整スキーム

同義語:integral scheme

概要

整スキーム(integral scheme)とは、空でないスキーム $X$ で、空でないすべての開集合 $U$ 上の切断の環 $\mathcal{O}_X(U)$ が整域であるものである。被約(冪零元をもたない)かつ既約(2 つの真の閉集合の和に書けない)であることと同値で、$\operatorname{Spec}A$ が整であることは $A$ が整域であることと同値である。整スキームはただ 1 つの生成点 $\eta$ をもち、その局所環 $\mathcal{O}_{X,\eta}$ は体(関数体)で、空でない開集合上の切断の環はすべてその部分環とみなせる。すべての局所環が整域でも整とは限らない($\operatorname{Spec}k\sqcup\operatorname{Spec}k$)。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: スキーム, 整域, 既約成分, 被約スキーム

整域 $A$ の元は、$ab=0$ なら $a=0$ か $b=0$ という性質をもつ。幾何学的には、$\operatorname{Spec}A$ の上の 2 つの関数の積が恒等的に $0$ なら、どちらか一方がすでに恒等的に $0$ である、ということである。$xy=0$ で定まる 2 本の座標軸の上では、$x$ と $y$ はそれぞれ一方の軸の上でだけ $0$ になり、どちらも恒等的に $0$ ではないのに積は $0$ になる。整スキーム(integral scheme)は、この現象が起こらないスキーム、すなわち空でないどの開集合の上でも関数の環が整域になるスキームである。整スキームであることは、「1 つのかたまりである」(既約)と「無限小の厚みをもたない」(被約)の 2 つを合わせた条件と同値である。整スキームには生成点というただ 1 つの「一般の点」があり、すべての関数はそこでの局所環という 1 つの体の中に入る。この体が有理関数の体であり、Weil因子や双有理写像など、代数幾何学の多くの概念は整スキームの上で定義される。

定義

整スキーム

スキーム $X$ が整(integral)であるとは、$X$ が空でなく、空でないすべての開集合 $U\subset X$ について $\mathcal{O}_X(U)$ が整域であることをいう。整なスキームを整スキームという。

空スキームは、上の条件のうち「空でない開集合」についての部分を空虚に満たすが、整スキームには含めない。これは、空集合を既約としないこと(既約成分 の記事の定義「既約な位相空間」)と合わせて、次の thm-integral-scheme-reduced-irreducible が例外なしに成り立つようにするためである(Vak25 5.2.4、Stacks Tag 01OK と同じ約束)。整域は零環でない($1\neq0$)ことに注意する。$X$ が空でなくても $U=\emptyset$ では $\mathcal{O}_X(\emptyset)$ は零環なので、条件は空でない開集合だけに課す。
以下で繰り返し使う事実として、スキーム $X$ の空でない開集合 $U$ について $\mathcal{O}_X(U)\neq0$ である。実際、点 $x\in U$ をとると、芽をとる環準同型 $\mathcal{O}_X(U)\to\mathcal{O}_{X,x}$ は $1$ を $1$ に送り、局所環 $\mathcal{O}_{X,x}$ では $1\neq0$ だからである。

整であることと被約かつ既約であること

スキーム $X$ について、次は同値である。

  1. $X$ は整である。
  2. $X$ は被約かつ既約である。
  3. $X$ は空でなく、空でないすべてのアフィン開集合 $U\cong\operatorname{Spec}A$ について $A$ は整域である。

