曲面の極小三角形分割(minimal triangulation of a surface)とは、閉曲面を有限単体複体として三角形分割するもののうち、頂点の個数が最小のものである。単体複体では各辺がちょうど 2 つの三角形に含まれ、辺は頂点の対で決まるので、Euler 標数 $\chi$ の閉曲面の三角形分割の頂点の個数 $v$ は $v\ge(7+\sqrt{49-24\chi})/2$ をみたし、等号は任意の 2 頂点が辺で結ばれるときに限る。トーラスには少なくとも 7 頂点・21 辺・14 三角形、実射影平面には少なくとも 6 頂点・15 辺・10 三角形が要り、$\mathbb{Z}/7$ を頂点とする三角形分割と 6 頂点の三角形分割がそれぞれこの下限を達成する。
閉曲面はいつも三角形分割できる(曲面の三角形分割 の定理「Radóの定理」)。では、閉曲面を三角形分割するには最低いくつの頂点が要るだろうか。三角形の辺どうしを自由に貼り合わせてよいなら、トーラスは 2 つの三角形から頂点 1 つで作れる(Hat02 p. 102)。しかし単体複体では、単体がその頂点の集合で決まり、2 つの頂点を結ぶ辺は高々 1 本である。この制約のもとでは、トーラスには少なくとも 7 頂点・21 辺・14 三角形が、実射影平面には少なくとも 6 頂点・15 辺・10 三角形が要る(Hat02 p. 107)。
一般に、Euler 標数 $\chi$ の閉曲面の三角形分割の頂点の個数 $v$ は
$$
v\ \ge\ \frac{7+\sqrt{49-24\chi}}{2}
$$
をみたし、等号は任意の 2 頂点が辺で結ばれるときに限る。この記事では、この下限を証明し、球面・実射影平面・トーラスで下限が実際に達成されることを、7 頂点のトーラスと 6 頂点の実射影平面の三角形分割を具体的に構成して示す。
閉曲面 はコンパクトで連結な 2 次元の位相多様体である(閉曲面の分類定理 の定義「閉曲面」)。閉曲面 $M$ の 三角形分割 とは、有限単体複体 $K$ と同相写像 $|K|\to M$ の組である(三角形分割可能な多様体 の定義「三角形分割可能な多様体と組合せ的な三角形分割」)。$K$ の頂点・辺・三角形(2 単体)の個数を $v,e,f$ と書く。$K$ の 2 頂点を結ぶ辺は高々 1 本であり、3 頂点の張る三角形も高々 1 つである。
閉曲面 $M$ の三角形分割のうち、頂点の個数 $v$ が最小のものを $M$ の 極小三角形分割(minimal triangulation)という。
ここでの「極小」は頂点の個数が最小という意味である。下の lem-mt-counts により、辺と三角形の個数は $v$ と $\chi(M)$ で決まるので、頂点の個数が最小なら辺と三角形の個数も最小になる。
$K$ を閉曲面 $M$ の三角形分割とし、$\chi:=\chi(M)$ とする。
1:2 次元の三角形分割は組合せ的であり(三角形分割可能な多様体 の定理「2 次元以下の三角形分割は組合せ的」)、各頂点 $u$ のリンク $\operatorname{Lk}(u,K)$(PL多様体 の定義「星状体とリンク」)は PL 1 次元球面、すなわち多角形である。単体複体の多角形は 3 個以上の頂点をもつ。辺 $[u,w]$ を面にもつ三角形 $[u,w,x]$ は、リンク $\operatorname{Lk}(u,K)$ の中で頂点 $w$ を端点にもつ辺 $[w,x]$ と 1 対 1 に対応する。多角形の各頂点はちょうど 2 本の辺の端点なので、$[u,w]$ を含む三角形はちょうど 2 つである。
2:辺と、それを含む三角形の組を数える。各三角形は 3 辺をもち、1 により各辺はちょうど 2 つの三角形に含まれるので $3f=2e$ である。$|K|$ の Euler 標数は $v-e+f$ である(単体複体 の系「多面体の基本性質」の (R3))ので、$\chi=v-e+\frac23e=v-\frac e3$、すなわち $e=3(v-\chi)$、$f=\frac23e=2(v-\chi)$ である。
3:頂点 $u$ のリンクは 3 個以上の頂点をもち、それらは $u$ と異なるので $v\ge1+3=4$ である。$\square$
$K$ を Euler 標数 $\chi$ の閉曲面 $M$ の三角形分割とし、$v$ を頂点の個数とする。
辺はその 2 頂点で決まるので $e\le\binom v2=\frac{v(v-1)}2$ である。lem-mt-counts の 2 の $e=3(v-\chi)$ を代入すると $6(v-\chi)\le v^2-v$、すなわち $v^2-7v+6\chi\ge0$ を得る。等号は $e=\binom v2$、すなわち任意の 2 頂点が辺で結ばれるときに限る。
