Kan–Quillenモデル構造

同義語:Kan-Quillenモデル構造Kan–Quillen model structure単体的集合のKan–Quillenモデル構造

概要

Kan–Quillenモデル構造(Kan–Quillen model structure)とは、単体的集合の圏で、コファイブレーションを単射、ファイブレーションを Kan ファイブレーション、弱同値を幾何学的実現が弱ホモトピー同値になる写像とするモデル構造である。すべての単体的集合はコファイブラントで、ファイブラント対象は Kan 複体である。核心は、Kan ファイブレーションが弱同値であることと境界 $\partial\Delta^n\subset\Delta^n$ に対する持ち上げ性質をもつことが同値であるという定理で、その証明はアノダイン拡大と単射の積(Gabriel–Zisman の定理)、極小ファイブレーション、Kan ファイブレーションの実現が Serre ファイブレーションであるという Quillen の定理による。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: モデル圏, Kan複体, 幾何学的実現, ホーンと充填条件

単体的集合の圏 $\mathbf{sSet}$ には、位相空間のホモトピー論をそのまま写し取るモデル構造がある。コファイブレーションは単射、ファイブレーションは Kan ファイブレーション、弱同値は 幾何学的実現 が 弱ホモトピー同値 になる写像である。これが Kan–Quillen モデル構造 で、ファイブラント対象はちょうど Kan複体 である。組合せ的な Kan の条件と位相的な弱同値をつなぐのが、次の中心定理である:Kan ファイブレーションが弱同値であることと、境界 $\partial\Delta^n\subset\Delta^n$ に対する持ち上げ性質をもつことは同値である。
この記事では、モデル構造の存在を証明する。単射を単体の貼り合わせとして扱う小対象の議論(§1)、アノダイン拡大と単射の積についての Gabriel–Zisman の定理(§2)、実現と弱同値の基本性質(§3)、極小ファイブレーション(§4)、Kan ファイブレーションの実現が Serre ファイブレーションであるという Quillen の定理(§5)、実現が弱可縮な Kan 複体の延長性質(§6)を順に示し、§7 で組み合わせる。

定義と主定理

記号は ホーンと充填条件・幾何学的実現 に従う。写像の集まり $\mathcal K$ のすべてに右(左)持ち上げ性質をもつ写像の全体を $\mathcal K^\square$(${}^\square\mathcal K$)と書く(モデル圏 の定義「左持ち上げ性質と右持ち上げ性質」)。
$$ I=\{\partial\Delta^n\hookrightarrow\Delta^n\mid n\ge0\},\qquad J=\{\Lambda^n_k\hookrightarrow\Delta^n\mid n\ge1,\ 0\le k\le n\} $$
とおく。$J^\square$ は Kan ファイブレーションの全体である(ホーンと充填条件 の定義「充填条件とファイブレーション」)。

Kan–Quillen の 3 つのクラス

単体的写像 $f\colon X\to Y$ について、

  1. $f$ が コファイブレーション であるとは、各次数で単射であることをいう。全体を $\mathcal C$ と書く。
  2. $f$ が ファイブレーション であるとは、Kan ファイブレーションであることをいう。全体を $\mathcal F=J^\square$ と書く。
  3. $f$ が 弱同値 であるとは、実現 $\lvert f\rvert\colon\lvert X\rvert\to\lvert Y\rvert$ が弱ホモトピー同値であることをいう。全体を $\mathcal W$ と書く。
自明 Kan ファイブレーションとアノダイン拡大

$I^\square$ に属する写像、つまりすべての $\partial\Delta^n\hookrightarrow\Delta^n$ に対して右持ち上げ性質をもつ写像を 自明 Kan ファイブレーション という。${}^\square\mathcal F$ に属する写像、つまりすべての Kan ファイブレーションに対して左持ち上げ性質をもつ写像を アノダイン拡大 といい、全体を $\mathcal A$ と書く。

Kan–Quillen モデル構造

$(\mathcal W,\mathcal C,\mathcal F)$ は $\mathbf{sSet}$ の モデル圏 の定義「モデル構造とモデル圏」の意味のモデル構造である。さらに次が成り立つ。

  1. $\mathcal F\cap\mathcal W=I^\square$:Kan ファイブレーションが弱同値であることと、自明 Kan ファイブレーションであることは同値である。
  2. $\mathcal C\cap\mathcal W=\mathcal A$:単射が弱同値であることと、アノダイン拡大であることは同値である。
  3. すべての単体的集合はコファイブラントであり、ファイブラント対象は Kan 複体である。
証明の所在

証明は §7 の prf-kq-main で与える。3 は定義から明らかである。

1 単射と小対象の議論

左持ち上げ性質で定まるクラスの閉包性

任意の写像の集まり $\mathcal R$ について、${}^\square\mathcal R$ は同型を含み、合成・余積・押し出し・可算列の合成($A_0\to A_1\to\cdots$ から余極限への写像)・射の圏でのレトラクトで閉じている。

要点:ホーンと充填条件 の定理「右持ち上げ性質の閉包性」の双対。

詳しい証明を開く

$p\colon E\to Y$ を $\mathcal R$ の写像とする。同型・合成・レトラクトは同定理の (R1)(R2)(R5) と矢印を逆にした同じ議論である。余積:成分ごとの持ち上げを余積の普遍性で 1 つにする。押し出し:$i\colon A\to B$ が ${}^\square\mathcal R$ に入り、$i'\colon A'\to B'=A'\amalg_AB$ をその押し出しとする。問題 $u\colon A'\to E$、$v\colon B'\to Y$ に対し、$B\to B'\xrightarrow{v}$ と $A\to A'\xrightarrow{u}$ からなる問題を $i$ について解いて $h\colon B\to E$ を得ると、$u$ と $h$ は $A$ 上で一致するので $h'\colon B'\to E$ が定まり、$h'i'=u$、$ph'=v$ は普遍性の一意性による(モデル圏 の補題「Ken Brownの補題」の証明の前半と同じ議論)。可算列:$A_k\to A_{k+1}$ がすべて ${}^\square\mathcal R$ に入るとき、問題を $k$ について順に解いて両立する持ち上げ $h_k\colon A_k\to E$ を作り、余極限の普遍性で 1 つにする。$\square$

余極限は次数ごとに集合で計算される(単体的集合 の定理「極限と余極限の次数ごとの計算」)。可換な正方形 $S\hookrightarrow T$、$S'\hookrightarrow T'$($S\to S'$、$T\to T'$)で、各次数で $T\setminus S$ が $T'\setminus S'$ に全単射に写るものは押し出しである(補集合による判定)。

単射は単体を貼って作れる

単射 $i\colon A\hookrightarrow B$ について、$B^{(-1)}=A$、$B^{(n)}=A\cup\operatorname{sk}_nB$ とおく。$S_n$ を $A$ に入らない $B$ の非退化な $n$ 単体の集合とすると、
$$ B^{(n)}=B^{(n-1)}\amalg_{\coprod_{S_n}\partial\Delta^n}\coprod_{S_n}\Delta^n $$
であり、$B=\bigcup_nB^{(n)}$ である。とくに $i$ は、$I$ の写像の余積の押し出しの可算列の合成である。

要点:根による表示の一意性(幾何学的実現 の補題「Eilenberg–Zilber の補題」)で、貼った単体の内部が重ならない。

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$y\in S_n$ が定める写像 $y\colon\Delta^n\to B$ の、全射でない $\alpha\colon[m]\to[n]$ への値 $\alpha^*y$ は次元 $n-1$ 以下の根をもつので $B^{(n-1)}$ に入る。補集合による判定を使う。次数 $m$ で、右辺の補集合は全射 $\alpha\colon[m]\to[n]$ と $y\in S_n$ の組であり、$(y,\alpha)\mapsto\alpha^*y$ がこれを $B^{(n)}_m\setminus B^{(n-1)}_m$ に全単射に写すことを示せばよい。$\alpha^*y$ の根は $y$ であり(補題の一意性)、$y\notin A$ なので $\alpha^*y\notin A$($A$ の単体の根は切断で引き戻せるので $A$ に入る)、根の次元は $n$ なので $\alpha^*y\notin\operatorname{sk}_{n-1}B$ である。根による表示の一意性から単射であり、$B^{(n)}\setminus B^{(n-1)}$ の単体は根が $S_n$ に入るので全射である。$B$ の各単体の根は有限次元なので $B=\bigcup B^{(n)}$ である。$\square$

小対象の議論

$\mathcal K$ を $I$ または $J$ とする。任意の単体的写像 $f\colon X\to Y$ は $f=pj$ と分解でき、$j$ は $\mathcal K$ の写像の余積の押し出しの可算列の合成($\mathcal K$ 胞体複体)、$p\in\mathcal K^\square$ である。

