Gaussの発散定理(divergence theorem)とは、$\mathbb{R}^n$ の滑らかな境界をもつコンパクトな領域 $\Omega$ と、$\Omega$ の近くで $C^1$ 級のベクトル場 $F$ について、$\int_\Omega\operatorname{div}F\,dV=\int_{\partial\Omega}F\cdot\nu\,dS$($\nu$ は外向きの単位法線)が成り立つという定理である。内部の湧き出しの総量が境界から出ていく流束に等しいことを述べ、Stokes の定理の特別な場合で、平面では Green の定理の流束の形になる。部分積分・Green の恒等式・体積の公式・Gauss の法則を導く基本的な道具である。
空間を流れる流体の速度をベクトル場 $F$ で表す。閉じた曲面 $S$ で囲まれた立体 $\Omega$ について、単位時間に $S$ を通って外へ出ていく量(流束)は、$S$ の各点で $F$ の外向きの法線方向の成分 $F\cdot\nu$ を面積について積分した $\int_SF\cdot\nu\,dS$ である。一方、各点での「湧き出しの密度」は発散
$$
\operatorname{div}F=\frac{\partial F^1}{\partial x^1}+\dots+\frac{\partial F^n}{\partial x^n}
$$
で測られる。Gaussの発散定理(divergence theorem)は、内部の湧き出しの総量が境界から出ていく総量に等しいこと、すなわち
$$
\int_\Omega\operatorname{div}F\,dV=\int_{\partial\Omega}F\cdot\nu\,dS
$$
を主張する。1 次元では微分積分学の基本定理、2 次元では Greenの定理 の流束の形であり、Stokesの定理 を $\mathbb{R}^n$ の領域と $(n-1)$ 次の形式 $\iota_FdV$ に当てはめたものである。偏微分方程式では、この定理から部分積分の公式と Green の恒等式が得られ、電磁気学の Gauss の法則もこの定理の特別な場合として読める。
以下 $n\ge2$ とし、$\mathbb{R}^n$ に標準の内積と向き、体積形式 $dV:=dx^1\wedge\cdots\wedge dx^n$ を入れる。$\lvert x\rvert$ は Euclid ノルムである。
$\Omega\subset\mathbb{R}^n$ をコンパクト集合とする。$\Omega$ の $\mathbb{R}^n$ における境界 $\partial\Omega$ の各点 $p$ に、$p$ の開近傍 $W$ と $C^\infty$ 級関数 $\rho\colon W\to\mathbb{R}$ で、$W$ の上で $\nabla\rho\ne0$ かつ $\Omega\cap W=\{x\in W\mid\rho(x)\le0\}$ となるものがあるとき、$\Omega$ を 滑らかな境界をもつコンパクトな領域 といい、$\rho$ を $p$ のまわりの 定義関数 という。
このとき $\partial\Omega\cap W=\{\rho=0\}$ である($\rho<0$ の点は開集合 $\{\rho<0\}\subset\Omega$ に含まれるので内点であり、$\rho(q)=0$ の点 $q$ では、小さい $t>0$ について $\rho(q+t\nabla\rho(q))>0$ となって $\Omega$ の外の点が近くにあるから)。境界付き多様体 の定理「正則な劣位集合は境界付き多様体」を各 $W$ に使うと、$\Omega$ は $n$ 次元のコンパクトな境界付き多様体で、多様体としての境界は位相的な境界 $\partial\Omega$ と一致し、$\partial\Omega$ は $(n-1)$ 次元のコンパクトな多様体(境界なし)になる。$\Omega$ は Stokesの定理 の記事の定義($\widetilde M=\mathbb{R}^n$ の閉集合としての境界付き多様体)も満たす(同記事の定義では境界座標の第 1 成分として $\rho$ をとればよい)。閉球体 $\{\lvert x\rvert\le r\}$($\rho=\lvert x\rvert^2-r^2$)や中身の詰まったトーラスが例で、立方体は角があるのでこの定義の例ではない。
$p\in\partial\Omega$ と定義関数 $\rho$ について
$$
\nu(p):=\frac{\nabla\rho(p)}{\lvert\nabla\rho(p)\rvert}
$$
