特殊線形群

同義語:特殊線型群special linear group

概要

特殊線形群(special linear group)とは、可換環 $R$ 上の行列式が $1$ の $n$ 次正方行列のなす群 $\mathrm{SL}_n(R)$ のことで、行列式 $\det\colon\mathrm{GL}_n(R)\to R^\times$ の核として一般線形群の正規部分群になる。体の上では基本行列 $I+cE_{ij}$ で生成され、中心はスカラー行列 $aI$($a^n=1$)だけからなり、$n\ge3$ または体の元が $4$ 個以上なら自分自身の交換子部分群に等しい完全群である。実数・複素数の上では弧状連結な Lie 群で、図形の体積と向きを保つ 1 次変換の全体として現れ、中心で割った射影特殊線形群は有限単純群の主要な族を与える。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 一般線形群, 行列式, 正規部分群, 基本変形

平面の 1 次変換 $\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}\mapsto\begin{pmatrix}1&c\\0&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}x+cy\\y\end{pmatrix}$ は、正方形を同じ底辺と高さの平行四辺形に押しつぶすだけで、面積も向きも変えない。このように行列式が $1$ の正方行列の全体を 特殊線形群 という。一般線形群 $\mathrm{GL}_n$ は行列式によって乗法群に写り、その核が特殊線形群 $\mathrm{SL}_n$ である。したがって $\mathrm{GL}_n$ を調べることは、「体積の倍率」を担う乗法群と、倍率を変えない部分 $\mathrm{SL}_n$ とに分けて調べることになる。
この記事では、特殊線形群の定義と基本的な例を述べたあと、3 つのことを証明する。1 つ目は中心がスカラー行列 $aI$($a^n=1$)だけからなること、2 つ目は体 $k$ 上で $\mathrm{SL}_n(k)$ が小さい 2 つの場合を除いて自分自身の交換子部分群に等しく(完全群)、$\mathrm{GL}_n(k)$ の交換子部分群にも等しいこと、3 つ目は $\mathrm{SL}_n(\mathbb{R})$ と $\mathrm{SL}_n(\mathbb{C})$ が弧状連結であることである。どれも、$\mathrm{SL}_n$ が基本行列 $I+cE_{ij}$ で生成されるという事実(基本変形 の定理「特殊線形群と一般線形群の基本行列による生成」)から導かれる。

定義

以下、$R$ は可換環、$n\ge1$ とする。$M_n(R)$ の行列式 $\det$ は積を保ち($\det(AB)=\det A\det B$)、$\mathrm{GL}_n(R)$ の元の行列式は $R$ の単元である(一般線形群 の記事の命題「行列式による可逆性の判定」)。

特殊線形群

可換環 $R$ と $n\ge1$ に対し
$$ \mathrm{SL}_n(R):=\{A\in M_n(R)\mid \det A=1\} $$
を $R$ 上の $n$ 次 特殊線形群(special linear group)という。$\mathrm{SL}(n,R)$ とも書く。体 $k$ 上の有限次元ベクトル空間 $V$ については、行列式が $1$ の線形変換 $V\to V$ の全体を $\mathrm{SL}(V)$ と書く。

