Pompeiuの定理(Pompeiu's theorem)とは、正三角形 $ABC$ と平面上の点 $P$ について、$P$ が外接円の上になければ $PA$、$PB$、$PC$ を 3 辺とする三角形があり、$P$ が外接円の上にあれば 3 つのうち 1 つがほかの 2 つの和に等しく三角形がつぶれる、という定理である。$C$ を中心に $A$ を $B$ に移す $60^\circ$ の回転で $P$ を $P'$ に移すと、三角形 $PBP'$ の 3 辺が $PB$、$PA$、$PC$ になる。その符号付き面積は外心 $O$ と外接円の半径 $R$ で $\frac{\sqrt3}4(R^2-OP^2)$ と書け、つぶれるのは $OP=R$ のときに限る。$C$ を含まない弧 $AB$ の上の点では $PC=PA+PB$ である。正三角形でない三角形では一般には成り立たない。
前提知識: 三角形の成立条件, 回転・鏡映と行列の群, 靴ひも公式, 三角形の外心
正三角形 $ABC$ と、平面上の点 $P$ をとる。$P$ から 3 つの頂点までの距離 $PA$、$PB$、$PC$ を 3 辺とする三角形は作れるだろうか。
3 つの正の数 $a,b,c$ を 3 辺とする三角形があるのは、$a< b+c$、$b< c+a$、$c< a+b$ の 3 つがすべて成り立つときである(三角形の成立条件)。そこで、いくつかの点で 3 つの距離を計算して確かめる。
この記事を通して、1 辺 $2$ の正三角形
$$
A(0,0),\qquad B(2,0),\qquad C(1,\sqrt3)
$$
を使う。外心(3 頂点から等しい距離にある点)は重心と同じ $O\left(1,\dfrac{\sqrt3}3\right)$ で、外接円の半径は $R=OA=\sqrt{1+\dfrac13}=\dfrac{2\sqrt3}3$ である(三角形の外心)。
(1)(2) では三角形ができ、(3) ではちょうどつぶれた。この記事で答える問いは次の 3 つである。
| 高校の計算 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| $60^\circ$ 回転で線分を移す | 3 つの距離を 1 つの三角形に集める | 平面の等長変換 |
| 靴ひも公式の符号 | 三角形 $PBP'$ の向きと面積 | 行列式、向き |
| 外心からの距離 $OP$ と半径 $R$ | $R^2-OP^2$ の符号で決まる | 円に関する方べき |
| $PA\le PB+PC$ | 等号は外接円の上 | Ptolemy の不等式の特別な場合 |
1 辺 2 の正三角形の外の点 P(3,0) から 3 頂点への線分(左)と、その長さ 3, 1, √7 を 3 辺とする三角形(右)
3 つの線分 $PA$、$PB$、$PC$ は、$P$ から別々の向きに伸びている。これを 1 つの三角形の 3 辺に並べかえるのに、Fermat点 の証明と同じ $60^\circ$ の回転を使う。回転は長さを変えない変換である(回転・鏡映と行列の群)。
正三角形 $ABC$ で、$C$ を中心とし $A$ を $B$ に移す $60^\circ$ の回転を $\rho$ とする。平面上の点 $P$ を $\rho$ で移した点を $P'$ とすると、
$$
BP'=AP,\qquad CP'=CP
$$
である。さらに $P\ne C$ なら三角形 $CPP'$ は正三角形で、$PP'=PC$ である。
段 1($BP'=AP$)。$\rho$ は $A$ を $B$ に、$P$ を $P'$ に移す。回転は 2 点の間の距離を変えないので、$BP'=\rho(A)\rho(P)=AP$ である。
段 2($CP'=CP$)。$\rho$ は中心 $C$ を動かさないので、同じ理由で $CP'=\rho(C)\rho(P)=CP$ である。
段 3(正三角形)。$P\ne C$ とする。段 2 より三角形 $CPP'$ は $CP=CP'$ の二等辺三角形で、頂角 $\angle PCP'$ は回転の角 $60^\circ$ である。底角はどちらも $\dfrac{180^\circ-60^\circ}2=60^\circ$ なので、3 つの角がすべて $60^\circ$ の正三角形であり、$PP'=PC$ である。$\square$
補題から、三角形 $PBP'$ の 3 辺は
$$
PB,\qquad BP'=PA,\qquad PP'=PC
$$
