コンパクト台の順像(direct image with compact support)とは、局所コンパクト Hausdorff 空間の間の連続写像 $f$ について、層 $F$ の順像 $f_*F$ の切断のうち、台の上で $f$ が固有になるものだけを集めた部分層 $f_!F$ である。1 点への写像ではコンパクト台の切断 $\Gamma_c$、開集合の包含では外で茎が $0$ になる零拡張、閉集合の包含と固有写像では通常の順像になる。開集合 $U$ と補集合 $Z$ について完全列 $0\to j_!j^{-1}F\to F\to i_*i^{-1}F\to0$ があり、導来関手をとるとコンパクト台のコホモロジーの長完全列が得られ。$Rf_!$ はどんな写像についても基底変換と両立して Verdier 双対の出発点になるが、固有でない写像では順像の基底変換が成り立たない。
コンパクト台の順像(direct image with compact support)は、連続写像 $f\colon X\to Y$ による層の順像 $f_*$ を、「$f$ に沿って固有な台をもつ切断」だけに制限したものであり、$f_!$ と書く。1 点への写像ではコンパクト台の切断 $\Gamma_c$、開集合の包含では零拡張(extension by zero)、固有写像では通常の順像 $f_*$ になる。その導来関手 $Rf_!$ は、コンパクト台のコホモロジー $H^q_c$ を相対化したもので、どんな写像についても基底変換と両立する。この性質が、Verdier双対と六演算の出発点になる。
この記事では、局所コンパクト Hausdorff 空間の上で $f_!$ を定義し、それが層になること、基本的な場合に何になるかを証明する。主定理として、開集合 $U$ とその補集合 $Z$ についての完全列 $0\to j_!j^{-1}F\to F\to i_*i^{-1}F\to0$ を証明し、そこからコンパクト台のコホモロジーの長完全列を導いて、区間のコンパクト台のコホモロジーを計算する。
この記事では、空間はすべて局所コンパクト Hausdorff 空間とし、$A$ を可換環、層は $A$ 加群の層とする。$X$ の開集合 $U$ の上の層 $F$ の切断 $s\in F(U)$ の台を $\operatorname{supp}s:=\{x\in U\mid s_x\neq0\}$ と書く。芽が $0$ になる点の集合は開集合なので、$\operatorname{supp}s$ は $U$ の閉集合である。連続写像が固有であるとは、コンパクト集合の逆像がコンパクトであることをいう(固有写像)。
次の 2 つの補題を使う。
$g\colon T\to U$ を連続写像、$U=\bigcup_\lambda U_\lambda$ を開被覆とする。各 $\lambda$ について $g^{-1}(U_\lambda)\to U_\lambda$ が固有なら、$g$ は固有である。
$K\subset U$ をコンパクト集合とする。各 $y\in K$ は、ある $U_\lambda$ の中にコンパクトな近傍 $K_y$ をもつ($U$ は局所コンパクト Hausdorff)。有限個の $K_{y_1},\dots,K_{y_m}$ の内部が $K$ を覆う。$K\cap K_{y_k}$ は $U_{\lambda_k}$ に含まれるコンパクト集合なので、$g^{-1}(K\cap K_{y_k})$ はコンパクトであり、$g^{-1}(K)$ はその有限和としてコンパクトである。$\square$
$V$ を局所コンパクト Hausdorff 空間、$T\subset V$ を部分集合とする。包含 $T\to V$ が固有であることと、$T$ が $V$ の閉集合であることは同値である。
$T$ が閉なら、コンパクト集合 $K$ について $T\cap K$ は $K$ の閉集合なのでコンパクトである。逆に包含が固有だとし、$y\in V$ が $T$ の閉包に入るとする。$y$ のコンパクトな近傍 $K$ をとる。$y$ の任意の近傍 $W$ について $W\cap\operatorname{int}K$ も $y$ の近傍なので $T$ と交わり、$W$ は $T\cap K$ と交わる。よって $y$ は $T\cap K$ の閉包に入る。$T\cap K$ はコンパクトなので閉集合であり、$y\in T\cap K\subset T$ である。$\square$
$f\colon X\to Y$ を連続写像、$F$ を $X$ 上の層とする。$Y$ の開集合 $U$ について
$$
(f_!F)(U):=\{s\in F(f^{-1}(U))\mid f|_{\operatorname{supp}s}\colon\operatorname{supp}s\to U\ \text{が固有}\}
$$
とおく。これを $F$ のコンパクト台の順像(固有台の順像)という。$f$ が 1 点への写像 $a\colon X\to\{*\}$ のとき、$\Gamma_c(X,F):=a_!F$ をコンパクト台の切断の加群という。
この定義は Verdier による(Ver65 §1、pp. 339–340)。KS85 1.3.2(p. 24)は、$f$ が固有になる閉集合 $Z\subset f^{-1}(U)$ についての $\Gamma_Z(f^{-1}(U),F)$ の帰納極限として同じものを定めている。$\Gamma_c(X,F)$ は台がコンパクトな切断の全体である(1 点への写像が $\operatorname{supp}s$ の上で固有であることは、$\operatorname{supp}s$ がコンパクトであることにほかならない)。