1 ⇒ 2。整域は被約環であり、$\mathcal{O}_X(\emptyset)$ は零環で被約なので、$X$ は被約である。$X$ は空でない。$X$ が既約でないとすると、交わらない空でない開集合 $U_1,U_2$ がある(既約成分 の記事の補題「既約性の言い換え」の 1)。層の条件により $\mathcal{O}_X(U_1\cup U_2)\cong\mathcal{O}_X(U_1)\times\mathcal{O}_X(U_2)$ であり(交わらない開集合の上の切断は自由に貼り合わさる)、$\mathcal{O}_X(U_i)\neq0$ なので、$(1,0)$ と $(0,1)$ は $0$ でないのに積が $0$ である。これは $\mathcal{O}_X(U_1\cup U_2)$ が整域であることに反する。よって $X$ は既約である。
2 ⇒ 1。$X$ は既約なので空でない。空でない開集合 $U$ をとり、$f,g\in\mathcal{O}_X(U)$、$fg=0$ とする。$Z_f:=\{x\in U\mid f(x)=0\}$ は $U$ の閉集合である($U$ は $U$ に含まれるアフィン開集合 $V\cong\operatorname{Spec}B$ で覆われ、$f|_V$ に対応する $b\in B$ について $Z_f\cap V=V(b)$ は $V$ の閉集合なので、$U\setminus Z_f$ は開集合 $V\setminus V(b)$ たちの和として開集合である)。各点 $x$ で $f(x)g(x)=(fg)(x)=0$ は体 $\kappa(x)$ の中の等式なので、$f(x)=0$ か $g(x)=0$ であり、$U=Z_f\cup Z_g$ である。既約な空間の空でない開集合 $U$ は既約である(既約成分 の記事の命題「開集合と連続像」の 1)から、たとえば $U=Z_f$、すなわち $f$ は $U$ の全点で値 $0$ をとる。$X$ は被約なので $f=0$ である(被約スキーム の記事の命題「値による切断の決定」)。また $\mathcal{O}_X(U)\neq0$ である。よって $\mathcal{O}_X(U)$ は整域である。
1 ⇒ 3 は定義から直ちに従う($\mathcal{O}_X(U)\cong A$)。
3 ⇒ 2。整域は被約環なので、被約スキーム の記事の定理「被約性の同値条件」の 3 により $X$ は被約である。$X$ が既約でないとすると、交わらない空でない開集合 $U_1,U_2$ があり、それぞれに含まれる空でないアフィン開集合 $V_i\cong\operatorname{Spec}A_i$ がとれる(アフィン開集合は開基をなす)。交わらない 2 つのアフィン開集合の和 $V_1\cup V_2$ はアフィンで $\operatorname{Spec}(A_1\times A_2)$ に同型である(Vak25 Exercise 3.6.A、Stacks Tag 01I5)。3 により $A_1\times A_2$ は整域であるが、$A_i\neq0$ なので $(1,0)(0,1)=0$ となり矛盾する。よって $X$ は既約である。$\square$

この定理は Vak25 Exercise 5.2.G、Stacks Tag 01ON にあり、スキーム の記事の定義「スキームの基本的な形容詞」でも述べられている。2 ⇒ 1 の証明の要点は、関数 $f$ の零点の集合 $Z_f$ が閉集合で、既約性により「積が $0$ なら一方が全体で消える」に帰着し、被約性により「全体で消えれば $0$」になることである。

アフィンスキームが整である条件

可換環 $A$ について、$\operatorname{Spec}A$ が整であることと、$A$ が整域であることは同値である。

$\operatorname{Spec}A$ が整なら、$\operatorname{Spec}A$ は空でない開集合で $\mathcal{O}(\operatorname{Spec}A)\cong A$ なので $A$ は整域である。逆に $A$ が整域とする。$A$ は被約環なので $\operatorname{Spec}A$ は被約であり(被約スキーム の記事の定理「被約性の同値条件」)、$\sqrt{0}=(0)$ は素イデアルなので $\operatorname{Spec}A$ は既約である(Zariski位相 の記事の命題「既約閉集合と素イデアルの対応」の 3)。thm-integral-scheme-reduced-irreducible により $\operatorname{Spec}A$ は整である。$\square$