で、ちょうど問題の 3 つの長さになる。$P,B,P'$ が一直線上になければ、これが求める三角形である。
正三角形 $A(0,0)$、$B(2,0)$、$C(1,\sqrt3)$ で、$A\to B\to C$ は反時計回りに並ぶ。$C$ を中心とする反時計回りの $60^\circ$ の回転は、$C$ から見た位置 $(u,v)$ を
$$
\left(\frac12u-\frac{\sqrt3}2v,\ \frac{\sqrt3}2u+\frac12v\right)
$$
に移す(回転・鏡映と行列の群 の回転の行列)。$A$ は $C$ から見て $(-1,-\sqrt3)$ にあり、移すと $\left(-\dfrac12+\dfrac32,\ -\dfrac{\sqrt3}2-\dfrac{\sqrt3}2\right)=(1,-\sqrt3)$、つまり点 $C+(1,-\sqrt3)=(2,0)=B$ になる。これが lem-pomp-rot の $\rho$ である。
(1) ex-pomp-start (2) の $P(3,0)$。$C$ から見て $(2,-\sqrt3)$ にあり、移すと $\left(1+\dfrac32,\ \sqrt3-\dfrac{\sqrt3}2\right)=\left(\dfrac52,\dfrac{\sqrt3}2\right)$ なので、$P'=\left(\dfrac72,\dfrac{3\sqrt3}2\right)$ である。
$$
BP'=\sqrt{\left(\frac32\right)^2+\left(\frac{3\sqrt3}2\right)^2}=\sqrt{\frac94+\frac{27}4}=3=PA,\qquad PP'=\sqrt{\left(\frac12\right)^2+\left(\frac{3\sqrt3}2\right)^2}=\sqrt{\frac14+\frac{27}4}=\sqrt7=PC
$$
で、三角形 $PBP'$ の 3 辺は $PB=1$、$BP'=3$、$PP'=\sqrt7$ である。
(2) ex-pomp-start (3) の $P\left(1,-\dfrac{\sqrt3}3\right)$。$C$ から見て $\left(0,-\dfrac{4\sqrt3}3\right)$ にあり、移すと $\left(2,-\dfrac{2\sqrt3}3\right)$ なので、$P'=\left(3,\dfrac{\sqrt3}3\right)$ である。$B(2,0)$ は $P$ と $P'$ の中点 $\left(\dfrac{1+3}2,\dfrac{1}{2}\left(-\dfrac{\sqrt3}3+\dfrac{\sqrt3}3\right)\right)$ に一致する。3 点 $P,B,P'$ は一直線上にあり、$PP'=PB+BP'$、つまり $PC=PB+PA$ である。
三角形の内部の点 P を C のまわりに 60 度回して P' をとると、三角形 PBP' の 3 辺が PB、PA、PC になる
外接円の上の点 P では、回した点 P' と B と P が一直線に並び、三角形 PBP' がつぶれる
図 2 は三角形の内部の点、図 3 は外接円の上の点で回転を行ったものである。内部の点では三角形 $PBP'$ ができ、外接円の上の点ではつぶれる。どの点でつぶれるかを判定するのが、次の節の面積の計算である。
3 点 $X(x_1,y_1)$、$Y(x_2,y_2)$、$Z(x_3,y_3)$ の 符号付き面積 を
$$
S(X,Y,Z)=\frac12\bigl\{(x_2-x_1)(y_3-y_1)-(x_3-x_1)(y_2-y_1)\bigr\}
$$
とする(靴ひも公式 の靴ひもの和)。$\lvert S(X,Y,Z)\rvert$ は三角形 $XYZ$ の面積で、$S(X,Y,Z)=0$ となるのは 3 点が一直線上にあるときに限る。3 点が一直線上にないとき、$S(X,Y,Z)>0$ は $X\to Y\to Z$ が反時計回りであることと同値である。平行移動や回転で図形を動かしても、面積と回りの向きは変わらないので、$S$ の値も変わらない。
正三角形 $ABC$ の頂点が反時計回りに並ぶとし、外心を $O$、外接円の半径を $R$ とする。平面上の点 $P$ と、lem-pomp-rot の点 $P'$ について
$$
S(P,B,P')=\frac{\sqrt3}4\bigl(R^2-OP^2\bigr)
$$
である。
