ホモロジー球面

同義語:homology sphere整数ホモロジー球面integral homology sphereホモロジー3球面homology 3-sphere有理ホモロジー球面Poincaréホモロジー球面Poincaré homology spherePoincaré球面12面体空間dodecahedral space

概要

ホモロジー球面(homology sphere)とは、整数係数のホモロジー群が球面 $S^n$ と同じ連結な閉多様体のことである。単連結なら(2 次元以上で)ホモトピー球面になるので、球面と違う例の本質は基本群にあり、3 次元では $H_1=0$、すなわち基本群が完全群であることだけで決まる。代表例の Poincaré ホモロジー球面は、単位四元数の群 $S^3$ を位数 120 の二項 20 面体群 $I^*$ で割った空間で、$I^*$ は完全群なのでホモロジーは球面と同じだが、基本群が自明でないので $S^3$ とホモトピー同値でない。ホモロジー球面は連結和で閉じ、互いにホモトピー同値でないホモロジー 3 球面が無限個ある。懸垂は多様体でないが二重懸垂は $S^5$ と同相で(二重懸垂定理)、$S^5$ の組合せ的でない三角形分割を与える。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 位相多様体, Poincaré双対, 被覆空間, 完全群, SO(3)とSU(2)

ホモロジー球面(homology sphere)は、整数係数のホモロジー群が球面と同じ閉多様体である。球面そのもののほかに、基本群が自明でないものがあり、その最初の例が Poincaré の見つけた $3$ 次元の Poincaré ホモロジー球面である。これは単位四元数の群 $S^3$ を位数 $120$ の二項 20 面体群 $I^*$ で割った空間 $S^3/I^*$ で、$I^*$ が完全群(交換子部分群が全体)であるために $1$ 次元のホモロジーが消え、$3$ 次元の閉多様体ではそれだけでホモロジーがすべて球面と同じになる。
ホモロジー球面は、多様体の構造のあいだの差を示す例の供給源である。Poincaré ホモロジー球面の懸垂は多様体でないが、二重懸垂は $S^5$ と同相である(二重懸垂定理)。こうして $S^5$ に組合せ的でない三角形分割ができる。また Poincaré ホモロジー球面は $E_8$ 形式の plumbing の境界で、Rokhlin 不変量が $1$ である。これが E8多様体 の構成と、三角形分割の問題の出発点になる。
この記事では、$3$ 次元の閉多様体がホモロジー球面であるための判定($H_1=0$ だけでよい)、Poincaré ホモロジー球面の基本群が位数 $120$ の完全群であることとそれがホモロジー球面であること、ホモロジー球面が連結和で閉じていることと、ホモトピー同値でないホモロジー $3$ 球面が無限個あることを完全に証明する。二重懸垂定理は所在を示して引用する。

定義と規約

多様体は Hausdorff かつ第 2 可算とし、閉多様体はコンパクトで境界のない多様体をいう。ホモロジーは特異ホモロジーで、係数を書かないときは $\mathbb{Z}$ 係数とする。$\tilde H_*$ は被約ホモロジーである。

ホモロジー球面

$n\ge1$ とする。連結な $n$ 次元閉位相多様体 $M$ が、すべての $k$ で $H_k(M)\cong H_k(S^n)$($k=0,n$ で $\mathbb{Z}$、ほかの $k$ で $0$)をみたすとき、$M$ を $n$ 次元ホモロジー球面という。$3$ 次元のものをホモロジー $3$ 球面という。体 $F$ を係数として $H_k(M;F)\cong H_k(S^n;F)$ をみたすものを $F$ ホモロジー球面($F=\mathbb{Q}$ なら有理ホモロジー球面)といい、区別するときは定義の意味のものを整数ホモロジー球面という。

$H_n(M)\cong\mathbb{Z}$ なので、ホモロジー球面は向き付け可能である(Hat02 Theorem 3.26、p. 236)。この定義は 一般次元のPoincaré予想 の定義「ホモトピー球面とホモロジー球面」と同じである。文献によっては PL 多様体であることを課す(Rud01 §21、p. 84)。$3$ 次元の位相多様体は PL 構造をもつので(Moiseの定理)、$3$ 次元ではこの違いは問題にならない。
$S^n$ とホモトピー同値な閉多様体(ホモトピー球面)はホモロジー球面である。逆に $n\ge2$ では、単連結なホモロジー球面はホモトピー球面である(Kervaire–Milnorの群 の補題「ホモトピー球面の判定」)。したがって、ホモトピー球面でないホモロジー球面は単連結でなく、その違いは基本群に現れる。