行列式が $1$ の行列は可逆であり、一般線形群 の記事の系「行列式と特殊線形群」により、$\det\colon\mathrm{GL}_n(R)\to R^\times$ は全射な群準同型で、その核が $\mathrm{SL}_n(R)$ である。したがって $\mathrm{SL}_n(R)$ は $\mathrm{GL}_n(R)$ の正規部分群であり、
$$ \mathrm{GL}_n(R)/\mathrm{SL}_n(R)\cong R^\times $$
である。さらに $u\in R^\times$ に $D(u):=\operatorname{diag}(1,\dots,1,u)$ を対応させる写像は準同型 $R^\times\to\mathrm{GL}_n(R)$ で、$\det D(u)=u$ なので、$\mathrm{GL}_n(R)$ は正規部分群 $\mathrm{SL}_n(R)$ と部分群 $\{D(u)\mid u\in R^\times\}$ の半直積である(半直積 の記事の例「行列の群の半直積」)。線形変換 $T\colon V\to V$ の行列式は基底の取り方によらない(基底を替えると表現行列は $P^{-1}AP$ に変わり、行列式は変わらない)ので、$V$ の基底を 1 つ選ぶと $\mathrm{SL}(V)\cong\mathrm{SL}_n(k)$($n=\dim V$)である。
$\mathrm{SL}_n(R)$ の元の中で最も基本的なのは、$i\ne j$ と $c\in R$ に対する基本行列
$$ T_{ij}(c):=I+cE_{ij} $$
である。ここで $E_{ij}$ は $(i,j)$ 成分だけが $1$ で他が $0$ の行列であり、$T_{ij}(c)$ を左から掛けることは第 $i$ 行に第 $j$ 行の $c$ 倍を加えることにあたる(基本変形 の記事の定義「基本行列」の (iii) 型)。$T_{ij}(c)$ は対角成分がすべて $1$ の三角行列なので行列式は $1$ であり、$T_{ij}(a)T_{ij}(b)=T_{ij}(a+b)$、$T_{ij}(c)^{-1}=T_{ij}(-c)$ が成り立つ($i\ne j$ なので $E_{ij}^2=O$)。
体 $k$ 上では、$\mathrm{SL}_n(k)$ のすべての元は $T_{ij}(c)$($i\ne j$、$c\in k$)の有限個の積であり、$\mathrm{SL}_n(\mathbb{Z})$ は $T_{ij}(1)$($i\ne j$)で生成される(基本変形 の系「体と整数環の場合」。証明は同じ記事の定理「特殊線形群と一般線形群の基本行列による生成」)。以下の証明はこの事実を何度も使う。

射影特殊線形群

体 $k$ と $n\ge2$ に対し、$\mathrm{SL}_n(k)$ をその群の中心 $Z(\mathrm{SL}_n(k))$ で割った剰余群
$$ \mathrm{PSL}_n(k):=\mathrm{SL}_n(k)/Z(\mathrm{SL}_n(k)) $$
を 射影特殊線形群(projective special linear group)という。

中心は prop-slg-center で決定する。

直感

$\mathbb{R}^n$ の 1 次変換 $x\mapsto Ax$ は、図形の $n$ 次元体積を $\lvert\det A\rvert$ 倍し、$\det A>0$ なら向きを保ち、$\det A<0$ なら向きを反転する。したがって $\mathrm{SL}_n(\mathbb{R})$ は「体積と向きを両方保つ 1 次変換」の全体である。冒頭の $T_{12}(c)$ のような「ずらし」(せん断)はその典型であり、$c$ をいくらでも大きくできるので、$\mathrm{SL}_n(\mathbb{R})$($n\ge2$)は長さや角度を大きく変える変換を含む。長さまで保つ変換の群は直交群の $\mathrm{SO}(n)$ で、こちらは有界である。
代数的には、$\mathrm{GL}_n(k)$ のうち「行列式」という可換な情報を取り除いた残りが $\mathrm{SL}_n(k)$ である。可換な剰余群 $\mathrm{GL}_n(k)/\mathrm{SL}_n(k)\cong k^\times$ への準同型で $\mathrm{GL}_n(k)$ の非可換性がどこまで捉えられるかを測るのが交換子部分群であり、thm-slg-commutator は、ほとんどの場合に行列式だけで可換な情報がすべて尽きることを述べている。

例と反例

小さい有限体の上の特殊線形群

$q$ 元の有限体 $\mathbb{F}_q$ 上では、一般線形群 の記事の命題「有限体上の一般線形群の位数」により
$$ \lvert\mathrm{SL}_n(\mathbb{F}_q)\rvert=\frac{1}{q-1}\prod_{i=0}^{n-1}(q^n-q^i),\qquad \lvert\mathrm{SL}_2(\mathbb{F}_q)\rvert=\frac{(q^2-1)(q^2-q)}{q-1}=q(q^2-1) $$
である。