方針:$C$ を原点に置いた座標で、両辺を $P$ の座標の式として計算し、一致することを確かめる。
段 1(座標をとる)。1 辺の長さを $s$ とする。平行移動と回転をして、$C(0,0)$、$A(s,0)$ としてよい($S$ も $OP$ も $R$ も変わらない)。$A\to B\to C$ が反時計回りなので $B$ は $x$ 軸より上にあり、$B\left(\dfrac s2,\dfrac{\sqrt3}2s\right)$ である。$\rho$ は原点のまわりの反時計回りの $60^\circ$ の回転で、実際 $A(s,0)$ を $\left(\dfrac s2,\dfrac{\sqrt3}2s\right)=B$ に移す。
段 2($P'$ の座標)。$P(x,y)$ とすると、回転の行列により
$$
P'=\left(\frac12x-\frac{\sqrt3}2y,\ \frac{\sqrt3}2x+\frac12y\right)
$$
である。
段 3(符号付き面積)。定義の $X=P$、$Y=B$、$Z=P'$ として、差のベクトルは
$$
B-P=\left(\frac s2-x,\ \frac{\sqrt3}2s-y\right),\qquad P'-P=\left(-\frac12x-\frac{\sqrt3}2y,\ \frac{\sqrt3}2x-\frac12y\right)
$$
である。2 つの積をそれぞれ展開する。
$$
\left(\frac s2-x\right)\left(\frac{\sqrt3}2x-\frac12y\right)=\frac{\sqrt3}4sx-\frac14sy-\frac{\sqrt3}2x^2+\frac12xy
$$
$$
\left(\frac{\sqrt3}2s-y\right)\left(-\frac12x-\frac{\sqrt3}2y\right)=-\frac{\sqrt3}4sx-\frac34sy+\frac12xy+\frac{\sqrt3}2y^2
$$
上の式から下の式を引くと、$xy$ の項が消えて
$$
2S(P,B,P')=\frac{\sqrt3}2sx+\frac12sy-\frac{\sqrt3}2\left(x^2+y^2\right)=\frac{\sqrt3}2\left(sx+\frac{\sqrt3}3sy-x^2-y^2\right)
$$
となる($\dfrac12=\dfrac{\sqrt3}2\cdot\dfrac{\sqrt3}3$ を使った)。
段 4($R^2-OP^2$)。正三角形の外心は重心と一致するので $O=\dfrac{A+B+C}3=\left(\dfrac s2,\dfrac{\sqrt3}6s\right)$ で、
$$
R^2=OC^2=\frac{s^2}4+\frac{s^2}{12}=\frac{s^2}3
$$
である。また
$$
OP^2=\left(x-\frac s2\right)^2+\left(y-\frac{\sqrt3}6s\right)^2=x^2+y^2-sx-\frac{\sqrt3}3sy+\frac{s^2}4+\frac{s^2}{12}
$$
なので、$R^2-OP^2=sx+\dfrac{\sqrt3}3sy-x^2-y^2$ である。段 3 と比べて $S(P,B,P')=\dfrac{\sqrt3}4\left(R^2-OP^2\right)$ を得る。$\square$
ex-pomp-rot (1) の $P(3,0)$、$B(2,0)$、$P'\left(\dfrac72,\dfrac{3\sqrt3}2\right)$ で、定義どおりに計算すると
$$
S(P,B,P')=\frac12\left\{(2-3)\cdot\frac{3\sqrt3}2-\left(\frac72-3\right)\cdot0\right\}=-\frac{3\sqrt3}4
$$
である。一方 $O\left(1,\dfrac{\sqrt3}3\right)$ から $OP^2=4+\dfrac13=\dfrac{13}3$、$R^2=\dfrac43$ なので
$$
\frac{\sqrt3}4\left(R^2-OP^2\right)=\frac{\sqrt3}4\cdot(-3)=-\frac{3\sqrt3}4
$$
で一致する。符号が負なので、$P\to B\to P'$ は時計回りである。3 辺 $1,3,\sqrt7$ の三角形の面積は $\dfrac{3\sqrt3}4$ である。
