフに、$S$ を飽和するマッチングがある。(ii) $G-S$ の各成分は因子臨界である(その成分自身は完全マッチングをもたないが、どの 1 頂点を除いても完全マッチングをもつ)。この記事では証明しない。
  • 計算:Tutte の条件は $2^{|V|}$ 個の $S$ についての条件なので、そのまま確かめるのは効率が悪い。最大マッチングは Edmonds の花(blossom)アルゴリズムで多項式時間で求まる(マッチング(グラフ理論) の補足)。
  • Hall の定理との関係:部集合の大きさが等しい二部グラフでは、Hall の条件が成り立てば Hallの結婚定理 により完全マッチングがあり、thm-tutte-main の必要性から Tutte の条件も成り立つ。Hall の条件は二部分割を使って述べる条件であり、Tutte の条件は二部分割のない一般のグラフでそれに代わる。
  • 用語:「Tutte の定理」の名は、Tutte の他の結果(3-連結グラフについての車輪定理、Tutte 多項式など)にも使われる。この記事は 1-因子定理を指す。

関連項目

参考文献

[1]
Reinhard Diestel, Graph Theory, Graduate Texts in Mathematics 173, Springer, 2025, §2.2:Theorem 2.2.1 とその証明(p. 44)、Corollary 2.2.2(p. 45)、Theorem 2.2.3(p. 45)、第 2 章の注(p. 60、証明が Lovász による証明に基づくこと)
[2]
J. A. Bondy, U. S. R. Murty, Graph Theory with Applications, Macmillan / American Elsevier, 1976, §5.3:Theorem 5.4 とその証明(pp. 76–79)、Corollary 5.4(p. 79)、Exercise 5.3.4(p. 80、Berge の公式)

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