  1. $\mathbb{F}_2$ では $\mathbb{F}_2^\times=\{1\}$ なので $\mathrm{SL}_n(\mathbb{F}_2)=\mathrm{GL}_n(\mathbb{F}_2)$ である。とくに $\mathrm{SL}_2(\mathbb{F}_2)$ は位数 $6$ で、$\mathbb{F}_2^2$ の $0$ でない $3$ つのベクトルを置換することにより 3 次の対称群 $S_3$ と同型である(一般線形群 の記事の例「最小の非可換な例」)。
  2. $\mathrm{SL}_2(\mathbb{F}_3)$ は位数 $3\cdot8=24$ であり、中心は $\{\pm I\}$ である(prop-slg-center)。$\mathrm{PSL}_2(\mathbb{F}_3)$ は位数 $12$ になる。
  3. $\mathrm{SL}_2(\mathbb{F}_5)$ は位数 $5\cdot24=120$、$\mathrm{SL}_3(\mathbb{F}_2)=\mathrm{GL}_3(\mathbb{F}_2)$ は位数 $7\cdot6\cdot4=168$ である。
整数を成分とする $2$ 次の特殊線形群

$$ S:=\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix},\qquad T:=\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix}=T_{12}(1) $$
は $\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z})$ の元である。$S$ は平面の $\frac\pi2$ 回転であり、$S^2=-I$、$S^4=I$ である。また
$$ ST=\begin{pmatrix}0&-1\\1&1\end{pmatrix},\qquad (ST)^2=\begin{pmatrix}-1&-1\\1&0\end{pmatrix},\qquad (ST)^3=\begin{pmatrix}-1&0\\0&-1\end{pmatrix}=-I $$
なので $ST$ の位数は $6$ である。一方 $T^m=T_{12}(m)$ は $m\ne0$ なら $I$ でないので、$T$ の位数は無限である。

$\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z})$ の 2 つの生成元

$\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z})$ は $S$ と $T$ で生成される。

$\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z})$ は $T_{12}(1)=T$ と $T_{21}(1)$ で生成される(基本変形 の系「体と整数環の場合」の 2)ので、$T_{21}(1)$ が $S$ と $T$ で書けることを示せばよい。$S^{-1}=-S=\begin{pmatrix}0&1\\-1&0\end{pmatrix}$、$T^{-1}=\begin{pmatrix}1&-1\\0&1\end{pmatrix}$ であり
$$ ST^{-1}=\begin{pmatrix}0&-1\\1&-1\end{pmatrix},\qquad ST^{-1}S^{-1}=\begin{pmatrix}0&-1\\1&-1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}0&1\\-1&0\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1&0\\1&1\end{pmatrix}=T_{21}(1) $$
となる。$\square$

$\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z})$ は上半平面 $\{z\in\mathbb{C}\mid\operatorname{Im}z>0\}$ に 1 次分数変換 $z\mapsto\frac{az+b}{cz+d}$ で作用し、$-I$ はこの作用で自明に働く。剰余群 $\mathrm{PSL}_2(\mathbb{Z}):=\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z})/\{\pm I\}$ がモジュラー群であり、$S$ は $z\mapsto-1/z$、$T$ は $z\mapsto z+1$ にあたる。

反例:行列式が $-1$ の行列の全体

行列式が $-1$ の $n$ 次実行列の全体 $\{A\mid\det A=-1\}$ は群をなさない。単位行列を含まず、2 つの元の積の行列式は $(-1)^2=1$ になって積について閉じていないからである。行列式が $\pm1$ の行列の全体 $\mathrm{SL}_n^{\pm}(\mathbb{R}):=\{A\mid\det A=\pm1\}$ は群をなすが、$\mathrm{SL}_n(\mathbb{R})$ はその指数 $2$ の正規部分群であり、$\mathrm{SL}_n^{\pm}(\mathbb{R})$ は体積を保つが向きは保たない変換も含む。

反例:有界でない

$n\ge2$ なら、$T_{12}(c)$($c\in\mathbb{R}$)はすべて $\mathrm{SL}_n(\mathbb{R})$ に属し、$(1,2)$ 成分 $c$ はいくらでも大きくなる。したがって $\mathrm{SL}_n(\mathbb{R})$ は $M_n(\mathbb{R})=\mathbb{R}^{n^2}$ の有界な部分集合でなく、コンパクト空間でない($\mathbb{R}^{n^2}$ のコンパクト集合は有界である)。$\mathrm{SL}_n(\mathbb{R})=\det^{-1}(1)$ は閉集合なので、コンパクト性を失わせているのは有界性の欠如である。

性質

中心

特殊線形群の中心

$R$ を可換環、$n\ge2$ とする。$A\in M_n(R)$ がすべての $T_{ij}(1)$($i\ne j$)と可換なら、$A$ はスカラー行列 $aI$($a\in R$)である。とくに
$$ Z(\mathrm{SL}_n(R))=\{aI\mid a\in R,\ a^n=1\} $$
である。

