三角関数(trigonometric functions)とは、正弦 $\sin$・余弦 $\cos$・正接 $\tan=\sin/\cos$ などの関数の総称である。図形では、単位円上で点 $(1,0)$ から反時計回りに弧の長さ $\theta$(弧度)だけ進んだ点の座標を $(\cos\theta,\sin\theta)$ とする。解析学では冪級数 $\cos x=\sum_{k\geq0}(-1)^kx^{2k}/(2k)!$、$\sin x=\sum_{k\geq0}(-1)^kx^{2k+1}/(2k+1)!$ で定義し、Euler の公式 $e^{ix}=\cos x+i\sin x$、加法定理、$\sin'=\cos$、$\cos'=-\sin$、最小の正の周期が $2\pi$ であることを証明できる。導関数の公式は角を弧度で測るときにだけ成り立つ。
斜辺の長さが $1$ で、1 つの角が $30^\circ$ の直角三角形では、その角の向かいの辺の長さは $\frac12$、隣の辺の長さは $\frac{\sqrt3}2$ である(正三角形を半分に折った形)。これを $\sin30^\circ=\frac12$、$\cos30^\circ=\frac{\sqrt3}2$ と書く。直角三角形の角 $\theta$ について、斜辺に対する「向かいの辺」の比を正弦 $\sin\theta$、「隣の辺」の比を余弦 $\cos\theta$、隣の辺に対する向かいの辺の比を正接 $\tan\theta$ という。相似な三角形では辺の比は同じなので、これらは角 $\theta$ だけで決まる。
角を $90^\circ$ より大きくしたり負にしたりするには、円(Euclid幾何学)を使う。原点を中心とする半径 $1$ の円(単位円)の上で、点 $(1,0)$ から反時計回りに角 $\theta$ だけ回った点の座標を $(\cos\theta,\sin\theta)$ と定める。$\theta=120^\circ$ なら点は $\bigl(-\frac12,\frac{\sqrt3}2\bigr)$ で、$\cos120^\circ=-\frac12$ である。角の和については加法定理
$$
\sin(\alpha+\beta)=\sin\alpha\cos\beta+\cos\alpha\sin\beta
$$
が成り立ち、たとえば $\sin75^\circ=\sin(45^\circ+30^\circ)=\frac{\sqrt2}2\cdot\frac{\sqrt3}2+\frac{\sqrt2}2\cdot\frac12=\frac{\sqrt6+\sqrt2}4=0.96592\ldots$ と計算できる。
このように角から座標や辺の比を与える関数 $\sin,\cos,\tan$ などを三角関数(trigonometric functions)という。三角関数は、測量や天文学での三角形の計算に始まり、回転・振動・波といった周期的な現象の記述、複素数の極形式、Fourier 級数など、数学と自然科学のあらゆるところに現れる。
解析学で三角関数を扱うには、「角の大きさ」や「円周に沿って回る」ことを図に頼らずに定める必要がある。本記事では、三角関数を冪級数で定義し、そこから加法定理・導関数・周期 $2\pi$・単位円の表示をすべて証明する。こうして定めた関数が、上の図形による三角関数と一致する。
図形による定義では、角の大きさを弧度(ラジアン)で測る。単位円の上を点 $(1,0)$ から反時計回りに弧の長さ $\theta$ だけ進んだ点を $P(\theta)$ とし、$\cos\theta$ を $P(\theta)$ の $x$ 座標、$\sin\theta$ を $y$ 座標と定める。時計回りに進むときは $\theta$ を負とする。単位円周の長さは $2\pi$ なので(円周率)、1 回転は $2\pi$ ラジアン、半回転は $\pi$ ラジアンであり、度数との換算は $180^\circ=\pi$ ラジアン、すなわち $1^\circ=\frac{\pi}{180}=0.01745\ldots$ ラジアン、$1$ ラジアン $=57.29\ldots^\circ$ である。以下、角はすべて弧度で測る。
この定義を厳密にするには、円周に沿った弧の長さを定め、その長さで点を指定できることを示さなければならない。解析学では順序を逆にし、まず関数を冪級数で定め、その関数が弧の長さを媒介変数として単位円をたどることを証明する(thm-trig-unit-circle とその後の注意)。
実数または複素数 $z$ について
$$
