至る所全射な関数

同義語:everywhere surjective function

概要

至る所全射な関数(everywhere surjective function)とは、空でないどの開区間の上でも実数のすべての値をとる関数 $f\colon\mathbb R\to\mathbb R$ である。このような関数は開写像で中間値の性質をもち、各値の逆像とグラフは稠密だが、どの点でも連続でなく、どの区間でも有界でなく、閉写像でもない。Cantor 集合の縮小像を開集合の成分に段ごとに置いていく構成により、Lebesgue 測度 $0$ の集合の外で $0$ に等しい至る所全射な関数が存在する。ほとんど至る所等しい関数でも連続性や有界性が大きく異なりうることを示す例である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 連続関数, 開写像, Cantor集合, Lebesgue測度

連続関数 $f\colon\mathbb R\to\mathbb R$ は、有界閉区間をまた有界閉区間に写す(中間値の定理 と最大値の定理)。これと正反対に、どんなに短い開区間の上でも実数のすべての値をとる関数がある。これを至る所全射な関数(everywhere surjective function)という。
至る所全射な関数は、どの開集合の像も $\mathbb R$ 全体になるので開写像であり、中間値の性質ももつが、どの点でも連続でなく、閉写像でもない。しかも、ほとんど至る所で $0$ に等しいものを作ることができる。この記事では、至る所全射な関数の基本性質を証明し、Cantor集合 を段ごとに置いていく構成で、ほとんど至る所 $0$ に等しい至る所全射な関数が存在することを証明する。

定義

至る所全射な関数

関数 $f\colon\mathbb R\to\mathbb R$ が至る所全射(everywhere surjective)であるとは、空でない任意の開区間 $J$ について $f(J)=\mathbb R$ となることをいう。

空でない開集合は空でない開区間を含むので、至る所全射な関数では空でない任意の開集合の像が $\mathbb R$ である。定義から、$\mathbb R$ への全射 $h\colon\mathbb R\to\mathbb R$ を後から合成した $h\circ f$ も至る所全射であり、$a\ne0$ について $x\mapsto f(ax+b)$ も至る所全射である。

基本性質

至る所全射な関数の性質

$f\colon\mathbb R\to\mathbb R$ を至る所全射な関数とする。

  1. $f$ は開写像である。
  2. $f$ はどの点でも連続でない。さらに、どの空でない開区間の上でも有界でない。
  3. 任意の $y\in\mathbb R$ について、逆像 $f^{-1}(y)$ は $\mathbb R$ で稠密である。とくに $f$ のグラフ $\{(x,f(x))\}$ は $\mathbb R^2$ で稠密である。
  4. $f$ は中間値の性質をもつ。すなわち $a< b$ と、$f(a)$ と $f(b)$ の間の任意の $y$ について、$f(c)=y$ となる $c\in(a,b)$ がある。
  5. $f$ は閉写像でない。

1:空でない開集合の像は $\mathbb R$ で開であり、空集合の像は空集合で開である。
2:点 $x$ と $x$ を含む開区間 $J$ について $f(J)=\mathbb R$ なので、$J$ 上で $f$ は有界でない。$f$ が $x$ で連続なら、$\varepsilon=1$ に対してある $\delta>0$ で $|t-x|< \delta$ なら $|f(t)-f(x)|< 1$ となり、$(x-\delta,x+\delta)$ 上で $f$ が有界になって矛盾する。
3:$J$ を空でない開区間とすると $f(J)=\mathbb R\ni y$ なので、$J$ は $f^{-1}(y)$ と交わる。グラフについては、平面の空でない開集合は長方形 $J\times K$($J,K$ は空でない開区間)を含み、$y\in K$ を一つとれば $x\in J\cap f^{-1}(y)$ について $(x,y)\in J\times K$ である。
4:$f((a,b))=\mathbb R$ から明らかである。
5:各 $n\ge1$ について、$f((n,n+1))=\mathbb R$ なので $f(x_n)=1/(n+1)$ となる $x_n\in(n,n+1)$ を選ぶ。$D=\{x_n:n\ge1\}$ は、どの有界区間とも有限個の点でしか交わらないので集積点をもたず、閉集合である。一方 $f(D)=\{1/(n+1):n\ge1\}$ は $0$ に集積するが $0$ を含まないので閉集合でない。$\square$

4 は、中間値の性質(Darboux 性)が連続性よりずっと弱いことを示している。微分可能な関数の導関数も中間値の性質をもつ(Darbouxの定理(導関数の中間値))が、至る所全射な関数はそれとは別の理由で、しかも極端な形でこの性質をもつ。

