Milnor不変量(Milnor invariant)とは、向きと番号の付いた絡み目について、補空間の基本群の下降中心列による商から取り出される不変量の族 $\bar\mu(I)$ である。メリディアンで生成される自由群の中でロンジチュードを表す語を Magnus 展開し、その係数を、より短い添字の係数の最大公約数で割った剰余として定める。長さ 2 の不変量は成分どうしの絡み数に一致し、長さ 3 以上のものは絡み数では見えない絡み方を測る。Borromean 環ではどの 2 成分の絡み数も 0 だが、長さ 3 の不変量は ±1 である。一方、結び目では冪零商が整数の加法群になるので、Milnor 不変量はすべて 0 である。数論的位相幾何では、長さ 2 の不変量が Legendre 記号に、長さ 3 の不変量が Rédei の三重記号に対応する。
Milnor 不変量(Milnor invariant、$\bar\mu$ 不変量)は、向きと番号の付いた絡み目の補空間の基本群から取り出される整数(またはその剰余類)の族で、絡み数を高次に一般化したものである。成分の番号の列 $I=(i_1\cdots i_r\,j)$ ごとに $\bar\mu(I)$ が定まり、長さ $2$ の $\bar\mu(ij)$ は成分 $K_i$ と $K_j$ の絡み数に一致する。長さ $3$ 以上のものは、どの $2$ 成分の絡み数も $0$ なのにほどけない絡み目を見分ける。その代表が Borromean 環で、$\bar\mu(123)=\pm1$ となる。
絡み数が補空間の基本群の可換化 $H_1$ から読めるのに対し、Milnor 不変量は基本群の下降中心列による商(冪零商)から読む。ロンジチュードをメリディアンの語で書き、Magnus 展開で冪級数にした係数が不変量の材料になる。
この記事では、下降中心列と Magnus 展開を定義して基本的な性質を証明し、Milnor 不変量を定義する。そのうえで、長さ $2$ の不変量が絡み数に一致することと、Borromean 環の長さ $3$ の不変量が $\pm1$ であることを、基本群の表示から完全に証明する。冪零商の表示の定理と不変量の不変性(Milnor の定理)はこの記事では証明せず、所在を示して引用する。
群 $G$ の元 $a,b$ の交換子を $[a,b]:=aba^{-1}b^{-1}$ とし、部分群 $H,H'$ について $[H,H']$ で $\{[h,h']\mid h\in H,\ h'\in H'\}$ が生成する部分群を表す。
群 $G$ の下降中心列(lower central series)$G_1\supset G_2\supset\cdots$ を
$$
G_1:=G,\qquad G_{d+1}:=[G,G_d]\quad(d\ge1)
$$
で定める。各 $G_d$ は $G$ の正規部分群で、$G_2$ は交換子部分群である。商 $G/G_d$ を $G$ の第 $d$ 冪零商という。
群の準同型 $f\colon G\to H$ は $f(G_d)\subset H_d$ をみたす($d$ についての帰納法で、$f([a,b])=[f(a),f(b)]$ から従う)。
$x_1,\dots,x_n$ を基底とする自由群を $F$ とする。非可換な変数 $X_1,\dots,X_n$ の整数係数の形式的冪級数環を $\Lambda:=\mathbb{Z}\langle\!\langle X_1,\dots,X_n\rangle\!\rangle$ とし、次数が $d$ 以上の項だけからなる元全体を $O(d)$ と書く。$\Lambda$ の元 $1+u$($u\in O(1)$)は $\Lambda$ の単元で、逆元は $\sum_{k\ge0}(-u)^k$ である。
自由群の普遍性により、$x_i\mapsto1+X_i$ で定まる群の準同型
$$
E\colon F\to\Lambda^\times,\qquad E(x_i)=1+X_i,\quad E(x_i^{-1})=1-X_i+X_i^2-X_i^3+\cdots
$$
を Magnus 展開という。$E(w)$ の単項式 $X_{i_1}\cdots X_{i_r}$ の係数を $w$ の係数と呼ぶ。
$d\ge1$ について $U_d:=1+O(d)$ とおく。$U_d$ は $\Lambda^\times$ の部分群である($(1+u)(1+v)=1+u+v+uv$ と逆元の式による)。
要点は、$ab-ba=uv-vu$ により交換子が次数を足し合わせることと、低い次数の部分が積で足し算になることである。
1. $a=1+u$、$b=1+v$($u\in O(p)$、$v\in O(q)$)とする。$ab-ba=uv-vu\in O(p+q)$ なので、$[a,b]-1=(ab-ba)a^{-1}b^{-1}\in O(p+q)$ である。
