線形独立

同義語:一次独立

概要

線形独立 (linear independence) とは、ベクトルの族に零ベクトルを作る非自明な線形関係がないことである。これは「どの材料も他の材料から作れない」「線形結合の係数が一意に決まる」「係数空間からの写像に核がない」という同じ現象の異なる表現である。生成が作れる範囲を測るのに対し、独立性は作り方の冗長性を測る。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: ベクトル空間, 線形結合, 線形包

定義

線形独立

$K$ を体、$V$$K$ 上のベクトル空間とする。有限族 $v_1,\ldots,v_n\in V$線形独立であるとは、
$$ a_1v_1+\cdots+a_nv_n=0 $$
を満たす $a_1,\ldots,a_n\in K$
$$ a_1=\cdots=a_n=0 $$
だけであることをいう。線形独立でない族を 線形従属という。Axl15

任意の添字集合 $I$ で添字付けられた族 $(v_i)_{i\in I}$ は、すべての有限部分族が線形独立であるとき線形独立という。同値に、有限台の係数族 $(a_i)_{i\in I}$ について
$$ \sum_{i\in I}a_iv_i=0 \quad\Longrightarrow\quad a_i=0\quad(i\in I) $$
が成り立つことである。純粋なベクトル空間では無限和を使わず、線形関係は常に有限個のベクトルだけを含む。Axl15
空族は線形独立と約束する。一方、零ベクトルを含む族は、係数 $1$ を零ベクトルに掛け、他の係数を零にすれば非自明な線形関係が得られるので線形従属である。

直感

ベクトルを材料、係数をレシピと考える。与えられたベクトルから何を作れるかを問うのが線形包であり、同じ完成品を異なるレシピで作れてしまうかを問うのが線形独立である。材料の一つが他の材料の線形結合なら、その材料は新しい方向を加えておらず、レシピには重複がある。
線形独立性には三つの等価な読み方がある。

  1. 関係がない: 零を作る線形関係は、すべての係数が零の場合だけである。
  2. 余分な材料がない: 各 $v_j$ は、残りのベクトルの線形包に入らない。
  3. 座標が衝突しない: 同じベクトルを二通りの係数で表すことはできない。
    二つの表示
    $$ a_1v_1+\cdots+a_nv_n=b_1v_1+\cdots+b_nv_n $$
    があれば、差を取って
    $$ (a_1-b_1)v_1+\cdots+(a_n-b_n)v_n=0 $$
    という線形関係が生じる。「零の自明な表示しかない」という一点の条件が、すべての線形結合表示の一意性を支配する。
    生成が「必要なものを全部作れるか」という充足性を測るのに対し、独立性は「余分な材料がないか」という非冗長性を測る。両方を同時に満たす族が基底であり、そのとき各ベクトルは一意な座標を持つ。
    有限族 $v_1,\ldots,v_n$ から線形写像
    $$ T\colon K^n\to V, \qquad T(a_1,\ldots,a_n):=\sum_{i=1}^n a_iv_i $$
    を作ると、線形独立性は $\ker T=\{0\}$、すなわち $T$ の単射性そのものである。列ベクトルを並べた行列で考える場合は、独立性の判定が斉次連立方程式の解空間、つまりの計算へ翻訳される。
    係数体は定義の一部である。同じ対象の族でも、許す係数を増やすと新しい線形関係が現れることがある。「何に関して独立か」を省略してよいのは、基礎体が文脈から明白な場合だけである。DF04

標準基底

$K^n$ の標準ベクトル $e_1,\ldots,e_n$ は線形独立である。実際、
$$ a_1e_1+\cdots+a_ne_n=(a_1,\ldots,a_n)=0 $$
なら、各成分を比較して $a_1=\cdots=a_n=0$ となる。

多項式の単項式

多項式環 $K[x]$ をベクトル空間とみると、$1,x,x^2,\ldots$ は線形独立である。有限和
$$ a_0+a_1x+\cdots+a_nx^n=0 $$
が零多項式なら、多項式の係数の一意性からすべての $a_i$ が零である。

指数関数

相異なる実数 $\lambda_1,\ldots,\lambda_n$ に対する関数
$$ e^{\lambda_1x},\ldots,e^{\lambda_nx} $$
は実数値関数のベクトル空間で線形独立である。$x=0$ における $0$ 次から $n-1$ 次までの導関数を比較するとVandermonde行列が現れ、その行列式が非零になる。

係数体への依存

$\mathbb C$ を実ベクトル空間とみると $1,i$$\mathbb R$ 上線形独立である。しかし $\mathbb C$ 上では
$$ i\cdot1-1\cdot i=0 $$
という非自明な関係があるため線形従属である。