lem-pomp-area の右辺は、$P$ が外接円の内部なら正、外接円の上なら $0$、外部なら負である。三角形 $PBP'$ がつぶれるかどうかは、$P$ が外接円の上にあるかどうかだけで決まる。
正三角形 $ABC$ と、平面上の点 $P$ について、次が成り立つ。
(1) $P$ が三角形 $ABC$ の外接円の上にないとき、$PA$、$PB$、$PC$ を 3 辺とする三角形がある。
(2) $P$ が外接円の上にあるとき、$PA$、$PB$、$PC$ のうちの 1 つは、ほかの 2 つの和に等しい。したがって三角形はできない。
頂点の名前を付けかえて、$A\to B\to C$ が反時計回りに並ぶとしてよい(3 つの距離の組は名前の付け方によらない)。$P'$ を lem-pomp-rot の点とする。
段 1((1) の証明)。$P$ が外接円の上にないとする。$OP\ne R$ なので、lem-pomp-area により $S(P,B,P')\ne0$ で、3 点 $P,B,P'$ は一直線上にない。特に $P\ne C$ である($C$ は外接円の上にある)。よって $P,B,P'$ は三角形をなし、lem-pomp-rot によりその 3 辺の長さは
$$
PB,\qquad BP'=PA,\qquad PP'=PC
$$
である。これが $PA,PB,PC$ を 3 辺とする三角形である。
段 2((2) で $P=C$ のとき)。$PC=0$、$PA=CA$、$PB=CB$ で、$CA=CB$ なので $PA=PB+PC$ である。
段 3((2) で $P\ne C$ のとき)。$OP=R$ なので lem-pomp-area により $S(P,B,P')=0$ で、3 点 $P,B,P'$ は一直線上にある。一直線上の 3 点では、1 つがほかの 2 つを結ぶ線分の上にある(2 点が重なる場合も含む)ので、3 つの距離 $PB$、$BP'$、$PP'$ のうち 1 つがほかの 2 つの和に等しい。lem-pomp-rot により $BP'=PA$、$PP'=PC$ なので、$PA,PB,PC$ のうち 1 つがほかの 2 つの和に等しい。このとき 三角形の成立条件 の不等式の 1 つが等号になるので、三角形はできない。$\square$
段 1 の三角形 $PBP'$ は、実際にその 3 辺をもつ三角形を 1 つ作っている。三角形の成立条件 の 3 つの不等式を直接確かめなくても、三角形が見つかれば 3 辺の長さは自動的に不等式を満たす。
正三角形 $ABC$ の外接円の、$C$ を含まない弧 $AB$ の上に点 $P$ をとると
$$
PC=PA+PB
$$
である。
方針:3 つの距離を、外心 $O$ から見た角(中心角)の正弦で書き、加法定理で比べる。
段 1(弦の長さ)。円の半径を $R$ とし、弦 $XY$ の中心角を $\angle XOY=\varphi$ とする。二等辺三角形 $OXY$ で $O$ から $XY$ に下ろした垂線は頂角を 2 等分し、弦を 2 等分するので、$XY=2R\sin\dfrac\varphi2$ である。
段 2(中心角)。正三角形の 3 頂点は外接円を 3 等分するので、$\angle AOB=120^\circ$ である。$P$ は弧 $AB$($C$ を含まない方)の上にあるので、$\angle AOP=2u$ とおくと $0^\circ\le2u\le120^\circ$ で、$\angle POB=120^\circ-2u$ である。$P$ から $A$ を通って $C$ まで行く弧の中心角は $2u+120^\circ$ である。
段 3(3 つの距離)。段 1 から
$$
PA=2R\sin u,\qquad PB=2R\sin(60^\circ-u),\qquad PC=2R\sin(60^\circ+u)
$$
である($PC$ は中心角 $2u+120^\circ$ から。この角が $180^\circ$ を超えても、反対側の弧の中心角 $360^\circ-(2u+120^\circ)$ で計算した $2R\sin\left(180^\circ-(60^\circ+u)\right)$ と同じ値になる)。
段 4(加法定理)。$\sin(60^\circ-u)=\dfrac{\sqrt3}2\cos u-\dfrac12\sin u$ なので
$$
\sin u+\sin(60^\circ-u)=\frac12\sin u+\frac{\sqrt3}2\cos u=\sin u\cos60^\circ+\cos u\sin60^\circ=\sin(60^\circ+u)