3 次元での判定

$3$ 次元では、ホモロジー球面であるかどうかは $1$ 次元のホモロジーだけで決まる。

3 次元の閉多様体の判定

$M$ を連結な $3$ 次元閉位相多様体とする。次は同値である。

  1. $M$ はホモロジー球面である。
  2. $H_1(M)=0$ である。
  3. 基本群 $\pi_1(M)$ は完全群である。
3 次元での判定

2 と 3 の同値。 $M$ は弧状連結なので、$H_1(M)$ は $\pi_1(M)$ の可換化 $\pi_1(M)/[\pi_1(M),\pi_1(M)]$ と同型である(Hat02 Theorem 2A.1、p. 166)。これが $0$ であることは、交換子部分群が $\pi_1(M)$ 全体であること、すなわち $\pi_1(M)$ が完全群であることにほかならない。
1 ⇒ 2 は定義から明らかである。
2 ⇒ 1。 $H_1(M)=0$ とする。まず $M$ が向き付け可能であることを示す。$\pi_1(M)$ に指数 $2$ の部分群 $K$ があったとすると、$K$ は正規部分群で、剰余群 $\pi_1(M)/K\cong\mathbb{Z}/2$ は可換なので、商写像 $\pi_1(M)\to\mathbb{Z}/2$ は可換化 $H_1(M)=0$ を経由する。すると商写像は $0$ 写像になり、全射であることに反する。よって $\pi_1(M)$ は指数 $2$ の部分群をもたず、$M$ は向き付け可能である(Hat02 Proposition 3.25、p. 234)。
$M$ は連結で向き付け可能な閉 $3$ 次元多様体なので、$H_0(M)\cong\mathbb{Z}$、$H_3(M)\cong\mathbb{Z}$ で、$k>3$ では $H_k(M)=0$ である(Hat02 Theorem 3.26、p. 236)。残りは $H_2(M)$ である。Poincaré双対(Hat02 Theorem 3.30、p. 241)により $H_2(M)\cong H^1(M)$ であり、コホモロジーの普遍係数定理(Hat02 Theorem 3.2、p. 195)により
$$ H^1(M)\cong\operatorname{Hom}(H_1(M),\mathbb{Z})\oplus\operatorname{Ext}(H_0(M),\mathbb{Z})=\operatorname{Hom}(0,\mathbb{Z})\oplus\operatorname{Ext}(\mathbb{Z},\mathbb{Z})=0 $$
である(自由加群 $\mathbb{Z}$ の $\operatorname{Ext}$ は $0$)。よって $H_*(M)\cong H_*(S^3)$ であり、$M$ はホモロジー球面である。$\square$

$3$ 次元に特有なのは、Poincaré 双対で $H_2$ が $H^1$ に、したがって $H_1$ に結びつく点である。$4$ 次元以上では $H_1=0$ でも中間次元のホモロジーが残りうる(下の反例の表の $S^2\times S^2$)。

Poincaré ホモロジー球面

四元数の全体 $\mathbb{H}$ を $\mathbb{R}^4$ と同一視し、$\lvert\cdot\rvert$ を Euclid ノルムとする。$\lvert pq\rvert=\lvert p\rvert\lvert q\rvert$ なので、単位四元数の全体 $S^3=\{q\in\mathbb{H}:\lvert q\rvert=1\}$ は乗法について群であり、$\mathrm{SU}(2)$ と同一視できる(SO(3)とSU(2) の注意「単位四元数としての表示」)。純虚四元数の空間を $\mathbb{R}^3$ と見て $\mathrm{Ad}(u)(v):=uvu^{-1}$ と定めると、$\mathrm{Ad}\colon S^3\to\mathrm{SO}(3)$ は全射準同型で、核は $\{\pm1\}$ である(SO(3)とSU(2) の定理「二重被覆 $\mathrm{SU}(2)\to\mathrm{SO}(3)$」、Hat02 p. 75)。
原点を中心とする正二十面体を 1 つ固定し、それを自分自身に重ねる回転の全体を $I\subset\mathrm{SO}(3)$ とする。$I$ は位数 $60$ で、$5$ 次の交代群 $A_5$ と同型である(交代群 の定理「正二十面体の回転群との同型」)。