は $\rho$ の取り方によらない。$\nu$ は $\partial\Omega$ 上の滑らかな単位ベクトル場で、$\nu(p)$ は $\partial\Omega$ の $p$ における接空間 $T_p\partial\Omega$($\partial\Omega$ の中を通る曲線の $p$ での速度ベクトルの全体)に直交し、小さい $t>0$ について $p+t\nu(p)\notin\Omega$ である。$\nu$ を $\Omega$ の 外向きの単位法線 という。
要点:$T_p\partial\Omega$ はどの定義関数 $\rho$ についても超平面 $\nabla\rho(p)^\perp$ に一致するので、2 つの定義関数の勾配は平行である。さらに勾配の方向に進むと $\Omega$ の外に出るので、向きもそろう。
$c$ を $\partial\Omega$ の中を通り $c(0)=p$ となる $C^1$ 級の曲線とすると、$\rho(c(s))=0$ を微分して $\nabla\rho(p)\cdot c'(0)=0$ である。逆に 局所座標 の定理「等位集合を平らにする局所座標」により、$p$ のまわりの局所座標 $y$ で $\partial\Omega$ が $\{y^n=0\}$ と表されるものがあり、$u\mapsto y^{-1}(u,0)$ に沿う曲線の速度ベクトルは $(n-1)$ 次元の空間を張る。したがって速度ベクトルの全体 $T_p\partial\Omega$ は $(n-1)$ 次元で、$\nabla\rho(p)^\perp$ に含まれるので一致する。これは $\rho$ によらないので、2 つの定義関数 $\rho,\rho'$ の勾配はともにこの超平面に直交し、平行である。$\rho(p+t\nabla\rho(p))=t\lvert\nabla\rho(p)\rvert^2+o(t)>0$ なので小さい $t>0$ で $p+t\nabla\rho(p)\notin\Omega$、よって $\rho'(p+t\nabla\rho(p))>0$ であり、左辺は $t\,\nabla\rho'(p)\cdot\nabla\rho(p)+o(t)$ なので $\nabla\rho'(p)\cdot\nabla\rho(p)\ge0$ である。平行で $0$ でない 2 つのベクトルの内積が $0$ 以上なので、正の実数倍の関係にあり、正規化すると一致する。$\nu$ は局所的に $\nabla\rho/\lvert\nabla\rho\rvert$ と書けるので滑らかである。$\square$
$\partial\Omega$ には、Stokesの定理 の記事の定義「向き付けられた境界付き多様体と境界の向き」の規約(外向きのベクトルを先頭に置く)で向きを入れる。すなわち $T_p\partial\Omega$ の基底 $(w_1,\dots,w_{n-1})$ は、$(\nu,w_1,\dots,w_{n-1})$ が $\mathbb{R}^n$ の正の向きの基底であるとき正の向きである。
ベクトル $X$ による微分形式の内部積を $\iota_X$ と書く(微分形式 の定義「内部積」)。$dV$ に使うと
$$
\iota_XdV=\sum_{i=1}^n(-1)^{i-1}X^i\,dx^1\wedge\cdots\wedge\widehat{dx^i}\wedge\cdots\wedge dx^n
$$
である($\widehat{dx^i}$ はその因子を除くこと。微分形式 の補題「分解可能な形式の内部積」により A・B どちらの方式でもこの式になる)。$\partial\Omega$ 上の連続関数 $g$ に対し、
$$
\int_{\partial\Omega}g\,dS:=\int_{\partial\Omega}\iota^*\bigl(g\,\iota_\nu dV\bigr)
$$
と定める。右辺は、包含写像 $\iota\colon\partial\Omega\hookrightarrow\mathbb{R}^n$ による引き戻しを、向き付けられた $(n-1)$ 次元多様体 $\partial\Omega$ の上で積分したもの(Stokesの定理 の記事の定義「向き付けられた多様体上の $n$ 形式の積分」)である。とくに $\partial\Omega$ の近くで連続なベクトル場 $F$ の 流束 を $\int_{\partial\Omega}F\cdot\nu\,dS$ とする。
$dS$ は曲面積の通常の要素である。
$V\subset\mathbb{R}^{n-1}$ を開集合、$\Phi\colon V\to\partial\Omega$ を $\partial\Omega$ の正の向きの局所座標の逆写像とし、$D\Phi$ を $n\times(n-1)$ 行列 $\bigl(\partial\Phi^i/\partial u^j\bigr)$ とする。このとき
