Lévy–Steinitzの定理(Lévy–Steinitz theorem)とは、有限次元の空間 $\mathbb R^d$ で和 $s$ に収束する級数 $\sum v_n$ について、項の並べ替えで得られる和の全体がアフィン部分空間 $s+\Gamma^\perp$ に等しいという定理である。ここで $\Gamma$ は $\sum_n|\langle a,v_n\rangle|<\infty$ となるベクトル $a$ の全体である。とくに条件収束する複素数の級数では、並べ替えの和の全体は直線か複素平面全体になる。証明は、和が $0$ の有限個のベクトルを、部分和のノルムが次元と各項のノルムの上限との積以下になるように並べる Steinitz の補題と、絶対収束しない方向で有限部分和が稠密に分布することによる。
前提知識: Riemannの再配列定理, 絶対収束, Euclid空間, 直交補空間, 凸集合
Lévy–Steinitzの定理(Lévy–Steinitz theorem)は、有限次元の空間に値をとる収束級数について、項を並べ替えて得られる和の全体を決定する定理である。和の全体は、もとの和 $s$ を通るアフィン部分空間 $s+\Gamma^\perp$ になる。ここで $\Gamma$ は、級数が絶対収束する方向($\sum_n|\langle a,v_n\rangle|<\infty$ となるベクトル $a$)全体のなす部分空間である。実数の級数では Riemannの再配列定理 により和の全体は一点か $\mathbb R$ 全体だが、たとえば条件収束する複素数の級数では、和の全体は複素平面の直線か平面全体になる。この定理は Lévy が 1905 年に示し、高次元の場合の証明の欠落を Steinitz が 1913 年に補った。
この記事では、有限個のベクトルを部分和が小さく保たれるように並べる Steinitz の補題と、絶対収束しない方向に有限部分和が稠密にあることを示し、それらを組み合わせて定理を証明する。以下、$\mathbb N=\{1,2,\dots\}$ とし、$\mathbb R^d$ には標準内積 $\langle\cdot,\cdot\rangle$ と Euclid ノルム $\|\cdot\|$ を入れる(Euclid空間)。
$\mathbb R^d$ の点列 $(v_n)$ について、全単射 $\sigma\colon\mathbb N\to\mathbb N$ で $\sum_kv_{\sigma(k)}$ が $w$ に収束するものがあるとき、$w$ を級数 $\sum v_n$ の並べ替えの和といい、その全体を $\operatorname{SR}(\sum v_n)$ と書いて和の範囲(sum range)という。また
$$
\Gamma:=\Bigl\{a\in\mathbb R^d\Bigm|\sum_{n=1}^\infty\lvert\langle a,v_n\rangle\rvert<\infty\Bigr\}
$$
を絶対収束する方向の全体といい、$\Gamma^\perp:=\{x\in\mathbb R^d\mid\text{すべての }a\in\Gamma\text{ で }\langle a,x\rangle=0\}$ をその直交補空間とする。
$|\langle a+b,v\rangle|\le|\langle a,v\rangle|+|\langle b,v\rangle|$ と $|\langle ca,v\rangle|=|c||\langle a,v\rangle|$ から、$\Gamma$ は $\mathbb R^d$ の線形部分空間である。$a\in\Gamma$ とは、実数の級数 $\sum_n\langle a,v_n\rangle$($v_n$ の $a$ 方向の成分)が絶対収束することである。
$\Gamma=\mathbb R^d$ であることと、$\sum v_n$ が絶対収束する($\sum\|v_n\|<\infty$)ことは同値である。実際、$\Gamma=\mathbb R^d$ なら標準基底 $e_1,\dots,e_d$ が $\Gamma$ に属し、$\|v_n\|\le\sum_i|\langle e_i,v_n\rangle|$ から $\sum\|v_n\|<\infty$ である。逆は $|\langle a,v_n\rangle|\le\|a\|\|v_n\|$ による。
