Morse関数の存在

同義語:Morse関数の存在と稠密性Morse関数の稠密性モース関数の存在existence of Morse functionsgenericity of Morse functions

概要

Morse関数の存在(existence of Morse functions)とは、どの多様体にも Morse 関数が豊富にあるという一群の定理である。Euclid 空間の開集合や部分多様体の上の滑らかな関数 $f$ に 1 次関数 $a\cdot x$ を足した $f+a\cdot x$ は、ほとんどすべての $a$ について Morse 関数になり、これは Sard の定理から従う。系として、任意の多様体は劣位集合がコンパクトな Morse 関数をもち、境界のないコンパクトな多様体では Morse 関数の全体が $C^2$ 位相で開かつ稠密で、臨界値を互いに異なるようにでき、境界付き多様体では境界で一定値をとり臨界点がすべて内部にある Morse 関数がとれる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Morse関数, Sardの定理, Fubiniの定理, Whitneyの埋め込み定理

Morse関数 は、すべての臨界点で Hesse 形式が非退化な関数である。では、Morse 関数はどれくらいあるのか。答えは「ほとんどすべての関数が Morse 関数である」:どんな滑らかな関数も、小さな 1 次関数を足すだけで Morse 関数になる。$\mathbb{R}$ 上の $x^3$ は原点が退化臨界点だが、$x^3+ax$ は $a\ne0$ ならどれも Morse 関数である($a< 0$ なら臨界点 $\pm\sqrt{-a/3}$ で 2 階微分が $0$ でなく、$a>0$ なら臨界点がない)。退化臨界点は、係数を少し動かすと壊れてしまう「偶然の一致」なのである。
この「一般の位置」の現象を支えるのは Sardの定理 である。関数 $f$ に 1 次関数 $a\cdot x$ を足した $f_a$ の臨界点は、勾配の写像 $x\mapsto\nabla f(x)$ で $-a$ に写る点であり、その点が退化していることは $-a$ が勾配の写像の臨界値であることにあたる。臨界値は測度零なので、ほとんどすべての $a$ で $f_a$ は Morse 関数になる。この記事では、この議論を Euclid 空間の開集合から多様体へ広げ、Morse 関数の存在、コンパクトな多様体での開かつ稠密であること、臨界値を互いに異なるようにできること、境界付き多様体での形を証明する。

設定と記号

この記事では、多様体は Hausdorff かつ第 2 可算とし、「滑らか」は $C^\infty$ 級を指す。$\mathbb{R}^N$ の部分集合が測度零であるとは、Lebesgue 測度が $0$ であることをいい(Sardの定理 の定義「測度零集合」)、「ほとんどすべての $a\in\mathbb{R}^N$ について $P(a)$」とは、$P(a)$ が成り立たない $a$ の集合が測度零であることをいう。測度零集合の補集合は稠密である(測度零集合は内点をもたない)。$a,x\in\mathbb{R}^N$ の内積を $a\cdot x$ と書く。
$M\subset\mathbb{R}^N$ が $k$ 次元の部分多様体であるとは、$M$ が $\mathbb{R}^N$ の相対位相で $k$ 次元の多様体になり、包含写像が滑らかな埋め込みであることをいう(はめ込みと埋め込み(可微分多様体))。このとき $\mathbb{R}^N$ の座標関数 $x_1,\dots,x_N$ の $M$ への制限は $M$ の上の滑らかな関数であり、$M$ の上の関数 $f$ と $a\in\mathbb{R}^N$ について
$$ f_a:=f+a\cdot x=f+a_1x_1+\dots+a_Nx_N\qquad(M\text{ の上の関数}) $$
とおく。

Euclid 空間の開集合の場合

1 次関数による摂動

$U\subset\mathbb{R}^n$ を開集合、$f\colon U\to\mathbb{R}$ を滑らかな関数とする。ほとんどすべての $a\in\mathbb{R}^n$ について、$f_a(x):=f(x)+a\cdot x$ は $U$ の上の Morse 関数である。