2. $d$ についての帰納法。$E(x_i^{\pm1})\in U_1$ で $U_1$ は部分群なので $E(F_1)\subset U_1$ である。$E(F_d)\subset U_d$ と仮定する。$F_{d+1}$ は $[f,g]$($f\in F$、$g\in F_d$)で生成され、$E([f,g])=[E(f),E(g)]\in[U_1,U_d]\subset U_{d+1}$(1 による)である。$U_{d+1}$ は部分群なので $E(F_{d+1})\subset U_{d+1}$ である。
3. $1+u,1+v\in U_1$ の積 $1+u+v+uv$ の $1$ 次の部分は、$u$ と $v$ の $1$ 次の部分の和である。よって $w\mapsto(E(w)$ の $1$ 次の部分$)$ は $F$ から加法群への準同型で、$x_i$ を $X_i$ に写す。指数の和も同じ性質をもつ準同型なので、両者は一致する。
4. $1+u,1+v\in U_d$ なら $uv\in O(2d)$ で $2d>d$ なので、積の $d$ 次の部分は $u,v$ の $d$ 次の部分の和である。$\square$
2 から、$f\in F_d$ を掛けても $E$ の $d-1$ 次以下の係数は変わらない($E(wf)=E(w)E(f)$ で $E(f)\in U_d$)。すなわち、$d-1$ 次以下の係数は $w$ の $F/F_d$ での類だけで決まる。
$L=K_1\cup\cdots\cup K_n$ を $S^3$ の中の $n$ 成分の絡み目とし、各成分に向きと番号が付いているとする。$X:=S^3\setminus L$ の基本群 $G:=\pi_1(X,x_0)$ を絡み目群という。$L$ を $\mathbb{R}^3=S^3\setminus\{\infty\}$ に置いても基本群は変わらないので(Hat02 Example 1.24、p. 47 の van Kampen の定理による議論)、絡み数 の記事の結果を $X$ の閉曲線に使える。
各 $i$ について、$K_i$ の小さな管状近傍 $V_i$ をとる。その境界 $\partial V_i$ はトーラスである。
$F$ を $x_1,\dots,x_n$ を基底とする自由群とし、$d\ge2$ とする。$x_i\mapsto m_i$ は全射準同型 $F\to G/G_d$ を引き起こす。$y_j\in F$ を $\lambda_j$ の $G/G_d$ での類の逆像の語とすると、この準同型は同型
$$
G/G_d\cong\left\langle x_1,\dots,x_n\ \middle|\ [x_i,y_i]\ (1\le i\le n),\ F_d\right\rangle
$$
を与える。右辺は、$F$ を $[x_i,y_i]$ と $F_d$ が生成する正規部分群で割った群である。
この記事では証明しない(所在は Mei18 §3.1 Theorem 3.1、p. 3、Mor09 §3 Theorem 3.1、p. 9)。語 $y_j$ の選び方には $F\to G/G_d$ の核の分の任意性がある。そのうち $F_d$ の元を掛ける分は、lem-milnor-magnus-lcs の後の注意により $E(y_j)$ の $d-1$ 次以下の係数を変えない。残りの任意性と、メリディアンや基点への道の選び方による任意性は係数を変えうるので、次の定義では剰余をとる。
上の記号で、$d\ge2$ とし、語 $y_j$ の Magnus 展開を
$$
E(y_j)=1+\sum_{r\ge1}\ \sum_{i_1,\dots,i_r}\mu(i_1\cdots i_r\,j)\,X_{i_1}\cdots X_{i_r}
$$
と書く。長さ $\lvert I\rvert=r+1\le d$ の番号の列 $I=(i_1\cdots i_r\,j)$ について、$\mu(I)\in\mathbb{Z}$ をこの係数とする。長さ $1$ の列には $\mu(i):=0$ とおく。
$\Delta(I)$ を、$I$ から $1$ 個以上の番号を取り除いてできる列を巡回的に並べ替えたもの $J$ すべてにわたる $\mu(J)$ の最大公約数とする(すべて $0$ なら $\Delta(I)=0$)。剰余類
$$
\bar\mu(I):=\mu(I)\bmod\Delta(I)\in\mathbb{Z}/\Delta(I)\mathbb{Z}
$$
を $L$ の Milnor 不変量($\bar\mu$ 不変量)といい、$\lvert I\rvert$ をその長さという。
たとえば $\Delta(123)$ は $\mu(12),\mu(21),\mu(13),\mu(31),\mu(23),\mu(32)$ の最大公約数である(Mei18 Definition 3.2、p. 3)。係数 $\mu(I)$ そのものは、メリディアン・ロンジチュード・基点への道・語 $y_j$ の選び方に依存する。$\Delta(I)$ で割った剰余がその依存を吸収する、というのが次の定理である。