二項 20 面体群と Poincaré ホモロジー球面

$I^*:=\mathrm{Ad}^{-1}(I)\subset S^3$ を二項 20 面体群(binary icosahedral group)という。$I^*$ の元 $g$ を左からの積 $x\mapsto gx$ で $S^3$ に作用させ、その軌道空間
$$ P:=S^3/I^* $$
を Poincaré ホモロジー球面という。

$\mathrm{Ad}$ は $I^*$ から $I$ への全射で、各元の逆像はちょうど $2$ 点 $\pm g$ なので、$\lvert I^*\rvert=120$ であり、$-1\in I^*$ である。正二十面体の代わりにその双対の正十二面体を使っても回転群は同じなので、$P$ は 12 面体空間(dodecahedral space)とも呼ばれる(KSch79 p. 117)。

Poincaré ホモロジー球面の基本性質
  1. $I^*$ の $S^3$ への作用は自由で、軌道空間 $P$ は連結な $3$ 次元の滑らかな閉多様体であり、商写像 $S^3\to P$ は普遍被覆である。とくに $\pi_1(P)\cong I^*$(位数 $120$)である。
  2. $I^*$ は完全群である。
  3. $P$ はホモロジー $3$ 球面であり、$S^3$ とホモトピー同値でない(とくに同相でない)。
Poincaré ホモロジー球面の基本性質

1. $g\in I^*$、$x\in S^3$ について $gx=x$ なら、右から $x^{-1}$ を掛けて $g=1$ である。よって作用は自由である。$I^*$ は有限群なので、$S^3$ への作用は固有であり(Lee13 Corollary 21.6、p. 544)、左からの積は $\mathbb{R}^4$ の線形写像の制限なので滑らかである。したがって $P=S^3/I^*$ は位相多様体で、商写像 $\pi\colon S^3\to P$ が滑らかな正規被覆写像になる滑らかな構造をただ 1 つもつ(Lee13 Theorem 21.13、p. 549)。$S^3$ はコンパクトで連結なので、$P$ もコンパクトで連結な $3$ 次元多様体である。
基本群を求めるため、作用が次の条件 (∗) をみたすことを確かめる:各 $x\in S^3$ に近傍 $U$ があって、$g\ne1$ なら $U\cap gU=\emptyset$。左からの積は距離を保つ($\lvert gx-gy\rvert=\lvert g\rvert\lvert x-y\rvert=\lvert x-y\rvert$)。$\delta:=\min_{g\ne1}\lvert gx-x\rvert$ とおくと、$I^*$ は有限で作用は自由なので $\delta>0$ である。$U:=\{y\in S^3:\lvert y-x\rvert< \delta/2\}$ とし、$g\ne1$ と $y\in U\cap gU$ があったとすると、$y=gz$($z\in U$)と書けて
$$ \lvert gx-x\rvert\le\lvert gx-gz\rvert+\lvert gz-x\rvert=\lvert x-z\rvert+\lvert y-x\rvert< \delta $$
となり、$\delta$ の定め方に反する。よって (∗) が成り立つ。$S^3$ は単連結で局所弧状連結なので、$\pi_1(P)\cong I^*$ である(Hat02 Proposition 1.40 (c)、p. 72)。
2. 交換子部分群を $C:=[I^*,I^*]$ とする。全射準同型は交換子部分群を交換子部分群の上へ写すので、$\mathrm{Ad}(C)=[I,I]$ である。$I\cong A_5$ は可換でない単純群なので(交代群 の定理「交代群の単純性」)完全群であり(完全群 の例「可換でない単純群」)、$[I,I]=I$ である。よって $\mathrm{Ad}(C)=I$ で、各 $g\in I^*$ について $\mathrm{Ad}(c)=\mathrm{Ad}(g)$ となる $c\in C$ があり、$g=\pm c$ となる。すなわち $I^*=C\cup(-1)C$ である。
$-1\in C$ なら $I^*=C$ で、$I^*$ は完全群である。$-1\notin C$ と仮定して矛盾を導く。このとき $\mathrm{Ad}$ の $C$ への制限の核は $C\cap\{\pm1\}=\{1\}$ なので、$\mathrm{Ad}|_C\colon C\to I$ は単射かつ全射で、$C\cong I\cong A_5$ である。$A_5$ には位数 $2$ の元(たとえば $(1\,2)(3\,4)$)があるので、$C$ にも位数 $2$ の元 $c$ がある。$\mathbb{H}$ の中で $c^2=1$ から $(c-1)(c+1)=c^2-1=0$ であり、$\mathbb{H}$ は零因子をもたない(斜体)ので $c=1$ か $c=-1$ である。$c\ne1$ なので $c=-1\in C$ となり、仮定に反する。よって $I^*$ は完全群である。
3. 1 と 2 により $\pi_1(P)\cong I^*$ は完全群なので、prop-hs-dim3 により $P$ はホモロジー $3$ 球面である。$\pi_1(P)$ は位数 $120$ で自明でないので、$P$ は単連結な $S^3$ とホモトピー同値でない(ホモトピー同値は基本群の同型を引き起こす。ホモトピー同値 の命題「基本群・ホモロジーへの帰結」)。$\square$