勾配の写像 $G\colon U\to\mathbb{R}^n$、$G(x):=\Bigl(\dfrac{\partial f}{\partial x_1}(x),\dots,\dfrac{\partial f}{\partial x_n}(x)\Bigr)$ を考える。$G$ は滑らかで、その Jacobi 行列 $DG(x)$ は $f$ の 2 階偏微分の行列である。$f_a$ の偏微分は $\partial f_a/\partial x_i=\partial f/\partial x_i+a_i$ なので、
$$ x\text{ が }f_a\text{ の臨界点}\iff G(x)=-a $$
であり、$f_a$ と $f$ は 2 階偏微分が等しいので、$f_a$ の $x$ での Hesse 行列は $DG(x)$ である。
$-a$ が $G$ の正則値であるとする。$f_a$ の臨界点 $x$ では $G(x)=-a$ なので $DG(x)$ は全射、すなわち正則であり、$x$ は非退化臨界点である。よって $f_a$ は Morse 関数である。$f_a$ が Morse 関数でないような $a$ の集合は、$G$ の臨界値の集合を $-1$ 倍したものに含まれる。Sardの定理 の定理「Sardの定理」により $G$ の臨界値の集合は測度零であり、$-1$ 倍しても測度零なので、主張が従う。$\square$

$a$ を固定した $f_a$ の臨界点がすべて非退化であるという主張を、$a$ を動かした族についての主張に言い換えたことが要点である。$G$ の像の中で「悪い値」が測度零に収まるので、$a$ をよけて選べる。

多様体の場合

多様体では、座標関数の一部を局所座標として使い、残りの座標の係数を止めて thm-emf-linear を使う。

座標関数から局所座標を選ぶ

$M\subset\mathbb{R}^N$ を $k$ 次元の部分多様体とする。各点 $p\in M$ に、$p$ の開近傍 $V\subset M$ と添字 $i_1< i_2< \dots< i_k$ で、$(x_{i_1},\dots,x_{i_k})\vert_V$ が $V$ の局所座標になるものがある。

包含写像の微分により $T_pM$ を $\mathbb{R}^N$ の $k$ 次元部分空間とみる。$\mathbb{R}^N$ 上の線形関数を $T_pM$ に制限する写像 $(\mathbb{R}^N)^*\to(T_pM)^*$ は全射である($T_pM$ の基底を $\mathbb{R}^N$ の基底に延ばせば、$T_pM$ 上の線形関数は $\mathbb{R}^N$ 上に延びる)。$(\mathbb{R}^N)^*$ は座標関数 $x_1,\dots,x_N$ で張られるので、それらの制限の中から $(T_pM)^*$ の基底 $x_{i_1}\vert_{T_pM},\dots,x_{i_k}\vert_{T_pM}$ を選べる。写像 $(x_{i_1},\dots,x_{i_k})\colon M\to\mathbb{R}^k$ の $p$ での微分はこの $k$ 個の線形関数を並べたもので、同型である。逆関数定理 により、$p$ の開近傍 $V$ の上で局所座標になる。$\square$

部分多様体の上の Morse 関数

$M\subset\mathbb{R}^N$ を $k$ 次元の部分多様体、$f\colon M\to\mathbb{R}$ を滑らかな関数とする。ほとんどすべての $a\in\mathbb{R}^N$ について、$f_a=f+a\cdot x$ は $M$ の上の Morse 関数である。

段 1(可算個の小片に分ける).lem-emf-coordinates の近傍の中に、閉包がコンパクトな開近傍をとる。$M$ は第 2 可算なので、可算個の開集合 $W_1,W_2,\dots$ で $M$ を覆い、各 $W_m$ の閉包 $K_m$ がコンパクトで、ある開集合 $V_m\supset K_m$ の上で $k$ 個の座標関数が局所座標になるようにできる。
$$ S_m:=\{a\in\mathbb{R}^N\mid f_a\text{ は }K_m\text{ の中に退化臨界点をもつ}\} $$
とおく。$f_a$ が Morse 関数でないことは、ある $m$ で $a\in S_m$ となることと同値なので、各 $S_m$ が測度零であることを示せばよい(測度零集合の可算和は測度零)。以下 $m$ を固定し、座標関数の番号を付け替えて、$u:=(x_1,\dots,x_k)$ が $V_m$ の局所座標であるとする。$V_m$ の上の関数を $u$ の関数として書き、$u$ についての偏微分を考える。
段 2($S_m$ は閉集合).$a$ と $u$ についての偏微分
$$ \frac{\partial f_a}{\partial u_i}=\frac{\partial f}{\partial u_i}+\sum_{l=1}^Na_l\frac{\partial x_l}{\partial u_i},\qquad\frac{\partial^2f_a}{\partial u_i\partial u_j}=\frac{\partial^2f}{\partial u_i\partial u_j}+\sum_{l=1}^Na_l\frac{\partial^2x_l}{\partial u_i\partial u_j} $$
は $(a,u)$ について連続である。$a^{(\nu)}\in S_m$ が $a$ に収束するとし、$y^{(\nu)}\in K_m$ を $f_{a^{(\nu)}}$ の退化臨界点とする。$K_m$ はコンパクトなので、部分列をとって $y^{(\nu)}\to y\in K_m$ としてよい。1 階偏微分がすべて $0$、2 階偏微分の行列式が $0$ という条件は極限で保たれるので、$y$ は $f_a$ の退化臨界点であり、$a\in S_m$ である。よって $S_m$ は閉集合、とくに Borel 集合である。
段 3(切り口は測度零).$a=(b,c)$、$b\in\mathbb{R}^k$、$c\in\mathbb{R}^{N-k}$ と分けると、$V_m$ の上で
$$ f_a=\underbrace{\Bigl(f+\sum_{l>k}c_lx_l\Bigr)}_{=:g_c}+b\cdot u $$
である。$c$ を固定すると $g_c$ は開集合 $u(V_m)\subset\mathbb{R}^k$ の上の滑らかな関数なので、thm-emf-linear により、ほとんどすべての $b$ で $g_c+b\cdot u$ は $V_m$ の上の Morse 関数である。したがって、すべての $c$ について、切り口 $\{b\mid(b,c)\in S_m\}$ は $\mathbb{R}^k$ の測度零集合である。
段 4(結論).$S_m$ は Borel 集合で、すべての切り口が測度零なので、Fubiniの定理 の系「Euclid空間の零集合と切り口」(2 つの因子の順を入れ替えて使う)により $S_m$ は $\mathbb{R}^N$ の測度零集合である。$\square$