\cos z:=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{(-1)^kz^{2k}}{(2k)!}=1-\frac{z^2}{2!}+\frac{z^4}{4!}-\cdots,\qquad
\sin z:=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{(-1)^kz^{2k+1}}{(2k+1)!}=z-\frac{z^3}{3!}+\frac{z^5}{5!}-\cdots
$$
と定め、$\cos$ を余弦関数(cosine)、$\sin$ を正弦関数(sine)という。$\cos z\ne0$ となる $z$ について $\tan z:=\dfrac{\sin z}{\cos z}$ を正接関数(tangent)という。
右辺の級数はすべての複素数 $z$ で絶対収束する。実際、それぞれの項の絶対値は $\frac{|z|^n}{n!}$ の形($n$ は偶数または奇数)で、$\sum_n\frac{|z|^n}{n!}$ は収束する(絶対収束 の記事の例「絶対収束する級数」の 3)ので、比較により絶対収束する。したがって実数 $x$ について $\cos x,\sin x$ は実数であり、$\cos,\sin$ は収束半径 $\infty$ の冪級数の和として $\mathbb{R}$ 上の関数になる。定義から直ちに
$$
\cos0=1,\qquad\sin0=0,\qquad\cos(-z)=\cos z,\qquad\sin(-z)=-\sin z
$$
である($\cos$ は偶数次、$\sin$ は奇数次の項だけをもつ)。$\cos,\sin$ の逆数や比として、余接 $\cot z:=\frac{\cos z}{\sin z}$、正割 $\sec z:=\frac1{\cos z}$、余割 $\csc z:=\frac1{\sin z}$ も使われる。
この定義は Taylorの定理 の記事の定理「指数関数と三角関数のTaylor展開」と同じ級数であり、円周率 の記事の定義「余弦関数の零点による円周率」もこの定義に基づいている。
冪級数による定義は、図形の定義から出てくる性質「$\sin'=\cos$、$\cos'=-\sin$、$\sin0=0$、$\cos0=1$」を満たす関数を、Taylor 展開の形で書いたものである(prop-trig-ode によりこの性質を満たす関数はほかにない)。点 $(\cos t,\sin t)$ の速度ベクトルは $(-\sin t,\cos t)$ で、位置ベクトルにつねに直交し、長さはつねに $1$ である。したがってこの点は原点からの距離を $1$ に保ったまま、速さ $1$ で反時計回りに回る。時刻 $t$ までに進んだ道のりは $t$ であり、これが「弧度 $t$ の角」にほかならない。1 周に要する時間が $2\pi$ である。
三角関数と指数関数は、複素数を通じて 1 つの関数につながる。以下、$e^z:=\sum_{n\geq0}\frac{z^n}{n!}$ は複素数の指数関数であり(指数関数 の記事の定義「複素数の指数関数」)、指数法則 $e^{z+w}=e^ze^w$ がすべての複素数 $z,w$ で成り立つ(絶対収束 の記事の例「指数法則」)。
すべての複素数 $z$ について
$$
e^{iz}=\cos z+i\sin z
$$
が成り立つ。特に実数 $x$ について $\cos x=\operatorname{Re}e^{ix}$、$\sin x=\operatorname{Im}e^{ix}$ であり、$e^{-ix}=\cos x-i\sin x=\overline{e^{ix}}$ である。また、すべての複素数 $z$ について
$$
\cos z=\frac{e^{iz}+e^{-iz}}2,\qquad\sin z=\frac{e^{iz}-e^{-iz}}{2i}
$$
である。
$i^{2k}=(-1)^k$、$i^{2k+1}=(-1)^ki$ なので、$e^{iz}$ の級数の最初の $2N+2$ 項の和は
$$
\sum_{n=0}^{2N+1}\frac{(iz)^n}{n!}=\sum_{k=0}^{N}\frac{(-1)^kz^{2k}}{(2k)!}+i\sum_{k=0}^{N}\frac{(-1)^kz^{2k+1}}{(2k+1)!}
$$