要点:持ち上げの問題を一斉に貼って解くことを可算回くり返す。

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$Z_0=X$ とし、$Z_k\to Y$ が定まったとする。$\mathcal K$ の写像 $a\colon A\to B$ と可換な正方形($A\to Z_k$、$B\to Y$)の組全体を $\Sigma_k$ として、$Z_{k+1}=Z_k\amalg_{\coprod_{\Sigma_k}A}\coprod_{\Sigma_k}B$ とおく。$B\to Y$ と $Z_k\to Y$ から $Z_{k+1}\to Y$ が定まる。$\mathcal K$ の写像は単射なので $Z_k\to Z_{k+1}$ は単射であり、$Z=\bigcup Z_k$ とおいて $j\colon X\to Z$、$p\colon Z\to Y$ とする。$a\colon A\to B$ と正方形 $(u\colon A\to Z,v\colon B\to Y)$ が与えられたとする。$A$ は有限個の非退化単体で生成されるので、$u$ の像はある $Z_k$ に入る。この正方形は $\Sigma_k$ に入り、$Z_{k+1}$ への写像 $B\to Z_{k+1}$ が持ち上げを与える。$\square$

単射とアノダイン拡大の特徴づけ
  1. $\mathcal C={}^\square(I^\square)$。とくに単射は自明 Kan ファイブレーションに対して左持ち上げ性質をもつ。
  2. アノダイン拡大は、$J$ 胞体複体のレトラクトにほかならない。アノダイン拡大は単射であり、$I^\square\subset\mathcal F$ である。

要点:分解して対角を取るレトラクト論法。

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1:lem-kq-cells と lem-kq-llp により $\mathcal C\subset{}^\square(I^\square)$ である。逆に $f\in{}^\square(I^\square)$ を lem-kq-soa で $f=pj$($j$ は $I$ 胞体複体、$p\in I^\square$)と分解し、正方形 $(j,\mathrm{id})$ に持ち上げ $s$ をとると $f$ は $j$ のレトラクトになる(モデル圏 の命題「持ち上げ性質による四つのクラスの特徴づけ」の証明と同じ)。$j$ は単射の押し出しと合成なので単射で、単射のレトラクトは単射である。

2:$J$ 胞体複体は lem-kq-llp によりアノダイン拡大で、そのレトラクトもそうである。逆は 1 と同じ論法で $\mathcal K=J$ として得る。$J$ の写像は単射なので、1 から $J\subset{}^\square(I^\square)$、つまり $I^\square\subset J^\square=\mathcal F$ であり、$\mathcal A={}^\square\mathcal F\subset{}^\square(I^\square)=\mathcal C$ である。$\square$

2 アノダイン拡大と単射の積

単射 $i\colon K\hookrightarrow L$ と $j\colon A\hookrightarrow B$ について、$L\times B$ の部分単体的集合の包含
$$ i\mathbin{\square}j\colon K\times B\cup L\times A\hookrightarrow L\times B $$
を $i$ と $j$ の 押し出し積 という。$i\mathbin{\square}j\cong j\mathbin{\square}i$、$(i\mathbin{\square}j)\mathbin{\square}k=i\mathbin{\square}(j\mathbin{\square}k)$ である(どれも積の中の和集合の包含)。$\{\varepsilon\}\hookrightarrow\Delta^1$ を $\varepsilon$ と略記する。

角柱の補題

$n\ge0$、$\varepsilon\in\{0,1\}$ について、$(\partial\Delta^n\hookrightarrow\Delta^n)\mathbin{\square}\varepsilon\colon\partial\Delta^n\times\Delta^1\cup\Delta^n\times\{\varepsilon\}\hookrightarrow\Delta^n\times\Delta^1$ は、ホーンの包含の押し出しの $n+1$ 回の合成である。とくにアノダイン拡大である。

単体を順に貼る

要点:$n+1$ 個の $(n+1)$ 単体を端から順にホーンに沿って貼る。

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$\Delta^n\times\Delta^1$ は順序集合 $[n]\times[1]$ の脈体で、非退化な $m$ 単体は長さ $m+1$ の真に増加する鎖である。極大な鎖 $x_j=((0,0),\dots,(j,0),(j,1),\dots,(n,1))$($0\le j\le n$)が非退化な $(n+1)$ 単体のすべてで、どの単体もある $x_j$ の面の退化であり、$x_j$ は単射 $\Delta^{n+1}\hookrightarrow\Delta^n\times\Delta^1$ を定める。

$x_j$ の頂点の部分集合 $S$ を、$x_j$ の面とみる。$S$ が $\partial\Delta^n\times\Delta^1$ に入るのは第 1 成分の集合が $[n]$ 全体でないとき、$\Delta^n\times\{1\}$ に入るのは第 2 成分がすべて $1$ のときである。$x_j$ の頂点の第 1 成分は $0,\dots,n$ で、$j$ だけが $(j,0)$ と $(j,1)$ の 2 回現れる。

$\varepsilon=1$ とし、$Y_{-1}=\partial\Delta^n\times\Delta^1\cup\Delta^n\times\{1\}$、$Y_j=Y_{j-1}\cup x_j(\Delta^{n+1})$ とおく。$S$ が $x_l$($l< j$)の頂点に含まれることは、$S\not\ni(j,0)$ と同値である($x_j$ と $x_{j-1}$ の頂点の共通部分は $x_j$ から $(j,0)$ を除いたもの)。よって $S\notin Y_{j-1}$ となるのは、$(j,0)\in S$ かつ第 1 成分が全部そろうとき、つまり $S$ が $x_j$ の頂点全体か、そこから $(j,1)$ を除いたもののときに限る。$(j,1)$ は $x_j$ の $j+1$ 番目の頂点なので、$x_j^{-1}(Y_{j-1})=\Lambda^{n+1}_{j+1}$ であり(ホーンと充填条件 の命題「ホーンの非退化単体」)、$x_j$ は単射なので $Y_j=Y_{j-1}\amalg_{\Lambda^{n+1}_{j+1}}\Delta^{n+1}$ である。$Y_n=\Delta^n\times\Delta^1$ である。$\varepsilon=0$ では、$Y_{n+1}=\partial\Delta^n\times\Delta^1\cup\Delta^n\times\{0\}$ から $x_n,x_{n-1},\dots,x_0$ の順に貼る。$S$ が $x_l$($l>j$)に含まれることは $S\not\ni(j,1)$ と同値なので、同じ議論で $x_j$ は $\Lambda^{n+1}_j$ に沿って貼られる。$\square$

Gabriel–Zisman の定理

$i\colon K\hookrightarrow L$ を単射とする。

  1. $\varepsilon=0,1$ について $i\mathbin{\square}\varepsilon\colon L\times\{\varepsilon\}\cup K\times\Delta^1\hookrightarrow L\times\Delta^1$ はアノダイン拡大である。
  2. $j$ がアノダイン拡大なら、$i\mathbin{\square}j$ と $j\mathbin{\square}i$ はアノダイン拡大である。
補集合による判定とホーンのレトラクト

要点:1 は胞体ごとに lem-kq-prism を当てる。2 はホーンが $(\text{ホーン})\mathbin{\square}\varepsilon$ のレトラクトであることによる。

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1。lem-kq-cells の $L^{(n)}$ について $Q_n=L\times\{\varepsilon\}\cup L^{(n)}\times\Delta^1$ とおく。$Q_{-1}$ が始域、$\bigcup Q_n=L\times\Delta^1$ である。$y\in S_n$ ごとの $y\times\mathrm{id}\colon\Delta^n\times\Delta^1\to L\times\Delta^1$ により、$Q_n$ が $Q_{n-1}$ と $\coprod_{S_n}\Delta^n\times\Delta^1$ の $\coprod_{S_n}(\partial\Delta^n\times\Delta^1\cup\Delta^n\times\{\varepsilon\})$ に沿った押し出しであることを補集合による判定で示す。後者の補集合は、全射 $\alpha$ と定値 $\varepsilon$ でない $\beta$ の組 $(\alpha,\beta)$ で、$(\alpha^*y,\beta)$ に写る。$\alpha^*y$ の根は $y$ なので $(\alpha^*y,\beta)\in Q_n\setminus Q_{n-1}$ であり、根の一意性から単射、$Q_n\setminus Q_{n-1}$ の元 $(x,\beta)$ は $x\in L^{(n)}\setminus L^{(n-1)}$、$\beta$ は定値 $\varepsilon$ でないので全射である。よって各段は lem-kq-prism の写像の余積の押し出しで、lem-kq-llp から結論を得る。