段 2 で閉集合であることを確かめたのは、Fubini の定理を使うには集合が可測である必要があるからである。一方向の切り口がすべて測度零でも、可測でない集合は測度零とは限らない(連続体仮説のもとでの例が Fubiniの定理 の注意「反例:積 σ-代数について可測でない集合」にある)。
どの多様体も Euclid 空間の閉部分多様体として埋め込めるので、thm-emf-submanifold から次が従う。

Morse関数の存在

任意の $n$ 次元の多様体 $M$ に、Morse 関数 $f\colon M\to\mathbb{R}$ で、すべての $c\in\mathbb{R}$ について劣位集合 $\{f\le c\}$ がコンパクトであり、下に有界なものがある。

Whitneyの埋め込み定理 の定理「Whitneyの埋め込み定理」により、$M$ は $\mathbb{R}^{2n+1}$ の閉部分多様体とみなせる。$g(x):=\lvert x\rvert^2$ の $M$ への制限に thm-emf-submanifold を使うと、測度零集合の補集合は稠密なので、$\lvert a\rvert<1$ で $f:=g+a\cdot x$ が Morse 関数となる $a$ がある。$f(x)\ge\lvert x\rvert^2-\lvert x\rvert\ge-\frac14$ なので $f$ は下に有界である。$\{x\in M\mid f(x)\le c\}$ は $\{x\mid\lvert x\rvert^2-\lvert x\rvert\le c\}$ に含まれるので $\mathbb{R}^{2n+1}$ の有界集合であり、$M$ は $\mathbb{R}^{2n+1}$ の閉集合なので $\mathbb{R}^{2n+1}$ の閉集合である。よってコンパクトである。$\square$

劣位集合がコンパクトな関数は隆起関数 の記事の意味の消尽関数である。コンパクトでない多様体でも、Morse 関数の劣位集合を下から順に調べられることが、ハンドル分解 の議論の出発点になる。

コンパクトな多様体の上で開かつ稠密であること

コンパクトな多様体では、Morse 関数は「少し動かしても Morse 関数のまま」であり、「どの関数の近くにもある」。近さは 2 階までの偏微分で測る。

$C^r$ の近さ

$M$ を境界のないコンパクトな $n$ 次元の多様体とする。有限個の局所座標 $(U_i,\varphi_i)$($i=1,\dots,s$)と、コンパクト集合 $K_i\subset U_i$ で $K_1\cup\dots\cup K_s=M$ となるものを 1 組固定する。整数 $r\ge0$ と $\delta>0$ について、滑らかな関数 $g$ が $f$ に $C^r$ で $\delta$ 近いとは、すべての $i$、$\lvert\alpha\rvert\le r$ の多重指数 $\alpha$、$\varphi_i(K_i)$ のすべての点で
$$ \Bigl\lvert\partial^\alpha\bigl((g-f)\circ\varphi_i^{-1}\bigr)\Bigr\rvert<\delta $$
となることをいう。$f$ に $C^2$ で $\delta$ 近い関数の全体($\delta>0$)を $f$ の近傍の基本系とする位相を、$C^\infty(M)$ の $C^2$ 位相という。