構成のための準備

構成には Cantor 集合と、その上の「2 進に読み替える」写像を使う。Cantor集合 の定理「3進表示による特徴づけ」により、Cantor 集合 $C$ の各点は
$$ c=\sum_{k=0}^\infty\frac{x_k}{3^{k+1}}\qquad(x_k\in\{0,2\}) $$
とただ一通りに書ける。そこで
$$ \theta(c)=\sum_{k=0}^\infty\frac{x_k/2}{2^{k+1}}\in[0,1] $$
とおく。

Cantor 集合の上の写像

$C^\circ=C\cap(0,1)$ とおく。

  1. $\theta(C^\circ)=(0,1)$ である。したがって $g(c)=\tan\bigl(\pi(\theta(c)-\tfrac12)\bigr)$ は $C^\circ$ から $\mathbb R$ への全射である。
  2. $C^\circ$ は $(0,1)$ の相対閉集合で、Lebesgue 測度は $0$ である。
  3. $(0,1)\setminus C^\circ$ の連結成分(開区間)の長さはすべて $1/3$ 以下である。

1:$c\in C^\circ$ とする。$c\ne0$ なのである $x_k=2$ であり $\theta(c)>0$ である。$c\ne1$ なのである $x_k=0$ であり(すべて $2$ なら $c=1$)、そのとき $\theta(c)\le1-2^{-k-1}< 1$ である。逆に $t\in(0,1)$ の 2 進表示 $t=\sum_ks_k2^{-k-1}$($s_k\in\{0,1\}$)を一つとり、$c=\sum_k2s_k3^{-k-1}$ とおくと $c\in C$、$\theta(c)=t$ である。$t\ne0$ からある $s_k=1$、$t\ne1$ からある $s_k=0$ なので、$0< c< 1$ である。よって $\theta(C^\circ)=(0,1)$ であり、$s\mapsto\tan(\pi(s-\tfrac12))$ は $(0,1)$ から $\mathbb R$ への全単射なので $g$ は全射である。
2:$C$ は閉集合で測度 $0$ である(Cantor集合 の命題「測度0のコンパクトな疎集合」)ので、$C^\circ=C\cap(0,1)$ は $(0,1)$ の相対閉集合で測度 $0$ である。
3:$C$ は $0,\tfrac13,\tfrac23,1$ を含む($\tfrac13=\sum_{k\ge1}2\cdot3^{-k-1}$、$\tfrac23$ は $x_0=2$ で他が $0$)。長さが $1/3$ より大きい開区間 $(s,t)\subset(0,1)$ は、$(0,\tfrac13)$、$(\tfrac13,\tfrac23)$、$(\tfrac23,1)$ のどれにも含まれないので、$\tfrac13$ か $\tfrac23$ を含み、$C^\circ$ と交わる。よって $(0,1)\setminus C^\circ$ の連結成分の長さは $1/3$ 以下である。$\square$

$\theta$ は Cantor集合 の上の Cantor 関数(Cantor の階段関数)の値と一致するが、ここでは $C$ の上の値だけを使う。空でない有界開区間 $I=(a,b)$ について
$$ Z_I=\{a+(b-a)c: c\in C^\circ\},\qquad g_I(x)=g\Bigl(\frac{x-a}{b-a}\Bigr)\ (x\in Z_I) $$
とおく。アフィン写像 $c\mapsto a+(b-a)c$ で移すと、補題から次が分かる:$Z_I$ は $I$ の相対閉集合で測度 $0$、$g_I(Z_I)=\mathbb R$、$I\setminus Z_I$ の連結成分の長さは $|I|/3$ 以下である。

存在定理

ほとんど至る所 0 の至る所全射な関数

至る所全射な関数 $f\colon\mathbb R\to\mathbb R$ で、ある Lebesgue 測度 $0$ の集合 $N$ の外で $f=0$ となるものが存在する。