$$
\Phi^*\bigl(\iota_\nu dV\bigr)=\sqrt{\det\bigl(D\Phi^{\mathsf T}D\Phi\bigr)}\;du^1\wedge\cdots\wedge du^{n-1}
$$
である。したがって $\operatorname{supp}g\subset\Phi(V)$ なら $\int_{\partial\Omega}g\,dS=\int_Vg(\Phi(u))\sqrt{\det(D\Phi^{\mathsf T}D\Phi)}\,du$ であり、$n=3$ では $\sqrt{\det(D\Phi^{\mathsf T}D\Phi)}=\lvert\Phi_{u^1}\times\Phi_{u^2}\rvert$ である。
要点:$\Phi^*(\iota_\nu dV)$ の係数は、$\nu$ と $D\Phi$ の列を並べた行列の行列式である。$\nu$ は単位ベクトルで $D\Phi$ の列に直交するので、その 2 乗は $\det(D\Phi^{\mathsf T}D\Phi)$ に等しく、向きの規約から符号は正である。
$A$ を、第 1 列が $\nu(\Phi(u))$ で残りの列が $D\Phi$ の列である $n$ 次正方行列とする。引き戻しの定義から $\Phi^*(dx^1\wedge\cdots\wedge\widehat{dx^i}\wedge\cdots\wedge dx^n)$ は、$D\Phi$ から第 $i$ 行を除いた行列の行列式を係数にもつので、$$\Phi^*\bigl(\iota_\nu dV\bigr)=\Bigl(\sum_{i=1}^n(-1)^{i-1}\nu^i\det D\Phi_{\hat i}\Bigr)du^1\wedge\cdots\wedge du^{n-1}=\det A\;du^1\wedge\cdots\wedge du^{n-1}$$である($D\Phi_{\hat i}$ は第 $i$ 行を除いた行列。最後の等号は第 1 列による余因子展開)。$\nu$ は単位ベクトルで $D\Phi$ の各列($T\partial\Omega$ のベクトル)に直交するので、$A^{\mathsf T}A$ は $(1,1)$ 成分が $1$、第 1 行と第 1 列のほかの成分が $0$、残りが $D\Phi^{\mathsf T}D\Phi$ のブロック対角行列であり、$(\det A)^2=\det(A^{\mathsf T}A)=\det(D\Phi^{\mathsf T}D\Phi)$ である。$\Phi$ は正の向きなので $(\nu,\partial_1\Phi,\dots,\partial_{n-1}\Phi)$ は正の向きの基底で $\det A>0$ となり、平方根の正の値に等しい。$n=3$ の式は $\det(D\Phi^{\mathsf T}D\Phi)=\lvert\Phi_{u^1}\rvert^2\lvert\Phi_{u^2}\rvert^2-(\Phi_{u^1}\cdot\Phi_{u^2})^2=\lvert\Phi_{u^1}\times\Phi_{u^2}\rvert^2$ による。$\square$
面積要素は負にならないので、$\int_{\partial\Omega}1\,dS$ は $\partial\Omega$ の面積($n=3$ の場合の曲面積、一般には $(n-1)$ 次元の体積)である。半径 $r$ の球面 $S^{n-1}_r$ の面積は、単位球面の局所座標の逆写像を $r$ 倍すると $D\Phi$ が $r$ 倍になるので、単位球面の面積 $\lvert S^{n-1}\rvert$ の $r^{n-1}$ 倍である。
$\Omega\subset\mathbb{R}^n$ を滑らかな境界をもつコンパクトな領域、$\nu$ を外向きの単位法線とする。$F=(F^1,\dots,F^n)$ が $\Omega$ を含む開集合で $C^1$ 級のベクトル場なら
$$
\int_\Omega\operatorname{div}F\,dV=\int_{\partial\Omega}F\cdot\nu\,dS
$$
が成り立つ。
$(n-1)$ 形式 $\omega:=\iota_FdV=\sum_i(-1)^{i-1}F^i\,dx^1\wedge\cdots\wedge\widehat{dx^i}\wedge\cdots\wedge dx^n$ を考える。