2。単射 $j$ で $i\mathbin{\square}j\in\mathcal A$ となるものの全体を $\mathcal S$ とする。(a) $j\colon A\hookrightarrow B$ の押し出し $j'\colon A'\hookrightarrow B'$ について、$L\times B\to L\times B'$ は $i\mathbin{\square}j$ の補集合 $(L\setminus K)\times(B\setminus A)$ を $i\mathbin{\square}j'$ の補集合 $(L\setminus K)\times(B'\setminus A')$ に全単射に写すので、$i\mathbin{\square}j'$ は $i\mathbin{\square}j$ の押し出しである。余積も同様である。(b) $A=A_0\subset A_1\subset\cdots$、$B=\bigcup A_k$ なら、$i\mathbin{\square}(A\subset B)$ は $K\times B\cup L\times A_k$ の増大列の合成で、各段は同じ判定で $i\mathbin{\square}(A_k\subset A_{k+1})$ の押し出しである。(c) $j$ が $j'$ のレトラクトなら、$L\times-$ を施して $i\mathbin{\square}j$ は $i\mathbin{\square}j'$ のレトラクトである。よって $\mathcal S$ は押し出し・余積・可算列の合成・レトラクトで閉じている。

次に $J\subset\mathcal S$ を示す。$k< n$ のとき、$s\colon\Delta^n\to\Delta^n\times\Delta^1$ を $m\mapsto(m,1)$、$r\colon\Delta^n\times\Delta^1\to\Delta^n$ を $(m,1)\mapsto m$、$(m,0)\mapsto\min(m,k)$ が定める写像とする。どちらも順序を保ち $rs=\mathrm{id}$ である。$s$ は $\Lambda^n_k$ を $\Lambda^n_k\times\{1\}$ に写す。$r$ は $\Delta^n\times\{0\}$ を $n$ を値にとらない面 $\subset\Lambda^n_k$ に写し、第 1 成分が $j\neq k$ を値にとらない鎖を $j$ を値にとらない鎖に写す($j>k$ なら $(m,0)$ の値は $k$ 以下、$j< k$ なら値 $j$ は $(j,\cdot)$ からしか来ない)ので、$\Lambda^n_k\times\Delta^1$ を $\Lambda^n_k$ に写す。よって $h=(\Lambda^n_k\hookrightarrow\Delta^n)$ は $h\mathbin{\square}0$ のレトラクトである。$k=n$ なら $s(m)=(m,0)$、$r(m,0)=m$、$r(m,1)=n$ として、$h$ は $h\mathbin{\square}1$ のレトラクトになる。したがって $i\mathbin{\square}h$ は $i\mathbin{\square}(h\mathbin{\square}\varepsilon)=(i\mathbin{\square}h)\mathbin{\square}\varepsilon$ のレトラクトで、$i\mathbin{\square}h$ は単射なので 1 によりアノダインである。

最後に、アノダイン拡大は $J$ 胞体複体のレトラクトである(cor-kq-mono の 2)ので、(a)(b)(c) から $\mathcal A\subset\mathcal S$ である。$j\mathbin{\square}i$ は同型を除いて $i\mathbin{\square}j$ に等しい。$\square$

これは Hov99 Theorem 3.3.2 である。以下では $(K\subset L)\mathbin{\square}(\Lambda^2_k\subset\Delta^2)$ を Kan ファイブレーションに対して持ち上げて、2 つのホモトピーをつなぐ。

相対的なファイバーホモトピー

単体的写像 $p\colon X\to Y$、単射 $K\hookrightarrow L$、写像 $f,g\colon L\to X$ で $f|_K=g|_K$、$pf=pg$ となるものを考える。写像 $H\colon L\times\Delta^1\to X$ で、$H|_{L\times\{0\}}=f$、$H|_{L\times\{1\}}=g$、$H|_{K\times\Delta^1}=f|_K\circ\mathrm{pr}$、$pH=pf\circ\mathrm{pr}$ をみたすものを、$f$ から $g$ への $K$ を固定した $Y$ 上のホモトピー といい、存在するとき $f\simeq g\ (\mathrm{rel}\ K,\ /Y)$ と書く。

ホモトピーは同値関係

$p$ が Kan ファイブレーションなら、$\simeq\ (\mathrm{rel}\ K,\ /Y)$ は同値関係である。

要点:$\Lambda^2_k$ に沿って 2 つのホモトピーをつなぐ。

詳しい証明を開く

反射律は定値のホモトピーによる。$H\colon f\simeq g$、$H'\colon g\simeq h$ とする。$L\times\Lambda^2_1$ の辺 $\{0,1\}$ に $H$、辺 $\{1,2\}$ に $H'$ を、$K\times\Delta^2$ に $f|_K\circ\mathrm{pr}$ を置き、$L\times\Delta^2\to Y$ を $pf\circ\mathrm{pr}$ とすると、prop-kq-gz の 2($i=(K\subset L)$、$j=(\Lambda^2_1\subset\Delta^2)$)により持ち上げがあり、その辺 $\{0,2\}$ が $f\simeq h$ を与える。対称律は、$\Lambda^2_0$ の辺 $\{0,1\}$ に $H$、辺 $\{0,2\}$ に $f$ の定値のホモトピーを置いて、辺 $\{1,2\}$ をとればよい。$\square$

3 実現と弱同値

非退化単体が有限個の単体的集合を 有限 という。$\lvert X\times_ZY\rvert\to\lvert X\rvert\times_{\lvert Z\rvert}\lvert Y\rvert$ はつねに全単射で、$\lvert X\times Y\rvert\to\lvert X\rvert\times\lvert Y\rvert$ は $X$ か $Y$ が有限なら同相写像である(Ker26 Theorem 3.6.2.1・Corollary 3.6.2.2(Tag 013D・013E)。この記事では証明しない)。

有限な因子との引き戻しの実現

$A$ が有限で、$A\to Z\leftarrow B$ が単体的写像なら、$\lvert A\times_ZB\rvert\to\lvert A\rvert\times_{\lvert Z\rvert}\lvert B\rvert$(右辺は積空間の部分空間)は同相写像である。

要点:部分単体的集合の実現は閉部分空間への同相である。

詳しい証明を開く

$E=A\times_ZB$ は $A\times B$ の部分単体的集合なので、幾何学的実現 の補題「部分単体的集合の実現」の (R3) により $\lvert E\rvert\to\lvert A\times B\rvert$ は像への同相写像である。$A$ が有限なので $\theta\colon\lvert A\times B\rvert\to\lvert A\rvert\times\lvert B\rvert$ は同相写像であり、合成 $\lvert E\rvert\to\lvert A\rvert\times\lvert B\rvert$ は像への同相写像である。像は $\lvert A\rvert\times_{\lvert Z\rvert}\lvert B\rvert$ に含まれ、上の全単射性から一致する。$\square$

弱同値の基本性質
  1. $\mathcal W$ は 2 out of 3 をみたし、射の圏でのレトラクトで閉じている。
  2. 自明 Kan ファイブレーション $p\colon X\to Y$ は切断 $s$ をもち、$\mathrm{id}_X\simeq sp\ (\mathrm{rel}\ \emptyset,\ /Y)$ である。とくに $\lvert p\rvert$ はホモトピー同値で、$p\in\mathcal W$ である。
  3. アノダイン拡大は $\mathcal W$ に属する。

要点:2 は持ち上げで切断とホモトピーを作る。3 はホーンの実現が強変形レトラクトであることによる。

詳しい証明を開く

1。2 out of 3 は弱ホモトピー同値についての 弱ホモトピー同値 の定理「2 つのうち 2 つの性質」による。$f\colon X\to Y$ が $g\colon X'\to Y'$ のレトラクト($X\xrightarrow{a}X'\xrightarrow{r}X$、$Y\xrightarrow{b}Y'\xrightarrow{s}Y$、$ra=\mathrm{id}$、$sb=\mathrm{id}$、$ga=bf$、$fr=sg$)で $\lvert g\rvert$ が弱ホモトピー同値なら、各点 $x$ と $n\ge0$ について $\pi_n(\lvert f\rvert)$ は同型 $\pi_n(\lvert g\rvert)$(基点 $\lvert a\rvert x$)のレトラクトであり、同型のレトラクトは同型である。

2。$\emptyset\hookrightarrow Y$ と $p$ の正方形(下辺 $\mathrm{id}_Y$)の持ち上げが切断 $s$ である。$X\times\partial\Delta^1$ 上で $\mathrm{id}_X$ と $sp$、$X\times\Delta^1\to Y$ を $p\circ\mathrm{pr}$ とする正方形の持ち上げ(cor-kq-mono の 1)がホモトピー $H$ である。$\lvert H\rvert$ と $\lvert X\times\Delta^1\rvert\cong\lvert X\rvert\times[0,1]$ から $\mathrm{id}\simeq\lvert s\rvert\lvert p\rvert$、また $\lvert p\rvert\lvert s\rvert=\mathrm{id}$ である。