この系は Vak25 Exercise 5.2.H にある。

直感

被約性は「無限小の厚みがない」こと、既約性は「1 つのかたまりである」ことであり、整性はその両方である。2 本の座標軸は厚みはないが 2 つのかたまりからなり、$x$ 軸の上でだけ消える関数 $y$ と $y$ 軸の上でだけ消える関数 $x$ の積が $0$ になる。$\operatorname{Spec}k[x]/(x^2)$ は 1 点だが厚みがあり、$x$ 自身が $x\cdot x=0$ を満たす。どちらの場合も切断の環は整域でない。
整スキームでは、生成点 $\eta$(閉包が $X$ 全体になるただ 1 つの点)が空でないどの開集合にも含まれる。関数を $\eta$ の近くの芽に取り替えても情報が失われず(prop-integral-scheme-generic-point)、すべての開集合の上の関数が 1 つの体 $\mathcal{O}_{X,\eta}$ の部分環として並ぶ。古典的には、既約な代数多様体の上の関数を 1 つの有理関数体の中で考えることに当たる。

例と反例

整域のスペクトル

cor-integral-scheme-affine により、整域 $A$ のスペクトルは整スキームである。$\operatorname{Spec}\mathbb{Z}$、離散付値環 $\mathbb{Z}_{(p)}$ のスペクトル(生成点 $(0)$ と閉点 $(p)$ の 2 点)、体 $k$ 上のアフィン空間 $\mathbb{A}^n_k=\operatorname{Spec}k[x_1,\dots,x_n]$、$\operatorname{Spec}\mathbb{Z}[x]$ はいずれも整である。どの場合も生成点は零イデアル $(0)$ であり、その局所環は $A$ の商体($\mathbb{Q}$、$\mathbb{Q}$、$k(x_1,\dots,x_n)$、$\mathbb{Q}(x)$)である。

射影空間のようにアフィンでないスキームが既約であることは、次の補題で確かめられる。

交わる既約な開集合による被覆

位相空間 $X$ が、空でない添字集合 $I$ で添字づけられた空でない既約な開集合 $U_i$($i\in I$)で覆われ、どの 2 つも交わる($U_i\cap U_j\neq\emptyset$)とする。このとき $X$ は既約である。

$X$ は空でない。閉集合 $F_1,F_2$ で $X=F_1\cup F_2$ とする。各 $U_i=(U_i\cap F_1)\cup(U_i\cap F_2)$ は既約なので、$U_i\subset F_1$ または $U_i\subset F_2$ である。$i_0\in I$ をとり、$U_{i_0}\subset F_1$ としてよい。任意の $j\in I$ について、$U_{i_0}\cap U_j$ は既約な $U_j$ の空でない開集合なので $U_j$ の中で稠密であり(既約成分 の記事の命題「開集合と連続像」の 1)、$U_j$ の閉集合 $U_j\cap F_1$ に含まれるから $U_j\subset F_1$ である。よって $X=\bigcup_jU_j\subset F_1$ である。$\square$

この補題は、スキームのアフィン開被覆の場合として Stacks Tag 01OM の (2) ⇒ (1) にある。

射影空間

体 $k$ 上の射影空間 $\mathbb{P}^n_k$ は、$\mathbb{A}^n_k$ に同型な $n+1$ 個のアフィン開集合 $U_i=\operatorname{Spec}k[x_0/x_i,\dots,x_n/x_i]$ で覆われ、$U_i\cap U_j=D(x_j/x_i)\subset U_i$ は空でない($x_j/x_i$ は整域 $k[x_0/x_i,\dots,x_n/x_i]$ の $0$ でない元なので、零イデアル $(0)\in D(x_j/x_i)$)(スキーム の記事の例「射影空間の貼り合わせ」)。各 $U_i$ は整域のスペクトルなので既約であり、lem-integral-scheme-irreducible-cover により $\mathbb{P}^n_k$ は既約である。被約でもある(被約スキーム の記事の例「被約なスキームの例」)ので、thm-integral-scheme-reduced-irreducible により $\mathbb{P}^n_k$ は整である。