段 1($d\omega$ の計算)。外微分 の局所座標による定義から、$d\bigl(F^i\,dx^1\wedge\cdots\wedge\widehat{dx^i}\wedge\cdots\wedge dx^n\bigr)=\sum_m\partial_mF^i\,dx^m\wedge dx^1\wedge\cdots\wedge\widehat{dx^i}\wedge\cdots\wedge dx^n$ で、$m\ne i$ の項は $dx^m$ が 2 回現れて $0$、$m=i$ の項は $dx^i$ を $i-1$ 個の因子の後ろへ移して符号 $(-1)^{i-1}$ がつく。符号が打ち消し合い
$$
d\omega=\Bigl(\sum_{i=1}^n\frac{\partial F^i}{\partial x^i}\Bigr)dx^1\wedge\cdots\wedge dx^n=\operatorname{div}F\,dV
$$
である。$\mathbb{R}^n$ の標準の向きで $dV$ を $\Omega$ 上で積分すると通常の重積分になるので、$\int_\Omega d\omega=\int_\Omega\operatorname{div}F\,dV$ である。
段 2(境界への引き戻し)。$p\in\partial\Omega$ で $F(p)=(F\cdot\nu)\nu+F_T$ と分けると、$F_T:=F(p)-(F\cdot\nu)\nu$ は $\nu$ に直交するので $T_p\partial\Omega$ に属する(lem-div-normal)。内部積は $X$ について線形なので $\iota_FdV=(F\cdot\nu)\,\iota_\nu dV+\iota_{F_T}dV$ である。$w_1,\dots,w_{n-1}\in T_p\partial\Omega$ に対し $(\iota_{F_T}dV)(w_1,\dots,w_{n-1})$ は $dV(F_T,w_1,\dots,w_{n-1})$ の定数倍で、$(n-1)$ 次元の空間 $T_p\partial\Omega$ の $n$ 個のベクトルは 1 次従属なので行列式は $0$ である。したがって $\iota^*(\iota_{F_T}dV)=0$ で、
$$
\iota^*\omega=\iota^*\bigl((F\cdot\nu)\,\iota_\nu dV\bigr),\qquad\int_{\partial\Omega}\iota^*\omega=\int_{\partial\Omega}F\cdot\nu\,dS
$$
である(def-div-surface-integral)。
段 3。$\Omega$ はコンパクトなので $\omega$ の台はコンパクトであり、Stokesの定理 の定理「Stokes の定理」により $\int_\Omega d\omega=\int_{\partial\Omega}\iota^*\omega$ である。段 1・段 2 と合わせて主張が従う。$\square$
Stokesの定理 の記事は滑らかな微分形式について定理を述べている。その証明で形式の係数について使うのは、1 階偏導関数が連続であることだけである(下半空間の場合の補題は Fubini の定理と 1 変数の微分積分学の基本定理、一般の場合は滑らかな 1 の分割との積と、滑らかな座標変換による引き戻しへの帰着)。したがって同じ証明が $C^1$ 級の係数の $\omega=\iota_FdV$ にも通用し、上の証明は $C^1$ 級の $F$ について成り立つ。$\mathbb{R}^3$ の場合の言明は 微分形式 の注意「Stokes の定理の出典と古典的な形」の 3 と、Stokesの定理 の系「古典的な積分定理」の 3 にもある。
角のある領域でも、直方体なら初等的に確かめられる。
$B=[a_1,b_1]\times\cdots\times[a_n,b_n]$ とし、$F$ を $B$ を含む開集合で $C^1$ 級とする。$B$ の面 $\{x^i=b_i\}$ の外向きの単位法線は $e_i$、面 $\{x^i=a_i\}$ のものは $-e_i$ であり、
$$
\int_B\operatorname{div}F\,dV=\sum_{i=1}^n\Bigl(\int_{\{x^i=b_i\}}F^i\,dS-\int_{\{x^i=a_i\}}F^i\,dS\Bigr)
$$
が成り立つ。ここで各面の上の積分は、残りの $n-1$ 個の座標についての $(n-1)$ 重積分である。
$i$ を固定し、$B$ を $[a_i,b_i]$ と残りの座標の直方体 $B_i'$ の積とみる。Fubini の定理(Leb26b Theorem 10.2.2)で $x^i$ について先に積分し、1 変数の微分積分学の基本定理を使うと
$$