$f_!F$ は順像 $f_*F$ の部分層である。
$f_*F(U)=F(f^{-1}(U))$ だった。制限で閉じること:$s\in(f_!F)(U)$、$V\subset U$ を開集合とする。$\operatorname{supp}(s|_{f^{-1}V})=\operatorname{supp}s\cap f^{-1}(V)$ であり、$K\subset V$ がコンパクトなら、$\operatorname{supp}(s|_{f^{-1}V})\cap f^{-1}(K)=\operatorname{supp}s\cap f^{-1}(K)$ はコンパクトである。よって $s|_{f^{-1}V}\in(f_!F)(V)$ である。貼り合わせで閉じること:$U=\bigcup U_\lambda$ と $s_\lambda\in(f_!F)(U_\lambda)$ が共通部分で一致するとき、$f_*F$ は層なので $s\in F(f^{-1}U)$ に貼り合う。$\operatorname{supp}s\cap f^{-1}(U_\lambda)=\operatorname{supp}s_\lambda$ なので、$f|_{\operatorname{supp}s}$ は各 $U_\lambda$ の上で固有であり、lem-dic-local-proper により $U$ の上で固有である。よって $s\in(f_!F)(U)$ である。部分前層が制限と貼り合わせで閉じていれば層であり(局所性は $f_*F$ から従う)、$f_!F$ は部分層である。$\square$
$f_!$ は層の射を層の射に送る関手であり、$f_*$ と同じく左完全である(Ver65 1.1、p. 340)。
$U\subset X$ を開集合、$Z:=X\setminus U$ とし、$j\colon U\to X$、$i\colon Z\to X$ を包含とする。
$X$ 上の層 $F$ について、自然な完全列
$$
0\longrightarrow j_!j^{-1}F\xrightarrow{\ \alpha\ }F\xrightarrow{\ \beta\ }i_*i^{-1}F\longrightarrow0
$$
がある。ここで $\alpha$ は $U$ の外へ $0$ で延ばす写像、$\beta$ は $Z$ への制限の随伴の単位である。
$\alpha$ の構成。$V\subset X$ を開集合とし、$s\in(j_!j^{-1}F)(V)$ とする。$j^{-1}F$ は $U$ の開集合の上で $F$ と同じなので $s\in F(U\cap V)$ で、prop-dic-basic の証明により $T:=\operatorname{supp}s$ は $V$ の閉集合である。$V$ の開被覆 $U\cap V$、$V\setminus T$ の上の切断 $s$ と $0$ は、共通部分 $(U\cap V)\setminus T$ の上でどちらも $0$ なので(台の外では芽がすべて $0$)、$F(V)$ の元 $\alpha(s)$ に貼り合う。これは制限と両立し、層の射 $\alpha$ を与える。
$\beta$ の構成。$s\in F(V)$ に、$V\cap Z$ の各点での芽を並べたものを対応させると $(i^{-1}F)(V\cap Z)=(i_*i^{-1}F)(V)$ の元が得られる($i^{-1}F$ の切断は、$Z$ の各点で $F$ の芽を選んだもので、局所的に $F$ の切断から来るもの)。これが $\beta$ である。
茎での完全性。層の列の完全性は茎で確かめればよい。$x\in U$ では、prop-dic-basic (2) により $(j_!j^{-1}F)_x=F_x$、$(i_*i^{-1}F)_x=0$ であり、$\alpha_x$ は恒等写像である($\alpha$ は $U$ の上では何もしない)。よって列は $0\to F_x\to F_x\to0\to0$ で完全である。$x\in Z$ では、$(j_!j^{-1}F)_x=0$、$(i_*i^{-1}F)_x=(i^{-1}F)_x=F_x$ であり、$\beta_x$ は恒等写像である。よって列は $0\to0\to F_x\to F_x\to0$ で完全である。$\square$
KS85 1.3.3(p. 25)は、この完全列を $0\to F_U\to F\to F_Z\to0$($F_U:=j_!j^{-1}F$、$F_Z:=i_*i^{-1}F$)の形で述べている。
層の圏は十分に入射的対象をもつので、左完全関手 $f_!$ の右導来関手 $Rf_!\colon D^+(X)\to D^+(Y)$ が定まる(導来関手)。$R^qf_!:=\mathcal H^q\circ Rf_!$ と書き、1 点への写像では
$$
H^q_c(X;F):=R^q\Gamma_c(X,F)
$$
をコンパクト台のコホモロジーという。$X$ がコンパクトなら $\Gamma_c=\Gamma$ なので $H^q_c=H^q$ である。次の 3 つは Verdier の報告にまとめられた基本的な事実であり、この記事では証明しない。
$F$ を $X$ 上の層とする。自然な長完全列
$$
\cdots\to H^q_c(U;F|_U)\to H^q_c(X;F)\to H^q_c(Z;F|_Z)\to H^{q+1}_c(U;F|_U)\to\cdots
$$
がある。最初の写像は零拡張、2 番目は $Z$ への制限から来る。