開集合の列 $U_1\supset U_2\supset\cdots$ と、$f$ の値を段ごとに定める。$\mathbb R$ の開集合は、互いに交わらない高々可算個の開区間(連結成分)の和である(各成分は有理数を含むので高々可算個)。
$U_1=\mathbb R\setminus\mathbb Z$ とする。その成分は $(n,n+1)$($n\in\mathbb Z$)で長さ $1$ である。$U_k$ が定まったとき、$U_k$ の各成分 $I$ について $Z_I$ の上で $f=g_I$ と定め、
$$ U_{k+1}=U_k\setminus\bigcup_{I}Z_I\qquad(I\text{ は }U_k\text{ の成分を動く}) $$
とおく。最後に、どの段でも値が定まらなかった点では $f=0$ とする。
定義の整合性。 $Z_I$ は $I$ に含まれ、$U_k$ の異なる成分は交わらないので、同じ段の $Z_I$ どうしは交わらない。また段 $k$ の $Z_I$ は $U_{k+1}$ と交わらず、後の段の $Z$ はすべて $U_{k+1}$ に含まれるので、異なる段の $Z$ も交わらない。よって $f$ は矛盾なく定まる。
$U_k$ の性質。 次を $k$ に関する帰納法で示す。(a) $U_k$ は開集合、(b) $U_k$ は $\mathbb R$ で稠密、(c) $U_k$ の各成分の長さは $3^{-(k-1)}$ 以下。$k=1$ では明らかである。$U_k$ について成り立つとする。$U_{k+1}\cap I=I\setminus Z_I$($I$ は $U_k$ の成分)であり、$Z_I$ は $I$ の相対閉集合なのでこれは開集合で、$U_{k+1}$ はそれらの和なので開である。$Z_I$ は測度 $0$ なので区間を含まず、$I\setminus Z_I$ は $I$ で稠密である。よって $U_{k+1}$ は $U_k$ で稠密で、$U_k$ が $\mathbb R$ で稠密なので $U_{k+1}$ も稠密である。$U_{k+1}$ の成分は、ある $U_k$ の成分 $I$ の中の $I\setminus Z_I$ の成分に含まれるので、長さは $|I|/3\le3^{-k}$ 以下である。
至る所全射。 空でない開区間は空でない有界開区間を含むので、$J=(s,t)$ を空でない有界開区間とし、$\delta=(t-s)/3$ とおく。$3^{-k}< \delta$ となる $k\ge1$ をとる。$U_{k+1}$ は稠密なので、$x\in U_{k+1}\cap(s+\delta,t-\delta)$ がとれる。$x$ を含む $U_{k+1}$ の成分 $I$ の長さは (c) により $3^{-k}$ 以下で、$\delta$ より小さいので、$I$ の点と $x$ の距離は $\delta$ より小さく、$I\subset J$ である。段 $k+1$ で $Z_I\subset I$ の上に $f=g_I$ と定めたので、$f(J)\supset g_I(Z_I)=\mathbb R$ である。$3^{-k}< \delta$ を満たす $k$ はいくらでも大きくとれるので、次も分かる。
(d) 空でない任意の開区間 $J$ と任意の $k_0$ について、$k\ge k_0$ と $U_k$ の成分 $I$ で $I\subset J$ となるものがある。
ほとんど至る所 0。 $f\ne0$ となりうるのは $N=\bigcup_k\bigcup_IZ_I$ の点だけである。各段の成分は高々可算個なので、$N$ は測度 $0$ の集合の可算和で、測度 $0$ である。$\square$

この構成は GO03 第 8 章 Example 27(pp. 104–105)による。証明の要は、成分の長さの評価 (c) によって、任意の開区間がある段の成分を丸ごと含むことである。
Lebesgue 測度は完備なので、測度 $0$ の集合の外で $0$ に等しい関数は Lebesgue 可測であり、$\int_a^bf\,dx=0$ である(Lebesgue測度)。一方 $f$ はどの区間の上でも有界でないので、どの有界閉区間の上でも Riemann 積分可能でない。

至る所全射な関数の多さ

thm-esf-existence の構成では、どの開区間も、いくらでも先の段の成分を丸ごと含む(証明の (d))。段を偶数番目と奇数番目に分けて使うと、至る所全射な関数がきわめて多いことが分かる。

任意の関数は 2 つの至る所全射な関数の和

任意の関数 $\varphi\colon\mathbb R\to\mathbb R$ について、至る所全射な関数 $h_1,h_2$ で $\varphi=h_1+h_2$ となるものがある。