である。$N\to\infty$ のとき、左辺は収束する級数 $\sum_n\frac{(iz)^n}{n!}$ の部分和の部分列なので $e^{iz}$ に収束し、右辺は $\cos z+i\sin z$ に収束する。よって $e^{iz}=\cos z+i\sin z$ である。$x$ が実数なら $\cos x,\sin x$ は実数なので、$\cos x$ と $\sin x$ はそれぞれ $e^{ix}$ の実部と虚部である。$z$ を $-z$ に替えると、$\cos$ が偶関数、$\sin$ が奇関数であることから $e^{-iz}=\cos z-i\sin z$ であり、実数 $x$ ではこれは $e^{ix}$ の共役である。この式と $e^{iz}=\cos z+i\sin z$ の和と差をとれば、最後の 2 式を得る。
この公式は Leb2 Proposition 11.4.2 の (i)(p. 164)にあたる。同書は逆に、$\cos z:=\frac{e^{iz}+e^{-iz}}2$、$\sin z:=\frac{e^{iz}-e^{-iz}}{2i}$ を定義とし、冪級数の形の計算は演習(Exercise 11.4.1、p. 168)としている。$z=\pi$ とおいた $e^{i\pi}=-1$ は thm-trig-periodicity で示す。
すべての実数 $x,y$ について
$$
\cos(x+y)=\cos x\cos y-\sin x\sin y,\qquad\sin(x+y)=\sin x\cos y+\cos x\sin y
$$
が成り立つ。
指数法則と thm-trig-euler により
$$
\cos(x+y)+i\sin(x+y)=e^{i(x+y)}=e^{ix}e^{iy}=(\cos x+i\sin x)(\cos y+i\sin y)
$$
であり、右辺を展開すると $(\cos x\cos y-\sin x\sin y)+i(\sin x\cos y+\cos x\sin y)$ となる。両辺の $\cos,\sin$ はすべて実数なので、実部と虚部を比べればよい。
同じ等式はすべての複素数 $x,y$ についても成り立つ。thm-trig-euler の最後の 2 式を右辺に代入して展開すれば確かめられる(Leb2 Exercise 11.4.7、p. 168)。
すべての実数 $x$ について $\cos^2x+\sin^2x=1$ であり、したがって $|\cos x|\leq1$、$|\sin x|\leq1$ である。また
$$
\cos2x=\cos^2x-\sin^2x=1-2\sin^2x=2\cos^2x-1,\qquad\sin2x=2\sin x\cos x
$$
が成り立つ。
thm-trig-addition の第 1 式で $y=-x$ とおくと、$\cos(-x)=\cos x$、$\sin(-x)=-\sin x$ により $1=\cos0=\cos^2x+\sin^2x$ である。実数の平方は $0$ 以上なので $\cos^2x\leq1$、$\sin^2x\leq1$ である。倍角の式は $y=x$ とおいて得られ、$\cos2x$ の残りの形は $\cos^2x+\sin^2x=1$ を代入して得られる。
$\cos^2x+\sin^2x=1$ は、点 $(\cos x,\sin x)$ が単位円上にあること、すなわち三平方の定理による原点からの距離が $1$ であることを表す。
$\sin,\cos\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$ は微分可能であり、
$$
\sin'=\cos,\qquad\cos'=-\sin
$$
が成り立つ。したがって $\sin,\cos$ は何回でも微分できて、$\sin''=-\sin$、$\cos''=-\cos$ である。
$\sin,\cos$ の冪級数はすべての実数で収束するので、収束半径は $\infty$ である(冪級数 の記事の定理「収束する範囲と収束半径」)。同記事の定理「項別微分」により、$\mathbb{R}$ 上で微分可能で導関数は項別微分で与えられる。
$$
\sin'x=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{(-1)^k(2k+1)x^{2k}}{(2k+1)!}=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{(-1)^kx^{2k}}{(2k)!}=\cos x
$$
であり、
$$
\cos'x=\sum_{k=1}^{\infty}\frac{(-1)^k(2k)x^{2k-1}}{(2k)!}=\sum_{k=1}^{\infty}\frac{(-1)^kx^{2k-1}}{(2k-1)!}=-\sum_{j=0}^{\infty}\frac{(-1)^jx^{2j+1}}{(2j+1)!}=-\sin x