長さ $\lvert I\rvert\le d$ の $\bar\mu(I)$ は、上の構成での選び方と $d$ によらず、絡み目 $L$ の(向きと番号を保つ)イソトピー類だけで決まる。さらに次が成り立つ。
この記事では証明しない(Mei18 §3.1 Theorem–Definition、p. 3、§3.3.1、p. 4。Mor09 §4 Theorem 4.1、p. 13)。長さ $\lvert I\rvert-1$ 以下の不変量がすべて $0$ なら $\Delta(I)=0$ で、$\bar\mu(I)$ は整数として定まる(Mei18 Remark 3.4、p. 3)。
$i\ne j$ について $\bar\mu(ij)=\mu(ij)=\operatorname{lk}(K_i,K_j)\in\mathbb{Z}$ である。また $\mu(jj)=0$ である。
$\Delta(ij)$ は長さ $1$ の $\mu$ の最大公約数で、それは $0$ なので $\bar\mu(ij)=\mu(ij)\in\mathbb{Z}$ である。
各 $i$ について $\varphi_i\colon G\to\mathbb{Z}$、$[\gamma]\mapsto\operatorname{lk}(K_i,\gamma)$ を考える。$X$ の閉曲線は $\mathbb{R}^3\setminus K_i$ の閉曲線でもあるので、絡み数 の記事の命題「補空間の 1 次元ホモロジー」の証明と同じく、$\varphi_i$ は矛盾なく定まる準同型である(ホモトピー不変性と、閉曲線の積での加法性。同記事の命題「基本性質」の 1 と 3)。$\varphi_i$ の値は可換群 $\mathbb{Z}$ にあるので、$\varphi_i$ は共役で変わらず、$G_2$ を $0$ に写す。とくに $\varphi_i$ は $G/G_d$ を経由する。
$\varphi_i$ の値を計算する。$k\ne i$ のとき、$m_k$ の円周部分は $K_k$ と $1$ 点で交わる小さな円板 $D$ の境界で、$D\subset V_k$ は $K_i$ と交わらない。$D$ は結び目 $\partial D$ の Seifert 曲面なので、絡み数 の記事の系「Seifert 曲面と交わらない場合」により $\operatorname{lk}(\partial D,K_i)=0$ で、同記事の定理「絡み数の対称性」により $\operatorname{lk}(K_i,\partial D)=0$ である。基点への道は共役に当たるので、$\varphi_i(m_k)=0$ である。$\varphi_i(m_i)=1$ はメリディアンの向きの決め方による。
$j\ne i$ のとき、$\lambda_j$ の円周部分は $V_j$ の中で $K_j$ に平行で、$V_j$ の中を $K_j$ まで動かすホモトピーは $K_i$ と交わらない。よって $\varphi_i(\lambda_j)=\operatorname{lk}(K_i,K_j)$ である。$j=i$ のときは優先ロンジチュードの定義により $\varphi_i(\lambda_i)=0$ である。
合成 $F\to G/G_d\xrightarrow{\ \varphi_i\ }\mathbb{Z}$ は $x_k$ を $\delta_{ik}$ に写すので、語に現れる $x_i$ の指数の和である。$y_j$ の像は $\lambda_j$ の類なので、$y_j$ の $x_i$ の指数の和は $\varphi_i(\lambda_j)$ に等しい。lem-milnor-magnus-lcs の 3 により、これが $E(y_j)$ の $X_i$ の係数 $\mu(ij)$ である。したがって $i\ne j$ なら $\mu(ij)=\operatorname{lk}(K_i,K_j)$、$i=j$ なら $\mu(jj)=0$ である。$\square$
絡み数 の記事の定理「絡み数の対称性」により $\mu(ij)=\mu(ji)$ である。これは thm-milnor-invariance の巡回対称性の最も簡単な場合にあたる。また、$E(y_j)$ の $1$ 次の係数がすべて $0$ であることは、$y_j\in F_2$($F$ の可換化 $\mathbb{Z}^n$ での像が $0$)と同値である。
$F'$ を別の自由群とし、その Magnus 展開 $E'$ の変数を $A_1,\dots,A_m$ とする。
要点は、$2$ 次の部分が $F_2$ の上で加法的で、交換子の $2$ 次の部分が $1$ 次の部分だけで決まることである。