2 の証明で使ったのは、「$C$ が $\mathrm{Ad}$ で $I$ の上へ写る」ことと、「$S^3$ の中で位数 $2$ の元は $-1$ だけ」であることの 2 点である。後者は、$S^3$ に自由に作用する有限群は位数 $2$ の元を高々 $1$ つしかもたないという一般的な制約の、この場合の形である(Hat02 p. 75 の条件 (b))。$I$ 自身は位数 $2$ の元を $15$ 個もつので、$I$ は $S^3$ の部分群として持ち上がらない。

ほかの記述

Poincaré ホモロジー球面には、互いに同相であることが確かめられている多くの記述がある(KSch79 §I、pp. 113–122)。

記述内容所在
plumbingEuler 数 $-2$ の $S^2$ 上の円板束 $8$ 個を $E_8$ 型の木に沿って plumbing した $4$ 次元多様体の境界KSch79 pp. 114–115
絡み目の手術$8$ 成分の絡み目に沿った手術。基本群は $\langle x,y\mid x^3=y^5=(yx)^2\rangle$KSch79 p. 116
特異点のリンク$\{z_1^2+z_2^3+z_3^5=0\}\subset\mathbb{C}^3$ と原点中心の単位球面 $S^5$ の交わりKSch79 p. 116
四元数の商$S^3/I^*$(この記事の定義)KSch79 p. 117
12 面体空間正十二面体の向かい合う面を $2\pi/10$ ねじって貼ったものKSch79 p. 117
Seifert 束$S^2$ 上の、例外ファイバーが $3$ 本の Seifert 束KSch79 pp. 118–121
結び目の手術左手系の三葉結び目に沿った枠 $-1$ の手術KSch79 p. 121
分岐被覆三葉結び目に沿って分岐する $5$ 重の分岐被覆KSch79 p. 122

Poincaré 自身は、種数 $2$ の Heegaard 図式から作った $3$ 次元多様体の基本群が、ある関係を加えると 20 面体群になることから、それが $S^3$ と同相でないことを示した(Kos93 Ch. VII §7、pp. 140–141)。また、自明でない有限群でホモロジー $3$ 球面の基本群になりうるのは $I^*$ だけである(KSch79 p. 116 の注意)。
plumbing による記述は、$P$ が $E_8$ 形式を交叉形式とする $4$ 次元多様体の境界であることを示している(向きを逆にすれば交叉形式は $E_8$、Euler 数 $-2$ のままなら $-E_8$)。これが Rokhlinの定理 の記事で定義する Rokhlin 不変量 $\mu(P)=1$ と、E8多様体 の構成の出発点である。