閉曲面の Euler 標数は $2$ 以下である(閉曲面の分類定理 の定理「閉曲面の分類定理」と定理「Euler 標数と型による判定」により、閉曲面は $S^2$($\chi=2$)、$T_n$($\chi=2-2n$)、$P_m$($\chi=2-m$)のどれかと同相である)。よって $D:=49-24\chi\ge1$ で、2 次式 $v^2-7v+6\chi$ は 2 つの実根 $\frac{7\pm\sqrt D}2$ をもち、$v^2-7v+6\chi\ge0$ は $v\le\frac{7-\sqrt D}2$ または $v\ge\frac{7+\sqrt D}2$ と同値である。$\frac{7-\sqrt D}2\le3$ であり、lem-mt-counts の 3 により $v\ge4$ なので、$v\ge\frac{7+\sqrt D}2$ である。$v\ge4>\frac72$ の範囲では $v^2-7v+6\chi$ は $v$ について狭義単調増加なので、2 つの不等式の等号は同時に成り立つ。$\square$
$v$ は整数なので、実際の下限は右辺を切り上げた値である。$\chi=2,1,0$ の場合の同じ数え上げは 曲面の三角形分割 の例「三角形分割に要る頂点の個数」にもある。lem-mt-counts の 2 により $e$ と $f$ は $v$ について増加するので、辺と三角形の個数の下限も得られる。
三角形分割の頂点・辺・三角形の個数は、少なくとも次の値である。
| 閉曲面 | $\chi$ | $v$ | $e$ | $f$ |
|---|---|---|---|---|
| 球面 $S^2$ | $2$ | $4$ | $6$ | $4$ |
| 実射影平面 $P_1$ | $1$ | $6$ | $15$ | $10$ |
| トーラス $T_1$ | $0$ | $7$ | $21$ | $14$ |
| Klein の壺 $P_2$ | $0$ | $7$ | $21$ | $14$ |
| 種数 $2$ の向き付け可能な閉曲面 $T_2$ | $-2$ | $9$ | $33$ | $22$ |
$\chi=2,1,0$ では $\sqrt{49-24\chi}=1,5,7$ なので、thm-mt-lower の右辺は $4,6,7$ である。$\chi=-2$ では $\sqrt{97}$ は $9$ と $10$ の間にあるので右辺は $8$ と $8.5$ の間にあり、$v\ge9$ である。$e=3(v-\chi)$、$f=2(v-\chi)$ に代入すれば $e,f$ の値を得る。各曲面の Euler 標数は Euler標数 の例「基本的な空間の Euler 標数」と 閉曲面の分類定理 の定理「Euler 標数と型による判定」による。$\square$
この系は下限を述べるだけで、その値の三角形分割があるかどうかは別の問題である。次の節で、球面・実射影平面・トーラスでは下限が達成されることを示す。
球面:4 頂点の集合 $\{0,1,2,3\}$ の 3 元部分集合 4 つとその面からなる単体複体は、3 単体の境界であり、多面体は $S^2$ と同相である(単体複体 の例「単体の面の全体と球面の三角形分割」)。頂点・辺・三角形は $4,6,4$ 個で、任意の 2 頂点が辺で結ばれている。
頂点の集合を $\mathbb{Z}/7$ とし、各 $i\in\mathbb{Z}/7$ について 2 つの三角形
$$
A_i:=\{i,\ i+1,\ i+3\},\qquad B_i:=\{i,\ i+2,\ i+3\}
$$
をとる。この 14 個の三角形とそのすべての面からなる単体複体を $\mathcal{T}$ とする。
$\mathcal{T}$ の三角形 14 個は互いに異なり、$\mathcal{T}$ の辺は $\mathbb{Z}/7$ の 2 元部分集合 21 個のすべてである。多面体 $|\mathcal{T}|$ はトーラス $S^1\times S^1$ と同相である。したがって $\mathcal{T}$ はトーラスの極小三角形分割であり、thm-mt-lower の等号が成り立つ。
段 1(組合せの確認). 3 元部分集合 $S\subset\mathbb{Z}/7$ の元を円周上に順に並べたとき、隣り合う元の差を巡回的に並べた列(和は $7$)を $S$ の 間隔列 という。間隔列は巡回的な並べ替えを除いて $S$ から決まり、逆に間隔列と始点で $S$ は決まる。$A_i$ の間隔列は $(1,2,4)$、$B_i$ の間隔列は $(2,1,4)$ であり、両者は巡回的な並べ替えで移り合わないので $A_i\ne B_j$ である。$(1,2,4)$ の 3 つの成分は異なるので、間隔 $1$ の始点として $i$ が $A_i$ から決まり、$A_i=A_j$ なら $i=j$ である。$B_i$ も同様である。よって 14 個の三角形は互いに異なる。$A_i$ と $B_i$ の辺の差はどちらも $\pm1,\pm2,\pm3$ で、これは $\mathbb{Z}/7$ の $0$ でない元のすべてなので、任意の 2 頂点 $j,j+d$($d\in\{1,2,3\}$)は辺で結ばれる。