1. $a=1+u$、$b=1+v$($u,v\in O(1)$)とすると $[a,b]=1+(uv-vu)a^{-1}b^{-1}$ で、$a^{-1}b^{-1}\in1+O(1)$ なので $[a,b]\equiv1+(uv-vu)\pmod{O(3)}$ である。$uv-vu$ の $2$ 次の部分は $u_1v_1-v_1u_1$ である。逆元については lem-milnor-magnus-lcs の 4 を使う。
2. $\tau(F_2)\subset F'_2$ なので、両辺とも $w$ について $F_2$ から加法群への準同型である(lem-milnor-magnus-lcs の 2 と 4)。$F_2$ は交換子 $[u,v]$($u,v\in F$)で生成されるので、$w=[u,v]$ で示せばよい。lem-milnor-magnus-lcs の 3 により、$E'(\tau(u))$ の $1$ 次の部分は $u$ の各 $x_i$ の指数の和に $\ell_i$ を掛けて足したもの、すなわち $\theta(u_1)$ である。$v$ も同様である。1 を $F$ と $F'$ の両方で使うと、左辺は $\theta(u_1)\theta(v_1)-\theta(v_1)\theta(u_1)$、右辺は $\theta(u_1v_1-v_1u_1)$ で、両者は等しい。
3. $gwg^{-1}=[g,w]\,w$ で、$[g,w]\in F_3$ だから $E([g,w])\in U_3$ である(lem-milnor-magnus-lcs の 2)。$E(gwg^{-1})=E([g,w])E(w)$ の $2$ 次の部分は $E(w)$ のそれに等しい。$\square$
Borromean 環は $3$ 成分の絡み目で、$A$ と $B$ を引き離して $C$ を引きずる変形により、次の形の絡み目に移る(Hat02 p. 23)。この形の絡み目は $C$ の結び方によって $1$ つに決まらないが、以下の計算はこの形のどの絡み目にも当てはまる。平面の上の互いに交わらない $2$ つの円周 $A,B$ をとり、$a,b$ をそれぞれ $A,B$ のまわりを $1$ 周する閉曲線とする。$\mathbb{R}^3\setminus(A\cup B)$ の基本群は $a,b$ を基底とする階数 $2$ の自由群である(Hat02 p. 24、Example 1.23、p. 46)。第 $3$ の成分 $C$ は、$\mathbb{R}^3\setminus(A\cup B)$ の中の単純閉曲線で、交換子 $aba^{-1}b^{-1}$ を表すもの($A$ を正の向きに通り、$B$ を正の向きに通り、$A$ を逆向きに、$B$ を逆向きに通る)である(Hat02 pp. 23–24)。以下 $K_1=A$、$K_2=B$、$K_3=C$ と番号を付け、各成分に向きを与える。
上の絡み目 $L=A\cup B\cup C$ について、すべての $i\ne j$ で $\bar\mu(ij)=0$ であり、
$$
\bar\mu(123)=\mu(123)=\pm1,\qquad\mu(213)=-\mu(123),\qquad\mu(113)=\mu(223)=0
$$
である。符号は各成分の向きの選び方で決まる。
絡み数。 $A$ は平面の中の円板 $D_A$ を張り、$D_A$ は $B$ と交わらないので、絡み数 の記事の系「Seifert 曲面と交わらない場合」により $\operatorname{lk}(A,B)=0$ である。$C$ が $\mathbb{R}^3\setminus A$ で表す元は交換子 $aba^{-1}b^{-1}$ の像なので、$H_1(\mathbb{R}^3\setminus A)\cong\mathbb{Z}$ での類は $0$ で、同記事の命題「補空間の 1 次元ホモロジー」により $\operatorname{lk}(A,C)=0$ である。同様に $\operatorname{lk}(B,C)=0$ である。絡み数の対称性と prop-milnor-length-two により、すべての $i\ne j$ で $\mu(ij)=0$ である。よって $\Delta(123)=0$ で、$\bar\mu(123)=\mu(123)\in\mathbb{Z}$ である。
成分 $C$ を埋める写像。 $\Phi:=\pi_1(\mathbb{R}^3\setminus(A\cup B))$ とし、包含写像が引き起こす準同型を $\rho\colon G\to\Phi$ とする(基点は $A\cup B\cup C$ の外にとる)。$m_3$ の円周部分は $C$ と $1$ 点で交わる小さな円板の境界で、その円板は $A\cup B$ と交わらないので $\rho(m_3)=1$ である。