\int_B\frac{\partial F^i}{\partial x^i}\,dV=\int_{B_i'}\Bigl(F^i\bigl|_{x^i=b_i}-F^i\bigl|_{x^i=a_i}\Bigr)dx'
$$
となる。右辺は面 $\{x^i=b_i\}$ と $\{x^i=a_i\}$ の上の $F\cdot(\pm e_i)=\pm F^i$ の積分の和である。$i$ について足すと主張を得る。$\square$
以下、関数 $u,v$ は $\Omega$ を含む開集合で定義され、$\nabla u$ は勾配、$\Delta v=\sum_i\partial_i^2v$ はラプラシアン、$\partial_\nu v:=\nabla v\cdot\nu$ は外向きの法線方向の微分である。
1 は thm-div-main を $F=u\,e_i$ に使ったもの($\operatorname{div}F=\partial_iu$、$F\cdot\nu=u\nu^i$)。2 は $F=u\nabla v$ に使う。$F$ は $C^1$ 級で、積の微分により $\operatorname{div}(u\nabla v)=\nabla u\cdot\nabla v+u\,\Delta v$、$F\cdot\nu=u\,\partial_\nu v$ である。3 は 2 から、$u$ と $v$ を入れ替えた式を引けば $\nabla u\cdot\nabla v$ の項が消えて得られる。$\square$
1 は「境界の項を伴う部分積分」で、$u$ が $\partial\Omega$ の上で $0$ なら $\int_\Omega\partial_iu\,dV=0$ となる。2 から、調和関数($\Delta u=0$)が境界の値で決まることが分かる。
$u_1,u_2$ が $\Omega$ を含む開集合で $C^2$ 級、$\Omega$ の内部で $\Delta u_1=\Delta u_2=0$、$\partial\Omega$ の上で $u_1=u_2$ なら、$\Omega$ の上で $u_1=u_2$ である。実際、$w:=u_1-u_2$ に 2 を $u=v=w$ として使うと $\int_\Omega\lvert\nabla w\rvert^2\,dV=\int_{\partial\Omega}w\,\partial_\nu w\,dS=0$ なので、連続関数 $\lvert\nabla w\rvert^2$ は $\Omega$ の内部で $0$ であり、$w$ は内部の各連結成分の上で定数である。
内部の連結成分 $C$ は $\mathbb{R}^n$ の有界な空でない開集合なので、$\mathbb{R}^n$ の中の境界が空でない($\mathbb{R}^n$ は連結なので、空でも全体でもない開集合は閉集合でない)。$C$ の境界の点 $q$ は $\Omega$ に属し、$\Omega$ の内部には属さない(内部の点なら、その点を含む内部の連結成分は $C$ と交わる開集合なので $C$ に一致し、$q\in C$ となるが、$C$ は開集合なので境界の点を含まない)。よって $q\in\partial\Omega$ で $w(q)=0$ であり、$w$ の連続性から $C$ の上の定数は $0$ である。
$\Omega$ の体積は $\displaystyle\lvert\Omega\rvert=\frac1n\int_{\partial\Omega}x\cdot\nu\,dS$ である。とくに半径 $r$ の閉球体 $B^n_r$ について $\lvert B^n_r\rvert=\dfrac rn\,\lvert S^{n-1}_r\rvert$、すなわち「体積は表面積の $r/n$ 倍」が成り立ち、$\lvert S^{n-1}\rvert=n\,\lvert B^n_1\rvert$ である。
$F(x)=x$ とおくと $\operatorname{div}F=n$ なので、thm-div-main の左辺は $n\lvert\Omega\rvert$ である。球面 $\lvert x\rvert=r$ では $\nu=x/r$、$x\cdot\nu=r$ なので右辺は $r\,\lvert S^{n-1}_r\rvert$ である。$r=1$ とおけば最後の式を得る。$\square$
$n=2$ では円の面積 $\pi r^2$ と周の長さ $2\pi r$、$n=3$ では球の体積 $\frac43\pi r^3$ と表面積 $4\pi r^2$ がこの関係を満たす。