$$
である。両辺に $2R$ を掛けて $PA+PB=PC$ を得る。$\square$
弧 $BC$、弧 $CA$ の上の点でも、名前を回して同じことが成り立つ。thm-pomp-main (2) の「1 つ」は、$P$ がのっている弧の反対側の頂点までの距離である。cor-pomp-arc は、頂点の名前を付けかえると Ptolemyの定理 の系(正三角形の外接円上の点。弧 $BC$ の上の点で $PA=PB+PC$)と同じ主張で、そちらでは内接四角形 $ABPC$ に Ptolemy の定理を使って示している。
thm-pomp-main の証明で作った三角形 $PBP'$ は、3 辺が $PA,PB,PC$ の三角形である。3 辺の長さが同じ三角形は合同なので、面積は lem-pomp-area の値の絶対値で決まる。
正三角形 $ABC$ の外心を $O$、外接円の半径を $R$、1 辺の長さを $s$ とする。外接円の上にない点 $P$ について、$PA,PB,PC$ を 3 辺とする三角形の面積は
$$
\frac{\sqrt3}4\left\lvert R^2-OP^2\right\rvert=\frac{\sqrt3}{12}\left\lvert s^2-3\,OP^2\right\rvert
$$
である。
thm-pomp-main の段 1 の三角形 $PBP'$ の面積は $\lvert S(P,B,P')\rvert$ で、lem-pomp-area によりこれは $\dfrac{\sqrt3}4\left\lvert R^2-OP^2\right\rvert$ である。3 辺が等しい三角形は合同なので、$PA,PB,PC$ を 3 辺とするどの三角形も同じ面積をもつ。2 つ目の形は、lem-pomp-area の証明の段 4 の $R^2=\dfrac{s^2}3$ を代入したものである。$\square$
$s=2$、$R^2=\dfrac43$、$O\left(1,\dfrac{\sqrt3}3\right)$ で確かめる。
(1) $P(1,0)$ では $OP^2=\dfrac13$ で、式の値は $\dfrac{\sqrt3}4\left(\dfrac43-\dfrac13\right)=\dfrac{\sqrt3}4$ である。3 辺 $1,1,\sqrt3$ の三角形は、余弦定理で等しい 2 辺の間の角 $\theta$ を求めると $3=1+1-2\cos\theta$ より $\cos\theta=-\dfrac12$、$\theta=120^\circ$ で、面積は $\dfrac12\cdot1\cdot1\cdot\sin120^\circ=\dfrac{\sqrt3}4$ である。
(2) $P(3,0)$ では $\dfrac{3\sqrt3}4$ だった(ex-pomp-area)。3 辺 $1,3,\sqrt7$ の三角形は、長さ $1$ と $3$ の辺の間の角 $\theta$ が $7=1+9-6\cos\theta$ より $\cos\theta=\dfrac12$、$\theta=60^\circ$ で、面積は $\dfrac12\cdot1\cdot3\cdot\sin60^\circ=\dfrac{3\sqrt3}4$ である。
(3) 外心 $P=O$ では $PA=PB=PC=R$ で、1 辺 $R$ の正三角形ができる。面積は $\dfrac{\sqrt3}4R^2$ で、式で $OP=0$ とした値と一致する。
面積の式から、$P$ を外心に近づけるほど三角形は大きくなり、外接円に近づけるほど小さくなる。外接円の外へ出ると、$P$ が遠ざかるにつれてまた大きくなる。$P$ の位置と結果をまとめる。
| $P$ の位置 | $S(P,B,P')$ の符号 | $PA,PB,PC$ | 面積 |
|---|---|---|---|
| 外接円の内部(三角形の内部・辺の上を含む) | 正(反時計回り) | 三角形ができる | $\dfrac{\sqrt3}4(R^2-OP^2)$ |
| 外接円の上(頂点を含む) | $0$ | 1 つがほかの 2 つの和 | つぶれる |
| 外接円の外部 | 負(時計回り) | 三角形ができる | $\dfrac{\sqrt3}4(OP^2-R^2)$ |