$m_1$ の円周部分は $A$ の管状近傍の境界のトーラス上のメリディアンの円で、$a$ も $A$ のまわりを $1$ 周する閉曲線である。トーラス上の $2$ つのメリディアンの円はトーラスの上で互いに動かせるので、$\rho(m_1)$ は $\Phi$ の中で $a^{\varepsilon_1}$($\varepsilon_1=\pm1$)と共役である。同様に $\rho(m_2)$ は $b^{\varepsilon_2}$ と共役である。$\lambda_3$ の円周部分は $C$ の管状近傍の中で $C$ に平行なので、$\mathbb{R}^3\setminus(A\cup B)$ の中で $C$ に自由ホモトピックであり、$\rho(\lambda_3)$ は $[a,b]^{\varepsilon}$($\varepsilon=\pm1$)と共役である。
Magnus 展開の比較。 $d=3$ として thm-milnor-chen-milnor の語 $y_3$ をとる。準同型 $\tau\colon F\to\Phi$ を $\tau(x_i):=\rho(m_i)$ で定めると、$y_3$ の $G/G_3$ での像が $\lambda_3$ の類なので、$\tau(y_3)\equiv\rho(\lambda_3)\pmod{\Phi_3}$ である($\rho(G_3)\subset\Phi_3$)。$\Phi$ の Magnus 展開 $E'$ の変数を $A,B$($a\mapsto1+A$、$b\mapsto1+B$)とする。
前半より $y_3$ の $1$ 次の係数はすべて $0$ なので $y_3\in F_2$ である。$E'(\tau(x_1))$ の $1$ 次の部分は $\varepsilon_1A$、$E'(\tau(x_2))$ のそれは $\varepsilon_2B$、$E'(\tau(x_3))=1$ である(共役は指数の和を変えないので lem-milnor-magnus-lcs の 3 による)。lem-milnor-degree-two の 2 を $\theta(X_1)=\varepsilon_1A$、$\theta(X_2)=\varepsilon_2B$、$\theta(X_3)=0$ で使うと、$E'(\tau(y_3))$ の $2$ 次の部分は
$$
\theta\Bigl(\sum_{a,b}\mu(ab3)X_aX_b\Bigr)=\mu(113)A^2+\varepsilon_1\varepsilon_2\mu(123)AB+\varepsilon_1\varepsilon_2\mu(213)BA+\mu(223)B^2
$$
である。一方、$\tau(y_3)$ は $[a,b]^{\varepsilon}$ の共役に $\Phi_3$ の元を掛けたものなので、lem-milnor-magnus-lcs の 2 と 4、lem-milnor-degree-two の 1 と 3 により、その $2$ 次の部分は $\varepsilon(AB-BA)$ である。係数を比べて
$$
\mu(123)=\varepsilon\varepsilon_1\varepsilon_2,\qquad\mu(213)=-\varepsilon\varepsilon_1\varepsilon_2,\qquad\mu(113)=\mu(223)=0
$$
を得る。$\square$
成分の番号を入れ替えても、thm-milnor-invariance の巡回対称性とシャッフル関係から $\bar\mu(123)=\bar\mu(231)=\bar\mu(312)=-\bar\mu(132)=-\bar\mu(213)=-\bar\mu(321)$ である(Mei18 §3.3.1、p. 4)。
Mei18 Example 3.6(p. 4)は、図に描いた Borromean 環の補空間の基本群の Wirtinger 表示
$$
\bigl\langle m_1,m_2,m_3,n_1,n_2,n_3\ \big|\ n_1=m_3m_1m_3^{-1},\ n_2=m_1m_2m_1^{-1},\ n_3=m_2m_3m_2^{-1},\ m_2=n_1^{-1}n_2n_1,\ m_3=n_2^{-1}n_3n_2,\ m_1=n_3^{-1}n_1n_3\bigr\rangle
$$
から出発し、優先ロンジチュード $\lambda_3=m_2^{-1}n_2=m_2^{-1}m_1m_2m_1^{-1}$ を読み取っている。$y_3=x_2^{-1}x_1x_2x_1^{-1}=[x_2^{-1},x_1]$ とおくと、lem-milnor-degree-two の 1 で $u_1=-X_2$、$v_1=X_1$ として
$$
E(y_3)\equiv1+X_1X_2-X_2X_1\pmod{O(3)}
$$