段 2(平面からの写像). $\varphi\colon\mathbb{Z}^2\to\mathbb{Z}/7$ を $\varphi(a,b):=a+2b\bmod7$ で定め、$L:=\ker\varphi$ とおく。$L$ は $(7,0)$ と $(-2,1)$ で生成される指数 $7$ の部分群である。平面を、各単位正方形 $[a,a+1]\times[b,b+1]$ を対角線で 2 つに分けた三角形
$$
\Delta^A_x:=[x,\ x+(1,0),\ x+(1,1)],\qquad \Delta^B_x:=[x,\ x+(0,1),\ x+(1,1)]\qquad(x\in\mathbb{Z}^2)
$$
で敷き詰め、その頂点・辺・三角形を タイルの単体 とよぶ。$\varphi(1,0)=1$、$\varphi(0,1)=2$、$\varphi(1,1)=3$ なので、$\varphi$ は $\Delta^A_x$、$\Delta^B_x$ の頂点を $A_{\varphi(x)}$、$B_{\varphi(x)}$ の頂点に 1 対 1 に写す。各タイルの三角形の上でアフィンになるように頂点の写像 $\varphi$ を延長した写像 $q\colon\mathbb{R}^2\to|\mathcal{T}|$ は、共有する辺の上で一致するので矛盾なく定まり、敷き詰めは局所有限なので連続である(貼り合わせの補題)。$\ell\in L$ について $\varphi(x+\ell)=\varphi(x)$ なので $q(y+\ell)=q(y)$ であり、$\mathcal{T}$ の各単体はタイルの単体の像なので $q$ は全射である。
段 3($L$ を法とする単射性). $y\in\mathbb{R}^2$ を内部(頂点ならその点自身)に含むタイルの単体 $\sigma_y$ はただ 1 つで、$q$ は $\sigma_y$ を $\mathcal{T}$ の同じ次元の単体 $q(\sigma_y)$ の上にアフィン同型に写し、$q(y)$ はその内部にある。$q(y)=q(y')$ とすると、$|\mathcal{T}|$ の各点はただ 1 つの単体の内部に属する(単体複体 の補題「各点の台」)ので $q(\sigma_y)=q(\sigma_{y'})$ である。タイルの単体の像から、その単体は $L$ の平行移動を除いて頂点の対応も込めて決まる。実際、頂点では $\varphi(x)=\varphi(x')\iff x-x'\in L$ である。辺は $[x,x+u]$($u\in\{(1,0),(0,1),(1,1)\}$)の形で、像は $\{\varphi(x),\varphi(x)+\varphi(u)\}$、$\varphi(u)\in\{1,2,3\}$ である。$\{1,2,3\}$ と $\{-1,-2,-3\}$ は $\mathbb{Z}/7$ で交わらないので、像の辺から $u$ と $\varphi(x)$ が決まる。三角形では段 1 により像から型($A$ か $B$)と $\varphi(x)$ が決まる。よって $\sigma_{y'}=\sigma_y+\ell$($\ell\in L$)で、頂点の対応も平行移動で与えられる。$y'-\ell\in\sigma_y$ と $y$ は $q$ で同じ点に写り、$q$ は $\sigma_y$ の上で単射なので $y'-\ell=y$ である。
段 4(同相). 以上により、$q$ は連続な全単射 $\bar q\colon\mathbb{R}^2/L\to|\mathcal{T}|$ を誘導する。$(7,0)$ と $(-2,1)$ を標準基底に写す線形同型は $\mathbb{R}^2/L$ から $\mathbb{R}^2/\mathbb{Z}^2$ への同相写像を誘導し、$\mathbb{R}^2/\mathbb{Z}^2$ はトーラスと同相でコンパクトである(トーラス の定理「3 つのモデルはどれもトーラスと同相」)。$|\mathcal{T}|$ は Hausdorff(単体複体 の系「多面体の基本性質」の (R1))なので、コンパクト空間から Hausdorff 空間への連続な全単射 $\bar q$ は同相写像である。頂点・辺・三角形は $7,21,14$ 個で、cor-mt-table の下限に等しい。$\square$
$\mathcal{T}$ の 1 次元骨格は完全グラフ $K_7$ であり、これはトーラスに $K_7$ を描く方法を与えている(位相的グラフ理論 の例「トーラス上の $K_7$」は、三角格子を使って同じ形の分割を作っている)。
頂点の集合を $\{1,2,3,4,5,6\}$ とし、10 個の三角形
$$
125,\ 126,\ 134,\ 135,\ 146,\ 234,\ 236,\ 245,\ 356,\ 456