行列単位との可換性を成分で読む

$AT_{ij}(1)=A+AE_{ij}$、$T_{ij}(1)A=A+E_{ij}A$ なので、$A$ が $T_{ij}(1)$ と可換であることは $AE_{ij}=E_{ij}A$ と同じである。成分で書くと $(AE_{ij})_{kl}=a_{ki}\delta_{jl}$、$(E_{ij}A)_{kl}=\delta_{ik}a_{jl}$ である。$l=j$ とおくと、すべての $k$ について $a_{ki}=\delta_{ik}a_{jj}$ となる。$k\ne i$ なら $a_{ki}=0$、$k=i$ なら $a_{ii}=a_{jj}$ である。$n\ge2$ なので、各 $i$ に対して $j\ne i$ がとれ、$A$ の第 $i$ 列は対角成分以外が $0$ であり、対角成分はすべて等しい。よって $A=aI$ である。
$\mathrm{SL}_n(R)$ の中心の元はとくに $T_{ij}(1)\in\mathrm{SL}_n(R)$ と可換なので $aI$ の形であり、$\det(aI)=a^n$ なので $a^n=1$ である。逆に $a^n=1$ なら $aI\in\mathrm{SL}_n(R)$ であり、スカラー行列はすべての行列と可換なので中心に属する。$\square$

たとえば $Z(\mathrm{SL}_2(\mathbb{R}))=\{\pm I\}$、$Z(\mathrm{SL}_3(\mathbb{R}))=\{I\}$ であり、$Z(\mathrm{SL}_n(\mathbb{C}))$ は $1$ の $n$ 乗根 $\zeta$ による $\zeta I$ のなす位数 $n$ の巡回群である。$\mathbb{F}_2$ 上では $-1=1$ なので $Z(\mathrm{SL}_2(\mathbb{F}_2))=\{I\}$ であり、これは $S_3$ の中心が自明であること(群の中心 の例「$3$ 次対称群の中心は自明」)と合っている。$q$ が奇数なら $Z(\mathrm{SL}_2(\mathbb{F}_q))=\{\pm I\}$ なので $\lvert\mathrm{PSL}_2(\mathbb{F}_q)\rvert=q(q^2-1)/2$ である。$\mathrm{GL}_n(R)$ の中心がスカラー行列の全体であること(一般線形群 の命題「スカラー行列からなる中心」)も、同じ計算から出る。

交換子部分群

対角成分が単元の対角行列 $D=\operatorname{diag}(d_1,\dots,d_n)$ と $i\ne j$ について、$DE_{ij}D^{-1}=d_id_j^{-1}E_{ij}$ なので
$$ DT_{ij}(c)D^{-1}=T_{ij}(d_id_j^{-1}c)\qquad(\ast) $$
である。$(\ast)$ は、対角行列による共役(共役(群論))が基本行列の「ずらしの量」を $d_i/d_j$ 倍することを述べている。交換子は $[x,y]:=xyx^{-1}y^{-1}$ とする(交換子部分群 の記事の定義「交換子と交換子部分群」)。

交換子部分群の決定

$k$ を体、$n\ge2$ とする。

  1. $(n,\lvert k\rvert)\ne(2,2)$ なら $[\mathrm{GL}_n(k),\mathrm{GL}_n(k)]=\mathrm{SL}_n(k)$ である。
  2. $n\ge3$、または $n=2$ かつ $k$ の元の個数が $4$ 以上なら、$[\mathrm{SL}_n(k),\mathrm{SL}_n(k)]=\mathrm{SL}_n(k)$ である。すなわち $\mathrm{SL}_n(k)$ は完全群である。
基本行列を交換子として書く

