線形独立 (linear independence) とは、ベクトルの族に零ベクトルを作る非自明な線形関係がないことである。これは「どの材料も他の材料から作れない」「線形結合の係数が一意に決まる」「係数空間からの写像に核がない」という同じ現象の異なる表現である。生成が作れる範囲を測るのに対し、独立性は作り方の冗長性を測る。
$K$ を体、$V$ を $K$ 上のベクトル空間とする。有限族 $v_1,\ldots,v_n\in V$ が 線形独立であるとは、
$$
a_1v_1+\cdots+a_nv_n=0
$$
を満たす $a_1,\ldots,a_n\in K$ が
$$
a_1=\cdots=a_n=0
$$
だけであることをいう。線形独立でない族を 線形従属という。Axl15
任意の添字集合 $I$ で添字付けられた族 $(v_i)_{i\in I}$ は、すべての有限部分族が線形独立であるとき線形独立という。同値に、有限台の係数族 $(a_i)_{i\in I}$ について
$$
\sum_{i\in I}a_iv_i=0
\quad\Longrightarrow\quad
a_i=0\quad(i\in I)
$$
が成り立つことである。純粋なベクトル空間では無限和を使わず、線形関係は常に有限個のベクトルだけを含む。Axl15
空族は線形独立と約束する。一方、零ベクトルを含む族は、係数 $1$ を零ベクトルに掛け、他の係数を零にすれば非自明な線形関係が得られるので線形従属である。
ベクトルを材料、係数をレシピと考える。与えられたベクトルから何を作れるかを問うのが線形包であり、同じ完成品を異なるレシピで作れてしまうかを問うのが線形独立である。材料の一つが他の材料の線形結合なら、その材料は新しい方向を加えておらず、レシピには重複がある。
線形独立性には三つの等価な読み方がある。
$K^n$ の標準ベクトル $e_1,\ldots,e_n$ は線形独立である。実際、
$$
a_1e_1+\cdots+a_ne_n=(a_1,\ldots,a_n)=0
$$
なら、各成分を比較して $a_1=\cdots=a_n=0$ となる。
多項式環 $K[x]$ をベクトル空間とみると、$1,x,x^2,\ldots$ は線形独立である。有限和
$$
a_0+a_1x+\cdots+a_nx^n=0
$$
が零多項式なら、多項式の係数の一意性からすべての $a_i$ が零である。
相異なる実数 $\lambda_1,\ldots,\lambda_n$ に対する関数
$$
e^{\lambda_1x},\ldots,e^{\lambda_nx}
$$
は実数値関数のベクトル空間で線形独立である。$x=0$ における $0$ 次から $n-1$ 次までの導関数を比較するとVandermonde行列が現れ、その行列式が非零になる。
$\mathbb C$ を実ベクトル空間とみると $1,i$ は $\mathbb R$ 上線形独立である。しかし $\mathbb C$ 上では
$$
i\cdot1-1\cdot i=0
$$
という非自明な関係があるため線形従属である。
族に同じベクトル $v$ が二度現れれば $1\cdot v+(-1)\cdot v=0$ という非自明な関係がある。また零ベクトルを含めば $1\cdot0=0$ が非自明な関係になる。集合として同じ元を重複なく扱う場合と、添字付きの族として扱う場合を区別する必要がある。
有限族 $v_1,\ldots,v_n$ について、次は同値である。
(1)から(2)を示す。もし $v_j=\sum_{i\ne j}a_iv_i$ なら
$$
1\cdot v_j-\sum_{i\ne j}a_iv_i=0
$$
は非自明な関係となる。逆に非自明な関係 $\sum a_iv_i=0$ があり $a_j\ne0$ なら、体の非零元は可逆なので
$$
v_j=-a_j^{-1}\sum_{i\ne j}a_iv_i
$$
となり(2)に反する。よって(1)と(2)は同値である。
(1)なら二つの表示の差に独立性を適用して係数が一致し、(3)を得る。逆に(3)が成り立てば零ベクトルの表示は全係数零の表示と一致するしかないので(1)を得る。
最後に $\ker T$ は
$$
\left\{(a_i)\in K^n\mid\sum a_iv_i=0\right\}
$$
である。従って(1)は $\ker T=\{0\}$、すなわち(4)と同値である。
線形独立な族の任意の部分族は線形独立である。Axl15
部分族に非自明な有限線形関係があれば、元の族の残りの係数をすべて零とすることで、元の族にも非自明な有限線形関係が得られる。これは元の族の独立性に反する。
線形独立な部分集合 $S\subset V$ と $v\in V$ について、
$$
S\cup\{v\}\text{ が線形独立}
\quad\Longleftrightarrow\quad
v\notin\operatorname{span}(S)
$$
が成り立つ。
Axl15
$v\in\operatorname{span}(S)$ なら、その表示を左辺へ移して $v$ の係数が $1$ の非自明な関係を得る。逆に $v\notin\operatorname{span}(S)$ とし、
$$
av+\sum_{s\in F}a_ss=0
$$
という有限線形関係を取る。もし $a\ne0$ なら $v=-a^{-1}\sum_{s\in F}a_ss\in\operatorname{span}(S)$ となり矛盾する。よって $a=0$ であり、残りの係数も $S$ の独立性からすべて零である。
単射線形写像 $T\colon V\to W$ は線形独立な族を線形独立な族へ送る。Axl15
$(v_i)$ を線形独立とし、有限関係 $\sum a_iT(v_i)=0$ を取る。線形性から $T(\sum a_iv_i)=0$ である。$T$ は単射なので $\sum a_iv_i=0$、元の族の独立性からすべての $a_i=0$ となる。