この位相は、局所座標とコンパクト集合の組の選び方によらない(Mil65 §2、pp. 13–14。座標変換の偏微分がコンパクト集合の上で有界であることから従う。この記事では、組を 1 つ固定して述べる)。

臨界点のないコンパクト集合

$M$ を多様体、$K\subset M$ をコンパクト集合、$f,h_1,\dots,h_m$ を $M$ の上の滑らかな関数とし、$f$ は $K$ の中に臨界点をもたないとする。$\varepsilon_0>0$ があって、$\lvert t\rvert<\varepsilon_0$ のすべての $t\in\mathbb{R}^m$ について $f+t_1h_1+\dots+t_mh_m$ は $K$ の中に臨界点をもたない。

そうでないとすると、$t^{(\nu)}\to0$ と、$f+\sum_lt^{(\nu)}_lh_l$ の臨界点 $y^{(\nu)}\in K$ がある。部分列をとって $y^{(\nu)}\to y\in K$ としてよい。$y$ のまわりの局所座標で、偏微分 $\partial f/\partial u_i+\sum_lt_l\,\partial h_l/\partial u_i$ は $(t,u)$ について連続なので、極限で $\partial f/\partial u_i(y)=0$ となり、$y$ は $f$ の臨界点である。これは仮定に反する。$\square$

コンパクトな多様体での開稠密性

$M$ を境界のないコンパクトな多様体とする。
1.(開いている)$f$ が Morse 関数なら、$\delta>0$ があって、$f$ に $C^2$ で $\delta$ 近い関数はすべて Morse 関数である。
2.(稠密である)任意の滑らかな関数 $f$、整数 $r\ge0$、$\delta>0$ について、$f$ に $C^r$ で $\delta$ 近い Morse 関数がある。
したがって、Morse 関数の全体は $C^\infty(M)$ の $C^2$ 位相で開かつ稠密である。

1.局所座標 $\varphi_i$ で $h:=f\circ\varphi_i^{-1}$ と書き、
$$ \Phi_h(u):=\sum_j\Bigl(\frac{\partial h}{\partial u_j}(u)\Bigr)^2+\Bigl(\det\Bigl(\frac{\partial^2h}{\partial u_j\partial u_l}(u)\Bigr)\Bigr)^2 $$
とおく。$u$ が臨界点でなければ第 1 項が正、臨界点なら $f$ が Morse 関数なので第 2 項が正である。よって $\Phi_h$ は $\varphi_i(K_i)$ の上で正で、コンパクト性から最小値 $\mu_i>0$ をもつ。$\Phi_h(u)$ は、1 階と 2 階の偏微分を並べたベクトル $w_h(u)\in\mathbb{R}^{n+n^2}$ の多項式 $P(w_h(u))$ である。$w_f(\varphi_i(K_i))$ から距離 $1$ 以内の点の集合はコンパクトなので、$P$ はその上で一様連続であり、$\eta_i\in(0,1]$ があって、そこで $\lvert w-w'\rvert<\eta_i$ なら $\lvert P(w)-P(w')\rvert<\mu_i$ となる。$g$ が $f$ に $C^2$ で $\delta$ 近く、$\delta\sqrt{n+n^2}<\eta_i$ なら、$\varphi_i(K_i)$ の各点で $\lvert w_{g\circ\varphi_i^{-1}}-w_h\rvert<\eta_i$ なので $\Phi_{g\circ\varphi_i^{-1}}>0$ であり、$g$ は $K_i$ の中に退化臨界点をもたない。$\delta$ をすべての $i$ についてこの条件をみたすようにとればよい。
2.Whitneyの埋め込み定理 により $M\subset\mathbb{R}^N$ とみなす。座標関数 $x_l\circ\varphi_i^{-1}$ の $r$ 階までの偏微分の絶対値は、コンパクト集合 $\varphi_i(K_i)$ の上である定数 $C$ 以下である(すべての $i$、$l$ で共通にとる)。すると $(a\cdot x)\circ\varphi_i^{-1}$ の $r$ 階までの偏微分の絶対値は $\sum_l\lvert a_l\rvert C\le\sqrt N\lvert a\rvert C$ 以下である。thm-emf-submanifold により、$f_a$ が Morse 関数でない $a$ の集合は測度零なので、$\sqrt N\lvert a\rvert C<\delta$ で $f_a$ が Morse 関数となる $a$ がある。$f_a$ は $f$ に $C^r$ で $\delta$ 近い。$\square$