段 1(一方の包含):$A,B\in\mathrm{GL}_n(k)$ について $\det[A,B]=\det A\det B(\det A)^{-1}(\det B)^{-1}=1$ なので、どちらの交換子も $\mathrm{SL}_n(k)$ に属し、交換子部分群は $\mathrm{SL}_n(k)$ に含まれる。逆の包含を示すには、$\mathrm{SL}_n(k)$ が $T_{ij}(c)$($i\ne j$、$c\in k$)で生成されるので(基本変形 の系「体と整数環の場合」)、各 $T_{ij}(c)$ が、1 では $\mathrm{GL}_n(k)$ の 2 元の交換子、2 では $\mathrm{SL}_n(k)$ の 2 元の交換子であることを示せばよい。
段 2($n\ge3$ の場合):$i,j$ と異なる番号 $l$ をとる。$E_{il}E_{lj}=E_{ij}$ であり、$l\ne i$、$j\ne i$、$j\ne l$ から $E_{il}^2=E_{lj}^2=E_{lj}E_{il}=E_{ij}E_{il}=E_{ij}E_{lj}=O$ である。これを使って順に掛けると
$$ T_{il}(c)T_{lj}(1)=I+cE_{il}+E_{lj}+cE_{ij}, $$
$$ T_{il}(c)T_{lj}(1)T_{il}(-c)=I+E_{lj}+cE_{ij},\qquad T_{il}(c)T_{lj}(1)T_{il}(-c)T_{lj}(-1)=I+cE_{ij} $$
となる。すなわち $[T_{il}(c),T_{lj}(1)]=T_{ij}(c)$ であり、$T_{il}(c),T_{lj}(1)\in\mathrm{SL}_n(k)$ なので、1 と 2 の両方が成り立つ。
段 3(1 で $n=2$ の場合):$\lvert k\rvert\ge3$ なので $t\ne0,1$ となる $t\in k$ がある。$D=\operatorname{diag}(t,1)$ とすると $(\ast)$ により $DT_{12}(c)D^{-1}=T_{12}(tc)$ であり
$$ [D,T_{12}(c)]=T_{12}(tc)T_{12}(-c)=T_{12}\bigl((t-1)c\bigr) $$
である。$t-1\ne0$ なので、$c$ を $(t-1)^{-1}c$ に替えれば $T_{12}(c)$ が交換子になる。$T_{21}(c)$ は $D=\operatorname{diag}(1,t)$ で同様にできる。
段 4(2 で $n=2$ の場合):$k^\times$ は $3$ 個以上の元をもち、方程式 $t^2=1$ の解は体の中に高々 $2$ 個($\pm1$)なので、$t^2\ne1$ となる $t\in k^\times$ がある。$D=\operatorname{diag}(t,t^{-1})\in\mathrm{SL}_2(k)$ とすると $(\ast)$ により $[D,T_{12}(c)]=T_{12}\bigl((t^2-1)c\bigr)$、$[D,T_{21}(c)]=T_{21}\bigl((t^{-2}-1)c\bigr)$ であり、$t^2-1$ と $t^{-2}-1$ は $0$ でない。段 3 と同様に $T_{12}(c)$ と $T_{21}(c)$ は $\mathrm{SL}_2(k)$ の 2 元の交換子である。$\square$

除いた場合では実際に等号が成り立たない。$\mathrm{GL}_2(\mathbb{F}_2)=\mathrm{SL}_2(\mathbb{F}_2)\cong S_3$ の交換子部分群は位数 $3$ であり(交換子部分群 の例「3 次の対称群」)、$\mathrm{SL}_2(\mathbb{F}_3)$(位数 $24$)の交換子部分群は位数 $8$ である(導来列 の例「位数24の特殊線形群」)。後者でも 1 は成り立ち、$[\mathrm{GL}_2(\mathbb{F}_3),\mathrm{GL}_2(\mathbb{F}_3)]=\mathrm{SL}_2(\mathbb{F}_3)$ である。証明の段 3 が $\mathbb{F}_3$ でも使え($t=-1$)、段 4 が使えないのは $\mathbb{F}_3^\times=\{\pm1\}$ のすべての元が $t^2=1$ を満たすからである。
1 と群準同型 の定理「群の第1同型定理」から、$(n,\lvert k\rvert)\ne(2,2)$ なら $\mathrm{GL}_n(k)$ のアーベル化は $\det$ によって $k^\times$ と同型である。つまり $\mathrm{GL}_n(k)$ から可換群への準同型は、すべて行列式を経由する。2 は $\mathrm{PSL}_n(k)$ の単純性の証明の出発点でもある。$\mathrm{PSL}_n(k)$ は $(n,\lvert k\rvert)=(2,2),(2,3)$ を除いて単純群であり(単純群 の例「行列の群から得られる単純群」)、除かれる 2 つの場合はちょうど 2 が成り立たない場合である。