連結和

連結和はホモロジー球面

$n\ge3$ とし、$M$、$N$ を $n$ 次元の滑らかなホモロジー球面とする。このとき連結和 $M\#N$(境界に沿った貼り合わせと連結和 の定義「連結和」)は $n$ 次元のホモロジー球面であり、
$$ \pi_1(M\#N)\cong\pi_1(M)*\pi_1(N) $$
(自由積)である。

連結和

滑らかな円板 $f\colon D^n\to M$、$g\colon D^n\to N$ で連結和 $M\#N=M_f\cup_hN_g$ を作る。ここで $M_f=M\setminus f(\operatorname{Int}D^n)$ である。$M\#N$ は連結な $n$ 次元の閉多様体である(境界に沿った貼り合わせと連結和 の定理「連結和の基本性質」の 1)。
段 1:$\tilde H_*(M_f)=0$ と $\pi_1(M_f)\cong\pi_1(M)$。 点 $x:=f(0)$ について、$M_f$ は $M\setminus\{x\}$ の変形レトラクトである(円板の中を放射状に押し出す)。よって $H_k(M,M_f)\cong H_k(M,M\setminus\{x\})$ であり、これは $k=n$ で $\mathbb{Z}$、ほかの $k$ で $0$ である(切除で $\mathbb{R}^n$ の局所ホモロジーに帰着する。Hat02 p. 231)。$M$ は連結で向き付け可能な閉多様体なので、$H_n(M)\to H_n(M,M\setminus\{x\})$ は同型である(Hat02 Theorem 3.26 (a)、p. 236)。対 $(M,M_f)$ の長完全列
$$ H_{k+1}(M,M_f)\to H_k(M_f)\to H_k(M)\to H_k(M,M_f) $$
を見る。$k=n$ では左端が $0$ で右の写像が同型なので $H_n(M_f)=0$ である。$k=n-1$ では、$H_n(M)\to H_n(M,M_f)$ が全射で $H_{n-1}(M)=0$ なので $H_{n-1}(M_f)=0$ である。$1\le k\le n-2$ では両端が $0$ なので $H_k(M_f)\cong H_k(M)=0$ である。よって $\tilde H_*(M_f)=0$ である。
基本群については、$M$ を $M_f$ にカラーを足した開集合 $A_0$ と開円板 $f(\operatorname{Int}D^n)$ の和に書くと、共通部分は $S^{n-1}\times(0,1)$ と同相で、$n\ge3$ なので単連結である。Van Kampenの定理(Hat02 Theorem 1.20、p. 43)により $\pi_1(M)\cong\pi_1(A_0)*1\cong\pi_1(M_f)$ である。$N_g$ についても同じである。
段 2:Mayer–Vietoris。 $M\#N$ を、$M_f$ と $N_g$ に貼り合わせの部分のカラーを足した開集合 $A$、$B$ の和に書く。$A\simeq M_f$、$B\simeq N_g$ で、$A\cap B$ は $S^{n-1}\times(-1,1)$ と同相である。Mayer–Vietoris完全列 の命題「被約ホモロジーの Mayer–Vietoris 完全列」により
$$ \tilde H_k(A)\oplus\tilde H_k(B)\to\tilde H_k(M\#N)\to\tilde H_{k-1}(A\cap B)\to\tilde H_{k-1}(A)\oplus\tilde H_{k-1}(B) $$
は完全で、段 1 により両端は $0$ である。よって $\tilde H_k(M\#N)\cong\tilde H_{k-1}(S^{n-1})$ で、これは $k=n$ で $\mathbb{Z}$、ほかで $0$ である。したがって $M\#N$ はホモロジー球面である。
基本群は、$A\cap B$ が単連結($n\ge3$)なので、Van Kampen の定理と段 1 により $\pi_1(M\#N)\cong\pi_1(A)*\pi_1(B)\cong\pi_1(M)*\pi_1(N)$ である。$\square$

Poincaré ホモロジー球面 $P$ は滑らかな多様体なので(thm-hs-poincare の 1)、連結和を繰り返せる。$P_0:=S^3$、$P_k:=P_{k-1}\#P$($k\ge1$)とおく。