多様体

体 $k$ 上の整で分離的(分離射)な有限型スキームを $k$ 上の多様体(variety)と呼ぶ流儀がある(Stacks Tag 020D)。この流儀では多様体はつねに整スキームであり、その上で有理関数・有理写像・因子などを扱う。古典的な代数多様体(代数閉体上の既約な代数的集合)も、この意味の多様体に対応する(スキーム の記事の定義「スキームの基本的な形容詞」の最後の段落)。

条件を外した反例

外す条件反例成り立たなくなること
既約$\operatorname{Spec}k[x,y]/(xy)$整である
被約$\operatorname{Spec}k[x]/(x^2)$整である
既約(局所環はすべて体)$\operatorname{Spec}k\sqcup\operatorname{Spec}k$局所環がすべて整域なら整である
反例:被約だが既約でない、既約だが被約でない

$A=k[x,y]/(xy)$ は被約環である(被約スキーム の記事の例「2 本の座標軸」)が、$\bar x\bar y=0$、$\bar x\neq0$、$\bar y\neq0$ なので整域でない。したがって $\operatorname{Spec}A$ は被約だが整でなく、thm-integral-scheme-reduced-irreducible により既約でもない(実際、既約成分は 2 本の軸である)。含意「被約なら整」を破る。
$B=k[x]/(x^2)$ の素イデアルは $(\bar x)$ だけなので $\operatorname{Spec}B$ は 1 点で既約であるが、$\bar x\neq0$、$\bar x^2=0$ なので $B$ は被約でも整域でもない。含意「既約なら整」を破る。
この 2 つの例により、thm-integral-scheme-reduced-irreducible の「被約」と「既約」はどちらも省けない。

反例:局所環がすべて体なのに整でない

$k$ を体、$X=\operatorname{Spec}(k\times k)$ とする。$k\times k$ の素イデアルは $\mathfrak{p}_1=0\times k$ と $\mathfrak{p}_2=k\times0$ の 2 つであり(直積環 の記事の命題「有限個の環の直積の素イデアル」)、$X$ は 2 点からなる離散空間で、$\operatorname{Spec}k\sqcup\operatorname{Spec}k$ に同型である。各点の局所環は $(k\times k)_{\mathfrak{p}_i}\cong k$(被約環 の記事の節「被約性を保つ構成」の最後の段落)で、体、とくに整域である。しかし $\mathcal{O}_X(X)=k\times k$ は $(1,0)(0,1)=0$ をもち整域でないので、$X$ は整でない(既約でない)。
この例は、満たす性質「すべての局所環が整域」、満たさない性質「整」をもち、含意「すべての局所環が整域ならば整」を破る。被約性と違って整性は茎だけでは判定できない(Vak25 5.2.5)。Noether スキーム $X$ については、整であることは「空でなく、連結で、すべての局所環が整域」であることと同値になる(Vak25 Exercise 5.3.C。本記事では証明しない)が、Noether 性を外すと、連結ですべての局所環が整域でも整でないアフィンスキームがある(Stacks Tag 01ON の直後の注意)。

性質

開部分スキームと局所環

開部分スキームと局所環

$X$ を整スキームとする。

  1. $X$ の空でない開部分スキームは整である。
  2. すべての点 $x\in X$ で、局所環 $\mathcal{O}_{X,x}$ は整域である。
  1. $U\subset X$ を空でない開集合とする。$U$ の空でない開集合は $X$ の空でない開集合でもあり、$\mathcal{O}_U=\mathcal{O}_X|_U$ なので、その上の切断の環は整域である。
  2. $x$ を含むアフィン開集合 $U\cong\operatorname{Spec}A$ をとり、$x$ に対応する素イデアルを $\mathfrak{p}$ とする。$A=\mathcal{O}_X(U)$ は整域であり、$\mathcal{O}_{X,x}\cong A_{\mathfrak{p}}$(スキーム の記事の注意「アフィンスキームから使う事実」の 2)は整域 $A$ の商体の部分環 $\{a/s\mid a\in A,\ s\notin\mathfrak{p}\}$ に同型なので整域である(整域では標準写像 $A_{\mathfrak{p}}\to\operatorname{Frac}A$ が単射)。$\square$