$\mathbb R^d$ の級数 $\sum v_n$ が $s$ に収束するとき、$\operatorname{SR}(\sum v_n)\subset s+\Gamma^\perp$ である。
$w$ を並べ替え $\sum_kv_{\sigma(k)}$ の和とし、$a\in\Gamma$ をとる。$x\mapsto\langle a,x\rangle$ は連続な線形写像なので、部分和に当てて極限をとると $\langle a,s\rangle=\sum_n\langle a,v_n\rangle$、$\langle a,w\rangle=\sum_k\langle a,v_{\sigma(k)}\rangle$ である。実数の級数 $\sum_n\langle a,v_n\rangle$ は絶対収束するので、どの並べ替えも同じ和をもつ(絶対収束 の記事の定理「絶対収束する級数の並べ替え」)。よって $\langle a,w-s\rangle=0$ であり、$a\in\Gamma$ は任意なので $w-s\in\Gamma^\perp$ である。
逆向きの包含 $s+\Gamma^\perp\subset\operatorname{SR}$ が定理の本体である。実数の場合(Riemannの再配列定理)は正の項と負の項を交互に足せばよかったが、高次元では「どの方向へ進むか」を同時に制御しなければならない。そのために次の二つの補題を使う。
有限個のベクトルの和が $0$ のとき、うまく並べれば途中の部分和をすべて小さく保てる。線形代数の Steinitzの交換補題 とは別の主張である。
Steinitz の補題の証明では次の補題を使う。これは、係数を $[0,1]$ に保ったまま、線形従属な方向に動かして係数を端点に寄せる操作である。
$W$ を実ベクトル空間、$w_1,\dots,w_m\in W$、$x\in[0,1]^m$ とし、$b:=\sum_ix_iw_i$ とする。このとき $y\in[0,1]^m$ で、$\sum_iy_iw_i=b$、$x_i\in\{0,1\}$ なら $y_i=x_i$ であり、$0< y_i<1$ となる $i$ 全体についての $w_i$ が線形独立なものがある。
従属な方向に係数を動かすと、和を変えずに端点 $0$ か $1$ に達する座標が出る。これを繰り返す。
$F:=\{i\mid0< x_i<1\}$ について $(w_i)_{i\in F}$ が線形従属なら、$F$ の上でだけ $0$ でない $\eta\in\mathbb R^m$ で $\sum_i\eta_iw_i=0$ となるものがある。$x+t\eta$ は $t$ が小さければ $[0,1]^m$ に属し、$\sum_i(x_i+t\eta_i)w_i=b$ である。$x+t\eta\in[0,1]^m$ となる最大の $t>0$ をとると、$F$ のある座標が $0$ か $1$ に達し、$F$ の外の座標は変わらない。$F$ の元の個数が真に減るので、有限回でこの操作は止まり、そのときの $y$ が求めるものである。
$V$ を $d$ 次元の実ノルム空間(ノルム $\|\cdot\|$ は任意)、$v_1,\dots,v_N\in V$ とし、$\sum_{i=1}^Nv_i=0$、すべての $i$ で $\|v_i\|\le\varepsilon$ とする。このとき $\{1,\dots,N\}$ の並べ替え $\tau$ で、すべての $k=1,\dots,N$ について
$$
\Bigl\|\sum_{j=1}^kv_{\tau(j)}\Bigr\|\le d\varepsilon
$$
となるものがある。
$N\le d$ なら、どの順でも部分和のノルムは $k\varepsilon\le d\varepsilon$ 以下である。$N>d$ とする。$k=N,N-1,\dots,d$ について、添字集合 $A_k$($|A_k|=k$、$A_N\supset A_{N-1}\supset\cdots\supset A_d$)と係数 $\lambda^{(k)}\in[0,1]^{A_k}$ で
$$
\sum_{i\in A_k}\lambda^{(k)}_iv_i=0,\qquad\sum_{i\in A_k}\lambda^{(k)}_i=k-d
$$