ホモトピー同値でないホモロジー 3 球面の無限列

$P_0,P_1,P_2,\dots$ はすべてホモロジー $3$ 球面で、どの 2 つも互いにホモトピー同値でない。

ホモロジー 3 球面の無限列

prop-hs-sum と帰納法により、$P_k$ はホモロジー $3$ 球面で、$\pi_1(P_k)$ は $I^*$ の $k$ 個の自由積 $G_k:=I^**\cdots*I^*$ と同型である($G_0$ は自明群)。
有限群 $H$ について $h(G):=\lvert\operatorname{Hom}(G,H)\rvert$ とおく。自由積の普遍性により $\operatorname{Hom}(G*G',H)\cong\operatorname{Hom}(G,H)\times\operatorname{Hom}(G',H)$ なので、$h(G_k)=h(I^*)^k$ である。$H=A_5$ とすると、$I^*$ は有限なので $h(I^*)$ は有限で、自明な準同型と全射 $I^*\xrightarrow{\mathrm{Ad}}I\cong A_5$ があるので $h(I^*)\ge2$ である。よって $h(G_k)=h(I^*)^k$ は $k$ ごとに異なる。
$P_k$ と $P_l$ がホモトピー同値なら $G_k\cong G_l$ で、$h(G_k)=h(G_l)$ となるので $k=l$ である。$\square$

懸垂と二重懸垂

空間 $X$ の懸垂 $\Sigma X$ は、$X\times[-1,1]$ の上端 $X\times\{1\}$ と下端 $X\times\{-1\}$ をそれぞれ 1 点につぶした空間であり、$\Sigma^2X:=\Sigma(\Sigma X)$ を二重懸垂という。$\Sigma S^n$ は $S^{n+1}$ と同相である。
ホモロジー $n$ 球面 $H$ の懸垂 $\Sigma H$ は、懸垂点でも局所ホモロジーが $\mathbb{R}^{n+1}$ の点と同じである。それでも $H$ が単連結でなければ $\Sigma H$ は多様体でない。懸垂点の小さな近傍から懸垂点を除いたものは $H\times(0,\varepsilon)$ で、単連結でないからである(三角形分割可能な多様体 の命題「単連結でない多様体の懸垂は多様体でない」)。とくに $\Sigma P$ は多様体でない。ところが、もう一度懸垂すると多様体に戻る。

二重懸垂定理

任意のホモロジー $3$ 球面 $H$ について、二重懸垂 $\Sigma^2H$ は $S^5$ と同相である。

二重懸垂定理の読み方

定理の結論は同相であり、$\Sigma^2H$ に自然に入る三角形分割が $S^5$ の組合せ的な(PL の)三角形分割になるという主張ではない。$H$ が単連結でないとき、$\Sigma H$ は多様体でないが、もう一度懸垂すると位相多様体 $S^5$ に戻る。仮定の「ホモロジー $3$ 球面」は、基本群が自明でなくてもよい点が要である。

これは Edwards と Cannon による二重懸垂定理で(Man16 Example 2.2、p. 4)、任意のホモロジー $3$ 球面についてのこの形は Cannon による(Rud01 Theorem 21.5 の証明、p. 85)。この記事では証明しない。高次元の PL ホモロジー球面についても同様の主張が成り立つ(三角形分割可能な多様体 の系「5 次元球面の組合せ的でない三角形分割」の証明が引く形)。
$\Sigma^2H$ から外側の懸垂の 2 つの懸垂点を除いた開集合は $\Sigma H\times(-1,1)$ と同相なので、定理により $\Sigma H\times\mathbb{R}$ は $S^5$ の開集合と同相で、$5$ 次元の多様体である。$H$ が単連結でなければ $\Sigma H$ 自身は多様体でないので、多様体でない空間と $\mathbb{R}$ の積が多様体になりうることがわかる。
$P$ を三角形分割した単体複体 $K$ から作る $\Sigma^2K$ は $S^5$ の三角形分割で、懸垂点のリンクが $\Sigma K$(多様体でない)になるので組合せ的でない(三角形分割可能な多様体 の系「5 次元球面の組合せ的でない三角形分割」、Man16 Example 2.2、p. 4)。これは、三角形分割可能であることと PL 構造をもつことが違うという 多様体の構造の階層 の段差の典型例である。