1 の証明から、Morse 関数であることは「$\Phi>0$」という 2 階までの偏微分についての開いた条件であることがわかる。1 階の近さだけでは足りない(ex-emf-counterexamples の 3 行目)。
Morse 関数の臨界点は有限個なので(Morse関数 の系「非退化臨界点は孤立する」)、さらに臨界値を互いに異なるようにできる。

臨界値を分ける

$M$ を境界のないコンパクトな多様体、$f$ を Morse 関数とし、臨界点を $p_1,\dots,p_m$ とする。任意の $r\ge0$ と $\delta>0$ について、$f$ に $C^r$ で $\delta$ 近い Morse 関数 $g$ で、臨界点が $p_1,\dots,p_m$ のままで各点の指数が変わらず、臨界値 $g(p_1),\dots,g(p_m)$ が互いに異なるものがある。

$p_1,\dots,p_m$ の開近傍 $V_1,\dots,V_m$ を、閉包が互いに交わらずコンパクトになるようにとる。隆起関数 の定理「コンパクト集合に対する隆起関数」により、$p_i$ の近傍で $1$、台が $V_i$ に含まれる滑らかな関数 $\rho_i\colon M\to[0,1]$ がある。$K:=\bigcup_i\operatorname{supp}d\rho_i$ はコンパクトで、$p_i$ の近くでは $\rho_i$ が定数なので $p_j\notin K$ であり、$f$ は $K$ の中に臨界点をもたない。lem-emf-no-critical の $\varepsilon_0$ をとり、$g:=f+\sum_i\varepsilon_i\rho_i$ とおく。
$K$ に属さない点 $y$ の近くでは、各 $d\rho_i$ が $0$ なので各 $\rho_i$ は定数であり、$g-f$ は定数である。よって $y$ が $g$ の臨界点であることと $f$ の臨界点であることは同値で、Hesse 形式も等しい。$K$ の中には、$\lvert(\varepsilon_1,\dots,\varepsilon_m)\rvert<\varepsilon_0$ なら $g$ の臨界点はない。したがって $g$ の臨界点は $p_1,\dots,p_m$ で、非退化で指数も変わらない。$g(p_i)=f(p_i)+\varepsilon_i$ なので、$\varepsilon_i$ を小さく、$f(p_i)+\varepsilon_i$ が互いに異なるように選べる。$g-f=\sum_i\varepsilon_i\rho_i$ の $r$ 階までの偏微分は $\max_i\lvert\varepsilon_i\rvert$ に比例して小さくなるので、$\varepsilon_i$ を十分小さくとれば $g$ は $f$ に $C^r$ で $\delta$ 近い。$\square$

Morse関数 の記事の立てたトーラスの高さ関数や実射影空間の上の関数は、はじめから臨界値が互いに異なる例である。臨界値を異なるようにしておくと、値を下から上げていくとき臨界点を 1 つずつ越えられるので、ハンドルを 1 つずつ付ける分解が得られる(ハンドル分解)。

境界付き多様体の場合

境界付き多様体では、境界の上で関数を一定にし、臨界点をすべて内部に置きたい。

境界付き多様体の上の Morse 関数

$W$ をコンパクトな境界付き多様体とし、$\partial W$ が、互いに交わらない開かつ閉な部分集合 $V_0$、$V_1$(空でもよい)の和であるとする。滑らかな関数 $f\colon W\to[0,1]$ で次をみたすものがある。
(i) $f^{-1}(0)=V_0$、$f^{-1}(1)=V_1$ である。
(ii) $f$ は $\partial W$ のある近傍に臨界点をもたず、$\operatorname{Int}W$ の中の臨界点はすべて非退化で、臨界値は互いに異なる。

要点:カラーの座標 $t$ を使って、境界の近くで $t$ または $1-t$ に等しく、奥では $\frac12$ の関数 $g$ を作る。これに、境界の近くでは $0$ になるように切った小さな 1 次関数を足し、thm-emf-submanifold で奥の臨界点を非退化にし、lem-emf-no-critical で切り替えの部分に臨界点が生まれないようにする。