2 の逆は成り立たない(ex-integral-scheme-two-points)。

生成点と関数の埋め込み

整スキーム $X$ は既約なので、閉集合 $X$ 自身の生成点、すなわち $\overline{\{\eta\}}=X$ となる点 $\eta$ がただ 1 つある(スキーム の記事の命題「既約閉集合は生成点をただ 1 つもつ」)。これを $X$ の生成点(generic point)という。

生成点の局所環と切断の埋め込み

$X$ を整スキーム、$\eta$ をその生成点とする。

  1. $\eta$ は空でないすべての開集合 $U$ に属する。
  2. 空でないアフィン開集合 $U\cong\operatorname{Spec}A$ の中で、$\eta$ は零イデアル $(0)$ に対応し、$\mathcal{O}_{X,\eta}\cong\operatorname{Frac}A$($A$ の商体)である。とくに $\mathcal{O}_{X,\eta}$ は体である。
  3. 空でない開集合 $U$ について、切断にその $\eta$ での芽を対応させる写像 $\mathcal{O}_X(U)\to\mathcal{O}_{X,\eta}$ は単射である。したがって空でない開集合 $V\subset U$ への制限写像 $\mathcal{O}_X(U)\to\mathcal{O}_X(V)$ も単射である。
  1. $\eta\notin U$ なら $\eta$ は閉集合 $X\setminus U$ に属し、$X=\overline{\{\eta\}}\subset X\setminus U$ となって $U=\emptyset$ に反する。
  2. 1 により $\eta\in U$ であり、$U$ での $\{\eta\}$ の閉包は $\overline{\{\eta\}}\cap U=U$ である。$A=\mathcal{O}_X(U)$ は整域なので、$\operatorname{Spec}A$ の中で $\overline{\{(0)\}}=V(0)=\operatorname{Spec}A$ であり、$\operatorname{Spec}A$ の既約閉集合の生成点はただ 1 つ(Zariski位相 の記事の命題「既約閉集合と素イデアルの対応」の 2)なので、$\eta$ は $(0)$ に対応する。よって $\mathcal{O}_{X,\eta}\cong A_{(0)}$ であり、これは $A\setminus\{0\}$ による局所化、すなわち商体 $\operatorname{Frac}A$ である(局所化 の記事の例「整域の商体」)。
  3. $s\in\mathcal{O}_X(U)$ の芽が $s_\eta=0$ とする。$U$ を空でないアフィン開集合 $W\cong\operatorname{Spec}B$($W\subset U$)で覆う(空のものは除いてよい)。2 により芽をとる写像 $\mathcal{O}_X(W)=B\to\mathcal{O}_{X,\eta}\cong\operatorname{Frac}B$ は整域からその商体への標準写像なので単射であり、$s|_W$ の芽は $s_\eta=0$ なので $s|_W=0$ である。層の局所性により $s=0$ である。後半について、$V\subset U$ が空でないとき、$\mathcal{O}_X(U)\to\mathcal{O}_{X,\eta}$ は制限 $\mathcal{O}_X(U)\to\mathcal{O}_X(V)$ と $\mathcal{O}_X(V)\to\mathcal{O}_{X,\eta}$ の合成である($\eta\in V$)。合成が単射なので、最初の写像も単射である。$\square$