例

ホモロジー球面の例
  1. 球面 $S^n$ 自身。単連結なホモロジー球面は、$n\ge2$ ではホモトピー球面である。
  2. Poincaré ホモロジー球面 $P=S^3/I^*$ と、その連結和 $P_k$(cor-hs-infinite)。
  3. 結び目に沿った手術:$S^3$ の結び目に沿った枠 $+1$ の手術で得られる $3$ 次元多様体はホモロジー $3$ 球面である(FNOP25 Lemma 9.6 の証明、p. 74)。左手系の三葉結び目に沿った枠 $-1$ の手術は $P$ を与える(KSch79 p. 121)。
  4. Brieskorn 球面:$\Sigma(2,3,11)$ など、特異点のリンクとして得られるホモロジー $3$ 球面(Man16 p. 8)。特異点 $z_1^2+z_2^3+z_3^5=0$ のリンク $\Sigma(2,3,5)$ は $P$ である(KSch79 p. 116)。
  5. plumbing の境界:高次元で plumbing の境界がホモロジー球面になる例は Kervaire多様体 の命題「plumbing の境界」にある。$E_8$ 型の木に沿った $4n$ 次元の plumbing の交叉行列は $E_8$ 形式の行列で、符号数は $8$ である(Kos93 Ch. VI §12、p. 122)。$4$ 次元の場合の境界は、向きを除いて $P$ である(KSch79 pp. 114–115)。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
単連結Poincaré ホモロジー球面 $P$ホモロジー球面はホモトピー球面である
整数係数($\mathbb{Q}$ 係数に弱める)$\mathbb{R}P^3$$H_1=0$ である
次元 $3$$S^2\times S^2$$H_1=0$ の連結な閉多様体はホモロジー球面である
閉(コンパクトで境界なし)$\mathbb{R}^3$$H_1=0$ の連結な $3$ 次元多様体はホモロジー球面である
二重懸垂(一重にする)$\Sigma P$ホモロジー球面の懸垂は多様体である
反例の確認

1 行目:$P$ はホモロジー球面だが $\pi_1(P)\cong I^*\ne1$ なので $S^3$ とホモトピー同値でない(thm-hs-poincare)。破れるのは「単連結」で、単連結なら Kervaire–Milnorの群 の補題「ホモトピー球面の判定」が使える。
2 行目:$\mathbb{R}P^3$ の整数係数ホモロジーは $\mathbb{Z},\mathbb{Z}/2,0,\mathbb{Z}$ で(Hat02 Example 2.42、p. 144)、$\mathbb{Q}$ 係数では $\mathbb{Q},0,0,\mathbb{Q}$ となるので有理ホモロジー球面である。しかし $H_1=\mathbb{Z}/2\ne0$ で、整数ホモロジー球面でない。一般に レンズ空間 $L(p,q)$ は $H_1=\mathbb{Z}/p$ の有理ホモロジー球面である。
3 行目:$S^2\times S^2$ は $0$ 胞体 $1$ 個、$2$ 胞体 $2$ 個、$4$ 胞体 $1$ 個の CW 構造をもち、奇数次元の胞体がないので胞体鎖複体の境界写像はすべて $0$ である。よって $H_1=0$ だが $H_2\cong\mathbb{Z}^2$ で、ホモロジー球面でない。prop-hs-dim3 の証明で $H_2$ を $H^1$ に結びつけた Poincaré 双対は、$4$ 次元では $H_2$ を $H^2$ に結びつけるだけで、$H_1$ からは決まらない。
4 行目:$\mathbb{R}^3$ は可縮なので $H_1=0$ だが $H_3=0$ である。破れるのはコンパクト性で、prop-hs-dim3 の証明の $H_3(M)\cong\mathbb{Z}$(閉多様体の基本類)が使えない。
5 行目:$\Sigma P$ は懸垂点で多様体でない(三角形分割可能な多様体 の命題「単連結でない多様体の懸垂は多様体でない」)。二重懸垂にすると thm-hs-double-suspension により $S^5$ と同相になる。