$$
である($j=k-1$ とおいた)。導関数がまた $\sin,\cos$ の定数倍なので、何回でも微分できる。
$\displaystyle\lim_{x\to0}\frac{\sin x}{x}=1$ であり、すべての実数 $x$ について $|\sin x|\leq|x|$ である。
$\frac{\sin x}{x}=\frac{\sin x-\sin0}{x-0}$ は $x\to0$ で $\sin'0=\cos0=1$ に収束する。次に $h_\pm(x):=x\pm\sin x$ とおくと、$h_\pm'(x)=1\pm\cos x\geq0$(cor-trig-pythagorean)なので、平均値の定理 の記事の系「導関数の符号と増減」により $h_\pm$ は単調増加であり、$x\geq0$ で $h_\pm(x)\geq h_\pm(0)=0$、すなわち $-x\leq\sin x\leq x$ である。$x<0$ の場合は $\sin$ が奇関数であることから従う。
$\sin x\approx x$ は $|x|$ が小さいときの近似として使われる。たとえば $\sin0.1=0.0998334\ldots$ である。ここで角を弧度で測っていることが本質的である(ex-trig-degree)。
導関数の性質は、三角関数を特徴づける。
$f\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$ が 2 回微分可能で $f''=-f$ を満たすならば、すべての実数 $x$ について
$$
f(x)=f(0)\cos x+f'(0)\sin x
$$
である。特に、$f''=-f$、$f(0)=1$、$f'(0)=0$ を満たす関数は $\cos$ だけであり、$f''=-f$、$f(0)=0$、$f'(0)=1$ を満たす関数は $\sin$ だけである。
$g:=f-f(0)\cos-f'(0)\sin$ とおくと、thm-trig-derivative により $g''=-g$、$g(0)=0$、$g'(0)=f'(0)-f'(0)=0$ である。$E:=g^2+(g')^2$ とおくと
$$
E'=2gg'+2g'g''=2g'(g+g'')=0
$$
なので、平均値の定理 の記事の系「導関数が0なら定数」により $E$ は定数で、$E=E(0)=0$ である。$g^2\leq E=0$ なので $g=0$ であり、主張を得る。
この命題から加法定理の別証明が得られる。$y$ を固定して $f(x):=\cos(x+y)$ とおくと、連鎖律により $f''=-f$、$f(0)=\cos y$、$f'(0)=-\sin y$ なので、$\cos(x+y)=\cos y\cos x-\sin y\sin x$ である。$\sin(x+y)$ についても同様である。
$\cos p=0$ を満たす正の実数 $p$ のうち最小のものが存在し、$0< p<2$ である。さらに、$\cos$ は $[0,p)$ で正、$\sin$ は $[0,p]$ で狭義単調増加で $(0,p]$ で正であり、$\sin p=1$ である。
まず $\cos2<0$ を示す。$a_k:=\frac{2^{2k}}{(2k)!}$ とおくと $\cos2=\sum_{k\geq0}(-1)^ka_k=1-(a_1-a_2+a_3-\cdots)$ である。$k\geq1$ で $\frac{a_{k+1}}{a_k}=\frac{4}{(2k+1)(2k+2)}\leq\frac4{12}<1$ なので $(a_k)_{k\geq1}$ は $0$ に収束する単調減少列であり、級数 の記事の定理「Leibnizの判定法」により交代級数 $S:=a_1-a_2+a_3-\cdots$ は隣り合う部分和 $a_1=2$ と $a_1-a_2=\frac43$ の間にある。よって $\cos2=1-S\leq1-\frac43=-\frac13<0$ である。
$\cos$ は微分可能なので連続であり(導関数 の記事の命題「微分可能ならば連続」)、$\cos0=1>0$、$\cos2<0$ なので、中間値の定理 の記事の定理「中間値の定理」により $Z:=\{x\in(0,2)\mid\cos x=0\}$ は空でない。$p:=\inf Z$ とおく。$\cos$ は $0$ で連続で $\cos0=1$ なので、ある $\delta>0$ について $[0,\delta)$ で $\cos>0$ であり、$p\geq\delta>0$ である。$Z$ の点の列 $x_n\to p$ をとると、連続性から $\cos p=\lim\cos x_n=0$ であり、$p\in Z$ である。$p$ より小さい正の零点はないので $p$ が最小であり、$p<2$ である。$0< x< p$ で $\cos x<0$ となる点があれば、$[0,x]$ で中間値の定理を使うと $(0,x)$ に零点が生じて $p$ の最小性に反するので、$\cos$ は $[0,p)$ で正である。