を満たすもの(以下この二つの等式を (★) と呼ぶ)を順に作る。$A_N=\{1,\dots,N\}$、$\lambda^{(N)}_i=\frac{N-d}N$ は (★) を満たす。
$k\ge d+1$ について $A_k,\lambda^{(k)}$ ができたとする。$\mu^0:=\frac{k-1-d}{k-d}\lambda^{(k)}$ は $[0,1]^{A_k}$ に属し、$\sum\mu^0_iv_i=0$、$\sum\mu^0_i=k-1-d$ を満たす。$V\times\mathbb R$ のベクトル $w_i:=(v_i,1)$ を使うと、この二つの条件は $\sum_{i\in A_k}\mu_iw_i=(0,k-1-d)$ とまとめて書ける。lem-ls-vertex により、同じ条件を満たし、$0<\mu_i<1$ となる $i$ の $w_i$ が $V\times\mathbb R$($d+1$ 次元)で線形独立な $\mu\in[0,1]^{A_k}$ がある。そのような $i$ は $d+1$ 個以下である。
ここで $\mu_i=0$ となる $i$ がある。実際、そのような $i$ がなければ、$\mu_i=1$ となる $i$ は $k-(d+1)$ 個以上あり、$0<\mu_i<1$ となる $i$ が 1 つでもあれば $\sum\mu_i>k-d-1$、1 つもなければ $\sum\mu_i=k>k-d-1$ となって、$\sum\mu_i=k-1-d$ に反する。この $i$ を除いて $A_{k-1}:=A_k\setminus\{i\}$、$\lambda^{(k-1)}:=\mu|_{A_{k-1}}$ とすれば、$\mu_i=0$ なので (★) が $k-1$ について成り立つ。
並べ方は、まず $A_d$ の元を任意の順に並べ、続いて $k=d+1,\dots,N$ の順に $A_k\setminus A_{k-1}$ のただ 1 つの元を並べる。$k\ge d$ のとき最初の $k$ 個はちょうど $A_k$ なので、(★) から
$$
\Bigl\|\sum_{i\in A_k}v_i\Bigr\|=\Bigl\|\sum_{i\in A_k}\bigl(1-\lambda^{(k)}_i\bigr)v_i\Bigr\|\le\varepsilon\sum_{i\in A_k}\bigl(1-\lambda^{(k)}_i\bigr)=\varepsilon\bigl(k-(k-d)\bigr)=d\varepsilon
$$
である。$k< d$ のときは $k$ 個のベクトルの和なのでノルムは $k\varepsilon\le d\varepsilon$ 以下である。
lem-ls-steinitz の状況で $\sum_iv_i=u$($0$ とは限らない)とすると、並べ替え $\tau$ で、すべての $k$ について $\bigl\|\sum_{j\le k}v_{\tau(j)}\bigr\|\le\|u\|+d\varepsilon$ となるものがある。
ノルム $\varepsilon$ 以下のベクトル $-u/m$ を $m$ 個加えて和を $0$ にし、lem-ls-steinitz を使う。
$\varepsilon=0$ ならすべて $0$ なので明らかである。$\varepsilon>0$ とし、$m:=\lceil\|u\|/\varepsilon\rceil$ 個のベクトル $-u/m$ を加える($u=0$ なら何も加えない)。どれもノルムは $\varepsilon$ 以下で、全体の和は $0$ なので、lem-ls-steinitz の並べ方がある。そこから加えたベクトルを取り除いた順を $\tau$ とする。$v$ だけの最初の $k$ 個の和は、拡大した列のある最初の部分の和に、そこに含まれる $j$ 個($0\le j\le m$)の $-u/m$ を戻したものなので、ノルムは $d\varepsilon+\frac jm\|u\|\le d\varepsilon+\|u\|$ 以下である。
Steinitz の元の論文の定数は $2d$ であり、定数 $d$ は Grinberg と Sevastyanov による改良である(Bar23 p. 2)。上の証明は定数 $d$ を与えている。定数が次元だけで決まり、ベクトルの個数 $N$ によらないことが、無限級数への応用で決定的に効く。