となり、$\mu(123)=1$、$\mu(213)=-1$ である。これは prop-milnor-borromean の $\varepsilon\varepsilon_1\varepsilon_2=1$ の場合にあたる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 長さ $3$ 以上の不変量も調べる | Borromean 環 | 「どの $2$ 成分の絡み数も $0$ なら、自明な絡み目とイソトピック」 |
| 成分が $2$ 個以上 | 三葉結び目($n=1$) | 「すべての $\bar\mu$ が $0$ なら自明」 |
| 添字 $I$ が相異なる | Whitehead 絡み目、$\bar\mu(1122)=1$ | $\bar\mu(I)$ の絡み目ホモトピー不変性 |
1 行目:prop-milnor-borromean により、Borromean 環ではすべての $\bar\mu(ij)$ が $0$ だが $\bar\mu(123)=\pm1$ である。自明な絡み目では $\bar\mu(123)=0$ なので(prop-milnor-trivial の 1)、thm-milnor-invariance により $2$ つはイソトピックでない。破れるのは「長さ $2$ の不変量だけで自明性が判定できる」という含意である。
2 行目:prop-milnor-trivial の 2 により、三葉結び目のすべての Milnor 不変量は $0$ である。一方、三葉結び目の Alexander 加群は $\mathbb{Z}[t,t^{-1}]/(t^2-t+1)\ne0$ で、自明な結び目の Alexander 加群は $0$ なので、三葉結び目は自明でない(Alexander多項式 の記事の命題「三葉結び目の Alexander 加群」と反例の表)。Milnor 不変量は冪零商から作られるので、成分が $1$ 個の絡み目では何も検出しない。
3 行目:絡み目ホモトピーとは、各成分が自分自身とは交わってよいが他の成分とは交わらない変形である。添字が相異なる $I$ の $\bar\mu(I)$ は絡み目ホモトピーで不変だが(Mei18 Theorem 3.8、p. 5)、Whitehead 絡み目は絡み目ホモトピーで自明な絡み目に変形できるのに $\bar\mu(1122)=1$ である(Mei18 Example 3.11、p. 5。Mor09 Example 4.2 (1)、p. 13)。添字の重複を許すと、不変性はイソトピーに限られる。この行はこの記事では証明しない。
数論的位相幾何 では、素数の組 $p_1,\dots,p_n$ の外で不分岐な最大副 $l$ 拡大の Galois 群 $G_S(l)$ を絡み目群の類似とみる。Koch の定理により $G_S(l)$ は Chen–Milnor の定理とよく似た形の表示 $\langle x_1,\dots,x_n\mid x_i^{p_i-1}[x_i,y_i]=1\ (1\le i\le n)\rangle$ をもち、メリディアンの役を惰性群の生成元(モノドロミー)$x_i$、ロンジチュードの役を Frobenius 元の持ち上げ $y_i$ が担う(Mor09 §3 Theorem 3.4、p. 11)。Frobenius 元 $y_j$ を副 $l$ 版の Magnus 展開で展開した係数から、素数の Milnor 不変量 $\mu_m(I)$ が定義される(Mor09 §4、pp. 15–16)。
| 絡み目 $L=K_1\cup\cdots\cup K_n$ | 素数 $p_1,\dots,p_n$($l=2$、$p_i\equiv1\pmod4$) |
|---|---|
| 絡み目群の冪零商 | $G_S(2)$ の冪零商 |
| $\mu(ij)=\operatorname{lk}(K_i,K_j)$ | $(-1)^{\mu_2(ij)}=\left(\frac{p_j}{p_i}\right)$(Legendre記号) |
| $\mu(123)$ | $(-1)^{\mu_2(123)}=[p_1,p_2,p_3]$(Rédei記号) |
| Borromean 環:$\mu(ij)=0$、$\mu(123)=\pm1$ | $\{13,61,937\}$:$\mu_2(ij)=0$、$\mu_2(123)=1$ |
表の数論の側は Mor09 Theorem 4.5 (1)(p. 15)・Example 4.7(p. 17)と AMM18 (0.2)(p. 2)による。位相の側で $\mu(I)$ が冪零被覆での持ち上げの様子を表すのと同じく、数論の側の $\mu_2(123)$ は $2$ 面体群 $D_8$ を Galois 群とする拡大での $p_3$ の分解を表す(Mor09 Theorem 4.3・4.6、pp. 14–16)。左右の結びつきは類似であり、一方から他方が導かれるわけではない。
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