3。cor-kq-mono の 2 とこの命題の 1 により、$J$ 胞体複体 $j\colon A\hookrightarrow B$ について示せばよい。$\lvert\Lambda^n_k\rvert$ は $\lvert\Delta^n\rvert$ の点で $k$ 以外のある座標が $0$ のものの集合で(幾何学的実現 の例「境界とホーンの実現」)、Kan複体 の定理「特異単体的集合は Kan 複体である」の証明のレトラクション $r$ と、凸集合の中の線分のホモトピー $(1-t)x+t\,r(x)$ により、$\lvert\Delta^n\rvert$ の強変形レトラクトである。閉部分空間 $A'\subset B'$ が強変形レトラクトなら、任意の $A'\to C$ に沿った $C\to C\cup_{A'}B'$ も強変形レトラクトである。$(C\sqcup B')\times[0,1]\to(C\cup_{A'}B')\times[0,1]$ は $[0,1]$ が局所コンパクト Hausdorff なので商写像であり(錐(位相) の注意「Whiteheadの補題の扱い」)、$C$ 上は恒等、$B'$ 上は与えられたホモトピーとして連続に定まるからである。実現は余極限を保つので(幾何学的実現 の系「余極限の保存」)、$j$ の各段 $\lvert A_k\rvert\subset\lvert A_{k+1}\rvert$ はホモトピー同値である。$\lvert B\rvert=\bigcup\lvert A_k\rvert$ は CW 複体で、球面や円板からの写像の像はコンパクトなので有限部分複体、したがってある $\lvert A_k\rvert$ に入る(CW複体 の定理「コンパクト集合は有限部分複体に含まれる」)。よって $\pi_n(\lvert A\rvert)\to\pi_n(\lvert B\rvert)$ はすべての基点で全単射である。$\square$

4 極小ファイブレーション

この節の議論は Hov99 §3.5 による。

極小ファイブレーション

Kan ファイブレーション $p\colon X\to Y$ の $n$ 単体 $x,x'$ が $p$ 同値 であるとは、境界が等しく、$p(x)=p(x')$ で、$x\simeq x'\ (\mathrm{rel}\ \partial\Delta^n,\ /Y)$ となることをいう(同値関係である。lem-kq-homotopy-equivalence)。$p$ 同値な単体がつねに等しいとき、$p$ を 極小ファイブレーション という。Kan ファイブレーション $q\colon Z\to Y$ が 局所自明 であるとは、各単体 $y\colon\Delta^n\to Y$ について、引き戻し $y^*Z=\Delta^n\times_YZ\to\Delta^n$ が $\Delta^n$ 上である $\Delta^n\times F\to\Delta^n$ と同型になることをいう。

退化単体は面で決まる

単体的集合の退化した $n$ 単体 $x,x'$ ですべての面が等しいもの($d_ix=d_ix'$)は等しい。

要点:単体恒等式で退化写像の番号をそろえる。

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$x=s_iz$ なら $z=d_is_iz=d_ix$ なので $x=s_id_ix$、同様に $x'=s_jd_jx'$ である。$i=j$ なら $x=s_id_ix'=x'$。$i< j$ なら $d_ix'=d_is_jd_jx'=s_{j-1}d_id_jx'$ なので $x=s_id_ix'=s_is_{j-1}d_id_jx'=s_js_id_id_jx'$ であり、$x$ は $s_j$ の像に入る。よって $x=s_jd_jx=s_jd_jx'=x'$ である。$i>j$ も同様である。$\square$

ホモトピー不変性:単体の上の Kan ファイブレーション

Kan ファイブレーション $q\colon E\to\Delta^n$ と頂点 $n$ の上のファイバー $F$ について、$\Delta^n$ 上の写像 $\varphi\colon E\to\Delta^n\times F$、$\psi\colon\Delta^n\times F\to E$ で、$\psi\varphi\simeq\mathrm{id}_E$、$\varphi\psi\simeq\mathrm{id}$(どちらも $\mathrm{rel}\ \emptyset,\ /\Delta^n$)となるものがある。

ホモトピーに沿った引き戻しの比較

要点:$\Delta^n$ を頂点へ縮めるホモトピーに沿って引き戻し、両端を持ち上げでつなぐ。

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$h\colon\Delta^n\times\Delta^1\to\Delta^n$ を順序写像 $(m,0)\mapsto m$、$(m,1)\mapsto n$ が定める写像とし、$E_h=h^*E\to\Delta^n\times\Delta^1$ とおく。$E_h$ の $\Delta^n\times\{0\}$ 上の部分は $E$、$\Delta^n\times\{1\}$ 上の部分は $\Delta^n\times F$ である($h_1$ は定値 $n$)。これらの包含を $r_0,r_1$ と書く。$E\times\{0\}\hookrightarrow E\times\Delta^1$ は $(\emptyset\subset E)\mathbin{\square}0$ でアノダインなので、$E\times\Delta^1\to\Delta^n\times\Delta^1$($q\times\mathrm{id}$)に沿った持ち上げ $\Phi\colon E\times\Delta^1\to E_h$ で $\Phi_0=r_0$ となるものがあり、$\Phi_1$ が $\varphi$ を定める。同様に $\Psi\colon(\Delta^n\times F)\times\Delta^1\to E_h$ で $\Psi_1=r_1$ となるものをとり、$\Psi_0$ を $\psi$ とする。$E\times\Lambda^2_2$ の辺 $\{0,2\}$ に $\Phi$、辺 $\{1,2\}$ に $\Psi\circ(\varphi\times\mathrm{id})$($r_0\psi\varphi$ から $r_1\varphi$ へ)を置き、$E\times\Delta^2\to\Delta^n\times\Delta^1$ を $(e,t)\mapsto(q(e),\sigma(t))$($\sigma\colon[2]\to[1]$ は $0,1\mapsto0$、$2\mapsto1$)とすると、prop-kq-gz の 2 により持ち上げがあり、その辺 $\{0,1\}$ は $\Delta^n\times\{0\}$ の上にあるので $\mathrm{id}_E\simeq\psi\varphi\ (/\Delta^n)$ を与える。$\varphi\psi\simeq\mathrm{id}$ は $\Lambda^2_0$ を使って同様に示す。$\square$

極小ファイブレーションの間のホモトピー

$p\colon X\to Y$、$q\colon Z\to Y$ を Kan ファイブレーション、$q$ を極小とし、$Y$ 上の写像 $f,g\colon X\to Z$($qf=qg=p$)と $f\simeq g\ (\mathrm{rel}\ \emptyset,\ /Y)$ が与えられたとする。$g$ が同型なら $f$ も同型である。

次元に関する帰納法

要点:次元に関する帰納法で、境界を固定したホモトピーを作り極小性を使う。

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$H\colon X\times\Delta^1\to Z$ を $f$ から $g$ への $Y$ 上のホモトピーとする。$f$ が $n-1$ 次元以下の単体で全単射だとする($n=0$ では仮定なし)。

全射。$z\in Z_n$ をとる。各 $i$ について $f(x_i)=d_iz$ となる $x_i$ がただ 1 つあり、$f$ が $n-2$ 次元で単射なので $d_ix_j=d_{j-1}x_i$($i< j$)が成り立ち、写像 $x_\partial\colon\partial\Delta^n\to X$ が定まる($n=0$ では空)。$\partial\Delta^n\times\Delta^1$ 上の $H\circ(x_\partial\times\mathrm{id})$ と $\Delta^n\times\{0\}$ 上の $z$ を、$q(z)\circ\mathrm{pr}$ の上で lem-kq-prism により持ち上げ、$G\colon\Delta^n\times\Delta^1\to Z$ を得る。$g$ は同型なので $g(x)=G_1$ となる $x\in X_n$ があり、$g$ の単射性から $x|_\partial=x_\partial$ である。$\Delta^n\times\Lambda^2_2$ の辺 $\{0,2\}$ に $H\circ(x\times\mathrm{id})$($f(x)$ から $G_1$ へ)、辺 $\{1,2\}$ に $G$($z$ から $G_1$ へ)、$\partial\Delta^n\times\Delta^2$ に $H\circ(x_\partial\times\sigma)$($\sigma\colon0,1\mapsto0,\ 2\mapsto1$)を置いて $q(z)\circ\mathrm{pr}$ の上で持ち上げると、辺 $\{0,1\}$ が $f(x)\simeq z\ (\mathrm{rel}\ \partial\Delta^n,\ /Y)$ を与える。$q$ は極小なので $f(x)=z$ である。

単射。$f(x)=f(y)$($x,y\in X_n$)とする。帰納法の仮定から $x|_\partial=y|_\partial=:x_\partial$、また $p(x)=qf(x)=p(y)$ である。$\Delta^n\times\Lambda^2_0$ の辺 $\{0,1\}$ に $H\circ(x\times\mathrm{id})$、辺 $\{0,2\}$ に $H\circ(y\times\mathrm{id})$、$\partial\Delta^n\times\Delta^2$ に $H\circ(x_\partial\times\sigma')$($\sigma'\colon0\mapsto0,\ 1,2\mapsto1$)を置いて $p(x)\circ\mathrm{pr}$ の上で持ち上げると、辺 $\{1,2\}$ が $g(x)\simeq g(y)\ (\mathrm{rel}\ \partial\Delta^n,\ /Y)$ を与える。極小性から $g(x)=g(y)$、よって $x=y$ である。次数ごとに全単射な単体的写像は同型である。$\square$