thm-trig-derivative により $\sin'=\cos>0$ が $[0,p)$ で成り立つので、平均値の定理 の記事の系「導関数の符号と増減」により $\sin$ は $[0,p)$ で狭義単調増加であり、連続性により $[0,p]$ でも狭義単調増加である。$\sin0=0$ なので $\sin$ は $(0,p]$ で正であり、$\sin^2p=1-\cos^2p=1$(cor-trig-pythagorean)から $\sin p=1$ である。
この $p$ の 2 倍を円周率 $\pi$ と定める。すなわち $\frac\pi2$ は $\cos$ の最小の正の零点であり、$\pi<4$ である。これは 円周率 の記事の定義「余弦関数の零点による円周率」と同じ定義であり、同記事の定理「2 つの定義による円周率の一致」は、こうして定めた $\pi$ が円周と直径の比に等しいことを証明している。
1:prop-trig-first-zero と thm-trig-euler により $e^{i\pi/2}=\cos\frac\pi2+i\sin\frac\pi2=i$ であり、指数法則により $e^{i\pi}=(e^{i\pi/2})^2=-1$、$e^{2\pi i}=(e^{i\pi})^2=1$ である。
2:$e^{i(x+\pi/2)}=e^{ix}e^{i\pi/2}=i(\cos x+i\sin x)=-\sin x+i\cos x$ の実部と虚部を比べると最初の 2 式を得る。$e^{i\pi}=-1$、$e^{2\pi i}=1$ を掛けても同様である。
3:prop-trig-first-zero により $\sin$ は $(0,\frac\pi2]$ で正である。$\frac\pi2\leq x<\pi$ なら $0\leq x-\frac\pi2<\frac\pi2$ なので、2 と prop-trig-first-zero により $\sin x=\cos(x-\frac\pi2)>0$ である。また $-\frac\pi2< x<\frac\pi2$ なら $0< x+\frac\pi2<\pi$ なので、$\cos x=\sin(x+\frac\pi2)>0$ である。
4:$t=2\pi m$($m$ は整数)なら、指数法則と 1 により $e^{it}=(e^{2\pi i})^m=1$ である($m<0$ では $e^{-z}=1/e^z$ を使う)。逆に $e^{it}=1$ とし、整数 $m$ と $0\leq s<2\pi$ により $t=2\pi m+s$ と書くと、$e^{is}=e^{it}e^{-2\pi im}=1$ なので $\cos s=1$、$\sin s=0$ である。$0< s<\pi$ なら 3 により $\sin s>0$、$s=\pi$ なら $\cos s=-1$、$\pi< s<2\pi$ なら 2 と 3 により $\sin s=-\sin(s-\pi)<0$ であり、いずれも矛盾する。よって $s=0$ である。
5:$\sin x=0$ なら $\cos x=\pm1$(cor-trig-pythagorean)なので $e^{ix}=\pm1$、$e^{2ix}=1$ であり、4 により $2x$ は $2\pi$ の整数倍、すなわち $x$ は $\pi$ の整数倍である。逆に $e^{im\pi}=(-1)^m$ は実数なので $\sin m\pi=0$ である。$\cos$ については 2 の $\cos x=\sin(x+\frac\pi2)$ に帰着する。
6:すべての $x$ で $\cos(x+T)=\cos x$ なら、$x=0$ として $\cos T=1$、したがって $\sin T=0$、$e^{iT}=1$ であり、4 により $T$ は $2\pi$ の正の整数倍である。$\sin$ の場合は $x=\frac\pi2$ として、2 により $\cos T=\sin(T+\frac\pi2)=\sin\frac\pi2=1$ となり、同じ結論を得る。