この命題は Vak25 Exercise 5.2.I・5.2.J にある。体 $\mathcal{O}_{X,\eta}$ を $X$ の関数体(function field)といい、$K(X)$ と書く。その元を $X$ 上の有理関数という。2 により、$K(X)$ は空でない任意のアフィン開集合 $\operatorname{Spec}A$ を 1 つ選んで $\operatorname{Frac}A$ として計算できる。たとえば $K(\mathbb{A}^n_k)=K(\mathbb{P}^n_k)=k(x_1,\dots,x_n)$($\mathbb{P}^n_k$ の $U_0\cong\mathbb{A}^n_k$ で計算する)である。
3 により、整スキームの空でない開集合の上の関数はすべて 1 つの体 $K(X)$ の部分環とみなせ、制限写像は包含写像になる。次の命題は、各開集合の上の関数がちょうど「その開集合の各点の局所環に入る有理関数」であることを示す。

切断は局所環の共通部分

$X$ を整スキーム、$\eta$ を生成点、$K=K(X)=\mathcal{O}_{X,\eta}$ とする。各点 $x$ で、$x$ の開近傍上の切断の $x$ での芽を $\eta$ での芽に送る写像 $\mathcal{O}_{X,x}\to K$ は単射であり、これで $\mathcal{O}_{X,x}$ を $K$ の部分環とみなすと、空でない開集合 $U$ について
$$ \mathcal{O}_X(U)=\bigcap_{x\in U}\mathcal{O}_{X,x}\qquad(K\text{ の中で}) $$
が成り立つ。

要点:アフィン開集合 $\operatorname{Spec}A$ の上では $\mathcal{O}_{X,x}\to K$ は $A_{\mathfrak{p}}\to\operatorname{Frac}A$ であり単射である。右辺の元は各点の近くで切断から来ており、それらの局所的な切断は $K$ の中で同じ元なので、prop-integral-scheme-generic-point の 3 の単射性により重なりで一致し、貼り合わさる。

詳しい証明を開く

写像 $\mathcal{O}_{X,x}\to K$ は well-defined である:$x$ の開近傍 $V$ は $\eta$ を含み(prop-integral-scheme-generic-point の 1)、$x$ で同じ芽をもつ 2 つの切断はより小さい開近傍で一致するので、$\eta$ でも同じ芽をもつ。$x$ を含むアフィン開集合 $\operatorname{Spec}A$ の中で $x=\mathfrak{p}$ とすると、この写像は局所化の間の写像 $A_{\mathfrak{p}}\to A_{(0)}=\operatorname{Frac}A$ であり、整域 $A$ の局所化はどちらも $\operatorname{Frac}A$ の部分環なので単射である。

$\subset$:$s\in\mathcal{O}_X(U)$ の $K$ での像 $s_\eta$ は、各 $x\in U$ で $s_x$ の像に等しいので、$\mathcal{O}_{X,x}$ に属する。

$\supset$:$f\in K$ がすべての $x\in U$ で $\mathcal{O}_{X,x}$ に属するとする。各 $x$ について、$x$ の開近傍 $V_x\subset U$ と $s^{(x)}\in\mathcal{O}_X(V_x)$ で $s^{(x)}_\eta=f$ となるものがある。$V_x\cap V_y\neq\emptyset$ なら $s^{(x)}|_{V_x\cap V_y}$ と $s^{(y)}|_{V_x\cap V_y}$ はともに $\eta$ での芽が $f$ なので、prop-integral-scheme-generic-point の 3 により等しい($V_x\cap V_y=\emptyset$ なら条件はない)。層の貼り合わせにより $s\in\mathcal{O}_X(U)$ で $s|_{V_x}=s^{(x)}$ となるものがあり、$s_\eta=f$ である。$\square$

アフィンの場合 $X=\operatorname{Spec}A$、$U=X$ に当てると、整域 $A$ について $A=\bigcap_{\mathfrak{p}}A_{\mathfrak{p}}$($\operatorname{Frac}A$ の中で、$\mathfrak{p}$ はすべての素イデアル)という可換環論の等式が得られる。