境界を $\Phi(\theta,\varphi)=\bigl((R+r\cos\varphi)\cos\theta,(R+r\cos\varphi)\sin\theta,r\sin\varphi\bigr)$ と表したとき $\nu=(\cos\theta\cos\varphi,\sin\theta\cos\varphi,\sin\varphi)$、$x\cdot\nu=R\cos\varphi+r$、$\lvert\Phi_\theta\times\Phi_\varphi\rvert=r(R+r\cos\varphi)$ なので($(\theta,\varphi)$ の順が正の向き)、$$\int_0^{2\pi}\!\!\int_0^{2\pi}(R\cos\varphi+r)\,r(R+r\cos\varphi)\,d\theta\,d\varphi=2\pi r\bigl(\pi Rr+2\pi Rr\bigr)=6\pi^2Rr^2$$である。
原点に置いた点電荷のつくる電場($n=3$ のとき)の形のベクトル場
$$
E(x):=\frac{x}{\lvert x\rvert^n}\qquad(x\ne0)
$$
は、原点以外で発散が $0$ である。実際 $\partial_i\bigl(x^i\lvert x\rvert^{-n}\bigr)=\lvert x\rvert^{-n}-n(x^i)^2\lvert x\rvert^{-n-2}$ を $i$ について足すと $n\lvert x\rvert^{-n}-n\lvert x\rvert^{-n}=0$ になる。それでも原点を囲む曲面を通る流束は $0$ でない。
滑らかな境界をもつ領域 Ω(原点を内部に含む)から、原点のまわりの小さな球を除いた領域。外側の境界では外向きの法線が外を向き、除いた球面では外向きの法線が原点の方を向く
$\Omega$ を滑らかな境界をもつコンパクトな領域とし、$0\notin\partial\Omega$ とする。このとき
$$
\int_{\partial\Omega}E\cdot\nu\,dS=\begin{cases}\lvert S^{n-1}\rvert & (0\text{ が }\Omega\text{ の内部にあるとき})\\ 0 & (0\notin\Omega\text{ のとき})\end{cases}
$$
である。$\lvert S^{n-1}\rvert$ は単位球面の面積で、$n=2$ なら $2\pi$、$n=3$ なら $4\pi$ である。
$0\notin\Omega$ なら $E$ は $\Omega$ を含む開集合 $\mathbb{R}^n\setminus\{0\}$ で滑らかで発散が $0$ なので、thm-div-main により流束は $0$ である。
$0$ が内部にあるとする。$\varepsilon>0$ を、閉球体 $\{\lvert x\rvert\le\varepsilon\}$ が $\Omega$ の内部に含まれるようにとり、$\Omega_\varepsilon:=\Omega\setminus\{\lvert x\rvert<\varepsilon\}$ とおく(図)。$\Omega_\varepsilon$ も滑らかな境界をもつコンパクトな領域で、境界は $\partial\Omega$ と球面 $S_\varepsilon:=\{\lvert x\rvert=\varepsilon\}$ の交わらない和、$S_\varepsilon$ での外向きの単位法線は $-x/\varepsilon$(原点の向き)である。
$\Omega_\varepsilon$ はコンパクト集合から開集合を除いたものなのでコンパクトである。$\partial\Omega$ の点では $\Omega$ の定義関数がそのまま使え($\partial\Omega$ の近くでは $\Omega_\varepsilon$ と $\Omega$ は一致する)、$S_\varepsilon$ の点では $\rho(x):=\varepsilon^2-\lvert x\rvert^2$ が定義関数になる($\Omega$ の内部に含まれる $S_\varepsilon$ の近傍で $\Omega_\varepsilon=\{\rho\le0\}$、$\nabla\rho=-2x\ne0$)。外向きの単位法線は $\nabla\rho/\lvert\nabla\rho\rvert=-x/\varepsilon$ である。
流束が $\varepsilon$ によらないのは、発散が $0$ の場では湧き出しがどこにもなく、原点を囲むどの曲面にも同じ量が通り抜けるからである。原点での「湧き出し」は、発散の関数としては見えず、流束だけに現れる(反例の表の 1 行目)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $F$ が $\Omega$ を含む開集合で $C^1$ 級 | 単位球体と $E(x)=x/\lvert x\rvert^n$ | 等式(原点を除いた発散の積分は $0$、右辺は $\lvert S^{n-1}\rvert$) |