定理の 1・4・6 は Leb2 Proposition 11.4.2 の (x)〜(xii)(pp. 165–167)とその証明にあたる。同書は最小の周期を、$e^{ix/4}$ の 4 乗を計算する方法で示している。5 から、$\pi$ は $\sin$ の最小の正の零点でもある(円周率の無理性 の記事はこちらを $\pi$ の定義に採っている)。
$a^2+b^2=1$ を満たす実数の組 $(a,b)$ に対し、$(\cos t,\sin t)=(a,b)$ となる $t\in[0,2\pi)$ がただ 1 つ存在する。さらに、実数 $s$ について $(\cos s,\sin s)=(a,b)$ となるのは、$s-t$ が $2\pi$ の整数倍のときに限る。
後半:$(\cos s,\sin s)=(\cos t,\sin t)$ なら thm-trig-euler により $e^{is}=e^{it}$、したがって $e^{i(s-t)}=1$ であり、thm-trig-periodicity の 4 により $s-t$ は $2\pi$ の整数倍である。逆は $\cos,\sin$ の周期性による。これから、$[0,2\pi)$ の中の $t$ は(存在すれば)1 つである。
存在:$b\geq0$ の場合。$-1\leq a\leq1$ であり、$\cos$ は $[0,\pi]$ で連続で $\cos0=1$、$\cos\pi=-1$ なので、中間値の定理により $\cos t=a$ となる $t\in[0,\pi]$ がある。thm-trig-periodicity の 3・5 により $\sin t\geq0$ であり、$\sin^2t=1-a^2=b^2$ なので $\sin t=b$ である。$b<0$ の場合。$(a,-b)$ に前の場合を使うと $\cos s=a$、$\sin s=-b>0$ となる $s\in(0,\pi)$ がある。$t:=2\pi-s\in(\pi,2\pi)$ とおくと、周期性と偶奇性により $\cos t=\cos(-s)=a$、$\sin t=\sin(-s)=b$ である。
これは Leb2 Proposition 11.4.2 の (xiii)(p. 165)にあたる。$t$ が $0$ から $\frac\pi2$ まで増えると、$\cos$ は減少し $\sin$ は増加するので、点 $(\cos t,\sin t)$ は $(1,0)$ から $(0,1)$ まで単位円の第 1 象限の部分をたどり、thm-trig-periodicity の 2 により、続いて第 2・第 3・第 4 象限の部分を順にたどって、$t=2\pi$ で $(1,0)$ に戻る。つまりこの点は単位円を反時計回りに 1 周する。さらに、弧の長さを $\int|\gamma'|$ で定めると、$\gamma(t)=(\cos t,\sin t)$ では $\gamma'(t)=(-\sin t,\cos t)$ より $|\gamma'(t)|=\sqrt{\sin^2t+\cos^2t}=1$(cor-trig-pythagorean)なので、$0$ から $t$ までの弧の長さは $\int_0^t1\,ds=t$ であり、$t$ は $(1,0)$ から点 $(\cos t,\sin t)$ までの弧の長さに等しい。単位円全体の長さが $2\pi$ であることは 円周率 の記事の定理「2 つの定義による円周率の一致」で示され、Leb2 §11.4.3(p. 167)は同じことを述べている。したがって冪級数で定めた $\cos,\sin$ は、冒頭の単位円と弧度法による図形の定義と一致する。
複素数の言葉では、thm-trig-unit-circle は「$0$ でない複素数 $z$ は $z=|z|e^{i\theta}=|z|(\cos\theta+i\sin\theta)$ と書け、$\theta$ は $2\pi$ の整数倍の差を除いて一意に決まる」ことを意味する。これが複素数 の記事の定義「偏角と極形式」の偏角が存在し、$2\pi$ の整数倍の差を除いて一意であることの根拠である。指数法則から $e^{i\theta}e^{i\varphi}=e^{i(\theta+\varphi)}$ なので、複素数の積では偏角が足される。
$$
\cos\frac\pi4=\sin\frac\pi4=\frac{\sqrt2}2,\qquad\cos\frac\pi3=\sin\frac\pi6=\frac12,\qquad\sin\frac\pi3=\cos\frac\pi6=\frac{\sqrt3}2
$$
である。