thm-pomp-main の仮定を外すと何が崩れるかを並べる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 三角形が正三角形 | 直角三角形 $A(0,0)$、$B(3,0)$、$C(0,4)$ と $P(1,0)$ | 外接円の上にない点なら三角形ができる |
| $P$ が外接円の上にない | 正三角形の外接円の上の点 | 三角形ができる(つぶれる) |
3 辺 $3,4,5$ の直角三角形 $A(0,0)$、$B(3,0)$、$C(0,4)$ と、辺 $AB$ の上の点 $P(1,0)$ をとる。
$$
PA=1,\qquad PB=2,\qquad PC=\sqrt{1+16}=\sqrt{17}
$$
で、$\sqrt{17}>\sqrt9=3=PA+PB$ なので、$PC< PA+PB$ が成り立たず、三角形はできない。等号でもないので、「つぶれる」のでもない。
$P$ は外接円の上にない。直角三角形の外接円は斜辺 $BC$ を直径とする円で、中心は $\left(\dfrac32,2\right)$、半径は $\dfrac52$ である(円周角の定理 の直径の場合)。中心から $P$ までの距離の 2 乗は $\dfrac14+4=\dfrac{17}4$ で、半径の 2 乗 $\dfrac{25}4$ と違う。
正三角形では、S の符号が外接円の内部で正、外部で負になり、三角形ができない点は外接円の上だけ
3 辺 3, 4, 5 の直角三角形では、3 つの距離で三角形ができない点が、面積をもつ 2 つの領域(灰色)になり、点 P(1,0) もそこに入る
図 4 と図 5 を比べると、正三角形では三角形ができない点が外接円という 1 本の曲線だけなのに対し、正三角形でない三角形ではそれが面積をもつ領域に広がる。図 5 の灰色の領域は、$P$ を細かい格子の上で動かして、3 つの距離の最大値がほかの 2 つの和以上になる点を塗ったものである。ex-pomp-cx-right の $P(1,0)$ はこの領域に入る。
ex-pomp-start (3) と ex-pomp-arc (2) で見たとおり、外接円の上の点では 3 つの距離の 1 つがほかの 2 つの和に等しく、三角形はつぶれる。頂点 $P=A$ でも、$PA=0$、$PB=PC=2$ で $PB=PA+PC$ である。
thm-pomp-main の不等式の部分は、Ptolemyの定理 の Ptolemy の不等式からも出る。平面上の任意の 4 点 $X,Y,Z,W$ について
$$
XZ\cdot YW\le XY\cdot ZW+XW\cdot YZ
$$
が成り立つ(Ptolemy の不等式。複素数の恒等式と三角不等式で示される)。
Ptolemy の不等式で $X=A$、$Y=P$、$Z=B$、$W=C$ とおくと
$$
AB\cdot PC\le AP\cdot BC+AC\cdot PB
$$
である。正三角形では $AB=BC=AC$ なので、この長さで割って $PC\le PA+PB$ を得る。名前を回すと $PA\le PB+PC$、$PB\le PC+PA$ も出る。
この見方では、正三角形であることは「3 辺の長さが等しいので割れる」ことにだけ使われている。正三角形でない三角形でも、同じ不等式は
$$
PC\cdot AB\le PA\cdot BC+PB\cdot CA
$$
という「辺の長さで重みを付けた」形で成り立つ。ex-pomp-cx-right の直角三角形では $\sqrt{17}\cdot3\approx12.37$、$1\cdot5+2\cdot4=13$ で、重み付きの不等式は成り立っているが、重みを外した $PC\le PA+PB$ は成り立たない。
等号の場合は、Ptolemy の不等式の等号条件(4 点が円周上にこの順に並ぶ)に対応する。ただし Ptolemyの定理 で示されている等号条件は凸四角形についてのものなので、この記事では等号の場合を lem-pomp-area の面積の式で示した。
Ptolemy の不等式は空間の 4 点でも成り立つ(Ptolemyの定理 の空間の 4 点についての定理)。同じ計算で、$P$ が正三角形 $ABC$ を含む平面の外にあっても $PC\le PA+PB$ などが成り立つ。Pompeiu の定理が空間の点でも成り立つこと(3 つの距離で三角形ができること)は Wei26 に述べられている。この記事では、空間の点で等号が起こらないことは証明しない。
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