詳しい証明を開く

段 1(関数 $g$).カラー近傍定理 の定理「カラー近傍定理」によりカラー $c\colon\partial W\times[0,1)\to W$ をとる。滑らかな非減少関数 $\sigma\colon[0,1)\to[0,\frac12]$ で、$[0,\frac14]$ で $\sigma(t)=t$、$[\frac12,1)$ で $\sigma(t)=\frac12$、$(\frac14,\frac12)$ で $\sigma(t)>\frac14$ となるものをとる(導関数を、$[0,\frac14]$ で $1$、$[\frac12,1)$ で $0$、その間で正で積分が $\frac14$ になる滑らかな関数にとり、積分すればよい。そのような導関数は 隆起関数 の例「滑らかな階段関数」を組み合わせて作れる)。$g(c(x,t)):=\sigma(t)$($x\in V_0$)、$g(c(x,t)):=1-\sigma(t)$($x\in V_1$)、カラー $c(\partial W\times[0,\frac12])$ の外で $g:=\frac12$ とおく。$\partial W$ はコンパクトなので $c(\partial W\times[0,\frac12])$ は閉集合であり、2 つの開集合の上の定義は重なり($t\in(\frac12,1)$)で一致するので、$g$ は滑らかである。$c$ の座標 $t$ は微分が $0$ にならないので、$g$ は $c(\partial W\times[0,\frac14])$ の中に臨界点をもたない。$g^{-1}(0)=V_0$、$g^{-1}(1)=V_1$ で、$t\ge\frac18$ の点と奥の点では $\frac18\le g\le\frac78$ である。

段 2(摂動).多様体の二重化 の定理「二重化の滑らかな構造」により $W$ は境界のないコンパクトな多様体 $D(W)$ の閉集合で、$\operatorname{Int}W$ はその開集合である。Whitneyの埋め込み定理 により $D(W)\subset\mathbb{R}^N$ とみなし、座標関数を $x_1,\dots,x_N$ とする。滑らかな関数 $\beta\colon[0,1)\to[0,1]$ で $[0,\frac18]$ で $0$、$[\frac14,1)$ で $1$ となるものをとり、$\rho(c(x,t)):=\beta(t)$、カラー $c(\partial W\times[0,\frac14])$ の外で $\rho:=1$ とおく。$f_a:=g+\rho\,(a\cdot x)$ とおき、$\lvert x\rvert\le R$($x\in W$)となる $R$ をとる。$K:=c(\partial W\times[\frac18,\frac14])$ はコンパクトで $g$ の臨界点を含まないので、lem-emf-no-critical($h_l=\rho x_l$)により、$\lvert a\rvert<\varepsilon_0$ なら $f_a$ は $K$ の中に臨界点をもたない。thm-emf-submanifold を $\operatorname{Int}W\subset\mathbb{R}^N$ と $g$ に使い、$\lvert a\rvert<\min\{\varepsilon_0,1/(16R)\}$ で $g+a\cdot x$ が $\operatorname{Int}W$ の上の Morse 関数となる $a$ を選ぶ。

段 3(確認).$W$ は $c(\partial W\times[0,\frac18))$、$K$、開集合 $O:=W\setminus c(\partial W\times[0,\frac14])$ で覆われる。1 つ目の上では $f_a=g$ で臨界点はなく、$f_a=t$ または $1-t$ なので $f_a^{-1}(0)\cap c(\cdots)=V_0$ などが成り立つ。$K$ の中に臨界点はない。$O$ の上では $\rho=1$ なので $f_a=g+a\cdot x$ で、臨界点は非退化である。$t\ge\frac18$ の点と $O$ では $\lvert\rho\,a\cdot x\rvert\le\lvert a\rvert R<\frac1{16}$ なので $\frac1{16}< f_a<\frac{15}{16}$ であり、(i) と、$f_a$ の値が $[0,1]$ に入ることがわかる。臨界点はコンパクト集合 $W\setminus c(\partial W\times[0,\frac18))$ の中で孤立するので有限個である。

段 4(臨界値を分ける).prf-emf-distinct と同じく、臨界点の小さな近傍($O$ の中)に台をもつ隆起関数を小さい係数で足せば、(i) を保ったまま臨界値を互いに異なるようにできる(係数の絶対値を $\frac1{32}$ より小さくとれば、足した後の値は $(\frac1{32},\frac{31}{32})$ に入り、(i) と値が $[0,1]$ に入ることが保たれる)。$\square$

$V_0=V_1=\emptyset$ の場合は、境界のないコンパクトな多様体の上で臨界値が互いに異なる Morse 関数(値は $[0,1]$)の存在になる。この定理の関数を使うと、$W$ は $V_0$ の側から順にハンドルを付けて作れる(ハンドル分解)。