$c:=\cos\frac\pi4$、$s:=\sin\frac\pi4$ はともに正である(thm-trig-periodicity の 3)。cor-trig-pythagorean により $0=\cos\frac\pi2=c^2-s^2$、$c^2+s^2=1$ なので $c^2=s^2=\frac12$、$c=s=\frac{\sqrt2}2$ である。
次に、加法定理と cor-trig-pythagorean から
$$
\cos3x=\cos2x\cos x-\sin2x\sin x=(2\cos^2x-1)\cos x-2(1-\cos^2x)\cos x=4\cos^3x-3\cos x
$$
である。$c:=\cos\frac\pi3$ とおくと $\cos\pi=-1$ なので $4c^3-3c+1=0$、すなわち $(c+1)(2c-1)^2=0$ である。$0<\frac\pi3<\frac\pi2$ なので $c>0$ であり、$c=\frac12$ である。$\sin\frac\pi3>0$ なので $\sin\frac\pi3=\sqrt{1-\frac14}=\frac{\sqrt3}2$ である。最後に thm-trig-periodicity の 2 で $x=-\frac\pi3$ とおくと、$\sin\frac\pi6=\cos(-\frac\pi3)=\frac12$、$\cos\frac\pi6=-\sin(-\frac\pi3)=\frac{\sqrt3}2$ である。
度数で書けば $\cos45^\circ=\frac{\sqrt2}2$、$\cos60^\circ=\sin30^\circ=\frac12$ であり、冒頭の三角形の比と一致する。冒頭の $\sin75^\circ=\frac{\sqrt6+\sqrt2}4$ は、この値と加法定理から得られる。
1:thm-trig-periodicity の 3 により $(-\frac\pi2,\frac\pi2)$ で $\cos>0$ なので $\tan$ は定義され、導関数 の記事の定理「和・積・商の微分法」により $\tan'=\frac{\cos\cdot\cos-\sin\cdot(-\sin)}{\cos^2}=\frac1{\cos^2}=1+\tan^2>0$ である。平均値の定理 の記事の系「導関数の符号と増減」により $\tan$ は狭義単調増加である。$x\to\frac\pi2$(左から)で $\sin x\to1$、$\cos x\to0$(正の側から)なので $\tan x\to+\infty$ であり、$\tan$ は奇関数なので $x\to-\frac\pi2$ で $-\infty$ に発散する。任意の $y$ に対し $\tan a< y<\tan b$ となる $a< b$ がとれるので、中間値の定理により $\tan x=y$ となる $x$ がある。逆関数の微分可能性と公式は、連鎖律 の記事の系「逆関数の微分公式」により $\arctan'(y)=\frac1{\tan'(\arctan y)}=\frac1{1+y^2}$ である。
2:$\sin'=\cos$ は $(-\frac\pi2,\frac\pi2)$ で正、端点で $0$ なので、同じ系により $\sin$ は $[-\frac\pi2,\frac\pi2]$ で単調増加、$(-\frac\pi2,\frac\pi2)$ で狭義単調増加であり、$\sin(\pm\frac\pi2)=\pm1$ と合わせて $[-\frac\pi2,\frac\pi2]$ で狭義単調増加である。連続なので中間値の定理により値域は $[-1,1]$ である。$y=\sin x$、$-\frac\pi2< x<\frac\pi2$ では $\cos x>0$、$\cos^2x=1-y^2$ なので、逆関数の微分公式により $\arcsin'(y)=\frac1{\cos x}=\frac1{\sqrt{1-y^2}}$ である。
$\arccos y:=\frac\pi2-\arcsin y$ と定めると、$\cos(\frac\pi2-t)=\sin t$(thm-trig-periodicity の 2)により $\cos(\arccos y)=y$ であり、$\arccos$ は $[-1,1]$ から $[0,\pi]$ への全単射である。$\arctan1=\frac\pi4$ と $\arctan'(y)=\frac1{1+y^2}$ から、円周率 の記事は Leibniz の級数 $\frac\pi4=1-\frac13+\frac15-\cdots$ を導いている。