整スキームの上で定義される概念

整スキームの関数体 $K(X)$ は、多くの構成の舞台になる。

  • Weil因子・Cartier因子:適当な条件のもとで、$0$ でない有理関数 $f\in K(X)^\times$ の零と極を数えて主因子を定める(Weil因子 の記事の定義「主因子と因子類群」)。
  • 双有理写像:体 $k$ 上の多様体の間の支配的な有理写像は、関数体の $k$ 上の準同型と 1 対 1 に対応する(双有理写像 の記事の定理「関数体と支配的有理写像」)。
  • ブローアップ:ブローアップ の記事の命題「整スキームのブローアップ」は、整スキームを $0$ でないイデアル層でブローアップするとふたたび整スキームになり、元のスキームへの双有理な射が得られることを述べている。
  • Chevalleyの定理:Chevalleyの定理 の記事の補題「アフィン整スキーム上の生成点近傍」は、整域の単射 $A\hookrightarrow B$($B$ は有限型 $A$ 代数)について、$\operatorname{Spec}B\to\operatorname{Spec}A$ の像が生成点の近傍 $D(a)$ を含むことを述べ、整スキームの生成点の近くで性質を調べる典型的な議論になっている。

注意

被約既約整
意味無限小の厚みがない1 つのかたまり両方
茎だけで判定できるかできるできないできない
空でない開部分スキームへの遺伝するするする
$\operatorname{Spec}A$ での条件$A$ が被約環$\sqrt{0}$ が素イデアル$A$ が整域
$\operatorname{Spec}k[x,y]/(xy)$被約既約でない整でない
$\operatorname{Spec}k[x]/(x^2)$被約でない既約整でない
表の各行の確認を開く

被約性が茎で判定できることは 被約スキーム の記事の定理「被約性の同値条件」の 2 による。既約性は位相空間の性質で、$\operatorname{Spec}(k\times k)$ の 2 点の局所環はどちらも $\operatorname{Spec}k$ のただ 1 つの点の局所環と同じ $k$ であるが、前者は既約でも整でもなく後者は整なので、局所環だけでは既約性も整性も判定できない(ex-integral-scheme-two-points)。開部分スキームへの遺伝は、被約性は定義から、既約性は 既約成分 の記事の命題「開集合と連続像」の 1、整性は prop-integral-scheme-open-local の 1 による。$\operatorname{Spec}A$ が既約であることと $\sqrt{0}$ が素イデアルであることの同値は Zariski位相 の記事の命題「既約閉集合と素イデアルの対応」の 3、被約・整の条件は 被約スキーム の記事の定理「被約性の同値条件」と cor-integral-scheme-affine による。最後の 2 行は ex-integral-scheme-two-failures で確かめた。

  • 整性は位相的な条件である既約性を含む。そのため、$\mathcal{O}_{X,x}$ がすべて整域であっても、空間が 2 つに分かれていれば整にならない(ex-integral-scheme-two-points)。これに対し被約性は各点の近くだけで決まる。
  • スキーム $X$ の既約成分 $Z$ に被約な閉部分スキームの構造(被約誘導構造)を入れると、$Z$ は整スキームになる(Stacks Tag 01J4 の直後の説明。$Z$ は既約で、被約な構造をもつので thm-integral-scheme-reduced-irreducible による)。一般のスキームは、整スキームである既約成分たちを「厚み」を込めて貼り合わせたものと見ることができる。
  • 整スキームの定義の「空でない」は省けない約束である(空スキームは既約でないので、省くと thm-integral-scheme-reduced-irreducible が空スキームで成り立たなくなる)。

関連項目

参考文献

[1]
Ravi Vakil, The Rising Sea: Foundations of Algebraic Geometry, Princeton University Press, 2025, Exercise 3.6.A(直積環のスペクトルは非交和)、5.2.4 Definition・Exercise 5.2.G・5.2.H・5.2.I・5.2.J(整スキーム、被約かつ既約との同値、アフィンの場合、関数体、制限写像の単射性)、5.2.5 Caution(整性は茎で判定できない)、Exercise 5.3.C(Noether スキームの整性の判定)

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