実数・複素数の上での連結性

$M_n(\mathbb{R})=\mathbb{R}^{n^2}$、$M_n(\mathbb{C})=\mathbb{C}^{n^2}$ の位相を部分集合に入れて考える。行列の積は成分の多項式なので連続であり、行列式も連続である。

特殊線形群の弧状連結性

$n\ge1$ とする。

  1. $\mathrm{SL}_n(\mathbb{R})$ と $\mathrm{SL}_n(\mathbb{C})$ は弧状連結(弧状連結空間)である。
  2. $\mathrm{GL}_n(\mathbb{C})$ は弧状連結である。
  3. $\mathrm{GL}_n(\mathbb{R})$ の弧状連結成分は $\{A\mid\det A>0\}$ と $\{A\mid\det A< 0\}$ のちょうど 2 つである。
基本行列を少しずつ伸ばす

$K=\mathbb{R}$ または $\mathbb{C}$ とする。
1:$A\in\mathrm{SL}_n(K)$ を基本行列の積 $A=T_{i_1j_1}(c_1)\cdots T_{i_mj_m}(c_m)$ と書く(基本変形 の系「体と整数環の場合」)。$s\in[0,1]$ に対し
$$ \gamma(s):=T_{i_1j_1}(sc_1)\cdots T_{i_mj_m}(sc_m) $$
とおくと、各成分は $s$ の多項式なので $\gamma$ は連続であり、各因子の行列式は $1$ なので $\gamma(s)\in\mathrm{SL}_n(K)$ である。$\gamma(0)=I$、$\gamma(1)=A$ なので、$\mathrm{SL}_n(K)$ のどの元も $I$ と道で結ばれる。
2・3:定義の節と同じく、$u\in K^\times$ に対し $D(u):=\operatorname{diag}(1,\dots,1,u)$ とする。$A\in\mathrm{GL}_n(K)$ に対し $A':=AD(\det A)^{-1}$ は行列式が $1$ なので $\mathrm{SL}_n(K)$ に属し、$A=A'D(\det A)$ である。1 の道 $\gamma$($\gamma(0)=I$、$\gamma(1)=A'$)と、$K^\times$ の中の道 $\beta$ で $\beta(0)=1$、$\beta(1)=\det A$ となるものがあれば、$s\mapsto\gamma(s)D(\beta(s))$ は $\mathrm{GL}_n(K)$ の中で $I$ と $A$ を結ぶ。$K=\mathbb{C}$ なら $\mathbb{C}^\times$ は弧状連結($\det A=re^{i\theta}$ に対し $\beta(s)=r^se^{is\theta}$)なので 2 を得る。$K=\mathbb{R}$ で $\det A>0$ なら $\beta(s)=1-s+s\det A>0$ がとれるので、$\{\det>0\}$ のどの元も $I$ と結ばれる。$\{\det< 0\}$ は、行列 $D(-1)$ を左から掛ける同相写像 $A\mapsto D(-1)A$ による $\{\det>0\}$ の像なので、これも弧状連結である。最後に、$\det\colon\mathrm{GL}_n(\mathbb{R})\to\mathbb{R}\setminus\{0\}$ は連続であり、$\{\det>0\}$ の元と $\{\det< 0\}$ の元を結ぶ道があれば、その道の上の $\det$ の値は中間値の定理によりどこかで $0$ になって矛盾する。よって弧状連結成分はちょうどこの 2 つである。$\square$

1 で $n\ge2$ のときの $\mathrm{SL}_n(\mathbb{R})$ は、ex-slg-unbounded によりコンパクトでない連結な群である。$\mathrm{SL}_n(\mathbb{R})$ は $n^2-1$ 次元のLie群で、その Lie 環はトレースが $0$ の行列の全体 $\mathfrak{sl}_n(\mathbb{R})$ である(Lie群 の定理「古典群は行列 Lie 群である」)。