例

球面の上の距離の 2 乗

$p\in\mathbb{R}^{n+1}$ について、単位球面 $S^n$ の上の関数 $L_p(x):=\lvert x-p\rvert^2$ を考える。$\lvert x\rvert=1$ なので $L_p(x)=1+\lvert p\rvert^2-2p\cdot x$ であり、定数を除いて 1 次関数 $(-2p)\cdot x$ の制限である。$p\ne0$ なら、座標を回転して $p/\lvert p\rvert=e_{n+1}$ とすると Morse関数 の例「2 次形式と球面の高さ関数」の高さ関数の $-2\lvert p\rvert$ 倍に定数を足したものになるので、$L_p$ は Morse 関数で、臨界点は $p$ に最も近い点 $p/\lvert p\rvert$(指数 $0$)と最も遠い点 $-p/\lvert p\rvert$(指数 $n$)の 2 つである。$p=0$ なら $L_0$ は定数で、すべての点が退化臨界点である。$L_p$ が Morse 関数でない $p$ は中心 $0$ だけで、thm-emf-submanifold の例外集合(測度零)の具体例になっている。

寝かせたトーラスと傾けたトーラス

$0< r< R$ とし、トーラス $T:=\bigl\{\bigl((R+r\cos\phi)\cos\theta,\ (R+r\cos\phi)\sin\theta,\ r\sin\phi\bigr)\bigr\}\subset\mathbb{R}^3$($x_3$ 軸のまわりの回転面、寝かせたトーラス)の高さ関数 $x_3=r\sin\phi$ は、$\cos\phi=0$ となる 2 つの円周の全体が臨界点になり、Morse 関数でない(円周に沿った方向に Hesse 形式が退化する)。thm-emf-submanifold を $f=0$ に使うと、ほとんどすべての $a\in\mathbb{R}^3$ で 1 次関数 $a\cdot x$ の $T$ への制限は Morse 関数である。たとえば $a=e_1$(回転軸に直交する方向の高さ)は、Morse関数 の例「立てたトーラスの高さ関数」と同じ形になり、臨界点 4 個(指数 $0,1,1,2$)の Morse 関数である。軸の方向 $a=e_3$ は例外集合に属する。

反例と注意

外す条件反例成り立たなくなること
「ほとんどすべての $a$」$\mathbb{R}$ 上の $x^3+ax$ の $a=0$$f_a$ は Morse 関数
「ほとんどすべての $p$」$S^n$ 上の $\lvert x-p\rvert^2$ の $p=0$同上
2 階微分までの近さ$S^1$ 上の $\cos\theta$ と、$C^1$ で近い $g_\delta$Morse 関数の全体が開集合
$M$ がコンパクト$\mathbb{R}$ 上の $f(x)=x$ と、コンパクト集合の上で一致する $g_k$Morse 関数の全体が開集合
反例の確認

1・2 行目:$x^3+ax$ は $a=0$ で原点が退化臨界点(2 階微分 $0$)であり、$L_0$ は定数である(ex-emf-sphere)。例外の $a$ は測度零だが、空ではない。
3 行目:隆起関数 の関数 $\beta\colon\mathbb{R}\to[0,1]$ で、$\lvert s\rvert\le\frac12$ で $1$、$\lvert s\rvert\ge1$ で $0$ のものをとり、$0<\delta<1$ について $S^1$ の角度座標 $\theta\in(-\pi,\pi]$ で $g_\delta(\theta):=\cos\theta+\beta(\theta/\delta)(1-\cos\theta)$ とおく。$\lvert\theta\rvert\le\delta/2$ では $g_\delta=1$ は定数なので、$g_\delta$ は退化臨界点をもち Morse 関数でない。差 $h:=\beta(\theta/\delta)(1-\cos\theta)$ は $\lvert\theta\rvert\le\delta$ の外で $0$ で、そこでは $0\le1-\cos\theta\le\theta^2/2\le\delta^2/2$、$\lvert\sin\theta\rvert\le\delta$ なので
$$ \lvert h\rvert\le\frac{\delta^2}2,\qquad\lvert h'\rvert\le\frac{\lvert\beta'\rvert_{\max}}{\delta}\cdot\frac{\delta^2}2+\delta $$
であり、$\delta\to0$ で $h$ は $C^1$ で $0$ に近づく。$\cos\theta$ は Morse 関数(臨界点 $0,\pi$ で 2 階微分 $\mp1$)なので、1 階までの近さでは Morse 関数の全体は開集合でない。2 階微分は $h''(0)=1$ で小さくならず、thm-emf-open-dense の 1 と矛盾しない。
4 行目:$\mathbb{R}$ の上で、コンパクト集合の上の $C^2$ の近さだけで近傍を定める位相を考える。$g_k(x):=x-(x-k)\beta(x-k)$ とおくと、$\lvert x-k\rvert\le\frac12$ で $g_k=k$ は定数なので $g_k$ は Morse 関数でない。一方、どのコンパクト集合 $C$ についても、$k$ が大きければ $C$ の上で $g_k=f$ である。臨界点のない Morse 関数 $f(x)=x$ の近傍には、Morse 関数でない関数が必ず含まれる。コンパクトでない多様体でも、遠くほど近さを厳しく測る位相(強位相、Whitney 位相)では Morse 関数の全体は開かつ稠密になる(Hir76 Ch. 6 Theorem 1.2、p. 147。この記事では証明しない)。