thm-esf-existence の証明の $U_k$、成分 $I$、$Z_I$、$g_I$ をそのまま使う。$k$ が奇数のとき $U_k$ の成分 $I$ を奇数段の成分、偶数のとき偶数段の成分とよぶ。$h_1$ を
$$ h_1(x)=\begin{cases}g_I(x)&(x\in Z_I,\ I\text{ は奇数段の成分}),\\ \varphi(x)-g_I(x)&(x\in Z_I,\ I\text{ は偶数段の成分}),\\ 0&(\text{それ以外})\end{cases} $$
で定め、$h_2=\varphi-h_1$ とおく。$Z_I$ どうしは交わらないので $h_1$ は矛盾なく定まり、偶数段の成分 $I$ の $Z_I$ の上では $h_2=g_I$ である。
空でない開区間 $J$ をとる。(d) を $k_0$ を十分大きくして使い、奇数の $k$ と $U_k$ の成分 $I\subset J$ を一つ、偶数の $k'$ と $U_{k'}$ の成分 $I'\subset J$ を一つとる((d) で $U_k$ の成分 $I_0\subset J$ を得たら、稠密な $U_{k+1}$ は $I_0$ と交わり、交わる $U_{k+1}$ の成分は連結で $U_{k+1}\subset U_k$ なので $I_0$ に含まれる。よって $k$ と $k+1$ の両方の段に $J$ に含まれる成分があり、奇数と偶数の段の両方がとれる)。すると $h_1(J)\supset g_I(Z_I)=\mathbb R$、$h_2(J)\supset g_{I'}(Z_{I'})=\mathbb R$ である。よって $h_1,h_2$ はともに至る所全射である。$\square$

至る所全射な関数の個数

至る所全射な関数 $\mathbb R\to\mathbb R$ 全体の濃度は、関数 $\mathbb R\to\mathbb R$ 全体の濃度 $2^{2^{\aleph_0}}$ に等しい。

thm-esf-sum により、各 $\varphi$ に至る所全射な $h_1$ と $h_2=\varphi-h_1$ を対応させると、$\varphi\mapsto(h_1,h_2)$ は単射である。至る所全射な関数全体を $E$ とすると $2^{2^{\aleph_0}}\le|E\times E|=|E|^2$ であり、$E$ は無限集合なので $|E|^2=|E|$(選択公理のもとでの基数の算術)から $|E|\ge2^{2^{\aleph_0}}$ である。逆向きの不等号は $E$ が関数全体の部分集合であることから従う。関数全体の濃度は $(2^{\aleph_0})^{2^{\aleph_0}}=2^{2^{\aleph_0}}$ である。$\square$

至る所全射な関数どうしの和は至る所全射とは限らない。$f$ が至る所全射なら $-f$ も至る所全射だが、$f+(-f)=0$ である。thm-esf-sum はむしろ、この和の操作で任意の関数が作れることを述べている。

例と反例

開写像だが連続でも閉でもない全射

thm-esf-existence の $f$ は、prop-esf-basic の 1・2・5 により、開写像だが連続でなく閉写像でもない全射 $\mathbb R\to\mathbb R$ である。開写像・連続写像・閉写像の 3 つの性質が互いに独立であることを示す例の一つで、GO03 第 12 章 Example 17(p. 168)がこの例を挙げている。また prop-esf-basic の 3 から、$f$ のグラフは平面で稠密である(GO03 第 8 章 Example 28, p. 105)。

ほとんど至る所等しい関数

$f$ と定数関数 $0$ はほとんど至る所等しい。$0$ は連続で有界だが、$f$ はどの点でも連続でなく、どの区間でも有界でない。Lebesgue 積分の立場では同じ関数とみなされる 2 つの関数が、位相的な性質では両極端にある。連続性や有界性は、測度 $0$ の集合での値の変更で保たれない性質である。

連続関数について成り立つ性質が、連続性を外すとどう崩れるかを、同じ関数 $f$ でまとめる。

外す条件反例成り立たなくなること
$[a,b]$ 上の連続性(中間値の性質は残す)至る所全射な $f$有界閉区間の像が有界閉区間であること
$[a,b]$ 上の連続性(開写像であることは残す)至る所全射な $f$$[a,b]$ 上で最大値をとること
連続性(ほとんど至る所 $0$ に等しいことは残す)thm-esf-existence の $f$ほとんど至る所 $0$ に等しい関数が恒等的に $0$ であること

1・2 行目は、$f([a,b])\supset f((a,b))=\mathbb R$ なので像は有界でなく、最大値も存在しないことによる。3 行目は、連続関数 $h$ がほとんど至る所 $0$ なら恒等的に $0$ であることと対比している($h(x)\ne0$ となる点があれば、その近傍の区間で $h\ne0$ となり、測度が正の集合で $h\ne0$ になる)。

関連項目

参考文献

[1]
Bernard R. Gelbaum and John M. H. Olmsted, Counterexamples in Analysis, Dover Publications, 2003, 第 8 章 Example 27・28(pp. 104–105)、第 12 章 Example 17(p. 168)

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