以下、$\sum v_n$ は $\mathbb R^d$ で $s$ に収束するとし、$L:=\Gamma^\perp$、$r:=\dim L$ とおく。$\mathbb R^d=\Gamma\oplus L$ は直交分解であり、その直交射影を $P_\Gamma$、$P_L$ と書き、$u_n:=P_Lv_n$ とする。$\|u_n\|\le\|v_n\|$ である。
$\Gamma$ の正規直交基底 $a_1,\dots,a_g$ をとると $\|P_\Gamma v\|\le\sum_i|\langle a_i,v\rangle|$ なので、
$$
\sum_{n=1}^\infty\|P_\Gamma v_n\|\le\sum_{i=1}^g\sum_{n=1}^\infty|\langle a_i,v_n\rangle|<\infty
$$
である。つまり $\Gamma$ 方向の成分は絶対収束する。一方 $0\ne b\in L$ なら $b\notin\Gamma$($\Gamma\cap\Gamma^\perp=\{0\}$)なので、収束する実数の級数 $\sum_n\langle b,v_n\rangle=\sum_n\langle b,u_n\rangle$ は絶対収束せず、絶対収束 の記事の命題「正の部分と負の部分の級数」により
$$
\sum_{n\in I}\max\bigl(\langle b,u_n\rangle,0\bigr)=+\infty
$$
が、有限個の添字を除いた任意の集合 $I\subset\mathbb N$ について成り立つ。
$I\subset\mathbb N$ を補集合が有限な集合とする。任意の $t\in L$ と $\delta>0$ に対し、有限集合 $G\subset I$ で
$$
\Bigl\|\sum_{n\in G}u_n-t\Bigr\|<\delta+r\sup_{n\in I}\|v_n\|
$$
となるものがある($G=\emptyset$ のとき和は $0$)。
$r=0$ なら $t=0$ で $G=\emptyset$ とすればよい。$r\ge1$ とする。
段 1(凸集合).有限集合 $F\subset I$ と $t_n\in[0,1]$ によって $\sum_{n\in F}t_nu_n$ と書ける $L$ の点全体を $Z$ とする。二つの点の添字集合を合わせて考えれば、その凸結合も同じ形に書けるので、$Z$ は $0$ を含む凸集合である。$C$ を $Z$ の閉包とする($C$ も凸である)。
段 2($C=L$).$C\ne L$ と仮定し、$z\in L\setminus C$ をとる。$C$ の点で $z$ に最も近い点 $c$ がある。実際、$\inf_{y\in C}\|z-y\|$ に近づく $C$ の点列は有界なので、Bolzano–Weierstrassの定理 の記事の定理「$\mathbb{R}^m$ の Bolzano–Weierstrass の定理」により収束部分列をもち、$C$ は閉なのでその極限 $c$ は $C$ に属して距離を実現する。$b:=z-c\in L$ は $0$ でない。$y\in C$、$0<\theta\le1$ について $c+\theta(y-c)\in C$ なので
$$
0\le\|b-\theta(y-c)\|^2-\|b\|^2=-2\theta\langle b,y-c\rangle+\theta^2\|y-c\|^2
$$
であり、$\theta\to0$ として $\langle b,y\rangle\le\langle b,c\rangle$ を得る。ところが $F$ を $I$ の最初の何個かの元のうち $\langle b,u_n\rangle>0$ となるものの集合、$t_n=1$ とすると、$y=\sum_{n\in F}u_n\in Z$ について $\langle b,y\rangle=\sum_{n\in F}\max(\langle b,u_n\rangle,0)$ はいくらでも大きくなる。これは矛盾なので $C=L$ である。
段 3(係数の丸め).段 2 により $\|z-t\|<\delta$ となる $z=\sum_{n\in F}t_nu_n\in Z$ がある。lem-ls-vertex を $W=L$ と $(u_n)_{n\in F}$ に使うと、同じ $z$ を表す係数 $y_n\in[0,1]$ で、$0< y_n<1$ となる $n$ の $u_n$ が $L$ で線形独立なものがある。そのような $n$ は $r$ 個以下である。$G:=\{n\in F\mid y_n=1\}$ とすると