極小ファイブレーションの存在と局所自明性
  1. 極小ファイブレーションの引き戻しは極小ファイブレーションであり、極小ファイブレーションは局所自明である。
  2. 任意の Kan ファイブレーション $p\colon X\to Y$ について、部分単体的集合 $X'\subset X$ とレトラクション $r\colon X\to X'$ で、$p'=p|_{X'}$ が極小ファイブレーション、$p=p'r$、$r$ が自明 Kan ファイブレーションとなるものがある。
代表系と Zorn の補題

要点:1 は lem-kq-minimal-iso による。2 は $p$ 同値類の代表系と Zorn の補題による。

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1。$p$ を極小、$u\colon Y'\to Y$、$p'\colon X'=Y'\times_YX\to Y'$ とする。$p'$ 同値な $x_1,x_2$ のホモトピーを $X$ へ射影すると、射影どうしの $p$ 同値を与えるので射影は等しく、$p'(x_1)=p'(x_2)$ と合わせて $x_1=x_2$ である。局所自明性:$y^*Z\to\Delta^n$ は極小で、そのファイバー $F$ の $F\to\Delta^0$ も、$\Delta^n\times F\to\Delta^n$ もその引き戻しなので極小である。prop-kq-homotopy-invariance の $\varphi,\psi$ について、$\psi\varphi\simeq\mathrm{id}$ と lem-kq-minimal-iso から $\psi\varphi$ は同型、$\varphi\psi\simeq\mathrm{id}$ から $\varphi\psi$ も同型なので、$\varphi$ は同型である。

2。代表系。各 $p$ 同値類から 1 つずつ単体を選んだ集合 $T$ を、退化単体をすべて含むようにとれる。同じ類の退化単体は面が等しいので lem-kq-degenerate によりただ 1 つだからである。単体がすべて $T$ に入る部分単体的集合の全体に Zorn の補題を使い($\emptyset$ を含み、鎖の和は上界)、極大なもの $X'$ をとる。$x\in T$ のすべての面が $X'$ に入れば $x\in X'$ である。実際 $X'$ と $x$ で生成される部分単体的集合の単体は $X'$ の単体か、$x$ 自身か、$x$ の退化であり、すべて $T$ に入る。

変形。組 $(Z,H)$($X'\subset Z\subset X$、$H\colon Z\times\Delta^1\to X$、$H_0$ は包含、$H_1(Z)\subset X'$、$H$ は $X'\times\Delta^1$ 上で定値、$pH=p\circ\mathrm{pr}$)に Zorn の補題を使い、極大な $(Z,H)$ をとる。$Z\ne X$ なら、$Z$ に入らない次元最小の単体 $x$ をとる。$x$ は非退化で(退化なら $x=s_id_ix\in Z$)、面はすべて $Z$ に入るので、$Z'=Z\cup\langle x\rangle=Z\amalg_{\partial\Delta^n}\Delta^n$ である(補集合による判定)。lem-kq-prism で $x$ と $H\circ(x|_\partial\times\mathrm{id})$ を $p(x)\circ\mathrm{pr}$ の上で持ち上げて $G\colon x\simeq w$ を得る。$w$ の面は $X'$ に入り $p(w)=p(x)$ である。$w$ の類の代表 $w'\in T$ は同じ面をもつので $w'\in X'$ であり、$K\colon w\simeq w'\ (\mathrm{rel}\ \partial,\ /Y)$ がある。$\Lambda^2_1$ で $G$ と $K$ をつなぐと($\partial\Delta^n\times\Delta^2$ には $H\circ(x|_\partial\times\sigma'')$、$\sigma''\colon0\mapsto0,\ 1,2\mapsto1$)、$x$ から $w'\in X'$ への延長が得られ、極大性に反する。よって $Z=X$ である。$r:=H_1\colon X\to X'$ は $X'$ 上で恒等写像なのでレトラクションであり、$pH=p\circ\mathrm{pr}$ から $p'r=p$ である。

$p'$ の性質。包含 $j$ と $r$ により $p'$ は $p$ のレトラクトなので Kan ファイブレーションである(ホーンと充填条件 の定理「右持ち上げ性質の閉包性」の (R5))。$X'$ の単体はすべて $T$ に入るので $p'$ は極小である。

$r$ は自明 Kan ファイブレーション。$u\colon\partial\Delta^n\to X$、$v\colon\Delta^n\to X'$、$ru=v|_\partial$ とする。$\partial\Delta^n\times\Delta^1$ 上の $H\circ(u\times\mathrm{id})$ と $\Delta^n\times\{1\}$ 上の $jv$ を $p(v)\circ\mathrm{pr}$ の上で持ち上げ(lem-kq-prism)、$G$ を得て $v_1=G_0$ とおく。$v_1|_\partial=u$ である。$rG$ は $rv_1$ から $v$ への $Y$ 上のホモトピーで、$\partial$ 上では $rH(u\times\mathrm{id})$ である。$K=rH(v_1\times\mathrm{id})$ は $rv_1$ から $rv_1$ への $Y$ 上のホモトピーで、$\partial$ 上では同じく $rH(u\times\mathrm{id})$ である。$\Lambda^2_0$ の辺 $\{0,1\}$ に $K$、辺 $\{0,2\}$ に $rG$、$\partial\Delta^n\times\Delta^2$ に $rH(u\times\sigma'')$ を置いて $p'$ について持ち上げると、辺 $\{1,2\}$ が $rv_1\simeq v\ (\mathrm{rel}\ \partial,\ /Y)$ を与える。$p'$ は極小なので $rv_1=v$ であり、$v_1$ が求める持ち上げである。$\square$

5 Quillen の定理:実現は Serre ファイブレーション

連続写像 $\pi\colon E\to B$ が Serre ファイブレーション であるとは、すべての円板 $D^k$ についてホモトピー持ち上げ性質をもつことをいう。これは CW 対 $(P,Q)$ についての相対的なホモトピー持ち上げ性質と同値であり(Hat02 p. 376)、各点の近傍 $W$ で $\pi^{-1}(W)\cong W\times\Phi$ となる写像は Serre ファイブレーションである(同 Proposition 4.48、p. 379。証明は開集合ごとの自明化だけを使うので、ファイバーは点ごとに違ってよい。どちらもこの記事では証明しない)。

局所自明なファイブレーションの実現

$q\colon Z\to Y$ を局所自明な Kan ファイブレーション、$Y$ を有限とする。$\lvert Y\rvert$ の各点 $w$ に、開近傍 $W$ と空間 $\Phi$ と $W$ 上の同相 $\lvert q\rvert^{-1}(W)\cong W\times\Phi$ がある。

胞体ごとの帰納法と自明化の貼り合わせ

要点:胞体を 1 つずつ貼り、境界付近の放射方向のレトラクションで自明化を延ばす。

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非退化単体の個数についての帰納法で示す。$Y=\emptyset$ なら自明である。最高次元 $n$ の非退化単体 $y$ をとり、$Y_0$ を $y$ 以外の非退化単体で生成される部分単体的集合とすると、$Y=Y_0\amalg_{\partial\Delta^n}\Delta^n$ である(lem-kq-cells と同じ補集合による判定)。$Z_0=q^{-1}(Y_0)$、$Z_y=y^*Z$、$Z_\partial=(y|_\partial)^*Z$ とおくと、集合の引き戻しは押し出しと可換なので $Z=Z_0\amalg_{Z_\partial}Z_y$ であり、実現は余極限を保つので $\lvert Z\rvert=\lvert Z_0\rvert\cup_{\lvert Z_\partial\rvert}\lvert Z_y\rvert$(位相空間の押し出し)である。局所自明性から $Z_y\cong\Delta^n\times F$ で、$\lvert Z_y\rvert\cong\lvert\Delta^n\rvert\times\lvert F\rvert$、$\lvert Z_\partial\rvert\cong\lvert\partial\Delta^n\rvert\times\lvert F\rvert$ である。一方 lem-kq-pullback から $\lvert Z_\partial\rvert\cong\lvert\partial\Delta^n\rvert\times_{\lvert Y_0\rvert}\lvert Z_0\rvert$ であり、各 $u\in\lvert\partial\Delta^n\rvert$ で、貼り付け写像はファイバー $\{u\}\times\lvert F\rvert$ を $\lvert q\rvert^{-1}(a(u))$ に同相に写す。ここで $a\colon\lvert\partial\Delta^n\rvert\to\lvert Y_0\rvert$ は接着写像である。