条件を外した反例

外す条件反例成り立たなくなること
thm-slg-commutator の 2 の「$n\ge3$ または $\lvert k\rvert\ge4$」($n=2$、$\lvert k\rvert=3$)$\mathrm{SL}_2(\mathbb{F}_3)$完全群であること(交換子部分群は位数 $8$)
thm-slg-commutator の 1 の「$(n,\lvert k\rvert)\ne(2,2)$」$\mathrm{GL}_2(\mathbb{F}_2)\cong S_3$$[\mathrm{GL}_n(k),\mathrm{GL}_n(k)]=\mathrm{SL}_n(k)$(左辺は位数 $3$、右辺は位数 $6$)
行列式が $1$(行列式が $\pm1$ に広げる)$\mathrm{SL}_n^{\pm}(\mathbb{R})$($n\ge1$)弧状連結であること
係数が $\mathbb{R}$ か $\mathbb{C}$($\mathbb{Q}$ に替える)$\mathrm{SL}_2(\mathbb{Q})\subset\mathbb{R}^4$弧状連結であること
行列式が $1$(行列式が $-1$ に替える)ex-slg-det-minus-one の集合群をなすこと
反例:表の各行の確かめ

1・2 行目は thm-slg-commutator の後の段落で確かめた。3 行目:$\mathrm{SL}_n^{\pm}(\mathbb{R})$ は $I$ と $\operatorname{diag}(1,\dots,1,-1)$ を含み、$\det$ は連続で値は $\pm1$ だけなので、この 2 元を結ぶ道は存在しない。5 行目は ex-slg-det-minus-one で確かめた。4 行目は次の一般的な事実による。

可算な距離空間の道を開く

距離空間 $X$ が可算集合で、$x\ne y$ を結ぶ道 $\gamma\colon[0,1]\to X$ があるとする。$f(s):=d(x,\gamma(s))$ は $[0,1]$ 上の連続関数で $f(0)=0$、$f(1)=d(x,y)>0$ なので、中間値の定理により $[0,d(x,y)]$ のすべての値をとる。しかし $f$ の値は $X$ の元と $x$ の距離なので可算個しかなく、非可算集合 $[0,d(x,y)]$ を覆えない。よって可算な距離空間で道で結ばれる 2 点は一致する。$\mathrm{SL}_2(\mathbb{Q})$ は $\mathbb{Q}^4$ の部分集合なので可算であり、$I\ne T_{12}(1)$ がともに属するから弧状連結でない。

補足

一般の可換環の上の生成

基本変形 の定理「特殊線形群と一般線形群の基本行列による生成」は、係数環が Euclid 整域なら $\mathrm{SL}_n$ が基本行列 $T_{ij}(c)$ で生成されることを示している。したがって体と $\mathbb{Z}$ のほか、体 $K$ 上の 1 変数多項式環 $K[x]$ についても $\mathrm{SL}_n(K[x])$ は基本行列で生成される。prop-slg-center は一般の可換環で成り立つが、thm-slg-commutator と thm-slg-connected の証明はこの生成の事実を使っているので、そのまま一般の環に広げることはできない。

射影一般線形群との関係

$\mathrm{GL}_n(k)$ をその中心($0$ でないスカラー行列の全体)で割った群を射影一般線形群 $\mathrm{PGL}_n(k)$ という。$\mathrm{SL}_n(k)\to\mathrm{GL}_n(k)\to\mathrm{PGL}_n(k)$ の合成の核は $\mathrm{SL}_n(k)$ に含まれるスカラー行列の全体 $Z(\mathrm{SL}_n(k))$ なので、群準同型 の定理「群の第1同型定理」により $\mathrm{PSL}_n(k)$ は $\mathrm{PGL}_n(k)$ の部分群とみなせる。像は、$\det A$ が $k^\times$ のある元の $n$ 乗であるような類 $[A]$ の全体である($\det(\lambda A)=\lambda^n\det A$ なので、この条件は代表元の取り方によらない)。$k=\mathbb{C}$ のようにすべての元が $n$ 乗である体では $\mathrm{PSL}_n(k)=\mathrm{PGL}_n(k)$ である。$k=\mathbb{R}$、$n=2$ では、行列式が負の行列の類は $\mathrm{PSL}_2(\mathbb{R})$ に入らない。

文献

体上の特殊線形群の定義と、それが一般線形群の部分群であることは DF04 §2.1 Exercise 9(p. 48)にある。$\mathrm{SL}_n(\mathbb{R})$ が面積(体積)を保つ変換の群であることは Jud25 §12.1(pp. 212–213)で述べられている。この記事の命題と定理は、引用した記事の定理を除いて記事の中で証明した。

関連項目

参考文献

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