$$
\Bigl\|\sum_{n\in G}u_n-z\Bigr\|=\Bigl\|\sum_{0< y_n<1}y_nu_n\Bigr\|\le r\sup_{n\in I}\|u_n\|\le r\sup_{n\in I}\|v_n\|
$$
であり、三角不等式から求める不等式を得る。
右辺に $r\sup_{n\in I}\|v_n\|$ が残るので、一つの $I$ でいくらでもよい近似ができるわけではない。$I$ の最小の元を大きくしていくと $v_n\to0$ からこの誤差も $0$ に近づく、という形で使う。
$\mathbb R^d$ の級数 $\sum v_n$ が $s$ に収束するとする。このとき
$$
\operatorname{SR}\Bigl(\sum v_n\Bigr)=s+\Gamma^\perp
$$
である。とくに和の範囲はアフィン部分空間であり、$\sum v_n$ が絶対収束するならば一点 $\{s\}$、絶対収束しないならば次元 $1$ 以上のアフィン部分空間である。
prop-ls-necessary により $\operatorname{SR}\subset s+L$ である。逆に $w\in s+L$ を固定し、和が $w$ となる並べ替えを作る。$\eta(m):=\sup_{n\ge m}\|v_n\|$ とおくと、$v_n\to0$ から $\eta(m)\to0$ である。
段 1(ブロックの選び方).$j=1,2,\dots$ の順に、互いに交わらない空でない有限集合 $B_j\subset\mathbb N$ を選ぶ。$U_{j-1}:=B_1\cup\dots\cup B_{j-1}$($U_0=\emptyset$)、$S_{j-1}:=\sum_{n\in U_{j-1}}v_n$ とする。$m_j:=\min(\mathbb N\setminus U_{j-1})$ とし、$I_j:=\mathbb N\setminus(U_{j-1}\cup\{m_j\})$ とおく。$I_j$ は補集合が有限で、その元はすべて $m_j$ より大きい。$t_j:=P_L(w-S_{j-1}-v_{m_j})\in L$ に lem-ls-dense を $\delta=1/j$ で使い、有限集合 $G_j\subset I_j$ で
$$
\Bigl\|\sum_{n\in G_j}u_n-t_j\Bigr\|<\frac1j+r\,\eta(m_j)
$$
となるものをとって、$B_j:=\{m_j\}\cup G_j$、$S_j:=S_{j-1}+\sum_{n\in B_j}v_n$ とする。$m_j$ は狭義に増加するので $m_j\ge j$ であり、$m_j$ より小さい添字はすべて $U_{j-1}$ に入っているから、$\{1,\dots,m_j\}\subset U_j$ である。とくに各 $n\in\mathbb N$ はいずれかの $B_j$ に属する。
段 2(ブロックの終わりの和).$L$ 方向では、$P_L(S_j-w)=P_L(S_{j-1}+v_{m_j}-w)+\sum_{n\in G_j}u_n=\sum_{n\in G_j}u_n-t_j$ なので $\|P_L(S_j-w)\|<\frac1j+r\eta(m_j)\to0$ である。$\Gamma$ 方向では、$w-s\in L$ から $P_\Gamma w=P_\Gamma s=\sum_nP_\Gamma v_n$ であり、この級数は絶対収束するので
$$
\|P_\Gamma(S_j-w)\|=\Bigl\|\sum_{n\notin U_j}P_\Gamma v_n\Bigr\|\le\sum_{n>m_j}\|P_\Gamma v_n\|\to0
$$
である。よって $S_j\to w$ であり、$S_j-S_{j-1}\to0$ でもある。