反例:重複と零ベクトル

族に同じベクトル $v$ が二度現れれば $1\cdot v+(-1)\cdot v=0$ という非自明な関係がある。また零ベクトルを含めば $1\cdot0=0$ が非自明な関係になる。集合として同じ元を重複なく扱う場合と、添字付きの族として扱う場合を区別する必要がある。

性質

線形独立性の同値条件

有限族 $v_1,\ldots,v_n$ について、次は同値である。

  1. $v_1,\ldots,v_n$ は線形独立である。
  2. $j$ について $v_j\notin\operatorname{span}\{v_i\mid i\ne j\}$
  3. $\operatorname{span}\{v_1,\ldots,v_n\}$ の各元は、この族の線形結合として一意に表される。
  4. 写像 $T\colon K^n\to V$, $T(a_1,\ldots,a_n)=\sum a_iv_i$ は単射である。
    Axl15
線形独立性の同値条件の証明

(1)から(2)を示す。もし $v_j=\sum_{i\ne j}a_iv_i$ なら
$$ 1\cdot v_j-\sum_{i\ne j}a_iv_i=0 $$
は非自明な関係となる。逆に非自明な関係 $\sum a_iv_i=0$ があり $a_j\ne0$ なら、体の非零元は可逆なので
$$ v_j=-a_j^{-1}\sum_{i\ne j}a_iv_i $$
となり(2)に反する。よって(1)と(2)は同値である。
(1)なら二つの表示の差に独立性を適用して係数が一致し、(3)を得る。逆に(3)が成り立てば零ベクトルの表示は全係数零の表示と一致するしかないので(1)を得る。
最後に $\ker T$
$$ \left\{(a_i)\in K^n\mid\sum a_iv_i=0\right\} $$
である。従って(1)は $\ker T=\{0\}$、すなわち(4)と同値である。

部分族への遺伝

線形独立な族の任意の部分族は線形独立である。Axl15

部分族への遺伝の証明

部分族に非自明な有限線形関係があれば、元の族の残りの係数をすべて零とすることで、元の族にも非自明な有限線形関係が得られる。これは元の族の独立性に反する。

一ベクトルの追加

線形独立な部分集合 $S\subset V$$v\in V$ について、
$$ S\cup\{v\}\text{ が線形独立} \quad\Longleftrightarrow\quad v\notin\operatorname{span}(S) $$
が成り立つ。
Axl15

一ベクトルの追加の証明

$v\in\operatorname{span}(S)$ なら、その表示を左辺へ移して $v$ の係数が $1$ の非自明な関係を得る。逆に $v\notin\operatorname{span}(S)$ とし、
$$ av+\sum_{s\in F}a_ss=0 $$
という有限線形関係を取る。もし $a\ne0$ なら $v=-a^{-1}\sum_{s\in F}a_ss\in\operatorname{span}(S)$ となり矛盾する。よって $a=0$ であり、残りの係数も $S$ の独立性からすべて零である。

単射線形写像による保存

単射線形写像 $T\colon V\to W$ は線形独立な族を線形独立な族へ送る。Axl15

単射線形写像による保存の証明

$(v_i)$ を線形独立とし、有限関係 $\sum a_iT(v_i)=0$ を取る。線形性から $T(\sum a_iv_i)=0$ である。$T$ は単射なので $\sum a_iv_i=0$、元の族の独立性からすべての $a_i=0$ となる。

分野ごとの使われ方

  • 線形代数: 基底・次元・階数の基礎になる。行列の列の独立性は核、固有ベクトルの独立性は対角化へつながる。
  • 代数学: 体の拡大では $1,\alpha,\alpha^2,\ldots$ の線形関係が最小多項式(線形代数)を与える。加群でも独立性は定義できるが、係数環に零因子があると非零係数の逆元を使う上の同値条件はそのまま成立しない。DF04
  • 解析学: 関数族の独立性は微分方程式の解空間、Fourier解析、特殊関数で現れる。ただし代数的線形独立性は有限和だけを見るため、無限級数による関係や閉包とは区別する。
  • 幾何学: 接ベクトルの独立性は局所座標や部分多様体の次元を表す。微分の階数は像に現れる独立な方向の数として読める。
  • 組合せ論: 線形マトロイドは、ベクトル族のどの部分族が独立かという情報を抽象化し、交換性を共通公理として取り出す。
    線形代数へ進むなら基底次元(ベクトル空間)を、体論へ進むなら最小多項式(線形代数)を、組合せ論へ進むなら線形マトロイドを読むとよい。

関連項目

参考文献

[1]
Sheldon Axler, Linear Algebra Done Right (3rd ed.), Graduate Texts in Mathematics 250, Springer, 2015, Chapter 2: Linear Independence and Bases; Chapter 3: Linear Maps
[2]
David S. Dummit; Richard M. Foote, Abstract Algebra (3rd ed.), John Wiley & Sons, 2004, Chapter 11 §1: Definitions and Elementary Theory of Modules