開胞体の点。$e=\iota_y(\operatorname{Int}\lvert\Delta^n\rvert)$ は $\lvert Y\rvert$ の開集合で、商写像を開いた飽和集合に制限したものは商写像なので、$\lvert q\rvert^{-1}(e)\cong\operatorname{Int}\lvert\Delta^n\rvert\times\lvert F\rvert\cong e\times\lvert F\rvert$ である。

$\lvert Y_0\rvert$ の点。帰納法の仮定から、$w$ の $\lvert Y_0\rvert$ での開近傍 $U_0$ と自明化 $h_0\colon\lvert q\rvert^{-1}(U_0)\cong U_0\times\Phi$ がある。幾何学的実現 の補題「位相的単体は閉球体と同相」で $\lvert\Delta^n\rvert=D^n$ とみなし、$U'=a^{-1}(U_0)\subset S^{n-1}$、$V=\{v\in D^n\mid\|v\|>1/2,\ v/\|v\|\in U'\}$、$\rho(v)=v/\|v\|$ とおく。$V$ は開集合で $V\cap S^{n-1}=U'$、$\rho\colon V\to U'$ はレトラクションである。$W=U_0\cup\iota_y(V)$ は、$\lvert Y_0\rvert$ との共通部分が $U_0$、$D^n$ への逆像が $V$ なので開集合である。$U'$ 上では、$\lvert F\rvert$ と $\Phi$ の 2 つの自明化を比べて、$U'$ 上の同相 $\theta(u,f)=(u,\theta_u(f))$ を得る。$\Theta(v,f)=(v,\theta_{\rho(v)}(f))$ は $V\times\lvert F\rvert\to V\times\Phi$ の同相で(逆は $(v,\phi)\mapsto(v,\theta_{\rho(v)}^{-1}(\phi))$)、$U'$ 上で $\theta$ に一致する。$h_0$ と、$V$ 上の積構造に $\Theta$ を合成したものは貼り合わせと両立し、全単射 $h\colon\lvert q\rvert^{-1}(W)\to W\times\Phi$ を与える。

$h$ の連続性:$\lvert q\rvert^{-1}(W)$ は $\lvert q\rvert^{-1}(U_0)\sqcup\lvert Z_y\rvert_V$ の商である(開いた飽和集合への制限)。$h^{-1}$ の連続性:商写像 $Q\colon\lvert Y_0\rvert\sqcup D^n\to\lvert Y\rvert$ は閉写像である(閉集合 $C_0\sqcup C_1$ の飽和は、$a(C_1\cap S^{n-1})$ がコンパクトで $\lvert Y_0\rvert$ が Hausdorff なので閉集合を使って書ける)。$\lvert Y_0\rvert\sqcup D^n$ は Hausdorff でファイバーはコンパクトなので $Q$ は完全写像(Hausdorff 空間からの、閉でファイバーがコンパクトな連続写像)であり、飽和な開集合 $U_0\sqcup V$ への制限 $U_0\sqcup V\to W$ も完全写像である。$\Phi$ は CW 複体 $\lvert Z_0\rvert$ のファイバー $\lvert q\rvert^{-1}(w)$ と同相で Hausdorff なので $\mathrm{id}_\Phi$ も完全写像であり、完全写像の積は完全写像なので(Eng89 Theorem 3.7.9、p. 184)、$(U_0\sqcup V)\times\Phi\to W\times\Phi$ は閉写像、とくに商写像であり、$h^{-1}$ はその上の各部分で連続なので連続である。$\square$

Quillen の定理

Kan ファイブレーション $p\colon X\to Y$ の実現 $\lvert p\rvert$ は Serre ファイブレーションである。部分単体的集合 $Y'\subset Y$ について $\lvert p\rvert^{-1}(\lvert Y'\rvert)=\lvert p^{-1}(Y')\rvert$ であり、とくに頂点 $v$ の上の $\lvert p\rvert$ のファイバーは、$p$ のファイバー $p^{-1}(v)$ の実現である。

要点:分解 $p=p'r$ の $\lvert p'\rvert$ は局所自明、$\lvert r\rvert$ は積の射影のレトラクトである。

詳しい証明を開く

逆像。$\lvert X\rvert$ の点を標準の代表 $[x,u]$($x$ は非退化、$u$ は内部の点)で書くと(幾何学的実現 の命題「実現の点の標準の代表」)、$\lvert p\rvert[x,u]=[p(x),u]$ であり、これが $\lvert Y\rvert_{Y'}$ に入ることは $p(x)$ の根が $Y'$ に入ること、つまり $p(x)\in Y'$ と同値である(同記事の補題「部分単体的集合の実現」の (R1))。よって逆像は $\lvert X\rvert_{p^{-1}(Y')}\cong\lvert p^{-1}(Y')\rvert$ である。

有限な底への帰着。円板のホモトピー $D^k\times[0,1]\to\lvert Y\rvert$ の像はコンパクトなので、ある有限な部分単体的集合 $Y'$ の実現に入る(CW複体 の定理「コンパクト集合は有限部分複体に含まれる」)。逆像の計算から、$p^{-1}(Y')\to Y'$ について持ち上げればよい。Kan ファイブレーション・極小性・自明 Kan ファイブレーションは引き戻しで保たれるので、$Y$ は有限としてよい。

分解。$p=p'r$(thm-kq-minimal の 2)とする。$p'$ は局所自明なので、lem-kq-bundle と Hat02 Proposition 4.48 により $\lvert p'\rvert$ は Serre ファイブレーションである。$r\colon X\to X'$ は自明 Kan ファイブレーションなので、単射 $(\mathrm{id},r)\colon X\to X\times X'$ と $r$ の正方形(上辺 $\mathrm{id}_X$、下辺 $\mathrm{pr}_2$)の持ち上げ $\ell\colon X\times X'\to X$ があり、$r$ は射影 $\mathrm{pr}_2\colon X\times X'\to X'$ の $X'$ 上のレトラクトである。上と同じ逆像の議論で、$X'$ の有限な部分単体的集合 $X''$ の上の $r^{-1}(X'')\to X''$(これも自明 Kan ファイブレーション)に帰着できる。そこでは $\lvert r^{-1}(X'')\times X''\rvert\cong\lvert r^{-1}(X'')\rvert\times\lvert X''\rvert$ なので、$\lvert r\rvert$ は積の射影(Serre ファイブレーション)のレトラクトであり、Serre ファイブレーションである。Serre ファイブレーションの合成は Serre ファイブレーションである。$\square$

6 弱可縮な Kan 複体

頂点 $w$ の退化はどの次元でも $w$ と書く。

組合せ的に零・位相的に零
  1. Kan 複体 $K$ の、面がすべて $w$ の $n$ 単体 $\alpha$($n\ge1$)が 組合せ的に零 であるとは、$d_{n+1}x=\alpha$、$d_ix=w$($i\le n$)となる $x$ があることをいう。$n=0$ では、$\alpha$ から $w$ への辺があることをいう。
  2. $\lvert\partial\Delta^n\rvert$ を点 $z$ に写す連続写像 $f\colon\lvert\Delta^n\rvert\to Z$ が、$\lvert\partial\Delta^n\rvert$ を固定して定値写像 $z$ にホモトピックなとき、位相的に零 であるという。

$Z$ が弱可縮(空でなく、すべての基点でホモトピー群が自明)なら、このような $f$ はすべて位相的に零である。

理由を開く

$\lvert\Delta^n\rvert/\lvert\partial\Delta^n\rvert\cong S^n$(幾何学的実現 の補題「位相的単体は閉球体と同相」)による。

境界を固定したホモトピーと零

Kan 複体 $K$ の $n$ 単体 $\alpha$(面はすべて $w$)が $\alpha\simeq w\ (\mathrm{rel}\ \partial\Delta^n,\ /\Delta^0)$ なら、$\alpha$ は組合せ的に零である。

要点:角柱の補題で $(n+1)$ 単体を作る。

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$n=0$ ではホモトピーそのものが $\alpha$ から $w$ への辺である。$n\ge1$ とし、$H$ をホモトピーとする。$\partial\Delta^{n+1}\times\Delta^1\cup\Delta^{n+1}\times\{1\}$ 上の写像を、面 $d_{n+1}$ の上で $H$、ほかの面の上と $\Delta^{n+1}\times\{1\}$ の上で定値 $w$ と定める(面どうしの共通部分は $\partial\Delta^n$ の上にあり、$H$ はそこで定値 $w$ なので矛盾なく定まる)。lem-kq-prism により $\Delta^{n+1}\times\Delta^1$ に延び、その $\Delta^{n+1}\times\{0\}$ への制限 $x$ が $d_{n+1}x=\alpha$、$d_ix=w$ をみたす。$\square$