補足

  • 横断性との関係:Morse 関数であることは、微分 $df$ を余接束の切断とみたとき、零切断と横断的に交わることと同値である(Kos93 Ch. IV (3.1)・(4.1)、pp. 66–68)。thm-emf-linear の証明は、横断性定理 の「パラメータを付けた族は、ほとんどすべてのパラメータで横断的になる」という原理の最も簡単な場合である。
  • 距離関数による方法:Mil63 §6(pp. 32–37)は、$M\subset\mathbb{R}^N$ の上の距離の 2 乗 $L_p(x)=\lvert x-p\rvert^2$ が、$p$ が $M$ の焦点(近くの法線が集まる点)でなければ Morse 関数であることを示し、Sard の定理から、ほとんどすべての $p$ で Morse 関数であることを導いている(Theorem 6.6、p. 36)。ex-emf-sphere の中心は球面の焦点である。同 Corollary 6.8(p. 37)は、有界な関数が、コンパクト集合の上で $k$ 階までの微分も近い Morse 関数で一様に近似できることを述べる。
  • 指数の順に並べる:thm-emf-boundary の Morse 関数は、同じ臨界点と同じ指数をもち、各臨界点 $p$ で $f(p)=\operatorname{ind}_pf$ となる Morse 関数(値域は $[0,1]$ から広げる)に取り替えられる(self-indexing。Mil65 Theorem 4.8・Definition 4.9、p. 44)。証明には勾配に似たベクトル場の取り替えが要り、この記事では証明しない。
  • 文献:thm-emf-linear・thm-emf-submanifold とその証明の形は GP74 Ch. 1 §7(pp. 43–45)と Mil65 §2 Lemma A(p. 11)、thm-emf-open-dense は Mil65 Lemma B(p. 12)と Theorem 2.7(pp. 14–16)、prop-emf-distinct は Mil65 Lemma 2.8(pp. 17–18)、thm-emf-boundary は Mil65 Theorem 2.5(pp. 9、16–17)と Kos93 Ch. IV (3.3)–(3.5)(pp. 66–68)による。

関連項目

参考文献

[1]
John Milnor, Lectures on the h-Cobordism Theorem, Princeton University Press, 1965, §2 Morse Functions:Theorem 2.5(境界付き多様体の Morse 関数、p. 9、証明 pp. 16–17)、Lemma A(1 次関数の摂動、p. 11)、Lemma B(p. 12)、C^2 位相とその選び方によらないこと(pp. 13–14)、Theorem 2.7(開かつ稠密、pp. 14–16)、Lemma 2.8(臨界値を分ける、pp. 17–18);§4 Theorem 4.8・Definition 4.9(self-indexing、p. 44)
[2]
Victor Guillemin, Alan Pollack, Differential Topology, Prentice-Hall, 1974, Ch. 1 §7 Sard's Theorem and Morse Functions(Theorem と Lemma:ほとんどすべての a で f_a は Morse 関数、pp. 43–45)
[3]
Antoni A. Kosinski, Differential Manifolds, Pure and Applied Mathematics 138, Academic Press, 1993, Ch. IV §3 (3.1) Definition(零切断との横断性)・(3.3) Lemma・(3.4) Theorem・(3.5) Theorem(境界付き多様体の Morse 関数と臨界値を分けること、pp. 66–68);§4 (4.1) Lemma(p. 68)
[4]
John W. Milnor, Morse Theory, Annals of Mathematics Studies 51, Princeton University Press, 1963, §6 Manifolds in Euclidean Space(焦点と距離関数、pp. 32–37;Theorem 6.6、p. 36;Corollary 6.8、p. 37)
[5]
Morris W. Hirsch, Differential Topology, Graduate Texts in Mathematics 33, Springer, 1976, Ch. 6 §1 Theorem 1.2(任意の多様体で Morse 関数は強位相 C^s_S で開かつ稠密、p. 147)

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