補足

  • Rokhlin 不変量とホモロジー同境:ホモロジー $3$ 球面 $H$ は滑らかな spin $4$ 次元多様体 $W$ の境界になり、$\mu(H):=\sigma(W)/8\bmod2$ は $W$ によらない(Rokhlinの定理)。$\mu(S^3)=0$、$\mu(P)=1$ である(Kir89 Ch. XI §3、pp. 66–67)。$\mu$ は、ホモロジー $3$ 球面をホモロジー同境で割った群 $\Theta^3_{\mathbb{Z}}$ から $\mathbb{Z}/2$ への準同型を与え(Man16 §2.3、pp. 5–6)、その分裂しないことが高次元の三角形分割の問題を決める(三角形分割予想とManolescuの定理)。
  • 可縮な多様体の境界:どのホモロジー $3$ 球面も、コンパクトで可縮な位相的 $4$ 次元多様体の境界になる(Freedman。FNOP25 p. 74、Kir89 Ch. III §2、p. 31)。一方 $\mu(P)=1$ なので、$P$ は滑らかな可縮 $4$ 次元多様体の境界にならない(Rokhlinの定理)。この食い違いから E8多様体 が生まれる。
  • 高次元:$n\ge5$ では単連結な滑らかなホモロジー $n$ 球面は $S^n$ と同相なので(一般次元のPoincaré予想)、球面と同相でない滑らかなホモロジー球面は必ず単連結でない。

関連項目

参考文献

[2]
John M. Lee, Introduction to Smooth Manifolds, Graduate Texts in Mathematics 218, Springer, 2013, Corollary 21.6(コンパクト Lie 群の作用は固有、p. 544)、Theorem 21.13(離散群の滑らかで自由で固有な作用の商、p. 549)
[3]
Robion C. Kirby, Martin G. Scharlemann, Eight faces of the Poincaré homology 3-sphere, Geometric Topology (Proc. Georgia Topology Conf., Athens, Ga., 1977), J. C. Cantrell (ed.), Geometric Topology (Proc. Georgia Topology Conf., Athens, Ga., 1977), Academic Press, 1979, pp. 113–146。§I の 8 つの記述:plumbing(pp. 114–115)、絡み目の手術と基本群(p. 116)、特異点のリンク(p. 116)、S^3/I*(p. 117)、12 面体空間(p. 117)、Seifert 束(pp. 118–121)、三葉結び目の手術(p. 121)、分岐被覆(p. 122)
[4]
Antoni A. Kosinski, Differential Manifolds, Pure and Applied Mathematics 138, Academic Press, 1993, Ch. VI §12(E8 型の plumbing と交叉行列、p. 122);Ch. VII §7(Poincaré の Heegaard 図式による構成、pp. 140–141)
[5]
Yuli B. Rudyak, Piecewise Linear Structures on Topological Manifolds, arXiv:math/0105047, arXiv:math/0105047v2(2014-12-24。のち World Scientific 2016 から同名の本として刊行)。§21:ホモロジー球面の定義(p. 84)、Theorem 21.5 の証明(Cannon の二重懸垂定理、p. 85)
[6]
Ciprian Manolescu, Lectures on the triangulation conjecture, arXiv:1607.08163, Proceedings of the 22nd Gökova Geometry-Topology Conference(arXiv:1607.08163v3)。Example 2.2(二重懸垂定理と組合せ的でない三角形分割、p. 4)、§2.3(ホモロジー同境群と Rokhlin 準同型、pp. 5–6)、Brieskorn 球面 Σ(2,3,11)(p. 8)
[7]
Stefan Friedl, Matthias Nagel, Patrick Orson, Mark Powell, The foundations of four-manifold theory in the topological category, New York Journal of Mathematics Monographs, New York Journal of Mathematics Monographs 6(2025)。arXiv:1910.07372 の刊行版。頁は刊行版の頁:Freedman の定理(ホモロジー 3 球面は可縮な 4 次元多様体の境界)と Lemma 9.6 の証明(結び目の +1 手術はホモロジー球面、p. 74)
[8]
Robion C. Kirby, The Topology of 4-Manifolds, Lecture Notes in Mathematics 1374, Springer-Verlag, 1989, Ch. III §2(Freedman の定理、p. 31);Ch. XI §3(Rohlin 不変量、Poincaré ホモロジー球面の Rohlin 不変量は 1、pp. 66–67)

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