$$
($125$ は $\{1,2,5\}$ を表す)とそのすべての面からなる単体複体を $\mathcal{P}$ とする。
$K$ を有限単体複体とし、$|K|$ は連結で、$K$ の各頂点のリンクが 3 個以上の頂点をもつ多角形であるとする。このとき $|K|$ は閉曲面である。
$|K|$ はコンパクト Hausdorff であり(単体複体 の系「多面体の基本性質」)、有限単体複体の多面体として Euclid 空間の部分空間とみなせるので第 2 可算である。各頂点 $u$ について、開星状近傍 $\operatorname{st}u$ は $|K|$ の開集合で、$|\operatorname{St}(u,K)|$ は $u$ を頂点とする $|\operatorname{Lk}(u,K)|$ 上の錐である(PL多様体 の補題「星状体は錐である」)。リンクは円周と同相なので、この錐は $u$ を中心とする閉円板と同相であり、$\operatorname{st}u=|\operatorname{St}(u,K)|\setminus|\operatorname{Lk}(u,K)|$ は開円板と同相である。$|K|$ の各点はある頂点の重心座標が正なので、ある $\operatorname{st}u$ に含まれる。よって $|K|$ は 2 次元の位相多様体であり、閉曲面である。$\square$
$|\mathcal{P}|$ は実射影平面と同相である。$\mathcal{P}$ の辺は $\{1,\dots,6\}$ の 2 元部分集合 15 個のすべてである。したがって $\mathcal{P}$ は実射影平面の極小三角形分割であり、thm-mt-lower の等号が成り立つ。
各頂点のリンク(その頂点を含む 5 つの三角形から、その頂点を除いた 5 辺)は次の 5 角形である。
| 頂点 | リンク |
|---|---|
| $1$ | $2-5-3-4-6-2$ |
| $2$ | $1-5-4-3-6-1$ |
| $3$ | $1-4-2-6-5-1$ |
| $4$ | $1-3-2-5-6-1$ |
| $5$ | $1-2-4-6-3-1$ |
| $6$ | $1-2-3-5-4-1$ |
各リンクは残りの 5 頂点をすべて通るので、任意の 2 頂点は辺で結ばれ、辺は 15 本である。とくに $|\mathcal{P}|$ は連結であり、lem-mt-surface により閉曲面である。Euler 標数は $6-15+10=1$ である。閉曲面は $S^2$($\chi=2$)、$T_n$($\chi=2-2n$)、$P_m$($\chi=2-m$)のどれかと同相であり(閉曲面の分類定理 の定理「閉曲面の分類定理」と定理「Euler 標数と型による判定」)、Euler 標数は同相で変わらない(Euler標数 の系「2 つの Euler 標数は一致する」)ので、$|\mathcal{P}|\cong P_1$ である。$P_1$ は実射影平面である(閉曲面の分類定理 の例「標準的な記号列」)。頂点・辺・三角形は $6,15,10$ 個で、cor-mt-table の下限に等しい。$\square$
$\mathcal{T}$ も各頂点のリンクが 6 角形なので、lem-mt-surface により閉曲面で、Euler 標数は $7-21+14=0$ である。しかし Euler 標数 $0$ の閉曲面はトーラスと Klein の壺の 2 つあるので、トーラスであることを示すには prop-mt-torus のような別の議論が要る。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 単体複体であること(三角形の辺を自由に貼り合わせてよいとする) | 頂点 1・辺 3・三角形 2 のトーラス | $v\ge7$(cor-mt-table) |
| 境界がないこと | 1 つの三角形とその面(閉円板、$\chi=1$) | $v\ge6$($\chi=1$ での thm-mt-lower) |
1 行目:正方形の対辺を貼り合わせたトーラスで、対角線を 1 本引くと、頂点は 4 隅を貼った 1 点、辺は 2 組の対辺と対角線の 3 本、三角形は 2 つになる(Hat02 p. 102)。この分割では 1 つの三角形の 3 頂点がすべて同じ点で、2 つの三角形が同じ頂点の集合をもつので、単体複体ではない。$3f=6=2e$ は成り立つが、辺が頂点の対で決まらないので $e\le\binom v2$ が成り立たない。
2 行目:閉円板は境界をもつので閉曲面ではない。辺は 3 本ともただ 1 つの三角形の面で、$3f=3\ne6=2e$ である。$v=3$ は $\chi=1$ の下限 $6$ より小さい。
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