thm-dic-open-closed の短完全列に $R\Gamma_c(X,\cdot)$ を施すと、コホモロジーの長完全列
$$
\cdots\to H^q_c(X;j_!j^{-1}F)\to H^q_c(X;F)\to H^q_c(X;i_*i^{-1}F)\to\cdots
$$
を得る。$a_X\colon X\to\{*\}$ などを 1 点への写像とすると $a_U=a_X\circ j$ であり、合成の性質から $R\Gamma_c(U,\cdot)=R(a_U)_!\cong R(a_X)_!\circ Rj_!$ である。$j_!$ は完全なので $Rj_!=j_!$ で、$H^q_c(X;j_!G)\cong H^q_c(U;G)$ となる。同様に $i_!=i_*$ は完全なので $H^q_c(X;i_*H)\cong H^q_c(Z;H)$ である。これらを代入すればよい。$\square$
以下 $G=A$ を定数層とし、$H^q_c(X):=H^q_c(X;A_X)$ と書く。コンパクトな閉区間と 1 点については、定数層のコホモロジーが正の次数で消える(閉区間は可縮なので 層コホモロジーの定理「de Rham の定理と特異コホモロジーとの比較」による)。また、連結でコンパクトでない空間 $X$ では $H^0_c(X)=\Gamma_c(X,A_X)=0$ である。実際、局所定数関数の台は開かつ閉であり、連結性から空集合か $X$ 全体で、コンパクトであることから $X$ 全体ではない。
$a< c< b$ とする。
同じ論法で $H^q_c([0,\infty))=0$(すべての $q$)もわかる($[0,\infty)$ は $x\mapsto-x$ と $(-\infty,0]\cong(-1,0]$ により $(a,c]$ の形の区間と同相)。$\mathbb R$ と 1 点はホモトピー同値だが、$H^1_c(\mathbb R)\cong A$、$H^1_c(\{*\})=0$ なので、コンパクト台のコホモロジーはホモトピー不変でない。$H^1_c(\mathbb R)\cong A=H^0(\mathbb R)$ は、Poincaré 双対(Poincaré双対)の開多様体版 $H^q_c(M)^\vee\cong H^{n-q}(M)$ の最も簡単な場合であり($A$ が体のとき)、その層の言葉での説明が Verdier双対である。
円周 $S^1$ から 1 点 $p$ を除くと開区間と同相である。$U=S^1\setminus\{p\}$、$Z=\{p\}$ として cor-dic-long-exact を使うと、$S^1$ はコンパクトなので $H^q_c(S^1)=H^q(S^1)$ で、
$$
0\to H^0(S^1)\to H^0(\{p\})\to H^1_c(U)\to H^1(S^1)\to0
$$
が完全である。$S^1$ は連結なので $H^0(S^1)=A\to H^0(\{p\})=A$ は同型であり、$H^1(S^1)\cong H^1_c(U)\cong A$ を得る。これは 層コホモロジーの例「円周上の定数層」の Mayer–Vietoris による計算と一致する。
$U=\mathbb R\setminus\{0\}$、$j\colon U\to\mathbb R$、$F=A_U$ とし、点 $0\in\mathbb R$ への基底変換を考える。ファイバー $j^{-1}(0)$ は空集合なので、その上の切断もコンパクト台の切断も $0$ である。コンパクト台の順像では $(j_!A_U)_0=0$ となって基底変換と整合する。一方、順像では $(j_*A_U)_0=A\oplus A\neq0$ であり、「茎はファイバーの上のコホモロジー」という形の主張は $j_*$ では成り立たない。$j$ は固有でない($[-1,1]$ の逆像 $[-1,0)\cup(0,1]$ はコンパクトでない)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $f$ が固有であること | $a\colon\mathbb R\to\{*\}$ と定数層 $A_{\mathbb R}$ | $f_!=f_*$。$\Gamma_c(\mathbb R,A)=0$ だが $\Gamma(\mathbb R,A)=A$ |
| $f$ が固有であること($Rf_*$ の基底変換) | $j\colon\mathbb R\setminus\{0\}\to\mathbb R$ と点 $0$(ex-dic-base-change-failure) | 茎がファイバーのコホモロジーになること |
| 零拡張(台が $V$ の閉集合であるという条件) | 同じ $j$ で $j_!$ を $j_*$ に替える | thm-dic-open-closed の完全性。$\beta$ の核の原点での茎は $0$ だが、$(j_*A_U)_0=A^2$ |
| 写像が固有なホモトピーであること | $\mathbb R$ と 1 点(ホモトピー同値) | コンパクト台のコホモロジーの一致($H^1_c(\mathbb R)\cong A$、$H^1_c(\{*\})=0$) |
3 行目:$j_*$ の定義は、$\operatorname{supp}s$ が $V$ の閉集合であるという条件を落としたものにあたる($U\cap V$ の上の切断すべて)。その結果、$0$ の近くで両側から $0$ に近づく切断がすべて残り、$Z=\{0\}$ の上の情報と重なってしまう。
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