| $\nu$ が外向き | 内向きの法線 $-\nu$ を使う | 右辺の符号 |
| $\Omega$ がコンパクト | $\Omega=\{(x,y)\mid y\le0\}\subset\mathbb{R}^2$ と $F=(0,e^{-x^2})$ | 等式(左辺 $0$、右辺 $\sqrt\pi$) |
1 行目:$E$ は原点で定義されず、原点の近くで有界でもないので、$\Omega=\{\lvert x\rvert\le1\}$ を含む開集合で $C^1$ 級という仮定を満たさない。原点以外で $\operatorname{div}E=0$ だが、thm-div-gauss-law により右辺は $\lvert S^{n-1}\rvert\ne0$ である。満たす性質は「$\Omega$ は滑らかな境界をもつコンパクトな領域、原点の外で $\operatorname{div}E=0$」、満たさない性質は「$E$ が $\Omega$ を含む開集合で $C^1$ 級」で、破れるのは定理の等式である。2 行目:$-\nu$ を使うと右辺だけが $-1$ 倍になる。
$\Omega$ は閉集合で境界 $\{y=0\}$ は滑らかだが有界でない。$\operatorname{div}F=\partial_y e^{-x^2}=0$ なので左辺は $0$、境界での外向きの単位法線は $(0,1)$ で $F\cdot\nu=e^{-x^2}$、その積分は $\int_{-\infty}^\infty e^{-x^2}\,dx=\sqrt\pi$ である。満たさない性質は「$\Omega$ がコンパクト」で、破れるのは等式である。
発散は座標によらない形でも定義できる。$(M,g)$ を向き付けられた Riemann 多様体、$dV_g$ をその Riemann 体積形式(微分形式 の定義「体積形式」)とし、ベクトル場 $X$ の発散 $\operatorname{div}_gX$ を
$$
\mathcal L_X\,dV_g=(\operatorname{div}_gX)\,dV_g
$$
で定める($\mathcal L_X$ は Lie微分。Nic26 Definition 4.1.45)。$\mathbb{R}^n$ の標準の計量では $\operatorname{div}_gX$ は上の $\operatorname{div}X$ に一致する(下の証明の式 $\mathcal L_XdV=d(\iota_XdV)$ と prf-div-main の段 1 による)。
$(M,g)$ を向き付けられたコンパクトな Riemann 多様体で境界をもつもの(Stokesの定理 の記事の意味の境界付き多様体)、$\nu$ を $g$ に関する外向きの単位法線、$X$ を滑らかなベクトル場とする。$dS_g:=\iota^*(\iota_\nu dV_g)$ を $\partial M$ の面積要素とすると
$$
\int_M\operatorname{div}_gX\,dV_g=\int_{\partial M}g(X,\nu)\,dS_g
$$
が成り立つ。
Lie微分 の定理「Cartan の公式」により $\mathcal L_XdV_g=d(\iota_XdV_g)+\iota_X(d\,dV_g)$ で、$dV_g$ は最高次の形式なので $d\,dV_g=0$ である。よって $(\operatorname{div}_gX)\,dV_g=d(\iota_XdV_g)$ であり、Stokesの定理 の定理「Stokes の定理」から $\int_M\operatorname{div}_gX\,dV_g=\int_{\partial M}\iota^*(\iota_XdV_g)$ である。境界の各点で $X=g(X,\nu)\nu+X_T$($X_T$ は $\partial M$ に接する)と分けると、prf-div-main の段 2 と同じ理由で $\iota^*(\iota_{X_T}dV_g)=0$ なので、右辺は $\int_{\partial M}g(X,\nu)\,dS_g$ である。$\square$
$\mathbb{R}^3$ では $\operatorname{div}F=\ast\,d\ast F^\flat$($F^\flat$ は $F$ に対応する 1 形式、$\ast$ は Hodge の星作用素)とも書ける(微分形式 の例「ベクトル解析の grad・rot・div」、Nic26 Example 4.1.44)。
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