道の空間

Kan 複体 $F$ と頂点 $v$ について、$m$ 単体を $\Delta^m\times\{0\}$ を $v$ に写す写像 $h\colon\Delta^m\times\Delta^1\to F$ とし、構造写像を前合成とする単体的集合を $PF$、$h\mapsto h|_{\Delta^m\times\{1\}}$ が定める写像を $q\colon PF\to F$、$\Omega F=q^{-1}(v)$ とする。

  1. 単体的集合 $L$ から $PF$ への写像は、$L\times\{0\}$ を $v$ に写す写像 $L\times\Delta^1\to F$ と 1 対 1 に対応する。
  2. $q$ は Kan ファイブレーションで、$PF\to\Delta^0$ は自明 Kan ファイブレーションである。とくに $PF$ と $\Omega F$ は Kan 複体である。

要点:持ち上げの問題を $F$ での延長の問題に書き直す。

詳しい証明を開く

1:$L$ は単体 $\Delta^m\to L$ たちの余極限であり、$L\times\Delta^1$ は $\Delta^m\times\Delta^1$ たちの余極限である(余極限は次数ごとに計算され、集合の積は余極限と可換)。2:ホーン $\Lambda^m_k\to PF$ と $\Delta^m\to F$ の持ち上げの問題は、1 により $\Lambda^m_k\times\Delta^1\cup\Delta^m\times\partial\Delta^1\to F$ の $\Delta^m\times\Delta^1$ への延長の問題になり($\Delta^m\times\{0\}$ は $v$、$\Delta^m\times\{1\}$ は与えられた単体)、これは prop-kq-gz の 2 と $F$ が Kan 複体であることから解ける。$\partial\Delta^m\to PF$ の延長の問題は $\partial\Delta^m\times\Delta^1\cup\Delta^m\times\{0\}\to F$ の延長の問題で、lem-kq-prism から解ける。$PF$ は自明 Kan ファイブレーションの始域なので Kan 複体(cor-kq-mono の 2)、$\Omega F$ は Kan ファイブレーションのファイバーなので Kan 複体である。$\square$

位相的に零なら組合せ的に零

Kan 複体 $K$、頂点 $w$、$n\ge0$ と、面がすべて $w$ の $n$ 単体($n=0$ では任意の頂点)$\alpha$ について、$\lvert\alpha\rvert\colon\lvert\Delta^n\rvert\to\lvert K\rvert$ が位相的に零なら、$\alpha$ は組合せ的に零である。

道の空間による次元の引き下げ

要点:道の空間 $PK\to K$ で次元を 1 つ下げる帰納法。

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$n=0$。辺で結ばれるという関係は同値関係である(Kan複体 の命題「Kan 複体の連結成分」)。類 $c$ ごとに、頂点がすべて $c$ に入る単体の全体 $K_c$ は部分単体的集合で(単体の頂点どうしは辺で結ばれる)、$K=\coprod_cK_c$ なので $\lvert K\rvert=\coprod_c\lvert K_c\rvert$ である。$\lvert K\rvert$ の道は 1 つの $\lvert K_c\rvert$ にとどまるので、道で結ばれる頂点は同じ類に入る。

$n\ge1$。$n-1$ について主張がすべての Kan 複体で成り立つとする。$PK$、$q$、$\Omega K$ を lem-kq-path のとおりとし、$c\in(PK)_0$ を定値の道とする。$q$ は Kan ファイブレーションなので、$\Lambda^n_n\to PK$(定値 $c$)と $\alpha$ の持ち上げ $\beta\colon\Delta^n\to PK$ があり、$q\beta=\alpha$、$d_i\beta=c$($i< n$)である。$\gamma:=d_n\beta$ は $q\gamma=d_n\alpha=w$ なので $\Omega K$ の $(n-1)$ 単体で、面はすべて $c$ である。

位相的な零ホモトピー $L\colon\lvert\Delta^n\rvert\times[0,1]\to\lvert K\rvert$($L_0=\lvert\alpha\rvert$、$L_1=w$、$\lvert\partial\Delta^n\rvert$ 上で $w$)をとる。thm-kq-quillen により $\lvert q\rvert$ は Serre ファイブレーションなので、CW 対 $(\lvert\Delta^n\rvert,\lvert\Lambda^n_n\rvert)$ についての相対的なホモトピー持ち上げにより、$\tilde L_0=\lvert\beta\rvert$、$\lvert\Lambda^n_n\rvert\times[0,1]$ 上で定値 $c$、$\lvert q\rvert\tilde L=L$ となる $\tilde L$ がある。$\tilde L$ は $\lvert\partial\Delta^n\rvert\times[0,1]$ と $\lvert\Delta^n\rvert\times\{1\}$ を $\lvert q\rvert^{-1}(w)=\lvert\Omega K\rvert$ に写す。面 $\lvert d_n\rvert$ の上では、$\tilde L$ は $\lvert\gamma\rvert$ から $\tilde L_1|_{\text{面}}$ への、境界($\subset\lvert\Lambda^n_n\rvert$)を $c$ に固定したホモトピーであり、$\tilde L_1((1-t)x+te_n)$ は $\tilde L_1|_{\text{面}}$ から定値 $c$ への、境界を固定したホモトピーである($x$ が面の境界にあれば $(1-t)x+te_n$ は $\lvert\Lambda^n_n\rvert$ にある)。よって $\lvert\gamma\rvert$ は $\lvert\Omega K\rvert$ の中で位相的に零であり、帰納法の仮定から、$\Omega K$ の $n$ 単体 $y$ で $d_ny=\gamma$、$d_iy=c$($i< n$)となるものがある。

$\beta$ と $y$ は $PK$ の $n$ 単体で、境界が等しい。$PK\to\Delta^0$ は自明 Kan ファイブレーションなので、$\Delta^n\times\partial\Delta^1\cup\partial\Delta^n\times\Delta^1$ 上の写像(両端に $\beta$、$y$、境界の上で定値)は $\Delta^n\times\Delta^1$ に延び(cor-kq-mono の 1)、それを $q$ で写すと $\alpha\simeq qy=w\ (\mathrm{rel}\ \partial\Delta^n)$ を得る。lem-kq-null により $\alpha$ は組合せ的に零である。$\square$

弱可縮な Kan 複体

Kan 複体 $F$ の実現 $\lvert F\rvert$ が弱可縮なら、$F\to\Delta^0$ は自明 Kan ファイブレーションである。

境界をホーンに沿って縮める

要点:境界をホーンに沿って縮め、残る面が組合せ的に零であることを使う。

詳しい証明を開く

弱可縮なので $F$ は空でなく、$\emptyset\to F$ の延長がある。$n\ge1$、$a\colon\partial\Delta^n\to F$ とする。順序写像 $(m,0)\mapsto m$、$(m,1)\mapsto n$ が定める $h\colon\Delta^n\times\Delta^1\to\Delta^n$ は $\Lambda^n_n\times\Delta^1$ を $\Lambda^n_n$ に写す($n$ でない値 $j$ をとらない鎖は、像でも $j$ をとらない)。$\Lambda^n_n\times\Delta^1$ 上の $a\circ h$ と $\partial\Delta^n\times\{0\}$ 上の $a$ を、prop-kq-gz の 1($\Lambda^n_n\subset\partial\Delta^n$ と $0$)で $G\colon\partial\Delta^n\times\Delta^1\to F$ に延ばす。$g=G_1$ は $\Lambda^n_n$ 上で定値 $w=a(n)$ なので、$\beta=g\circ\delta^n$ は面がすべて $w$ の $(n-1)$ 単体($n=1$ では頂点)である。$\lvert F\rvert$ は弱可縮なので $\lvert\beta\rvert$ は位相的に零で、prop-kq-comparison から $d_nx=\beta$、$d_ix=w$($i< n$)となる $n$ 単体 $x$ がある。$x$ は $g$ を $\Delta^n$ へ延ばす。最後に $\partial\Delta^n\times\Delta^1$ 上の $G$ と $\Delta^n\times\{1\}$ 上の $x$ を lem-kq-prism で $\Delta^n\times\Delta^1$ に延ばし、$\Delta^n\times\{0\}$ に制限すれば $a$ の延長である。$\square$

この節は Hov99 Lemma 3.4.5・Proposition 3.4.7・Proposition 3.6.3 を、群構造を使わない形に組み直したものである。

7 主定理の証明

弱同値な Kan ファイブレーション

Kan ファイブレーション $p\colon X\to Y$ について、$p$ が弱同値であることと、$p$ が自明 Kan ファイブレーションであることは同値である。