$\omega>0$ とし、$x\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$ が 2 回微分可能で $x''=-\omega^2x$ を満たすとする(ばねにつながれた物体の運動など)。$f(s):=x(s/\omega)$ とおくと、連鎖律により $f''(s)=\omega^{-2}x''(s/\omega)=-f(s)$ なので、prop-trig-ode により $f(s)=f(0)\cos s+f'(0)\sin s$、すなわち
$$
x(t)=x(0)\cos\omega t+\frac{x'(0)}{\omega}\sin\omega t
$$
である。解はすべて周期 $\frac{2\pi}\omega$ の周期関数であり、初期位置と初速度で決まる。たとえば $\omega=2$、$x(0)=1$、$x'(0)=0$ なら $x(t)=\cos2t$ で、周期は $\pi$ である。
角を度数で測った正弦 $s(x):=\sin\frac{\pi x}{180}$($x$ 度の正弦)を考える。連鎖律により
$$
s'(x)=\frac{\pi}{180}\cos\frac{\pi x}{180}
$$
なので、たとえば $x=0$ での微分係数は $\frac\pi{180}=0.01745\ldots$ であり、$0$ 度の余弦 $1$ ではない。$s$ は「$x$ 度の角の正弦」という性質を満たすが、「導関数が同じ単位の余弦に等しい」という性質を満たさない。「$(\sin x)'=\cos x$」「$\lim_{x\to0}\frac{\sin x}x=1$」は、角を弧度で測るという仮定のもとでだけ成り立つ(度数では $\lim_{x\to0}\frac{s(x)}{x}=\frac\pi{180}$)。解析学で弧度を使うのはこのためである。
thm-trig-euler の式により $\cos i=\frac{e^{-1}+e}{2}=1.5430\ldots$ であり、$|\cos i|>1$ である。一方、等式 $\cos^2z+\sin^2z=1$ は複素数 $z$ についても成り立つ(Leb2 Exercise 11.4.6、p. 168。$z=i$ では $\sin i=\frac{e^{-1}-e}{2i}$ で、$\cos^2i+\sin^2i=\frac{(e+e^{-1})^2-(e-e^{-1})^2}{4}=1$ と確かめられる)。$\cos$ は複素数の範囲で「$\cos^2z+\sin^2z=1$」を満たすが、「$|\cos z|\leq1$」を満たさない。cor-trig-pythagorean で $|\cos x|\leq1$ を導けたのは $\sin x$ が実数で $\sin^2x\geq0$ だからであり、複素数ではこの仮定が破れる。実際、実数 $y$ について $\cos(iy)=\frac{e^{y}+e^{-y}}2\to\infty$($y\to\infty$)である。
実数 $x$ について $\cosh x:=\frac{e^x+e^{-x}}2$、$\sinh x:=\frac{e^x-e^{-x}}2$ を双曲線関数という。thm-trig-euler の式から $\cos(ix)=\cosh x$、$\sin(ix)=i\sinh x$ であり、$\cos^2+\sin^2=1$ に対応して $\cosh^2x-\sinh^2x=1$ が成り立つ。点 $(\cos t,\sin t)$ が単位円をたどるのに対し、点 $(\cosh t,\sinh t)$ は双曲線 $x^2-y^2=1$ の右半分をたどる。$\cosh,\sinh$ は周期をもたず、$\cosh''=\cosh$ である。名前は似ているが、三角関数の周期性・有界性は双曲線関数にはない。
三角形 $ABC$ で辺 $a=BC$、$b=CA$ と角 $\gamma=\angle C$ が与えられると、$C$ を原点、$A$ を正の $x$ 軸上に、$B$ が上半平面にあるように置いたとき $B=(a\cos\gamma,a\sin\gamma)$ であり(thm-trig-unit-circle と弧度による角の定義)、ここから余弦定理 $c^2=a^2+b^2-2ab\cos\gamma$ や面積の公式 $\frac12ab\sin\gamma$ が得られる(三平方の定理 の記事の命題「余弦定理の等式」、Heronの公式)。解析学では、$\cos,\sin$ は複素平面全体で正則関数であり(正則関数 の記事の例「指数関数と三角関数の正則性」)、周期関数を $\cos nx,\sin nx$ の和で表す Fourier級数 の基礎になる。
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