段 3(ブロックの中の順序).$B_j$ の元を cor-ls-steinitz-total($V=\mathbb R^d$、$\varepsilon=\max_{n\in B_j}\|v_n\|\le\eta(m_j)$、$u=S_j-S_{j-1}$)の順に並べ、$B_1,B_2,\dots$ の順に継ぎ足す。各 $n$ はちょうど 1 つの $B_j$ にちょうど 1 回現れるので、これは $\mathbb N$ の全単射 $\sigma$ を定める。第 $j$ ブロックの途中までの部分和 $T$ は
$$
\|T-w\|\le\|S_{j-1}-w\|+\|S_j-S_{j-1}\|+d\,\eta(m_j)
$$
を満たす。各ブロックは有限なので、部分和の番号が大きくなるとブロックの番号 $j$ も大きくなり、右辺は $0$ に近づく。よって $\sum_kv_{\sigma(k)}=w$ である。
最後の主張は、定義の節で見た「$\Gamma=\mathbb R^d$ と絶対収束の同値」による。$\sum v_n$ が絶対収束しなければ $\Gamma\ne\mathbb R^d$ なので $\dim\Gamma^\perp\ge1$ である。
複素数の級数 $\sum z_n$ が $s$ に収束するとする。$\sum z_n$ が絶対収束するならば和の範囲は $\{s\}$ であり、条件収束するならば和の範囲は $s$ を通る複素平面上の直線か、複素平面全体である。
$\mathbb C$ を $z=x+iy\mapsto(x,y)$ で $\mathbb R^2$ と同一視すると、$|z|$ は Euclid ノルムになる。thm-ls-main を $d=2$ で使う。条件収束するなら $\Gamma\ne\mathbb R^2$ なので $\Gamma^\perp$ は 1 次元か 2 次元であり、$s+\Gamma^\perp$ は $s$ を通る直線か平面全体である。
$d=1$ の場合、$\Gamma^\perp$ は $\{0\}$ か $\mathbb R$ なので、thm-ls-main は Riemannの再配列定理 の記事の系「和・発散・振動の実現」の 1 と、絶対収束する級数の並べ替え(絶対収束 の記事の定理「絶対収束する級数の並べ替え」)を合わせた主張に一致する。
$z_n=\frac{(-1)^{n+1}}n+\frac{i}{2^n}$ とする。和は $s=\log2+i$ である。$a=(\alpha,\beta)$ について $\langle a,z_n\rangle=\alpha\frac{(-1)^{n+1}}n+\beta2^{-n}$ であり、$\sum2^{-n}$ が収束し $\sum\frac1n$ が発散するので、これが絶対収束するのは $\alpha=0$ のときに限る。よって $\Gamma=\{0\}\times\mathbb R$、$\Gamma^\perp=\mathbb R\times\{0\}$(実軸)であり、和の範囲は直線 $\{x+i\mid x\in\mathbb R\}$ である。この直線は原点を通らないので、和の範囲は一般に線形部分空間ではなくアフィン部分空間である。
$z_{2m-1}=\frac{(-1)^{m+1}}m$、$z_{2m}=i\frac{(-1)^{m+1}}m$ とする。交代調和級数の部分和を $A_M$ とすると、部分和は $A_M+iA_M$ または $A_M+iA_{M-1}$ なので、$\sum z_n$ は $(1+i)\log2$ に収束する。$\langle a,z_n\rangle$ の絶対値の和は $|\alpha|\sum\frac1m+|\beta|\sum\frac1m$ なので、$\Gamma=\{0\}$ であり、和の範囲は $\mathbb C$ 全体である。
$z_n=(1+i)\frac{(-1)^{n+1}}n$ とすると、実部の級数も虚部の級数も交代調和級数で条件収束する。しかし $\langle a,z_n\rangle=(\alpha+\beta)\frac{(-1)^{n+1}}n$ なので $\Gamma=\{(\alpha,-\alpha)\}$、$\Gamma^\perp=\{(x,x)\}$ であり、和の範囲は直線 $\{x(1+i)\mid x\in\mathbb R\}$ である。どの並べ替えでも実部と虚部は同じ項を同じ順に足すので、たとえば $1$(実部 $1$、虚部 $0$)は和にならない。各座標が条件収束しても、和の範囲が全空間になるとは限らない。