極小な部分のファイバーを調べる

自明 Kan ファイブレーションが弱同値であることは prop-kq-weak-equivalence の 2 である。逆に $p\in\mathcal W$ とする。thm-kq-minimal の 2 により $p=p'r$($p'\colon X'\to Y$ は極小、$r$ は自明 Kan ファイブレーション)と分解する。$\lvert r\rvert$ はホモトピー同値なので、2 out of 3 により $\lvert p'\rvert$ は弱ホモトピー同値である。thm-kq-quillen により $\lvert p'\rvert$ は Serre ファイブレーションで、頂点 $y$ の上のファイバーは $F_y=p'^{-1}(y)$ の実現である。
弱ホモトピー同値な Serre ファイブレーションのファイバーは空でなく(道の持ち上げと $\pi_0$ の全射性による)、$y$ の弧状連結成分(開かつ閉)の上に制限した長完全列(Hat02 Theorem 4.41、p. 376。この記事では証明しない)により弱可縮である。よって $\lvert F_y\rvert$ は弱可縮で、$F_y$ は Kan 複体なので、prop-kq-extension により $F_y\to\Delta^0$ は自明 Kan ファイブレーションである。
$p'$ は局所自明である(thm-kq-minimal の 1)。持ち上げの問題 $u\colon\partial\Delta^n\to X'$、$v\colon\Delta^n\to Y$ は、$v^*X'\cong\Delta^n\times F\to\Delta^n$ についての問題と同じであり、$F$ は $v$ のある頂点の上のファイバーと同型なので、$\partial\Delta^n\to F$ の延長として解ける。よって $p'$ は自明 Kan ファイブレーションであり、合成 $p=p'r$ もそうである(ホーンと充填条件 の定理「右持ち上げ性質の閉包性」の (R2))。$\square$

持ち上げと分解の確認

$\mathbf{sSet}$ は前層の圏なので、小さい極限と余極限をもつ。
2 out of 3 とレトラクト。$\mathcal W$ は prop-kq-weak-equivalence の 1、単射のレトラクトは単射、$\mathcal F=J^\square$ は ホーンと充填条件 の定理「右持ち上げ性質の閉包性」による。
分解。lem-kq-soa を $I$ に使うと $f=pj$($j$ は単射、$p\in I^\square$)で、$I^\square\subset\mathcal F\cap\mathcal W$(cor-kq-mono の 2、prop-kq-weak-equivalence の 2)である。$J$ に使うと $f=pj$($j\in\mathcal A$、$p\in\mathcal F$)で、$\mathcal A\subset\mathcal C\cap\mathcal W$(cor-kq-mono の 2、prop-kq-weak-equivalence の 3)である。
持ち上げ。thm-kq-heart から $\mathcal F\cap\mathcal W=I^\square$ であり、cor-kq-mono の 1 から単射はこれに左持ち上げ性質をもつ。$i\in\mathcal C\cap\mathcal W$ を $i=pj$($j\in\mathcal A$、$p\in\mathcal F$)と分解すると、2 out of 3 から $p\in\mathcal W$、したがって $p\in I^\square$ である。$i$ は単射なので $(j,\mathrm{id})$ の正方形に持ち上げがあり、$i$ は $j$ のレトラクトになる。lem-kq-llp から $i\in{}^\square\mathcal F=\mathcal A$ である。これで $(\mathcal C\cap\mathcal W)\mathbin{\square}\mathcal F$ と、主定理の 2($\mathcal A\subset\mathcal C\cap\mathcal W$ と合わせて)が示された。主定理の 1 は thm-kq-heart である。$\square$

随伴 $\lvert\cdot\rvert\dashv\operatorname{Sing}$(幾何学的実現 の定理「幾何学的実現と特異単体的集合の随伴」)は、Serre ファイブレーションと弱ホモトピー同値によるコンパクト生成空間のモデル構造との Quillen 同値になる(Hov99 Theorem 2.4.25、Theorem 3.6.7。この記事では証明しない。用語は Quillen随伴)。

例

区間の Kan 置換

$\Delta^1\to\Delta^0$ は弱同値だが Kan ファイブレーションでない($\Delta^1$ は Kan 複体でない。Kan複体 の例「標準単体は Kan 複体でない」)。2 つの対象 $a,b$ の間にただ 1 つの同型をもつ亜群の脈体を $N$ とすると、$0\mapsto a$、$1\mapsto b$ による単射 $\Delta^1\hookrightarrow N$ はアノダイン拡大で、$N$ は $\Delta^1$ のファイブラント置換である。

確かめ

$N$ の $n$ 単体は対象の列 $(c_0,\dots,c_n)$ で、$\partial\Delta^n\to N$($n\ge1$)は頂点の値で決まり、その列が延長を与えるので、$N\to\Delta^0$ は自明 Kan ファイブレーションである。$\Delta^1\to N\to\Delta^0$ に 2 out of 3 を使えば $\Delta^1\hookrightarrow N$ は弱同値な単射であり、主定理の 2 によりアノダイン拡大である。

極小な Kan 複体

上の例の $N\to\Delta^0$ の極小な部分は 1 点で(頂点 $a,b$ は $p$ 同値)、thm-kq-minimal の 2 のレトラクション $N\to\Delta^0$ は自明 Kan ファイブレーションである。一般に、実現が弱可縮な Kan 複体の極小な部分は 1 点になる。

理由を開く

極小な部分 $F'$ の実現も弱可縮なので、主定理の 1 により $F'\to\Delta^0$ は自明 Kan ファイブレーションで、prop-kq-weak-equivalence の 2 から恒等写像はある頂点への定値写像とホモトピックになる。lem-kq-minimal-iso からその定値写像は同型である。

条件を外した反例

外す条件反例成り立たなくなること
thm-kq-heart の「$p$ は Kan ファイブレーション」$\Delta^1\to\Delta^0$弱同値なら自明 Kan ファイブレーション
lem-kq-minimal-iso の「$q$ は極小」$q\colon N\to\Delta^0$、$f$ は値 $a$ の定値写像、$g=\mathrm{id}_N$$f\simeq g$ で $g$ が同型なら $f$ も同型
prop-kq-extension の「$F$ は Kan 複体」$F=\Lambda^2_0$実現が弱可縮なら境界からの延長がある
thm-kq-quillen の「$p$ は Kan ファイブレーション」頂点の包含 $\{0\}\hookrightarrow\Delta^1$実現が Serre ファイブレーション
確かめ

1 行目:$\lvert\Delta^1\rvert$ は可縮なので弱同値である。$\partial\Delta^1\to\Delta^1$ を $0\mapsto1$、$1\mapsto0$ とすると、$\Delta^1$ に $1$ から $0$ への辺はないので延長がない。

2 行目:$N$ は亜群の脈体なので Kan 複体で(Kan複体 の定理「脈体が Kan 複体であるための条件」)、$a,b$ が $p$ 同値なので $q$ は極小でない。関手 $\{a\cong b\}\times[1]\to\{a\cong b\}$ を $(c,0)\mapsto a$、$(c,1)\mapsto c$、$(c,0)\to(c,1)$ を唯一の射 $a\to c$ に送るものとすると、その脈体は $f$ から $\mathrm{id}_N$ への $\Delta^0$ 上のホモトピーである(脈体は積を保つ)。$f$ は同型でない。

3 行目:$\lvert\Lambda^2_0\rvert$ は頂点 $0$ を共有する 2 つの線分で可縮である。$\partial\Delta^1\to\Lambda^2_0$ を $0\mapsto1$、$1\mapsto2$ とすると、延長には頂点 $1,2$ を結ぶ $\Delta^2$ の辺が要るが、それは $\Lambda^2_0$ に入らない(ホーンと充填条件 の命題「ホーンの非退化単体」)。

4 行目:$\{0\}\hookrightarrow\Delta^1$ は $\Lambda^1_0\hookrightarrow\Delta^1$(辺の持ち上げ)に対する持ち上げをもたない。実現は 1 点から線分への包含で、線分の $0$ から $1$ への道は持ち上がらないので Serre ファイブレーションでない。

関連項目

参考文献

[1]
Mark Hovey, Model Categories, Mathematical Surveys and Monographs 63, American Mathematical Society, 1999, Chapter 3:Proposition 3.2.2、Theorem 3.3.2・Lemma 3.3.3、Proposition 3.3.5、Lemma 3.4.5、Proposition 3.4.7、§3.5 Minimal fibrations(Proposition 3.5.3、Lemma 3.5.6、Corollary 3.5.7、Lemma 3.5.8、Theorem 3.5.9)、Proposition 3.6.1、Corollary 3.6.2・Proposition 3.6.3、Theorem 3.6.4・3.6.5・3.6.7。Chapter 2:Theorem 2.4.25(コンパクト生成空間のモデル構造)
[2]
Allen Hatcher, Algebraic Topology, Cambridge University Press, 2002, §4.2:Theorem 4.41 と CW 対のホモトピー持ち上げ性質・Serre ファイブレーションの定義(p. 376)、Proposition 4.48(pp. 379–380)
[4]
Ryszard Engelking, General Topology, Revised and completed edition, Heldermann Verlag, 1989, Theorem 3.7.9(p. 184、完全写像の積は完全写像)

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