$V$ を $d$ 次元の実ノルム空間とし、線形同型 $\phi\colon\mathbb R^d\to V$ を一つとる。有限次元ではすべてのノルムが同値なので(ノルム空間 の記事の定理「有限次元ではすべてのノルムが同値」)、$\phi$ は同相写像であり、級数とその並べ替えの収束は $\phi$ で移り合う。$V$ の線形汎関数 $\ell$ は $\ell(\phi(x))=\langle a,x\rangle$ と一意に書けるので、thm-ls-main は次の形で $V$ に移る:$\Gamma_V$ を $\sum_n|\ell(v_n)|<\infty$ となる線形汎関数 $\ell$ の全体とすると、和の範囲は $s+\bigcap_{\ell\in\Gamma_V}\ker\ell$ である。この形は内積の選び方によらない。複素ベクトル空間 $\mathbb C^d$ は実 $2d$ 次元の空間と見て、実線形汎関数で $\Gamma_V$ を作る。
条件収束する複素数の級数 $\sum z_n$ には、$\bigl|\sum_{k\le N}z_{\sigma(k)}\bigr|\to\infty$ となる並べ替えもある。実際、$|z_n|\le|\operatorname{Re}z_n|+|\operatorname{Im}z_n|$ なので、実部と虚部の級数の少なくとも一方は絶対収束せず、収束はするので条件収束する。それがたとえば実部なら、実数の級数 $\sum\operatorname{Re}z_n$(実部が $0$ の項も含めたすべての添字の級数)に Riemannの再配列定理 の記事の系「和・発散・振動の実現」の 2 を当てて実部の部分和が $+\infty$ に発散する並べ替えをとれば、複素数の部分和の絶対値は実部以上なので $\infty$ に発散する。和の範囲に無限遠点を加えて考えると、条件収束する複素数の級数の和は「直線と無限遠点」か「平面と無限遠点」になる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $\sum v_n$ が収束する(thm-ls-main) | $v_n=(-1)^n$($d=1$) | 項が $0$ に近づかないので、どの並べ替えも収束せず、和の範囲は空集合になる |
| 条件収束する(cor-ls-complex) | $z_n=i^n/n^2$ | 絶対収束するので、和の範囲は一点であり、直線にも平面にもならない |
| $\sum v_i=0$(lem-ls-steinitz) | $v_1=\dots=v_N=\varepsilon e_1$ | どの順でも最後の部分和のノルムは $N\varepsilon$ で、$N>d$ なら $d\varepsilon$ を超える |
| 各項のノルムが $\varepsilon$ 以下(lem-ls-steinitz) | $v_1=Me_1$、$v_2=-Me_1$($M>d\varepsilon$) | どちらを先にしても最初の部分和のノルムは $M>d\varepsilon$ である |
条件収束する複素数の級数の並べ替えの和(収束するものと $\infty$ に発散するもの)が、無限遠点を含めた直線か平面全体になること、有限次元のベクトルの級数の和の範囲がアフィン部分空間になることは、GO03 Chapter 6, Example 5 の後半(pp. 55–56)に述べられている。定理の一般の形(任意の有限次元 Banach 空間で、和の範囲 $\Sigma$ がアフィン部分空間であり $\Sigma=\Sigma+\Gamma^\perp$ を満たすこと。収束する級数では $s\in\Sigma$ と prop-ls-necessary から $\Sigma=s+\Gamma^\perp$ と同じ主張になる)と、Lévy(1905 年)が証明し、高次元の場合の欠落を Steinitz(1913 年)が補ったという経緯は Ban17 Theorem 1 とその直後の段落(p. 1)による。Steinitz の補題の定数については Bar23 Theorem 1.2 とその直後の段落(p. 2)を参照。この記事の証明は、必要条件(prop-ls-necessary)、Steinitz の補題、有限部分和の稠密性、ブロックの継ぎ足しの 4 段で組み立てた。
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